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審決分類 審判 全部申し立て 1項1号公知  B41J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1071763
異議申立番号 異議2002-71400  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-04 
確定日 2002-12-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3235229号「インクジェット記録方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3235229号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3235229号の請求項1ないし3に係る発明の出願は、平成4年12月7日に特許出願され、平成13年9月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人コニカ株式会社より請求項1ないし請求項3に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年10月21日に特許異議意見書の提出とともに訂正請求(以下「本件訂正」という。)がなされたものである。

第2 訂正の可否の判断
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1を、「【請求項1】顔料と高分子分散剤と樹脂エマルジョンと一価アルコールとを含むインクを用いるインクジェット記録方法であって、100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2であることを特徴とするインクジェット記録方法。」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2を、「【請求項2】サイズ処理された紙に対する接触角が71゜〜138゜のインクを用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。」と訂正する。

なお、特許権者は訂正請求書の「7 請求の理由」の「(3)訂正事項」において、請求項3を削除する旨記載しているが、本件訂正は訂正請求書の「6 請求の趣旨」にあるとおり「訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正する」ことを内容とする訂正であって、添付の訂正明細書においては請求項3が削除されていないから、本件訂正において請求項3が削除されたと認めることはできない。また、請求項3が削除されないことに伴って特許権者が格別不利益を被ると理解しなければならない理由もないから、訂正明細書の再提出等の機会を与える必要性も認めない。もちろん、本件決定の送達後に、特許権者が別途訂正審判を請求することは自由である。
2.訂正についての判断
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、使用するインクが一価アルコールを含むことを限定し、「100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量」(以下、単に「付着量」という。)を訂正前の「5.3×10-5〜5.5×10-4g/cm2」から「5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2」に減縮するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正と認める。
訂正事項2は、「サイズ処理された紙に対する接触角」(以下、単に「接触角」という。)を訂正前の「70゜〜140゜」から「71゜〜138゜」に減縮するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正と認める。
以上より、本件訂正は特許法120条の4第2項ただし書きの規定に適合するものと認める。
(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1のうち、使用するインクが一価アルコールを含むことは訂正前の【請求項3】及び段落【0010】に記載されているから、新規事項の追加には当たらない。
訂正事項1における付着量の下限値及び上限値は、訂正前明細書【表3】〜【表5】において、全ての評価項目での評価が○又は◎であるインクとプリンタ(HG-5130又はDeskjet500)の組合せに対応する【表2】記載の付着量の下限値及び上限値と一致し、さらに【表3】〜【表5】において、いずれか評価項目での評価が×となっている場合の付着量は、これら下限値を超えるか上限値未満であるから、訂正前明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せる事項であって、新規事項の追加には当たらない。
訂正事項2における接触角の上限値及び下限値は、付着量が「5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2」との条件下での、訂正前明細書【表3】〜【表5】における全ての評価項目での評価(請求項2に係る発明に前記条件が課されるため、評価に当たり、インク1,4とHG-5130組合せ、及びインク5とDeskjet500の組合せは除外される)が◎であるインク(インク1〜5)の接触角(【表1】)の上限値及び下限値と一致し、逆に上限値・下限値間に入らない接触角のインク(インク6,7)は、何れかの評価項目が◎とならない(【表3】〜【表5】によれば、全ての評価項目が◎とならない。)。したがって、訂正事項2も訂正前明細書の記載から直接的かつ一義的に導き出せる事項であって、新規事項の追加には当たらない。
また、本件訂正が特許請求の範囲を拡張又は変更するものでないことは明らかである。
以上のとおり、本件訂正は、平成6年法律第116号附則6条1項が、同法の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、なお従前の例によるとすることにより、平成11年法律第41号による改正前の特許法120条の4第3項において準用する同法126条2項及び3項が読み替えられて準用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書き及び2項の規定に規定に適合する。

3.訂正の可否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。

第3 特許異議申立についての判断
1.本件発明の認定
訂正が認められるから、本件特許の発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜請求項3に記載されたとおりの次のものと認める。
【請求項1】顔料と高分子分散剤と樹脂エマルジョンと一価アルコールとを含むインクを用いるインクジェット記録方法であって、100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2であることを特徴とするインクジェット記録方法。(以下「本件発明1」という。)
【請求項2】サイズ処理された紙に対する接触角が71゜〜138゜のインクを用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。(以下「本件発明2」という。)
【請求項3】前記インクが、1価アルコールを含むインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。(以下「本件発明3」という。)

2.特許異議申立の概要
(1)本件発明1及び本件発明3は、特開平4-18462号公報(甲第1号証。以下「引用例」という。)に記載された発明である。
(2)本件発明1〜本件発明3は、引用例、特開平3-163175号公報(甲第2号証)、特開平3-160068号公報(甲第3号証)、特開平4-46971号公報(甲第4号証)及び特開平3-56573号公報(甲第5号証)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

3.本件発明1についての判断
引用例は、発明の名称を「インク及びこれを用いたインクジェット記録方法」と題する公開公報であって、「水性媒体中に、顔料及びマイクロエマルジョンを含むインク」(1頁左下欄6〜7行)が記載され、実施例においては「インク(A)」として「スチレン-アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体」(8頁右下欄5行)及び「エタノール」(9頁左上欄9行)を含むこと、「インク(B)」として「スチレン-マレイン酸ハーフエステル-無水マレイン酸共重合体」(9頁左上欄16〜17行)及び「エタノール」(9頁右上欄17行)を含むこと、及び「インク(C)」として「スチレン-アクリル酸-アクリル酸ブチル共重合体」(9頁左下欄4行)及び「エタノール」(9頁右下欄4行)を含むことの記載があることから、「インク(A)」、「インク(B)」及び「インク(C)」は、付着量に関する条件を除いて本件発明1に用いられるインクと一致すると認めることができる。
引用例には、「NP-DK紙とXEROX4024紙にBJ130プリンター(キャノン(株)製)を用いて印字した」(10頁右上欄9〜11行)との記載があるから、インクジェット記録方法の発明としても、付着量に関する条件を除いて本件発明1と一致すると認めることができる。
しかし、引用例には付着量に関する記載はない。特許異議申立人は、引用例記載の耐摩耗性試験が良好であることから、引用例記載の発明が付着量に関する本件発明1の構成を充足する蓋然性が高いと主張する。確かに、引用例には「T2:印字物の耐摩耗性(耐擦過性)の試験・・・印字物を消しゴム(・・・)で押し圧50gで5往復擦り、試験前後の光学濃度をマクベス濃度計(・・・)を用いて測定し、残存率を計算する。」(10頁右上欄8〜14行)との記載があり、この試験は訂正明細書記載の「<評価項目5:耐擦性試験3>印字ムラを評価したサンプルを用いて筆記具用の消しゴムで印字部分を擦り、擦った後の印字濃度の低下率で判断した。」(段落【0035】)と同様の試験であり、引用例第2表には残存率が80%以上となっているから、訂正明細書の表現に従うならば、「◎」と評価がされるものである。さらに引用例には、「T1:駆動条件と吐出安定性・・・印字の乱れ、欠け、不吐出など有無を観察し、吐出安定性を評価した。」(10頁左上欄14〜19行)との記載もあり、この試験が訂正明細書記載の「<評価項目1:印字ムラ試験>」(段落【0030】)と類似することも認めることができる。そして引用例記載の「インク(A)」、「インク(B)」及び「インク(C)」は、第2表において評価結果が「A」、すなわち、「1文字目からきれいに吐出し、連続印字中、不吐出、欠け、印字の乱れがまったくない」(10頁左上欄末行〜右上欄2行)のであるから、引用例記載の発明は、本件発明1と同程度の印字品質及び耐擦過性を有すると認めることもできる。
しかし、本件発明1の構成を備えることによって印字品質及び耐擦過性が向上することと、本件発明1と同程度の印字品質及び耐擦過性を有するために本件発明1の構成を有さなければならないのかは別の問題である。引用例の全記載に照らせば、引用例記載の発明は、インクを改良することにより印字品質及び耐擦過性を向上した発明と認められ、使用するプリンタとの関係や付着量を考慮した発明でないことは明らかである。すなわち、インクによっては、本件発明1の付着量に関する構成を有さなくとも、印字品質及び耐擦過性に優れた記録方法は十分あり得るというべきであるから、印字品質及び耐擦過性が本件発明1と同程度という理由のみでは、引用例記載の発明における付着量が本件発明1と同程度であるとまではいうことができない。
したがって、本件発明1の付着量についての構成は、本件発明1と引用例記載の発明との相違点であり、当然に両者が同一の発明とはいえない。
そこで、この相違点が当業者が容易に想到できるものかどうか検討する。
まず、引用例に付着量についての記載が一切なく、上記のとおり引用例記載の発明は、インクを改良することにより印字品質及び耐擦過性を向上した発明であるから、引用例記載の発明のみから、相違点に係る構成を想到することが困難であることは明らかである。甲第2号証〜甲第5号証は、それぞれ発明の名称を「画像記録用インク」(甲第2、第3、第5号証)又は「記録用インクの製造方法」(甲第4号証)とする公開公報であり、これら甲号各証の全記載によれば、画像にじみのない等印字品質に優れたインク又はその製造方法に係る発明を開示するのみであって、付着量に関する本件発明1の構成を開示又は示唆するものではない。そのことは、これら甲号各証には耐擦過性についての記載がないこと、及び使用するプリンタについての特定がないことからも明らかである(後者については、プリンタによって同一インクであっても、付着量が異なることから、インクのみでは付着量が定まらないとの趣旨である。)。
そうすると、これら甲号各証に記載の発明によっても、相違点に係る本件発明1の構成をなすことが、当業者といえども容易でないことは明らかである。
4.本件発明2及び本件発明3についての判断
本件発明2は、本件発明1に、接触角について更に限定したものであるが、本件発明1が容易に発明できない以上、本件発明2も容易に発明できないことは明らかである。
請求項3記載の「前記インクが、1価アルコールを含むインクである」との構成は、本件発明1が有する構成であるから、本件発明3は本件発明1と同一発明である。本件発明1が引用例記載の発明と同一でなく、当業者が容易に発明できたものでない以上、本件発明3も同様である。

5.特許異議申立についての判断の結論
以上のとおり、本件発明1及び本件発明3は引用例に記載された発明ではなく、本件発明1ないし本件発明3は、引用例及び甲第2号証〜甲第5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許異議申立人の主張・証拠によっては、これら発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし本件発明3の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし3についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。

第4 むすび
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 顔料と高分子分散剤と樹脂エマルジョンと一価アルコールとを含むインクを用いるインクジェット記録方法であって、100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】 サイズ処理された紙に対する接触角が71°〜138°のインクを用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】 前記インクが、1価アルコールを含むインクであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電気信号応じてインクを吐出するインクジェット記録方法に関し、着色剤として顔料を含むインクを用いるインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、低騒音であり且つ記録の高速化、高密度化及びカラー化が容易である等の利点を有している。これらのインクジェット記録用インクとしては安全性、信頼性、印字品質等の理由により、水溶性染料を水溶性媒体中に溶解させた水性インクが使用されているのが現状である。しかし水溶性染料を用いた場合には耐光性が満足できなかったり、汗、雨等が印字部分についた場合には染料が溶けだして印字が汚れたり、消えたりすると言う課題を抱えている。
【0003】
一方、筆記具においても同様の問題があることから、上記問題を解決する為に、染料に代えて顔料を用いたインクの提案がなされており、特開昭56-28256号公報には有機顔料に水に不溶の樹脂エマルジョンを添加するインクが保存安定性や定着性を改良するために提案されている。しかし記録ヘッドに設けられた微細なノズルから液体を吐出させて記録を行なうインクジェット記録方式に用いるインクは、粘度、表面張力等の物性値が適当であること、溶解成分の溶解安定性が高く微細なノズルを目詰まりさせないこと、輸送環境を想定した環境下での保存安定性、記録画像の鮮明さ(高画像品位)、被記録剤への定着速さ(速乾性)、記録画像の耐光性、耐水性等の記録物の耐候性、さらに環境や人体に対する安全性など、一般の万年筆やボールペンの様な文具用インクに比べると多くの特性でより厳密な条件が要求されるため筆記具用のインクをそのまま使用できなかった。
【0004】
そこでインクジェットに顔料を使用する場合には、その顔料を長期間安定に微分散させたり、印字中もしくは印字中断後の再起動時でノズルの目詰まりを防止したり、吐出安定性を満足させるためにインクとして改良がなされている。例えば特開平4-18462号公報には吐出安定性を改良するために平均粒径が50nm以下のマイクロエマルジョンを用い、さらに平均分子量3000〜30000の高分子分散剤を添加することが挙げられている。しかし、高印字品質への要求の高まりや印字の多様化に伴い新たな課題が発生した。従来の染料インクでは見られなかった印字ムラという現象である。これは顔料インクに特有な現象であり、グラフィック等の広範囲の印字を行うときはもちろん、キャラクタ印字を行う際にも見られる現象で、印字に濃淡が発生し印字品質を劣化させる。さらに記録紙の種類によって印字ムラの発生や印字濃度に大きなばらつきがあった。また、目詰まりや吐出安定性を改良するための改良を行っている結果、記録紙上では逆に汗ばんだ手によって印字物が汚れたり、また消しゴム等で擦ると簡単に消えてしまうという課題はいまだ十分解決されていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な問題点を解決するためのものであり、その目的は、紙種によらず印字ムラやにじみが無く印字濃度が高い画質を得られ、かつ汗ばんだ手や消しゴム等によって印字が汚れたり消えたりしない耐擦性の良好なインクジェット記録方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は顔料と高分子分散剤と樹脂エマルジョンとを含むインクを用いるインクジェット記録方法であって、100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.3×10-5〜5.5×10-4g/cm2であることを特徴とする。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明者らは、紙種によらず印字ムラ、さらなる高印字品質化、耐擦性の課題を解決する為に検討を重ねた結果、記録紙に付着する固形分の合計量が印字ムラや印字濃度、さらにはに耐擦性に大きな影響を与えていることを見いだした。本発明の固形分付着量とは100%Dutyで印字後、25℃60%RHの環境で24時間放置して印字前の紙の重量に対して増えている重量を単位面積当りの重量に換算して算出した量を言う。
【0008】
一般にインクジェット記録は印字密度に対して必要とする線幅、ドット径を満足するインク重量をそれぞれのインクに対して最適化し印字を行なうが、最適化したインク重量であっても印字ムラが発生し、印字の濃淡が顕著に発生することがしばしば起こった。そこで本発明者らは鋭意検討した結果、記録紙上に付着する単位面積当りの顔料、樹脂エマルジョンの固形分、高分子分散剤、固体湿潤剤等の固形分付着量が印字ムラ、耐擦性に大きく関与していることを見いだし本発明に至った。
【0009】
顔料インクは、分散系であり従来より用いている染料系とは記録紙上での挙動が大きく異なっている。即ち、記録紙上でインクの乾燥工程にともない顔料の分散系が変化し、顔料の凝集が起こること、及び紙表面の微少な凹凸が顔料の紙への付着状態を不均一にしているものと考えられる。そこで本発明はこのような現象を防止し、耐擦性の良好なインクジェット記録方法を検討したところ記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.3×10-5〜5.5×10-4g/cm2である場合には印字ムラの発生がなく、また耐擦性が改良されることを見いだした。 単位面積当りの固形分量が5.3×10-5g/cm2より少ないと印字ムラの発生を改良できず、5.5×10-4g/cm2を越えると耐擦性が大きく劣化する。
【0010】
更に本発明に用いるインクについて説明する。本発明に使用するインクは少なくとも顔料、樹脂エマルジョン、高分子分散剤、一価アルコールを含むインクである。
【0011】
本発明に用いる顔料としては、主溶媒である水との親和性が良いものであれば使用でき、例えば、カーボンブラック類、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、総合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料やフタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ベレリン、及びベレリン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料やアニリンブラック等を挙げることができる。その他顔料表面を樹脂等で処理したグラフトカーボン等の加工顔料が使用できる。
【0012】
これらの顔料は本発明のインクに対して1〜20重量%が好ましいが、さらには、2〜10重量%が好ましい。粒径は、10μm以下の顔料を用いるが、さらには0.1μm以下の粒子からなる顔料を用いることが好ましい。
【0013】
顔料の分散方法は、ロールミル、サンドミル、ジェットミル、超音波ホモジナイザー等の分散機が使用できる。
【0014】
本発明に用いることができる高分子分散剤は、ゼラチン、アルブミン、カゼイン等のたんぱく質、アラビアゴム等の天然ゴム類、サボニン等のグルコシド類、リグニンスルホン酸塩、セラック等の天然高分子、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体及びその塩、スチレン-マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体及びその塩、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体及びその塩、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、リン酸塩等の陰イオン性高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルポロリドン等の非イオン性高分子、さらには、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のモノマーが共重合されていても良い。これらは、単独あるいは複数の組合せで添加しても良い。また前記分散剤溶解性を高めるためにインクの液性は中性またはアルカリ性であることが望ましく、長期保存性に優れたインクを実現できる。pH調整剤としてはジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の無機アルカリ等が挙げられるが、揮発性のアルカリであるアンモニアはにじみの発生をおさえ特に好ましい。高分子分散剤の添加量は顔料に対して10〜50%の範囲であることが好ましい。顔料に対する高分子分散剤の添加比は顔料の種類や、粒径、その他の特性によって決まるが、添加量が50%を越えるとインクジェット記録用インクとしての吐出安定性に悪影響を与えたり、インクに浸透性がでてにじみの発生につながる。また印字ムラにも悪影響を及ぼす。
逆に10%より少ないと十分な分散性が得られず、さらに印字ムラの発生を顕著にする。
【0015】
本発明に用いることができるエマルジョンは、例えば、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニル系、アクリル-スチレン系共重合エマルジョン等単独重合または共重合樹脂エマルジョン、メタクリレート、アクリレート等の有機超微粒子、コロイダルシリカ等の無機超微粒子等が使用される。
中でも特に、エマルジョン被膜の形成状態から内部3次元架橋したマイクロエマルジョンやその中間体等が好ましい。エマルジョンの粒子径は、150nm以下であれば容易に使用できる。また、添加量としてはインク中の固形分で顔料に対して1:10〜100:1の範囲での添加が望ましい。この範囲を外れると目詰まりや吐出安定性不良につながったり、印字ムラの発生が顕著になる。
【0016】
さらに、本発明のインクには一価アルコールを添加する。一価アルコールとしてはエタノール、プロパノール等が挙げられる。一価アルコールの添加は紙に対するインクの接触角を支配しサイズされた紙に対しての接触角が70°〜140°になるように添加する。前述した高分子分散剤も顔料表面の濡れを改良して分散性を実現しているため、インクとしての濡れ性にも影響を与える。従って、分散剤の種類、顔料の種類、添加量によって添加する一価アルコールの添加量も適宜決める。具体的にはサイズされた紙に対する接触角が70°〜140°になるように添加する。70°より小さいと紙に対して浸透が顕著になり印字ムラをさらに悪化させ、140°を越えても逆に紙の上ではじきやすくなり印字ムラの発生が顕著になる。
【0017】
本発明に使用できる湿潤剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、及びその誘導体類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の含窒素有機溶剤、また固体湿潤剤としてペントース、ヘキソース、ヘプトース等の単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、多糖類及び/又はこれらの誘導体である糖アルコール、デオキシ糖、酸化誘導体等の糖類、尿素及び尿素誘導体等が挙げられる。具体的には、スクロース、フルクトース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、マルチトール等、またチオ尿素、エチレン尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等が挙げられる。これらの添加量は、インク中に0.1〜30量%、好ましくは1〜20重量%である。
【0018】
その他、必要に応じてインク物性を調節するための粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤の添加剤やポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂、防カビ剤、防腐剤等を添加することができる。
【0019】
また、上記成分によって調製されたインクは、目詰まりの原因となる粗大粒子や異物を除去する為に、金属フィルター、メンブレンフィルター等を用いた減圧及び加圧濾過や遠心分離を行うことが好ましい。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。まず本発明にもちいるインク組成を以下に示す。組成比の数値は、水性溶媒以外は固形分換算量でありすべて重量%である。
【0021】

ここで用いたMAー100は三菱化成工業社製カーボンブラック、またマイクロジェルE-1002は日本ペイント社製であり、150℃以上で膜化するタイプである。インクの製造は以下の手順で行ったがこれに限定されるものではない。上記の各成分をジェットミルで混合撹拌後、粒径が1μm以下になったことを顕微鏡観察により確認し、3μmのメンブランフィルターにて加圧濾過してゴミ及び粗大粒子を除去した。最後にもう一度濾過操作を行うことは不純物の混入防止に効果的である。
【0022】
以下のそれぞれのインクは上記インクとほぼ同様な手順にて作成した。
【0023】


ここで用いたMCF-88は三菱化成工業社製カーボンブラック、またSEE-9(Tg=約70℃)は日本ペイント社製である。
【0024】

ここで用いたMAー7は三菱化成工業社製カーボンブラックである。また、PVPは東京化成社製平均分子量約40,000のポリビニルピロリドンである。

ここで用いたRAVEN150はコロンビアカーボン社製カーボンブラック、SG-60は(株)岐阜セラツク製造所製エマルジョンでTgは92℃である。

ここで用いた顔料は大日本インキ化学工業社製カラートナー用有機顔料である。
【0025】


以上得られたインク1〜7を用いて以下に示す評価を行った。まずインクの接触角をゼロックス社PPC用紙、本州製紙社製やまゆり紙、リコー社Ricopy-6200紙を用いて測定した。その結果を表1に示す。接触角は協和界面科学(株)製自動接触角計を用いて滴下直後のデータを読み取った値である。
【0026】
【表1】

【0027】
次に本発明インクジェット記録方法を具体的に説明する。本発明の記録方法は100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.3*10-5〜5.5*10-4g/cm2であることを特徴としている。本発明の固形分付着量は印字してから25℃60%RHの環境で24時間放置後の重量変化量で確認できるが、インク組成やインク吐出量によっても調整することができる。本発明ではドット密度が異なるプリンタを用いて説明する。まず当社インクジェットプリンタであるHG-5130(ドット密度360dpi)を用いてインク1〜7で100%duty印字を行って前述した方法で単位面積当りの固形分付着量を算出した。さらに熱エネルギーを用いてインクを吐出させるプリンタであるデスクジェット500(横河ヒューレットパッカード(株)製)(ドット密度300dpi)を用いて1〜7のインクで上記試験と同様に単位面積当りの固形分付着量を算出した。その結果を表2に示す。尚印字用紙はゼロックスPPC用紙を用いた。
【0028】
【表2】

【0029】
固形分付着量を算出した結果、本発明の固形分付着量の範囲を満足するものしないものがあるがドット密度やインク重量によってその記録方法に合う最適なインク組成を決めることによって対応ができる。ここではそのままの結果を用いてそれぞれの評価方法にしたがって印字ムラ、印字濃度、耐擦性3種類の5項目を評価した。
【0030】
<評価項目1:印字ムラ試験>
それぞれのインクを用いてHG-5130とデスクジェット500(横河ヒューレットパッカード(株)製)を用い100%duty、キャラクタの印字を行った。それぞれの印字サンプルを以下のポイントで評価した。尚、評価に用いた紙はゼロックス社PPC用紙、本州製紙社製やまゆり紙、リコー社Ricopy-6200紙の3種である。
【0031】
・印字ムラなく鮮明な高品位印字 ◎
・印字ムラがわずかにある。 ○
・印字ムラが目立ち、印字が見にくい。 ×
<評価項目2:印字濃度試験>
印字ムラ試験で評価したサンプルの印字濃度をマクベス濃度計で測定して評価。
【0032】
・OD値1.4以上 ◎
・OD値1.2〜1.4 ○
・OD値1.2未満 ×
<評価項目3:耐擦性試験1>
印字ムラを評価したサンプルを用いて油性、水性のラインマーカーで印字部を擦り印字部分の汚れ方を評価した。
【0033】
<評価項目4:耐擦性試験2>
印字ムラを評価したサンプルを用いて被験者を任意に選び出し印字部分を指先で擦り、印字部分の汚れ方を評価した。
【0034】
評価項目3、4については以下の判断基準で判断した。
【0035】
・印字部分の汚れがほとんどなく
気にならない。 ◎
・印字部分の汚れがやや発生するが
許容できるレベルである。 ○
・印字部分が擦れ、
汚れが目立ち気になる。 ×
<評価項目5:耐擦性試験3>
印字ムラを評価したサンプルを用いて筆記具用の消しゴムで印字部分を擦り、擦った後の印字濃度の低下率で判断した。
【0036】
・擦った後の印字濃度が
初期の80%以上 ◎
・擦った後の印字濃度が
初期の80%〜50% ○
・擦った後の印字濃度が
初期の50%以下 ×
評価項目1から5の結果を紙別に表3〜表5に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
以上結果に示したように本発明の記録方法を満足する場合には印字ムラの発生の無い、印字濃度の高い、高品位な印字を実現できる。下限を外れると印字ムラの発生が抑えられず、上限を越えると耐擦性が満足できなくなる。また紙種の差なく多くの紙に対してばらつきの無い記録を得ることができた。
【0041】
インクについてはサイズ処理された紙に対する接触角が70°〜140°の範囲であるインクであれば組成を限定するものは無い。またこの範囲を外れるインクであっても本発明の記録方法を満足すれば印字ムラのレベルを改良できる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、記録紙に付着する単位面積当りの固形分量を特定範囲にすることを特徴とする本発明のインクジェット記録方法によればグラフィック等の印字はもちろんキャラクタ印字の際にも印字ムラの無い高印字品質の記録を得ることができる。また、従来目詰まりや吐出安定性との両立が困難であった耐擦性についても実用レベルを十分満足できる記録方法を提供できた。さらに顔料インクでは紙の種類によって印字濃度が大きくばらついていたがこの問題についても本発明により改良できた。またインクとしてサイズされた紙に対する接触角が70°〜140°の範囲であるインクを用いることによって本発明の効果を最大限に発揮できる。以上のごとく本発明によって印字品質の上で顔料インクの欠点だった特性が解決され顔料インクの実用化に大きな成果を挙げた。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)訂正事項1
請求項1を、「【請求項1】顔料と高分子分散剤と樹脂エマルジョンと一価アルコールとを含むインクを用いるインクジェット記録方法であって、100%Duty印字時の記録紙上の単位面積当りの固形分付着量が5.4×10-5〜5.4×10-4g/cm2であることを特徴とするインクジェット記録方法。」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2を、「【請求項2】サイズ処理された紙に対する接触角が71°〜138°のインクを用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。」と訂正する。
異議決定日 2002-11-12 
出願番号 特願平4-326913
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B41J)
P 1 651・ 111- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 津田 俊明
番場 得造
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3235229号(P3235229)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェット記録方法  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 藤綱 英吉  
代理人 須澤 修  
代理人 藤綱 英吉  

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