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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない H01L
管理番号 1068195
審判番号 無効2001-35206  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-05-14 
確定日 2002-09-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3028660号発明「ダイヤモンドヒートシンクの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3028660号の請求項1〜6に係る発明は、平成3年10月21日に特許出願され、平成12年2月4日にそれら発明に係る特許権の設定の登録がなされた。
そして、平成13年5月14日付けで前記請求項1〜6に係る特許を無効とすることについての審判が請求され、被請求人より平成13年9月25日付けで訂正請求書と答弁書が提出され、平成14年3月8日付けで請求人から弁ぱく書が提出された。

2.訂正請求について
2-1.訂正事項
(あ)特許請求の範囲の請求項1の記載を、「【請求項1】気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理か施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒ一トシンクの製造方法。」と訂正する。
(い)特許明細書の段落番号【0011】の記載を、「【課題を解決するための手段、発明の作用効果】 この発明に従ったダイヤモンドヒートシンクの製造方法によれば、気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンクの製造方法に関するものである。この方法によれば、ダイヤモンドの多結晶体を溝に沿って一挙に分割することが可能となる。よって、加工は容易となり、加工に要する時間も短くて済む。また切りしろは、溝を形成した分しか生じないため。歩留まりが高くなる。以上のように、加工時間の短縮及び歩留まりの向上などによって加工コストは低減する。電気抵抗値は、一般に、半導体レーザに必要な絶縁抵抗値であり、これ以下の抵抗値になると半導体レーザの特性が低下する。」と訂正する。
(う)特許明細書の段落番号【0017】の記載を、「なお、気相合成法により合成されたダイヤモンドの多結晶体は、室温から200℃までの温度範囲において、熱伝導率が5W/cm・K以上であることが望ましい。また、ダイヤモンドの多結晶体の粒径は、50μm以下と規定する。これは、ダイヤモンドの多結晶体を分割したときに、欠損が生じにくい粒径の範囲である。」と訂正する。

2-2.訂正の適否
訂正事項(あ)は、請求項1における「気相合成法により合成されたダイヤモンド多結晶体」という記載を、「気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体」と訂正したものであるところ、当該訂正は、特許明細書の段落番号【0017】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載されていたダイヤモンド多結晶体を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に係るものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
訂正事項(い)、(う)は、訂正事項(あ)と整合させるべく訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に係り、訂正事項(あ)と同様の理由で、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
したがって、訂正事項(あ)〜(う)に係る訂正は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項ただし書、および同条第5項で準用する同法第126条第2項の規定に適合するものであり、適法なものと認める。

3.本件発明
本件の請求項1〜6に係る発明は、平成13年9月25日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものと認める。
請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。):
気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒ一トシンクの製造方法。
請求項2に係る発明(以下、本件発明2という。):
前記レーザは、YAGレーザである請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
請求項3に係る発明(以下、本件発明3という。):
前記分割された多結晶体の縁部の欠損部の大きさは50μm以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
請求項4に係る発明(以下、本件発明4という。):
前記溝の底部からそれに対向する前記多結晶体の表面までの距離は0.03mm以上0.3mm以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
請求項5に係る発明(以下、本件発明5という。):
前記気相合成法により合成されたダイヤモンドの比抵抗が109Ω・cm以上である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
請求項6に係る発明(以下、本件発明6という。):
前記気相合成法により合成されたダイヤモンドの熱伝導率が5W/cm・K以上20W/cm・K以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。

4.請求人の主張
(4-1)請求の趣旨
本件無効審判の請求の趣旨は、『「特許第3028660号の請求項1〜6に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。』というにある。

(4-2)証拠方法
甲第1号証:EP-A1 0391418
甲第2号証:米国特許第3112850号明細書
甲第3号証:米国特許第4248369号明細書
甲第4号証:第2回国際会議会報、ダイヤモンドの新しい科学と技術(Proceedings of the Second International Conference,New Diamond Science and Technology)1990年9月23〜27日(ワシントン,DC),p.893〜897,「ダイオード アレイ用の気相成長ダイヤモンドヒートシンクの製造(THE PREPARATION OF VAPOR GROWN DIAMOND HEAT SINKS FOR DIODE ARRAYS)」
甲第5号証:「材料及び製造方法(Materials & Manufacturing Processes)」6(2)、p.241〜256(1991)、「DCプラズマジェットCVDによるダイヤモンド合成(DIAMOND SYNTHESIS BY DC PLAZMA JET CVD)」
甲第7号証:EP-A1 0449571
甲第8号証:「新しいダイヤモンドの科学と技術(Science and Technology of New Diamond)」、39〜41頁(1990年)、「多結晶ダイヤモンドフィルムの伝導性 (CONDUCTIVITY OF POLYCRYSTALLINE DIAMOND FILMS)」

(4-3)請求の理由
(4-3-1)本件発明1〜6は、甲第1号証を主とし他の甲第2〜8号証を従として、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないものである、
(4-3-2)本件発明1〜6は、甲第2号証を主とし甲第1号証及び甲第3〜8号証を従として、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないものである、
(4-3-3)本件発明1〜6は、甲第3号証を主とし甲第1〜2号証及び甲第4〜8号証を従として、甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができないものである、
との理由で、本件発明1〜6に係る特許は無効とされるべきものである。

5.証拠方法の記載事項
甲第1号証:
「実施例5」(8頁下から2行)、
「実験例23:天然ダイヤモンドの表面に他の鋭利なダイヤモンドで傷をつけ、その傷にくさびを押し込む。」(9頁30〜33行参照)、
「実験例24:天然ダイヤモンドを実験例21で用いたブレードを使って天然ダイヤモンドに溝を付けた後、実験例23と同様の方法により天然ダイヤモンドを劈開する。」(9頁38〜42行参照)、
「この発明の4つの方法」(9頁45行)、
「実験例25: Y軸に平行な(111)平面を有する天然のダイヤモンドを、×一Yテーブル上にセットした。天然ダイヤモンドの表面に5ワットのYAGレーザーで溝を形成した。・・・。溝はレーザービームの入り口で0.08mm幅であり、0.3mmの深さ及びV型を有している。リード角20°を有する鋼製のウェッジをハンマーで前記溝に入れ、前記天然ダイヤモンドを劈開した。劈開面は、実験23及び24で得られる平面よりももっとフラット(平滑)であった。」(9頁48〜55行参照))、
「実験例28: ヘキサ-オクタヘドロンの形状を有する1.0カラットサイズの合成ダイヤモンドを実験例25の天然ダイヤモンドの代りに用いた。他のプロセスは実験例25と同じにした。」(10頁14〜17行)、
本件方法により、分割面が平滑な製品を、短時間で、収率よく、大量に製造できること(11頁表5の実施例25、28、及び、13頁表6の実施例33,36参照)、
「実施例6 実施例5と同様の方法を用いて、・・・ダイヤモンドは0.5mm厚みのプレートに分割した。結果を表6に示す。・・・(3)ヒートシンク 前記プレートの上面及び下面を研磨し、レーザーで矩形に切断した。次に表面を金属化した。ヒートシンクが得られた。」(12頁1〜20行)
「ワイヤ一引き抜きダイス,ドレッサー,ヒートシンク用の・・・ダイヤモンドであって、該ダイヤモンドの少なくとも1つの平面が(111)の劈開平面である・・・合成単結晶ダイヤモンドからなるもの。」(14頁クレーム1参照)。

甲第2号証:
「ミクロな半導体装置を半導体スラブから製造する方法であって、高エネルギービームで半導体スラブに刻みつけし、その後、超音波振動等により半導体スラブを刻みつけたパターンに沿って分割する方法。」(4欄40〜54行参照))、
「従来技術では、半導体ウエハのダイシングは、当初、薄いダイヤモンド鋸又はダイヤモンド粒子をつけた切削ウィールで行なわれた。」(1欄40〜43行)、
「ゲイツの特許で例示される技術は、比較的時間を浪費するものであり、且つ、結晶材料の破砕のために非常に収量が悪くコスト高の方法である。」(第1欄45〜48行)、
「刻み付けの工程はレーザーのような如何なる装置でも可能であるが、電子線ビームが最も有利な手段であることがわかった。」(2欄44〜47行参照)、
「私の発明は、ノッチ感受性のいかなる材料をも、規則的であれ、不規則的であれ、所望の形状に切断又は成形するのに適用できる。すなわち、刻みをつけられた時に、荷重下に可塑性の流れを示さず脆く割れる性質があって鋭い明確な界面を生じる、アルミナ、ベリリウム、サーメットのような材料、及びタングステン、モリブデンのような金属は、本発明によって、所望の形状に成形される。」(4欄25〜33行)。

甲第3号証:
「これまで、セラミックス材料の切断は、比較的高価で寿命が限られた湿式ダイヤモンド鋸を使用して行なわれている。」(1欄52〜53行)、
「この発明の一般的な目的は、より速く、より簡便なセラミックスの切断方法を提供することにある。さらには、速く、容易で、労力を要しない、光搬送多結晶アルミナチューブの切断方法を見出すことである。」(1欄61〜65行)、
「空間をおいた一連の複数の場所に、パルスレーザービームをあてることによって、材料に一連のきれいな浅い孔をあけ、時間をおいて、同じ場所に繰り返しビームをあてて孔を深くし、その孔により規定される弱い線に沿って該材料を破壊すること、からなるセラミックス材料の切断方法。」(4欄24〜33行のクレーム1)、
「セラミック材料が多結晶アルミナであるクレーム1の方法。」(4欄40〜41行のクレーム3)、
「レーザービームは、同じ孔を各々の回転数で透過し、透過を繰り返すことによって孔は熱のショックを生じることなく、所望の深さまで深くすることができる。刻みを付されたチューブは孔の平面に沿って折られ、きれいに割られる。」(2欄28〜33行)、
「・・・レーザーで刻みを付されたチューブを折るのに必要な力を比較した。・・・切断された孔を顕微鏡で観察すると、最も大きな力を要するチューブの孔は、非常に小さく、相互に近接し、壁の中に余り深く貫通していないものであることが分かった。このようなチューブを2つ折ると、ギザギザのまたは割れたようなエッジがしばしば発生し、これは、疑いもなく、より大きな力と折るときのクラック伝搬距離がより長いことに起因するものである。・・・容易に折ることのできるチューブは、より少なく、より大きく、より深い孔を持っており、これは、本発明のレーザー刻みによって、常に実質的に達成される。2つに折られたチューブは、きれいなエッジを有し、ランプ製造におけるセラミックプラグでのシールに何の問題も生じない。」(3欄50行〜4欄11行参照)。

甲第4号証:
「レーザーダイオードアレイ用の気相成長ダイヤモンドヒートシンクの製造」(893頁のタイトル)、
「多結晶ダイヤモンドフィルムは・・・CVD法により作成された。その後、当該フィルムは・・・の小片に分割された。そのダイヤモンド小片の表面をTi、Pt、Au金属層で被覆し、アニーリングし、ダイヤモンド表面の金属化処理を行い、ダイヤモンドヒートシンクを用意した。」(893頁のアブストラクトの1〜6行参照)、
「気相合成ダイヤモンドフィルムの熱伝導性は11W/(K・cm)を超える。」(894頁8〜9行)。

甲第5号証:
「厚いダイヤモンドフィルムをレーザーダイオードのヒートシンクに適用した。dcプラズマジェットCVDにより製造されたlmm厚のフィルムを、YAGレーザーを用いて2.5×2.5×0.5mm3のチップに切断した。表面を研磨し、スパッタリングで表面にTi、Pt及びAuの薄いフィルムを金属化処理した。」(252頁20〜23行)、
「実験により、dcプラズマジェットCVDにより製造されたダイヤモンドは、ヒートシンクとして十分な熱的性質を有しており大量の熱を放出するLSI基板の配線板に使用し得ることが確認された。」(252頁30〜32行)。

甲第6号証:
「図20.3. 矩形ダイヤモンドヒートシンク及び球状ダイヤモンドヒートシンクに関するGunnダイオードの概略図」(634頁)、
「図20.3に示されるボンディング層は、通常、異なる金属のサンドウィッチである。例えば、・・・Swanはダイヤモンドを30nmのチタン層と75nmの白金層と1μmの金層で被覆した。」(633頁9〜12行参照)。

甲第7号証:
「多結晶ダイヤモンドツールとその製造方法」(1頁のタイトル)、
「・・・ツール本体とダイヤモンド板との間の濡れ性を改良するために、ダイヤモンド板の一方の表面を金属の蒸着被覆により金属化する。次いで、タイヤモンド板は、YAGレーザーにより、ツールエッジに適した所定サイズの幾つかのダイヤモンドチップに分割される。」(8頁29〜32行)。

甲第8号証:
「多結晶ダイヤモンドフィルムの電導性」(39頁のタイトル)、
「高オーム(1012〜1013Ωcm)ダイヤモンドフィルムの分解電圧は106V/cmを越える。」(39頁右下欄13〜14行)。

6.請求人の主張の検討
(6-1)本件発明1について:
(6-1-1)理由(4-3-1)について:
甲第1号証には、前記した記載内容からみて、次のとおりの発明(以下、甲第1号証発明という。)が記載されていると認める。
単結晶ダイヤモンドの表面にYAGレーザーで溝を形成し、その溝にウェッジを挿入して前記単結晶を劈開することにより単結晶ダイヤモンドのプレートを製造し、当該プレートの上下面を研磨して、レーザーで矩形に切断し、さらに、表面を金属化して、ヒートシンクとするという発明。
そこで、本件発明1と甲第1号証発明を比較すると、
甲第1号証発明における「ダイヤモンドの表面にYAGレーザーで溝を形成し」、「その溝にウェッジを挿入して劈開する」、「ヒートシンクとする」は、それぞれ、本件発明1の「ダイヤモンドを準備した後、表面にレーザを用いて溝を形成する」、「前記溝に沿って、圧力を加えて機械的に分割し、」、「ダイヤモンドヒ一トシンクの製造方法。」に相当するから、
両者は、「ダイヤモンドを準備した後、その表面にレーザを用いて溝を形成し、その溝に沿ってダイヤモンドに圧力を加えて機械的に分割するダイヤモンドヒ一トシンクの製造方法。」の点で共通し、次の点で相違する。
(あ)ダイヤモンドに関して、本件発明1が、『気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体」としているのに対し、甲第1号証発明は「単結晶ダイヤモンド」としている点、
(い)本件発明1が「レーザーを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、・・・分割し」としているのに対して、甲第1号証発明は「レーザを用いて溝を形成し、・・・ダイヤモンドを分割し、その後に表面を金属化する」としている点、
(う)本件発明1が「前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上である」としているのに対し、甲第1号証発明はその点の明示がない点。
そこで、上記相違点について検討する。
相違点(あ)について:
甲第1号証発明における溝付けによる分割の技術は、「溝を形成し、その溝にウェッジを挿入して前記単結晶を劈開する」とされ、単結晶ダイヤモンドの劈開性を利用するというものであるから、当業者が当該技術が適用できる材料として想起するのは単結晶ダイヤモンドのような劈開性を有する材料であると考えられるところ、ダイヤモンド多結晶体は単結晶ダイヤモンドのような劈開性を有さないものとして周知であり、甲第1号証発明における単結晶ダイヤモンドが、ダイヤモンド多結晶体の代替使用を示唆しているとすることはできない。
また、甲第2〜8号証には、劈開性について記載するところはなく、ダイヤモンド多結晶体が単結晶ダイヤモンドのような劈開性を示すとの記載も、溝付けによる分割の技術において、ダイヤモンド多結晶体が、単結晶ダイヤモンドに代えて使用できるとする記載もない。
さらに、本件発明1におけるダイヤモンド多結晶体は、多結晶体であるという限定に加えて、その粒径が50μm以下であるという限定をも有するものであり、それにより、粒界に沿っての分割において欠損が生じにくいという効果(特許明細書の段落番号【0017】および【0020】参照)をも奏するものである。
してみれば、甲第2〜8号証を参照しても、甲第1号証発明における単結晶ダイヤモンドに代えて、ダイヤモンド多結晶体を使用すること、すなわち、相違点(あ)に係る本件発明1の構成を採用することに想到することが当業者にとって容易なことであるとすることはできない。
そして、本件発明1は、前記構成を採用することにより、特許明細書に記載されたとおりの、加工が容易で、歩留まりがよく、量産性のよいダイヤモンドヒートシンクの製造方法を提供できるという効果を奏したものである。
してみると、相違点(い)、(う)について検討するまでもなく、本件発明1の構成を、甲第1号証発明を主とし、他の甲第2〜8号証に記載された発明を従として、当業者が容易に想到できたものであるとすることはできない。

(6-1-2)理由(4-3-2)について:
甲第2号証には、前記した記載内容からみて、溝がつけられた時に荷重下に脆く割れ、きれいな界面を生じる性質を示すとされるアルミナ、ベリリウム、サーメットのような材料、及びタングステン、モリブデンのような材料に、レーザーで溝を形成し、その後、超音波振動等で溝に沿って分割する半導体装置の製造方法の発明(以下、甲第2号証発明という。)が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第2号証発明とを比較すると、
両者は、「材料を準備した後、前記材料の表面にレーザを用いて溝を形成し、前記溝に沿って、前記材料に圧力を加えて機械的に分割し、製品を製造する」点で共通し、次の点で相違する。
(え)前記材料を、本件発明1が、「 気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体」としているのに対し、甲第2号証発明は、「溝がつけられた時に荷重下に脆く割れ、きれいな界面を生じる性質を示すとされるアルミナ、ベリリウム、サーメットのような材料、及びタングステン、モリブデンのような材料」としている点。
(お)本件発明1が「レーザーを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、・・・分割し」としているのに対して、甲第2号証発明は「レーザを用いて溝を形成し、・・・分割し」としている点、
(か)本件発明1が「前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上である」としているのに対し、甲第2号証発明はその点の明示がない点。
(き)本件発明1が、製品を、「ヒ一トシンク」としているのに対し、甲第2号証発明は「半導体装置」としている点。
そこで、相違点について検討する。
相違点(え)について:
甲第2号証には、分割する材料について、「溝がつけられた時に荷重下に脆く割れ、きれいな界面を生じる性質を示すとされるアルミナ、ベリリウム、サーメットのような材料、及びタングステン、モリブデンのような材料のような材料」と記載され、当該材料にダイヤモンド多結晶体が含まれるとの記載はなく、また、ダイヤモンド多結晶体が前記性質を示す材料として一般に知られ当該材料として容易に想起されるわけでもないから、甲第2号証が、その発明における溝を付けて分割する材料として、ダイヤモンド多結晶体を用いることを示唆しているとすることはできない。
甲第1号証には、前記したように、ダイヤモンド多結晶体について記載も示唆もなく、甲第3号証には、分割する材料として「多結晶アルミナ等のセラミックス」を用いるとの記載はあるが、ダイヤモンド多結晶体を用いるとの記載はなく、その分割方法も溝を付けて分割するものでないから、甲第3号証の記載が溝を付けて分割する材料としてダイヤモンド多結晶体を用いることを示唆しているとすることはできない。
また、甲第4〜8号証には、ダイヤモンド多結晶体についての記載はあるものの、溝を付けて分割することについては記載も示唆もないから、その記載が溝を付けて分割する材料としてダイヤモンド多結晶体を用いることを示唆しているとすることはできない。
そして、本件発明1におけるダイヤモンド多結晶体は、多結晶体であるという限定に加えて、その粒径が50μm以下であるという限定をも有するものであり、それにより、(あ)の相違点についての検討で示したとおりの効果を奏するものである。
してみると、甲第1,3〜8号証の記載を参照しても、甲第2号証発明において、溝を付けて分割する材料として、本件発明1のようなダイヤモンド多結晶体を想起すること、すなわち、相違点(え)に係る本件発明1の構成を想起することが、当業者に容易なことであるとすることはできない。

相違点(き)について:
甲第2号証には、「ヒ一トシンク」について記載がなく、「溝がつけられた時に荷重下に脆く割れ、きれいな界面を生じる性質を示すとされるアルミナ、ベリリウム、サーメットのような材料、及びタングステン、モリブデンのような材料」および「半導体装置」という材料および用途の記載が「ヒートシンク」という用途を示唆しているとすることはできない。
甲第1号証および甲第4〜6号証には、単結晶ダイヤモンドやダイヤモンド多結晶体をヒートシンクに用いることが記載されているものの、前記したように、甲第2号証は、その発明に用いる材料として単結晶ダイヤモンドやダイヤモンド多結晶体を用いるものでないから、甲第1号証および甲第4〜6号証の記載が、甲第2号証発明をヒートシンクの製造に用いることを示唆しているとすることはできず、他方、甲第3,7,8号証には、「ヒートシンク」について記載も示唆もない。
したがって、甲第1、3〜8号証を参照しても、甲第2号証発明をヒートシンクの製造に適用することに想到すること、すなわち、相違点(き)に係る本件発明1の構成に想到することが、当業者に容易なことであるとすることはできない。

そして、本件発明1は、前記構成を採用することにより、特許明細書に記載されたとおりの前記した効果を奏したものである。

してみれば、相違点(お)、(か)について検討するまでもなく、本件発明1の構成が、甲第2号証発明を主とし、他の甲第1,3〜8号証に記載された発明を従として、当業者が容易に想到できたものであるとすることはできない。
(6-1-3)理由(4-3-3)について:
甲第3号証には、多結晶アルミナ等のセラミックスの一連の複数の場所に孔をあけ、その孔で規定される弱い線に沿ってセラミックスを折り、セラミックス材料を切断し、光搬送多結晶アルミナチューブ等の製品を製造する方法の発明(以下、甲第3号証発明という。)が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第3号証発明とを比較すると、両者は、「材料を準備した後、前記材料の表面に加工を施し、その加工部に沿って前記材料に圧力を加えて機械的に分割し、製品を製造する」点で共通し、次の点で相違する。
(く)前記材料を、本件発明1が、「 気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体」としているのに対し、甲第3号証発明は、「多結晶アルミナ等のセラミックス」としている点。
(け)材料表面の加工方法について、本件発明1が、「レーザを用いて溝を形成」としているのに対し、甲第3号証発明は「一連の複数の場所に孔をあけ」としている点。
(こ)本件発明1が「少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、・・・分割し」としているのに対して、甲第3号証発明は、金属化処理することなく分割している点、
(さ)本件発明1が「前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上である」としているのに対し、甲第3号証発明はその点の明示がない点。
(し)製品を、本件発明1が、「ダイヤモンドヒ一トシンク」としているのに対し、甲第3号証発明は「光搬送多結晶アルミナチューブ等の製品」としている点。
そこで、相違点について検討する。
相違点(く)、(け)について:
甲第3号証発明における「多結晶アルミナ等のセラミックス」は「一連の複数の場所に孔をあけ」て分割する材料であり、「一連の複数の場所に孔をあけて分割する」は「溝を形成して分割する」と異なる分割方法であるうえに、甲第3号証には、前記材料としてダイヤモンド多結晶体を用いることを示唆する記載もないのであるから、甲第3号証が、本件発明1のように、溝を付けて分割する材料としてダイヤモンド多結晶体を用いること、すなわち、相違点(く)、(け)に係る本件発明1の構成を示唆しているとすることはできない。
また、甲第1,2,4〜8号証を参照しても、溝を付けて分割する材料としてダイヤモンド多結晶体を用いることが示唆されるとすることができないことは、前記したとおりである。
したがって、甲第3号証に甲第1,2,4〜8号証を併せても、甲第3号証発明において相違点(く)、(け)に係る本件発明1の構成を採用することが当業者に容易であったとすることはできない。

そして、本件発明1は、前記構成を採用することにより、特許明細書に記載されたとおりの前記した効果を奏したものである。

してみれば、相違点(こ)、(さ)、(し)について検討するまでもなく、本件発明1が、甲第3号証発明を主とし、他の甲第1,2,4〜8号証に記載された発明を従として、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(6-1-4)まとめ
したがって、本件発明1は、理由(4-3-1)〜(4-3-3)を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(6-2)本件発明2〜6について:
本件発明2〜6は、いずれも、本件発明1を実質的に引用するものであり、その構成として、前記相違点(あ)〜(し)に係る本件発明1の構成を有するものであるところ、本件発明1の前記構成が当業者に容易に想到され得たものであるとできないことは、本件発明1について前記したとおりであるから、本件発明2〜6は、本件発明1に対すると同様の理由によって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

なお、請求人は、弁ぱく書において、(a)本件発明1〜6の「粒径50μm以下」という限定における「粒径」の意味が不明である、(b)実施例における粒径は50μmを越えると解される、旨を主張している。
しかし、(a)については、特許明細書の段落番号【0013】に「分割された多結晶体の縁部の欠損部の大きさは、50μm以下である。一般に、レーザ素子などをろう付けするとき、縁部が位置決めの基準になる。このため、縁部において、大きな欠損を生じると位置決めが困難となる。」と記載され、段落番号【0017】に、「ダイヤモンドの多結晶体の粒径は、50μm以下と規定する。これは、ダイヤモンドの多結晶体を分割したときに、欠損が生じにくい粒径の範囲である。」と記載され、粒径が欠損部の大きさを規定する旨が記載されていることからみて、本件発明1〜6における「粒径」が、最大粒径を示すものであることは明らかである(請求人も弁ぱく書2頁21〜22行で「粒径は最大粒径をさすのかもしれないが」と予測している。)。
また、(b)については、実施例は、通常、最良と思う実施の形態を具体的に記載するものであるから、実施例に粒径が記載されていないことを根拠にして、その粒径が本件発明1〜6で採用しない「50μmを越える」ものであるとすることはできない。
したがって、請求人の粒径に対する(a),(b)の主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張および証拠方法によっては、本件発明1〜6に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ダイヤモンドヒートシンクの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、
前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、
少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、
前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、
前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【請求項2】 前記レーザは、YAGレーザである請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【請求項3】 前記分割された多結晶体の縁部の欠損部の大きさは50μm以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【請求項4】 前記溝の底部からそれに対向する前記多結晶体の表面までの距離は0.03mm以上0.3mm以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【請求項5】 前記気相合成法により合成されたダイヤモンドの比抵抗が109Ω・cm以上である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【請求項6】 前記気相合成法により合成されたダイヤモンドの熱伝導率が5W/cm・K以上20W/cm・K以下である、請求項1に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、気相合成法により合成されたダイヤモンドの表面に金属化処理を施したダイヤモンドヒートシンクの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヒートシンク(放熱器)は、半導体レーザダイオード,LED(発光ダイオード),半導体高周波素子などのデバイスの動作時に発生する熱を効率よく放散させるために用いられる。このヒートシンクは、使用するデバイスの発熱量により、その材料が選択される。各ヒートシンク材料の特性を表1に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
表1に示されるように、ダイヤモンドは、熱伝導率が高い。このため、発熱量の多いデバイス、たとえば、高出力半導体レーザ(通信用,光メモリ溶離,固体レーザ励起用など)には、その放熱部材として、ダイヤモンドのヒートシンクが用いられている。現状では、このダイヤモンドヒートシンクには、天然もしくは合成の単結晶ダイヤモンドが主に使用されている。
【0005】
図6は、従来のダイヤモンドヒートシンクの製造方法を順に示す工程図である。図6を参照して、高圧合成法などにより単結晶ダイヤモンドが製造される(ステップ601)。まず、第1の製造工程によれば、この単結晶ダイヤモンドが、ダイヤモンドソーによって切断される(ステップ610)。所定の形状に切断されたダイヤモンドは、互いに隙間なく並べられて、金属化処理が施される(ステップ611)。この金属化処理により、ダイヤモンドの上下2面のみに金属化処理が施される。このようにして、第1の製造方法によるダイヤモンドヒートシンクが完成する。
【0006】
次に、第2の製造方法によれば、第1の製造方法と同様に単結晶ダイヤモンドが、ダイヤモンドソーによって切断される(ステップ610)。切断されたダイヤモンドは、最終形状に加工される。最終形状に加工されたダイヤモンドは、全面に金属化処理が施される(ステップ612)。表面全面に金属化処理が施されたダイヤモンドの側面はダイヤモンド砥石で研削される(ステップ613)。この研削によって、ダイヤモンド表面の上下2面のみに金属化膜が残される。このようにして、第2の製造方法によるダイヤモンドヒートシンクが完成する。
【0007】
第3の製造方法によれば、単結晶ダイヤモンドは、切断される前に金属化処理が施される(ステップ620)。金属化処理が施された単結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンドソーによって切断され、最終形状に加工される(ステップ621)。このようにして、第3の製造方法によるダイヤモンドヒートシンクが完成する。
【0008】
上記のように、従来のダイヤモンドヒートシンクは製造される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、単結晶ダイヤモンドが、ダイヤモンドソーによって切断される。このため、精度よくダイヤモンドを切断することができず、切断速度も遅い。よって、加工が難しい。また、切断による切りしろ,研削による削りしろなどが多く生じる。よって、ダイヤモンドの歩留が悪くなる。したがって、従来の製造方法では、ダイヤモンドヒートシンクが容易に製造できず、また、量産性に欠けるなどの問題点があった。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、加工が容易で、歩留がよく、かつ量産性のよいダイヤモンドヒートシンクの製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段、発明の作用効果】
この発明に従ったダイヤモンドヒートシンクの製造方法によれば、気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンクの製造方法に関するものである。この方法によれば、ダイヤモンドの多結晶体を溝に沿って一挙に分割することが可能となる。よって、加工は容易となり、加工に要する時間も短くて済む。また切りしろは、溝を形成した分しか生じないため。歩留まりが高くなる。以上のように、加工時間の短縮及び歩留まりの向上などによって加工コストは低減する。電気抵抗値は、一般に、半導体レーザに必要な絶縁抵抗値であり、これ以下の抵抗値になると半導体レーザの特性が低下する。
【0012】
請求項2に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、用いるレーザが、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザを用いて行われる。このように、YAGレーザを用いるため、精度良く、また、効率よく加工することが出来る。
【0013】
請求項3に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、分割された多結晶体の縁部の欠損部の大きさは、50μm以下である。一般に、レーザ素子などをろう付けするとき、縁部が位置決めの基準になる。このため、縁部において、大きな欠損が生じると位置決めが困難となる。また、欠損が大きいと、放熱性が低下する。
【0014】
【0015】
請求項4に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、溝の底部からそれに対向する多結晶体の表面までの距離は、0.03mm以上、0.3mm以下である。また、請求項5に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、気相合成法により合成されたダイヤモンドの比抵抗は109Ω・cm以上である。これらは、請求項1に記載の絶縁性を確保するために、少なくとも必要なヒートシンクの厚みおよびダイヤモンドの比抵抗である。なお、この厚みが大きくなると、ダイヤモンドを分割する際に、欠損が生じやすくなる。また、溝入れ加工は多結晶の上下両面から対向して行なってもよい。この場合も対向する溝の底部間の距離は0.03mm以上0.3mm以下であるのが望ましい。
【0016】
請求項6に記載のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、気相合成法により合成されたダイヤモンドの熱伝導率は5W/cm・K以上20W/cm・K以下である。単結晶ダイヤモンドの製造装置の制約によって、ダイヤモンドの熱伝導率の上限は20W/cm・Kとなる。また、ヒートシンクとして高性能を示すダイヤモンドを用いるため、熱伝導率の下限は5W/cm・K以上があることが望ましい。
【0017】
なお、気相合成法により合成されたダイヤモンドの多結晶体は、室温から200℃までの温度範囲において、熱伝導率が5W/cm・K以上であることが望ましい。また、ダイヤモンドの多結晶体の粒径は、50μm以下と規定する。これは、ダイヤモンドの多結晶体を分割したときに、欠損が生じにくい粒径の範囲である。
【0018】
さらに、少なくともダイヤモンドの上下2面が金属化処理されていることが好ましい。この金属化処理は、レーザ素子のろう付けおよびヒートシンク自体のステムへのろう付けに必要である。また、金属化処理によってダイヤモンドの表面に形成される金属化膜は、複数層から構成されるのが好ましい。その第1層が、Ti,Cr,W,Niの1種以上によって形成され、その第2層が、Pt,Pd,Ni,Mo,Au,Ag,Cu,Sn,In,Ge,Pbの1種以上(単体膜,合金膜,または多層膜)から形成されていることが好ましい。この第1層の金属は、ダイヤモンドと反応し、接着力を高める役割をなす。また、第2層の金属は、耐熱性およびろう付け性に貢献する役割をなす。
【0019】
完成されたヒートシンクの標準的な寸法範囲は、厚さが0.1mm以上1mm以下であり、縦・横の長さが0.2mm以上50mm以下である。
【0020】
なお、本発明のダイヤモンドヒートシンクの製造方法においては、ダイヤモンドの多結晶体が用いられたが、単結晶体が使用された場合、以下の問題がある。ダイヤモンドの多結晶体の曲げ強度は200kg/mm2である。これに対して、単結晶体の曲げ強度は400kg/mm2であり、多結晶体よりも高い。そのため、単結晶体は割れにくい。したがって、単結晶体を用いた場合、分割加工が難しくなる。また、ダイヤモンドの多結晶体が粒界に沿って破壊するのに対し、単結晶体は(111)面にそって劈開破壊を生ずる。このため、単結晶体の方が、分割の際に亀裂が発生しやすく欠損も大きくなる。よって、歩留が低下する。さらに、ダイヤモンドの多結晶体では、大きな面積の素材が得られるのに対し、単結晶体では、せいぜい5mm×5mm程度である。このため、単結晶体の方が、加工効率が劣る。
【0021】
以上のように、ダイヤモンドの単結晶体では種々の問題が生ずるため、本発明の製造方法においては、ダイヤモンドの多結晶体を用いる。
【0022】
【実施例】
図1は、本発明におけるダイヤモンドヒートシンクの製造方法を概略的に示す工程図である。また、図2は、本発明におけるダイヤモンドヒートシンクの製造方法を工程順に示すダイヤモンド多結晶体の斜視図である。図1,図2を参照して、ダイヤモンドヒートシンクの第1の製造工程について説明する。まず、ダイヤモンド多結晶体は気相法により製造される(ステップ101)。次に、図2(a)を参照して、このダイヤモンド多結晶体201には、金属化処理が施される。この金属化処理により、ダイヤモンド多結晶体201の表面全面に金属化膜が形成される(ステップ102)。図2(b)を参照して、金属化処理が施されたダイヤモンド多結晶体201には、レーザによって溝入れ加工が施される。この溝入れ加工によって、ダイヤモンド多結晶体201の上面には、溝202が縦横に形成される(ステップ103)。図2(c)を参照して、溝入れ加工が施されたダイヤモンド多結晶体201は、溝202に沿って、機械的に分割される。この分割によって、ダイヤモンドヒートシンク203が形成される(ステップ104)。
【0023】
次に、図1,図2を参照して、ダイヤモンドヒートシンクの第2の製造工程について説明する。まず、図2(a)を参照して、ダイヤモンド多結晶体は気相法により製造される(ステップ101)。図2(b)を参照して、このダイヤモンド多結晶体201には、レーザによって溝入れ加工が施される。この溝入れ加工によって、ダイヤモンド多結晶体201の上面に、溝202が縦横に形成される(ステップ112)。この溝入れ加工が施されたダイヤモンド多結晶体201には、金属化処理が施される。この金属化処理によりダイヤモンド多結晶体201の表面全面に金属化膜が形成される(ステップ113)。図2(c)を参照して、金属化処理が施されたダイヤモンド多結晶体201は、溝202に沿って、機械的に分割される。この分割によって、ダイヤモンドヒートシンク203が形成される(ステップ104)。
【0024】
このようにして、本発明のダイヤモンドヒートシンクが完成する。
図3は、マイクロ波プラズマCVD法により合成されたダイヤモンド多結晶体において、レーザ加工条件と加工溝深さの関係の測定結果を示す図である。図3を参照して、レーザ出力が同じ場合、加工溝深さは、加工速度が遅くなるにつれて、またはスキャン回数が多くなるにつれて深くなった。熱フィラメント法により合成されたダイヤモンド多結晶体および高圧合成法により合成されたダイヤモンド単結晶体においても、レーザ加工条件と加工溝深さの関係は図3とほぼ同一であった。
【0025】
次に、本発明の一実施例によるダイヤモンドヒートシンクの製造方法について説明する。まず、ダイヤモンド多結晶体が、マイクロ波プラズマCVD法により合成された。このダイヤモンド多結晶体は、厚さが0.3mm,縦・横が25.4mmの寸法に形成された。この寸法のダイヤモンド多結晶体は、研削加工により0.25mmの厚みに仕上げられた。研削加工されたダイヤモンド多結晶体の表面には、Ti,Pt,Auの順で蒸着され、金属化処理が施された。このときの金属化膜のそれぞれの厚みは、Tiが600Å,Ptが800Å、Auが10000Åであった。この金属化処理が施されたダイヤモンドの多結晶体の一面には、溝入れ加工が施された。この溝入れ加工は、YAGレーザを用いて、0.77mmピッチで格子状に溝を入れる加工であった。このときの加工条件は、出力が3W,Qスイッチ周波数が3KHz,加工速度が1mm/s,スキャン回数が1回であった。このような加工条件で溝入れ加工を行なったとき、溝の深さは0.15mmであった。
【0026】
次にこの多結晶体の溝に、ステンレス製のクサビが入れられた。このクサビによってダイヤモンド多結晶体は加圧された。この加圧により、ダイヤモンド多結晶体は、溝に沿って容易に切断された。
【0027】
上記の製造工程によって、厚みが0.25mm,縦・横が0.75mmであり、上下面がTi-Pt-Auの金属化膜により被覆されたダイヤモンド多結晶体ヒートシンクが得られた。このダイヤモンド多結晶体ヒートシンクの製造過程において、エッジ部に発生したカケの最大値は30μmであり、加工歩留は100%であった。このダイヤモンド多結晶体ヒートシンクの上下面の金属化膜間の電気抵抗は5×108Ωであった。なお、ここで使用したダイヤモンド多結晶体の比抵抗は5×109であり、熱伝導率は温度25℃において15W/cm・Kであった。
【0028】
次に、上記製造方法によって完成されたダイヤモンドヒートシンクの構造について以下に述べる。
【0029】
図4は、本発明の一実施例によるダイヤモンドヒートシンクの概略構造を示す側面図である。図4を参照して、ダイヤモンド多結晶体ヒートシンク410は、ダイヤモンド多結晶体411および金属化膜412から構成されている。ダイヤモンド多結晶体411の上面および下面に金属化膜412が形成されている。この金属化膜412は、ダイヤモンド多結晶体411に接する側からTi,Pt,Auの順で形成されている。このように、本発明の一実施例によるダイヤモンドヒートシンクは構成されている。
【0030】
また、高圧合成法により合成されたダイヤモンド単結晶体を使用して、厚み0.3mmの素材を作製した。このダイヤモンド単結晶体についても、上記条件と同じ条件で、金属化処理およびレーザ加工が行なわれた。その結果、溝の深さは、ダイヤモンド多結晶体を使用した場合と同じく0.15mmであった。しかし、亀裂,および100μm以上のカケが発生しやすいため、歩留よく切断することが困難であり、加工歩留は10%であった。
【0031】
次に、本発明の他の実施例によるダイヤモンドヒートシンクの製造方法について説明する。ダイヤモンド多結晶体が、熱フィラメント法により合成された。このダイヤモンド多結晶体は、厚みが0.8mm,縦・横が50.8mmの寸法であった。ダイヤモンド多結晶体は、研削加工により、0.635mmの厚みに仕上げられた。研削加工されたダイヤモンド多結晶体には、溝入れ加工が施された。この溝入れ加工は、上下両面よりYAGレーザを用いて行なわれた。この溝入れ加工によって、ダイヤモンドの多結晶体の上下両面に、20.1mmピッチで格子状に溝が形成された。この溝入れ加工の条件は、出力が2.5W,Qスイッチ周波数が3KHz,加工速度が0.5mm/s,スキャン回数が6回であった。このときの上下面における溝のずれは10μmであった。また溝の深さは、上下面各々から0.25mmであった。
【0032】
溝入れ加工が施されたダイヤモンド多結晶体の上下両面にスパッタ法によりTi,Mo,Ni,Auの順で金属化処理が施された。この4層の金属化膜の厚みは、それぞれ、Tiが600Å,Moが800Å,Niが1000Å,Auが5000Åであった。さらに、ダイヤモンド多結晶体の金属化処理が施された上下両面のいずれか一面に、蒸着法によって、Au/Snの共晶合金の金属化膜が被覆された。このAu/Snの共晶合金の金属化膜の厚みは3μmであった。
【0033】
溝の形状に合わせて加工された格子状の金属治具が、金属化処理されたダイヤモンド多結晶体の溝に入れられた。この金属治具によってダイヤモンド多結晶体は加圧された。この加圧によってダイヤモンド多結晶体は、溝に沿って、容易に切断された。このようにして、ダイヤモンド多結晶体ヒートシンクが得られた。
【0034】
このヒートシンクの上下面の金属化膜間の電気抵抗は、1×107Ωであった。またエッジ部に発生したカケの最大値は、20μmであった。なお、ここで使用したダイヤモンド多結晶体の比抵抗は、2×109であり、熱伝導率は温度100℃において10W/cm・Kであった。
【0035】
次に、上記製造方法によって完成されたダイヤモンドヒートシンクの構造について以下に述べる。
【0036】
図5は、本発明の他の実施例におけるダイヤモンドヒートシンクの概略構造を示す側面図である。図5を参照して、ダイヤモンドヒートシンク420は、ダイヤモンドの多結晶体421,金属化膜422およびAu/Sn共晶合金423から構成されている。ダイヤモンドの多結晶体421の上下両面には、金属化膜422が形成されている。この金属化膜422は、ダイヤモンドの多結晶体421に接する側から、Ti,Mo,Ni,Auの順で4層から構成されている。この金属化膜422が形成されたダイヤモンド多結晶体421の上下面のいずれか一方に、Au/Sn共晶合金からなる金属化膜423が被覆されている。このように、本発明の他の実施例におけるダイヤモンドヒートシンク420は構成されている。
【0037】
なお、高圧合成法により合成されたダイヤモンドの多結晶体の場合、厚み0.635mmで縦・横が20mmの寸法の素材は、現在の科学技術では製造不可能である。また、厚み0.635mm、縦・横が4mmの寸法の素材を用いて、上記と同様の条件で上下両面からレーザ加工を行ない、切断を試みたが、切断部から亀裂が発生し、切断は不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明におけるダイヤモンドヒートシンクの製造方法を概略的に示す工程図である。
【図2】
本発明におけるダイヤモンドヒートシンクの製造方法を工程順に示すダイヤモンド多結晶体の斜視図(a)〜(c)である。
【図3】
マイクロ波プラズマCVD法により合成されたダイヤモンド多結晶体のレーザ加工条件と加工溝深さの関係を示すグラフである。
【図4】
本発明の一実施例におけるダイヤモンドヒートシンクの概略構造を示す側面図である。
【図5】
本発明の他の実施例におけるダイヤモンドヒートシンクの概略構造を示す側面図である。
【図6】
従来のダイヤモンドヒートシンクの製造方法を概略的に示す工程図である。
 
訂正の要旨 訂正事項
(あ)特許請求の範囲の請求項1の記載を、「【請求項1】気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理か施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンクの製造方法。」と訂正する。
(い)特許明細書の段落番号【0011】の記載を、「【課題を解決するための手段、発明の作用効果】 この発明に従ったダイヤモンドヒートシンクの製造方法によれば、気相合成法により合成された、粒径が50μm以下のダイヤモンド多結晶体を準備した後、前記多結晶体の表面にレーザを用いて溝を形成する工程と、少なくとも上下2面に金属化処理する工程とを経て、前記溝に沿って、前記多結晶体に圧力を加えて機械的に分割し、前記金属化処理が施された上下二面の間の電気抵抗が1×106Ω以上であることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンクの製造方法に関するものである。この方法によれば、ダイヤモンドの多結晶体を溝に沿って一挙に分割することが可能となる。よって、加工は容易となり、加工に要する時間も短くて済む。また切りしろは、溝を形成した分しか生じないため。歩留まりが高くなる。以上のように、加工時間の短縮及び歩留まりの向上などによって加工コストは低減する。電気抵抗値は、一般に、半導体レーザに必要な絶縁抵抗値であり、これ以下の抵抗値になると半導体レーザの特性が低下する。」と訂正する。
(う)特許明細書の段落番号【0017】の記載を、「なお、気相合成法により合成されたダイヤモンドの多結晶体は、室温から200℃までの温度範囲において、熱伝導率が5W/cm・K以上であることが望ましい。また、ダイヤモンドの多結晶体の粒径は、50μm以下と規定する。これは、ダイヤモンドの多結晶体を分割したときに、欠損が生じにくい粒径の範囲である。」と訂正する。
審理終結日 2002-04-18 
結審通知日 2002-04-23 
審決日 2002-05-21 
出願番号 特願平3-272830
審決分類 P 1 112・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川真田 秀男  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 雨宮 弘治
市川 裕司
登録日 2000-02-04 
登録番号 特許第3028660号(P3028660)
発明の名称 ダイヤモンドヒートシンクの製造方法  
代理人 浅村 皓  
代理人 内田 明  
代理人 高松 武生  
代理人 萩原 亮一  
代理人 小堀 貞文  
代理人 加藤 公清  
代理人 内田 明  
代理人 浅村 肇  
代理人 加藤 公清  
代理人 萩原 亮一  

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