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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H04R |
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管理番号 | 1067547 |
異議申立番号 | 異議2002-70688 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-03-18 |
確定日 | 2002-10-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3208845号「超音波探触子」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3208845号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 本件発明 本件特許第3208845号に係る発明は、平成4年6月16日に出願され、平成13年7月13日に設定登録(請求項の数3)がなされ、その後特許異議申立人から本件特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明に対して異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、意見書が提出され、本件特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明(以下それぞれ「本件第1ないし3の発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、次に掲げる1ないし3に示すとおりのものである。 1 本件第1の発明 【請求項1】 有機高分子を介して連結された複数の圧電体素子からなる複合圧電体と、この複合圧電体の一方の面上に互いに間隙を保って複数個配列されたアレイ電極とを備え、上記アレイ電極の間隙部にあたる上記複合圧電体の部分には上記有機高分子より音波減衰係数の大きい充填材を充填したことを特徴とする超音波探触子 2 本件第2の発明 【請求項2】 充填材が、有機高分子にマイクロバルーンと無機物の粉体を混合したものであることを特徴とする請求項1記載の超音波探触子 3 本件第3の発明 【請求項3】 充填材が、有機高分子にマイクロバルーンと有機物の粉体を混合したものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の超音波探触子 第2 刊行物発明 1 刊行物1の発明 当審が取消理由通知において示した刊行物である特開平4-6999号公報(以下「刊行物1」という。)には、超音波プローブの製造方法に関連して、次に掲げる(1)ないし(6)の事項からなる発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されている。 (1) 従来から、無機材料によって形成された柱状圧電体の周囲を有機材料で覆った構造の複合圧電体が開発されている。(1頁右下欄下から3行ないし末行) (2) 第2図は、このような複合圧電体の一例を示している。同図において、21は圧電セラミックス等無機材料によって形成された柱状圧電体、22は該柱状圧電体21を取り巻く有機材料である。(2頁左上欄6行ないし9行) (3) 各素子間の電気的および音響的分離状態をさらに向上させるため、前記第5工程で充填される音響カップリングの低い材料として、前記第2工程で充填される有機材料とは異種の柔軟な材料を用いてもよい。(3頁左上欄2行ないし6行) (4) 間隙2にエポキシ樹脂等の有機材料3を充填し、該表裏両面共に研磨によって厚みの調整を行い、半完成状態の複合圧電体4を形成する(同図B図示)。(3頁右上欄12行ないし15行) (5) 生じた間隙に音響カップリングの低い材料9を充填させる(同図E図示)。ここで該材料9は、前記複合体4を構成している有機材料3よりも柔軟な有機材料を充填することが望ましい。(3頁左下欄11行ないし15行) (6) 本発明は複合圧電体を応用した超音波プローブ(主としてアレイ型超音波プローブ)において、隣接する素子間の電気的および音響的分離状態を容易に実現する上で極めて顕著な効果を奏するものである。(3頁左上欄11行ないし15行) 2 刊行物2の発明 同じく、当審が取消理由通知において示した刊行物である特開昭61-184100号公報(以下「刊行物2」という。)には、次に掲げる(1)ないし(3)の事項からなる超音波探触子(以下「刊行物2の発明」という。)が記載されている。 (1) 音響的クロストークを防止するため、圧電振動子101の間隙に充填する材料の望ましい特性は、(1)圧電振動子の音響インピーダンスとの差が大きいこと、即ち音響インピーダンス値が小さいことと、(2)音波減衰係数が大きいことである(2頁右上欄下から3行ないし同頁左下欄3行) (2) 圧電振動子1の間隙に充填する充填材3はゴム材に金属粉または絶縁粉等の粉体とマイクロバルーンの2種類を混合したものを用いる。例えば、ゴム材にシリコンゴムを使用し、タングステン粉とプラスチックマイクロバルーンを母材のシリコンゴムに対して重量比でそれぞれ200%と1.5%、混合して充填材3を製作した場合、音響インピーダンスは1.06×105g/cm2・Sで、音波減衰係数は3MHzで約40dB/mmとなる。(3頁右上欄7行ないし15行) (3) 充填材3の母材にシリコンゴムを用いた場合について述べたが、この他、ウレタンゴム、ブチルゴム、ネオプレンゴムまたは合成樹脂のエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができることはそれらの特性から明らかである。(3頁右下欄下から6行ないし末行) 第3 刊行物発明と本件発明との対比・検討 1 刊行物1の発明と本件第1の発明との対比・検討 (1) 刊行物1の発明と本件第1の発明との対比 刊行物1の発明は、超音波プローブの製造方法に関するものであるが、この超音波プローブは、複合圧電体を応用したアレイ型超音波プローブに関するものともいえるから(刊行物1の(6)を参照)、この超音波プローブは、本件第1の発明の超音波探触子に一応対応する。 したがって、刊行物1の発明と本件第1の発明とを対比すると、次に掲げるアないしウの事項が相当する。 ア 刊行物1の発明における「有機材料(3)」は、エポキシ樹脂であるから、本件第1の発明における「有機高分子」に相当する。 イ 刊行物1の発明の「各素子」は、その間が音響的に分離されるから、本件第1の発明における「複数の圧電体素子」に相当する。 ウ 刊行物1の発明の「各素子」は、その間が電気的に分離されるから、「各素子」には、電極が設けられている。したがって、この電極は、本件第1の発明における「アレイ電極」に相当する。 (2) 本件第1の発明と刊行物1の発明との一致点・相違点 上記対比から、本件第1の発明と刊行物1の発明とは、 「有機高分子を介して連結された複数の圧電体素子からなる複合圧電体と、この複合圧電体の一方の面上に互いに間隙を保って複数個配列されたアレイ電極とを備え、上記アレイ電極の間隙部にあたる上記複合圧電体の部分に充填材を充填したことを特徴とする超音波探触子」で一致し、次に掲げるアの点で相違する。 ア 上記「充填材」が、本件第1の発明においては「有機高分子より音波減衰係数が大きい」のに対して、刊行物1の発明においては、音波減衰係数の大小について明記されていない点 (3) 相違点についての検討 ア 相違点アについての検討 刊行物1の発明においては、音響カップリングの低い材料9は、複合体4を構成している有機材料3よりも柔軟な有機材料をが望ましいく(刊行物1の(5)を参照)、この柔軟な有機材料は、各素子間の電気的および音響的分離状態をさらに向上させるためであるから(刊行物1の(3)を参照)、柔軟ではない有機材料9と複合体4を構成している有機材料3との電気的および音響的分離状態が一般的に同じ程度であるとすると、この状態をさらに向上させるのであるから、柔軟な有機材料9は、複合体4を構成している有機材料3よりも電気的および音響的分離状態を向上しているといえる。 したがって、刊行物1の発明において、柔軟な有機材料9の音響的分離状態(音波減衰係数)を複合体4を構成している有機材料3より向上(大きく)させることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。 よって、「充填材」を「有機高分子より音波減衰係数が大きい」とするこは、刊行物1の発明に基いて、当業者であれば、適宜なし得ることであるから、本件第1の発明は特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。 以上、本件第1の発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 2 刊行物1の発明と本件第2の発明との対比・検討 本件第2の発明と刊行物1の発明とを対比・検討すると、本件第2の発明は、本件第1の発明を引用する発明であって、本件第1の発明における「充填材」を限定したものである。 しかし、刊行物2の発明は、「充填材」に関して、音響的クロストークを防止するために、有機高分子(エポキシ樹脂)にマイクロバルーンと無機物の粉体(金属粉)を混合するものであるから、刊行物1の発明における「充填材」の音響的分離状態を向上させるために、刊行物2の発明を適用することは、当業者であれば、容易になし得ることである。 したがって、本件第2の発明は、刊行物1の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。 以上、本件第2の発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 3 刊行物1の発明と本件第3の発明との対比・検討 本件第3の発明と刊行物1の発明とを対比・検討すると、本件第3の発明は、本件第1の発明を引用する発明であって、本件第1の発明における「充填材」を限定したものである。 しかし、刊行物2の発明は、「充填材」に関して、音響的クロストークを防止するために、有機高分子(エポキシ樹脂)にマイクロバルーンと有機物の粉体(絶縁粉)を混合するものであるから、刊行物1の発明における「充填材」の音響的分離状態を向上させるために、刊行物2の発明を適用することは、当業者であれば、容易になし得ることである。 したがって、本件第3の発明は、刊行物1の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。 以上、本件第3の発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 第4 特許権者の主張 特許権者は、刊行物1には、本件発明における「有機高分子より音波減衰係数の大きい充填材」に相当する構成は記載されてなく、本件発明は、この構成によって「アレイ電極間における音響的クロストークを低減でき、方位方向の分解能が高い超音波画像を得ることができる。」という効果を有するから、当業者が容易に発明できたものではないと主張している。 しかし、上記相違点で検討したように、刊行物1には「有機高分子より音波減衰係数の大きい充填材」を示唆する記載がなされ(刊行物1の(3)を参照)、本件発明は刊行物1の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、刊行物1の発明は「電極間における音響的クロストークを低減するもの」でもあるから、「分解能が高い超音波画像を得ることができる。」ことは、明らかといえる。 したがって、特許権者の主張を採用することができない。 第5 むすび 以上、本件第1ないし3の発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-08-16 |
出願番号 | 特願平4-156357 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(H04R)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 松澤 福三郎 |
特許庁審判長 |
谷川 洋 |
特許庁審判官 |
橋本 恵一 山本 章裕 |
登録日 | 2001-07-13 |
登録番号 | 特許第3208845号(P3208845) |
権利者 | 松下電器産業株式会社 |
発明の名称 | 超音波探触子 |
代理人 | 坂口 智康 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 岩橋 文雄 |