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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1068893
異議申立番号 異議2002-71125  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-04-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-26 
確定日 2002-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3225849号「起泡性水中油型乳化物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3225849号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3225849号の請求項1に係る発明についての出願は、平成8年9月19日に特願平8-247343号として出願され、平成13年8月31日にその特許の設定登録がなされ、その後、中野まゆみより特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1に係る記載を、
「20〜50重量%の油脂と無脂肪固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう。」と訂正する。
(2)明細書段落【0006】の「すなわち本発明は、・・・及びレシチンをいう、である。」を「すなわち本発明は、20〜50重量%の油脂と無脂肪固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう、である。」と訂正する。
(3)明細書段落【0019】の「次に、脱脂粉乳4重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.15重量部、重曹0.02重量部及びショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.20重量部を水に溶解させて水相部を調製した。」を「次に、脱脂粉乳4重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.15重量部、重曹0.02重量部及びショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.20重量部を水47.18重量部に溶解させて水相部を調製した。」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、「(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機モノグリセライドを除く)」という事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、訂正事項(2)は、訂正事項(1)に伴う訂正であり、また、訂正事項(3)は、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、この訂正は新規事項に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.特許異議申立書の理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証を提出し、訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である、或いは、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号或いは同条2項の規定に違反、若しくは、本件明細書には、記載の不備があるから、同法36条4項及び6項の規定に違反するので特許を受けることができないと主張している。
2.判断
A.特許法29条1項3号及び2項について
甲第1号証(特開平2-128644号公報)には、(a)「本発明において、グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル中の遊離の水酸基に、酢酸、乳酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸、コハク酸等の、脂肪酸以外の有機酸がエステル結合した、所謂有機酸モノグリセライドも包含する。」(4頁左上欄16行〜右上欄1行)、並びに、「実施例1」として、(b)「上昇融点36℃の大豆硬化油34.0重量%、ヤシ硬化油11.0重量%を溶融混合し、その中に油溶性乳化剤としてソルビタン脂肪酸モノステアレート0.2重量%を溶解し油相を調整した。このようにして得られた油相を60℃に保持した。別に、脱脂粉乳4.9重量%及びヘキサメタリン酸ナトリウム0.1重量%、水溶性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステル(HLB11)0.3重量%及びポリグリセリンモノオレート(HLB13)0.2重量%を50℃前後の水49.3重量%に溶解して水相とした。上記油相と上記水相とを混合撹拌して水中油型の予備乳化物を得た。次いで、この予備乳化物をホモゲナイザーにより約60℃の温度下に50kg/cm2の圧力下で均質化し、その後、UHT減菌処理(VTIS減菌装置(・・・)を使用)を施し、70℃にて55kg/cm2の均質圧で無菌下で再均質処理を施し、10℃に冷却後無菌充填(・・・)し、起泡性水中油型乳化脂を得た。」(5頁左下欄17行〜右下欄16行)、及び、「比較例1」として、(c)「前記実施例1中、乳化剤を下記の通り変更して同様の実験を行った。
・油溶性乳化剤 ジアセチル酒石酸モノグリセリド0.3重量% レシチン0.2重量%
・水溶性乳化剤 ポリグリセリンモノオレート(HLB13) 0.1重量% ショ糖脂肪酸エステル(HLB7) 0.1重量%
表中比較例1に示す如くバサツキやすい乳化脂を得た。」(6頁右下欄4〜16行)が、それぞれ記載されている。
上記(c)の記載によると、比較例1で使用される、グリセリン脂肪酸エステルとしての油溶性乳化剤である「ジアセチル酒石酸モノグリセリド」は、(a)の記載に照らし、「有機酸モノグリセライド」であることは明らかである。
しかるに、訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、使用するグリセリン脂肪酸エステルに関し、「(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機モノグリセライドを除く)」というものであるから、最早、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
そして、本件発明では、ホイップ時間が短く、造花時に荒れ・先切れを起こさない、耐熱保形性に優れた起泡性水中油型乳化物が調製されるところ、比較例1では、「パサツキやすい乳化脂」しか得られず、また、甲第1号証には、本件発明に係る構成を示唆する記載はない。
そうすると、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
B.特許法36条4項及び6項について
特許異議申立人は、本件明細書の実施例及び比較例には、各起泡性水中油型乳化物の水の含有量が記載されていない、と主張している。
しかし、上記訂正請求により、実施例1における「水に溶解させて水相部を調製した。」との記載を「水47.18重量部に溶解させて水相部を調製した。」と訂正して水の量を明確にしたのであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
3.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
起泡性水中油型乳化物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】20〜55重量%の油脂と無脂乳固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、起泡性水中油型乳化物に関し、より詳細にはホイップ時間が短く、造花時に荒れ・先切れを起こさない、耐熱保形性に優れた起泡性水中油型乳化物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在、製菓・製パン用フィリング及びトッピング材としての起泡性水中油型乳化物、すなわちホイップクリームとしては、天然生クリームと植物性油脂を含有するコンパウンドクリーム等が主に市販されているが、大規模に生産を行う洋菓子店では特に、高価で扱いにくい生クリームの代わりに、価格及び物性安定性の面でコンパウンドクリームを使用するケースが多い。コンパウンドクリームは、流通・保存時の振動や時間経過により増粘・固化しない乳化安定性と、ホイップ時間が短く、ホイップ後の作業性が良好で、更に、保形性・離水耐性のあるものが求められる。特に、ホイップ時間が短いことと、造花時に荒れ、先切れを起こさないホイップクリームの物性は、生産性をより効率的にするために必須条件である。
【0003】従来、ホイップ時間を短縮するには、解乳化剤であるレシチンの含有量を増加させ、より解乳化を迅速にする方法が採用されてきた。しかしながら、解乳化速度が増すにつれて、ホイップ終点での最適な解乳化状態での時間、すなわち、作業幅も同様に短縮され、非常に作業性の悪いホイップクリームとなってしまう。つまり、使用時までの乳化安定性は充分に高めておき、ホイップ時には迅速にクリーム中の脂肪を凝集させて部分的に乳化状態を破壊させ、かつ解乳化させた状態を長時間維持させるという二律背反する性質を与えなければならないという困難さがホイップクリームには要求されている。
【0004】最近では、これらの要求を達成する方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステルの使用が検討されてきた。例えば、特開昭61-209562号ではポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを組み合わせた例が、特開平2-128644号では主としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用し、油溶性乳化剤より水溶性乳化剤の割合を多くする方法、特開平5-23126号ではリゾレシチンとポリグリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルを組み合わせた例がそれぞれ示されているが、いずれも乳化剤総量が多い為に風味の面で、または物性面で満足できるものにはなっていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、特定の乳化剤を組み合わせることにより、ホイップ時間が短く、造花時に荒れ・先切れを起こさない、耐熱保形性に優れた起泡性水中油型乳化物を提供することにある。
を提供することを課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは如上の欠点を解決すべく鋭意研究した結果、特定の乳化剤を特定量組み合わせることによって、上記課題を達成できるクリームが得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、20〜55重量%の油脂と無脂乳固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう、である。以下、本発明について詳述する。
【0007】本発明における水中油型の起泡性乳化物は、食用油脂、水その他の成分から構成される。食用油脂としては、食用に適する油脂であれば特に限定されず、例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂(融点15〜40℃程度のもの)が例示できる。起泡性乳化物中の油脂含有は、当該乳化物全量に対して、20〜55重量%である。油脂含量が下限未満では組織が荒くてコシが弱く、十分な保形性を有する起泡性水中油型乳化物が得られない。また、上限を越えると乳化が悪くなり、良好なクリームが得られない。
【0008】本発明において使用するHLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合度2以上のポリグリセリンに対して不飽和脂肪酸が結合したものである。例えば、テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8)、ヘキサグリセリンモノオレート(HLB11.6)、デカグリセリンセスキオレート(HLB11.7)、デカグリセリンモノオレート(HLB12.9)等が挙げられる。ポリグリセリンに結合する不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられるが、主としてオレイン酸が使用される。これらは、単独又は2種類以上組み合わせて使用可能であるが、起泡性水中油型乳化物全量に対して、合計して0.02〜0.5重量%になるように油相部又は水相部に添加する。ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ホイップ時間の短縮と、ホイップクリームの保形性向上に効果がある。添加量が0.02重量%より少ない場合、ホイップ時間が短縮されないだけでなく、ホイップクリームがいわゆるもどり現象を生じて、十分な保形性が得られない。また、0.5重量%を越える場合は、いわゆるしまり状態となり、最悪の場合ホイップ途中で油分離してしまい、著しくオーバーランが低下する。
【0009】本発明において使用するソルビタン脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルとは、ソルビタン又はグリセリンに対して飽和脂肪酸或いは不飽和脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸種については、特に限定されず、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸を挙げることができる。上記ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルのうち少なくとも1種類を、起泡性水中油型乳化物全量に対して0.02〜0.5重量%になるように油相に添加する。ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルは、ホイップクリームのオーバーランの調整に使用する。添加量が0.02重量%より少ない場合、十分なオーバーランが得られず、0.5重量%を越える場合はコシのないクリームとなる。
【0010】また、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種を、起泡性水中油型乳化物全量に対して0.01〜0.4重量%になるように添加する。これらを添加することにより、上記起泡性水中油型乳化物の流通・保存時の振動や時間経過により増粘・固化しない乳化安定性が達成される。添加量が0.4重量%を越える場合、ホイップ後の冷蔵保存時において離水が生じ易くなり、かつ、もどり現象が認められるようになる。
【0011】更に、本発明では起泡性水中油型乳化物全量に対して、レシチンを0.01〜0.3重量%になるように添加するのが好ましい。レシチンの添加によって、上記起泡性水中油型乳化物の流通・保存時の振動や温度上昇によって引き起こされる、可塑化現象、いわゆるボテの抑制効果が得られる。添加量が0.3重量%を越える場合、レシチンは逆に解乳化剤として働き、ホイップ後の物性を適切な状態に保つことが困難となる。
【0012】本発明において、上記起泡性水中油型乳化物に添加する総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることが好ましい。すなわち、油溶性乳化剤の添加量が水溶性乳化剤の添加量より多いことが好ましい。水溶性乳化剤が油溶性乳化剤より多いと、ホイップ後のクリームがもどり現象を起こし、良好な耐熱保形性が得られなくなったり、或いはホイップ時間の短縮が達成されない等の問題点が生じる。
【0013】本発明において水溶性乳化剤に分類されるものとしては、ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。水溶性乳化剤に属するショ糖脂肪酸エステルとしてはHLB7.0以上のものであり、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてはHLB10.0以上のものである。上記HLBを充たすものであれば、飽和/不飽和のいずれのショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルも水溶性乳化剤に属する。
【0014】一方、本発明において油溶性乳化剤に分類されるものとしては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンが挙げられる。油溶性乳化剤に属するショ糖脂肪酸エステルとしてはHLB7.0未満のものであり、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてはHLB10.0未満のものである。上記HLBを充たすものであれば、飽和/不飽和のいずれのショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルも油溶性乳化剤に属する。
【0015】従って、本発明における乳化剤を水溶性乳化剤と油溶性乳化剤に分類すると、以下のようになる。すなわち、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、HLB8以上10未満のものは油溶性乳化剤、HLB10以上のものは水溶性乳化剤に分類される。ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルはすべて油溶性乳化剤に分類される。HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルについては、HLB5以上7未満のショ糖脂肪酸エステルは油溶性乳化剤、HLB7以上のものは水溶性乳化剤に分類され、また、HLB5以上10未満のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルは油溶性乳化剤、HLB10以上の場合は水溶性乳化剤に分類される。また、レシチンは油溶性乳化剤に分類される。本発明では、上記分類に従って各乳化剤を水溶性乳化剤と油溶性乳化剤に分類し、上記起泡性水中油型乳化物に添加する総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上である必要がある。
【0016】本発明の起泡性水中油型乳化物を製造するには、従来公知の方法に従って製造すればよく、例えば、予備乳化した後、均質化、殺菌、再均質化、冷却、エージングを行って得られる。尚、殺菌もしくは滅菌処理に前後して均質化処理もしくは攪拌処理することができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方でも、両方を組み合わせた2段均質でもよい。
【0017】水相は全乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム、加糖練乳或いは大豆蛋白等と水を混合して得られる従来公知の水相でよく、蛋白固形分としては、0.5〜6.0重量%程度使用すればよい。以上の他に、ヘキサメタリン酸塩等各種リン酸塩、重炭酸ソーダを使用してもよい。また、必要に応じて安定剤を用いることができる。安定剤としては、ガム類、セルロース等があげられる。
【0018】以下に実施例をあげ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】実施例1
上昇融点34℃の硬化大豆油25.0重量部及び無塩バター(油分80%)23.0重量部を加温溶解し、これに大豆レシチン0.10重量部、テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8)0.15重量部及びソルビタン脂肪酸エステル(HLB4.7)0.20重量部を均一に溶解して油相部を調製した。次に、脱脂粉乳4重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.15重量部、重曹0.02重量部及びショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.20重量部を水47.18重量部に溶解させて水相部を調製した。上記油相部と水相部を混合し、これを65℃にて予備乳化した。予備乳化液を145℃、4秒間蒸気直接殺菌した後、引き続き50Kg/cm2の均質化圧にて均質化し、冷却後冷蔵庫で一晩エージングした。この配合にて得たクリームの総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合は100%である。ホイップは、ケンウッドミキサーを使用し、ホイップ後のオーバーラン、風味、造花時の荒れ・先切れ、20℃での保形性を評価した。
【0020】○結果
ホイップ時間 2分15秒
オーバーラン 115%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0021】実施例2
上記実施例1と同製法、同配合で、ソルビタン脂肪酸エステルの代わりにグリセリン脂肪酸エステルを使用して起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0022】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ショ糖脂肪酸エステル(HLB5) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 100.0%
【0023】○結果
ホイップ時間 2分47秒
オーバーラン 118%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0024】実施例3
上記実施例2と同製法、同配合で、ショ糖脂肪酸エステルの代わりにポリグリセリン飽和脂肪酸エステル(HLB9)を使用して、起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0025】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ポリグリセリン飽和脂肪酸エステル(HLB9) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 100.0%
【0026】○結果
ホイップ時間 2分13秒
オーバーラン 111%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0027】実施例4
上記実施例3と同製法、同配合で、油溶性のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルの代わりに水溶性のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル(HLB11.6)を使用して起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0028】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
ヘキサグリセリンモノオレート(HLB11.6) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ポリグリセリン飽和脂肪酸エステル(HLB9) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 100.0%
【0029】○結果
ホイップ時間 3分18秒
オーバーラン 128%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0030】実施例5
上記実施例4と同製法、同配合で、油溶性乳化剤であるHLB9のポリグリセリン飽和脂肪酸エステルの代わりに水溶性乳化剤であるHLB15のショ糖脂肪酸エステルを使用して起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0031】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ショ糖脂肪酸エステル(HLB15) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 69.2%
【0032】○結果
ホイップ時間 2分55秒
オーバーラン 118%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0033】実施例6
上記実施例5と同製法、同配合で、油溶性乳化剤であるHLB8.8のテトラグリセリンモノオレートの代わりに水溶性乳化剤であるHLB12.9のデカグリセリンモノオレートを使用して起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0034】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
デカグリセリンモノオレート(HLB12.9) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ショ糖脂肪酸エステル(HLB15) 0.10重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 54.5%
【0035】○結果
ホイップ時間 3分02秒
オーバーラン 121%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 良好
【0036】比較例1
上記実施例1と同製法同配合で、油溶性乳化剤を50%未満として起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0037】○乳化剤配合
デカグリセリンモノオレート(HLB12.9) 0.15重量部
ソルビタン脂肪酸エステル(HLB4.7) 0.20重量部
ショ糖脂肪酸エステル(HLB15) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 36.3%
【0038】○結果
ホイップ時間 4分44秒
オーバーラン 128%
風味 良好
荒れ・先切れ なし
保形性 やや不良
【0039】比較例2
上記実施例2と同製法、同配合で、テトラグリセリンモノオレートの添加量を0.4重量部より多くして起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0040】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8) 0.42重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
ショ糖脂肪酸エステル(HLB5) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 100.0%
【0041】○結果
ホイップ時間 1分22秒
オーバーラン 45%
風味 苦み
荒れ・先切れ 不良
保形性 良好
【0042】比較例3
上記実施例2と同製法、同配合で、HLB5のショ糖脂肪酸エステルを添加せずに起泡性水中油型乳化物を調製し、物性を確認した。
【0043】○乳化剤配合
大豆レシチン 0.10重量部
テトラグリセリンモノオレート(HLB8.8) 0.15重量部
グリセリン脂肪酸エステル(HLB3.0) 0.20重量部
総乳化剤量に占める油溶性乳化剤の割合 100.0%
【0044】○結果
冷蔵庫で一晩エージング中にボテを生じた。
【0045】
【発明の効果】以上のように本発明により、ホイップ時間が短く、造花時に荒れ・先切れを起こさない、耐熱保形性に優れた起泡性水中油型乳化物を得ることが可能となった。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)特許請求の範囲の請求項1に係る記載を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「20〜50重量%の油脂と無脂肪固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう。」と訂正する。
(2)明細書段落【0006】の「すなわち本発明は、・・・及びレシチンをいう、である。」を明りょうでない記載の釈明を目的として、「すなわち本発明は、20〜50重量%の油脂と無脂肪固形分等を含む水相からなる起泡性水中油型乳化物において、当該起泡性水中油型乳化物全量に対して、HLB8以上のポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル0.02〜0.5重量%、ソルビタン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)のうち少なくとも1種0.02〜0.5重量%、HLB5以上のショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン飽和脂肪酸エステルのうち少なくとも1種0.01〜0.4重量%、さらにレシチンを0.01〜0.3重量%含有し、起泡性水中油型乳化物に含まれる総乳化剤量に対する油溶性乳化剤の合計量の割合が50重量%以上であることを特徴とする、起泡性水中油型乳化物。但し、油溶性乳化剤とは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル(但し、グリセリン脂肪酸エステルは有機酸モノグリセライドを除く)、HLB10.0未満のポリグリセリン飽和/不飽和脂肪酸エステル、HLB7.0未満のショ糖脂肪酸エステル、及びレシチンをいう、である。」と訂正する。
(3)明細書段落【0019】の「次に、脱脂粉乳4重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.15重量部、重曹0.02重量部及びショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.20重量部を水に溶解させて水相部を調製した。」を明りょうでない記載の釈明を目的として、「次に、脱脂粉乳4重量部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.15重量部、重曹0.02重量部及びショ糖脂肪酸エステル(HLB5)0.20重量部を水47.18重量部に溶解させて水相部を調製した。」と訂正する。
異議決定日 2002-09-27 
出願番号 特願平8-247343
審決分類 P 1 651・ 537- YA (A23L)
P 1 651・ 113- YA (A23L)
P 1 651・ 536- YA (A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 近 東明
田中 久直
登録日 2001-08-31 
登録番号 特許第3225849号(P3225849)
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 起泡性水中油型乳化物  

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