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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A01K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01K
審判 全部申し立て 特174条1項  A01K
管理番号 1069029
異議申立番号 異議2001-72936  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-22 
確定日 2002-12-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3159592号「金属装飾層を有する物品」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3159592号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3159592号(平成6年1月26日出願、平成12年2月16日設定登録)の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって構成される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする物品本体の外側に、
表面を略鏡面状に平滑形成した絶縁性合成樹脂による被膜層を形成し、
該合成樹脂被膜層の表面に金属を物理蒸着した1ミクロン程度以下の薄い装飾層を形成し、
該装飾層の外側に透明か半透明の保護層を形成したことを特徴とする釣竿又はゴルフクラブシャフト。
【請求項2】 前記保護層が染料を混合したカラーのクリヤー層である請求項1記載の釣竿又はゴルフクラブシャフト。
【請求項3】 前記保護層が艶消しクリヤー層か、ビーズ入りの塗料によるクリヤー層か、蛍光色を付加したクリヤー層である請求項1記載の釣竿又はゴルフクラブシャフト。
【請求項4】 前記保護層が汚れ防止、匂い防止、菌の付着防止の粒子を混入した塗料によるクリヤー層である請求項1記載の釣竿又はゴルフクラブシャフト。」

2.申立ての理由の概要
2-1.申立人 岡本英希の申立てについて
i.特許法第29条第2項について
証拠として甲第1〜14号証を提出し、本件請求項1ないし4に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ii.特許法第17条第2項について
本件特許明細書の特許請求の範囲に記載の「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする」点は、出願当初の明細書又は図面に直接の記載がないから、上記の点を追加する補正は、新規事項を追加するものであり不適法なものである。

iii.特許法第36条第4項ないし第6項について
本件特許明細書の特許請求の範囲に記載の「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする物品本体」という事項は、物品本体の表面にカーボン繊維が存在しないものをも文言上包含することになり、本件特許明細書で主張する効果を奏し得ないものをも文言上包含していると考えられ、本件特許明細書には記載不備がある。

2-2.申立人 株式会社トーシンの申立てについて
i.特許法第29条第2項について
証拠として、甲第1〜6号証を提出し、本件請求項1ないし4に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.各刊行物(甲各号証)に記載の事項
3-1.取消理由通知で引用した刊行物
刊行物1:特開昭50-109024号公報(申立人 岡本英希提出の甲第 2号証)
刊行物2:実願昭61-187429号(実開昭63-174871号)の マイクロフィルム(同上甲第7号証)
刊行物3:実願昭60-111697号(実開昭62-21380号)のマ イクロフィルム(同上甲第8号証)
刊行物4:めっき技術便覧編集委員会編,「めっき技術便覧」,日刊工業新 聞社,昭和52年10月30日,p.679-684
刊行物5:実願平3-53073号(実開平4-136252号)のマイク ロフィルム(同上甲第3号証)
刊行物6:実願昭61-107279号(実開昭63-13565号)のマ イクロフィルム(同上甲第11号証)
刊行物7:実公昭63-29421号公報(同上甲第12号証)
3-2.申立人 岡本英希提出の刊行物
甲第1号証:特開昭60-141220号公報(以下「刊行物8」という)
甲第2号証:特開昭50-109024号公報(上記「刊行物1」)
甲第3号証:実願平3-53073号(実開平4-136252号)のマイ クロフィルム(上記「刊行物5」)
甲第4号証:塗装技術便覧編集委員会編,「塗装技術便覧」,日刊工業新聞 社,昭和42年11月30日,表紙、p.6(目次)、
p.609、610、奥付(以下「刊行物9」という)
甲第5号証:実願昭57-30938号(実開昭58-135268号)の マイクロフィルム(以下「刊行物10」という)
甲第6号証:特開平2-48931号公報(以下「刊行物11」という)
甲第7号証:実願昭61-187429号(実開昭63-174871号) のマイクロフィルム(上記「刊行物2」)
甲第8号証:実願昭60-111697号(実開昭62-21380号)の マイクロフィルム(上記「刊行物3」)
甲第9号証:実願昭56-186828号(実開昭58-92969号のマ イクロフィルム(以下「刊行物12」という)
甲第10号証:特開昭60-153739号公報(以下「刊行物13」とい う)
甲第11号証:実願昭61-107279号(実開昭63-13565号) のマイクロフィルム(上記「刊行物6」)
甲第12号証:実公昭63-29421号公報(上記「刊行物7」)
甲第13号証:実公平1-12602号公報(以下「刊行物14」という)
甲第14号証:特開平7-79669号公報(本件の出願公開公報)
3-3.申立人 株式会社トーシン提出の刊行物
甲第1号証:特開昭60-141220号公報(上記「刊行物8」)
甲第2号証:特開平2-98376号公報(以下「刊行物15」という)
甲第3号証:実公昭31-10071号公報(以下「刊行物16」という)
甲第4号証:特開平3-219822号公報(以下「刊行物17」という)
甲第5号証:実願平3-105675号(実開平5-46423号)のマイ クロフィルム(以下「刊行物18」という)
甲第6号証:特開昭62-174701号公報(以下「刊行物19」という )

上記各刊行物には、以下の事項が記載されている。
〈刊行物1〉
「カーボンファイバーシャフトは、カーボンファイバーとエポキシ等の合成樹脂・・・とで構成されている」(1頁右欄1〜4行)
「カーボンファイバー等の繊維1を合成樹脂2で成型したカーボンファイバーシャフトの表面を、真空蒸着その他の任意手段によって金属薄膜3で被覆して成るゴルフクラブ用シャフトとした。」(1頁右欄16〜20行)
「なお、カーボンファイバーシャフトは黒色であるが、この発明による金属薄膜3には任意な金属を用いることができるので、その金属固有の色に仕上げることができるから、商品価値は向上する。」(2頁左欄12〜16行)
〈刊行物2〉
「アルミニウム合金の外周表面に合成繊維や炭素繊維で強化された樹脂層(FRP層)を設けることも提案されている・・・・・また、CFRP層を内層に設けたものは、その導電性のためにアルミニウム合金の電触が起るという問題もある。」(2頁1〜11行)
「1は本考案のポールの芯材を構成する軽量金属、例えばアルミニウム合金であり、2はプライマー樹脂層、3はガラス繊維強化樹脂層(GFRP層)、4は炭素繊維強化樹脂層(CFRP層)・・・プライマー樹脂層2は・・・と共に絶縁層として用いられるものであり、通常、・・・エポキシ系熱硬化性樹脂等が用いられる。」(3頁10〜18行)
「軽量金属の芯材1と導電性のCFRP層4との間には、絶縁性のプライマー樹脂層2及びGFRP層3が介在することから軽量金属からなる芯材1の電蝕が防止され、」(4頁3〜6行)
「炭素繊維強化樹脂層は炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸しながらフィラメントワインディング法によって製造してもよいし、一方向引揃え炭素繊維プリプレグを用いてもよい。」(5頁4〜8行)
〈刊行物3〉
「介在層における体積固有抵抗が1010ohm-cm以上の材料としては、・・・エポキシ樹脂・・・などの合成樹脂」(5頁12〜16行)
「合金材料からなるバットと炭素繊維層との間に絶縁材料からなる介在層を設けてなるものである。このように介在層を設けてなるものは、バット本体を構成する、例えばアルミニウム合金と炭素繊維層との界面で発生する電食作用を防止し、その結果アルミニウム合金が侵されることがなく、耐久性にすぐれる。」(6頁18行〜7頁5行)
「アルミニウムを主体とする合金からなる金属製バットの打球部に対応する内周面に、エポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維織布シート・・・を添着した。」(8頁6〜9行)
〈刊行物4〉
「通常使用されている厚さは、0.01〜0.2μ程度である.」(680頁12行)
「プラスチックに真空蒸着をする場合には,プラスチックの表面を平滑にし外観を向上させること」(683頁17、18行)
「皮膜の厚さが0.01〜0.2μ程度なので,表面保護のためにトップコートが行われる.」(683頁20、21行)
「トップコートに染料などを混合することにより,金色などのメタリックカラーを出すことができる.」(684頁6、7行)
〈刊行物5〉
「補強繊維を含むプラスチックで形成されたシャフト本体表面に5〜40μmの金属膜あるいは金属化合物膜を設けたことを特徴とするゴルフクラブシャフト。」(実用新案登録請求の範囲)
「(3)メタリック系の外観となり、意匠的に良好になる」(段落0008)
「上述のような金属膜としては、たとえばAl,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Pd,Ag,W,Pt,Auなどの金属あるいはこれらの一種以上の合金であることができる。」(段落0012)
「一方40μmを超えると、曲げにより金属膜または金属化合物膜に亀裂や、剥離が生じやすくなる。」(段落0014)
「上述の金属膜または金属化合物膜を形成する方法は、・・・例えば高周波スパッタリングなど金属膜ないし金属化合物膜を形成する従来の方法を使用することができる。」(段落0015)
〈刊行物6〉
「穂先部の凡そ30cm範囲に蛍光塗料を塗布する・・・・・投げ釣り竿。」(実用新案登録請求の範囲)
〈刊行物7〉
「合成樹脂系塗料に熱可塑性合成樹脂製細粒子の滑り止め材を混合して釣竿の外周適所に塗装し、」(実用新案登録請求の範囲)
「又、別の目的は・・・かつ魚のヌメリ、よごれを容易に洗い落すことのできる握り部を備えた釣竿を提案することにある。」(1頁2欄10〜14行)
〈刊行物8〉
「1.管状の釣竿素材1の表面にしごき塗装18を施し、乾燥して後に、研磨し、次に、所定模様Aの転写層20を形成した帯状転写フィルム21を加熱した押圧体22にて、上記研磨後の表面の所定部位に加熱加圧し、上記所定模様Aを転写し、その上にクリアコート層40を被覆することを特徴とする釣竿の製造方法。」(特許請求の範囲)
「第3図に管状の釣竿素材1を横断面にて示し、その材質はカーボンロッド、グラスファイバ、ボロン等が用いられ、透明、灰色、茶色等の任意の色のものがある。この釣竿素材1の表面に、ポリウレタン樹脂又はエポキシ樹脂にてしごき塗装18を全面に施こし(第4図参照)、次にこれを乾燥させて後に、第5図のように、400番〜600番の耐水サンドペーパー19に水を付けて研磨する。」(第2頁左下欄4〜11行)
「次に、第10図に示す如く、釣竿に転写された転写層20を含む釣竿外表面全体にクリアコート層40を被覆すれば、塗装仕上作業が完了する。」(第3頁右上欄17〜19行)
〈刊行物9〉
「蒸着の場合の塗装には蒸着前に基板に塗装する下塗り・・・と蒸着膜の表面に行なう上塗り・・・がある.両者の目的はおのずから異なり下塗りの必要性は,・・・(2)基板の表面には凹凸その他の不均一性が存在するので塗装によってこの不均一性を緩和して蒸着面の金属光沢をよりすぐれたものにする.」(609頁下から10〜3行)
「つぎに上塗りの目的は,(7)蒸着膜の基板への付着力はさほど強くないので,きずを与えるような外力や,水分,薬品による作用から蒸着面を保護する.(8)装飾効果を高めるために着色を行なう.」(610頁6〜10行)
〈刊行物10〉
「従来金属フードとリール脚を直接接触させてリール脚をリールシートに取りつけると、金属フードとリール脚間で電触現象が起こるため、両者間に合成樹脂製の補助材を挿入することが提案されている。」(1頁12〜16行)
〈刊行物11〉
「端部補強繊維強化熱硬化性樹脂パイプ本体層1は、炭素繊維、・・・のような高弾性繊維を強化材とした繊維強化熱硬化性樹脂であり、・・・熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、・・・が好適に使用できる。」(2頁右下欄7〜16行)
「5の電食防止層は、強化繊維として炭素繊維を用いた場合、パイプ本体層の炭素繊維と補強用金属リングを仕切り、絶縁することにより電食を防止する。炭素繊維と金属とが接触すると両者の電位差により電流が流れ金属の接触面が腐蝕するが、電食防止層はこのような腐蝕を防止する。」(3頁右上欄11〜17行)
〈刊行物12〉
「繊維強化樹脂製ゴルフクラブシャフトであって、その先端部に硬度の高い金属被覆層を設けたゴルフクラブシャフトにある。」(2頁10〜13行)
「本考案のゴルフクラブシャフトを作るに際して用いるFRP作製用繊維としては、炭素繊維、・・・などを挙げることが出来、・・・又、補強用繊維の担体として用いる樹脂としては、・・・例えばエポキシ樹脂、・・・を挙げることが出来る。」(2頁14行〜3頁5行)
「この被覆層の形成は・・・スパッ夕リング法・・・を用いることができ、補強用繊維として導電性繊維、例えば炭素繊維を用いる場合にはゴルフクラブシャフトの要被覆部を表面研磨することによって導電性補強繊維を露出せしめた后、金属被覆処理することによって、より金属被覆層のゴルフクラブシャフト本体に対する密着性が向上するので、更に耐擦過性良好なゴルフクラブシャフトとすることができる。」(5頁3〜13行)
〈刊行物13〉
「炭素繊維等で補強された合成樹脂で形成された釣竿素材(1)の表面を研磨しこれに下地塗料層(2)と必要に応じて・・・下地塗料層(3)を均一の厚さに塗布する。次いで前記下地塗料層(3)の上面にボカシ模様形成塗料層(4)を長手方向に厚みが漸減又は漸増するように塗布した後、更に該ボカシ模様形成塗料層(4)の外表面に着色又は無色の透明塗料層(5)を塗布してボカシ模様を形成するものである。」(2頁左上欄1〜11欄)
「またボカシ模様形成塗料層はその外表面に塗布する透明塗料層によって剥離することも防止され、」(2頁右上欄16行〜左下欄1行)
〈刊行物14〉
「カーボン粉末を混入した透明樹脂塗料を塗布した釣竿。」(実用新案登録請求の範囲)
〈刊行物15〉
「(1)高強度、高弾性繊維と熱硬化、熱可塑性樹脂とで構成されるゴルフクラブ用シャフトにおいて、カーボン等の有機繊維、その他の金属、有機無機繊維に上記樹脂を含浸して構成した積層管の外層へ、内面に金属面を有し、表面に樹脂塗膜を施こしたグラス等の有機、無機繊維で織成した織物に上記樹脂を含浸してなる透明金属面層を所望態様に設けて成ることを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。」(特許請求の範囲)
「当該シャフト1の本体をなす積層管2と、成形後透明になるグラス、セラミック、ポリエステル、ポリエチレン等の有機、無機繊維で織成した織物の片面に、チタン、窒化チタン、アルミ、ニツケル.銅等の金属をメッキ、もしくは蒸着し、これにエポキシ樹脂、その他の熱硬化、熱可塑性樹脂を含浸してクロスプリプレグ3aとし、該プリプレグ3aを上記積層管2の外周に金属面3bが内側となるように装着し、加熱硬化して成形した透明金属面層3と、該透明金属面層3の外周を必要に応じて研磨した後、エポキシ樹脂等の上記樹脂を塗装して得た樹脂塗膜4とで構成されている。上記積層管2は、東レ、トレカT300へ、エポキシ樹脂を33wt%含浸し、半乾燥したカーボン繊維エポキシプレプリグ・・・を」(2頁左下欄16行〜右下欄12行)
〈刊行物16〉
「真空メッキ方法」(1頁左欄下から3行)
「竹、木等の竿1の外周に金属メッキ層2を形成した釣竿の構造」(登録請求の範囲)
〈刊行物17〉
「(1)部材本体に、光反射用粒子を混在させた透光性を有する透明樹脂層を形成し、この透明樹脂層の外側に、透光性を有する透明保護層を形成してなることを特徴とする部材の表層部構造。」(特許請求の範囲)
「本発明は、釣竿、ゴルフクラブ、・・・に係わり、」(1頁6、7行)
「この部材本体11は、高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを巻装して形成されている。なお、ここで高強度繊維には、例えば、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の繊維が使用され、合成樹脂には、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂が使用される。」(2頁右下欄10〜15行)
〈刊行物18〉
「【請求項1】繊維強化樹脂で形成した内層の外周に、強化繊維にガラス繊維織布を使用しかつ外側面に金属薄膜を設けた繊維強化樹脂の中間層を巻回形成すると共に該中間層の外側に強化繊維として長手方向の引揃ガラス繊維を使用した繊維強化樹脂の外層を一体的に形成したことを特徴とするゴルフクラブシャフト等の管状体。」(実用新案登録請求の範囲)
「本考案はゴルフクラブシャフト、釣竿、自転車のフレーム等の管状体」(段落0001)
「炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性合成樹脂を含浸したプリプレグを巻回形成した繊維強化樹脂からなる内層1」(段落0007)
「前記金属薄膜2としてはチタン、タングステン等のアモルファス金属や結晶金属をスパッタ法などの蒸着、メッキ処理等により中間層3の外面1μm程度の厚さ一体的に被着するものであり、更に前記外層4の表面には透明又は透光性塗料の塗膜6を形成することもできる。」(段落0008)
〈刊行物19〉
「カーボン繊維強化プラスチック積層品を平滑処理した面に金属を蒸着させて鏡面を形成するカーボン繊維強化プラスチックミラーの製造法」(特許請求の範囲)
「繊維強化プラスチック(FRP、たとえばCFRP)」(1頁右下欄下から7、6行)
「CFRP積層品は、一般にカーボンクロスに熱硬化性樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂組成物)を含浸して、加熱プレス成型して得られる」(2頁右上欄1〜3行)

4.対比・判断
i.特許法第29条第2項について
〔本件請求項1に係る発明について〕
本件請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という)の構成要件のうち、「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする物品本体」は、上記刊行物1に記載されているが、本件発明1のその余の構成要件である、「物品本体の外側に、表面を略鏡面状に平滑形成した絶縁性合成樹脂による被膜層を形成し、該合成樹脂被膜層の表面に金属を物理蒸着した1ミクロン程度以下の薄い装飾層を形成し、該装飾層の外側に透明か半透明の保護層を形成したことを特徴とする釣竿又はゴルフクラブシャフト」は、本件発明1に対して引用された上記刊行物1〜5、8〜12、15〜19のいずれにも記載されておらず、また、上記いずれの刊行物にも、上記構成を備えた物品本体の外側に、上記構成を備えた被膜層、装飾層、保護層を順に形成することを示唆する記載はない。
上記刊行物1及び5には、物品本体の外側に、絶縁性合成樹脂による被膜層を形成することなく、直接、金属を物理蒸着したゴルフクラブシャフトが、
上記刊行物2及び3には、電食を防止するために、金属材料と炭素繊維強化樹脂層との間に、絶縁性の合成樹脂層を介在することが、
上記刊行物4には、プラスチックに真空蒸着をする場合には,プラスチックの表面を平滑にし外観を向上させること、及び、皮膜の厚さが通常0.01〜0.2μ程度なので、表面保護のためにトップコートが行われることが、
上記刊行物8には、カーボンロッド、グラスファイバ、ボロン等の材質の釣竿素材の表面に、ポリウレタン樹脂又はエポキシ樹脂にてしごき塗装を全面に施こし、次にこれを乾燥させて後に、400番〜600番の耐水サンドペーパーに水を付けて研磨し、次に、釣竿に転写された転写層を含む釣竿外表面全体にクリアコート層を被覆することが、
上記刊行物9には、蒸着前に基板に下塗り塗装をし、蒸着膜の表面に上塗り塗装を行うことが、
上記刊行物10には、金属フードとリール脚間で電触現象が起こるため、両者間に合成樹脂製の補助材を挿入することが、
上記刊行物11には、電食防止層は、炭素繊維を用いた繊維強化熱硬化性樹脂のパイプ本体層の炭素繊維と補強用金属リングを仕切り、絶縁することにより電食を防止することが、
上記刊行物12には、補強用繊維として導電性繊維、例えば炭素繊維を用いる場合にはゴルフクラブシャフトの要被覆部を表面研磨することによって導電性補強繊維を露出せしめた后、金属被覆処理することにより、金属被覆層のゴルフクラブシャフト本体に対する密着性がより向上することが、
上記刊行物15には、カーボン繊維エポキシプレプリグを構成材料とした積層管と、該積層管の外周に装着した、内面に金属を蒸着した織物に樹脂を含浸してなる透明金属面層と、該透明金属面層の外周を研磨した後、樹脂を塗装して得た樹脂塗膜とで構成される、ゴルフクラブ用シャフトが、
上記刊行物16には、竹、木等の竿の外周に真空メッキ方法により金属メッキ層を形成した釣竿が、
上記刊行物17には、部材本体が、カーボン繊維とエポキシ樹脂が使用されるプリプレグを巻装して形成されている、釣竿、ゴルフクラブが、
上記刊行物18には、炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸したプリプレグを巻回形成した繊維強化樹脂からなる内層を有し、強化繊維にガラス繊維織布を使用しかつ外側面に、物理蒸着により1μm程度の厚さで一体的に被着した金属薄膜を設けた繊維強化樹脂の中間層を有し、外層の表面には透明又は透光性塗料の塗膜6を形成する、ゴルフクラブシャフト、釣竿の管状体が、
上記刊行物19には、カーボンクロスにエポキシ樹脂組成物を含浸して加熱プレス成型して得られるCFRP積層品を平滑処理した面に、金属を蒸着させて鏡面を形成する、カーボン繊維強化プラスチックミラーの製造法が、
それぞれ記載されているのみであり、上記各刊行物に記載された事項を組み合わせて本件発明1を想到することに困難性がある。
そして、本件発明1は、本件特許明細書に記載の「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする釣竿又はゴルフクラブシャフトからなる物品本体と金属の装飾層との間に絶縁性の合成樹脂被膜層を形成しているために、電食が防止され、物理蒸着では基板との密着性が優れていることと併せて金属装飾層の剥離やクラックが生じ難くなる。更には、物理蒸着では蒸着層は薄く形成できるため、竿等の物品が軽量化できると共に、曲げ等の変形が発生してもクラックが生じ難い。特に1ミクロン程度以下の厚さであるため、曲げが作用してもクラックが生じ難い。また、保護層の存在によって薄い金属装飾層が保護を受け、信頼性が高まり、長期間良好な装飾性が保持される。また、蒸着の基板表面である合成樹脂被膜層の表面が略鏡面状に形成されているため、金属の装飾層は滑らかに形成されてその光輝性が一段と向上する。従って、クラックや剥離の発生しない高強度であって信頼性が高く、しかも軽量で外観の優れた装飾を施した釣竿又はゴルフクラブシャフトが提供できる。」という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1〜5、8〜12、15〜19に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、本件発明1の特許を取り消すことはできない。

〔本件請求項2ないし4に係る発明について〕
本件請求項2ないし4に係る発明(以下「本件発明2ないし4」という。)は、本件発明1と同じ、「物品本体の外側に、表面を略鏡面状に平滑形成した絶縁性合成樹脂による被膜層を形成し、該合成樹脂被膜層の表面に金属を物理蒸着した1ミクロン程度以下の薄い装飾層を形成し、該装飾層の外側に透明か半透明の保護層を形成したことを特徴とする釣竿又はゴルフクラブシャフト」という構成要件を有している。
したがって、本件発明2ないし4も、上記〔本件請求項1に係る発明について〕で判断したと同じく、上記刊行物1〜19に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、本件発明2ないし4の特許を取り消すことはできない。

ii.特許法第17条第2項について
出願当初の明細書には、「図1は物品の1例としての釣竿の元竿10を示す。・・・エポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸し、カーボン繊維等を強化繊維とする繊維強化プリプレグを巻回して形成した竿管本体層12」(段落【0007】)、「繊維強化プリプレグによって形成された竿管本体層12」(段落【0009】)「物品の構成材料として、釣竿のような繊維強化合成樹脂材・・・がある」(段落【0013】)と記載され、これらの記載からみて、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載の「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする」点は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内のものと認められる。
したがって、申立人の主張は採用しない。

iii.特許法第36条第4項ないし第6項について
本件特許明細書の特許請求の範囲において、物品本体と金属を物理蒸着して形成した装飾層の間に、電食を防止するための「絶縁性合成樹脂による被膜層を形成」することを、発明の構成に欠くことができない事項として記載していることから、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載の「強化繊維としてカーボン繊維を有し、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用した繊維強化合成樹脂材を構成材料とする物品本体」という事項は、物品本体の表面にカーボン繊維が全く存在しないものを前提としていないことは明らかである。
したがって、申立人の主張は採用しない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-19 
出願番号 特願平6-23521
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01K)
P 1 651・ 534- Y (A01K)
P 1 651・ 55- Y (A01K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 白樫 泰子
鈴木 寛治
登録日 2001-02-16 
登録番号 特許第3159592号(P3159592)
権利者 ダイワ精工株式会社
発明の名称 金属装飾層を有する物品  
代理人 須賀 総夫  
代理人 越智 俊郎  

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