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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M |
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管理番号 | 1072527 |
審判番号 | 不服2001-14073 |
総通号数 | 40 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-04-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-08-09 |
確定日 | 2003-02-13 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第217390号「燃料噴射装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 4月22日出願公開、特開平 9-105368]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯および本願発明 本件出願は、平成1年11月7日に出願した実願平1-129896号出願を、平成5年9月13日に特願平5-227137号出願に出願変更し、さらに、その出願の一部を分割して平成8年8月19日に新たな出願としたものであり、本件出願の請求項1ないし請求項3に係る発明は、平成11年8月23日付け、及び平成13年4月9日付けの手続補正によって補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3にそれぞれ記載されたとおりの燃料噴射装置にあるものと認められるところ、本件出願の請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「【請求項1】 プランジャバレル内に摺動自在に挿嵌された燃料圧送用のプランジャ、上記プランジャバレルの一部を分割して形成された空間内において上記プランジャに挿嵌され上記プランジャの軸方向に移動できるスリーブ、上記プランジャの周上に凹設され上記プランジャの軸方向に延びる軸方向溝部分に対して傾斜して延びる主噴射用燃料調量用の第1リード、および上記スリーブに穿設され第1リードと対面可能な主噴射用の第1燃料逃し孔を備え、上記スリーブと上記プランジャとの軸方向の相対変位により第1リードに対するプレストローク量を変化させる燃料噴射装置において、 上記プランジャの周上に凹設され上記軸方向溝部分から周方向に延びるパイロット噴射用の第2リード、及び上記スリーブに上記第2リードと対面可能に穿設されると共に、その上下方向の高さを、上記第2リードの上下方向の高さ以下の高さとされた第2燃料逃し孔を備え、 上記第2燃料逃し孔は、燃料圧送の際の上記プランジャの移動方向において上記第1及び第2リードが上記スリーブ内で遮断された状態で上記第1リードが上記第1燃料逃し孔に到達する以前に、上記第2リードとの対面を完了するように構成されたことを特徴とする燃料噴射装置。」 2.引用文献 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である、実願昭60ー51533号(実開昭61ー167470号)のマイクロフィルム(以下、引用文献1という)には、次の事項(a)〜(d)が図面とともに記載されている。 (a)「本考案は‥‥‥ハウジング内に軸線方向には摺動自在に‥‥装入されたプランジャ、ハウジング内に装架され常時閉方向にばね負荷された吐出弁、上記吐出弁とプランジャの一端面とによって上記ハウジング内に限界されたポンプ室、上記プランジャを囲んで上記ハウジング内に形成された燃料室、同燃料室内においてプランジャの外側に嵌装された制御スリーブ、一端が上記ポンプ室に開口するプランジャ内の油路、同油路を介して上記ポンプ室と燃料室とを連通させ又は遮断するため上記プランジャ上に設けられた制御溝及び同制御溝と協働する制御スリーブ上の制御孔を具えてなるものにおいて、上記プランジャ上の制御溝と制御スリーブ上の制御孔とが、プランジャ及び制御スリーブの軸線方向の相対変位により先づ少量のパイロット噴射が行われたのち主噴射が行われるような関係位置に配設され、かつ上記制御溝が、上記制御孔に連通することによってパイロット噴射を終了させるため軸線に対し横方向に延在せしめられた溝と、制御孔に連通することによって主噴射を終了させるため軸線に対し傾斜して設けられた溝とを包含していることを特徴とする燃料噴射ポンプを要旨とするものである。」(明細書第3頁12行〜同第4頁16行) (b)「52はその一端が上記ポンプ室14に開口し、他端が上記制御スリーブ38と接するプランジャ外周面に削設された制御溝54に連通するプランジャ内の油路であって、制御溝54はプランジャ軸線に対し傾斜した部分54a及びプランジャ軸線方向に延びた部分54bを具え全体としてλ(ラムダ)字状をなしている主噴射部と、軸線に対し略直交する方向に延びた横溝54cからなるパイロット噴射部と‥‥‥から構成されている。56は上記制御スリーブ38上において半径方向に穿設され上記制御溝54と協働する制御孔」(同第6頁9行〜同第7頁2行) (c)「上記装置において‥‥‥第4図は、プランジャ24に対する制御スリーブ38の相対関係位置を示したものであるが、上記関係位置では、制御孔56が位置Aにあり制御溝の軸線方向部分54bが制御スリーブ38の下縁38´によって丁度閉鎖されている。‥‥プランジャ24の上昇によりポンプ室14内の燃料が加圧され、その圧力が設定値を超えると吐出弁16が開かれて、燃料が吐出通路22からエンジンの噴射ノズルに供給され、所謂パイロット噴射が行われる。そしてプランジャ24が更に上昇して、制御溝54の横溝54cが制御孔56を横切る位置(第4図のB位置)で、ポンプ室14と燃料室36とが油路52を介して連通するので上記パイロット噴射が終了し、その後横溝54cと制御孔56とが連通している間燃料噴射は行なわれない。続いて、プランジャ24が更に上昇して第4図のC位置に達し制御孔56が閉塞されると、再びポンプ室14内の燃料が加圧されて吐出弁16が開かれ主噴射が開始される。プランジャ24の上昇により制御溝54の傾斜溝54aが、第4図のD位置において制御孔56に連通すると、ポンプ室14が油路52を介して燃料室36に連通するので、主噴射が終了することとなる。第5図の線図において、AB間のIpがパイロット噴射を示し、又CD間のImが主噴射を示す。‥‥‥制御軸42をその軸線の周りに廻動させて、制御腕44を介し制御スリーブ38をプランジャ24の軸線方向に変位させることによって第5図の(ア)図及び(イ)図に例示されているようにパイロット噴射Ip及び主噴射Imのタイミングが調整され、又コントロールラック50をその軸線方向に移動させて、制御スリーブ38をプランジャ24の軸線の周りに廻動させ、制御軸54の傾斜部54aと制御孔56との関係位置を変化させることによって、燃料噴射量即ち第5図におけるCD間の横軸方向の長さが増減されることととなる。」(同第7頁18行〜同第10頁6行) (d)「なお、上記実施例においては、制御スリーブ38に単一の制御孔56が設けられ‥‥‥構成されているが、第6図右方の展開図に示すように、専らパイロット噴射を担当する制御孔56aと、主噴射を担当する制御孔56bとを各別に設けて、例えば180度の角度間隔を存して制御スリーブ38の内周面に開口させ、他方、協働するプランジャ24の外周面に、第6図左方の展開図に示すように、主噴射用の制御溝54a及び54bと、パイロット噴射用の制御溝54cとを、同様に、例えば180度の角度間隔を存し離して配設してもよい。」(同第11頁11行〜同第12頁3行) 以上のような記載事項および図面(特に、第6図参照)の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明が記載されているものと認められる。 「バレル12内に摺動自在に挿嵌されたプランジャ24、バレル12の一部を分割して形成された空間内においてプランジャ24に挿嵌されプランジャ24の軸方向に移動できる制御スリーブ38、プランジャ24の周上に凹設され該プランジャ24の軸方向に延びる制御溝軸方向部分54bに対して傾斜して延びる主噴射用燃料調量用の傾斜した制御溝部分54a、および制御スリーブ38に穿設され傾斜した制御溝部分54aと協働するように対面可能な主噴射用の制御孔56bを備え、さらに、プランジャ24の周上に凹設され周方向に延びるパイロット噴射用の制御溝54c、および制御スリーブ38にパイロット噴射用の制御溝54cと協働するように対面可能に穿設されたパイロット噴射用の制御孔56aを備え、 制御スリーブ38とプランジャ24との軸方向の相対変位により、パイロット噴射用の制御孔56aおよび主噴射用の制御孔56bの位置を制御溝54(54a〜54c)に対して変化させてパイロット噴射と主噴射のタイミングを調整することを可能とし、 そして、パイロット噴射用の制御孔56aは、燃料圧送の際のプランジャ24の移動方向において傾斜した制御溝部分54aおよびパイロット噴射用の制御溝54cが制御スリーブ38内で遮断された状態で傾斜した制御溝部分54aが主噴射用の制御孔56bに到達する以前に、パイロット噴射用の制御溝54cとの対面を完了するように構成されている燃料噴射ポンプ。」 (2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である、特開昭55ー161958号公報(以下、引用文献2という)には、次の事項(a)〜(d)が図面とともに記載されている。 (a)「第1図乃至第5図に示す注入ポンプは、円筒体すなわちバレル1とピストン状のプランジャ2とから成る。プランジャ2は、移動可能にバレル1に嵌め込まれており、調節カム‥‥の働きにより下死点位置と上死点位置との間を線形状に前後運動する。‥‥‥バレル1の内部でかつプランジャ2の上方に燃料取入れ室3が形成されており、そこには燃料導入口4が開口している。燃料導入口は、プランジャが下死点位置をとるとき燃料が導入され得るような高さに設けられている。室の上部‥‥には、燃料排出孔が設けられており、矢印F1の方向にインジェクタに向かって燃料を送給している。‥‥‥プランジャ2には第1の環状の溝5が形成されており、その下部は平板状若しくは環状の縁6により、その上部はら旋状の縁7により限定されている。ら旋状の縁7はら線状の斜路を形成し、直線状の溝8に接続している。溝8はプランジャの中心線に対して平行に延びている。直線状の溝8により燃料取入れ室3と環状溝5との間が常に連通している。‥‥‥プランジャ2に第2の環状溝9を形成し、‥‥‥第2の溝9は例示した実施例では2つの平面部12で示す軸方向の流路を介して第1の溝5と連通しており、平面部12が、両方の溝5と9との間に限定されている‥‥鍔部分13上に形成されている。‥‥‥燃料送給すなわち入口通路14は燃料導入孔4から下方に所定の距離離間したところでバレル1の壁を貫通して延びている。通路14と導入孔14とは、比較的低圧の燃料供給源に接続されている。燃料導入孔4と燃料入口すなわち供給通路14との間におけるプランジャの軸方向の間隔、‥‥‥鍔部分13の軸方向の高さおよび第2の溝9の幅は、第1図乃至第4図に示すポンプの特定の作動行程を供するようにそれぞれ決められる。」(第3頁下右欄10行〜第4頁上右欄18行) (b)「第1図に示すプランジャ位置において、‥‥‥プランジャ2が上方に‥‥移動すると、第2図に示す位置に達し、そこで導入孔4を閉鎖し始める。‥‥鍔部13が入口通路14の直前に位置して当該通路14を閉鎖して室3と低圧燃料供給ラインとの間の連通は遮断される。これがインジェクタに向かう矢印F1方向の燃料排出の開始となる。この燃料排出開始は第6図において文字Aにより示されている。同図において燃料排出Rを縦座標に、対応するクランク軸の変位角すなわち回転AMを横座標にとっている。‥‥プランジャ2が上昇行程で移動を続けると第3図に示す位置に至る。ここで第2の環状溝9の上縁10が入口通路14の開口の下方縁と同一レベル上に位置し、それによって通路溝5および溝8だけでなく溝9と通路14とが平面部12の働きにより室3と連通することとなる。この結果室3内部に急激な圧力降下が起る。プランジャが上昇行程を維持しているにもかかわらず燃料排出が停止すなわち継続しなくなる。この状態は第6図において文字Bにより示されている。連通およびその結果生じる室3の内部の低圧状態は、プランジャが第4図に示す位置に至るまで続く。第4図においては、溝9の下縁11が入口通路14の上縁と対応し或いは同一レベルに位置している。入口通路14は溝9に続くプランジャの円筒状側面によって遮へいすなわち閉鎖される。この状態においては、導入孔4は、まだ閉鎖したままである。室3は、このように低圧の導入孔4および入口通路14から遮断されているため室内の燃料圧が上昇し、第6図における文字Cで示すようにインジェクタへの燃料送給が復活する。ら旋状の斜路7が導入孔4と対向する関係で合わさると排出はDにおいて終了する。」(第4頁上右欄19行〜同頁下右欄15行) (c)「説明しかつ図示した例においては、第2の溝9の上縁10および下縁11は‥‥‥第2図乃至第5図に示す実施例は環状溝9と2組の2本の入口通路14とから成っており、この実施例のねらいは溝9の高さと当該通路14の直径をそれぞれ減少させることにある。これら2つの寸法は、第6図中のBとCとの間の距離すなわち一方において主注入に対する予備注入の時期、および他方においてその時期に対応するカムの移動を決定するためである。この寸法を減少させることにより、不作動部分すなわちいかなる排出も起さずにプランジャ行程の長さを減少させることにより主注入排出の始点を早め、または予備注入排出の開始を遅らせることが可能となる。」(第5頁上右欄19行〜同頁下左欄20行) (d)「第7図および第8図は本発明の注入ポンプの他の実施例を示す。ここでは、2本の入口通路14´が導入孔4と略同一レベルに配設されている。最初の実施例の環状溝9に対応する働きを有する2つの溝9´は、プランジャの頂端面部15から所定間隔離れかつそこに略平行な関係をもって、プランジャの外表面に形成されている。第7図および第8図から明らかなように各溝9´はその1端において直立或いは垂直溝8内に開口し、常に燃料取入れ室3の内部と連通している。‥‥‥本実施例の作動は第1図乃至第4図に示された実施例の働きと原理的に同一である。導入孔4がプランジャで閉じられると予備注入排出段階が始まる。入口通路14´の開口は溝9´の上方に存在するプランジャの外周表面13´の部分で閉鎖される。溝9´が通路14´の開口と対抗関係に合致すると排出段階は終了する。溝9´下方に設けられたプランジャの外周表面により通路14´の開口が閉じた後主注入排出が開始し、斜板7が導入孔4を露出させると当該主排出が終了する。」(第5頁下右欄1行〜第6頁上左欄2行) (3)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された刊行物である、実願昭48ー23052号(実開昭49ー123418号)のマイクロフィルム(以下、引用文献3という)には、次の事項(a)が図面第2図乃至第5図とともに記載されている。 (a)「第2図について説明するとプランジャー(1)に副噴射用スリット(2)を設けると共にバーレル(3)に副噴射用逃がし孔(4)を穿設した」(明細書第3頁4〜6行) (4)また、原査定において本願出願前周知の技術事項の一例として引用された実願昭59ー62517号(実開昭60ー173672号)のマイクロフィルム(以下、引用文献4という)には、次の事項(a)〜(b)が図面とともに記載されている。 (a)「第1図に示すように本実施例に係る燃料噴射装置は燃料噴射ポンプから構成され‥‥‥各プランジャポンプは‥‥円柱状のプランジャ1と、このプランジャ1がその中を上下に摺動するプランジャバレル2‥とから構成されている。‥‥‥バレル2にはその一側面にフィードホール7が形成されている。このフィードホール7はバレル2の外側において、ブロック8に設けられた燃料供給路9に連通されている。‥‥プランジャ1には、第1図および第3図に示すように、その外周面上において傾斜している傾斜溝10と、この傾斜溝10に連続し、しかもこのプランジャ1の頂面に開口している軸線方向の縦溝11とが形成されており、これらの溝10、11によって燃料の噴射を所定の時期に終了させるようになっている。またこのプランジャ1の上記傾斜溝10の下側には円周方向に延びるパイロット溝12が形成されている。このパイロット溝12は、プランジャ1の頂面に開口する縦孔13およびこの縦孔13と連通する横孔14によってプランジャ1の頂面側に連通されるようになっている。このパイロット溝12に対応して、バレル2には第1図および第2図に示すように、上記フィードホール7の下側の所定位置に、パイロットホール15が形成されている。」(明細書第5頁10行〜同第7頁2行) (b)「この燃料の加圧動作をより詳細に説明すると‥‥‥プランジャ1がバレル2内において第4図に示すように上昇され‥‥‥プランジャ1の上端側の外周面が、バレル2のフィードホール7を閉じることになる。従ってこのバレル2内‥‥プランジャ1の上側の部分の燃料はプランジャ1によって押されて加圧される‥‥このときからパイロット噴射が開始される。しかし、このパイロット噴射はプランジャ1の上方への移動のストロークが非常に小さい範囲内でしか行われることがなく、このために第7図に示すように少量の燃料のみが噴射されることになる。このパイロット噴射の終了は‥‥‥プランジャ1が上方へ移動されると‥‥パイロット溝12がバレル2のパイロットホール15と一致することになる。‥‥パイロットホール15はパイロット溝12、横孔14、縦孔13を介してプランジャ1の上面と連通され‥‥急激に圧力が低下し、パイロット噴射が停止される‥‥‥プランジャ1は第6図に示すようにさらに上方へ移動し、そのパイロット溝12はパイロットホール15から離れ‥‥‥プランジャ1の上面側であってバレル2内の燃料の加圧が再び開始され‥‥‥バレル2内の燃料の圧力が上昇し、主噴射が行われる‥‥このときにはバレル2内の燃料は強い圧力で加圧されて燃料噴射ノズルに供給され‥‥ノズルがシリンダ内へ燃料を霧状にして噴射する‥‥‥この主噴射の終了は‥‥プランジャ1がバレル2内において上方へ移動し、プランジャ1の傾斜溝10がバレル2のフィードホール7と連通するところで終了される。‥‥‥このようにして燃料の主噴射を終了することにより、1サイクルの燃料の噴射動作が完了する。」(明細書第8頁15行〜同第11頁4行) 3.対比・判断 (1)一致点および相違点 そこで、本件出願の請求項1に係る発明(以下、本願発明という)と引用文献1に記載された発明とを対比するに、引用文献1に記載された発明の「燃料噴射ポンプ」は、ディーゼルエンジンに用いられる列型燃料噴射ポンプであって、ディーゼルエンジンに燃料を圧送する燃料噴射装置といえるものであり、本願発明における「燃料噴射装置」に対応する。そして、引用文献1に記載された発明における「バレル12」、「プランジャ24」および「制御スリーブ38」は、それらの形状および機能からみて、本願発明における「プランジャバレル」、「燃料圧送用のプランジャ」および「スリーブ」にそれぞれ相当し、また、引用文献1に記載された発明における「主噴射用の傾斜した制御溝部分54a」、「プランジャの軸方向に延びる制御溝軸方向部分54b」、「パイロット噴射用の制御溝54c」、「主噴射用の制御孔56b」および「パイロット噴射用の制御孔56a」は、それらの機能からみて、本願発明における「主噴射用燃料調量用の第1リード」、「プランジャの軸方向に延びる軸方向溝部分」、「パイロット噴射用の第2リード」、「主噴射用の第1燃料逃し孔」および「パイロット噴射用の第2燃料逃し孔」にそれぞれ対応する。そして、引用文献1に記載された発明においては、制御スリーブ38とプランジャ24との軸方向の相対変位により、パイロット噴射用の制御孔56aおよび主噴射用の制御孔56bの位置を制御溝54(54a〜54c)に対して変化させて燃料噴射のタイミングを調整することを可能とするものであり、換言すれば、制御スリーブ38とプランジャ24との軸方向の相対変位により燃料の圧送開始時期までのプレストローク量を変化させることを可能とするものである。 したがって、本願発明と引用文献1に記載された発明は、「プランジャバレル内に摺動自在に挿嵌された燃料圧送用のプランジャ、プランジャバレルの一部を分割して形成された空間内においてプランジャに挿嵌されプランジャの軸方向に移動できるスリーブ、プランジャの周上に凹設されプランジャの軸方向に延びる軸方向溝部分に対して傾斜して延びる主噴射用燃料調量用の第1リード、およびスリーブに穿設され第1リードと対面可能な主噴射用の第1燃料逃し孔を備え、スリーブとプランジャとの軸方向の相対変位により第1リードに対するプレストローク量を変化させることを可能とした燃料噴射装置において、プランジャの周上に凹設され周方向に延びるパイロット噴射用の第2リード、およびスリーブにパイロット噴射用の第2リードと対面可能に穿設されたパイロット噴射用の第2燃料逃し孔を備え、パイロット噴射用の第2燃料逃し孔は、燃料圧送の際のプランジャの移動方向において第1リード及び第2リードがスリーブ内で遮断された状態で第1リードが第1燃料逃し孔に到達する以前に、第2リードとの対面を完了するように構成されている燃料噴射装置。」である点で一致し、次の〈相違点1〉および〈相違点2〉の2点で相違している。 〈相違点1〉パイロット噴射用の第2リードが、本願発明においては、軸方向溝部分から延びるように構成されているのに対し、引用文献1に記載された発明では、軸方向溝部分から延びるように構成されていない点。 〈相違点2〉本願発明においては、パイロット噴射用の第2燃料逃し孔の上下方向の高さが第2リードの上下方向の高さ以下の高さとされているのに対し、引用文献1に記載された発明では、第2燃料逃し孔の上下方向の高さと第2リードの上下方向の高さとの関係について特定されていない点。 (2)相違点についての検討 先ず、前記〈相違点1〉について検討するに、引用文献1に記載された発明におけるパイロット噴射用の制御溝54cは、プランジャの周上に周方向に凹設され、プランジャの軸方向の移動によりパイロット噴射用の制御孔56aと協働してパイロット噴射を行うように構成されているところであり、その機能は本願発明における第2リードと同じであるが、制御溝軸方向部分から延びるようには構成されていない。 しかしながら、引用文献1における第1図ないし第4図に図示された実施例においては、前記2.(1)の(b)〜(c)に摘記したように、制御溝の横溝54cは、プランジャ軸線方向に延びた溝部分54bに対して略直交方向に延びるように凹設して形成されており、すなわち、制御溝の横溝54c(本願発明の第2リードに対応する)は溝部分54b(同じく軸方向溝部分に対応する)から周方向に延びるように構成されているところであり、また、引用文献2の第7図および第8図に示された内燃機関用燃料注入ポンプにおいては、前記2.(2)の(d)に摘記したように、環状溝9´(同じく第2リードに対応する)がプランジャの外表面に垂直状に凹設された垂直溝8(同じく軸方向溝部分に対応する)から周方向に延びるように凹設して形成されているところであり、さらに、引用文献3には、前記2.(3)の(a)に摘記したように、副噴射用スリット2(同じく第2リードに対応する)をプランジャの軸線方向に延びる軸方向溝部分から周方向に延びるように凹設して形成させたパイロット噴射装置付燃料ポンプが記載されている。 してみると、引用文献1に記載された発明においては、パイロット噴射用の第2リードは軸方向溝部分から延びるように構成されていないとはいえ、パイロット噴射用の第2リードを軸方向溝部分から延びるように構成することは、引用文献2や引用文献3に記載され、さらには引用文献1における他の実施例として開示されているところであり、この種の技術を引用文献1に記載された発明に採用して、パイロット噴射用の第2リードを軸方向溝部分から周方向に延びるように構成することは、当業者が必要に応じて適宜設定しうる程度の事項であり、格別な創意工夫を要するものとは認められない。 次に、前記〈相違点2〉について検討するに、引用文献1には、第2燃料逃し孔(制御孔56a)の上下方向の高さを第2リード(制御溝54c)の上下方向の高さと略同等とする構成が図示されているものの、第2燃料逃し孔の上下方向の高さと第2リードの上下方向の高さとの関係について詳細には言及されていない。 しかしながら、引用文献2には、プレストローク制御機能を備えるものではないが主噴射に先立ってパイロット噴射を行いうるように構成された内燃機関用燃料注入ポンプにおいて、本願発明の第2燃料逃し孔および第2リードにそれぞれ対応する入口通路14および環状溝9に関して、前記2.(2)の(c)に摘記した事項が記載されている。すなわち、第2燃料逃し孔の直径や第2リードの上下方向の高さを減少させることにより、主噴射の開始を早めあるいはパイロット噴射の開始を遅らせることができ、さらに、パイロット噴射の終了から主噴射の開始までのプランジャの軸方向の移動行程の長さを減少させることができる旨の記載がなされており、第2燃料逃し孔の直径や第2リードの上下方向の高さを減少させることにより装置の小型化や軽量化を図ることができることを示唆している。 なお、引用文献2における前記の摘記した記載事項においても、第2燃料逃し孔の直径と第2リードの上下方向の高さとの相対関係については明記されておらず、第2燃料逃し孔の直径と第2リードの上下方向の高さの設定に際して、第2燃料逃し孔の直径と第2リードの上下方向の高さをともに減少させるとしても、第2燃料逃し孔の直径を第2リードとの関係においてどのように設定するかについてはなんら記載されていない。しかしながら、第2燃料逃し孔の直径と第2リードの上下方向の高さの設定に際して、両者をともに減少させるとともに、第2燃料逃し孔の直径を第2リードの上下方向の高さより大きくするかあるいは小さくするか、それとも両者を同等の大きさとするかは、当業者が燃料噴射特性等を考慮し必要に応じて適宜設定しうる程度の事項である。ところで、引用文献2においては、第2燃料逃し孔を複数個(2組の2本)並べて配設して、第2燃料逃し孔の直径を減少させながらもその開口総面積を大きくして、燃料の逃し(排出)を確実に行い、そして、燃料の切れを良好に行いうるようにしている。してみると、第2燃料逃し孔は、その個々の直径を第2リードの上下方向の高さに比して大きくすることなく開口総面積を大きくとることができることを示唆しているところであり、第2燃料逃し孔の直径を第2リードの上下方向の高さに対してより小さく設定することは、当業者が燃料噴射特性等を考慮して適宜なしうる程度の事項と認められる。また、原査定において本願出願前周知の技術事項の一例として引用された実願昭59ー62517号(実開昭60ー173672号)のマイクロフィルム(以下、引用文献4という)には、第5図において、パイロットホール15(本願発明における第2燃料逃し孔に対応)の上下方向の高さをパイロット溝12(同じく第2リードに対応)の上下方向の高さ以下の高さとされた燃料噴射装置が記載されている。 したがって、引用文献1においては第2燃料逃し孔の上下方向の高さと第2リードの上下方向の高さとの関係について特に言及されていないとはいえ、燃料噴射装置において装置の小型化や軽量化を図るべく、引用文献2や引用文献4に記載された技術事項を引用文献1に記載された発明に採用して、パイロット噴射用の第2燃料逃し孔の上下方向の高さを第2リードの上下方向の高さ以下の高さとすることは、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到しうる程度の事項であり、前記〈相違点2〉に係る本願発明のような構成とすることは当業者が容易に想到することができたものと認められる。 よって、本願発明のような構成とすることは、前述した引用文献1〜4に記載された発明や技術事項に基づいて、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到し発明することができたものと認められ、しかも、本願発明は、全体構成でみても、前述した引用文献1〜4に記載された発明や技術事項から予測できる作用効果以上の格別な作用効果を奏するものとも認められない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、前述した引用文献1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-10-29 |
結審通知日 | 2002-11-05 |
審決日 | 2002-12-26 |
出願番号 | 特願平8-217390 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 八板 直人 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
亀井 孝志 飯塚 直樹 |
発明の名称 | 燃料噴射装置 |
代理人 | 本多 章悟 |
代理人 | 樺山 亨 |