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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特39条先願 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1071725 |
異議申立番号 | 異議2002-71040 |
総通号数 | 39 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-06-07 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-04-15 |
確定日 | 2002-10-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3221943号「伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3221943号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3221943号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成4年11月24日に特許出願され、平成13年8月17日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人住友金属工業株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年8月30日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1に、 「完全パーライト組織であることを」とあるのを、 「完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許請求の範囲の請求項2に、 「で冷却することを」とあるのを、 「で冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 ウ.訂正事項c 明細書の段落【0005】に、 「完全パーライト組織であることを」とあるのを、 「完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 エ.訂正事項d 明細書の段落【0006】に、 「で冷却することを」とあるのを、 「で冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、特許明細書の段落【0006】において、「第1図よりラメラー間隔が0.08〜0.12μmであれば伸線加工限界が2.5以上になることがわかる。」と記載されていることに基づいて、伸線加工限界を規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項bは、特許明細書の段落【0006】において、「第1図よりラメラー間隔が0.08〜0.12μmであれば伸線加工限界が2.5以上になることがわかる。」「冷速0.4〜4.0℃/sであればラメラー間隔が0.08〜0.12μmとなる。」と記載されていることに基づいて、ラメラー間隔及び伸線加工限界を規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正事項c及び訂正事項dは、上記訂正事項a及び訂正事項bと発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。更に、訂正事項a〜dは、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立てについての判断 (1)申立て理由の概要 申立人住友金属工業株式会社は、証拠として甲第1〜5号証を提出し、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定により、また、請求項1に係る発明は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、また、請求項2に係る発明は、甲第5号証の出願の請求項2に係る発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定により、それぞれ、特許を受けることができないものであるから、請求項1、2に記載の発明に係る特許を取り消すべきと主張している。 (2)本件発明 前記2.の項で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、平成14年8月30日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。 「 請求項1 C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼がラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材。 請求項2 C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的に入る不純物からなる鋼を熱間圧延後0.4〜4.0℃/sで冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材の製造方法。」 (3)引用刊行物記載の発明 当審が通知した取消理由で引用した刊行物1-5には、それぞれ、以下のような発明が記載されている。 刊行物1:「材料とプロセス」Vol.4,No.4(1991),社団法人日本鉄鋼協会発行,第2038頁(甲第1号証) 「82C-Cr鋼の組成(質量%)として、C:0.82,Si:0.19,Mn:0.30,P:0.001,S:0.001,Cr:0.19,Al:0.002及び92C-Cr鋼の組成(質量%)として、C:0.92,Si:0.19,Mn:0.29,P:0.001,S:0.001,Cr:0.19,Al:0.001」(Table 1)と表示され、 「・・・線材圧延を行ない5.5mmφの線材とした。供試鋼の分析結果をTable 1に示す。・・・Table 1に示す4鋼種にそれぞれ1223K×300sのγ化処理を行なった後、(823,848,873,898,923)Kで恒温変態を行ない、変態が終了した時点でHeガスにより急冷処理を行なった。その後、粒界異常相の析出面積とラメラー間隔の測定を行なった。・・・伸線加工(伸線速度0.5m/min)を行ない0.3mmφのワイヤとした。その後、引張試験と捻回試験を行なった。」(2.実験方法の項)、 「(1)C%を高めることは、Fig.1に示すようにZennerの式1/λ∝(Te-T)、(λ:ラメラー間隔、Te:共析変態温度、T:恒温変態温度)に従う領域を低温側まで押し下げる効果を有する。・・・」(3.実験結果および考察の項)と記載され、 923Kで恒温変態を行なった82C-Cr鋼線材及び92C-Cr鋼線材は何れもパーライトラメラー間隔λが0.094μm程度であることが図示されている(Fig.1)。 刊行物2:特開平4-254526号公報(甲第2号証) 「【産業上の利用分野】 本発明は、PC鋼線、ロープ用鋼線、タイヤ補強用鋼線、軸受け鋼線などの熱処理を施すことなく熱間圧延ままで優れた伸線加工性を有する0.9〜1.3%Cを含む高炭素鋼線の製造方法に関するものである。」(【0001】)、 「本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、重量%で C:0.9〜1.3%、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.2〜1.3%、Cr:0.1〜1.8%を含有し、残部はFe及び不可避不純物よりなる鋼を熱間圧延後、TcからTc-100℃の温度範囲に急冷した後、引続きパーライト変態が終了するまでの温度範囲を8℃/秒以下の冷却速度で冷却するか、または熱間圧延後TcからTc-150℃の温度範囲に急冷した後、引続きパーライト変態が終了するまで保定することを特徴とする伸線加工性に優れた高炭素鋼線の製造方法にある。」(【0010】)、 「【発明の効果】 以上の実施例からも明かなごとく、本発明は鋼材成分と熱間圧延後の冷却条件を最適に選択することにより0.9〜1.3%Cを含有する高炭素鋼線の伸線加工性に有害な初析セメンタイト、ベイナイト、マルテンサイトの発生を完全に防止することができ、この結果伸線加工性に優れた高炭素鋼線の製造を可能にしたものであり、産業上の効果は極めて顕著なものがある。」(【0027】)と記載されている。 刊行物3:特開昭58-126921号公報(甲第3号証) 「(1)C0.4〜1.2%を含有する炭素鋼または低合金鋼の線材パーライト組織のラメラ間隔を0.2μm以下にし、しかる後70〜95%の伸線加工を行うことを特徴とする鋼芯Al撚線の鋼芯用鋼線の製造方法。」(特許請求の範囲)、 「パーライトのラメラ間隔:パーライトのラメラ間隔を小さくするに従い、パーライトの強度、絞り性が向上することは良く知られている。」(第3頁左上欄第15行〜同欄第17行)、 「実施例1・・・鉛浴温度を種々に変えて変態させ、パーライトのラメラ間隔を0.098〜0.24μmの範囲内で変化させた多数の鋼線を製造し、」(第4頁右上欄下から第11行〜同欄下から第6行)と記載されている。 刊行物4:「日本金属学会誌」第55巻第11号(1991),第1232〜1239頁(甲第4号証) 「本研究では従来の研究例の少ない線径0.5mmの極細線を中心に引抜き加工後の極細線の強度・延性に及ぼす合金元素の影響について調べた。」(第1232頁左欄下から第2行〜同頁右欄下から第15行)、 「LPSと引抜き加工限界ひずみおよび到達強度の関係をFig.4に示す。・・・Fig.4の結果より、引抜き加工限界ひずみは0.10程度のLPSで最大値を示すこと、一方到達強度はLPSの減少に伴い増加することが分かる。」(第1234頁右欄下から第2行〜第1235頁左欄第7行)、 「Crにより引抜き加工後の極細線の強度・延性は顕著に改善される。CrのようなLPSを小さくする元素は高強度鋼線を得るために極めて有効である。」(第1238頁右欄末行〜第1239頁左欄第2行)と記載されている。 刊行物5:特許第2544867号公報(甲第5号証) 「請求項2 重量比で C :0.90〜1.10%, Si:0.15〜0.50%, Mn:0.30〜0.60%, Cr:0.10〜0.50% 残余をFeおよび不可避的不純物からなる鋼を線材圧延後、950〜750℃で巻取り、巻取温度から550℃までの温度範囲を(1)式で規定される範囲の冷却速度で空冷することにより初析セメンタイトを含まない微細パーライト組織とすることを特徴とする過共析鋼線材の製造方法。 Y≦0.16 logX+0.82 (1) ただし、Yは鋼のC含有率(%)、Xは冷却速度(℃/sec)を示す。」(請求項2)と記載されている。 (4)対比・判断 (4)-1.特許法第29条第1項第3号について 本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、C,Si,Mn,Crの各成分含有量およびパーライトのラメラー間隔について、後者は前者と重複する点を有し、伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材である点で、両者は、一致し、本件発明は、伸線加工限界が2.5以上であるのに対して、刊行物1に記載の発明は、伸線加工限界が不明である点で、相違する。 そこで、相違点について検討すると、本件発明1は、伸線加工限界が2.5以上であることを構成要件とするのにかかわらず、刊行物1には、成分組成およびラメラー間隔が本件発明1の範囲内の例が記載されているにすぎず、かかる例の伸線加工限界が全く記載されていない。 よって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明と同一とすることができない。 (4)-2.特許法第29条第2項について 本件発明1と刊行物2に記載の発明とを対比すると、C,Si,Mn,Crの各成分含有量について、後者は、前者と重複する範囲を有し、パーライト組織を有する伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材である点で一致し、a.完全パーライト組織のラメラー間隔およびb.伸線加工限界について、本件発明1は、それぞれ、0.08〜0.12μmおよび2.5以上であるのに対して、刊行物2に記載の発明は、いずれも不明である点で相違する。 そこで、相違点a、bについて、以下検討する。 a.ラメラー間隔 刊行物3には、C:0.4〜1.2%を含有する低合金鋼の線材パーライト組織のラメラー間隔を0.2μm以下にすることは記載されているものの、刊行物3に記載のものは、パーライトのラメラー間隔を小さくするに従い、パーライトの強度、絞り性が向上するという観点から、ラメラー間隔の上限値を定めているものであり、伸線加工限界を2.5以上とするためにパーライト組織のラメラー間隔を限定するものではない。また、刊行物3には、実施例1において、パーライトのラメラー間隔を0.098〜0.24μmの範囲内で変化させた多数の鋼線を製造することも記載されているものの、該実施例に記載されている素材線材(D-3)は、鋼の成分組成が本件発明1のものと異なる。また、刊行物4には、パーライト組織のラメラー間隔が0.10μm程度のときに、引抜加工限界ひずみが最大値を示すことが記載されている(Fig.4)ものの、刊行物4に記載の引抜加工限界ひずみは、引抜加工後の線径に基づく指標であり、本件発明の、絞りが30%に低下する伸線径を用いる伸線加工限界とは異なるものであり、また、刊行物4、Fig.4に記載のものは、炭素鋼に関するものであり、本件発明1の低合金鋼と鋼の成分組成が異なる。 b.伸線加工限界 刊行物2に記載のものは、伸線加工性を評価するための指標として、捻回試験において異常破断が発生する線径まで伸線加工を行い、このときの伸線加工真歪で伸線加工性を評価しているものであり、本件発明1における絞りが30%に低下する伸線径を用いる伸線加工限界とは異なるものであるから、刊行物2に記載のものは、伸線加工限界が2.5以上であることを示唆するものとはいえない。 以上のように、刊行物2-4のいずれにも、伸線加工限界を2.5以上とするために、ラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織とすることは、全く記載されておらず、かつ示唆されていないから、刊行物2-4に記載の発明を寄せ集めることにより、本件発明1を容易に想到することができたものとすることができない。 そして、本件発明1は、請求項1に記載された事項により、低合金鋼線材も炭素鋼線材と同様に熱間圧延線材をオフラインで最初の鉛パテンティング無しに伸線加工でき、低コスト化が図れるという格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。 したがって、本願発明1は、刊行物2-4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。 (4)-3.特許法第39条第1項について 本件発明2と刊行物5の出願の請求項2に記載の発明(以下、「先願発明」という。)とを対比すると、両者は、C,Si,Mn,Crの各成分含有量が重複する鋼を熱間圧延後所定の冷却速度で冷却することを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材の製造方法であり、かつ、熱間圧延後の冷却速度が重複する点で一致し、本件発明2は、完全パーライト組織のラメラー間隔が0.08〜0.12μmで、かつ伸線加工限界が2.5以上である線材を製造する点を構成要件とするのに対して、先願発明は、製造する線材の完全パーライト組織のラメラー間隔及び伸線加工限界が不明である点で相違する。 そこで、上記相違点について検討すると、先願発明は、過共析鋼線材の粒界初析セメンタイトの生成を完全に阻止し、微細パーライト組織とすることにより、熱間圧延ままの状態の過共析鋼線材に高減面率の伸線加工を付与するものであるが、完全パーライト組織のラメラー間隔及び伸線加工限界について、完全パーライト組織のラメラー間隔が0.08〜0.12μmで、かつ伸線加工限界が2.5以上である点を構成要件とするものでない。 よって、本件発明2は、先願発明と同一であるとすることができない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼がラメラ-間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材。 【請求項2】 C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的に入る不純物からなる鋼を熱間圧延後0.4〜4.0℃/sで冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造方法に関するものである。従来は低合金鋼線材を極細線に適用する場合、最初に熱間圧延線材をオフラインで鉛パテンティングをする必要があった。しかし、本発明を利用することにより最初のオフライン鉛パテンティングを行わなくても伸線加工できるので、高強度極細線の低コスト化が図れる。 【0002】 【従来の技術】 熱間圧延された低合金鋼線材の最初のオフライン鉛パテンティング省略についてはいくつかの製造法が提案されているが、いずれも最終製品径が1mm以上の太径線に関するものであり、本発明が対象としている0.50mm以下の高強度極細線に関する提案は見られない。 【0003】 例えば特開昭50-92216号公報ではMnあるいはMn,Crを添加することにより熱間線材圧延後の冷速が遅くても引張強さを1128MPa(115kgf/mm2)以上にできる製造法を開示している。これはPC鋼線用熱間圧延線材の調整冷却法であり、オフラインで最初の鉛パテンティングをしなくてもPC鋼線の到達強度を高くできる製造方法である。極細線の場合には伸線加工限界(伸線加工限界=1n(do/dn)2、do:熱間圧延線材径、dn:絞りが30%に低下する伸線径)を2.5以上に大きくし、最初のオフライン鉛パテンティングを省略することが課題なのでこの方法は利用できない。なぜなら、PC鋼線の場合、要求される伸線加工限界が約1程度と小さいためである。また、特開平3-79719号公報ではSi-Cr系ばね用線材に関し加熱温度、仕上げ圧延温度とも1000℃以下とし、650〜750℃まで強制冷却後1〜10℃/sで600℃まで冷却することを開示している。加熱温度から熱間線材圧延温度までの温度制御が必要であることまた対象が太径線であるばねであることより要求される伸線加工対数歪が小さいので高強度極細線用低合金鋼線材には適用できない。そこで伸線加工性の優れた高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造法の開発が望まれていた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明はこのような事情に着目して行われたものであり、熱間圧延線材のミクロ組織を制御し、オフラインで鉛パテンティングをしなくても伸線加工限界が2.5の高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造法を提供するものである。伸線加工限界が2.5以上であれば従来の炭素鋼線材と同等であり、低合金鋼線材の極細線への工業的な応用が促進される。 【0005】 【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。 (1)C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼をラメラ-間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材。 【0006】 (2)C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜0.60%、Cr:0.10〜0.60%、残部鉄及び不可避的に入る不純物からなる鋼を熱間圧延後0.4〜4.0℃/sで冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを特徴とする伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材の製造方法。 本発明者等は長年の研究によりパーライト組織のラメラ-間隔と伸線加工限界の間には対応関係があり、最適なラメラ-間隔が存在することを見い出した。この現象を利用すれば伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材が経済的に製造できる。第1図にラメラ-間隔と伸線加工限界の関係を示す。5.5mm線材を伸線加工した際の引張強さ、絞りの変化を測定し、絞りが30%に低下する対数歪を伸線加工限界とした。絞りが30%以下になると鋼線の延性不足により高速伸線加工時断線が発生するようになる。第1図よりラメラ-間隔が0.08〜0.12μmであれば伸線加工限界が2.5以上になることがわかる。炭素鋼の場合、工業的には5.5mmから1.6mm(伸線加工限界2.5)程度まで伸線加工される場合が多い。そのため、伸線加工限界2.5が伸線加工性良好な線材のひとつの指標となる。ラメラ-間隔が粗くなるとパーライト構成因子のセメンタイト厚さが厚くなり加工性が劣化するので伸線加工限界が低くなる。また、ラメラ-間隔を狭くするには変態開始温度を低くする必要があるのでパーライト組織が乱れてくるため伸線加工限界が低下するものと推定される。第2図には冷速とラメラ-間隔の関係を示す。冷速は850〜650℃の間の平均冷速をとった。冷速0.4〜4.0℃/sであればラメラ-間隔が0.08〜0.12μmとなる。Si-Cr系の低合金鋼線材の場合、炭素鋼と比較して冷速を小さくすることにより伸線加工性が向上する。冷速を0.4〜4.0℃/sに小さくしてもCが0.80から1.10%であれば初析セメンタイトの出現は防止できる。 【0007】 本発明は線径が0.5mm以下、引張強さ3200MPa以上の高強度極細線を対象としている。そのため、Cが0.80%以下であるとSi,Crを添加しても3200MPa以上とすることができない。そこで0.80%以上とした。また、Cが1.10%以上になるとラメラ-間隔を0.08〜0.12μmにした場合初析セメンタイトの出現を抑えることができないので1.10%以下とした。次にSiであるが0.10%以下であると脱酸不足により極細線表面に非常に小さな表面疵が発生する。そのためSiは0.10%以上とした。Siが1.00%以上になるとフェライトの硬化作用が大きくなりラメラ-間隔を制御しても伸線加工限界2.5以上は不可能となるのでSiを1.00%以下とした。Mnについては0.10%以下であるとSによる熱間脆性を防止できないので0.10%以上とした。0.60%以上となると最終パテンティング時に中心偏析部に乱れたパーライト組織が発生し、極細線の延性を劣化させる。そのため0.60%以下とした。Crについては極細線の高強度化に必要な0.10%以上とした。しかし、0.60%以上となると最終パテンティング時未溶解炭化物がでやすくなることと製品の到達強度が飽和することを考慮し、高強度化に最も有効な0.60%以下とした。 【0008】 以下、実施例によって本発明を説明する。 【0009】 【実施例】 表1に示す低合金鋼線材を真空溶解後5.5mm熱間圧延線材とした。この際、熱間圧延後の冷速を変化させた。この5.5mm線材を用いて伸線加工性と最終製品の0.20mm極細線の特性を調べた。5.5mm線材から直接1.4mmまで伸線できないものは3.2mmで中間鉛パテンティングを行った。また、いずれも1.4mmで最終鉛パテンティングを行った後極細伸線加工を行った。 【0010】 【表1】 【0011】 表1においてCRは冷速(℃/s)、PSはラメラ-間隔(μm)、TSは熱間圧延線材の引張強さ(MPa)、線材の組織においてPは完全パーライト組織、C+Pは初析セメンタイトを含むパーライト組織、PSは線材のラメラ-間隔(μm)、DLは伸線加工限界(mmは伸線加工限界での線径、対数歪は伸線加工限界の1n(do/dn)2)である。0.20mm鋼線の特性としては引張強さと撚り加工特性を調べた。撚り加工特性は撚り加工速度18000rpmで2本撚り線を試作した場合の断線の発生の有無で良否を判定した。 【0012】 鋼種A,BはC量が0.8%以下なので伸線加工限界は2.5以上であるが、0.20mm鋼線の引張強さが3200MPa以下と低くなった。 鋼種CはC量が1.12%と高いので伸線加工限界は2.5以下である。また、1.4mmから0.20mmまでの極細伸線加工ができなかった。 鋼種DはSiが1.09%と高いので、ラメラ-間隔は0.09μmであるが、Siによる固溶硬化により伸線加工限界が2.5以下であった。 【0013】 鋼種Eは伸線加工限界は2.5以上になったが、Mnが0.70%と高いので最終極細伸線加工で0.20mmまで引けなかった。 鋼種FはCrが0.63%と高いので伸線加工限界は2.5以下であった。また、最終極細伸線加工時0.20mmまで引けなかった。 鋼種Gは伸線加工限界2.5以上であるが、Crが0.05%と低いので、0.20mm鋼線の引張強さが3200MPa以下となった。 【0014】 鋼種H,Iは化学成分は本発明鋼の範囲内であるが、冷速が0.4〜4.0℃/sの範囲に入っていないためラメラ-間隔が0.08〜0.12μmにならず、伸線加工限界が2.5以下となった。但し、3.2mmで中間鉛パテンティングを行って1.4mmまで伸線加工し、1.4mmで最終鉛パテンティングを行ったものは0.20mmまで極細伸線加工できた。0.20mm鋼線の引張強さは3200MPa以上であり、撚り加工性も良好であった。 【0015】 鋼種J,Kが本発明鋼である。いずれも5.5mmから1.4mm以下まで伸線加工でき、伸線加工限界は2.5以上である。5.5mm線材から1.4mmまで直接伸線加工を行い、最終鉛パテンティング後0.20mmまで極細伸線加工を行った。0.20mmで4000MPa以上の引張強さを得た。 以上述べたように本発明により伸線加工性が良好で、かつ3200MPa以上の高強度化が可能である低合金鋼線材が得られる。 【0016】 【発明の効果】 熱間線材圧延後0.4〜4.0℃/sの冷速で調整冷却しラメラ-間隔を0.08〜0.12μmの完全パーライト組織に制御することによりオフラインで最初の鉛パテンティングをしなくても伸線加工限界2.5以上が可能である。これにより低合金鋼線材も炭素鋼線材と同様な伸線加工性が得られ、高強度極細線用低合金鋼線材の低コスト化が図れる。低合金鋼線材も炭素鋼線材と同様に熱間圧延線材をオフラインで最初の鉛パテンティング無しに伸線加工できることによる低コスト化効果が大きいので本発明の工業的な意味は大きい。 【図面の簡単な説明】 【図1】 パーライト組織のラメラ-間隔と伸線加工限界の関係を示す図である。 【図2】 熱間線材圧延後の冷速とラメラ-間隔の関係を示す図である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1.特許請求の範囲の減縮を目的として、次のとおり訂正する。 1-1.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1に、 「完全パーライト組織であることを」とあるのを、 「完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 1-2.訂正事項b 特許請求の範囲の請求項2に、 「で冷却することを」とあるのを、 「で冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 2.明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおり訂正する。 2-1.訂正事項c 明細書の段落【0005】に、 「完全パーライト組織であることを」とあるのを、 「完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 2-2.訂正事項d 明細書の段落【0006】に、 「で冷却することを」とあるのを、 「で冷却することによりラメラー間隔0.08〜0.12μmの完全パーライト組織を有し、かつ伸線加工限界が2.5以上であることを」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-10-03 |
出願番号 | 特願平4-313415 |
審決分類 |
P
1
651・
4-
YA
(C22C)
P 1 651・ 121- YA (C22C) P 1 651・ 113- YA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
三浦 悟 |
特許庁審判官 |
平塚 義三 板谷 一弘 |
登録日 | 2001-08-17 |
登録番号 | 特許第3221943号(P3221943) |
権利者 | 新日本製鐵株式会社 |
発明の名称 | 伸線加工性の良好な高強度極細線用低合金鋼線材およびその製造方法 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 西山 雅也 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 今井 毅 |