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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C03B
管理番号 1067423
異議申立番号 異議2001-71777  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-22 
確定日 2002-08-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3120647号「石英ガラスの製造方法及びそれにより製造された石英ガラス」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3120647号の訂正後の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3120647号の請求項1〜12に係る発明についての出願は、平成5年12月27日に特許出願されたものであって、平成12年10月20日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、須田武(以下、「申立人A」という)より請求項1〜12に係る発明の特許について、信越石英株式会社(以下、「申立人B」という)より請求項1〜3、5〜12に係る発明の特許についてそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成13年12月3日付けで訂正請求がなされたものである。なお、申立人Bより平成13年12月6日付けで特許異議取下書が提出されたが、平成13年10月2日に取消理由通知がなされているため、上記取下書は平成14年4月23日に特許法第120条の6第1項の規定によって準用する特許法第133条の2第1項の規定により却下された。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1〜12を、「【請求項1】中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項2】中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法において、原料用円状管からSi化合物ガスを噴出させるときにキャリアガスとして水素ガスを用いることを特徴とする石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項4】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、波面収差のRMS値がパワー成分補正後に0.02λ以下であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項5】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の屈折率の均質性がパワー成分補正なしで△n≦2×10-6であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項6】請求項5に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向を光軸方向とすることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項7】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の断面のの屈折率分布の極値がひとつで中央対称であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項8】請求項7に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向の断面が入射光軸を含む断面であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項9】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、365nm、248nm、193nmにおいて10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項10】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、KrFエキシマレーザを400mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、248nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項11】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、ArFエキシマレーザを100mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、193nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項12】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、中央部の方が周辺部より高い水素濃度持つことを特徴とする石英ガラス光学部材。」と訂正する。
(2)訂正事項b
【発明の名称】を、「石英ガラス光学部材の製造方法及びそれにより製造された石英ガラス光学部材」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、大別すると、
a-1.請求項1の「インゴットを形成する石英ガラスの製造方法において」を「インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において」と訂正する、
a-2.請求項1の「水素過剰とすることを特徴とする石英ガラスの製造方法」を、「水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法」と訂正する、
a-3.請求項2の「インゴットを形成する石英ガラスの製造方法において」を「インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において」と訂正する、
a-4.請求項2の「酸素過剰とすることを特徴とする石英ガラスの製造方法」を、「酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法」と訂正する、
a-5.請求項3〜12の「石英ガラス」を「石英ガラス光学部材」と訂正する、というものである。
上記訂正事項a-1.、a-3.は、「インゴットを形成する石英ガラスの製造方法」を、「インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法」と限定するものであり、また上記訂正事項a-2.は、「水素過剰とすることを特徴とする石英ガラスの製造方法」を「水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材の製造方法」と限定するものであり、また上記訂正事項a-4.は、「酸素過剰とすることを特徴とする石英ガラスの製造方法」を、「酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法」と限定するものであり、また上記訂正事項a-5.は「石英ガラス」を「石英ガラス光学部材」と限定するものであるから、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件特許明細書中の「実施例1のサンプル1の石英ガラスから、インゴット外形から幾何学的中央部を維持しながら加工して得られた石英ガラス光学部材を使用して」(本件特許掲載公報第6頁第12欄第44〜47行)、「本発明によって得られる石英ガラスの水素濃度がいずれの場所においても5×1017個/cm3以上であり」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第7〜9行)という記載からみて、訂正事項a-1.〜a-5.は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるために明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについて
3-1.特許異議の申立ての理由の概要
(1)申立人Aの申立ての理由の概要
申立人Aは、証拠方法として甲第1〜6号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、さらに請求項3〜12に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、請求項1、3〜12に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨主張している。
(2)申立人Bの申立ての理由の概要
(i)申立人Bは、証拠方法として甲第1〜5号証を提出し、請求項1、2、5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、請求項1〜3、5〜12に係る発明は甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、5に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、請求項1〜3、5〜12に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである旨、
(ii)本件特許明細書の記載は記載不備であるから、特許法第36条第4項又は第6項の規定を満たしていない旨、
主張している。
3-2.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜12に係る発明は、上記訂正事項aに記載された特許請求の範囲の請求項1〜12に記載されたとおりのものである(以下、「本件訂正発明1〜12」という)。
3-3.上記3-1.(1)申立人Aの主張について
3-3-1.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:特開平2-64645号公報:取消理由通知の刊行物2
(a)「(1)KrF25Hz,500mJ/cm2以上であるエキシマレーザ光の5分以上の照射に対し赤色蛍光を発せず波長200nmでの吸収係数が1×10-2以下である紫外域用有水合成石英ガラス。(2)実質的に三方向に脈理の無い特許請求の範囲第1項記載の紫外域用有水合成石英ガラス。(3)有水合成石英ガラスがフォトマスク用基板である特許請求の範囲第1項から第2項のいずれかに記載の紫外域用有水合成石英ガラス。(4)有水合成石英ガラスが光学用機器に使用されるものである特許請求の範囲第1項から第2項のいずれかに記載の紫外域用有水合成石英ガラス。(5)四塩化ケイ素を酸水炎中で加水分解して有水合成石英ガラスを製造する工程において、原料の四塩化ケイ素に不活性ガスをキャリアガスとして同伴させることを特徴とする紫外域用有水合成石英ガラスの製造方法。」(請求項1〜5)
(b)「この発明は合成石英ガラス、特に紫外領域で使用される精密光学系の窓、ミラー、プリズム等の光学用部品、超LSI用フォトマスク基板等に使用される有水合成石英ガラスおよびその製造方法に関する。」(第1頁右欄第15〜19行)
(c)「比較例1 酸素ガスをキャリアガスとして従来の方法によって42ロット試作した。ついで、第3図に示すベルヌイ炉の頂部に第4図示す石英ガラス製バーナーをセットし、バーナー各部より第1表に示す量の各種ガスを供給した。・・・その際、中心管、2重管、及び3重管のガス量は固定し、その他のガス量によって、O2/H2比を所望の値になるように変化し、なおかつ炉内温度を1400±10℃に制御した。得られたガラスのエキシマレーザー(KrF,20Hz)照射による赤色蛍光の「しきい値」と200nmにおける透過率のデータ一を、H2/O2比に対して整理した結果を第2図に示す。H2/O2比を2.2〜2.3にすると、スパッタリングやプラズマエッチングに対して変質して赤色蛍光を発することは無く、エキシマレーザーKrF(248nm)に対し200mJ/cm2のエネルギー密度にまで耐える。しかし200nmでの透過率(厚さ10mm)が約86%となった。これを吸光係数に換算すると、2.4×10-2cm-1となり、フォトマスク等にとって、不十分である。また、脈理に関しては、積層厚100mmに対し2〜10本の脈理が観察された。」(第5頁左上欄最終行〜左下欄第13行)
(d)第5頁第1表には、中心管 O2 1(l/min)、SiCl4 7(g/min)、2重管 O2 15(l/min)、3重管 H2 50(l/min)、4重管+6重管 O2 85〜120(l/min)、4重管+6重管 H2 200〜250(l/min)であることが記載されている。
(e)第7図第3図には、ガラスインゴットの記載がある。
(f)第7頁第4図に多重管のバーナーが図示されており、中心管にはSiCl4+O2、二重管にはO2、3重管にはH2、4重管にはO2、5重管にはH2、6重管にはO2、7重管にはH2が記載されている。
(2)甲第2号証:特開昭60-215515号公報:取消理由通知の刊行物3
(a)「(1)揮発性ケイ素化合物と酸素ガスならびに酸素ガスと水素ガスをバーナより吹き出させ、酸水素炎中で二酸化ケイ素微粒子を生成させ、該二酸化ケイ素微粒子を回転する標的基盤上に吹付け、溶融成長させることよりなる合成石英素塊の製造法において、バーナ中心部では揮発性ケイ素化合物と酸素ガスとを二重管状に供給するとともにその周りでは該中心部に対し、それぞれ対称位置で管状に酸素ガスを供給し、かつ該酸素ガス流間の隙間に水素ガスを供給し、さらに最外側ではイナート・シーリングガスを二重管状に供給するバーナを使用することを特徴とする合成石英素塊の製造法。」(請求項1)
(b)「本発明は半導体用マスク基盤や光学用レンズなどの原材料となる合成石英素塊の製造法及びその装置に関するものである。」(第1頁右下欄第14〜16行)
(c)「実施例 第4図の透明石英製バーナ(シール用外筒管20の外径80mm)を用いて、合成石英ガラス素塊を製造した。反応ガス供給管16内に酸素ガス・・・0.7Nm3/Hr、反応ガス供給管17内に酸素ガス・・・0.3Nm3/Hr、反応ガス供給管18内に酸素ガス・・・2.5Nm3/Hr、反応ガス供給管18周囲の外筒管15(外径70mm)内の水素ガス・・・14.0Nm3/Hr、外筒管(外径70mm)15とシール用外筒管(外径80mm)20との間に酸素ガス・・・3.3Nm3/Hr、最初バーナに上記流量で酸水素炎を形成させ、回転しつつある標的基盤が十分溶融温度に加熱された状態になってから反応ガス供給管16に精溜された四塩化ケイ素ガスを平均1700g/Hrで送入、反応時間7時間で外径100mm,高さ110mmの弾丸状の合成石英ガラス素塊3,150gが得られた。」(第3頁右上欄第12行〜左下欄第9行)
(d)「比較例 第4図(a)の透明石英製バーナ(外筒管15の外径70mm)を用いて、合成石英ガラス素塊を製造した。反応ガス供給管16内に酸素ガス・・・0.7Nm3/Hr、反応ガス供給管17内に酸素ガス・・・0.3Nm3/Hr、反応ガス供給管18内に酸素ガス・・・3.5Nm3/Hr、上記反応ガス供給管18の周囲の外筒管15内の水素ガス・・・15.0Nm3/Hr・・・回転する標的基盤が十分溶融温度に加熱された状態になってから、反応ガス供給管16に精溜された四塩化ケイ素ガスを平均1,100g/Hrで送入、・・・まず気泡については、目視による検査では比較例の試料には大小10個ほどの気泡が認められた。一方、実施例の試料には気泡は認められず、シール用外筒管の効果がはっきりと認められた。」(第3頁左下欄第第10行〜右下欄第9行)
(e)第5頁第2図(a)には中心部が管16、その外周に管17、その外周に管15、そして17と15の間に管18が配設されている多重管が記載されている。また、第4図(a)には、前記多重管の外周に管20が配設されている多重管が記載されている。
(3)甲第3号証:特開昭59-102810号公報:取消理由通知の刊行物1
(a)「一般式RnSiX4-n(ここにRは水素原子またはメチル基、エチル基、Xはハロゲン原子またはメトキシ基、エトキシ基、nは0〜4)で示されるけい素化合物を燃焼または加水分解させて微細なシリカを発生させ、これを合成石英基体上に堆積させると同時にその顕熱によって溶融ガラス化させて合成石英塊を製造する方法において、このシリカ成長面近傍を補助バーナーを用いて加熱し、この部位に付着しているすすを溶融して針状ガラス層の形成を防止することを特徴とする合成石英の製造方法」(特許請求の範囲第1項)
(b)「実施例1.・・・なお、これはついでこれを1800℃に加熱して熱間成形を行なったが、得られた成型品には気泡が全く認められなかった。」(第4頁左上欄第18行〜右上欄第14行)
(c)「実施例3.第2図に示した装置を使用し、原料ガスとしてのSiCl4またはCH3SiCl3を、キャリヤーガスと共に第3図(b)の構造のバーナーに送り、下記第3表に示した条件で、酸水素炎として直径110mmおよび115mmの合成石英基体に照射すると共に、この基体上に成長した合成石英素塊を第3表に併記した条件下に補助バーナーで加熱したところ、その表面に0.1〜0.2mmの薄いシリカ層をもつ合成石英素塊が得られ、これは15%のHF液中に浸漬したのち、熱間成形機中で1700℃で成形したところ、全く気泡のない合成石英棒となった。」(第4頁右下欄最終行〜第5頁左上欄第10行)
(d)第5頁の第3表では、原料ガスの種類 SiCl4、原料ガスの供給速度1200g/時、キャリヤーガス Ar -、キャリヤーガスO2 200Nl/時、燃料ガスO2(B部)1Nm3/時、燃料ガスO2(C部)7Nm3/時、燃料ガスH2(D部)12Nm3/時、燃料ガスH2(E部)5Nm3/時、補助バーナー用O2 1.5Nm3/時、補助バーナー用H2 3.0Nm3/時、主バーナーと補助バーナーの間隔(L)110mm、主バーナーと補助バーナーの角度(θ)15゜、反応継続時間 20時間、焼結体の収量5160g、燒結体の直径100±0.8mmが記載されている。
(e)第6頁第3図(b)には、中心管がA、2重管がB、3重管がE、4重管がDであり、その内部にCの管が配設されているバーナーが図示されている。
(4)甲第4号証:特開昭54-71650号公報:取消理由通知の刊行物5
(a)「高純度に精製されたシリコンのハロゲン化物または水素化物のガスおよび蒸気を不活性ガス、水素ガスおよび酸素ガスとともにバーナーノズルに供給して火炎酸化分解させることによって高純度透明石英ガラス管を製造する方法において、前記シリコンのハロゲン化物または水素化物のガスおよび蒸気の量と、前記シリコンのハロゲン化物または水素化物のガスおよび蒸気に同伴させる水素ガスとの比が1:1.5〜6の範囲で、しかも前記シリコンのハロゲン化物または水素化物のガスおよび蒸気と前記同伴させる水素ガスを完全に酸化するに必要な理論酸素量の1.5〜2倍の範囲内の酸素ガス量で形成された火炎酸化分解の火炎の中心軸を、回転する石英ガラス基体上の中心から約5mm以上離れた位置に保持しながら、かつ前記バーナーノズルからの酸水素火炎で回転する石英ガラス基体の成長部を包み込むことを特徴とする火炎酸化分解から連続的に石英管の先端に高純度石英を生成させる高純度透明石英ガラス管の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「アルゴンガスが火炎酸化分解の火炎が乱れない程度に流入した成長室内の駆動軸上に保持された直径15mm、長さ20mmの透明石英ガラス棒に、多重管構造のバーナーノズルの内側の1つのノズル口から高純度に精製された四塩化硅素の蒸気0.4l/minを水素ガス1.8l/minに同伴させて供給しその外側にアルゴンガス0.2l/minと水素ガス2.5l/min、酸素ガス5l/minを供給して火炎酸化分解の火炎を形成し、該火炎の中心軸を回転する石英ガラス棒の中心から約5mm離れた片側の位置に保持しながら生成した二酸化硅素微粒子を石英ガラス棒の頭部平面に析出成長を開始し、駆動軸を20r.p.m、引き下げ速度0.5〜0.7mm/minで4時間続行したところ、外径21.5mm±0.2mm 内径6mm±0.3mm、長さ150mmの透明石英ガラス管を得た。得られたガラス管の光学的均質性を顕微鏡にて観察したところ泡、脈理等の光学的欠陥は認められなかった。」(第5頁左上欄第3行〜最終行)
(5)甲第5号証:特開平3-101282号公報:取消理由通知の刊行物6
(a)「略400nm以下の紫外線波長域のレーザ光に使用されるレーザ光用光学系部材において、該光学系部材を高純度合成石英ガラス材で形成すると共に、該光学部材中への、不純物の拡散を阻止して高純度を維持しつつ、水素ガスを少なくとも5×1016(molecules/cm3)濃度以上含有させたことを特徴とするレーザ光用光学部材」(請求項1)
(b)「従ってかかる欠点を解消するには前記加熱処理中に脱ガス化した水素をドーピングすればよい事が理解できるが、本発明者は更に一歩進めて、耐レーザ性を保証し得る水素ドーピング量、言い換えれば水素濃度範囲を明確にしたい。」(第2頁右下欄第4〜8行)
(c)「先ず原料四塩化ケイ素を蒸留処理して不純物を除去させた後テフロンランニング付ステンレス製容器に貯留した高純度四塩化ケイ素を用意し、該高純度の四塩化ケイ素原料を用いてダイレクト法とCVDスート再溶融合成法にて、φ120×t1000mmの高純度石英ガラスインゴットを各々複数個合成する。尚これらインゴットは、3方向脈理フリーでありかつ光使用領域における屈折率変動幅(△n)を2×10-6に設定されている。」(第4頁左上欄第15行〜右上欄第3行)
(6)甲第6号証:特開平3-109233号公報:取消理由通知の刊行物7
(a)「脈理除去及び内部歪除去の処理を施したOH基含有合成シリカガラス体からなり、該ガラス体はその仮想温度分布に基づく屈折率変動分布とOH基濃度分布に基づく屈折率変動分布とが互いに打消し合い実質的に屈折率変動の無い構成としてあり、かつ、紫外線レーザ照射よる光透過率低下を抑制するに充分な量の水素分子を含有していることを特徴とする紫外線レーザ用合成シリカガラス光学体。」(請求項1)
(b)「前記したように高純度で且つ均一組成の合成シリカガラス塊を用いて加熱-徐冷処理を行った場合は、屈折率分布は前記仮想温度分布に依存してしまう為に、ガラス塊の中心域より周縁域に移行するに連れ順次屈折率が大である曲線、例えば(B)に示すような軸対称で且つ凹型曲線状の屈折率分布が生じてしまう。そこで、前記屈折率分布を打消し、(試料番号1のA)に示すような平坦な屈折率分布を得る為には、加熱処理前のシリカガラス塊の屈折率分布を(試料番号1のC)のような、母材中心域から周縁城に移行するに連れ順次小になるよう軸対称で且つ凸型曲線状の分布形状にすればよい。」(第4頁左上欄第4〜16行)
3-3-2.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証には、上記(1)(a)(c)から「ベルヌイ炉の頂部に多重管からなる石英ガラス製バーナーをセットし、バーナー各部よりSiCl4とO2とH2のガスを供給し製造する有水合成石英ガラスの製造方法。」が記載されていると云える。そして、上記(1)(e)からガラスインゴットが製造されることが、また上記(1)(b)から精密光学系の窓等に使われることが、記載されていると云える。
ここで、甲第1号証の比較例が上記(1)(c)(d)に記載されているが、上記(1)(d)の「4重管+6重管 H2 200〜250(l/min)」の記載は、第4図の5重管と7重管からH2が供給されている図面(上記(1)(f))からみて、「5重管+7重管 H2 200〜250(l/min)」の誤記であると認められる。
そうすると、上記(1)(d)から、中心管よりO2を1l/minと、SiCl4を7g/min、2重管よりO2を15l/min、3重管よりH2を50l/min、4重管+6重管よりO2を85〜120l/min、5重管+7重管よりH2を200〜250l/min供給されていることとなる。ここで、2重管と3重管とのH2/O2は3.33であり、4重管+6重管と5重管+7重管とのH2/O2は1.66〜2.94である。
これら比較例の記載事項を、本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、「ベルヌイ炉の頂部に、中心管よりO2とSiCl4を、2重管よりO2を、3重管よりH2を、4重管と6重管よりO2を、5重管と7重管よりH2を供給する7重管からなる石英ガラス製バーナーをセットし、中心管よりO2を1l/minと、SiCl4を7g/min供給し、2重管と3重管とのH2/O2は3.33であり、4重管+6重管と5重管+7重管とのH2/O2は1.66〜2.94であるように供給しガラスインゴットを製造し、次に合成石英ガラス光学部材を製造する合成石英ガラス光学部材の製造方法。」という発明(以下、「甲1A発明」という)が記載されていると云える。
次に、本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明において、バーナーを使用する以上、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させていることは明らかであるから、両者は「バーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法。」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明1では、バーナーが、中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管を有するのに対して、甲1A発明では、中心管よりO2とSiCl4を、2重管よりO2を、3重管よりH2を、4重管と6重管よりO2を、5重管と7重管よりH2を供給する7重管からなる点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰とするのに対して、甲1A発明では、2重管と3重管とのH2/O2は3.33であり、4重管+6重管と5重管+7重管とのH2/O2は1.66〜2.94であるように供給する点
相違点(ハ):本件訂正発明1では、水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲1A発明では、その点が不明である点
そこで、相違点(イ)について検討すると、確かに甲第2号証には、上記(2)(e)から、バーナーの形状として、最外部の燃焼用リング状管の内部に、酸素を噴出する複数の燃焼用円状管を有する形状は記載されている。
しかしながら、この形状は、何よりも製造品に目視で気泡が認められる比較例の場合の形状であり、さらに最外部のリング状管以外にはリング状管としては中心管の外側に酸素を供給する2重管しかないため(上記(2)(d))、本件訂正発明1に云う「酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管」は記載されていないと云える。 また、甲第2号証の実施例においては、必ず最外周にイナート・シーリングガスを供給する管を付設している(上記(2)(a)(c)(e))。
してみると、甲第2号証から、甲1発明のバーナーを、中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管を有するものとすることは当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
なお、申立人Aは、バーナーの形状として甲第3号証について言及しているが、甲第3号証は補助バーナーを使用することを主眼とするものであり、甲第3号証の主バーナーの形状が本件出願前周知・慣用の技術であるとも云えないので申立人Aの主張を採用することはできない。
そして、本件発明は「汚染やコストアップとなる二次処理をすること無しに高均質かつ高い紫外線透過性および紫外線耐性を持つ合成石英ガラスを得ることができ、それにより大口径石英ガラス光学部材を得ることができた。」(本件特許掲載公報第7頁第13欄第15〜19行)という効果を奏する。
したがって、相違点(ロ)(ハ)について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
甲第3号証には、上記(3)(c)(d)(e)から「主バーナーとして4重管構造であり、4重管内に酸素を供給する管が配設されている構造のバーナーを使用し、中心管にSiCl4とキャリヤーガスO2 200Nl/時、2重管にO2 1Nm3/時、3重管にH2 5Nm3/時、4重管にH2 12Nm3/時、4重管に配設された管にO2 7Nm3/時供給し、合成石英素塊を製造しつつ補助バーナーで加熱し、次いで熱間成形機中で1700℃で成形し合成石英棒とする方法。」という発明(以下、「甲3A発明」という)が記載されていると云える。
本件訂正発明2と甲3A発明とを対比すると、甲3A発明の「中心管」、「2重管、3重管」、「4重管」、「4重管に配設された管」、「合成石英素塊」は、本件訂正発明2の「原料用円状管」、「複数の燃焼用リング状管」、「最外部の燃焼用リング状管」、「酸素を噴出する複数の燃焼用円状管」、「インゴット」にそれぞれ相当し、また、甲3A発明の「2重管、3重管のO2とH2の割合」、「4重管と4重管に配設された管のO2とH2の割合」は、それぞれ具体的数値は「5」、「1.71」であり、かつ本件訂正発明2の「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」にそれぞれ相当し、また、甲3A発明において、バーナーを使用する以上、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させていることは明らかであるから、両者は「中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成する方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程からなる方法」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明2では、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲3A発明では、合成石英素塊を製造しつつ補助バーナーで加熱し、次いで熱間成形機中で1700℃で成形し合成石英棒とする点
そこで検討すると、甲3A発明では、補助バーナーで加熱するだけでなく、1700℃で加熱することによって高温熱処理しており、この過程で石英ガラスインゴット内の水素分子が放出されているものと考えられる。
してみると、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ること、すなわち石英ガラスインゴットから水素濃度を維持したまま光学部材を切り出すことにより、高透過率・紫外線耐久性を有する石英ガラス光学部材を得る(平成13年12月3日付け特許異議意見書第7頁第3〜5行)ことは、甲第3号証の記載から当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
そして、本件訂正発明2は上記(1)で述べたとおりの効果を奏する。
したがって、本件訂正発明2は、甲第3号証に記載された発明とすることはできないし、また甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)本件訂正発明3〜12について
本件訂正発明3〜12は少なくとも請求項1又は請求項2を引用しさらに限定した発明である。
甲第4号証には、石英ガラス管の製造方法に関し、多重管構造のバーナーや、キャリアガスとして水素を使用することについて記載されているが、上記(1)の相違点(イ)のバーナー構造や、上記(2)の相違点(イ)の水素濃度を維持したまま切り出すことについては何も示唆されていないと云える。
甲第5号証には、レーザー光用光学系部材に関し水素ガスを5×1016(molecules/cm3)濃度以上含有させることについては記載されているが、これは加熱処理後の水素ドーピングをすることによる濃度であるから、水素濃度を維持したまま光学部材を切り出すことは何も示唆されていないと云える。
甲第6号証には、紫外線レーザ用合成シリカガラス光学体について、加熱-徐冷処理を行なっても屈折率変動を打ち消し合うようにすることが記載されているが、水素濃度を維持したまま光学部材を切り出すことは何も示唆されていないと云える。
したがって、上記(1)(2)と同じ理由で、本件訂正発明3〜12は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできたものであるとすることはできない。
3-4.上記3-1.(2)申立人Bの主張について
3-4-1.上記3-1(2)(i)、特許法第29条第1項第3号、同条第2項違反の主張について
3-4-1-1.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:特願昭59-102810号公報:申立人Aの甲第3号証と同じ。
(2)甲第2号証:特開平3-290330号公報:取消理由通知の刊行物4
(a)「シラン化合物から直接大火炎法によって合成シリカ微粒子を製造する方法は米国特許第2,272,342号明細書によって公知とされている。この方法で用いられるバーナーは多段構造体とされており、これは内炎を形成するシラン化合物からなる原料ガス(a)と支燃性ガス(d)、燃性ガス(b)および支燃性ガス(c)をそれぞれ供給するノズル群と、外炎を形成する燃性ガス(e)と支燃性ガス(f)を供給するノズル群とから構成されており、内炎用ノズル群はバーナー中心部に、外炎用ノズル群はバーナー中心部の内炎ノズル群を取りまいて設置されていて、これらのノズルから噴出されるガスによって形成される内炎と外炎は一つの大きな火炎となり、これが回転している耐熱性担体に吹き付けられることによって担体上に合成シリカ微粒子が堆積されると同時に溶融ガラス化して合成石英ガラス部材が製造される。」(第2頁左上欄第11行〜右上欄第7行)
(b)「同心円状5重管バーナーの中心層に原料ガスaとしてのメチルトリクロロシランまたは四塩化けい素と支燃性ガスdとしての酸素ガスとの混合ガス、第2層に支燃性ガスcとしての酸素、第3層に燃性ガスbとしての水素ガス、第4層に支燃性ガスfとしての酸素ガス、第5層に燃性ガスeとしての水素ガスを供給するようにし、このa、b、c、dで内炎を、e、fで外炎を形成するさせることとし、このa、b、c、d、e、fのガス供給量を第1表に示した量としてこの酸水素火炎バーナーで発生したシリカ微粒子を炭化けい素製担体棒上に堆積させると共に直ちに溶融して外径80mm、長さ50mmの合成石英ガラス部材を作ったところ・・・」(第4頁右上欄第12行〜左下欄第5行)
(c)第5頁左上欄の第1表の実施例1には、ガス供給量Nm3/時として原料ガスa0.2、支燃性ガスd(O2)0.9、支燃性ガスc(O2)0.3、燃性ガスb(H2)3.0、支燃性ガスf(O2)4.0、燃性ガス(H2)8.0、△OH(ppm)50、屈折率最大偏差量(△n)5.0×10-6であることが記載されている。
(3)甲第3号証:特開昭54-71650号公報
申立人Aの甲第4号証と同じ。
(4)甲第4号証:特開平4-130031号公報:取消理由通知の刊行物8
(a)「石英ガラスの吸収、発光という分光学的性質は、現在のところ、次のように説明される。a)酸素過剰 合成石英ガラスの製造において、酸水素火炎の酸素が過剰な場合、すなわち、H2/O2<2となるような時は、エキシマレーザーなどの照射によって、260nmの吸収帯が生じ、それに伴って650nmの赤色発光帯が生成する。b)水素過剰 逆に、酸水素火炎が水素過剰の場合(H2/O2>2)、合成石英ガラス中に過剰の水素が残存し、ArFエキシマレーザーの照射によって220nmの吸収帯を生じ、それに伴う280nmの発光帯が見られる。・・・第1図および第2図のAの試料は、酸水素火炎H2/O2=1.8で製造した合成石英ガラスにArFエキシマレーザー(193nm)を200mJ/cm3、100Hz、6000パルスの照射条件で照射したときの発光スペクトルと吸収スペクトルであり、650nmに赤色発光があり、260nmに吸収帯がある。また、第1図のBの試料は、H2/O2=2.3で製造した合成石英ガラスにAと同様にArFエキシマレーザー(193nm)を照射したとき発光スペクトルである。」(第2頁右下欄第9行〜第3頁第16行)
(b)「本発明は、四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解する石英ガラスの合成方法において、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下となるように酸水素火炎の酸素と水素の比が化学量論的必要量より過剰の水素の存在下で合成し、・・・合成された石英ガラスの溶存する酸素分子(O2)濃度を1×1017個/cm3以下とすることが可能となり、したがって、650nmの赤色発光の前駆体である不安定な構造の形成が防止されることになる。」(第4頁左上欄第1〜19行)
(c)「以上のことから、溶存酸素分子の許容濃度は約1×1017個/cm3であり、好ましくは内部透過率が99.9%となる条件として1×1016個/cm3以下が望ましい。」(第5頁左上欄第8〜11行)
(5)甲第5号証:特開平4-164833号公報:取消理由通知の刊行物9
(a)「塊状合成シリカガラス体を高圧希ガス雰囲気下で加熱して再溶融した後、該再溶融状態を所定時間維持することにより、前記ガラス体中に水素分子を含有させた事を特徴とする水素分子含有シリカガラス体の製造方法。」(請求項1)
(b)「更に、特に略250nm以下の短紫外域におけるKrFもしくはArFエキシマレーザーは、最も強いエネルギーを持っており、該エキシマレーザの照射により前記シリカガラスは一層強い光学的ダメージを受けやすいことが確認されている。・・・前記シリカガラス体中に水素ガスをドープする事により特に略250nm以下の短紫外域エキシマレーザーの照射における光学的ダメージを大幅に低減した商品を開発すると共に、そのシリカガラス中への水素ガスドープを主要構成要件とする・・・」(第2頁左上欄最終行〜右上欄第20行)
(c)「尚、耐紫外線レーザ性を効果的に達成するには、前記シリカガラス体中に5×1017(molecule/cm3・glass)以上の水素分子を含有させるのがよい」(第3頁右上欄第15〜17行)
3-4-1-2.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
(i)甲第1号証を主引例とする対比・判断
甲第1号証には、上記3-3-2(2)から「主バーナーとして4重管構造であり、4重管内に酸素を供給する管が配設されている構造のバーナーを使用し、中心管にSiCl4とキャリヤーガスO2 200Nl/時、2重管にO2 1Nm3/時、3重管にH2 5Nm3/時、4重管にH2 12Nm3/時、4重管に配設された管にO2 7Nm3/時供給し、合成石英素塊を製造しつつ補助バーナーで加熱し、次いで熱間成形機中で1700℃で成形し合成石英棒とする方法。」という発明(以下、「甲1B発明」という)が記載されていると云える。
本件訂正発明1と甲1B発明とを対比すると、甲1B発明の「中心管」、「2重管、3重管」、「4重管」、「4重管に配設された管」、「合成石英素塊」は、本件訂正発明2の「原料用円状管」、「複数の燃焼用リング状管」、「最外部の燃焼用リング状管」、「酸素を噴出する複数の燃焼用円状管」、「インゴット」にそれぞれ相当し、また、甲1B発明の「2重管、3重管のO2とH2の割合」、「4重管と4重管に配設された管のO2とH2の割合」は、それぞれ具体的数値は「5」、「1.71」であり、かつ本件訂正発明1の「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」にそれぞれ相当するから、両者は「中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成する方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程からなる方法」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明1は、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲1B発明は、合成石英素塊を製造しつつ補助バーナーで加熱し、次いで熱間成形機中で1700℃で成形し合成石英棒とする点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰としているのに対して、甲1B発明では、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して酸素過剰としている点
そこで相違点(イ)について検討する。
甲第2号証には、後述の(ii)で述べるように、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ることについては何も示唆されていない。
甲第3号証については、上記3-3-2(3)での甲第4号証について述べたと同じことが云える。
甲第4号証には、石英ガラスの分光学的性質と、酸素過剰、水素過剰の関係について記載されているが、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ることについては何も示唆されていない。
甲第5号証には、インゴットを高圧希ガス雰囲気下で加熱再溶融することは記載されているが、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ることについては何も示唆されていない。
してみると、相違点(ロ)について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないし、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ii)甲第2号証を主引例とする対比・判断
甲第2号証には、上記(2)(b)(c)から、「中心層に四塩化けい素と酸素ガスとの混合ガス、第2層に酸素ガス、第3層に水素ガス、第4層に酸素ガス、第5層に水素ガスを供給する同心円状5重管バーナーによる合成石英ガラス部材の製造方法において、2層(O2)に0.3Nm3/時、3層(H2)に3.0Nm3/時、4層(O2)に4.0Nm3/時、5層(H2)に8.0Nm3/時供給し、このバーナーで発生したシリカ微粒子を炭化けい素製担体棒上に堆積させると共に直ちに溶融して合成石英ガラス部材を作る合成石英ガラス部材の製造方法。」という発明(以下、「甲2B発明」という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲2B発明とを対比すると、甲2B発明において2層(O2)と3層(H2)との比は10、4層(O2)と5層(H2)との比は2であり、甲2B発明の「炭化けい素製担体棒」、「合成石英ガラス部材」は本件訂正発明1の「ターゲット」、「インゴット」にそれぞれ相当するから、両者は「バーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明1では、バーナーが、中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するものであるのに対して、甲2B発明では、中心層に四塩化けい素と酸素ガスとの混合ガス、第2層に酸素ガス、第3層に水素ガス、第4層に酸素ガス、第5層に水素ガスを供給する同心円状5重管バーナーである点
相違点(ロ):本件訂正発明1では、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰としているのに対して、甲2B発明では、2層(O2)と3層(H2)との比は10、4層(O2)と5層(H2)との比は2である点
相違点(ハ):本件訂正発明1では、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲2B発明では、その点が不明である点
そこで相違点(イ)について検討する。
甲第1号証については、上記3-3-2.(1)で甲第3号証について述べたことと同じことが云える。
甲第3号証については、上記3-3-2.(3)で甲第4号証について述べたことと同じことが云える。
甲第4、5号証には、バーナーが、中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同じ、円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するものについては何も示唆されていない。
してみると、相違点(ロ)(ハ)について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできないし、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
(i)甲第1号証を主引例とする対比・判断
本件訂正発明2と甲1B発明とを対比すると、甲1B発明の「中心管」、「2重管、3重管」、「4重管」、「4重管に配設された管」、「合成石英素塊」は、本件訂正発明2の「原料用円状管」、「複数の燃焼用リング状管」、「最外部の燃焼用リング状管」、「酸素を噴出する複数の燃焼用円状管」、「インゴット」にそれぞれ相当し、また、甲1B発明の「2重管、3重管のO2とH2の割合」、「4重管と4重管に配設された管のO2とH2の割合」は、それぞれ具体的数値は「5」、「1.71」であり、かつ本件訂正発明2の「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」にそれぞれ相当するから、両者は「中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成する方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程からなる方法」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明2では、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲1B発明では、合成石英素塊を製造しつつ補助バーナーで加熱し、次いで熱間成形機中で1700℃で成形し合成石英棒とする点
そこで相違点(イ)について検討すると、甲第2〜5号証について上記(1)(i)で述べたことと同じことが云えるから、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないし、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ii)甲第2号証を主引例とする対比・判断
本件訂正発明2と甲2B発明とを対比すると、甲2B発明において2層(O2)と3層(H2)との比は10、4層(O2)と5層(H2)との比は2であり、甲2B発明の「炭化けい素製担体棒」、「合成石英ガラス部材」は本件訂正発明2の「ターゲット」、「インゴット」にそれぞれ相当するから、両者は「バーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法」で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件訂正発明2では、バーナーが、中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するものであるのに対して、甲2B発明では、中心層に四塩化けい素と酸素ガスとの混合ガス、第2層に酸素ガス、第3層に水素ガス、第4層に酸素ガス、第5層に水素ガスを供給する同心円状5重管バーナーである点
相違点(ロ):本件訂正発明2では、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰としているのに対して、甲2B発明では、2層(O2)と3層(H2)との比は10、4層(O2)と5層(H2)との比は2である点
相違点(ハ):本件訂正発明2では、石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得ているのに対して、甲2B発明では、その点が不明である点
そこで相違点(イ)について検討すると、上記(1)(i)で述べたこととと同じことが云えるから、相違点(ロ)(ハ)について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできないし、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、請求項1又は請求項2を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)(2)と同じ理由で、本件訂正発明3は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできたものであるとすることはできない。
(4)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、請求項1又は請求項2を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)(2)と同じ理由で、本件訂正発明5は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明とすることはできないし、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできたものであるとすることはできない。
(5)本件訂正発明6〜12について
本件訂正発明6〜12は、少なくとも請求項1又は請求項2を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)(2)と同じ理由で、本件訂正発明6〜12は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできたものであるとすることはできない。
3-4-2.上記3-2(1)(ii)、特許法第36条違反の主張について
申立人Bは、具体的には請求項2に関する実施例が明細書中に記載されていないことを主張している。
そこで検討すると、本件訂正発明2において「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」が理論当量比と比較して同等または酸素過剰となっているということは、換言すれば、水素に関しては理論当量比と比較して、同等ないし水素不足となっているということである。してみると、本件訂正発明2において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」が理論当量比と比較して水素過剰である以上、本件訂正発明2では必ず、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」は「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰になっていると云うことである。そうすると、本件訂正発明2は本件訂正発明1の下位概念と云えるから、本件訂正発明1の実施例が明細書に記載されている以上、本件訂正発明2の実施例が記載されていないからといって、記載不備とまで云うことはできない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜12に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜12に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜12に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
石英ガラス光学部材の製造方法及びそれにより製造された石英ガラス光学部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、
「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、
前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、
からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項2】 中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、
「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、
前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、
からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法において、原料用円状管からSi化合物ガスを噴出させるときにキャリアガスとして水素ガスを用いることを特徴とする石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項4】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、波面収差のRMS値がパワー成分補正後に0.02λ以下であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項5】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の屈折率の均質性がパワー成分補正なしでΔn≦2×10-6であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項6】 請求項5に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向を光軸方向とすることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項7】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の断面のの屈折率分布の極値がひとつで中央対称であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項8】 請求項7に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向の断面が入射光軸を含む断面であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項9】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、365nm、248nm、193nmにおいて10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項10】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、KrFエキシマレーザを400mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、248nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項11】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、ArFエキシマレーザを100mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、193nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項12】 請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、中央部の方が周辺部より高い水素濃度を持つことを特徴とする石英ガラス光学部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は石英ガラスの製造方法に関するものであり、特に、紫外線レーザ全般に使用される光学部材用の合成石英ガラスの製造方法及びそれにより製造された石英ガラスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、シリコン等のウエハ上に集積回路の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィー技術においては、ステッパと呼ばれる露光装置が用いられている。このステッパの光源は、近年のLSIの高集積化にともなってg線(436nm)からi線(365nm)、さらにはKrF(248nm)やArF(193nm)エキシマレーザへと短波長化が進められている。
【0003】
一般に、ステッパの照明系あるいは投影レンズとして用いられる光学ガラスは、i線よりも短い波長領域では光透過率が低下するため、従来の光学ガラスにかえて合成石英ガラスやCaF2(蛍石)等のフッ化物単結晶を用いることが提案されている。
ステッパに搭載される光学系は多数のレンズの組み合わせにより構成されており、たとえレンズ一枚当たりの透過率低下量が小さくとも、それが使用レンズ枚数分だけ積算されてしまい、照射面での光量の低下につながるため、素材に対して高透過率化が要求されている。また、使用波長が短くなるほど、屈折率分布のほんの小さなムラによってでも結像性能が極端に悪くなる。
【0004】
このように、紫外線リソグラフィー用の光学素子として用いられる石英ガラスには、紫外線の高透過性と屈折率の高均質性が要求されている。
しかし、通常市販されている合成石英ガラスは、均質性、耐紫外線性を始めとする品質が不十分であり、前述したような精密光学機器に使用することはできなかった。このため、これまでに均質化のための二次処理(特公平03-17775,特開昭64-28240)や、加圧水素ガス中での熱処理による耐レーザ性の向上(特開平03-109233)が提案されている。
【0005】
これらの方法は、一旦、石英ガラスを合成した後、光学的性能を向上させるために二次的な処理を施す方法である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
石英ガラスに紫外領域の光が作用すると、E’センターと呼ばれる5.8eVの吸収帯が現れ紫外領域の透過率が著しく低下する。ここに水素分子が存在すると、E’センターを水素分子がターミネートし、紫外領域での石英ガラスの透過率低下量を激減させることができるという報告がある(米国特許第5086352号)。
【0007】
この様に石英ガラス中における水素分子は、その紫外線耐久性を著しく向上させる効果がある。しかしながら、前述のような従来の技術では、石英ガラス中に水素分子を導入するために、一旦、石英ガラスを合成した後に再び熱処理(水素処理等)を加えなければならないという問題がある。すなわち、この方法であると水素分子の導入まで熱を少なくとも2回加えることになる。それ故、生産性が低下し、最終生産物がコストアップする等の問題がある。また、二次処理で水素分子を導入するためには水素雰囲気中で処理を行わねばならず、発火・爆発等の危険性も伴う。さらに、不純物の混入、高温での加圧熱処理で還元雰囲気に曝すことによる、新たな吸収帯や発光帯の発生という問題もあった。
【0008】
加えて、近年、光リソグラフィー技術に用いるレンズ径が大きくなるにつれ、二次処理で水素分子を大口径の石英ガラス光学部材に均一に導入するには、拡散係数から考えてもかなりの長時間を有する。さらに、紫外線リソグラフィー用のレンズとして用いることを考えた場合、最もエネルギー密度が高くなるため、より高い水素濃度が必要となる中央部の水素濃度が周辺部に比較して低くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、これらの問題を解決し、紫外光照射による透過率低下を抑えるのに必要な量の水素分子を含有し、泡・異物・脈理・歪等含まず、光学的に均質で高透過率・紫外線耐久性を有する石英ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決する為の手段】
そこで本発明は、水素分子の導入を合成時に行うことにより二次処理が不要になることに着目し、鋭意研究を進めた。
その結果、バーナの中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管の周りの燃焼ガスの割合を水素過剰にすることにより合成時に高濃度の水素分子が導入され、二次処理が不要になることがわかった。そして、さらに、最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる燃焼ガスの割合については、水素過剰雰囲気が強すぎると、合成される石英ガラスの透過率が低くなることがわかった。
【0011】
よって、本発明においては、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰とするものとした。
あるいは、本発明においては、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰とするものとした。
【0012】
【作用】
前述したように、水素分子を導入する方法として、一般的には熱間等方圧プレス(HIP)や高温高圧雰囲気熱処理炉などによる二次処理を行うことが多い。この二次処理時に酸素欠乏型欠陥の生成や、Na等不純物の混入により紫外光学材料として用いる場合に問題となる、新たなる吸収帯の生成やその処理温度範囲によっては失透などが起こり得る。
【0013】
本発明の製造方法であれば、このようなデメリットがない。
さらに、2次処理では大口径な石英ガラス部材に水素を導入することが困難であるのに対し、本発明の製造方法であれば、合成時に水素分子を導入するため、石英ガラスの径によらず高濃度の水素分子濃度を保たせることができる。
この様にして得られた石英ガラスインゴット中の水素分子濃度は、径方向では中心部において比較的なだらかな分布を持ち、周縁部に近くなるほど減少する、すなわち凸型の分布になる。凸型の水素分子濃度の分布をもつ石英ガラスであれば、紫外線リソグラフィー用の光学素子として用いた場合、最もエネルギー密度が高い中心部においても紫外線耐久性が保たれる。
【0014】
以下に合成により水素を合成する機構を説明する。
合成時における石英ガラス中への水素分子の溶解過程はよく解ってはいないが、キャリアガスと共に噴射されたSi化合物(原料)ガスが加水分解されて微粒子(石英ガラス粉)状になる際に、ある割合の水素分子を巻き込みながらガラス化されると推測される。それ故、中心部により近い部分が水素過剰であれば、石英ガラス中に水素分子が溶け込む確率が高くなり水素分子濃度は高くなるはずである。この様な方法により高濃度の水素分子を含有させることで、汚染や危険性を考慮せずとも紫外線耐久性を向上させることが可能になる。しかしながらこの方法において、最外部部の燃焼ガス(支燃性ガスと助燃性ガス)の割合を水素過剰にすることだけは得策ではない。この部位は、他の部位に比べガス流量が非常に多いため水素過剰・酸素欠乏雰囲気になり易く、この様な条件で合成することによりSi-Si等の酸素欠乏型欠陥が生成してしまい、逆に225nm以下の透過率低下を招いてしまうからである。
【0015】
本発明の石英ガラスの製造方法により製造される石英ガラスであれば、屈折率分布に関して光リソグラフィー用光学素子として直接光学性能に影響する光学的な物性を満足する。
石英ガラスの屈折率分布を細かく見ると、パワー成分、アス成分、回転対称成分、傾斜成分、ランダム成分等に分離でき、それぞれが重なりあって全体の屈折率分布を形成している。そして、これらの各成分が光学性能に及ぼす影響はそれぞれ異なっている。
【0016】
波面収差のRMS値(パワー成分補正後)は、光学性能に直接影響を与える成分のみを表している。パワー成分補正後としたのは、パワー成分は曲率半径の誤差と同一であり、例えばレンズとして用いる場合であればレンズの曲率により補正が可能であり、レンズの空気間隔によっても容易に補正が可能であるため、光学系に使用した場合に像質に直接影響を及ぼさないからである。
【0017】
本発明の製造方法によれば、具体的には、波面収差のRMS(二乗平均平方根)値がパワー成分補正後に0.02λ以下、光軸方向の屈折率の均質性がパワー成分補正なしでΔn≦2×10-6、入射光軸を含む断面の屈折率分布が極値がひとつで中央対称、複屈折≦2nm/cmであるような石英ガラスが、それぞれ得られる。また、石英ガラス中のどの部位においても365nm,248nm,193nmにおいて10mm内部透過率が99.9%を超える石英ガラスが得られる。この様な石英ガラスは未だ知られていなかった。
【0018】
また、KrFエキシマレーザを400mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、248nmにおける10mm内部透過率が99.9%を超える石英ガラス、あるいは、ArFエキシマレーザを100mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、193nmにおける10mm内部透過率が99.9%を超える石英ガラスが得られる。これは、本発明によって得られる石英ガラスの水素濃度がいずれの場所においても5×1017個/cm3以上であり、中央部の方が周辺部より高い水素濃度を持つからである。このような石英ガラスは、紫外線照射により生成する欠陥が生じにくく、紫外線リソグラフィー用光学素子としての耐久性を満足する。
【0019】
なぜならば、本発明の石英ガラスの製造方法においては、これらの光学性能に悪影響を及ぼす合成後の2次処理を必要としないためである。これらの石英ガラスは、紫外線リソグラフィー用光学素子としての使用に適している。
【0020】
【実施例】
本発明における実施例を以下に記す。
表1及び表2に、実施例および比較例の石英ガラスの製造条件および物性を示す。また、表3は、表1、表2中の符号(○、△、×)を説明するものである。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
〔実施例1〕
高純度石英ガラスインゴットは、原料として高純度の珪素の塩素化合物ガスを用い、図2及び図3に示すような石英ガラス製多重管バーナにて酸素ガス及び水素ガスを表1に示すような配置・流量にして燃焼させ、中心部から原料ガスをキャリアガスで希釈して噴出させる、いわゆる酸水素炎加水分解法あるいはダイレクト法と呼ばれる方法により合成した。合成の際、ガラスを積層させる不透明石英ガラス板からなるターゲットを一定周期で回転及び揺動させ、更に降下を同時に行うことによりインゴット上部の位置を常時バーナから同距離に保った(特願平05-22293、特願平05-22294参照)。このようにして複数個のインゴットを合成した。これらのインゴット(φ160〜500mm,L800〜1200mm)から、インゴットの回転中心と一致させる様に、円板状のテストピース(φ150〜450mm,t50mm)を50〜100mm毎に水平に切り出した。それぞれのサンプルについて、高圧水銀灯下において脈理の測定、複屈折測定装置による歪の測定、及びHe-Neレーザ干渉計を用いオイルオンプレート法により光軸方向及び光軸垂直方向における屈折率分布の測定を行った。さらに、屈折率の傾斜成分を測定するため、その円板をはさむ外側からプリズム形状のテストピースを取り、最小偏角法で屈折率の絶対値を測定した。これら切り出したバルク体の上層部をH30×L150×t10mmの寸法に切断し、側面四面研磨を施し水素分子濃度測定用試料片とした。また、残りをφ60×t10mm(5mmのオリエンテーションフラット付き)の寸法に切断し、両面及び側面の三面研磨を施し水素分子濃度測定,透過率測定及びエキシマレーザ照射用試料片とした(図6参照)。
【0025】
水素分子濃度の測定は、レーザラマン分光光度計により行った。定量は、サンプルを試料台にセットした後、 Ar+レーザ(出力800mW)を照射した時に発生するサンプルと直角方向のラマン散乱光のうち、800cm-1と4135cm-1の強度を測定し、その強度比をとることにより行った(V.S.Khotimchenko et al.,J.Appl.Spectrosc.,46,632-635(1987))。
【0026】
透過率は、サンプルの10mm厚における内部透過率を測定した。その測定は、近赤-可視-紫外用ダブルビーム分光光度計を用い、リファレンス側に厚さ2mmのサンプルを、測定側に厚さ12mmのサンプル(両者共に同じロットからサンプリングしたもの)をセットすることにより行った。このようにすることにより、サンプル内での多重反射成分及び表面反射成分が取り除かれ、10mm厚における内部透過率が測定できる。この際、分光光度計の精度を高めるために、厚さを変えた石英ガラス標準サンプル(1mm〜28mm)で、測定波長で厚みによる透過率変化が起こらないように調整した(特願平5-211217)。
【0027】
また、エキシマレーザ照射は、照射用試料片に対してKrFエキシマレーザ(248nm)及びArFエキシマレーザ(193nm)を用い、前者についてはエネルギー密度400mJ/cm2・pulseで1×106pulseまで、後者についてはエネルギー密度100mJ/cm2・pulseで1×106pulseまで照射を行った。
ここで諸物性を測定するために用意されたサンプルは、表1に記載したサンプル1,2である。
【0028】
その結果、サンプル1では4.1×1018個/cm3もの非常に多量の水素分子が石英ガラス塊内に溶存していた。原料を四塩化珪素ではなく、トリクロロシランを用いて合成(サンプル2)しても、若干少なくはなるが3.1×1018個/cm3の水素分子が溶存していた。これらいずれのサンプルにおいても屈折率分布について中央対称であった。また、屈折率分布においても光軸方向・光軸垂直方向いずれにおいても良好な結果が得られた。さらに、248nm,193nmにおける透過率も99.9%以上であり、エキシマレーザ照射試験後の透過率も、サンプル1,2共に99.9%以上であった。
【0029】
〔比較例1〕
ここで用意したサンプルは表1のサンプル3〜6である。サンプル3は水素キャリアで最外部の燃焼ガスにおける酸水素比を同心円状多重管の酸水素比より水素過剰にし、サンプル4は酸素キャリア,サンプル5はヘリウムキャリア,サンプル6はアルゴンキャリアにし、同心円状のガス放出管から噴出させるガスを酸水素比:0.44にすることにより合成したものである。サンプル3では実施例1のものよりさらに約1.7倍も多い水素分子を溶存させることができたが、真空紫外側に吸収帯も存在し193nmの初期透過率が悪かった。エキシマレーザ照射試験では、初期に透過率低下が認められるためエキシマレーザ照射後の透過率、特にArF波長における照射後の透過率が悪かった。サンプル4については、初期に吸収帯も存在せず透過率も良好であったが、水素分子濃度は3.5×1017個/cm3と少なかった。また、Δn,RMSに若干の悪化が認められたものの、比較的良い値が得られた。エキシマレーザ照射試験において、照射後の透過率はKrF,ArF波長共にわずかながら透過率の低下が見られた。サンプル5,6では初期に吸収帯も存在せず初期透過率も良好であったが、水素分子濃度は非常に少なく1×1017個/cm3以下であったため、エキシマレーザ照射試験では、両サンプル共に照射後の透過率がKrF,ArF共に非常に悪くなっていた。Δn,RMSについては、若干の悪化が認められたものの、比較的良い値が得られた。
【0030】
〔実施例2〕
図4及び図5のバーナに変え、合成実験を行った(サンプル7,8)。合成方法は表2に示した通りである。サンプルは、二,三重管目から流出する酸水素のガス比を0.293にしたもの(サンプル7),四,五重管目から流出する酸水素のガス比を0.293にしたもの(サンプル8)である。実施例1と同様の条件で各種物性測定を行った。両サンプル共、サンプル1に比べ若干少ない水素分子濃度ではあったものの、1018個/cm3以上溶存していた。サンプル7,サンプル8双方共に屈折率分布についても中央対称であった。また、両サンプル共Δn,RMSも良好であり、初期透過率及びエキシマレーザ照射試験後における透過率もKrF,ArF共に99.9%以上を保っていた。
【0031】
〔比較例2〕
図4及び図5のバーナを用いて酸素キャリアで合成実験を行った(サンプル9,10)。これらのサンプルについての諸物性は、以下の通りであった。屈折率分布については中央対称であったものの、ΔnやRMSについてはサンプル7,8に比べ若干悪化していた。また、水素分子濃度もサンプル9で4.3×1017個/cm3,サンプル10で検出下限以下(<1016個/cm3)とサンプル7やサンプル8に比べ格段に小さくなっていた。初期透過率はいずれも99.9%以上であったがエキシマレーザ照射試験後の測定値では、KrF,ArF共に低下が見られた。また、水素キャリアで最外部の燃焼ガスにおける酸水素比を同心円状多重管の酸水素比より水素過剰にして合成したサンプル(サンプル11)についても測定を行った。これについては実施例2のサンプル7,8よりさらに約1.6,2.7倍も多い水素分子を溶存させることができたが、真空紫外側に吸収帯も存在し193nmの初期透過率が悪かった。エキシマレーザ照射試験では、初期に透過率低下が認められるためエキシマレーザ照射後の透過率、特にArF波長における照射後の透過率が悪かった。またΔn,RMSについては悪化する傾向にあった。
【0032】
〔実施例3〕
実施例1のサンプル1の石英ガラスから、インゴット外形から幾何学的中央部を維持しながら加工して得られた石英ガラス光学部材を使用して、ArFエキシマレーザを光源とした投影レンズを製作したところ、所望の設計性能を満足することが確認できた。これにより0.3μm以下の解像力を有し、実用上十分な平坦性を持つ集積回路パターンを得ることができた。さらに、長時間光学性能が劣化せず維持されることが確認された。
【0033】
【発明の効果】
以上のように、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰とすること、あるいは「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰とすることにより、さらに好ましくは水素キャリアにすることにより、汚染やコストアップ要因となる二次処理をすること無しに高均質かつ高い紫外線透過性および紫外線耐性を持つ合成石英ガラスを得ることができ、それにより大口径石英ガラス光学部材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例で述べた透過率測定結果の一例である。
【図2】 石英ガラス合成時に使用したバーナの外観図である。
【図3】 図2の矢印方向からの矢視図であり、図中の番号は表1の配管内ガス種類及び流量の番号に対応する。
【図4】 石英ガラス合成時に使用したバーナの外観図である。
【図5】 図4の矢印方向からの矢視図であり、図中の番号は表2の配管内ガス種類及び流量の番号に対応する。
【図6】 石英インゴットからサンプルを切り出す時のフローチャートである。
【符号の説明】
1…水素ガス或いは酸素ガス噴出口
2…酸素ガス或いは水素ガス噴出口
5…酸素ガス噴出口
6…水素ガス噴出口
7…キャリアガス+原料ガス噴出口
11…水素ガス或いは酸素ガス噴出口
12…酸素ガス或いは水素ガス噴出口
13…水素ガス或いは酸素ガス噴出口
14…酸素ガス或いは水素ガス噴出口
15…酸素ガス噴出口
16…水素ガス噴出口
17…キャリアガス+原料ガス噴出口
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3120647号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、
(1)訂正事項a
請求項1〜2を、「【請求項1】中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比および「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」と比較して水素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項2】中心部に配置されSi化合物ガスを噴出する原料用円状管と、これの周囲に同心円状に配置され酸素ガスおよび水素ガスを噴出する複数の燃焼用リング状管と、最外部の燃焼用リング状管の内部に配置され酸素を噴出する複数の燃焼用円状管とを有するバーナにより、Si化合物ガスと酸素ガスと水素ガスとを噴出し、ターゲット上に石英ガラス粉を堆積しガラス化させ、インゴットを形成し、このインゴットを加工して石英ガラス光学部材を得る石英ガラス光学部材の製造方法において、「最外部を除く複数の燃焼用リング状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を、理論当量比と比較して水素過剰とし、「最外部の燃焼用リング状管とその内部の燃焼用円状管から噴出させる酸素ガスおよび水素ガスの割合」を理論当量比と比較して同等または酸素過剰として石英ガラスインゴットを合成する工程と、前記石英ガラスインゴットを加工して水素濃度が5×1017個/cm3以上の石英ガラス光学部材を得る工程と、からなる石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項3】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法において、原料用円状管からSi化合物ガスを噴出させるときにキャリアガスとして水素ガスを用いることを特徴とする石英ガラス光学部材の製造方法。
【請求項4】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、波面収差のRMS値がパワー成分補正後に0.02λ以下であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項5】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の屈折率の均質性がパワー成分補正なしで△n≦2×10-6であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項6】請求項5に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向を光軸方向とすることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項7】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、一方向の断面のの屈折率分布の極値がひとつで中央対称であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項8】請求項7に記載の石英ガラス光学部材において、前記一方向の断面が入射光軸を含む断面であることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項9】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、365nm、248nm、193nmにおいて10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項10】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、KrFエキシマレーザを400mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、248nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項11】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、ArFエキシマレーザを100mJ/cm2・pulseで106pulse照射した後、193nmにおける10mm内部透過率が99.9%を越えることを特徴とする石英ガラス光学部材。
【請求項12】請求項1または請求項2に記載の石英ガラス光学部材の製造方法により製造した石英ガラス光学部材において、中央部の方が周辺部より高い水素濃度持つことを特徴とする石英ガラス光学部材。」と訂正する。
(2)訂正事項b
【発明の名称】を、石英ガラス光学部材の製造方法及びそれにより製造された石英ガラス光学部材」と訂正する。
異議決定日 2002-08-09 
出願番号 特願平5-330740
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03B)
P 1 651・ 113- YA (C03B)
P 1 651・ 531- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
西村 和美
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第3120647号(P3120647)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 石英ガラス光学部材の製造方法及びそれにより製造された 石英ガラス光学部材  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 曾我 道治  
代理人 池谷 豊  
代理人 古川 秀利  
代理人 渡辺 隆男  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道照  
代理人 藤村 元彦  

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