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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て その他  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
管理番号 1070457
異議申立番号 異議2000-72087  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-19 
確定日 2002-12-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第2980960号「水田除草投込み用錠剤またはカプセル」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2980960号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2980960号の請求項1ないし5に係る発明は、平成2年9月5日(優先権主張 平成1年9月7日 日本)に特許出願され、平成11年9月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、日本バイエルアグロケム株式会社、日本化薬株式会社、河瀬光昭、北興化学工業株式会社及び宮崎幸雄より特許異議の申立て(以下、順に「異議1」ないし「異議5」という。)がされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年12月11日付けで異議意見書の提出がされたものである。
2.本件発明
本件の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1ないし5」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】湛水下水田への施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分、界面活性剤並びに結合剤を、粉砕物又は顆粒としてカプセルに充填させて含有する水田除草用カプセルを湛水した水田に直接施用することを特徴とする水田除草方法。
【請求項2】カプセルが、(1)前記除草成分、界面活性剤及び結合剤の混合粉砕物又は(2)混合物粉砕物を造粒した顆粒のいずれかを水溶性フィルムにより包んだものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記カプセルが発泡剤を含有するものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】前記除草成分がN-[(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル)アミノカルボニル]-3-メチル-5-(2-クロロ-2,2-ジフルオロエトキシ-4-イソチアゾールスルホンアミド、メチル-α-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイルスルファモイル)-o-トルイレート、N-[(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル)アミノカルボニル]-4-エトキシカルボニル-1-メチル-5-ピラゾールスルホンアミド、N-(2-クロロイミダゾ[1,2-a]ピリジン-3-イルスルホニル)-N’-(4,6-ジメトキシ-2-ピリミジニル)ウレア、3-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-1-[2-(2-メトキシエトキシ)-フェニルスルホニル]ウレア、2-メチルチオ-4,6-ビス(エチルアミノ)-s-トリアジン、2-メチルチオ-4-エチルアミノ-6-(1,2-ジメチルプロピルアミノ)-s-トリアジン、3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボン酸、2-クロロ-2’,6’-ジエチル-N-(2-プロポキシエチル)アセトアニリド、2-クロロ-2’,6’-ジエチル-N-(ブトキシメチル)アセトアニリド、2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトアニリド、N-[2’-(3’-メトキシ)-チエニルメチル]-N-クロロアセト-2,6-ジメチルアニリド、2’,6’-ジエチル-N-[(2-シス-ブテノオキシ)メチル]-2-クロロアセトアニリド、エキソ-1-メチル-4-(1-メチルエチル)-2-(2-メチルフェニル)メトキシ-7-オキサビシクロ[2,2,1]へプタン、S,S-ジメチル-2-ジフルオロメチル-4-(2-メチルプロピル)-6-(トリフルオロメチル)-3,5-ピリジンジカルボチオエート及び2-(3,5-ジクロロフェニル)-2-(2,2,2-トリクロロエチル)オキシランからなる群から選ばれた少なくとも一種以上のものである請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】カプセルを、10アール当り10ヶ〜200ヶ、かつカプセルの総重量が200〜1500gになるように湛水した水田に直接施用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。」
3.異議申立て理由の概要
異議申立人のそれぞれの主張をまとめると概略以下のとおりである。
(1)本件発明1ないし5は、「粉砕物又は顆粒としてカプセルに充填させて含有する水田除草用カプセル」を構成要件とし、製剤として「カプセル」を採用するものであるが、本件の発明の詳細な説明には、実施例をみると「錠剤」に関するものしか記載がなく、「カプセル」に関しては、当業者が容易に発明を実施することができる程度に記載されていない。
それ故、本件明細書の記載が不備のため、平成2年法改正前の特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない。
(2)本件発明1ないし5は、下記の刊行物2に記載された発明であるから、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)本件発明1ないし5は、下記の刊行物1〜7、12〜14、参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)本件発明2は、要旨を変更する補正により追加された発明であるから、本件発明2に係る出願日は、当該手続補正がされた平成9年9月1日に繰り下がる。
それ故、本件発明2は、該出願日前に頒布された本件公開公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(異議2の異議申立書第6頁末行〜第7頁5行)か、本件発明2は、刊行物9および刊行物10の記載を考慮すると、刊行物8に記載された発明である(異議5の申立書第19頁10行〜第20頁14行)。
(5)特許法第39条第2項について
本件発明1ないし5は、先願発明1(特許第2980959号公報、異議4の甲第1号証)の請求項1ないし4に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものである(異議4の異議申立書第15頁10行〜第20頁7行)。

刊行物1:特開平1-211504号公報(異議1の甲第1号証)
刊行物2:特開昭53-99327号公報(異議1の甲第2号証、異議2の甲第1号証、異議3の甲第3号証、異議4の甲第2号証、異議5の甲第6号証)
刊行物3(刊行物6):「造粒便覧」日本粉体工業協会編、オーム社、昭和50年5月30日発行、554-564頁(異議2の甲第2号証、異議3の甲第2号証)
刊行物4:特開昭60-42313号公報(異議2の甲第3号証)
刊行物5:特公昭51-46816号公報(異議3の甲第1号証)
刊行物6:刊行物3に集約
刊行物7:特公昭47-27930号公報(異議3の甲第4号証)
刊行物8:特開平4-226901号公報(異議5の甲第1号証)
刊行物9:農薬ハンドブック、1994年版 表紙、奥付、604頁、609頁、602頁、603頁、622頁、610頁 発行日:平成6年12月21日(異議5の甲第2号証)
刊行物10:The Pesticide Manual Eleventh Edition表紙、1079頁 発行:1997年(異議5の甲第3号証)
刊行物11:The Pesticide Manual Eleventh Edition表紙、905頁、906頁 発行:1997年(異議5の甲第7号証)
刊行物12:特開昭57-163303号公報(異議5の甲第8号証)
刊行物13:農薬の製剤技術と基礎 表紙、奥付、72頁〜74頁 発行日:昭和63年10月5日(異議5の甲第9号証)
刊行物14:粉体と工業第18巻第8号 表紙、奥付、34頁、42頁〜44頁 発行日:昭和61年8月1日(異議5の甲第10号証)
先願発明1:特許第2980595号公報(異議4の甲第1号証)
参考資料1:Charles R.Worthlng編、The Pesticide Manual A World Compendium,第8版(1987年)526頁(異議1の参考資料1)
4.引用刊行物等に記載された事項
刊行物1には、「(1)常温で水に対する溶解度が100ppm以下の固体農薬化合物と常温で固体の水溶性高分子とを有機溶媒に溶解した後、溶媒を留去して得られる残留物を有効成分として含有することを特徴とする固状農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)、「本発明に用いられる固体農薬化合物は、常温で水に対する溶解度が100ppm以下のものであれば使用できる。なお、本発明における常温とは、・・・15〜25℃をいう。・・・括弧内は、固体農薬化合物の略称及び常温における水に対する溶解度(ppm)を示す。」(第2頁右上欄7〜12行)、「(除草剤)2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトニトリル(メフェナセット;4)」(第2頁左下欄8〜10行)、「本発明に使用される水溶性高分子は、・・・ポリオキシアルキレングリコール・・・等を挙げることができる。・・・農薬分野において、従来結合剤・・・等の目的に使用されてきたものである。」(第3頁左上欄5〜11行)、「本発明の固状農薬組成物は、固体農薬化合物と水溶性高分子を有機溶媒に溶解した後、溶媒を留去することによって残留物を得、これに農薬製剤において通常使用される増量剤、界面活性剤、補助剤等を使用して粉剤、粒剤、水和剤に製剤して得るが、次のような方法が利用出来る。例えば粉剤は、前記の残留物と増量剤、補助剤等を均一に混合し粉砕して得る。粒剤は、前記の残留物をそのまま又は増量剤、補助剤等を加え均一に混合し粉砕し粉末としたものを天然又は人工の粒状担体に結合剤を介して被覆させて得る。」(第3頁右上欄4〜12行)、「これらの粉末及び粒状担体の使用量は、固体農薬化合物及び水溶性高分子の配合量によってかわるが、通常重量比で固体農薬化合物1に対し、1〜1,000、好ましくは5〜100である。」(第3頁右下欄15〜18行)、「実施例16 粒剤 メフェナセット30部及びメチルセルロース30部・・・ホワイトカーボン40部及びクレー100部を加え、均一に混合し粉砕したものを粒状硫酸アンモニウム(850〜1,700μm)750部にポリエチレングリコール(平均分子量400、液体)50部を結合剤として用いて被覆させ、メフェナセット3%を含有する粒剤を得た。実施例17 粒剤 実施例16のメチルセルロースをポリビニルピロリドン(平均分子量40,000)におきかえた粒剤。」(第4頁右下欄13〜24行)、「実施例29 粒剤・・・メフェナセット2.5%を含有する粒剤を得た。」(第5頁左下欄16〜23行)、「試験例8 除草効果試験 実施例16、17、29、・・・に従って調製した粒剤を用いて除草効果試験を行なった。結果を第9表及び第10表に示す。試験方法・・・供試粒剤を10a当り1kg及び2kg相当量を散布処理した。・・・薬剤処理時の水深は約3cmであり、その後も水深3cmを維持した。」(第11頁左上欄1〜12行、第9表、第10表)と記載されている。
刊行物2には、「農薬を含浸保持した合成樹脂発泡体の細粒体を水溶性高分子フィルムによって密封してなる水面浮遊性を有する農薬製剤品。」(特許請求の範囲)、「本発明の農薬製剤品・・・は、合成樹脂発泡体の細粒体(0.1〜10mm)を担体とし、この担体に農薬を含浸保持させたものであり、これらの細粒体を水溶性高分子フィルムによって密封せしめたものである。」(第2頁左上欄6〜10行)、「本発明品を実用に供する場合、例えば湛水下水田に施用する場合10アール当り約500g以下で充分であり、本発明品1袋当りの重量を10〜100gにして、50〜5袋を水面へ投入するのが適当である。水面施用後、本発明品の各袋は約10秒間程度浮遊して後、水溶性高分子フィルムの袋が溶解により破れ、内包されている細粒体が水面および水中へ放出拡散浮遊し、細粒体に担持された農薬が水中へ均一に拡散され適確な薬効が得られる。このように本発明品の長所は次の通りである。1.(「1.」は丸数字。2.〜4.も同じ。)極めて軽量であるため、運搬、貯蔵、施用等が容易である。2.袋状であるので、施用に際してはそのまゝ水面へ施用でき散布所要時間は、従来の粒剤散布に比べて大巾に改善される。3.農薬を担持した細粒体を水溶性高分子フィルムによって袋状に密封してあるので、主剤、溶剤、界面活性剤その他補助剤の揮散がなく物性の劣化を防止できる。4.細粒体は非吸着性発泡体であるので、農薬は細粒体より水中へすみやかに離脱し均一拡散し、そのため適確な薬効が得られる。」(第2頁右上欄14行〜同左下欄16行)と記載されている。
刊行物3(刊行物6)には、「6・1・5補助材料 農薬造粒に用いる補助材料は,造粒の目的,造粒方式,主剤やキャリアーの種類によりそれぞれ異なってくる.ここでは使用目的で分け,一般的と思われる補助剤について述べる.[1]結合剤(binder)・・・要約すれば親水性バインダーは,天然,半合成または合成再湿型糊料と界面活性剤であり,・・・(1)親水性バインダー 澱粉類,アラビアゴム,CMC,HEC,リグニンスルホン酸塩,PVA,PEG,ポリエチレンオキサイド(アルコックス),ノニオンおよびアニオン系界面活性剤」(第562頁左欄16行〜同右欄22行)と記載されている。
刊行物4には、「1.下記式(1)(式省略)で表わされる化合物と下記式(2)(式省略)で表わされる化合物とを併用して、ジャポニカ(Japonica)種水稲苗の移植後約1〜約15日の期間に水面施用することを特徴とする薬害の軽減されたジャポニカ種水稲用の水田雑草除草方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、「本発明のジャポニカ種水稲用複合除草剤は・・・それ自体公知な手法に従ってたとえば粉剤、粒剤、顆粒剤、錠剤、・・・その他所望の任意の剤形にすることができる。」(第4頁右下欄8〜15行)と記載されている。
刊行物5には、「1農薬を経時的に異なる水溶性を有する2種以上のカプセルに納め、且つこの農薬を収納した夫夫のカプセルの比重を1より大とし、これらのカプセルを使用目的に応じて適宜配合してなる水中施用農園芸用薬剤。」(特許請求の範囲)と記載されている。
刊行物6は刊行物3に集約された。
刊行物7には、「1 3・5-ジニトロ-2・6-ジメチル-4-ターシャリーブチルアセトフェノン、固体酸、アリカリ金属またはアルカリ土類(「アリカリ土」は誤記)金属の炭酸塩(固体酸および炭酸塩のうち少なくとも一方は水溶性)、鉱物質担体および界面活性剤から成ることを特徴とする水田用殺草性粒剤、錠剤。」(特許請求の範囲)、「本発明に係る粒剤および錠剤(以下本製剤と称す)は、DDBP微粉末と固体酸粉末、炭酸塩粉末、鉱物質担体粉末および界面活性剤を混和し、打錠または押出し造粒法により粒状化した後水田へ施用されるが、本製剤は一旦土壌面に沈み、次いで本製剤中に存在する固体酸と炭酸塩とが水の存在下で反応して生ずる二酸化炭素のために再び水面に浮上する。浮上後本製剤は、界面活性剤による表面張力の変化により水面を激しく移動すると共に崩壊し、DDBPを分散する。」(第1頁左欄23〜33行)と記載されている。
刊行物8には、「【請求項1】水中で又は水面で、容易に分散又は溶解する固形の農薬製剤を、水で破袋分散又は溶解するシートに包んだ形態である農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)、「【請求項12】請求項1乃至11に記載の農薬組成物を水田に投げ込む、農薬の処理方法。」(特許請求の範囲の請求項12)と記載されている。
刊行物9は、農薬成分一覧表であり、その中に「メチル-α-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイルスルファモイル)-o-トルアートは、一般名:ベンスルフロンメチルに相当する・・・」(第604〜610頁)旨記載されている。
刊行物10には、「3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボン酸は一般名キンクロラックに相当する」(1079頁)旨記載されている。
刊行物11は、刊行物2に記載された除草成分について補完する参考資料であるが、「5-ターシャリーブチル-3-(2,4-ジクロル-5-イソプロポキシフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリン-2-オンは、一般名Oxadiazonに相当し、溶解度は20℃で1.0mg/l」(905頁)である旨記載されている。
刊行物12には、「農薬活性成分に糖類、ナフタレンスルホン酸系界面活性剤及びリン酸アルカリ金属塩を配合してなる水中分散性の優れた粒状農薬水和剤。」(特許請求の範囲)と記載されている。
刊行物13には、粒剤用バインダー及び粒状水和剤について記載されている(72〜74頁)。
刊行物14には、農薬の固体製剤のWater Dispersible Granulesについて記載されている(42〜44頁)。
参考資料1には、「メフェナセットの化学名は、2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトアニリドである」旨記載されている。
先願発明1の請求項1ないし4に係る発明は、「【請求項1】施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下であるスルホニルウレア系除草成分、(2)構造中にオキシアルキレン基を含まない界面活性剤、(3)発泡剤及び(4)結合剤を含有する錠剤又はカプセルを湛水した水田に直接施用することを特徴とする水田除草方法。
【請求項2】カプセルが、(1)前記除草成分、界面活性剤、発泡剤及び結合剤の混合粉砕物又は(2)混合粉砕物を造粒した顆粒のいずれかを水溶性フィルムにより包んだものである請求項1に記載の水田除草方法。
【請求項3】前記錠剤又はカプセルが、施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下であるその他除草成分を含有する請求項1又は2に記載の水田除草方法。
【請求項4】湛水した水田に直接施用される除草用錠剤又はカプセルを、10アール当り10〜200ヶ、かつ該錠剤又はカプセルの総重量が200〜1500gになるように湛水した水田に施用するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水田除草方法。」である。
5.対比・判断
(1)特許法第36条第3項及び第4項について
異議申立人は、本件発明1ないし5は、「粉砕物又は顆粒としてカプセルに充填させて含有する水田除草用カプセル」を構成要件とし、製剤として「カプセル」を採用するものであるが、本件の発明の詳細な説明には、実施例をみると「錠剤」に関するものしか記載がなく、「カプセル」に関しては、当業者が容易に発明を実施することができる程度に記載されていない旨主張している。
その点について検討すると、本件の発明の詳細な説明には、目的、構成、効果に関し、「錠剤又はカプセル」と常に併記されており、両者が同等のものとして記載されていることは明らかである。
それ故、実施例においては、「錠剤又はカプセル」の代表例として、「錠剤」を挙げたものであり、その「錠剤」と同等のものとして、「カプセル」に関しても記載されているに等しいといえるから、実施例において、「錠剤」に関する記載しかないことのみをもって、「カプセル」に関して、当業者が容易に発明を実施することができる程度に記載されていないとすることはできない。
(2)特許法第29条第1項について
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、(1)本件発明1では、「湛水下水田への施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分」を構成として採用するのに対し、刊行物2には、該仮定の下の除草成分の田水濃度と除草成分の水への溶解度との関係が記載されていない点及び(2)本件発明1では、「除草成分、界面活性剤並びに結合剤を粉砕物又は顆粒として」カプセルに充填させるのに対し、刊行物2には、「農薬を含浸保持した合成樹脂発泡体の細粒体」を密封する点で相違する。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明ではない。
[本件発明2ないし5について]
本件発明2ないし5は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明2ないし5は、刊行物2に記載された発明ではない。
(3)特許法第29条第2項について
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物1に記載された事項とを対比する。
本件発明1では、除草成分、界面活性剤、結合剤からなる組成のうち、除草成分及びその量について、「湛水下水田への施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分」と規定しているが、具体的には、本件の発明の詳細な説明に記載された「本発明において、水田に施用した薬量の全量が実質的に田水に溶解すると規定した除草成分とは次のことを意味する。即ち実質的に水稲苗に薬害を与えないが除草効果を奏するに十分な薬量つまり実用薬量の除草成分を水田に施用し、その全量が田水に溶解すると仮定したとき、当該除草成分の田水濃度が除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分を意味する。当該除草成分の具体例としては例えば・・・2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトアニリド・・・などが挙げられる・・・。前記除草成分に関しては、例えば除草成分A-2は・・・10アール当り5〜7.5g施用されるが、その場合湛水深5cmと仮定したとき田水濃度は0.1〜0.15ppmになり、一方A-2の溶解度(25℃)は8ppmであるので、A-2は本発明の除草成分に該当する。しかしながら、除草成分4-(2,4-ジクロロベンゾイル)-1,3-ジメチル-5-フェナシルオキシピラゾール(A-4)は・・・普通10アール当り180〜300g施用され、湛水深5cmの田水濃度は3.6〜6ppmになるがA-4の溶解度(25℃)は0.9ppmであるのでA-4は本発明の除草成分に該当しない。」(第4欄11行〜第5欄15行)を意味するものである。
そして、刊行物1に記載された「2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトニトリル(メフェナセット;4)」は、参考資料1の記載からみて本件明細書記載の「2-ベンゾチアゾール-2-イルオキシ-N-メチルアセトアニリド」であり、常温溶解度が4ppmである。
また、本件明細書の上記除草成分A-2についての記載から、10アール当たり5g施用、湛水5cmの条件で、田水濃度が0.1ppmであるから、刊行物1の実施例16(メフェナセット3%)の試験例8の条件、10a当たり1kg、2kg施用、水深約3cmに換算すると、田水濃度は1kg施用では、30/5×5/約3×0.1ppm=約1ppm、2kg施用では、約2ppmとなり、メフェナセットの常温溶解度の4ppmを下回る。
してみると、本件発明1の「薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分」との構成は、刊行物1にも記載されている。
また、刊行物1には、除草成分、界面活性剤並びに結合剤を粉砕物又は顆粒として湛水した水田に直接施用することが記載されている。
それ故、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、「湛水下水田への施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分、界面活性剤並びに結合剤を、粉砕物又は顆粒として湛水した水田に直接施用することを特徴とする水田除草方法。」である点で一致するが、本件発明1では、粉砕物又は顆粒を「カプセルに充填させて」施用するのに対し、刊行物1記載のものは、粉砕物又は顆粒をそのまま施用する点で相違する。
その相違する点について検討すると、本件発明1の「カプセル」とは、「形状が楕円球状で大きさが直径1〜10cm、長さ1〜10cm、重さ1〜150gのものが好ましい。また本発明のカプセルについては前述のごとく製剤したものの他に、前記粉砕物又は水和剤をカプセル容器に充填せず、そのままポリビニルアルコール、水溶性セルロース、ゼラチンなどの水溶性フィルムにより包んだものも含む。」(本件明細書第7欄17〜23行)ものである。
ところで、本件発明1は、界面活性剤、結合剤との粉砕物又は顆粒であって、結合剤により固結した除草成分をカプセルに充填したものを用い、「水田に施用した薬量の全量が実質的に田水に溶解する・・・カプセルであり、」(本件明細書第4欄3〜6行)と、カプセルの全てが田水に速やかに溶解するものであるのに対し、上記刊行物2に記載のものは、「合成樹脂発泡体の細粒体(0.1〜10mm)を担体とし、この担体に農薬を含浸保持させたものであり、」、施用後も溶解しない担体が残るものであり、また、作用・効果についての記載、「本発明品の長所は次の通りである。1.(「1.」は丸数字。2.〜4.も同じ。)極めて軽量であるため、運搬、貯蔵、施用等が容易である。2.袋状であるので、施用に際してはそのまゝ水面へ施用でき散布所要時間は、従来の粒剤散布に比べて大巾に改善される。3.農薬を担持した細粒体を水溶性高分子フィルムのよって袋状に密封してあるので、主剤、溶剤、界面活性剤その他補助剤の揮散がなく物性の劣化を防止できる。4.細粒体は非吸着性発泡体であるので、農薬は細粒体より水中へすみやかに離脱し均一拡散し、そのため適確な薬効が得られる。」をみても極めて軽量、脆弱な薬剤であり、また、細粒体(担体)は非吸着性で、農薬が離脱し易いものであるから、そのような、軽量、脆弱で、農薬の離脱、即ち汚染が発生し易い薬剤を袋に封入することは極めて容易に実施し得ることであっても、それをもって、それと異なる「充填する薬剤自体には飛散がなく、全量速やかに溶解する」作用・効果を有する、本件発明1のカプセルに充填することが直ちになし得るものではないといえる。
それ故、刊行物2には、袋状に密封した農薬製剤品を湛水下水田に直接投入して施用することが記載されているからといって、本件発明1のように、刊行物1記載の粉砕物又は顆粒を刊行物2記載の袋状に密封するようにすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、刊行物3ないし7、12ないし14の記載をみると、刊行物5には、農薬を経時的に異なる水溶性を有する2種以上のカプセルに納めるようにした水中施用農園芸用薬剤が記載されているが、刊行物5記載の発明の技術課題は、一剤で即効性と持続性の両効果を具備させるためのものであり、刊行物1記載の発明に上記技術を適用しても、本件発明1を導き出すことはできない。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1ないし7、12ないし14及び参考資料1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1のカプセルを水溶性フィルムにより包んだものに限定しているが、本件発明1で水溶性フィルムにより包んだものについて判断するとおりである。
したがって、本件発明2は、上記刊行物1ないし7、12ないし14及び参考資料1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
[本件発明3について]
本件発明3は、カプセルが発泡剤を含有することを構成として付加しているが、刊行物7に記載されているように、粒剤及び錠剤に固体酸粉末、炭酸塩粉末を配合し、発泡させることが公知であるにしても本件発明1、2を引用する発明であるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明3は、上記刊行物1ないし7、12ないし14及び参考資料1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
[本件発明4について]
本件発明4では、除草成分を限定しているが、該当する除草成分が刊行物1に記載されていることは前述のとおりである。
しかし、本件発明4は、本件発明1ないし3を引用する発明であるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明4は、上記刊行物1ないし7、12ないし14及び参考資料1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
[本件発明5について]
本件発明5では、カプセルを、10アール当り10ヶ〜200ヶ、かつカプセルの総重量が200〜1500gになるように施用することを構成に付加しているが、本件発明5は、本件発明1ないし4を引用する発明であるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明5は、上記刊行物1ないし7、12ないし14及び参考資料1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2が要旨を変更する補正により追加された発明であるとの主張について
その点を検討すると、本件公開公報(特開平3-173802号公報、異議5の甲第4号証)の発明の詳細な説明には、「本発明のカプセルの製造方法としては、・・・粉砕した粉砕物を・・・造粒し、この顆粒をカプセルに充填するか、・・・。また本発明のカプセルについては前述のごとく製剤したものの外に、前記粉砕物又は水和剤をカプセル容器に充填せず、そのままポリビニルアルコール、水溶性セルロース、ゼラチンなどの水溶性フィルムにより包んだものも含む。」(第4頁右下欄15〜20行)と記載されているが、「混合粉砕物、それを造粒した顆粒、水溶性フィルムにより包む」ことが明記されており、これを根拠に特許権の設定登録前に補正し、本件発明2としたものであるから、当該補正は適法になされたものであり、異議2及び異議5の申立人の当該主張は採用できない。
なお、刊行物8ないし10には、先に摘示した事項が記載されている。
(5)特許法第39条第2項について
[本件発明1について]
本件発明1と先願発明1の請求項1に記載された発明とを対比すると、本件発明1は、「【請求項1】湛水下水田への施用時に薬量の全量が田水に溶解すると仮定したとき、除草成分の田水濃度が該除草成分の水に対する溶解度(25℃)以下である除草成分、界面活性剤並びに結合剤を、粉砕物又は顆粒としてカプセルに充填させて含有する水田除草用カプセルを湛水した水田に直接施用することを特徴とする水田除草方法。」であるから、先願発明1の請求項1に記載された発明は、除草成分として、スルホニルウレア系除草成分に、また、構造中にオキシアルキレン基を含まない界面活性剤に限定し、発泡剤を必須の成分とするのに対し、本件発明1にはそういう限定がない点で相違する。
それ故、本件発明1は、先願発明1の請求項1に記載された発明と同一発明ではない。
また、先願発明1の請求項2ないし4に記載された発明も、先願発明1の請求項1に記載された発明を引用するものであるから、同じことがいえる。 したがって、本件発明1は、先願発明1の請求項1ないし4に記載された発明と同一発明ではない。
[本件発明2ないし5について]
本件発明2ないし5と先願発明1の請求項1ないし4に記載された発明とを対比すると、先願発明1の請求項1ないし4に記載された発明は、除草成分として、スルホニルウレア系除草成分に、また、構造中にオキシアルキレン基を含まない界面活性剤に限定し、発泡剤を必須の成分とするのに対し、本件発明2ないし5にはそういう限定を組み合わせて採用することが記載されていない点で相違する。
したがって、本件発明2ないし5は、先願発明1の請求項1ないし4に記載された発明と同一発明ではない。
それ故、異議4の申立人の本件発明1ないし5は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるとの主張は採用できない。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべく理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-22 
出願番号 特願平2-235040
審決分類 P 1 651・ 534- Y (A01N)
P 1 651・ 113- Y (A01N)
P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 531- Y (A01N)
P 1 651・ 5- Y (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 唐木 以知良  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 佐藤 修
鈴木 紀子
登録日 1999-09-17 
登録番号 特許第2980960号(P2980960)
権利者 石原産業株式会社
発明の名称 水田除草投込み用錠剤またはカプセル  
代理人 水野 昭宣  
代理人 鈴木 亨  
代理人 小田島 平吉  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  
代理人 江角 洋治  

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