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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない D06F
管理番号 1067293
審判番号 訂正2001-39093  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-12 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-06-08 
確定日 2002-11-07 
事件の表示 特許第2828599号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、訂正請求の要旨
本件訂正審判請求に係る発明は、平成6年8月31日に特許出願され、平成9年2月3日、平成9年12月15日、平成10年7月15日に三回にわたっていずれもその明細書の全文について補正がなされた後、平成10年9月18日に特許第2828599号として特許権の設定登録がされたものであって、その訂正の要旨は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、本件訂正審判請求書に添付された訂正明細書に記載された以下のとおりに訂正しようとするものである。

訂正事項a,
「【請求項1】 外枠の内側に置かれる洗濯槽、この洗濯槽の内側に回転自在に設けられる回転翼と、洗濯槽の下方に備えられ、かつ前記回転翼を回転駆動する洗濯用モータと、外枠の上側に設けられ、かつ水道水給水用電磁弁が備わるトップカバーと、風呂水吸水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯槽の上から洗濯槽内に注ぐモータ式吸水ポンプと、トップカバーの後ろ側に設けられ、かつ洗濯用の水を洗濯槽内に注ぐ注水口が形成されている注水部とを有する洗濯機であって、
ポンプランナ、このポンプランナの吐出側が連通する気水分離室を兼ねる吐出室、および前記ポンプランナの吸込み側に連通する吸水室を備えるポンプ部と、ポンプランナを回転駆動するモータ部とを有し、かつポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置しているモータ式吸水ポンプは、
トップカバーの後ろ側に横置きに、
かつ前記吸水室に連通するように形成される風呂水吸水口のホース接続口が前記トップカバーの上方に向かって上向きになるように配置し、
前記吐出室の吐出口と前記注水口部を連通する吐出水連通路を備え、
前記トップカバーの後ろ側に前記モータ式吸水ポンプ等を覆い隠す着脱自在なバックパネルを設け、このバックパネルには前記ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設けたことを特徴とする洗濯機。」
を、
「【請求項1】 外枠の内側に置かれる洗濯兼脱水槽、この洗濯兼脱水槽の内側に回転自在に設けられる回転翼と、洗濯兼脱水槽の下方に備えられ、かつ前記回転翼を回転駆動する洗濯用モータと、外枠の上側に設けられ、かつ水道水給水用電磁弁が備わるトップカバーと、風呂水吸水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯兼脱水槽の上から洗濯兼脱水槽内に注ぐモータ式吸水ポンプと、トップカバーの後ろ側に設けられ、かつ洗濯用の水を洗濯兼脱水槽内に注ぐ注水口が形成されている注水部とを有する全自動洗濯機であって、
ポンプランナ、このポンプランナの吐出側が連通する気水分離室を兼ねる吐出室、前記ポンプランナの吸込み側に連通する吸水室、および前記吸水室に連通するように形成されかつ前記風呂水吸水ホースの後端がOリングを介して装着されるホース接続口を有する風呂水吸水口を備えるポンプ部と、ポンプランナを回転駆動するモータ部とを有し、かつポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置しているモータ式吸水ポンプは、
トップカバーの後ろ側に横置きに、
かつ前記吸水室に連通するように形成される風呂水吸水口のホース接続口が前記トップカバーの上方に向かって上向きになるように配置し、
前記吐出室の吐出口と前記注水口部を連通する吐出水連通路を備え、
前記風呂水吸水口のホース接続口の上端を前記吐出室の吐出口より高い位置に配置し、 前記トップカバーの後ろ側に前記モータ式吸水ポンプ等を覆い隠す着脱自在なバックパネルを設け、このバックパネルには前記ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設け、前記トップカバーと前記バックパネル間に前記モータ式吸水ポンプが防振ゴムを介して挟み込まれていることを特徴とする全自動洗濯機。」(下線部は訂正部分である。以下同じ。)
と訂正する。

訂正事項b,
特許明細書の【0012】欄を、次のとおりに訂正する。
「【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明は、外枠の内側に置かれる洗濯兼脱水槽、この洗濯兼脱水槽の内側に回転自在に設けられる回転翼と、洗濯兼脱水槽の下方に備えられ、かつ前記回転翼を回転駆動する洗濯用モータと、外枠の上側に設けられ、かつ水道水給水用電磁弁が備わるトップカバーと、風呂水吸水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯兼脱水槽の上から洗濯兼脱水槽内に注ぐモータ式吸水ポンプと、トップカバーの後ろ側に設けられ、かつ洗濯用の水を洗濯兼脱水槽内に注ぐ注水口が形成されている注水部とを有する全自動洗濯機であって、ポンプランナ、このポンプランナの吐出側が連通する気水分離室を兼ねる吐出室、前記ポンプランナの吸込み側に連通する吸水室、および前記吸水室に連通するように形成されかつ前記風呂水吸水ホースの後端がOリングを介して装着されるホース接続口を有する風呂水吸水口を備えるポンプ部と、ポンプランナを回転駆動するモータ部とを有し、かつポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置しているモータ式吸水ポンプは、トップカバーの後ろ側に横置きに、かつ前記吸水室に連通するように形成される風呂水吸水口のホース接続口が前記トップカバーの上方に向かって上向きになるように配置し、前記吐出室の吐出口と前記注水口部を連通する吐出水連通路を備え、前記風呂水吸水口のホース接続口の上端を前記吐出室の吐出口より高い位置に配置し、前記トップカバーの後ろ側に前記モータ式吸水ポンプ等を覆い隠す着脱自在なバックパネルを設け、このバックパネルには前記ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設け、前記トップカバーと前記バックパネル間に前記モータ式吸水ポンプが防振ゴムを介して挟み込まれていることを特徴とするものである。」

2、独立特許要件について

(1)新規事項について
本件訂正請求は、審判請求書の「(2)訂正の理由」からみて、特許請求の範囲の減縮及びそれに伴って必要となった【課題を解決するための手段】についての明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の請求項1及び【0012】欄について訂正しようとするものである。

しかし、本件訂正請求は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないことは、特許法第126条第3項の規定に照らして明らかである。
そして、発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるためには、当然に当該特許出願が特許法第49条第1号の規定に該当して拒絶をすべき旨の査定がなされるものであってはならない。
したがって、当該特許出願の願書に添付した明細書又は図面についてした補正が特許法第17条第2項(特許法第17条の2第2項において準用する場合を含む。)に規定する要件を満たしていなければならない。

しかるに、上記平成10年7月15日にされた明細書の全文についての補正について検討すると、この補正により特許明細書には、本件訂正請求に係る訂正個所以外の記載において、以下の事項が記載されている。

【0011】欄;
「本発明の目的は、大量の呼び水量を呼び水タンクに蓄えておかなければならない自動呼び水式ポンプに代えて、トップカバーの後ろ側の狭い空間に納めることができ、さらに洗濯機のコンパクト化、組立作業の簡便化、設置スペースの小スペース化、取扱いの簡便化を図ることのできる風呂水吸水ポンプを搭載した改良された洗濯機を提供することにある。」

【0013】欄;
「大量の呼び水を蓄えておかなければならない自動呼び水式ポンプを備えるものでは、その呼び水タンクの大きさからトップカバーに収納することはできずしたがってトップカバー内に自動吸水ポンプを組み込んだ洗濯機が実現できなかったが、気水分離室を有する本構成によりはじめてそれが可能になり、その結果トップカバーの後ろ側の狭い空間に自動呼び水式ポンプを備えて水道水と風呂水とを任意に切替使用可能な装置を合理的に収納した洗濯機が実現可能になった。」

【0014】欄;
「ポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置したモータ式吸水ポンプは、注水部を有するトップカバーの後ろ側に横置きに置かれるので、竪置きに置くものと違ってモータ式吸水ポンプのところだけが隆起することはなく、洗濯機全体の丈を低く抑えることができる。」


そこで、これらの補正が特許法第17条第2項(特許法第17条の2第2項において準用する場合を含む。)に規定する要件を満たしたものか否か、すなわち、これらの補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものか否かについて以下に検討する。

a)特許明細書の【0011】欄の記載について
当初明細書には、「洗濯機のコンパクト化、組立作業の簡便化、設置スペースの小スペース化、取扱いの簡便化を図ることのできる風呂水吸水ポンプを搭載した」との記載はなく、当初明細書の記載から直接的かつ一義的にこの記載が導き出せるものではない。
すなわち、コンパクト化については、当初明細書の【0006】欄には、(従来技術において)「投げ込み式の風呂水吸水ポンプを利用する場合は、ホースとリード線とが絡み合い、作業性,収納性共に悪いと云う点で難点がある。」との記載はあるが、洗濯機のコンパクト化という記載と従来技術における風呂水吸水ポンプの作業性,収納性が共に悪いとの記載には直接技術的関連がなく、しかも、洗濯機のコンパクト化についてはホース等の収納性等の他に多様な解決手段が存在すると認められる点からみて、直接的かつ一義的に導き出せるものとは認めることができない。
洗濯機の組立作業の簡便化については、当初明細書の【0006】欄に、「投げ込み式の風呂水吸水ポンプを利用する場合は、ホースとリード線とが絡み合い、作業性,収納性共に悪いと云う点で難点がある。」との記載があるが、当初明細書の【0006】欄の記載は製造組立時のほか洗濯機利用者における問題点とも解することができ、さらに洗濯機の組み立て作業は吸水ポンプの組み立て作業以外の作業があることは明らかである。
したがって、当初明細書の【0006】欄の記載は、洗濯機の組立作業の簡便化のみを意味するとは解することができないから、その記載から洗濯機の組立作業の簡便化についての記載が直接的かつ一義的に導き出せるとは認められない。
設置スペースの小スペース化については、風呂水吸水ポンプを図1、2のように搭載することと洗濯機の設置スペース(平面上で必要とするスペース)には直接的かつ一義的な関係はなく、図1、2から直接的かつ一義的に導き出せる事項とは認められない。

b)特許明細書の【0013】欄の記載について
当初明細書には、「大量の呼び水を蓄えておかなければならない自動呼び水式ポンプを備えるものでは、その呼び水タンクの大きさからトップカバーに収納することはできずしたがってトップカバー内に自動吸水ポンプを組み込んだ洗濯機が実現できなかったが、気水分離室を有する本構成によりはじめてそれが可能になり、その結果トップカバーの後ろ側の狭い空間に自動呼び水式ポンプを備えて水道水と風呂水とを任意に切替使用可能な装置を合理的に収納した洗濯機が実現可能になった。」との記載はなく、当初明細書の記載から直接的かつ一義的にこの記載が導き出せるものではない。
当初明細書の【0007】欄の、「一方、洗濯機に風呂水吸水ポンプを内蔵するタイプのものは、従来一般に、洗濯機の下方にポンプを設置するようにしており、呼び水タンクを必要とするばかりでなく、」との記載及び図面をみても、上記の「大量の呼び水を・・・・実現可能になった。」との記載がそのとおり記載されているか、或いはそれ以外のものは意味していないことが明らかであるとは認められない。

c)特許明細書の【0014】欄の記載について
当初明細書には、「モータ式吸水ポンプのところだけが隆起することはなく、洗濯機全体の丈を低く抑えることができる。」との記載はなく、当初明細書の記載から直接的かつ一義的にこの記載が導き出せるものではない。
モータ式吸水ポンプのところだけが隆起することはないということは、モータ式吸水ポンプが他の部材に対して丈が低くその覆いであるバックパネル等を平坦にすることができることと、モータ式吸水ポンプが他の部材に対して丈は高いがその覆いであるバックパネル等をさらに高くして平坦にすることの二義性があり、かつ、洗濯機全体の丈を低く抑えることはモータ式吸水ポンプの形状・構造等によってのみ可能であって、その他には洗濯機全体の丈を低く抑える手段が存在しないとは解することはできない。
したがって、図1、2の記載のみから特許明細書の【0014】欄の記載が直接的かつ一義的にこの記載が導き出せるということはできない。

以上のとおりであるから、特許明細書の【0011】欄、【0013】欄、【0014】欄に係る上記補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

また、本件訂正請求は、上記「1、訂正の要旨」において述べたように、特許明細書の【0011】欄、【0013】欄、【0014】欄に係る記載以外の記載を訂正しようとするものであるから、訂正請求に係る訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更について検討するまでもなく、本件訂正により上記補正の瑕疵がなくなるものではない。

したがって、本件出願は、本件に係る特許をすべき旨の査定前にした補正において、特許法第17条の2第2項の規定により準用する同法第17条第2項の規定に規定する要件を満たしていない補正がなされているものであり、本件訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明に係る特許出願はその出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、本件訂正請求は、特許法第126条第3項の規定に適合しない。


(2)進歩性について
a)訂正発明
本件の訂正請求に係るに係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、本件訂正審判請求書に添付された明細書に記載された以下のとおりのものと認める。
【請求項1】 外枠の内側に置かれる洗濯兼脱水槽、この洗濯兼脱水槽の内側に回転自在に設けられる回転翼と、洗濯兼脱水槽の下方に備えられ、かつ前記回転翼を回転駆動する洗濯用モータと、外枠の上側に設けられ、かつ水道水給水用電磁弁が備わるトップカバーと、風呂水吸水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯兼脱水槽の上から洗濯兼脱水槽内に注ぐモータ式吸水ポンプと、トップカバーの後ろ側に設けられ、かつ洗濯用の水を洗濯兼脱水槽内に注ぐ注水口が形成されている注水部とを有する全自動洗濯機であって、
ポンプランナ、このポンプランナの吐出側が連通する気水分離室を兼ねる吐出室、前記ポンプランナの吸込み側に連通する吸水室、および前記吸水室に連通するように形成されかつ前記風呂水吸水ホースの後端がOリングを介して装着されるホース接続口を有する風呂水吸水口を備えるポンプ部と、ポンプランナを回転駆動するモータ部とを有し、かつポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置しているモータ式吸水ポンプは、
トップカバーの後ろ側に横置きに、
かつ前記吸水室に連通するように形成される風呂水吸水口のホース接続口が前記トップカバーの上方に向かって上向きになるように配置し、
前記吐出室の吐出口と前記注水口部を連通する吐出水連通路を備え、
前記風呂水吸水口のホース接続口の上端を前記吐出室の吐出口より高い位置に配置し、 前記トップカバーの後ろ側に前記モータ式吸水ポンプ等を覆い隠す着脱自在なバックパネルを設け、このバックパネルには前記ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設け、前記トップカバーと前記バックパネル間に前記モータ式吸水ポンプが防振ゴムを介して挟み込まれていることを特徴とする全自動洗濯機。

b)引用例記載の発明
本件出願の日前に頒布された刊行物である特開昭57-192595号公報(以下、「引用例1」という。)には、
「本発明は水道以外の給水源例えば浴槽の水等を水源とすることが可能な一槽式全自動洗濯機の給水装置に関するものである。」(第1頁右下欄第2〜4行)と記載されており、また、
「本発明の実施例を第3図ないし第5図によって説明する。第3図は本発明の基本的な技術思想を示す図である。同図(イ)において、20はポンプで、(ロ)に示すように、圧力スイッチ7のNC接点に電気的接続されており、その吸込口21は図示していないホースによって水源(浴槽)と結合され吐出口22には注水ホース8が取付けてある。・・・・・・・
第4図は水道による給水と、水圧のない水源による給水との、双方が可能な給水装置を備えた本発明の実施例で、同図(イ)に示すように第2図の電磁給水弁6による給水装置と、第3図のポンプ20による給水装置の双方を備えている。8’はポンプ用注水管、9’はポンプ用注水口である。同図(ロ)において23はタイマ5によって切換が行われる切換スイッチ、24、25は使用者が給水源を選択する選択スイッチである。」(第2頁右上欄第18行〜同右下欄第4行)と記載され、さらに、
「使用者は選択スイッチ24、25により、給水工程の前部又はその一部を電磁給水弁6による水道給水又はポンプ20による浴槽給水のいづれか一方を選択することができ、第2図の従来の給水装置では使用不能の浴槽水等水圧のない水源の利用が可能となり、全自動洗濯機の効用を著しく増大する。」(第3頁左下欄第14〜20行)と記載されている。
したがって、引用例1の第1図及び第4図の洗濯機の記載を参酌すると、引用例1には、
「本体1の内側に置かれる洗濯脱水槽11、この洗濯脱水槽の内側に回転自在なパルセータ12と、洗濯脱水槽の下方に備えられ、かつ、前記パルセータを回転駆動するモータ14と、本体の上側に設けられ、かつ水道水補給用の電磁給水弁6が備わる操作箱3と、風呂水給水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯脱水槽11の上から洗濯脱水槽内に注ぐポンプ20と、操作箱の後ろ側に設けられかつ洗濯用の水を洗濯脱水槽内に注ぐ注水口9が形成されている注水部とを有する洗濯機であって、
ポンプ20は操作箱の後ろ側に横置きに、かつポンプ吸水室に連通するように形成される風呂水吸込口21のホース接続口が前記操作箱の上方に向かって上向きになるよう配置し、ポンプ吐出口22前記注水口部を連通する注水ホース8を備え、前記操作箱の後ろ側にポンプを覆い隠す着脱自在な操作板4を設けたことを特徴とする洗濯機。」
が記載されているものと認められる。

また、本件出願の日前に頒布された刊行物である特開昭60-45790号公報(以下、「引用例2」という。)には、
「本発明は自吸式ポンプに係り、特にボリュートポンプにおいて高い自吸能力を得るに好適な羽根車に関する。」(第1頁左下欄第16〜18行)と記載され、
「ポンプ本体は、気水分離室6とボリュート7及び吐出口10を有するケーシング1、このケーシング1に取り付けられた電動機15の回転軸18の一端に結合された羽根車4を有する。この羽根車4を塞ぐようにカクヘキイタ3がケーシングカバー2にゴムパッキングを介して(図示していない)ボルトで固定されている。また、ケーシング1と羽根車4の間には、軸封装置14が介挿されている。」(第2頁左上欄第1〜10行)と記載されている。
そしてその動作については、
「ケーシング1及びケーシングカバー2内に呼び水口8より呼び水を入れたのち、羽根車4を回転させると、空気と水が混ざり合った気水混合液が羽根車4内を充満させる。それらの気水混合液の大部分は遠心力で外周に向かって放出される。放出された気水混合液はボリュート7内を矢印40〜43の如く流れ、気水分離室6に送られ、空気だけをケーシング1の吐出口10より排出させる。分離された水はボリュート7の戻り孔5より羽根車4内に循環水として戻され吸込み口9から吸込まれた空気と再び気水混合液を形成する。この動作をくりかえすことにより、吸い込みフランジ20に連結した図示しない吸い込み管内の空気を徐々に排出して自吸作用を完了する。」(第2頁右上欄第9行〜同左下欄第2行)と記載されている。

さらに、本件出願の日前に頒布された刊行物である特開昭57-69896公報(以下、「引用例3」という。)には、
「給水パイプ11および給水パイプ11の入口側は水切切換ツマミ2等を配したパネル部15の上面より上方に突出している。」(第2頁左上欄第19行〜同右上欄第2行)と記載されている。

c)対比・判断
そこで訂正発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の「本体」は訂正発明の「外枠」に相当し、以下同様に「洗濯脱水槽」は「洗濯兼脱水槽」に、「パルセータ」は「回転翼」に、「モータ」は「洗濯用モータ」に、「電磁給水弁」は「水道水給水用電磁弁」に、「操作箱」は「トップカバー」に、「ポンプ」は「モータ式吸水ポンプ」に、「吸水口」は「風呂水吸水口」に、「操作板」は「バックパネル」にそれぞれ相当するから、
両者は、
「外枠の内側に置かれる洗濯脱水槽、この洗濯脱水槽の内側に回転自在に設けられる回転翼を回転駆動する洗濯用モータと、外枠の上側に設けられ、かつ水道水吸水用電磁弁が備わるトップカバーと、風呂水給水ホースを通じて吸い上げる風呂水を洗濯脱水槽の上から洗濯脱水槽内に注ぐモータ式吸水ポンプとトップカバーの後ろ側に設けられ、かつ洗濯用の水を洗濯脱水槽内に注ぐ注水口が形成されている注水部とを有する全自動洗濯機であって、
モータ式吸水ポンプは、
トップカバーの後ろ側に横置きに、
かつ吸水室に連通するように形成される風呂水吸水口のホース接続口が前記トップカバーの上方に向かって上向きになるように配置し、
吐出口と注水口部を連通する吐出水連通路を備え、
前記トップカバーの後ろ側に前記モータ式吸水ポンプ等を覆い隠す着脱自在なバックパネルを設けた全自動洗濯機。」
である点で一致し、
イ)訂正発明のモータ式吸水ポンプは、
「ポンプランナ、このポンプランナの吐出側が連通する気水分離室を兼ねる吐出室、前記ポンプランナの吸込み側に連通する吸水室、および前記吸水室に連通するように形成されかつ前記風呂水吸水ホースの後端がOリングを介して装着されるホース接続口を有する風呂水吸水口を備えるポンプ部と、ポンプランナを回転駆動するモータ部とを有し、かつポンプ部をモータ部の長手方向端側に配置している」のに対し、引用例1記載の発明のポンプはその構造が不明である点。(以下、「相違点イ」という。)
ロ)訂正発明においては、
「風呂水吸水口のホース接続口の上端を前記吐出室の吐出口より高い位置に配置し」ているのに対し、引用例1には相当する構造については記載がない点。(以下、「相違点ロ」という。)
ハ)訂正発明は、バックパネルに、「ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設け、前記トップカバーと前記バックパネル間に前記モータ式吸水ポンプが防振ゴムを介して挟み込まれている」ているのに対し、引用例1記載の発明はバックパネルに開口が設けられているか否か明らかではなく、引用例1には防振ゴムについて記載がない点。(以下、「相違点ハ」という。)
で相違しているものと認められる。

しかしながら、上記相違点イに係るポンプランナ、気水分離室、吐出室、吸水室等を備えたポンプは引用例2に自吸式ポンプとして記載されており、ポンプのホース接続口などの流体接続部分にOリングを用いて流体の洩れを防止する点は周知であり、また洗濯機において風呂水を吸水しようとするとき一般に自吸能力が必要とされることは周知の課題であり、さらに上記相違点イに係る構成を備えたポンプを洗濯機に採用したときポンプとして予測できない格別の作用をなすものでもなく本来備わった自吸作用をなすものにすぎないから、引用例2記載のポンプを引用例1記載の発明の洗濯機のポンプに採用することに困難はなく、その場合の作用効果も当業者が予測可能の程度のものであると認められる。

また、「風呂水吸水口のホース接続口の上端を前記吐出室の吐出口より高い位置に配置し」た点は、そのようにしなければ不使用時にポンプの気水分離室の水が吐出口より洩れ落ちてしまうおそれがあるから普通に配慮すべき設計事項であり、かつ、引用例1の第3図記載の風呂水吸水口21とポンプ20の関係もホースのようなものを介してではあるが同様の位置関係にあり、格別の相違があるものではない。

さらに、バックパネルに、「ホース接続口の上端が臨むところにホース接続口用開口穴を設け」ることは、ホース接続口をバックパネルの上方に配置する洗濯機において、従来より普通に行われていること(引用例3参照)であり、「前記トップカバーと前記バックパネル間に前記モータ式吸水ポンプが防振ゴムを介して挟み込まれている」点は特許明細書には具体的な構造について記載がなくどのような構成か不明瞭であるが、トップカバーとバックパネルの間に吸水ポンプを設ける(この点は引用例1に既に開示されている。)とすると、吸水ポンプは制御回路や開閉弁などに比べて比較的大きく、かつ、トップカバーとバックパネルの間に大きな空間を設けるべき特段の理由はないから、結果的に挟み込むこととなることは単なる設計事項である。
また、モータ式吸水ポンプ等の動力源を持つ機器を防振ゴムやバネを介して取り付けることは慣用手段である。
したがって、上記相違点ハは、単なる設計事項に基づく相違にすぎないものと認められる。

以上のとおりであるから、訂正発明は相違点イ、ロ、ハの存在に拘わらず、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正請求は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められず、特許法第126条第3項の規定に適合しない。


3、請求人の意見について
本件訂正審判請求人は、訂正拒絶理由通知に対する平成13年9月10日付けの意見書において、特許法の規定がPCTガイドラインの規定の趣旨と合致しない旨の主張をしているが、これは特許法自体に対する意見ないし批判であって、本件に係る訂正拒絶理由に対する意見としては到底採用できるものではない。
さらに、請求人は、(特許法を)「特許出願人にとって酷というべき極めて厳しい運用を行っている」旨の主張をしているが、特許法の運用は全ての特許出願人に対して公平な運用をしているところ、このような主張は請求人のみに有利な運用をすべきであるというに等しく失当なものである。


4、むすび
以上のとおり、本件訂正審判請求は、特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-10-15 
結審通知日 2001-10-18 
審決日 2001-10-30 
出願番号 特願平6-206896
審決分類 P 1 41・ 856- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩澤 克利金丸 治之  
特許庁審判長 佐藤 洋
特許庁審判官 岩崎 晋
和泉 等
登録日 1998-09-18 
登録番号 特許第2828599号(P2828599)
発明の名称 洗濯機  
代理人 北岡 一人  
代理人 小川 勝男  
代理人 田中 恭助  
代理人 野萩 守  

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