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審決分類 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B02C
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B02C
管理番号 1070033
審判番号 審判1999-35020  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-12-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-01-12 
確定日 2003-01-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2813572号「シュレッダー用切断刃」の特許無効審判事件についてされた平成12年 4月24日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成12(行ケ)年第204号平成13年 3月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2813572号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【手続きの経緯及び当事者の主張等】
1.手続の経緯
(1)本件特許第2813572号は、平成3年6月14日に出願された実願平3-44866号の一部を実用新案法第9条第1項の規定により準用する特許法第44条第1項の規定に基づいて新たな実用新案登録出願とした実願平7-3054号を、特許法第46条第1項の規定に基づいて特許出願とし、平成10年8月7日に特許権の設定登録がなされた。
(2)請求人日本スピンドル製造株式会社より特許無効の審判の請求があり、平成12年4月24日「特許第2813572号発明の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がなされた。
(3)上記審決の取り消しを求める訴え(平成12年(行ヶ)第204号)が提起された。
(4)上記訴えの訴訟手続中の平成12年11月17日付けで、願書に添付した明細書について訂正を求める審判の請求(訂正2000-39142号)がなされ、当該審判の請求に対し、平成13年1月17日「訂正することを認める」旨の審決がなされ、この審決は平成13年2月5日に確定した。
(5)上記訂正の審判の審決が確定したことを受けて、平成13年3月26日付けで、上記(3)の訴えについて「特許庁が平成11年審判第35020号事件について平成12年4月24日にした審決を取り消す。」との判決の言い渡しがあった。
(6)平成13年8月20日付けで、請求人より、上記訂正認容後の本件特許発明が特許要件を欠くものである旨の意見書が提出された。
(7)平成13年9月14日付けで、特許法第153条第2項の規定に基づいて、本件特許の無効の理由が通知された。
(8)被請求人から、上記無効の理由の通知書で指定した期間内の平成13年11月19日付けで、意見書及び明細書についての訂正請求書が提出された。
(9)平成13年12月11日付けで、訂正拒絶理由が通知された。
(10)被請求人から、上記訂正拒絶理由通知書で指定した期間内の平成14年2月15日付けで、意見書が提出された。
2.当事者の求めた審判
(1)請求の趣旨
特許第2813572号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
(2)答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める。
3.請求人の主張及び提出した証拠
本件特許の請求項1に係る発明は、次の甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載されたような周知の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
・甲第1号証……実公昭57-31953号公報
・甲第2号証……実公昭57-42518号公報
・甲第3号証……欧州特許出願公開第0401620号明細書(1990 年)
・甲第4号証……実公昭40-28155号公報
・甲第5号証……実公昭42-18397号公報
・甲第6号証……平成3年実用新案登録願第44866号の出願関係書類
・甲第7号証……「特許技術用語集」日刊工業新聞社発行(1997年4月 18日 初版1刷発行) 、第47頁、奥付
・甲第8号証……平成12年12月11日付け上申書(訂正2000-39142号関係書類)
4.無効理由通知の概要
平成13年9月14日付けで通知した無効理由の概要は、
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である実公昭57-42518号公報(以下「刊行物1」という。)及び欧州特許出願公開第0401620号明細書(1990年、以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである.
というものである。
5.被請求人の対応及び主張並びに提出した証拠
被請求人は、本件請求項1に係る発明は、上記甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない旨主張するとともに、上記無効理由の通知に対して平成13年11月19日付けで明細書についての訂正請求書を提出し、同日付けの意見書及び訂正拒絶理由通知に対する平成14年2月15日付け意見書において、概略以下のイ)〜ヲ)を主張する。
イ)平成13年11月19日付けで提出した本件訂正明細書の請求項1に係る発明の刃先片の「段部」とは、「階段状にへこんだ部分」と解すべきであり、刊行物2の「ポケット72」は、立体的にみれば刃先片の中間部分に設けた凹部(穴部)であって、「段部」と認定するのは失当である。
本件訂正明細書の請求項1に係る発明の刃先片の端部に設けた「段部」が「階段状にへこんだ部分」のことだとすれば、これに噛合する取付台側の「段状歯部」も階段状のものである。
訂正審判2000-39142号事件の審決書(乙第2号証)において、刊行物2の「ポケット72」に関連して、「中間部分の回転方向後ろ向きの面(フランク76)は各刃先片(保護キャップ69)の中間部分に形成したポケットに形成したものであって、取付台の段状歯部との係合は、いずれも刃先片の端部に設けた段部によるものではなく」と認定し、ポケット72は、中間部分に設けた凹部であって、本件発明の如き刃先片の端部の「段部」ではないと認定しているものと解される。また、無効審判2001-35042号事件の審決書(乙第3号証)において、「刃先片(保護キャップ69,87,95)の中間部分に形成したポケット72に形成したものであるから、端部で係合するものでも段部が係合するものでもない。」、「刃先片と取付台の段状歯部との係合は、いずれも刃先片の端部に設けた段部によるものではなく、また、刃先片の端部に設けた段部と該刃先片に隣接する他の刃先片によって、段状歯部と係合する凹部を形成するものではない。」としている。
ロ)刊行物1に記載されたものは、刃先片(ブレード刃体7)と取付台(母台1)とは凹凸嵌合になっており、刃先片(ブレード刃体7)は取付台(母台1)より横幅が広く、刃先片(ブレード刃体7)と取付台(母台1)との間に段がついているから、このような形態のものに、スペーサを大きな径として刃先片(ブレード刃体7)を横から挟持した場合、スペーサと取付台(母台1)との間に隙間が存在することとなり、不都合である。
したがって、当業者であれば、刊行物1に記載されたものに本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して」なる構成を採用することを避けるから、刊行物2に記載された事項を刊行物1に記載された発明に適用することに阻害要因がある。
ハ)凹凸嵌合方式を採用して刃先片(ブレード刃体7)の横揺れを規制している刊行物1に記載されたものに対して、「スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して」なる構成を採用する起因ないし動機付けはない。
ニ)刊行物1に記載されたものにおいては、刃先片(ブレード刃体7)と取付台(母台1)との間で凹凸嵌合方式を採用している結果、極めて高い精度が要求され、これは刊行物2に記載されたものにおいても同様である。仮に、刊行物1に記載されたものの刃先片(ブレード刃体7)の端部に段部を設け、相手の取付台(母台1)に段状歯部を設けた場合、刃先片(ブレード刃体7)の段部に凹溝の機械加工を施す必要があるが、このような機械加工は困難であり、当業者であれば、刃先片(ブレード刃体7)の端部に段部を形成することは到底思い至らぬことである。
ホ)本件発明のように刃先片と取付台との接合境界面を平面にしておけば受圧面積も大きくとれ、凹凸嵌合のような複雑な構造に比べ、刃先片の横揺れ及びこれに基づく損傷の発生をより効果的に妨げることができる。
ヘ)刊行物2においても、刊行物1と同様の凹凸嵌合構造を有するから、刊行物2のスペーサの外径を取付台(凹凸構造の外側)の外径より大きく形成した点が、「各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定」するという思想を開示しているとするのは妥当ではない。また、スペーサの外径を該取付台の凹凸の外側の外径より大きくするといった思想を示すものではなく、保護キャップの脚部又はくさび部材の脚部を内向きに延ばすことによって、分離リングとの溶接代を単にとっているものである。本件発明の「挟持固定」とは、刃先片を容易に交換する目的から、溶接によって固着することを意味しない。
ト)刊行物1に記載の刃先片と取付台との嵌合構造に代えて、刊行物2に記載された、刃先片の脚部を内向きに延ばして溶接する固着構造を含む構成を、スペーサの外径を該取付台の凹凸の外側の径より大きく形成してなる構成として把握して、これを採用する起因ないし動機付けは存在するというのは妥当ではない。
チ)本件発明は、構成要件が有機的に一体不可分に結合してひとつの技術思想を形成しているものであるから、構成要件をそれぞれ切り離して特許性を判断評価することは一つのまとまりを持った技術的思想たる発明の有機的一体性を無視した判断となり、妥当性に欠けるものである。
リ)刊行物1の第4図、第5図および第7図を見れば、2つの軸に装着されている相対向する刃の方向が同一方向に形成されており、2つの軸の回転は対向回転していることが示されている。刊行物1の技術は本件発明とは異質な技術を開示するものといわざるを得ず、本件発明の先行技術として引用すること自体不適切なものである。
ヌ)刊行物2のものは、溶接構造により全体を固着一体化して破砕時の外力に対する耐性を持たせんとする思想であり、刃先片の交換を容易にせんとする本件発明思想とは異質のものであって、先行技術として不適格である。
ル)本件発明に係る製品(「ピースカッター」)は、商業的に成功しており、進歩性を有するものである。
ヲ)無効審判2001-35042号事件の審決書(乙第3号証)において「接合境界面を平面とすることまで、当業者がきわめて容易に想到し得たとすることはできない」としている。
・乙第1号証……広辞苑(第二版、昭和46年)、表紙、第1406頁、奥付
・乙第2号証……訂正2000-39142号審決書(平成13年1月7日付け)
・乙第3号証……無効2001-35042号審決書(平成13年10月12日付け)
・乙第4号証……(株)キンキ発行にかかるカタログ「ピースカッター 二軸剪断式破砕機 SHRED KING」

【平成13年11月19日付け訂正請求に対する当審の判断】
1.訂正の要旨
上記訂正請求は、特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるが、その要旨は、次のとおりのものと認める。
(1)訂正事項a
請求項1記載の「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにしたシュレッダーにおいて、」を、
「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし、かつ、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定したシュレッダーにおいて、」
と訂正する。
(2)訂正事項b
段落[0009]における「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにしたシュレッダーにおいて、」を、
「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし、かつ、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定したシュレッダーにおいて、」
と訂正する。
2.訂正の目的
(1)訂正事項aについて
上記訂正事項aは、各刃先片と取付台との境界面について「各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし」と限定し、また、スペーサと各刃先片の関係について「各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」と限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。
3.独立特許要件
上記訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とする事項を含むものであるから、同訂正が、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第2条第13項の規定によりなお従前の例によるとされる同法律による改正前の特許法第134条第5項の規定により準用する、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法律による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合するものであるか否かについて、検討する。
(1)訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明は、訂正明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし、かつ、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定したシュレッダーにおいて、
前記取付台の外周に段状歯部を突出形成する一方、各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成したことを特徴とするシュレッダー用切断刃。」
(2)引用例に記載された事項
平成13年12月11日付け訂正拒絶理由通知書において引用した、本件特許の出願(平成3年6月14日)前に頒布された刊行物である前記刊行物1及び刊行物2には、それぞれ以下の事項が記載されているものと認める。
(i)刊行物1
a.「本考案は、破砕機用スリットカッタ構造体に係りより具体的にはカッタ母台とブレード刃体を締結ボルトで組立分解自在に構成したスリットカッタ構造体の改良に関する。」(第1欄第30〜33行)
b.「第1図乃至第3図において、1は母台であり、その中心にキー溝2付の支持孔3を有し、外周面にはブレード刃体着座面4が周方向複数に等配に形成されて多角配置とされ、この着座面4のカッタ回転方向後側に径方向外向の受圧座面5が形成されている。
実施例図では正六角形の各角部に受圧座面5を形成した形状で、前記着座面4には径方向に螺設した盲孔構造の取付けねじ孔6の複数が着座面4の巾方向中央で、かつ、着座面4の長手方向所定間隔に形成されている。」(第3欄第3〜13行)
c.「このブレード刃体7は嵌合凹部8を母台1の各着座面4にインロ一構造で嵌合せしめ、刃体7の一端面7Aを受圧座面5に衝合せしめ相対応した各ねじ孔6と挿通孔9に座金10およびカラー11を有する頭付締結ボルト12を径方向外側より螺締して取付けられ、締結ボルト12の頭12Aを座ぐり部9Aに収納し、かつ、符号Aで示す如く沈めている。
而して、このブレード刃体7の取着姿勢においてブレード刃体7の他端面が母台1の外周に複数個突設した材料掻込み爪7Bを有するスリットカッタ構造体Cが構成される。
更に、ブレード刃体7はその長手方向断面形状が台形であって、少なくとも一端面7Aの厚みが受圧座面5の突出高さよりも大きくされており、ここに当該端面7Aを受圧座面5に衝合したとき、符号Bで示す段差によりその衝合面を通じてインロー内部に異物が侵入するのを防止すると共に、ブレード刃体7のめくれ現象を防止している。」(第3欄第23〜41行)
d.「第5,6図において、対のスリットカッタ構造体Cの支軸13はその両軸端を軸受装置15にてケーシング16に回転自在に支架し、各支軸13の一端に設けた歯車連動体17の咬合を介して互いに内向に強制回転自在にされるのである。なお、第5,6図においては支軸13上にスリットカッタ構造体Cを軸方向所定間隔おいて列設するに、真円リング形のディスタンスカラー18を利用しているが、このカラー18は母台1の両側又は片側に円形ボスを一体に突設して構成したものでもよい。」(第4欄第17〜26行)
e.「以上使用例において破砕室14に投入口から材料が供給されると、この材料はスリットカッタ構造体Cの掻込み爪7Bにて互いに内向に喰込み状に引込むことになる。このとき、引込み外力が爪7Bに第1図のF1方向に作用することになる。この外力F1に対してはブレード刃体7の一端面7Aが母台1の受圧座面5に衝合していることから、外力F1は母台1にて受担することになり、ここに締結ボルト12に対する負荷が軽減され、同ボルト12の弛み機会は少なくなる。」(第5欄第3〜12行)
f.「ここに刃体7の再生加工、修理が簡便となるのである。」(第6欄第11〜12行)
等の記載があるものと認める。
これらの記載及び図面等を参照すると、刊行物1には、
“破砕機のケーシング16に軸支された回転支軸13にディスタンスカラー18を挟んでスリットカッタ構造体Cを装着し、このスリットカッタ構造体Cを該回転支軸13に嵌着される母台1とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個のブレード刃体7で形成し、各ブレード刃体7を該母台1に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該母台1の外周が表面に露出しないよう囲繞した破砕機において、前記各ブレード刃体7をほぼ台形状とし、前記母台1には、外周にブレード刃体7の着座面4を平面として多角形配置で形成し、この着座面4のカツタ回転方向後側に径方向外向の受圧座面5を形成して、前記ブレード刃体7のカッタ回転方向後側一端面7Aを前記受圧座面5に衝合し、ブレード刃体7の嵌合凹部8を母台1の着座面4にインロー構造で嵌合せしめて成る破砕機用スリットカッタ構造体.”が記載されているものと認める。
(ii)刊行物2(請求人提出の訳文参照、ただし訳文の「固定刃」は「固定歯」と修正した)
h.「図23から29における回転体又はロータ1は、一例としてロータ円板66と、該ロータ円板の間に設置する分離リング5とを交互に配置して構成することができる。円板の周囲表面67には、保護キャップ69のカッターエッジ68の下方に、固定機素70が固定歯71の形で設置されている。この固定歯71は、ロータの回転方向前方にあるポケットの領域73が、特に、固定歯71の形に適合するように形成された保護キャップ69のポケット72に、嵌入するようにしている。固定歯71のロータ回転方向前方にあるフランク74は、保護キャップの内部75にあるフランク76と共に機能する。固定歯71は、切断力を担うと同時に、保護キャップを半径方向に保持する作用も果たす。図23において、固定歯71の力を伝達するフランク74は、ロータの軸を含む半径方向面77にある。図24,27,28,29に従う実施例の場合、固定歯の力を伝達するフランク74は、例えば、図27の78に見られるとおり、半径方向面77に対して後退している。後退面78を通じて、ロータ軸方向に対して横向きに設置されている保護キャップ69の半径方向の固定が得られる。」(訳文第1頁第19行〜第2頁第第6行(原文第14欄第45行〜第15欄第13行))
i.「保護キャップ69とくさび部材85を採用するため、本発明の別の実施例のロータ円板66においては、保護キャップ69の脚部69a又はくさび部材85の脚部85aの厚みtを両側で削減しており、半径方向においては、保護キャップの脚部又はくさび部材の脚部が内向きに延びて、ロータ円板66のこの領域の直径dは、隣接する分離リング5の直径Dより小さくなっている。」(訳文第2頁第7〜11行(原文第15欄第14〜23行))
j.「発生する切断力を適切に利用するため、固定歯71のそれぞれは、半径方向においては摩耗ゾーン79(図28)までできるかぎり密に接して保護キャップ69に突出する大きさに設計されている。このことは、特に、固定歯又は円板周囲67に設置されている歯71のそれぞれが保護キャップの最頂部80の領域に突出することにより可能となる。後退面78を伴う固定歯71の保護キャップを円板周囲に取り付けるためには、後退面の凹部において、保護キャップの内部75のポケット72は、構成上必要なあそびaの分だけ固定歯71の長さbより長くなければならない。」(訳文第2頁第12〜19行(原文第15欄第24〜38行))
k.「図31においては、………回転体又はロータ円板93の周囲に備わる固定歯94は、半径方向の面77に対してきわめてわずかに後退しているのみか又は垂直となっているので、保護キャップ95は容易に半径方向の取り外し又は交換ができる。」(訳文第3頁第9〜12行(原文第16欄第21〜28行))
等の趣旨の記載があるものと認められる。さらに、
l.Fig.23,24,27,29,31等を参照すると、ロータ円板66、93が備える固定歯71、94は、半径方向面77又は半径方向より後退した面78のフランク74を有して、その前後のロータ円板66、93の外周面とともに段状形状を形成しているから、段状固定歯と認めることができる。また、保護キャップ69、95のポケット72も、半径方向面又は半径方向より後退した面のフランク76を有して、その前後の保護キャップ69、95内周面とともに段状形状を形成しているものと認められる。これらのことから、“ロータ円板66,93に段状の固定歯71、94を突出形成し、一方各保護キャップ69、95に前記固定歯71、94がはまり込む段状のポケット72を形成し、前記固定歯71、94の回転方向前方向きの面(フランク74)に、各保護キャップ69、95の前記ポケット72の回転方向後ろ向きの面(フランク76)を係合する構成”が示され、また、
m.前記ロータ円板66,93が軸2に嵌着され、前記軸2がケーシングに軸支されること、前記ロータ円板66とカッターエッジ68を有する複数の保護キャップ69,95及びくさび部材85とがシュレッダーの切断刃を構成していることは、明白な事項と認められるから、
前記記載及び図面等を参照すると、刊行物2には、
“シュレッダーのケーシングに軸支された軸2に分離リング5を挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸2に嵌着されるロータ円板66,93とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の保護キャップ69,95及びくさび部材85で形成し、各保護キャップ69,95及びくさび部材85を該ロータ円板66,93に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該ロータ円板66,93の外周が表面に露出しないよう囲繞し、該分離リング5及び保護キャップ69,95並びにくさび部材85で該ロータ円板66,93の側面が表面に露出しないようにしたシュレッダーにおいて、ロータ円板66,93の外周表面に段状の固定歯71,94を突出形成し、一方各保護キャップ69,95に前記固定歯71,94がはまり込む段状のポケット72を形成し、前記固定歯71,94の回転方向前方向きの面(フランク74)に、各保護キャップ69,95の前記ポケット72の回転方向後ろ向きの面(フランク76)を係合して、保護キャップ69,95に対してロータ円板66,93の回転力を伝達すると共に切断時の反力を支持する如くした点.” 及び
“ロータ円板66,93の半径方向において、保護キャップ69,95の脚部69a及びくさび部材85の脚部85aは内向きに延びて、前記脚部69a,85a内周面に接するロータ円板66,93の周面の直径dは、隣接する分離リング5の直径Dより小さく形成され、前記保護キャップ69,95及びくさび部材85の側面が、分離リング5によって挟まれたシュレッダーのロータ.”が記載されているものと認める。
(3)対比・判断
(i)上記刊行物1に記載された発明の“破砕機”、“回転支軸13”、“スリットカッタ構造体C”、“母台1”、“ブレード刃体7”は、その機能上、それぞれ本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「シュレッダー」、「軸」、「切断刃」、「取付台部分」、「刃先片」に対応し、上記刊行物1に記載された発明の“ディスタンスカラー18”は本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「スペーサ」と同様に、これを間に挟んで切断刃( “スリットカッタ構造体C”)が軸(“回転支軸13”)に装着されるものであり、また、上記刊行物1に記載された発明の“径方向外向きの受圧座面5”と“着座面4”とが形成する突出部は、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「段状歯部」と同様に、刃先片(“ブレード刃体7”)に係合する歯部といえるから、
両者は、
シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したシュレッダーにおいて、
前記取付台の外周に歯部を突出形成する一方、各刃先片と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する如く構成したシュレッダー用切断刃.
である点で一致し、次の相違点a,bの2点で相違する。
(相違点a)
本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、「各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし」、「該スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすると共に各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」ものであるのに対して、刊行物1に記載されたものは、刃先片(ブレード刃体7)の嵌合凹部8を取付台(母台1)の各着座面4にインロ一構造で嵌合したもので、各刃先片と該取付台との接合境界面は平面ではなく、また、スペーサ(ディスタンスカラー18)は、取付台(母台1)より小径に形成されている点
(相違点b)
前記取付台の外周に歯部を突出形成する一方、各刃先片と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する如くした構成において、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、前記歯部を「段状歯部」とし、「各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部」とを係合して刃先部分と該「段状歯部」とを噛合する如く構成したものであるのに対して、刊行物1に記載されたものは、前記歯部が「段状歯部」と明記されたものではなく、各刃先片の端部と歯部との係合部分の各刃先片に「段部」が形成されていない点
(ii)次に上記各相違点について検討する。
(ii-1)相違点aについて
刊行物1には、刃先片(ブレード刃体7)の嵌合凹部8を取付台(母台1)の各着座面4にインロ一構造で嵌合した構成(以下「刃先片と取付台との嵌合構造」という。)に関連して、「この外力F2に対してはブレード刃体7の嵌合凹部8が母台1の着座面4に嵌合されており、ここに広大な着座面4にて外力を受担し、母台1とブレード刃体7を分割したにも拘わらず、耐強性は確保できるのである。」(第5欄第17〜21行参照)、「スリッター機能はブレード刃体7の側面同志の摺接噛合精度によるが、ブレード刃体7はその嵌合凹部8が多角形母台1の外周着座面4にインロー嵌合されていることから、スリットカッタ構造体Cの横揺れは規制され、ここに摺接噛合精度を高くすることができるのである。更に又、嵌合凹部8を着座面4に外嵌嵌合したことに基き、ボルト12に対する支軸13方向のロードも少なく」(第5欄第27行〜第6欄第6行参照)と記載されている。これらの記載からみて、刊行物1に記載されたものにおける刃先片と取付台部分との嵌合構造は、外力F2を受担する着座面を広大にすること、横揺れ規制により摺接噛合精度を高くすること、ボルト12に対する支軸13方向のロードを少なくすることを実現しているものと認められる。
外力F2を受担する着座面を広大にすることは、着座面4を平面に形成してこの面全体で外力F2を受担する構成とすることにより得られていることは技術常識であり、また、一般に嵌合構造を用いることなく平面同士を衝合して2部材を固定する固定構造は、嵌合構造以上に単純な固定構造として周知の構造と認められる。
本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」構成について検討するに、本件訂正明細書の請求項1に係る発明が「切断刃を、取付台部分と刃先部分とによって分割形成して、摩耗が刃先部分のみに生じるように構成すると共に、その交換が容易にできるシュレッダー用切断刃」(訂正明細書段落【0001】参照)を前提にすることを考慮すると、本件請求項1に係る発明の「各刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」構成は、刃先部分の側面を両側から強固に押圧して挟持するものではなく、刃先片の交換が容易にできる程度にガタを防止する挟持固定と認められる。
一方、上記刊行物2に、シュレッダー切断刃のロータ円板66の側面が、分離リング5及び保護キャップ69並びにくさび部材85で表面に露出しないように、また、保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれている構成が記載されており、この構成が、保護キャップ69及びくさび部材85の幅方向のガタを防止するように機能していることは、当業者にとってその構成から明らかである。分離リング5の上記機能は、ロータ円板66に対する保護キャップ69及びくさび部材85の固定構造が嵌合構造を有するものであっても失われるものではなく、この嵌合構造と独立して認識し得るものであり、また、刊行物1に記載されたものの刃先片と取付台との嵌合構造による横揺れ規制機能と共通するものとして認識し得るものと認められる。
したがって、刊行物1に記載されたものにおいて、各刃先片と該取付台との接合境界面は平面とし、嵌合構造による、横揺れ規制により摺接噛合精度を高くし、ボルト12に対する支軸13方向のロードを少なくする作用機能を、刊行物2に記載された、保護キャップ69及びくさび部材85を分離リング5によって挟む構成、即ち刃先片をスペーサによって挟む構成によって実現するよう、当該構成を刊行物1に記載されたものの前記嵌合構造に代えて採用することは当業者が容易に想到し得ることであり、上記相違点aにおける請求項1に係る発明の構成は、上記刊行物2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものとするのが相当である。
(ii-2)相違点bについて
上記刊行物2に、上記刊行物1に記載された発明と同一の技術分野に属するシュレッダーにおいて、各刃先片(保護キャップ69,95)と取付台(ロータ円板66,93)との係合部分を段状に形成することが記載されており、刊行物2に記載されたものにおける前記係合部分の段状の部分は、取付台の全幅に亘って形成されたものではないものの、刊行物1に記載されたものが取付台の全幅に亘って歯部を形成するものであるから、当該歯部に合致するように段状の部分を全幅に亘って形成することは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないというべきであり、上記刊行物1に記載された如き、各刃先片の端部と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する構成において、各刃先片と歯部との係合部分を段状に形成することは、刊行物2に記載された構成から当業者が容易に想到し得ることであり、前記歯部を「段状歯部」とし、各刃先片の「端部に設けた段部と段状歯部」とを係合して刃先部分と該「段状歯部」とを噛合する如く構成することは、刊行物2に記載された構成に基づいて当業者が容易に想到し得るとするのが相当である。
(iii)作用効果について
そして、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「使用によって刃先部分のみが摩耗するだけとなり、取替作業が大幅に省力化され、保守管理が非常にやり易くなる」、また、「段状歯部により軸回転力を刃先部分に確実に伝達でき、かつ、破砕切断時に刃先片から伝わってくる反力をこの段状歯部を介して取付台で確実に支持することができる。」 との明細書記載の効果は、上記刊行物1又は2に記載されたものが備える効果であるから、本件訂正明細書の請求項1に係る発明による作用効果は、上記刊行物1,2に記載されたものから予測し得る程度のものである。
(4)被請求人の主張について
被請求人が、刊行物2に記載された構成を刊行物1に記載されたものに適用することについて、阻害事由が存在する、又は起因ないし動機付けがない等の前記主張も、以下のとおり、正当でない。
(i)主張イ)について
前記刊行物2についての摘示事項「l.」に説示のとおり、刊行物2に記載された固定歯とポケットは、Fig.23,24,27,29,31等に示された固定歯とポケットの形状、及び「固定歯71は、切断力を担う」、「固定歯の力を伝達するフランク74」(いずれも上記摘示事項h参照)等の記載に示された作用機能からみて、「段状」をなしているものと認められる。
(ii)主張ロ)について
上記「(ii-1)相違点aについて」に説示のとおり、スペーサを大きな径として刃先片(ブレード刃体7)を横から挟持した構成によって、刃先片と取付台部分との嵌合構造はその作用機能が代替されるものであるから、刊行物1に記載されたものにおいて、スペーサを大きな径として刃先片(ブレード刃体7)を横から挟持する構成を採用する際に、刃先片と取付台の横幅寸法を等しくすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
(iii)主張ハ)について
刊行物1に記載されたものにおける、刃先片と取付台部分との嵌合構造による横揺れ規制の作用機能は、刊行物2に記載されたものにおける、保護キャップ69及びくさび部材85が分離リング5によって挟まれた構成による作用機能と共通するものであり、作用機能の共通性は、刃先片と取付台部分との嵌合構造に代えて「スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して」なる構成を採用する起因ないし動機付けとなる。そして、この構成の置き換えによっても、外力F2を受担する着座面の面積に変更は生じない。
(iv)主張ニ)について
上記「(ii-1)相違点aについて」に説示のとおり、刃先片と取付台部分との嵌合構造は、刊行物2に記載された刃先片をスペーサで挟持する構成によって置き換えられるものであり、刊行物1に記載されたものの着座面4が平面であるから、この構成の置き換えによって刃先片と取付台との接合面は平面となり、段部に凹溝の機械加工を施す必要がないことは当業者が十分予測し得ることである。
(v)主張ホ)について
上記「(ii-1)相違点aについて」に説示のとおり、刊行物1に記載されたものにおいて、外力F2を受担する着座面を広大にすることは、着座面4を平面に形成してこの面全体で外力F2を受担する構成とすることにより得られていることは技術常識であり、また、一般に嵌合構造を用いることなく接合境界面を平面として2部材を固定する固定構造は、嵌合構造以上に単純な固定構造として周知の構造と認められる。
したがって、刊行物1に記載されたものにおいて、刃先片と取付台との接合境界面を平面とする着想に困難はないし、刃先片と取付台との嵌合構造を、スペーサを大きな径として刃先片を横から挟む構造に置き換えることによって、刃先片と取付台との接合境界面が平面となるものである。
(vi)主張ヘ)について
刊行物2に、ロータ円板66,93の周面の直径dが、隣接する分離リング5の直径Dより小さく形成された構成が記載されており、この構成が、保護キャップ69及びくさび部材85の幅方向のガタを防止するように機能していることは、当業者にとってその構成から明らかである。分離リング5の上記機能は、ロータ円板66に対する保護キャップ69及びくさび部材85の固定構造が嵌合構造であっても失われるものではなく、前記嵌合構造と独立して認識し得るものである。
刊行物2に記載されたものにおいては、保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aと分離リング5とは、溶接により接合されているものの、前記構成によって、溶接による接合を要件とすることなく、保護キャップ69及びくさび部材85の幅方向のガタが防止されることは、当業者が予測し得ることである。
本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、「切断刃を、取付台部分と刃先部分とによって分割形成して、摩耗が刃先部分のみに生じるように構成すると共に、その交換が容易にできるシュレッダー用切断刃」(段落【0001】参照)を前提としており、請求項1に記載された「挟持固定」が、スペーサによって刃先部分の側面を両側から強く押圧して挟持するものであれば、刃先片の交換を容易に実施できるものとは認められないから、請求項1に記載された「挟持固定」が、刃先部分の側面を両側から強く押圧して挟持するものとは認められない。
刊行物2に記載されたものも、前記構成によって、溶接による接合を採用しなくとも、本件訂正明細書において「取付台14の外周面上に接合される各刃先片13aが、両側のスペーサ11のはみ出し部分(図上斜線部分)11aによって挟まれ、その幅方向の位置がズレないよう固定されることになる。」(段落【0021】参照)、「軸方向(即ち、刃先の幅方向)は刃先片13aの両側に密着したスペーサ11のはみ出し部分によって挟持固定されることから、長時間の使用にもガタを生じることがなく、その引き込み及び破断機能に支障を来さない。」(段落【0021】参照)と示された程度の作用効果は、期待し得るものと認められ、本件請求項1に係る発明の「刃先片が幅方向のガタを生じないように挟持固定した」構成に相当する構成を備えるものと認められる。
(vii)主張ト)について
刊行物2に記載されたものも、ロータ円板66,93の周面の直径dが、隣接する分離リング5の直径Dより小さく形成された構成によって、保護キャップ及びくさび部材は分離リングに挟まれた構造となって、保護キャップ及びくさび部材の横揺れ規制の作用機能が得られているものと認められるから、前記構成は、刊行物1に記載されたものにおける刃先片と取付台との嵌合構造と作用機能が共通し、また、刊行物1に記載されたもの及び刊行物2に記載されたものは、何れもシュレッダーの切断刃に係るものであるから、刊行物1に記載されたものに刊行物2に記載された前記構成を適用することに、起因ないし動機付けが存在しないというのは妥当でない。
(viii) 主張チ)について
刊行物1に記載されたものに刊行物2に記載されたものを適用することに、起因ないし動機付けが存在し、本件請求項1に係る発明の構成は、上記「(3)対比・判断」に説示のとおり、当業者が容易に想到し得たものである。
(ix)主張リ)について
刊行物1に記載されたものにおいて、切断刃に加わる外力の方向は第1図に明確に示されており、取付台(母台1)に設けた歯部を介して刃先片(ブレード刃体7)から伝わる反力を取付台(母台1)で支持していることは明らかである。刊行物1に記載されたものは、本件請求項1に係る発明と異質のものではないものと認められる。
(x)主張ヌ)について
刊行物2には「図31においては、………回転体又はロータ円板93の周囲に備わる固定歯94は、半径方向の面77に対してきわめてわずかに後退しているのみか又は垂直となっているので、保護キャップ95は容易に半径方向の取り外し又は交換ができる。」(第16欄第21〜28行参照)旨記載されており、刊行物2に記載されたものにおいても、刃先片(保護キャップ95)は交換が可能なものとして認識できるものである。また、刊行物2に記載された刃先片(保護キャップ)をスペーサ(分離リング)で挟む構成を刊行物1に記載されたものに適用するに際して、溶接構造をも同時に採用しなければならないものでないことは、当業者にとって明らかである。
刊行物2が先行技術として不適格というものではない。
(xi)主張ル)について
本件請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載されたものに基づいて当業者が容易に構成し得るものであり、その作用効果は、刊行物1、2に記載されたものから予測し得る程度のものであるから、被請求人が主張するように本件発明の実施品が商業的に成功しているということは、本件発明の構成の困難性、効果の予測性を左右するものではない。
(xii)主張ヲ)について
無効審判2001-35042号審決書は、刃先片に対する着座面が平面に形成された前記刊行物1(実公昭57-42518号公報)に記載された事項を先行技術として引用するものではなく(無効審判2001-35042号審決書は実公昭57-31953号公報を引用している)、判断の前提が相違している。
4.まとめ(明細書の訂正について)
以上のとおりであるから、平成13年11月19日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1に係る発明は、上記刊行物1,2に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、上記訂正請求による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成11年法律第41号)附則第2条第13項の規定により「なお従前の例による」とされた同法律による改正前の特許法第134条第5項の規定により準用する、平成6年法律第116号附則第6条第1の規定により「従前の例による」とされる同法律による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、認められない。

【本件特許を無効とすることについての当審の判断】
1.本件特許発明
平成13年11月19日付け訂正請求による明細書の訂正は認められないから、本件特許の請求項1に係る発明は、上記平成12年11月17日付け訂正審判(訂正2000-39142号)確定時の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞し、かつ、該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにしたシュレッダーにおいて、
前記取付台の外周に段状歯部を突出形成する一方、各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部とを係合して刃先部分と該段状歯部とを噛合する如く構成したことを特徴とするシュレッダー用切断刃。」
2.無効理由に引用した刊行物に記載された事項
平成13年9月14日付けで通知した無効理由において引用した、本件特許の出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1及び2には、上記「【平成13年11月19日付け訂正請求に対する当審の判断】」の「3.独立特許要件」の「(2)引用例に記載された事項」に説示のとおりの事項が記載されているものと認める。
3.対比・判断
(1)本件特許の請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載されたものとを対比すると、
上記刊行物1に記載された発明の“破砕機”、“回転支軸13”、“スリットカッタ構造体C”、“母台1”、“ブレード刃体7”は、その機能上、それぞれ本件特許の請求項1に係る発明の「シュレッダー」、「軸」、「切断刃」、「取付台部分」、「刃先片」に対応し、上記刊行物1に記載された発明の“ディスタンスカラー18”は本件特許の請求項1に係る発明の「スペーサ」と同様に、これを間に挟んで切断刃( “スリットカッタ構造体C”)が軸(“回転支軸13”)に装着されるものであり、上記刊行物1に記載された発明の“径方向外向きの受圧座面5”と“着座面4”とが形成する突出部は、本件特許の請求項1に係る発明の「段状歯部」と同様に、刃先片(“ブレード刃体7”)に係合する歯部といえるから、
両者は、
シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成する共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したシュレッダーにおいて、
前記取付台の外周に歯部を突出形成する一方、各刃先片と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する如く構成したシュレッダー用切断刃.
である点で一致し、次の相違点A,Bの2点で相違する。
(相違点A)
本件特許の請求項1に係る発明は、「該スペーサの外径を該取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにした」のに対して、刊行物1に記載されたものは、スペーサ(ディスタンスカラー18)は、取付台(母台1)より小径に形成されている点、
(相違点B)
前記取付台の外周に歯部を突出形成する一方、各刃先片と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する如くした構成において、本件特許の請求項1に係る発明は、前記歯部を「段状歯部」とし、「各刃先片の端部に設けた段部と段状歯部」とを係合して刃先部分と該「段状歯部」とを噛合する如く構成したものであるのに対して、刊行物1に記載されたものは、前記歯部が「段状歯部」と明記されたものではなく、各刃先片の端部と歯部との係合部分の各刃先片に「段部」が形成されていない点
(2)そこで、上記各相違点について検討する。
(2-1)上記相違点Aについて
上記刊行物2に記載されたものにおいて、ロータ円板66、93は、分離リング5及び保護キャップ69並びにくさび部材85でその側面が表面に露出しないように構成され、またロータ円板66,93の周面の直径dが、隣接する分離リング5の直径Dより小さく形成されて、保護キャップ69及びくさび部材85の脚部69a,85aが分離リング5によって挟まれているから、刊行物1に記載されたものにおいても、スペーサの外径を取付台の外径より大きく形成して該スペーサで該取付台の側面が表面にほぼ露出しないようにすることは、上記刊行物2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものとするのが相当である。
(2-2)上記相違点Bについて
上記刊行物2に、上記刊行物1に記載された発明と同一の技術分野に属するシュレッダーにおいて、各刃先片(保護キャップ69,95)と取付台(ロータ円板66,93)との係合部分を段状に形成することが記載されており、刊行物2に記載されたものにおける前記係合部分の段状の部分は、取付台の全幅に亘って形成されたものではないものの、刊行物1に記載されたものが取付台の全幅に亘って歯部を形成するものであるから、当該歯部に合致するように段状の部分を全幅に亘って形成することは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないというべきであり、上記刊行物1に記載された如き、各刃先片の端部と歯部とを係合して刃先部分と該歯部とを噛合する構成において、各刃先片と歯部との係合部分を段状に形成することは、刊行物2に記載された構成から当業者が容易に想到し得ることであり、前記歯部を「段状歯部」とし、各刃先片の「端部に設けた段部と段状歯部」とを係合して刃先部分と該「段状歯部」とを噛合する如く構成することは、刊行物2に記載された構成に基づいて当業者が容易に想到し得るとするのが相当である。
(3) そして、本件特許の請求項1に係る発明の「使用によって刃先部分のみが摩耗するだけとなり、取替作業が大幅に省力化され、保守管理が非常にやり易くなる」、また、「段状歯部により軸回転力を刃先部分に確実に伝達でき、かつ、破砕切断時に刃先片から伝わってくる反力をこの段状歯部を介して取付台で確実に支持することができる。」 との明細書記載の効果は、上記刊行物1又は2に記載されたものが備える効果であるから、本件特許の請求項1に係る発明による作用効果は、上記刊行物1,2に記載されたものから予測し得る程度のものである。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は、上記刊行物1,2に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反して特許されたものであり、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-03-29 
結審通知日 2000-04-11 
審決日 2000-04-24 
出願番号 特願平8-104888
審決分類 P 1 112・ 856- ZB (B02C)
P 1 112・ 121- ZB (B02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 神崎 潔
鈴木 法明
鈴木 久雄
西川 恵雄
登録日 1998-08-07 
登録番号 特許第2813572号(P2813572)
発明の名称 シュレッダー用切断刃  
代理人 角田 嘉宏  
代理人 森 治  
代理人 林 清明  
代理人 西谷 俊男  

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