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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F16D
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F16D
管理番号 1069713
審判番号 訂正2002-39023  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-12-17 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-01-24 
確定日 2002-12-09 
事件の表示 特許第2542300号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2542300号に係る発明についての出願は、昭和61年11月7日に出願された特願昭61-266257号の一部を平成3年9月9日に新たな特許出願としたものであって、平成8年7月25日にその発明について特許権の設定の登録がされた。その後、その特許について特許異議の申立てがなされ、異議手続の過程で平成9年12月1日に訂正請求がなされ、平成10年4月13日にその訂正を認め特許を維持する決定がされたところ、平成10年10月2日に大岡技研株式会社より当該特許を無効にすることを求めて審判請求(平成10年審判第35476号)がなされ、平成11年3月5日に「本件審判の請求は成り立たない」との審決がされ、東京高等裁判所にこの審決の取消しを求める訴えがなされ、平成13年9月20日に上記審決を取り消すとする判決(平成11年(行ケ)98号)が言い渡され、平成14年1月24日に本件訂正審判の請求がなされた。これに対し、当審において、平成14年6月13日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年8月19日に意見書の提出がなされた。

2.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2542300号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正の内容は下記のとおりである。なお、下線は対比の便のため、当審において付したものである。
(1)訂正事項a
本件訂正前の特許明細書における特許請求の範囲の請求項1の記載
「逆テーパ状のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、前記ダイの先端の形状に従う形状に形成されてなることを特徴とする変速用歯車。」を、
「逆テーパ状のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを、該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、前記ダイの先端の形状に従う形状に形成されてなることを特徴とする変速用歯車。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0006】中の、
「逆テーパ状のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、」の記載を、
「逆テーパ状のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを、該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、」と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0017】中の、
「逆テーパ状のスプライン歯を、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことにより形成するようにしているため、」の記載を、
「逆テーパ状のスプライン歯を、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを、該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことにより形成するようにしているため、」と訂正する。

3.訂正の目的の適否についての検討
そこで、上記訂正事項について、訂正の目的の適否について検討する。
訂正前の特許明細書には、段落番号【0015】に、「次に、上型取付台12を降下させるとばね圧下にある上型11にて素材FWは上下両型間にて挟持されるとともに、この上型取付台12の降下にて、カム21の上面を素材FWの挟持より少し遅れて押圧する。これにより、カム21及びフランジ18が押し下げられることになり、これによってカム21のテーパ状をしたダイ押圧面21Tにてダイ23の後端部23Tが押され、各ダイ23は下型13の中心に向かう方向、すなわち歯車の軸心方向に摺動し、ダイ23の先端23Dにて素材FWのスプライン歯4は所定の逆テーパ状のスプライン歯に成形される。その後、上型取付台12を上昇させるとともに、ノックアウトピン19を押し上げる。これにより、フランジ18も復帰する。このフランジ18の復帰、すなわち上昇にてカム21も上昇するが、このカム21に傾斜して突設されたピン22がダイ23のピン孔23Hに挿通されているので、このピン22の上昇に合わせて、下型13に嵌挿された状態で放射状にのみ摺動できるようになっているダイ23が歯車の軸心方向と逆方向に強制的に摺動、復帰する。」と記載されている。

この記載からみて、上型取付台12が降下するとカム21が押し下げられ、カム21のテーパ状をしたダイ押圧面21Tによりダイ23の後端部23Tが押され、各ダイ23が下型13の中心に向かう方向、すなわち歯車の軸心方向に摺動し、カム21が上昇すると、カム21に傾斜して突設されたピン21により、カム21の上昇に合わせてダイ23が軸心方向と逆方向に強制的に引き抜かれることが把握できる。

してみると、前記訂正事項aにおける「該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、」及び「前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、」は、それぞれ「歯車軸線に対して放射状に配設したダイ」を、「歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込」むこと及び「歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くこと」を限定するものと認められるから、訂正事項aは、その特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

次に、前記訂正事項b及びcは、本件請求項1の記載内容を訂正事項aにより訂正することにより生じたところの段落【0006】及び段落【0017】の記載内容の整合性を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

4.独立特許要件の検討
次に、訂正明細書の請求項1に係る発明について、独立特許要件の検討を行う。

4-1 本件訂正発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 鍛造にて一体に成形した変速用歯部と、この変速用歯部より小径のボス部とからなり、該ボス部の外周に逆テーパ状で、先端にチャンファを有するスプライン歯を形成した変速用歯車であって、前記逆テーパ状のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで形成した歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを、該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、前記ダイの先端の形状に従う形状に形成されてなることを特徴とする変速用歯車。」

4-2 引用刊行物の記載事項
これに対して、平成14年6月13日付けで通知した訂正拒絶理由においては下記の刊行物1〜5が引用され、各刊行物には、以下の技術的事項が記載されている。
刊行物1:国際公開WO86/00838号パンフレット
刊行物2:特開昭52-61162号公報
刊行物3:特開昭53-64897号公報
刊行物4:特開昭58-119431号公報
刊行物5:特開昭57-208324号公報

刊行物1(国際公開WO86/00838号パンフレット):
刊行物1に関しては、その公表特許公報である特表昭61-502736号公報が発行されているので、これに基づいて記載内容を摘記する。
(1-イ)「アンダーカット歯を有する短い噛合せを設けたシフトトランスミッション用の同期部品を精密鍛造により製造するに際し、半径方向内側が共通の円筒状表面に当接しかつ基部が共通の下部平面に位置する歯を先ず平行な歯面を設けて作成し、次いでこれを最終クレンチ処理にかける同期部品の製造方法において、
(a)予備鍛造により、短い噛合せが仕上り歯頂部(10)より大きい過大寸法を有する歯(7)を備えた半製品を形成し、
(b)次ぎの1回もしくはそれ以上の較正サイクルによって冷半製品を以下のような作用にかけ、すなわち
(aa)先ず最初に歯頂部(10)を予備クレンチ処理にかけ、その間歯の半径方向外側を鍛造用ダイ側部に支持し、
(bb)予備クレンチ操作と同時に、または他の較正サイクルにより歯面(9)に下表面(5)まで丸味を付けて各場合に歯(7)の基部領域に冷時圧縮を生ぜしめ、
(cc)最終クレンチ操作に際し歯頂部にルーフ形状を与えると共に、歯面にはそのアンダーカットに対応する傾斜を与えることを特徴とする同期部品の製造方法。」(公表公報の特許請求の範囲第1項)

(1-ロ)「第2図はこの種のセグメント8の断面を示し、既成の成型歯7と製作工程の中間段階を示す他の2個の歯とを備える。(aa)で示した右側の歯は、熱鍛造法により製作された半製品の歯形状を有する。この歯はセグメント8に対し半径方向平面に沿って延在する歯面9とルーフ形状の歯頂部10とを備え、このルーフ形状はセグメント8の上部平面より僅か上方に位置する。左側には、(cc)で示して仕上り歯7を示し、カップリング面を形成する歯面の傾斜が誇張して示されている。」(同第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第2行)

これらの記載及び図面の記載からみて、当該刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「鍛造にて一体に成形した環状本体3と、この環状本体3より小径の円筒状表面6とからなり、該円筒状表面6の外周に逆テーパ状で、先端にチャンファを有する歯7を形成したシフトトランスミッション用の同期部品であって、前記逆テーパ状の歯7が、円筒状表面6の根元まで形成したものであるシフトトランスミッション用の同期部品」
そして、第2図によれば、逆テーパ状に形成される前段階の歯7が、鍛造により円筒状表面6の根元まで形成された歯車軸線に平行なスプライン歯であることが開示されていると認められる。

刊行物2(特開昭52-61162号公報):
(2-イ)「本発明は歯車特に自動車用マニュアルトランスミッションギヤのボス外周に形成されスプライン溝に歯車抜け止め用の逆テーパを塑性成形加工する装置に関する。」(第1頁左下欄第13行〜第16行)

(2-ロ)「ボス部3にスプライン加工した歯車1を基台6に螺着した固定保持台5上に装着し、前記スプラインの溝4に各成形加工工具8の逆テーパ刃型7が指向するように前記歯車1を位置決めして昇降駆動杆19を適宜の駆動装置(図示せず)によって下降させ、押動カム部材14をスプリング15に抗して押下すると、その押動カム面13は成形加工工具8の後端部カム面12に当接して該成形加工工具8を板バネ10の弾力に抗してガイド板9に沿って求心方向に前進移動させ、成形加工工具の先端にある逆テーパ刃型7を前記夫々のスプライン溝4内に押嵌圧入し、該スプライン溝4の両側壁に逆テーパを冷間成形する。」(第2頁左上欄第12行〜同右上欄第5行)

(2-ハ)「かかる逆テーパ成形工程を終了すると昇降駆動杆19を上昇操作すれば押動カム部材14はスプリング15によって上動復帰し、それに伴って成形加工工具8は板バネ10によって遠心方向に後退移動し逆テーパ刃型7はスプライン溝4より離脱して復帰する。」(第2頁右上欄第6行〜第11行)

上記記載及び図面の記載からみて、刊行物2には、自動車用の変速機に使用されるトランスミッション用の歯車のスプライン溝を塑性加工して、逆テーパ歯とする装置とその方法が記載されているとともに、「ボス部3の根元に溝を有し、歯車軸線に平行なスプライン溝4間に、歯車軸線に対して放射状に配設した成形加工工具8を歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記成形加工工具8を引き抜くことにより前記成形加工工具8の先端の形状に従う形状に形成されてなる変速用歯車」が記載されていると認められ、さらに、成形加工工具8を、該成形加工工具8の後端に配設したカム部材14を押し下げ、該カム部材14のテーパ面にて押圧することにより、押し込むことが記載されていると認められる。

刊行物3(特開昭53-64897号公報):
(3-イ)「本発明は、トランスミッション用ギヤの歯車ボス部に形成されたスプライン歯の歯面と歯車側の平面間の角に付着しているバリを除去し、かつ前記スプライン溝にギヤ抜け止め用の逆テーパを成形する加工装置に関するもので、バリの除去とスプライン溝に逆テーパを成形する塑性加工とを単一の加工工具、単一の装置で連続的に行いうるバリ取り機能を備えた歯車ボス部のスプライン溝に逆テーパを成形する加工装置を提供することを目的としている。」(第1頁右下欄第13行〜第2頁左上欄第6行)

(3-ロ)「前記ワーク1を高さ方向に逆テーパ成形位置へ下降させたのち、第2の操作部を構成するラム39を下降させ、カム34をバネ36に対抗して押し下げ、カム34のカム面35で第2のカム面32を押圧し、成形加工工具29を第7図に示されるように、バリ取り位置(a)から逆テーパを成形する位置(b)へ強制的に押進させ、刃先30で第8図に示されるように逆テーパ9を成形する。逆テーパの成形後、第2の操作部のラム39を上昇させると、バネ36によりカム34が上昇せしめられ、成形加工工具29に対する押圧力が解除され、成形加工工具29はバリ取り位置(a)方向に戻りうるようになる。」(第4頁右上欄第8行〜同左下欄第5行)

上記記載及び図面の記載からみて、当該刊行物3には、自動車用の変速機に使用されるトランスミッション用の歯車のスプライン溝を塑性加工して、逆テーパ歯とする装置とその方法が記載されていると認められるとともに、「ボス部の根元に溝を有し、歯車軸線に平行なスプライン歯4間に、歯車軸線に対して放射状に配設した成形加工工具29を歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記成形加工工具29を引き抜くことにより前記成形加工工具29の先端の形状に従う形状に形成されてなる変速用歯車」が記載されていると認められ、さらに、成形加工工具29を、該成形加工工具29の後端に配設したカム34を押し下げ、該カム34のテーパ面にて押圧することにより、押し込むことが記載されていると認められる。

刊行物4(特開昭58-119431号公報):
(4-イ)「この発明は、例えば車両のパワーステアリング装置のロータリー型コントロールバルブ等に用いられるロータリーバルブシャフトを加工するプレス型に関する。」(第1頁左下欄第15〜18行)

(4-ロ)「これら横孔(17)内にはそれぞれ工具としてのポンチ(18)が設けられており、これらポンチ(18)はその軸方向へ摺動自在である。ポンチ(18)の一端はエツヂを有する加工部(18a)となっており、またポンチ(18)の他端は斜面を有するスライドカム部(18b)となっている。またポンチ(18)の他端下部には斜壁面(19a)を有する穴(19)が設けられている。」(第2頁左下欄第6〜13行)

(4-ハ)「クッションプレート(20)上面にはカム部材(24)が固着されており、このカム部材(24)はその上面で前記押しブロック(13)が当接可能である。そしてカム部材(24)の一端面は斜面を有するドライブカム部(24a)となっており、このドライブカム部(24a)と前記スライドカム部(18b)とは整合している。また、クッションプレート(20)上面には斜面(25a)を有する突起(25)が設けられており、この突起(25)は前記穴(19)内に挿入してその斜面(25a)と穴(19)の斜壁面(19a)とは整合している。」(第2頁右下欄第8〜18行)

(4-ニ)「そして、この押しブロック(13)の下方への移動によりドライブカム部(24a)とポンチ(18)のスライドカム部(18b)とが摺り合ってポンチ(18)を一端方向へ移動させる。この結果、ポンチ(18)が嵌合穴(16)内に突出してロータリーバルブシャフト(1)に接近し、その加工部(18a)によりポート溝(2)のチャンファ部(3)に前述した段差(4)をプレス成形する。」(第3頁右上欄第1〜7行)

(4-ホ)「次いで、このようにロータリーバルブシャフト(1)に段差(4)をプレス加工した後、駆動手段により上ホルダ(10)を再び上方へ移動させる。この結果、 押しブロック(13)およびクッションプレート(20)はスプリング(21)によりガイドシャフト(23)の頭部(23a)が段差孔(22)の段部(22a)に当接するまで上方に移動される。そして、このクッションプレート(20)の上方への移動に伴なって、突起(25)の斜面(25a)と穴(19)の斜壁面(19a)とが摺り合う。このため、ポンチ(18)は他端方向へ移動せられて、横孔(17)内へ引っ込みロータリーバルブシャフト(1)から離隔する。」(第3頁右上欄第15行〜同左下欄第5行)

上記記載及び第2,3図の記載からみて、刊行物4には、
「ロータリーバルブシャフト(1)軸線に対して放射状に配設したポンチ(18)を、ポンチ(18)の後端に配設したカム部材(24)を押し下げ、該カム部材(24)のテーパ面にて押圧することにより、前記軸線に直角方向に強制的に摺動させて押し込んだ後、該カム部材(24)を押し上げながら、該カム部材(24)と一体に設けた突起(25)の斜面(25a)によりポンチ(18)にカム部材(24)の上昇に合わせた引き抜き量を作用させること」が記載されていると認められる。

刊行物5(特開昭57-208324号公報):
(5-イ)「本発明は、シンクロメッシュ機構におけるカップリングスリーブの追加工方法及びその装置に関するものである。」(第1頁右下欄第4〜6行)

(5-ロ)「ガイド部材4の中央穴9には、プレス軸14を摺動可能に配置してあり、このプレス軸14の各駒11と対応する位置には、駒11内側のテーパ面13と対応するテーパ面15があり溝40とともに形成してある。このあり溝40には前記駒11の凸部が挿入されプレス軸14の摺動運動にともなう駒11の進退を司る。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁左上欄第2行)

(5-ハ)「押しつぶし加工終了後は、押え軸16に加えた荷重を除去することにより、戻し手段23のばね反力によって小径部31が、プレス軸14および駒11を原位置に復帰させるので、押え軸16および外筒18をそれぞれプレス軸14およびカップリングスリーブ半製品5から離間させることにより、成形終了後のカップリングスリーブを容易に取り出すことができる」(第3頁左下欄第14〜20行)

上記記載及び第3,4図の記載からみて、刊行物5には、
「駒11の後端に配設したプレス軸14を押し下げ、プレス軸14のテーパ面にて押圧することにより、駒11を強制的に摺動させて押し込んだ後、プレス軸14を押し上げながら、プレス軸14に設けたテーパ面により駒11にプレス軸14の上昇に合わせた引き抜き量を作用させること」が記載されていると認められる。

4-3 対比・判断
そこで、本件訂正発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明における「環状本体3」は本件訂正発明における「変速用歯部」に相当し、以下同様に「円筒状表面6」は「ボス部」に、「歯7」は「スプライン歯」に、「シフトトランスミッション用の同期部品」は「変速用歯車」にそれぞれ相当するから、両者は、
「鍛造にて一体に成形した変速用歯部と,この変速用歯部より小径のボス部とからなり、該ボス部の外周に逆テーパ状で、先端にチャンファを有するスプライン歯を形成した変速用歯車であって、前記逆テーパ状に形成される前段階のスプライン歯が、鍛造によりボス部の根元まで予め形成された歯車軸線に平行なスプライン歯」
であることで一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件訂正発明が、「歯車軸線に対して放射状に配設したダイを、該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜くことによりボス部の根元まで形成されるとともに、前記ダイの先端の形状に従う形状に形成されてなること」の構成を有しているのに対し、刊行物1記載の発明はこの構成を有していない点。

この相違点について検討する。
刊行物2、3には、前記のとおり、自動車用の変速機に使用されるトランスミッション用の歯車のスプライン溝を塑性加工して、逆テーパ歯とする装置とその方法が記載されており、刊行物2、3に記載の発明が、本件訂正発明と同じ技術分野に属することは明らかである。
また、刊行物2、3には、本件訂正発明の用語を用いると「ボス部の根元に溝を有し、歯車軸線に平行なスプライン歯間に、歯車軸線に対して放射状に配設したダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心に向って強制的に摺動させて押し込んだ後、前記ダイを引き抜くことにより前記ダイの先端の形状に従う形状に形成されてなる変速用歯車」が記載されているとともに、ダイの押し込みを、「該ダイの後端に配設したカムを押し下げ、該カムのテーパ面にて押圧することにより、」行うことも記載されている。

次に、「前記カムを押し上げながら、該カムに設けた傾斜部材により前記ダイにカムの上昇に合わせた引き抜き量を作用させて、前記ダイを歯車軸線に直角方向に歯車中心から外側に向って強制的に摺動させて引き抜く」点について検討するに、刊行物2に記載の発明においては板バネによりダイを強制的に摺動させて引き抜くものであるが、ダイは押し込みの後、何らかの手段により引き抜く必要があることは明らかである。
前述のように、ダイの引き抜き手段として、刊行物4には、カム部材を押し上げながら、該カム部材と一体に設けた突起の斜面、すなわち傾斜部材によりポンチにカム部材の上昇に合わせた引き抜き量を作用させて行うことが記載されており、また、刊行物5には、カムであるプレス軸を押し上げながら、プレス軸に設けたテーパ面、すなわち傾斜部材により駒にプレス軸の上昇に合わせた引き抜き量を作用させることが記載されている(なお、訂正発明では具体的には傾斜したピンを用いているが、引き抜き量を作用させる機能には何ら差異がない。)。前記ポンチ及び駒はいずれも塑性加工に用いる工具であって、刊行物4、5に記載された加工方法と刊行物2、3に記載された加工方法とは、自動車部品等に適用する塑性加工方法として共通するものである。

そして、刊行物2、3に記載の歯車のボス部の根元に環状溝(ぬすみ)が存在することが、刊行物2、3に開示されている上記スプライン溝を塑性加工して逆テーパ歯とする技術を刊行物1記載の技術に適用することを妨げる特段の事情を見いだすことができず、さらに、刊行物2、3に記載された各塑性加工方法が、切削加工で製作された半製品でないと適用できないとする技術的理由も認めることができない(平成11年(行ケ)第98号判決文の第5(3)「進歩性の判断について」ア欄を参照)。また、刊行物4、5に記載の塑性加工方法についても、刊行物1に記載の発明に適用することを妨げる特段の事情も認められない。
したがって、刊行物1に記載の発明に刊行物2〜5に記載された各塑性加工方法を適用して、上記相違点に係る本件訂正発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

なお、請求人は意見書において、刊行物4,5に記載された塑性加工方法を、加工対象を全く異にする変速用歯車のボス部外周のスプライン歯の成形に適用することは容易になし得ることでなく、また刊行物2,3に記載された発明は押し込んだダイを引き抜く手段が記載された一応完結した発明である旨を主張している(意見書第5頁第14〜25行参照)。
しかしながら、上記のとおり、刊行物4、5に記載された発明と刊行物2、3に記載された加工方法とは、自動車部品等に適用する塑性加工方法として共通するものであるとともに、被加工物の軸線に対して放射状に配設された工具をカムにより押し込み、引き抜くという加工形態も同じであることから、刊行物2、3に記載された発明における引き抜き手段として、カムに設けた傾斜部材により引き抜き量を作用させることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

4-4 独立特許要件のまとめ
よって、本件訂正発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反しており、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-10-07 
結審通知日 2002-10-10 
審決日 2002-10-29 
出願番号 特願平3-255864
審決分類 P 1 41・ 121- Z (F16D)
P 1 41・ 856- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 亨高木 彰遠藤 謙一  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 秋月 均
船越 巧子
常盤 務
村本 佳史
登録日 1996-07-25 
登録番号 特許第2542300号(P2542300)
発明の名称 変速用歯車  
代理人 林 清明  
代理人 森 治  

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