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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) F26B
管理番号 1071560
審判番号 無効2001-35465  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-23 
確定日 2003-01-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3103292号発明「穀物乾燥装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3103292号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3103292号発明「穀物乾燥装置」(平成7年2月20日出願、平成12年8月25日設定登録。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものである。
「穀物を収納すると共に、乾燥熱源を内装して熱風による乾燥を行う乾燥室と、乾燥室への乾燥用空気の供給量の制御を可能とした空気導入口制御機構若しくは送風機と、乾燥室から乾燥後空気を排出を行う吸引ファンとで構成し、乾燥熱源からの熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を制御して乾燥室内を大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度の減圧状態を維持せしめてなることを特徴とする穀物乾燥装置。」
2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、次の点を主張する。
(1)平成9年12月26日付けの補正は、明細書の特許請求の範囲請求項1及び第0004段落中の記載を「乾燥熱源からの熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、」とし、第0005段落中の記載を「穀物温度を、穀物の熱変成を生じさせない30℃以下に抑えたままで乾燥が実現できる。」するものであるが、かかる記載は、本件発明の出願当初の明細書には記載されていない事項であるから、明細書の記載に新規事項を追加するものであって、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定に違反する。(以下「無効理由1」という。)
(2)本件特許明細書には、「乾燥熱源からの熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、」と記載されているが、大気温が30℃を超えている状態では、穀物に常温風を浴びせるだけでも穀物温度は30℃を超えてしまい、単に熱風を40℃以下とすることだけでは、穀物温度を30℃以下に保つことができないのに、穀物温度を常に30℃以下に保つための技術的要件が何ら開示されていない。そのため、当業者は本件発明を実施することができないから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。(以下「無効理由2」という。)
(3)本件発明は、甲第5号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当する。(以下「無効理由3」という。)
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第1号、第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものである。
〔証拠方法〕
甲第5号証:実願昭57-137171号(実開昭59-43893号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭63-122967号(実開平2-44687号)のマイクロフィルム
甲第7号証:カタログ「カネコ大形循環形吸引乾燥機」(金子農機株式会社昭和63年6月作成)
甲第8号証の1:資料「米麦乾燥調製貯蔵施設の合理化技術」(農業機械学会が福井県坂井郡芦原町舟津で昭和57年2月23日(火)に主催した第7回農業機械化技術研修会において、当日開演会場で参加者に配布された資料)
甲第8号証の2:農業機械学会誌第43巻第3号(第158号)目次、364、365、512頁(農業機械学会昭和56年12月1日発行)
甲第9号証:特公昭59-47228号公報
3.被請求人の主張
(1)無効理由1について:本件当初明細書の第0009段落の記載は、「熱風温度が40℃以下で、而も穀物温度が30℃以下でも乾燥が可能である」と解されるので、「乾燥熱源からの熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、」との記載は、本件当初明細書に記載されている。
(2)無効理由2について:外気温度が30℃以下では、問題が生じないのであるから、本件発明は、当業者が実施できないものではない。特定の条件下では使用可能ではないとしても、特許法第36条第4項の規定に違反するものではない。
(3)無効理由3について:
甲第5、第6、第9号証の乾燥装置の吸引ファンは、基本的に乾燥室内の空気の流れを良好にするためのものであり、甲第5号証には、乾燥室内を負圧状態にして乾燥することが開示されているが、塵埃が装置外に漏洩することを防止するためである。本件発明における圧送吸引は、乾燥環境の維持を目的とするものであるが、この目的は、いずれの証拠にも示されていない。
甲第6号証には、熱風温度の例として30℃が示されているが、20℃の外気温の場合の熱風温度の例である。これに対し、本件発明では、外気温のよって特定されるものではない「熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、」としたものであって、この数値構成要件は、どこにも開示されていない。
甲第7、第8号証の1には、請求人が実施した乾燥機が吸引型乾燥機であって、その吸引送風機の定格が70〜100mmAqであることが示されているにすぎないから、空気導入側と排出側で空気制御を行って、乾燥室内の気圧を所定値にコントロールすることは、全く示されていない。
4.甲第5、第6、甲第7号証に記載された事項
(1)甲第6号証について
甲第6号証によれば、実願昭63-122967号(実開平2-44687号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)は、穀粒通風乾燥装置の考案に関するものであって、そこには次の記載がある。
「本考案は、機体内に張込んだ穀粒に対し、熱風を送給して乾燥させる形態の穀粒通風乾燥装置についての改良に関する。」(1頁12〜14行)
「第1図は本考案を実施せる穀粒通風乾燥装置Aの本体たる機体、bはその機体a内に張込む穀粒に対し供給する熱風を生成する熱風生成装置、cはその熱風生成装置bで生成した熱風を誘導する導風路、dは機体a内に張込んだ穀粒と導風路cとを隔てる通気性の隔壁、eはその隔壁dにコーティングした遠赤外線発生セラミックを示す。」(5頁3〜11行)
「前記熱風生成装置bは、バーナー装置20を組付けた炉体の煙道の外周を、送風機21の風路がとりまき、その風路を通過する風が炉体の煙道の外周面との熱交換により熱風となって風路の吐出筒22から取出される間接熱風式のものに構成してあって、吐出する熱風の温度が略30℃となるように、バーナー装置20の燃焼量および送風機21の送風量が制御されている。」(6頁12行〜7頁4行)
「16は、前記熱風の導風路c内に送給された熱風の穀槽1内に張込んだ穀粒の層Gの透過を助長するために、機体aに装設せる吸引ファンで、機体aの上面側を覆う屋根または天井の上面に装架し、その屋根または天井には、張込用のコンベア13の穀粒放出口130の上方に臨む部位に開口160を開設し、その開口160と吸引ファン16の吸引側とを、排風ダクト161を介し連通することで、該吸引ファン16の吸引側が、穀槽1内の天井部に連通するようにしてある。」(9頁10行〜10頁4行)
「機体a内に穀粒を張込んで熱風の供給により乾燥するとき、導風路cに供給する熱風は、自然の通風の温度より10℃程度高い30℃位の低温に設定しておく。」(11頁8〜11行)
これらの記載と第1図が図示するところによれば、甲第6号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「機体a内に穀粒を収納すると共に、バーナー20を装備して熱風による乾燥を行う機体aと、乾燥室への乾燥用空気の供給量の制御を可能とした送風機21と、機体aから乾燥後空気を排出を行う吸引ファン16とで構成し、バーナー20からの熱風を30℃位の低温とした穀粒通風乾燥装置。」
(2)甲第5号証について
甲第5号証によれば、実願昭57-137171号(実開昭59-43893号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)は、循環型穀物乾燥機に関するものであって、そこには次の記載がある。
「この考案は、循環型穀物乾燥機の改良に係り、特に、熱風の吸引および圧送方式を組合せ乾燥能率を向上させ、また圧送方式稼働時でも乾燥機からの塵埃発生防止を果す循環型穀物乾燥機に関する。」(1頁10〜14行)
「・・・この考案は、循環型穀物乾燥機に熱風器を設け、この熱風器には圧送ファンを設け、前記熱風器と離間した位置には循環工程中に圧送ファンよりも大容量で作動する吸引ファンを設けたことを特徴とする。」(3頁1〜5行)
「また、穀物循環工程中は、吸引ファン24を稼働し、穀物乾燥機2内を負圧にし、穀物乾燥機2内の塵埃を排風ダクト26に吸引導入し、塵埃が農舎内に撒き散らされるのを防止する。」(8頁末行〜9頁3行)
これらの記載と第1、第2図が図示するところによれば、甲第5号証には、穀物乾燥機において、穀物循環工程中に圧送ファンよりも大容量で作動する吸引ファンを稼働させることにより、穀物乾燥機内を負圧にした発明が記載されていると認められる。
(3)甲第7、第8号証の1、2について
甲第7号証によれば、カタログ「カネコ大形循環形吸引乾燥機」(以下、「引用例3」という。)は、金子農機株式会社製の大形循環形吸引乾燥機に関する宣伝用のリーフレットであって、そこには、穀物が送風管と吸引管の間に充填され、循環によって混合されながら乾燥される形式の吸引乾燥機において、吸引送風機が静圧70mmAqを備えた形式と同じく100mmAqを備えた形式の仕様が記載され、その裏面右下には、「作成・59-5」と記載されている。
甲第8号証の1、2によれば、資料「米麦乾燥調製貯蔵施設の合理化技術」は、農業機械学会が昭和56年12月に発行された農業機械学会誌の中で案内して参加申し込みを受け付けた技術研修会であって、昭和57年2月23日(火)に福井県坂井郡芦原町舟津で開催された第7回農業機械化技術研修会用に作成され、少なくとも開催当日には受講者に頒布されたものと認められる。その88、89頁には、金子農機株式会社が開発した大形循環吸引式乾燥機(DA-型)について記載されていると認められる。
これらの事実に照らすと、甲第7号証のカタログ「カネコ大形循環形吸引乾燥機」は、金子農機株式会社により昭和59年5月に作成され、本件発明の出願前に日本国内で頒布された刊行物であると認められる。(以下、該カタログを「引用例3」という。)
5.対比
そこで、本件発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、後者の「穀粒」、「バーナー20」、「機体a」、「穀粒通風乾燥装置」は、前者の「穀物」、「乾燥熱源」、「乾燥室」、「穀物乾燥装置」にそれぞれ相当するから、両者は、
「穀物を収納すると共に、乾燥熱源を装備して熱風による乾燥を行う乾燥室と、乾燥室への乾燥用空気の供給量の制御を可能とした空気導入口制御機構若しくは送風機と、乾燥室から乾燥後空気を排出を行う吸引ファンとで構成し、乾燥熱源からの熱風を40℃以下とした穀物乾燥装置。」
で一致するが、次の点で相違する。
(1)本件発明は、乾燥室に乾燥熱源を「内装」しているものであるのに対し、引用例1では、乾燥室に乾燥熱源が外装されている点。(以下「相違点A」という。)
(2)本件発明は、「乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を制御して乾燥室内を大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度の減圧状態を維持せしめてなる」ものであるのに対し、引用例1には、かかる構成の記載も示唆もない点。(以下「相違点B」という。)
6.相違点についての判断
上記相違点について、以下検討する。
(1)相違点Aについて
引用例1に、乾燥室に乾燥熱源を外装することが記載されている以上、この乾燥熱源を乾燥室に内装することは、設計変更程度の差異というべきであって、当業者であれば容易に想到できたものである。
(2)相違点Bについて
引用例2には、穀物乾燥機において、圧送ファンよりも大容量で作動する吸引ファンを稼働させることにより、乾燥機内を負圧状態としたことが開示され、引用例3には、穀物乾燥機の吸引送風機が静圧70又は100mmAqの性能であることが開示されている以上、乾燥室内を大気圧より50〜200mmAqの範囲に属する減圧状態とすることは、当業者であれば引用例3に記載された吸引送風機を用いて引用例2に記載された乾燥機内の負圧状態を発生させる際に、普通に実施する程度の状態であったというべきである。
また、乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保つことは、引用例1に乾燥熱源からの熱風を約30℃としたことが記載されている以上、当業者であれば容易に想到できた事項である。
そうすると、相違点Bに係る本件発明の構成、すなわち、「乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を制御して乾燥室内を大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度の減圧状態を維持せしめてなる」としたことは、引用例1、引用例2及び引用例3記載の各発明に基づいて当業者が容易に想到できたことというべきである。
本件発明の効果を検討しても、引用例1ないし引用例3記載の各発明から当業者であれば予測できる程度であって、これを超える顕著な効果を奏するものとは認められない。
被請求人は、いずれの証拠にも、本件発明の乾燥環境の維持という目的がないと主張する。しかし、引用例2には、穀物循環工程中に穀物乾燥機内を負圧にした発明が記載されている以上、乾燥環境を維持するという本件発明の目的と効果については、引用例2記載の発明が実質的に達成し、かつ奏するものというべきである。
被請求人は、引用例1には、20℃の外気温の場合における30℃の熱風温度の例が記載されているだけで、本件発明の「熱風を40℃以下として乾燥室内の穀物温度を30℃以下に保ちながら、」とした構成の数値構成要件は、どこにも記載されていないと主張する。しかし、本件の特許請求の範囲の請求項1には、外気温についての限定は何らなく、「熱風を40℃以下として」と記載されているだけであるから、熱風を30℃とした例が、「熱風を40℃以下として」との構成に含まれることは明らかである。また、本件明細書の記載をみても、熱風の温度の上限値を40℃としたことの根拠は明らかではない。また、穀物温度を30℃以下に保つことについての、通常行われる程度の温度であって、その上限値についての根拠も明らかではない。そうすると、本件発明の上記数値限定は、当業者が容易に想到できた範囲というべきである。
被請求人は、引用例3には、吸引送風機の定格が70〜100mmAqであることが示されているにすぎないから、空気導入側と排出側で空気制御を行って、乾燥室内の気圧を所定値にコントロールすることは、全く示されていないと主張する。
なるほど、本件の特許請求の範囲の請求項1には、「乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を制御して乾燥室内を大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度の減圧状態を維持せしめてなる」と記載されてはいる。しかし、本件明細書には、実施例について「また吸引ファン6は、乾燥室A内の湿気を帯びた空気を室外に排出するもので、送風機5の出力よりも大きい出力の機器を採用してなる。」(本件特許公報第0007段落後半)と記載され、「本発明は特に、乾燥室A内に乾燥用空気を導入する送風機5の出力より乾燥室A内の空気の排出をなす吸引ファン6の出力を大きくして、乾燥稼働中の乾燥室A内を大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度の減圧状態を維持するようにしたものである。」(本件特許公報第0009段落前半)と記載されているので、本件発明においても、乾燥室内の気圧を所定値の範囲内とするための具体的な手段は、送風機の出力よりも出力の大きい吸引ファンを稼働させることであると認められる。そうすると、本件発明のこの手段は、引用例2に記載された発明と変わりがないというべきである。「乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を制御して乾燥室内を・・・程度の減圧状態を維持せしめてなる」という本件の記載について、被請求人の主張が仮に、乾燥室内の圧力を制御量とし、大気圧より5〜20g/cm2(50〜200mm水柱)程度低い圧力範囲を目標値として、乾燥用空気の導入量と吸引ファンによる排気量を適宜操作して、該制御量を目標値内に維持することとすれば、本件特許明細書の記載には、どこにもそのような発明の開示はないから、そのように解することはできないというべきである。
上記被請求人の上記主張は、いずれも失当であって採用することができない。
7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1、刊行物2及び刊行物3に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効理由1及び無効理由2について判断するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-11-26 
結審通知日 2002-11-29 
審決日 2002-12-12 
出願番号 特願平7-56566
審決分類 P 1 112・ 121- Z (F26B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田澤 英昭  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 粟津 憲一
会田 博行
登録日 2000-08-25 
登録番号 特許第3103292号(P3103292)
発明の名称 穀物乾燥装置  
代理人 近藤 彰  
代理人 近藤 彰  
代理人 土門 正幸  

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