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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1071856
異議申立番号 異議2002-70295  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-06 
確定日 2003-02-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3196023号「血液循環診断装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3196023号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯、本件発明
特許第3196023号の請求項1,2に係る発明についての特許は平成13年6月8日にその発明について特許の設定登録がなされた後、その特許について特許異議申立人黒滝由紀子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされたところ、意見書が提出された。
本件請求項1,2に係る発明(以下、本件発明1,2という。)は、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
「被測定者の生体を流れる血液の脈波を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された脈波を2回微分して加速度脈波を求める2回微分手段と、
加速度脈波の複数のピークに基づいて、血液循環の各々異なる複数の状態各々毎に対応した加速度脈波のグループが予め分類され、
前記グループは、加速度脈波の複数のピーク値に基づいて得られる加速度脈波の波形を定める条件式に基づいて分類され、前記2回微分手段によって求められた加速度脈波の複数のピーク値が上記条件式を満足するか否かを判定することによって、加速度脈波がいずれのグループに含まれるかを判定する第1判定手段と、
前記グループは、加速度脈波の複数のピーク値により演算される判定基準値の所定範囲毎に分類され、前記2回微分手段により求められた加速度脈波の複数のピーク値に基づいて該判定基準値を演算し、演算された判定基準値が、いずれの判定基準値の範囲内の値かを判定することによって、加速度脈波がいずれのグループに含まれるかを判定する第2判定手段と、
第1判定手段の判定結果と、第2判定手段の判定結果が等しいか否かを判断する判断手段と、
前記グループ各々に対応して、被測定者の年齢に対応した血液循環の診断結果が予め定められ、第1判定手段の判定結果と第2判定手段の判定結果が等しい場合には、前記判定手段により判定されたグループに対応する該診断結果を提示する提示手段とを備えた血液循環診断装置。

【請求項2】
前記提示手段は、前記診断結果として、血液循環の状態及び対処方法を提示する請求項1に記載の血液循環診断装置。

[2]特許異議申立の理由の概要
異議申立人は、甲第1号証(特開平2-55035号公報)、甲第2号証(「体力研究」No.68('88/Jan)17〜25頁)、甲第3号証(特開昭63-257528号公報)を提出し、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第1号証乃至3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

[3]甲第1乃至3号証(以下、それぞれを刊行物1乃至3と言う。)の記載内容
刊行物1;
刊行物1には、加速度脈波計が開示されている(例えば2頁右上欄6〜左下欄1行)とともに、第3図には、A〜Gの7パターンの加速度脈波が示されており、A〜Gのどのパターンに属するかを判断する方法として、4頁左下欄16行〜右下欄16行に、「その判断手順のフローチャートを第4図に示す。図中P,Q,Rはそれぞれb,c,d点の基準化された波高がどの評価分圧帯に属するかを示す。・・・Aタイプと判断される。・・・(P-R)<0であればGタイプと判断される。」と記載され、また、5頁左上欄15〜20行に、「加速度脈波の波形のA、B、C、D、E、F、Gのどの波形に属するか、また、同じ波形に属していても、良い方向を示す波形に近いのか悪い方向に近いのかを容易に判断出来、専門知識を有しない者でも血液循環の状態の良否を評価することが可能となる。」と記載されているから、次の発明が記載されていると認められる。

「血液循環の異なる複数の状態毎に対応した加速度脈波がA〜Gの7タイプに分類され、A〜Gのグループは加速度脈波の複数のピーク値に基づいて得られる加速度脈波の波形を定める条件式に基づいて分類され、脈波の2次導関数曲線を求める情報処理装置によって求められた加速度脈波の複数のピーク値が上記条件式を満足するか否かを判定することによって、加速度脈波がいずれのグループに含まれるかを判定する手段、前記判定手段により判定されたグループを提示する提示手段とを備えた血液循環診断装置。」

刊行物2;
2-1「そこで著者らは、従来の指尖容積脈波を・・・今回は、特に加速度脈波波形の変曲点の様相を定量化し、それを抹消の血液循環動態の評価の指標とすることを試みるために、加齢によるその変化や波形タイプとの関係を検討した。」(18頁右欄3〜6行)
2-2「対象は、某金融機関職員、某工場労働者・・・加速度脈波の測定は、著者らが開発したプレソグラフ社製の加速度脈波計を使用し、10分以上の安静後に、通常座位で、指の高さを心臓位とし、第2指あるいは第3指で行った。加速度脈波の波形タイプは、図1に示すようにA〜Gの7種類に分類した。」(18頁右欄8〜20行)
2-3「図2に示すように、加速度脈波波形の変曲点にはa〜eがあるが、波形の変曲点の様相の定量化は、基線から変曲点aの波高を100とした際の基線から変曲点b,c,d,eまでの波高、およびb→c,c→d,d→eの振幅を求めて行った。また、今回は波形の変曲点の様相を総合的にとらえる一つの試みとして、変曲点bの波高からc,dの波高を差し引くための式、X=b-(c+d)を加速度脈波係数(APG index)とし、それについても検討した。」(18頁右欄下から8行〜19頁左欄8行)
2-4「図3は、加速度脈波の波形をA〜Gタイプに分類して、・・・年齢との相関関係をみると、r=0.58(p<0.001)と有意な相関関係が認められた。」(19頁右欄下から6行〜21頁左欄4行)
2-5「表2,図5は、波形タイプ別に加速度脈波係数の平均値と標準偏差を示したものである。AからGタイプになるにつれその平均値は小さくなる傾向にあり、DとEタイプ間以外の全ての波形タイプ間に有意な差(p<0.001)が認められた。」(21頁左欄下から2行〜右欄上から3行)
2-6「全体的には、加齢に伴いbが小さくなり、c,dが大きくなるとまとめることができるが、このような結果は、波形タイプと同様に波形の変曲点を定量化することでも加齢に伴う抹消血液循環動態の変化をとらえることができ、且つ、それを指標に血液循環動態の良否をも判断できることを意味している。
そこで今回は、変曲点b,c,dのそれぞれが年齢との相関係数でr=±0.5〜0.6の範囲に入っていたことから変曲点の様相を総合的にとらえる一つの試みとして、個々の変曲点に重み付けを加えることなしに、変曲点bからc,dを差し引くための式、X=b-(c+d)を加速度脈波係数とし、それについても検討した。その結果を見ると、この係数は、年齢との関係に、定量化された個々の変曲点と年齢との関係や波形タイプと年齢との関係より大きな相関関係が示された。従って、この係数は加齢に伴う血液循環動態の変化をより的確にとらえていると思われる。」(22頁左欄9行〜22頁右欄4行)
2-7「また、この係数だけしかとらえないとすれば、個々の変曲点の様相が把握できなくなるといった問題点がある。」(22頁右欄18〜20行)

刊行物3;
3-1「4は症例記憶器で、過去に行われた加速度脈波計による数多くの診断結果をもとにして、各種の波形に対応する症例と対処方法のデータを整理、記憶させたものである。5は症例検索器で、前記波形分析器3で得られた波形に該当する波形を、前記症例記憶器4内から選べ出し、その波形に対応する症例と対処方法(処方)を見つけだすものである。6はこのようにして得られた加速度脈波波形と症例、処方をモニターテレビ等で構成される表示器7に表示するシステムコントローラである。」(2頁右上欄下から4行〜左下欄7行)
3-2「そしてシステムコントローラ6は、加速度脈波変換器2で得られた波形と症例検索器5で得られたデータを一括して、例えば第3図に一例を示したような形式で表示器7上に表示することができる。これによって、被測定者は加速度脈波計で測定された自分の波形を見ることができるとともにその波形の意味するところを知ることができ、さらに自分のとらねばならない処方(例えばジョギングをしたほうが良いのか、悪いのか等)まで理解することができる。」(2頁右下欄3〜12行)

[4]対比・判断
本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、両者は、
「被測定者の生体を流れる血液の脈波を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された脈波を2回微分して加速度脈波を求める2回微分手段と、
加速度脈波の複数のピークに基づいて、血液循環の各々異なる複数の状態各々毎に対応した加速度脈波のグループが予め分類され、
前記グループは、加速度脈波の複数のピーク値に基づいて得られる加速度脈波の波形を定める条件式に基づいて分類され、前記2回微分手段によって求められた加速度脈波の複数のピーク値が上記条件式を満足するか否かを判定することによって、加速度脈波がいずれのグループに含まれるかを判定する第1判定手段と、
第1判定手段により判定されたグループを提示する提示手段とを備えた血液循環診断装置。」
である点で一致するが、次の点で相違する。
刊行物1に記載された発明は、本件発明1の第2判定手段を有せず、当然に、「第1判定手段の判定結果と、第2判定手段の判定結果が等しいか否かを判断する判断手段」や「前記グループ各々に対応して、被測定者の年齢に対応した血液循環の診断結果が予め定められ、第1判定手段の判定結果と第2判定手段の判定結果が等しい場合には、前記判定手段により判定されたグループに対応する該診断結果を提示する提示手段」も有しない点。
この相違点に関し、異議申立人は、「APG index」に関する記載をとりあげて、「刊行物2に本件発明1の第2の判定手段が記載されている、そして、加速度脈波係数による判定手段だけでは精度に劣るという問題点が指摘されているから、A〜Gのタイプに分類する判断手段である刊行物1の構成を、刊行物2に組み合わせることの起因ないし契機となるものである。」と主張する。
しかしながら、
刊行物2においては、加速度脈波計により測定した加速度脈波の波形タイプをA〜Gに分類することとは別に、加速度脈波波形の変曲点の様相を定量化し、それを抹消の血液循環動態の評価の指標とすることを試みるために、「APG index」を導入しているのであって、「APG index」によって、測定対象者の加速度脈波の波形がいずれのグループ(A〜G)に含まれるかの判定をすることについては記載も図示もされていない。
刊行物2の図5とその説明も、測定対象者について加速度脈波の波形タイプ別(A〜G)にみた「APG index」の分布を示すものであって、「APG index」によって測定対象者の加速度脈波の波形がいずれのグループに含まれるかの判定をすることを示すものではない。

異議申立人は、刊行物2の「また、この係数だけしかとらえないとすれば、個々の変曲点の様相が把握できなくなるといった問題点がある。」との記載を基に、「この提示された課題に当業者が接すれば、他の測定手段を組み合わせることは、格別の創作能力を発揮しなくても想倒しうる事項である。」とも主張するが、その記載は測定対象者の加速度脈波がA〜Gのいずれのグループに含まれるかの判定をする場合の問題点を提示するものではなく、まして、A〜Gのいずれのグループに含まれるかの判定をする第1の判定手段の他に第2の判定手段を設けて、それらの判定の一致が必要であることを提示するものではない。

本件発明1の第1の判定手段と第2の判定手段は、加速度脈波がいずれのグループに含まれるかを判定する手法が異なる2つの判定手段であり、加えて、「第1判定手段の判定結果と、第2判定手段の判定結果が等しいか否かを判断する判断手段」、「第1判定手段の判定結果と第2判定手段の判定結果が等しい場合には、前記判定手段により判定されたグループに対応する該診断結果を提示する提示手段」も有するから、本件明細書に記載された「第1の判定処理及び第2の判定処理の判定結果が等しい場合に、診断結果を提示するので、精度の高い診断結果を提示することができる。」(特許公報14欄3〜6行)という作用効果を奏するものである。

判定する手法が異なる2つの判定手段を有することや、それらの判定結果を比較する手段については、刊行物3にも記載されていない。

したがって、本件発明1は、刊行物1乃至刊行物3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
本件発明2は、本件発明2を更に限定するものであるから、同様に、刊行物1乃至刊行物3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

[5]結論
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことができない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-21 
出願番号 特願平10-208614
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 居島 一仁  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 森 竜介
水垣 親房
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3196023号(P3196023)
権利者 株式会社フューチャー・ウェイブ 株式会社プレソグラフ
発明の名称 血液循環診断装置  
代理人 堀 弘  
代理人 堀 弘  

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