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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1072671
審判番号 不服2002-4120  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-03-08 
確定日 2003-02-17 
事件の表示 特願2000-205290「非接触伝送装置」拒絶査定に対する審判事件[平成13年 3月16日出願公開、特開2001- 67449]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明の要旨
本願は、昭和60年6月3日に出願された特願昭60-120291号(昭和61年12月9日出願公開(特開昭61-278222号公報))を平成4年4月28日に実用新案登録出願(実願平4-40496号(平成7年2月14日出願公開(実開平7-11035号公報)),平成9年7月25日審判請求(審判平9-12586号))に変更し、更にその一部を平成11年5月6日に3件の新たな実用新案登録出願(実願平11-3051号(平成11年10月29日出願公開(実開平11-131号公報)),実願平11-3054号(平成11年10月29日出願公開(実開平11-132号公報)),実願平11-3055号(平成11年10月29日出願公開(実開平11-133号公報)))とし、そのうちの1件である実願平11-3055号を平成12年7月6日に特許出願に変更した出願であって、その特許請求の範囲の第1項に記載された発明(以下「本願発明1」という。)及び特許請求の範囲の第8項に記載された発明(以下「本願発明2」という。)の要旨は、平成13年10月1日付け,平成14年3月8日付けの各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項及び第8項に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】
能動モジュールを有する固定側装置、およびこの固定側装置に対して近接、離間することのできる受動モジュールを有する移動側装置を備え、前記能動モジュールと前記受動モジュールとの間で電磁波を非接触で伝送するようにした少なくとも1組の装置であって、
前記能動モジュールは、電力送信部と信号受信部とを含み、この信号受信部は、前記受動モジュールから受信した情報信号の信号強度に基づいて前記電力送信部の送信出力を制御する手段と、受信したデータ信号を外部回路に出力する手段とを備え、
前記受動モジュールは、前記能動モジュールと近接したときに電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部を含み、この電力受信部が前記能動モジュールから受信した電磁波を整流、平滑して当該受動モジュールおよび付帯装置の電源用電力を形成する手段と、前記電源用電力が与えられて前記付帯装置から供給される前記データ信号を入力する入力手段と、前記電源用電力が与えられて前記データ信号を含む電磁波を前記能動モジュールの前記信号受信部に向けて送信する信号送信部とを備える
ように構成したことを特徴とする非接触伝送装置。

【請求項8】
能動モジュールを有する固定側装置、およびこの固定側装置に対して近接、離間することのできる受動モジュールを有する移動側装置を備え、前記能動モジュールと前記受動モジュールとの間で電磁波を非接触で伝送するようにした少なくとも1組の装置に使用される移動側装置であって、
前記受動モジュールに対し前記能動モジュールから送信された電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部を含み、この電力受信部が前記能動モジュールから受信した電磁波を整流、平滑して当該受動モジュールおよび付帯装置の電源用電力を形成する手段と、前記電源用電力が与えられて前記付帯装置から供給される前記データ信号を入力する入力手段と、前記電源用電力が与えられて信号伝送用の搬送波を形成する手段、および前記搬送波が前記データ信号によって変調された変調波を含む電磁波を前記能動モジュールの前記信号受信部に向けて送信する信号送信部とを備える
ように構成したことを特徴とする非接触伝送装置における移動側装置。」

2.引用文献の記載事項
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭59-163921号公報(昭和59年9月17日特許庁発行)(以下、「引用文献1」という。)の第1図及びその説明の欄には、
「この発明は移動体等に取り付けられ固有の電源を持たずに情報の送受を行う情報伝送装置に関するものである。
従来この種の装置としては第1図に示すものがあった。図において(101)は地上装置無線搬送波発振器、以下(102)はその増巾器、(103)は送受共用アンテナ、(104)は受信復調器、(105)は送受共用アンテナ、(105)は符号再生識別回路であり、これら(101)〜(105)により質問器が構成されている。又応答器の構成としては(201)は電力検出用空中線、(202)は検波器、(203)は搬送波受信用空中線、(204)は変調器、(205)は固定の番号記憶部、(206)はその番号を2値情報として取り出し変調器に送出する為のクロック発振器、(207)は送信用空中線である。
次に動作について説明する。地上発振器(101)によって発信された搬送波信号は、増巾器(102)によって増巾された後、地上空中線(103)によって応答器へ向け発射される。
一方、応答器では地上装置から送出された搬送波を応答器空中線(201)で受信し、応答器動作用電源として直流電圧に整流変換する。また、番号記憶部(205)に記憶されている応答器番号はクロック発振器(206)によってシリアル変換され、変調器(204)によって応答器受信空中線(203)で受信した搬送波を変調し、応答器空中線(207)により地上装置へ向け発射される。
地上装置受信機(104)では偏波共用アンテナ(103)により応答器により変調されたその高調波信号を受信しデータとして復調する。」(第1ページ右下欄第4行〜第2ページ左上欄第12行目)
「第2図において、(101)は地上装置高周波発振器、(102)はその増巾器、(103)は応答器へ増巾された搬送波を発射しかつ応答器からの変調信号を受信するための偏波共用アンテナ、(104)は応答器からの信号を復調する受信機、(105)は符号再生識別回路である。(201)は地上装置から発射される搬送波を受信する電力検出用の空中線、(202)は搬送波を整流し、応答器を動作させる為の電源部を形成する電力検出回路、(203)、(207)は応答器の受信、送信用空中線、(204)は応答器の番号情報に従って搬送波を変調するための変調器、(205)は応答器の番号記憶部、(206)はクロック発振器、(208)は番号を任意に設定する為の番号設定用スイッチ、(209)は誤り検定符号(CRC符号)発生器、(210)はアナログスイッチを用いた電流制御用コントロール回路である。
次にこの動作について説明する。地上装置すなわち質問器の動作は従来の場合と同じである。この第2図の応答器の構成としては種々のIC(主にC-MOS)を使用しており、地上装置から発射される搬送波電力を検波整流するだけでは全体の動作に充分な電源電力を確保することが困難である。したがって搬送波電力を受信すると、まずアナログスイッチを用いた電流コントローラー(210)を動作させ、番号記憶部(205)、誤り検定符号(CRC符号)発生回路を(209)動作させる。これにより上記2回路は、電源スイッチのONと同時に番号設定用スイッチ(208)により設定された応答器番号データを読取り、番号記憶部(205)へ記憶させると同時にCRC符号発生回路にて定められたCRC符号を発生させ、同様に番号記憶部(205)へ記憶させる。この動作が終了した後、終了信号を電流コントローラー回路(210)へ送出することにより、このコントローラ回路(210)ではCRC符号発生器(209)の電源回路をそのアナログスイッチにより遮断し、他の回路へ動作用電流を供給する。」(第2ページ右上欄第5行〜同ページ左下欄末行)
と、記載されている。

(2)又、同じく、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭57-32144号公報(昭和57年2月20日特許庁発行)(以下、「引用文献2」という。)には、
「この発明は複数の電子装置間の信号および電源エネルギの授受を、互いに無結線の状態で行なわせることができるエネルギ/データ送受信装置に関する。」(第1ページ右下欄第19行〜第2ページ左上欄第2行目)
「この発明によるエネルギ/データ送受信装置は、一方の電子装置(親局側)には第1の発振手段と第1の変調手段とを有する第1の送信回路と、この第1の送信回路から出力される第1の送信信号が供給される第1の誘導コイルと、この第1の誘導コイルにより受信された受信信号を復調する第1の復調手段とを具備し、また前記一方の電子装置(親局側)に対応する他方の電子装置(子局側)には第2の発信手段と第2の変調手段とを有する第2の送信回路と、この第2の送信回路から供給される第2の送信信号が供給される第2の誘導コイルと、この第2の誘導コイルにより受信される第2の受信信号を復調する第2の復調手段と、同第2の受信信号を整流してコンデンサまたは可充電型電池に充電する充電回路とを具備して構成されている。そして親局側の電子装置と子局側の電子装置とはそれらの各誘導コイルが互いに近接されて両者が電磁的に(磁束により)充分に結合されている状態において互いの信号(データ)および電源エネルギの授受を行なう。この時、親局側が送信するデータおよび電源エネルギは第1、第2の誘導コイルを各々介して子局側において受信される。そして子局側において受信された電源エネルギは同子局側の電源として充電される。また子局側が送信するデータは前記第2、第1の誘導コイルを各々介して親局側において受信されるようになっている。」(第2ページ右上欄第4行〜同頁左下欄第10行目)
「第1図はこの発明の一実施例の構成を示すブロック図であり、この実施例において10は一方の送受信装置を有するデータ収集装置(子局側)である。このデータ収集装置10は検出器11により検出された検出情報(アナログ情報)を増幅器12において増幅し、この増幅された検出情報をA/D変換器14において制御部13のタイミングに従ってデジタル情報に変換し、更にこのデジタル情報を制御部13の指令によりランダムアクセスメモリ(RAM)15に順次記憶することができ、また、このようにして収集されたデータを後述するデータ解析装置に送出できる。
次に40は他方の送受信装置を有するデータ解析装置(親局側)であり、その中央処理装置(CPU)41に接続されたデータ収集開始スイッチ42がオンされると、前記データ収集装置10の電源を充電開始すると共に、同データ収集装置10に対してデータ収集コマンドを送出する。またこのデータ解析装置40はそのデータ受信開始スイッチ43がオンされた場合は、データ収集装置10の電源を充電開始すると共に、同データ収集装置10に対して、収集されたデータを送出すべく指令するデータ送出コマンドを送出する。そしてデータ解析装置40はこの結果データ収集装置10から送出された前記データを受信して各種のデータ解析を行なうことができる。」(第2ページ左下欄第13行〜同ページ右下欄第18行目)と記載されている。

(3)次に、原査定において、周知例として引用された、実願昭58-129480号(実開昭60-37963号公報参照)のマイクロフィルム(昭和60年3月15日特許庁発行)(以下、「引用文献3」という。)には、
「本考案は光伝達によって遠方にある装置をリモートコントロールする装置に関する。」(同マイクロフィルムの明細書(以下同じ。)第1ページ第12〜13行目)
「送信装置と受信装置とが常に一定の距離にあって使用されることは少なく、・・・・ところが、送信装置は一定の強さの光信号を送信するから、遠距離の場合には、光信号が弱まり、正確にデータを送信できなかったり、近距離の場合には、受信装置の飽和現象が生じたりしてとかくコントロールデータの伝送に誤りが生ずる欠点があった。
本考案の目的は、上記の欠点を除去し、送信装置と受信装置との距離がどのように変化しても、光信号伝達が誤りなく行なわれるリモートコントロール装置を提供することにある。
本考案によるリモートコントロール装置は、送信装置に、受信側から反射されてくる光反射信号を検知し、その検出レベルに従って送信装置の光出力を制御する回路を設け、受信装置の受光レベルが一定の範囲内にあるようにしたことを特徴とする。」(第2ページ第7行〜第3ページ第6行目)
「第2図は本考案の一実施例で、送信装置の送信段を示した図である。7は光反射信号を検出するホトダイオード、8は演算増幅器、9は信号レベル検出回路、10は送信信号可変回路である。送信光信号が受信装置に向けて放射されると、通常送信装置内に光反射信号が生ずる。」(第3ページ第7〜13行目)
「ホトダイオード7は光反射信号を検出し、その抵抗値が光信号により変化し、従って演算増幅器8の入力電圧も変化し、増幅された信号が信号レベル検出回路9に導かれる。そして信号レベル検出回路9は信号レベルに応じた制御信号を送信用トランジスタ3のエミッタに接続されている送信信号可変回路10に送る。送信信号可変回路10は、例えば直列に接続された可変抵抗列であって、制御信号によりその一部の抵抗をアースに短絡することにより、オートバイアス抵抗値を可変とする回路が使われる。」(第3ページ第18行〜第4ページ第9行目)
「本考案によるリモートコントロール装置では、光反射信号が強く信号レベル検出回路9により検出される光信号レベルが大きくなる場合には、送信用トランジスタ3の増幅度を減少させるような制御信号を、逆に光反射信号が弱い場合には送信用トランジスタ3の増幅度を増大させるような制御信号を作る。」(第4ページ第14行〜第5ページ第1行目。)
と記載されている。

(4)そして、原査定の拒絶の理由に引用した実願昭56-47205号(実開昭57-159185号公報参照)のマイクロフィルム(昭和57年10月6日特許庁発行)(以下、「引用文献4」という。)には、
「この考案は移動体等に装着され、固有の電源を持たずに情報の送受を行なう情報伝送装置に関するものである。」(同マイクロフィルムの明細書(以下同じ)第2ページ第2〜4行目)
「この考案は・・・・電波のかわりに光を使用し、この光信号の光エネルギを電力に変換すると共にこの光信号により情報を送受することにより、他装置との間の電波による妨害をなくすることができ・・・・情報伝送装置を提供することを目的としている。」(第4ページ第20行〜第5ページ第6行目)
と記載されている。

3.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と上記引用文献1に記載の発明とを対比すると、
引用文献1に記載の発明における「質問器」,「質問器を構成している地上装置高周波発振器(101),その増巾器(102)及び受信機(104)等の回路」,「符号再生識別回路(105)」,「偏波共用アンテナ(103)」は、それぞれ、本願発明1の「固定側装置」,「能動モジュール」,「能動モジュールの外部回路」,「能動回路の信号受信部」に相当し、又、引用文献1に記載の発明における「応答器」,「応答器を構成している電力検出回路(202),変調器(204)及び電流制御用コントロール回路(210)等の回路」,「応答器の電力検出用空中線(201),電力検出回路(202),受信用空中線(203)及び電流制御用コントロール回路(210)等の回路」,「番号設定用スイッチ(208),番号記憶部(205),クロック発振器(206)及び誤り検定符号(CRC符号)発生器等の回路」,「変調器(204)及び送信用空中線(207)」は、それぞれ、本願発明1の「移動側装置」,「受動モジュール」,「電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部及び電源用電力を形成する手段」,「付帯装置」,「データ信号を入力する入力手段及び信号送信部」に相当し、しかも、引用文献1に記載の発明においても、移動側装置は固定側装置に対して移動可能であり、移動側装置は固有の電源を持っておらず、固定側装置から移動側装置へデータ及び電源用の電磁波が送信され、移動側装置はその電磁波を整流平滑して回路を動作させる電源として利用し、移動側装置の該回路は固定側装置へデータを電磁波で送信していることは本願発明1と同じであるので、両者は共に、
能動モジュールを有する固定側装置、およびこの固定側装置に対して近接、離間することのできる受動モジュールを有する移動側装置を備え、前記能動モジュールと前記受動モジュールとの間で電磁波を非接触で伝送するようにした少なくとも1組の装置であって、前記能動モジュールは、電力送信部と信号受信部とを含み、この信号受信部は受信したデータ信号を外部回路に出力する手段を備え、前記受動モジュールは、電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部を含み、この電力受信部が前記能動モジュールから受信した電磁波を整流、平滑して当該受動モジュールおよび付帯装置の電源用電力を形成する手段と、前記電源用電力が与えられて前記付帯装置から供給される前記データ信号を入力する入力手段と、前記電源用電力が与えられて前記データ信号を含む電磁波を前記能動モジュールの前記信号受信部に向けて送信する信号送信部とを備えるように構成したことを特徴とする非接触伝送装置
である点では同じである。

ただ、(a)本願発明1においては、受動モジュールの電磁波の受信は能動モジュールと受動モジュールとが近接したときに行なわれるようにされているのに対して、引用文献1に記載の発明においては、能動モジュールと受動モジュールとの間の交信がいつ行なわれるのかについては言及されていない点、
(b)本願発明1においては、能動モジュールの信号受信部は、前記受動モジュールから受信した情報信号の信号強度に基づいて前記電力送信部の送信出力を制御する手段を備えているのに対して、引用文献1に記載の発明においては、そのような制御手段を備えることは言及されていない点、
で両者は相違している。

(2)相違点(a),(b)についての当審の判断
よって、上記相違点(a),(b)について判断すると、
(a)については、引用文献2には、本願発明1や引用文献1に記載の発明と同様に、能動モジュール(親局側)に設けられた誘導コイルと、独自の電源を持たない受動モジュール(子局側)に設けられた誘導コイルとの間で信号(データ)及び電源エネルギーの授受を行なうものにおいて、信号及び電源エネルギーの授受を、能動モジュールに設けられた誘導コイルと受動モジュールに設けられた誘導コイルとの間で、両誘導コイルが互いに近接されて両者が電磁的に(磁束により)充分に結合されている状態にして授受を行うようにしたものが記載されており、又、一般的に言って、電磁波等を用いた交信は、当然に、それらが届く範囲内で行なわれるのものであり、又、効率的に交信を行なうためには、送信側と受信側との距離を近接させた状態で交信を行なうのが良いことは当業者に自明の事項にすぎないものと認められる。したがって、相違点(a)は、格別の相違点であるものとは認められない。

次に(b)については、能動モジュールの信号受信部が受動モジュールから受信した情報信号の強度に基づいて、自己の送信出力を制御するようにして、能動モジュールと受動モジュールとの間の距離に関わらず、受動モジュール側での受信信号強度が変化しないようにすることは、上記引用文献3に、能動モジュール(送信装置)の信号受信部(ホトダイオード)が受動モジュール(受信装置)から反射されてくる光信号の強度を検出し、それが一定となるように送信信号の強度を制御するものが記載されており、又、引用文献3においては、能動モジュールと受動モジュールとの間の通信に光信号を用いているが、引用文献4に、電波のかわりに光信号を用いたものが記載されていることから明らかなように、能動モジュールと受動モジュールとの間の通信に、電波(電磁波)を用いることも、光を用いることも、いずれも当業者に周知の事項であって、いずれを用いるかは、当業者が必要に応じて適宜選択実施できた程度のことにすぎないものと認められるので、引用文献1に記載の発明に引用文献3,4に記載の発明を適用して、本願発明1のようにすることは、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

したがって、本願発明1は引用文献1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるものと認められる。

4.本願発明2について
(1)対比
本願発明2と上記引用文献1に記載の発明とを対比すると、
引用文献1に記載の発明における「質問器」,「質問器を構成している地上装置高周波発振器(101),その増巾器(102)及び受信機(104)等の回路」は、それぞれ、本願発明1の「固定側装置」,「能動モジュール」に相当し、又、引用文献1に記載の発明における「応答器」,「応答器を構成している電力検出回路(202),変調器(204)及び電流制御用コントロール回路(210)等の回路」,「応答器の電力検出用空中線(201),電力検出回路(202),受信用空中線(203)及び電流制御用コントロール回路(210)等の回路」,「番号設定用スイッチ(208),番号記憶部(205),クロック発振器(206)及び誤り検定符号(CRC符号)発生器等の回路」,「変調器(204)及び送信用空中線(207)」は、それぞれ、本願発明1の「移動側装置」,「受動モジュール」,「電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部及び電源用電力を形成する手段」,「付帯装置」,「データ信号を入力する入力手段及び信号送信部」に相当し、しかも、引用文献1に記載の発明においても、移動側装置は固定側装置に対して移動可能であり、移動側装置は固有の電源を持っておらず、固定側装置から移動側装置へデータ及び電源用の電磁波が送信され、移動側装置はその電磁波を整流平滑して回路を動作させる電源として利用し、移動側装置の該回路は固定側装置へデータを電磁波で送信していることは本願発明1と同じであるので、両者は共に、能動モジュールを有する固定側装置、およびこの固定側装置に対して近接、離間することのできる受動モジュールを有する移動側装置を備え、前記能動モジュールと前記受動モジュールとの間で電磁波を非接触で伝送するようにした少なくとも1組の装置に使用される移動側装置であって、前記受動モジュールに対し前記能動モジュールから送信された電力伝送用の電磁波を受信する電力受信部を含み、この電力受信部が前記能動モジュールから受信した電磁波を整流、平滑して当該受動モジュールおよび付帯装置の電源用電力を形成する手段と、前記電源用電力が与えられて前記付帯装置から供給される前記データ信号を入力する入力手段と、前記電源用電力が与えられて信号伝送用の搬送波を形成する手段、および前記搬送波がデータによる信号によって変調された変調波を含む電磁波を前記能動モジュールの前記信号受信部に向けて送信する信号送信部とを備えるように構成したことを特徴とする非接触伝送装置における移動側装置である点では同じである。

ただ、(c)本願発明2においては、受動モジュールは、電源用電力が与えられて信号伝送用の搬送波を形成する手段を含んでおり、該搬送波が、データ信号によって変調された変調波を含む電磁波を能動モジュールの信号受信部に向けて送信されているのに対して、引用文献1に記載の発明においては、データ信号によって変調され能動モジュールに向けて送信される信号伝送用の搬送波は、能動モジュールの偏波共用アンテナ(103)から発射され、搬送波受信空中線(203)で受信された搬送波電力をそのまま用いてデータ信号によって変調し、能動モジュールに向けて送信している点、
で両者は相違している。

(2)相違点(c)についての当審の判断
よって、上記相違点(c)について判断すると、一般にデータ信号を伝送するために、搬送波を発生させてこれにデータ信号で変調をかけて送信することは周知技術であり、受動モジュール側から能動モジュール側へ送信するためのデータ信号を変調するための搬送波を発生するための発振器を、能動モジュール側から送信されてきた搬送波をそのまま用いて引用文献1に記載の発明のように構成するかわりに、受動モジュール側に設けて本願発明2のように構成したことによる効果は、当業者であれば容易に予測できる範囲の効果であって、格別の効果であるものとは認められないので、引用文献1に記載の発明において、搬送波を発生するための発振器を受動モジュール側に設けるように構成して本願発明2のようにすることは、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

したがって、本願発明2は、引用文献1,2に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるものと認められる。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成14年5月13日付け提出の手続補正書の審判請求の理由中の「(4)審理手続について」の記載において、
『(4)審理手続について
本件と関連する別個の審判事件(審判2001-12356号)において、本件に不当な影響を与えかねない審決がなされたので、本件においてそのような不具合が再現されないために、審理手続について以下の通り要望する。
上記(1)事件の経緯、で示した第1実用新案登録出願(実願平4-40496号)からは、別件として、本件以外に実願平11-3051号が分割されており、後に特願2000-205686号に出願変更され、さらに審判2001-12356号(拒絶査定不服審判)として審理がなされ、平成14年3月19日起案の審決がなされている。
この審判2001-12356号では、請求項1ないし7(うち独立項は、請求項1および7)について特許されるべき旨を請求の趣旨としていたが、審決では何故か請求項1に全く言及することなく請求項7についてのみ判断がなされ、請求項1については何ら判断が示されなかった。
このような審理は、請求人として予想外のものである。請求項は審判請求に当って補正されたものであり、明細書全体もそれに合わせて全文訂正されていることから、許否について拒絶理由通知すらなく審決がなされていることが不可解である。そして、請求人が対応の機会すら与えられなかった点で極めて遺憾である。
そこで、本件については、斯かる事態が再現されることが無いよう切に要望するものである。
また、本件では、独立請求項を含む請求項の補正をも予定するものであり、もしそのような対応により拒絶理由が解消され得る事態に至ったときは、拒絶理由通知を頂くよう希望する。
とくに、請求項8については、下記のように補正することを予定しているので、ご参酌下さるようお願いする次第である。
請求項8の補正案
「【請求項8】
能動モジュールを有する固定側装置、およびこの固定側装置に対して近接、離間することのできる受動モジュールを有する移動側装置を備え、前記能動モジュールと前記受動モジュールとの間で電磁波を非接触で伝送するようにした少なくとも1組の装置に使用される移動側装置であって、
請求項1記載の非接触伝送装置において、
前記移動側装置は、前記受動モジュールに対し前記能動モジュールから送信された電力伝送用および情報信号用の電磁波を受信して処理する電力受信部を含み、この電力受信部が前記能動モジュールから受信した電磁波を整流、平滑して当該受動モジュールおよび付帯装置の電源用電力を形成する手段と、前記電源用電力が与えられて前記付帯装置から供給される前記データ信号を入力する入力手段と、前記電源用電力が与えられて信号伝送用の搬送波を形成する手段、および前記搬送波が前記データ信号によって変調された変調波を含む電磁波を前記能動モジュールの前記信号受信部に向けて送信する信号送信部とを備える
ように構成したことを特徴とする非接触伝送装置における移動側装置。」』
と主張している。

よって、該主張について判断する。
特許法第158条及び159条の規定から明らかなように、審判手続は続審であって、第1審である審査においてした手続を前提として審理を続行し、新たな資料をも補充し、原査定がなお維持できるかどうかを審理するのであるから、審判請求に当たって、例え明細書が全文補正され、特許請求の範囲の請求項に記載の発明が補正されたとしても、その補正後の発明のうち一つでも原審で通知された拒絶の理由で拒絶されるべきものと判断されたときには、改めて拒絶の理由を通知することなく拒絶審決がなされるものである。又、このようなことは、審査又は審判手続において、拒絶の理由が通知され、それに応答して明細書の記載が全部補正されたが、その補正によっても、先に通知した拒絶の理由が維持できると判断されるときには、改めて拒絶の理由が通知されることなく、直ちに拒絶査定又は審判請求は成り立たない旨の審決がなされる場合と同じ状況であることから見ても明らかである。したがって、明細書が全部補正されたときであっても、補正後の発明のうちの一つでも先の拒絶の理由で拒絶されるべきであると判断されたときは、再度拒絶の理由が通知されることなく、直ちに拒絶査定又は本件審判の請求は成り立たない旨の審決がなされることについては、何等問題はないものである。

そして、本願は、その出願日が昭和60年6月3日に遡及するものであり、しかも、本願は第1項及び第8項を独立請求項とし、その他の項を実施態様項とする、発明の数が2である併合出願(特許法第38条(昭和62年改正により第37条)参照)である。そして、併合出願にあっては、「発明の個数に応じた複数の特許出願が客観的に併合されているのではなく、その複数の発明が一体となった一個の特許出願と解すべきものであり、したがって、これに対する特許法上の処分は、特段の規定がない限り、一個のものでなければならない。・・・・したがって、併合出願された2以上の発明のうち一発明について拒絶理由があるときは、同法第49条の規定によって、その特許出願たる併合出願全部について拒絶すべき旨の査定(又は審決)をしなければならない」ものである(東京高判昭和52年12月23日(昭和49年(行ケ)第97号審決取消請求事件)(無体集第9巻第2号第756頁参照)参照)(別冊ジュリスト「特許判例百選(第二版),No.40事件」参照(昭和60年12月20日,株式会社有斐閣発行))。(又、東京高判昭和61年11月13日(昭和60年(行ケ)第75号審決取消請求事件)参照,なお、この事件は上告されたが、上告は棄却されている(最3小判平成1年3月28日(昭和62年(行ツ)第9号)参照)。)したがって、審判請求人が不服を主張するところの、審理手続に関しての主張には、何等問題点は存在しないものである。

したがって、審判請求人の係る主張には、根拠がなく、採用することはできない。

なお、請求項8を「補正案」のように訂正しても、上記引用文献1〜4に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであることは同じである。

6.むすび
以上のとおりであるので、本願特許請求の範囲第1項及び第8項に記載された発明は、上記引用文献1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-12-17 
結審通知日 2002-12-20 
審決日 2003-01-07 
出願番号 特願2000-205290(P2000-205290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江口 能弘遠山 敬彦  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 橋本 正弘
大橋 隆夫
発明の名称 非接触伝送装置  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 玉真 正美  
代理人 佐藤 政光  
代理人 玉真 正美  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 佐藤 政光  

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