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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  H01L
管理番号 1068970
異議申立番号 異議1998-71056  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-03 
確定日 2002-08-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2649333号「プラズマ処理装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2649333号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第2649333号(平成5年8月20日出願(特願平5-226681号の一部の新たな特許出願)、平成9年5月16日設定登録)は、異議申立人佐々木茂之により特許異議の申立てがなされ、その後、平成12年2月3日に「特許第2649333号の特許を取り消す。」との取消決定がなされたものである。
これに対し、本件特許の特許権者により、当該取消決定の取り消しを求める訴えの提起(平成12年(行ケ)第99号)がなされるとともに訂正審判の請求がなされ、その後、同訂正審判の請求の取り下げがなされるとともに新たな訂正審判の請求がなされたところ、平成13年3月5日に「訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との訂正審決がなされ、さらに、平成13年4月23日に東京高等裁判所において、「平成12年2月3日にした決定を取り消す。」との判決の言渡しがなされたことにより、差し戻されたものである。

なお、本件特許に係る出願は、下記[5](2)において説示するように、二以上の発明を包含する原出願(特願平5-226681号)の一部を新たな特許出願として出願したものと認められ、一方、当該原出願は、二以上の発明を包含する原々出願(特願昭61-186203号(昭和61年8月8日出願))の一部を新たな特許出願として出願したものとは認められない(平成10年異議第72049号に係る異議の決定参照)から、本件特許に係る出願の出願日を、上記のとおり原出願の出願日として認定した。

[2]本件発明
本件特許に係る出願の出願日が原出願の出願日として認定されたことにより、本件特許の請求項1、2のうちの請求項2は、特許法(昭和60年法律第41号)第36条第4項の規定による請求項1に記載された発明の実施態様を記載したものではなく、特許法(平成2年号外法律第30号)第36条第5、6項の規定による請求項1に係る発明を引用する発明を記載したものとなった。
してみると、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1、2」という。)は、上記訂正審判の訂正審決により確定した訂正明細書の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】減圧状態に保持された反応空間内に配設された基板の表面に被膜を形成するプラズマ処理装置において、
反応性気体を分解または活性化しせしめる高周波電力を発生させる高周波発振器と、
前記高周波電力を、反応容器の内壁に発生するフレークが低減するように放電の弱いまたは無い時が得られるように、振幅変調せしめる手段と、
前記振幅変調手段によって変調された高周波電力を増幅する増幅器と、
前記反応空間に配設されると共に、前記振幅変調された高周波電力を供給する一対の電極と、
当該一対の電極によって振幅変調された高周波電力が平行な面内に供給されるように基板が配設されると共に、当該基板を反応空間内に出入りする搬送手段と、
から構成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】前記多数の基板は、電極間で、被膜形成面が表面になるように互いに重ね合わせると共に、電極に対し垂直となるように併設されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。」

なお、取消理由通知に対してなされた平成10年11月4日付け訂正請求、及び訂正拒絶理由通知に対してなされた平成11年7月12日付け手続補正については、上記のとおり、本件特許に係る訂正審判の訂正審決が確定したことにより、審理の対象は平成12年12月27日付け訂正明細書となるから、審理の対象ではなくなった。

[3]異議申し立ての理由の概要
異議申立人佐々木茂之は、証拠として以下に示す甲第1〜3号証を提出して、訂正前の本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件訂正前発明1、2」という。)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張するとともに、本件訂正前発明1は、原出願の明細書又は図面に記載されていない事項を含むから、分割出願とは認められず、しかも上記の事項は本件特許の出願当初の明細書又は図面にも記載されていないものであるから、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものである旨主張している。

甲第1号証:特開昭60-86831号公報
甲第2号証:特開昭55-21538号公報
甲第3号証:特開昭60-224215号公報

[4]甲第1〜3号証に記載された事項
(1)甲第1号証
上記甲第1号証の特開昭60-86831号公報には、成膜速度と膜質やエッチングレート、選択比とエッチング精度など相反するプラズマ処理特性を共に向上させる、半導体装置の製造に好適なプラズマ処理方法及びその装置に関する発明が第1〜11図とともに開示され、さらに以下の事項が記載されている。

「プラズマ処理は真空に排気した処理室に、処理ガスを導入し、処理室内に設けた平行平板電極に高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、処理を行うものである。処理内容としては・・・プラズマにより処理ガスを分解し膜を形成するプラズマCVD・・・などである。」(1頁右下欄11行〜2頁左上欄1行)

「処理室10には処理用ガス供給口11、排気口12が設けてある。また処理室内には接地されたアース電極13と高周波電極14があり、高周波電極は絶縁ブッシュ15を介して処理室に固定し、周囲には処理室内壁との放電を防止するシールドケース16が設けてある。また、高周波電極14にはマッチングボックス18を介して高周波パワーアンプ19が接続してある。13.56MHZの標準信号発生器21の信号は、変調信号発生器22からの信号に従い、AM変調器20でAM変調され、高周波パワーアンプ19に供給される。
変調信号発生器22は、周期、振幅を変えた矩形波や正弦波など任意の波形を発生することができる。
変調信号発生器22でプラズマ処理対象に合わせた第3図や第7図に示す波形に変調する変調信号を発生し、13.56MHZの標準信号発生器21の信号を変調して高周波パワーアンプ19に入力する。
高周波パワーアンプ19からは第3図や第7図に示すような波形出力が出力され、マッチングボックス18を通って高周波電極14に印加される。AM変調の場合、周波数は同じであるため、13.56MHZ用のマッチングボックスでマッチングを取ることができる。以上によりプラズマ処理方法で述べた放電プラズマを発生し、プラズマ処理を行うことができる。
プラズマエッチングやプラズマCVDなどに用いるアノードカップリング形のプラズマ処理装置は本実施例のアース電極13と高周波電極14の位置を交換することで実現できる。」(4頁右上欄15行〜右下欄6行及び3、7、8図)

以上の記載をまとめると、甲第1号証には、真空に排気した処理室に処理用ガスを導入し、処理室内に設けた平行平板電極に高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、そのプラズマにより処理用ガスを分解し、プラズマ処理対象の表面に被膜を形成するプラズマCVD装置において、処理用ガスを分解させる高周波電力を発生させる13.56MHZの標準信号発生器と、高周波電力を振幅変調せしめるAM変調器と、このAM変調器によって変調された高周波電力を増幅する高周波パワーアンプと、処理室に配設されると共に、振幅変調された高周波電力を供給する平行平板電極を構成するアース電極と高周波電極と、この平行平板電極によって振幅変調された高周波電力が平行な面内に供給されるようにプラズマ処理対象が配設されるように構成されているプラズマCVD処理装置が記載されているものと認める。

(2)甲第2号証
上記甲第2号証の特開昭55-21538号公報には、ワークを連続的にプラズマ表面処理を施す装置に関する発明が第1〜5図とともに開示され、さらに以下の事項が記載されている。
「図面で(1)は真空処理室を示し、該室(1)内は真空ポンプで排気されると共に反応ガスの適量を供給されて反応ガスの減圧された雰囲気に保たれるようにした。該室(1)内には互いに対向する1対の電極(2)(3)、例えば高周波電極(2)と、基板電極(3)とが配置されると共に、その中間にワーク(4)が用意されるもので、かくて両電極(2)(3)間にはプラズマを生じて該ワーク(4)には所定のプラズマ表面処理が施されるようにした。・・・
本発明によれば該処理室(1)を前後方向の長手に形成されると共に、各電極(2)(3)をこれに沿って長手に延びる各長方形に構成させ、かくて両電極(2)(3)間には長手の方形のプラズマ空間が形成されるようにし、更に該ワーク(4)は例えばその4個をトレイ(5)上に装置し、かゝるトレイ(5)の複数個を例えば両外側の送りローラ(6)(6)その他により漸次前方に移送させるようにした。」(公報2頁左上欄7行〜右上欄5行)

(3)甲第3号証
上記甲第3号証の特開昭60-224215号公報には、一度に多数の基板を同時に反応空間に配設するプラズマCVD装置に関する発明が第2図とともに開示され、さらに以下の事項が記載されている。
「予備室(1)において、・・・基板(4)、(4’)を枠(6)、(6’)に挿着し、移動機構・・・上に配設し、扉を閉める。・・・この後ゲート弁(43)を開け、予めターボ分子ポンプ(19’)により・・・真空引きされている反応容器(2)内に基板、ホルダ(5)、枠(7)、(7’)を移動させた。
・・・
反応容器(2)は反応性気体の供給系(10)と真空排気系(11)を具備する。」(3頁右下欄18行〜4頁左上欄13行)
「その内壁に被形成面を有する基板(5)、(5’)が一定の間隔例えば6cmをとって互いに裏面を接して配設されている。」(4頁右下欄10〜13行)

[5]対比・判断
(1)特許法第29条第2項違反について
(1-1)本件発明1
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載の「処理室」、「プラズマ処理対象」、「処理用ガス」、「標準信号発生器」、「AM変調器」、「高周波パワーアンプ」、及び「アース電極と高周波電極」は、それぞれ本件発明1の「反応空間」、「基板」、「反応性気体」、「高周波発振器」、「振幅変調せしめる手段」、「増幅器」、及び「一対の電極」に相当するものである。
してみると、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは、「減圧状態に保持された反応空間内に配設された基板の表面に被膜を形成するプラズマ処理装置において、反応性気体を分解または活性化せしめる高周波電力を発生させる高周波発振器と、前記高周波電力を振幅変調せしめる手段と、前記振幅変調手段によって変調された高周波電力を増幅する増幅器と、前記反応空間に配設されると共に、前記振幅変調された高周波電力を供給する一対の電極と、から構成されているプラズマ処理装置。」の点において一致する。

しかしながら、以下の点で両者は相違する。
(a)振幅変調せしめる手段については、本件発明1が「高周波電力を、反応容器の内壁に発生するフレークが低減するように放電の弱いまたは無い時が得られるように」したものであるのに対して、甲第1号証に記載のAM変調器はそのようなものではない点。
(b)本件発明1が、「1対の電極によって振幅変調された高周波電力が平行な面内に供給されるように基板が配設されると共に、基板を反応空間に出入りする搬送手段」を有するのに対し、甲第1号証に記載された発明はそのような搬送手段を有していない点。

そこで、上記相違点(a)、(b)について検討すると、相違点(a)については、放電の弱いまたは無い時が得られるように高周波電力を振幅変調せしめて、反応容器の内壁に発生するフレークが低減するように為すことは、本件特許の出願前周知の技術であるとはいえないから、甲第1号証に記載のAM変調器から本件発明1の相違点(a)を当業者が容易に想到することはできないし、また甲第2、3号証にも、上記相違点(a)を示唆するような記載は何もない。
そして、本件発明1は、相違点(a)の構成を採用することによって、「反応性気体のラジカルが存在する場合は、放電の有無の繰り返しとして振幅変調を行なってもよい。かくすると、変調がかけられた放電が弱いまたは無い時には、減圧CVDと同様の効果があり、たとえば凹凸のある基板表面であっても、その側面が上面と同じ厚さに形成されたり、あるいは反応容器の内壁に発生するフレークを低減する等」(訂正明細書【0012】)の顕著な効果を奏するものである。
また、相違点(b)については、甲第2号証に、ワーク4(「基板」に相当する。)がトレイ5上に載置され、プラズマ処理装置のプラズマ空間内を移送する搬送手段が記載され、甲第3号証に、基板(4)、(4’)を挿着した枠(6)、(6’)を移動機構に配設して、予備室(1)から反応容器(2)に移動するようにした搬送手段が記載されているにしても、上記「相違点(a)について」において説示したように、甲第1号証に記載のAM変調器から本件発明1の相違点(a)を当業者が容易に想到することができないし、また甲第2、3号証にも、上記相違点(a)を示唆するような記載は何もない以上、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(1-2)本件発明2
本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、甲第3号証に、基板が一定の間隔をとって裏面を接して配設すると共に、電極に対して垂直に併設したものが記載されているにしても、本件発明1が甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)同法第17条の2第3項違反について
異議申立人の主張は、本件訂正前発明1の「高周波電力が平行な面内に供給される」という構成は原出願の明細書又は図面に記載されておらず、本件訂正前発明1は、平成5年改正前の特許法第44条第1項に規定する要件を満たさないから、同条第3項に規定する遡及効は認めらず、本件特許の出願日は現実の出願日である平成7年2月10日となり、しかも上記構成については、平成7年12月1日付の手続補正書の記載に基づくものであって、本件特許の出願当初の明細書又は図面にも記載されていないものであるから、本件訂正前発明1は、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そこで、上記主張について検討するに、本件発明1の「高周波電力が平行な面内に供給される」という構成は、訂正明細書の第2図に記載されているとおり、高周波電力が上下の平行平板電極(21)、(21)間に垂直に配置された多数の基板(訂正明細書の請求項2には、「前記多数の基板」の記載がある。)の表面と平行な面内に供給されることを意味するものであるから、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書、並びに原出願の願書に最初に添付した明細書及び分割の際の原出願の願書に添付した明細書に直接的な記載はなくても、これらの願書に添付した図面には、訂正明細書の第2図に等しい図が記載されている以上、上記構成は、これらの願書に添付した図面に記載されているに等しいものである。
したがって、本件特許に係る出願は、二以上の発明を包含する原出願の一部を新たな出願として出願したものであるから、本件特許に係る出願は原出願の時にしたものと認める。

[6]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1、2の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願についてされたものと認めない。
よって、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-03 
出願番号 特願平7-45077
審決分類 P 1 651・ 03- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 一正関 和郎  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 市川 裕司
中村 朝幸
大橋 賢一
雨宮 弘治
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2649333号(P2649333)
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 プラズマ処理装置  
代理人 加藤 恭介  

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