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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1073121
異議申立番号 異議2001-71880  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-04-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-09 
確定日 2002-12-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3122452号「光走査装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3122452号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 同請求項3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3122452号の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明は、平成2年9月10日に特許出願され、平成12年10月20日に設定登録され、その後、山口十四治より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、請求期間内である平成13年12月26日付けで訂正請求がなされ、再度、取消理由通知がなされたものである。
なお、上記再度の取消理由通知に対して、平成14年5月8日付けで手続補正書(訂正請求書)が提出されたが、これは訂正の補正ができる期間外のものであるから、手続却下の決定がなされ、その決定は確定している。
2.訂正請求について
ア.訂正の内容
特許請求の範囲に係る記載
「【請求項1】光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、roが近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/ro3)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」

「【請求項1】光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】請求項1記載の非円弧である面は、N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、roが近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/ro3)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」
と訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
この訂正において請求項1に追加的に記載された「主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し」の訂正事項は、本件特許明細書において表1及び2における非球面6について記載した事項及びFθレンズの形状を示した第2図及び第4図から直接的かつ一義的に導き出せる事項であるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。
また、この訂正において請求項3に追加的に記載された「請求項1記載の非円弧である面は、」の訂正事項は、請求項3に係る発明を請求項1に係る発明を引用する発明に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。
ウ.むすび
以上のとおり、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.異議申立及び取消理由について
ア.理由の概要
異議申立人 山口十四治は、証拠として甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件発明1〜3は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は取り消されるべき旨主張している。
また、平成14年3月15日付け取消理由通知において、本件発明1及び2は刊行物1〜3から容易である旨を通知した。
イ.本件発明
訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された発明(以下、本件発明1〜3という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】請求項1記載の非円弧である面は、N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、roが近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/ro3)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」
ウ.刊行物に記載の発明
平成14年3月15日付け取消理由通知に引用した刊行物1(特開平2-23313号公報)及び刊行物2(特開昭62-265615号公報)には、「光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズの走査面(感光ドラム面)側の面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において円弧である光走査装置」が記載されており、周知である。
平成14年3月15日付け取消理由通知に引用した刊行物3(異議申立人 山口十四治が証拠として提出した甲第2号証(特開平2-157809号公報))には次の事項が記載されているか、若しくは、読みとることができる。
「1.偏向手段の1軸回りの回転ないし振動によって光源からの光ビームを偏向走査する装置に用いられ倒れ補正機能を有する走査光学系において、該走査光学系を構成するレンズのレンズ面のうち少なくとも1つのレンズ面の形状が、上記偏向走査される光ビームの形成する主走査方向面と垂直な副走査方向断面に関して円からずれている高解像走査光学系。
2.前記円からずれている非球面成分を導入したレンズ面の副走査方向断面形状は、その中心から周辺に向かうに従って曲率半径の絶対値が大きくなるような形状である請求項1記載の高解像走査光学系。」(第1頁左下欄第5行〜第17行)
「上記の如く構成された倒れ補正機能を持つ高解像走査光学系では、主走査方向の屈折力より相当大きい副走査方向の屈折力によって大きく発生しがちな副走査方向の球面収差が、少なくとも1つのレンズ面の副走査方向断面形状に導入された非球面成分により低減させられ、Fナンバーの小さい高解像仕様を満たしている。」(第2頁右上欄第17行〜同頁左下欄第4行)
刊行物4(特開平2-221910号公報、異議申立人 山口十四治の提出した甲第1号証)の特許請求の範囲の欄には次の事項が記載されている。
「光源からの略平行な光束を主走査対応方向に長い線状に結像させ、その線状の結像位置の近傍に反射面を有する回転多面鏡により上記光束を等角速度的に偏向し、この偏向光束を結像レンズ系により走査面上にスポット状に結像させて走査面を光走査させるレンズ系であって、
副走査方向に関しては回転多面鏡の反射位置と走査面とを幾何光学的に略共役な関係に結び付ける機能を有し、主走査方向にはfθ機能を有し、
回転多面鏡の側からの走査面側に向かって第1、第2の順に配備される、第1および第2のレンズにより構成される2群2枚構成であって、
・・・中略・・・
上記第1のレンズは・・・変形トーリック面を有し、・・・中略・・・
上記変形トーリック面は、光軸上の副走査方向の曲率半径をRY0、偏向面内における曲率半径をRYとするとき、
RY=RY0-[RX±√(RX2-H2)]
を満足する曲面であることを特徴とする、fθレンズ系。」
エ.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1及び2に記載の発明とを対比すると、両者は、「光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において円弧である光走査装置」であるという点で一致し、次の点(以下、相違点1という。)で相違している。
相違点1:本件発明1の走査レンズの走査方向に垂直の断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であるのに対して、刊行物1及び2に記載の発明の走査レンズの走査方向に垂直の断面の形状が走査領域において円弧である点。
上記相違点1について検討する。
刊行物3には「主走査方向の屈折力より相当大きい副走査方向の屈折力によって大きく発生しがちな副走査方向の球面収差が、少なくとも1つのレンズ面の副走査方向断面形状に導入された非球面成分により低減させられ、Fナンバーの小さい高解像仕様を満たす」ことが記載されている。
してみると、刊行物3に記載の上記技術的事項を刊行物1に記載の発明に適用することにより、本件発明1と同様に「走査レンズの走査方向に垂直の断面の形状が走査領域において球面収差を発生させる非円弧」とすることは当業者であれば容易になし得ることである。
なお、本件発明1の「球面収差」を「補正過剰」することは、「すべての入射高の光線に対して光学系全体での球面収差を0に近づける」(本件特許明細書第2頁右欄第34行〜第36行)ためであり、また、「補正過剰」にするために格別のことがなされているわけでもないから、副走査方向の球面収差を低減させることにほかならない。
また、レンズ設計にあたって、「補正過剰」にするか「補正不足」にするかは、どのような収差を残すかということの兼ね合いで当業者が任意に設計し得る事項である。
したがって、相違点1は格別の相違ではない。
よって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載の発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2について
本件発明2は、上記本件発明1を「非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなる」点に限定するものである。
ところが、刊行物3には「主走査方向の屈折力より相当大きい副走査方向の屈折力によって大きく発生しがちな副走査方向の球面収差が、少なくとも1つのレンズ面の副走査方向断面形状に導入された非球面成分により低減させられ、Fナンバーの小さい高解像仕様を満たす」ことが記載されている。
してみると、刊行物3に記載の上記技術的事項を刊行物1に記載の発明に適用することにより、本件発明1と同様に「走査レンズの走査方向に垂直の断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなる」ようにすることは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載の発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3について
本件発明3の「非円弧である面は、N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、roが近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/ro3)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状である
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」ことは、上記刊行物1〜4には記載も示唆もされておらず、当業者に周知の慣用技術でもない。
そして、本件発明3は、「非円弧である面は、N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、roが近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/ro3)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状である
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」ことにより、NAの大きな系でも結像特性を良好に保つことができるために、高精細なレーザビームプリンタに適した光走査装置を実現できると共に、NAの切り替えによる最良点の位置ずれも小さくすることができるために、印刷ドット密度を切り替えても結像特性を良好に保つことができるという作用効果を呈するものである。
したがって、本件発明3は、上記刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
4.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2についての特許は特許法第113条第2項の規定に違反してなされたものである。
また、本件発明3についての特許について取り消すべき理由を発見しない。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光走査装置
(57)【特許請求の範囲】
1.光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
2.上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
3.請求項1記載の非円弧である面は、N,N′が該面の前後の媒質の屈折率、r0が近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N′-N)(8a+K/r03)
S′を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S′3ψ≦-1.0×102
【発明の詳細な説明】
[発明の利用分野]
本発明は光走査装置に係り、特に高精細印刷用のレーザビームプリンタ装置に好適な光走査装置に係る。
[発明の背景]
レーザビームプリンタ装置では、従来からFθレンズ及び回転多面鏡の組合せにより、レーザ光を感光ドラム上に偏向走査することが行われている。レーザ光を走査する上での問題点の一つは、回転多面鏡の反射面の倒れ誤差による走査ピッチむらが生じることである。それを解決する方法として、Fθレンズ系の中に面倒れ補正機能を持たせるために、シリンドリカルレンズ面やトーリックレンズ面を含ませたアナモフィック光学系を構成したもの(特開昭54-126051,特開昭57-144515)、また、トーリックレンズ面の面倒れ補正機能を有する方向(以下走査垂直方向と称す)の曲率を偏向位置に応じて変化させたもの(特願昭61-108440)がある。これらのレンズはいずれも光軸を含む断面の形状は、走査方向、走査垂直方向ともに円弧である。一方、近年レーザプリンタ装置に対して高精細化の要求が強くなってきている。それには走査面上の光スポット径を小さくしなければならず、開口数(NA)の大きな系を構成しなければならない。一般に、Fθレンズの走査垂直方向のパワーは走査方向に比べて大きいため、光学系全体で発生する球面収差の影響がNAが大きくなるにつれて無視できなくなり、結像特性を悪化させる原因と成っている。
また、NAを変えて使用すると、球面収差の影響により最良像点の位置が変化してしまうという問題点がある。
[発明の目的]
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、高精細レーザプリンタ装置に適した光走査装置を実現することにある。
[発明の概要]
本発明は、従来の走査垂直方向の断面が円弧であるFθレンズを用いた場合に、光学系全体で発生する補正不足の球面収差は、Fθレンズの少なくとも一面の走査垂直方向の断面を複数の曲率からなる非円弧にして補正過剰の球面収差を発生させることにより相殺されることに着目し、結像特性の改善を図るものである。
[発明の実施例]
第1図に本発明の実施例を示す。図において11は光源、12はコリメータレンズ、13はシリンドリカルレンズ、14は回転多面鏡、15は回転多面鏡の窓ガラス、16はFθレンズ、161はFθレンズの第一レンズ、162はFθレンズの第二レンズ、17は感光ドラム、18はビーム、また1〜6は回転多面鏡の窓およびFθレンズの面である。
光源11から出射されたビーム18は、コリメータレンズ12によって平行ビームにされ、シリンドリカルレンズ13によって走査垂直方向のみ絞られ、回転多面鏡14の反射面近傍に線像を形成する。Fθレンズ16はアナモフィックな非球面レンズであり、走査方向は無限遠と感光ドラム面、走査垂直方向は回転多面鏡の反射面近傍と感光ドラム面がそれぞれ光学的共役関係になるように配置されている。従って、回転多面鏡の反射面近傍の線像は感光ドラム面に結像される。本実施例においては、Fθレンズの第2レンズ162の感光ドラム側の面6をアナモフィックな非球面とし、かつ走査垂直方向の断面の形状は非円弧にしている。
各レンズの走査垂直方向の断面が円弧で構成されている場合の結像を第2図に示す。図において、21は近軸光線、22は周辺光線である。この時一般には球面収差は補正不足であるため、周辺光線22は近軸光線21よりレンズから近い位置で光軸と交わる。Fθレンズ16は、凸凹2枚のレンズで構成されているが、各レンズの走査垂直方向の断面が円弧であっても、凹レンズに低屈折率、凸レンズに高屈折率の材質を用いることにより、理論上ある特定の2点の入射高の光線に対しては球面収差を0にすることができるが、他の入射高の光線に対しては球面収差は補正できない。また、材質は他の諸収差および走査方向の結像特性にも影響を与えるため、必ずしも自由に選択することはできない。
Fθレンズの第2レンズの感光ドラム側の面の断面が非円弧である場合の結像を第3図に示す。図において、31は近軸光線、32は周辺光線である。走査垂直方向の断面を4次曲線として、補正過剰の球面収差を発生させ、すべての入射高の光線に対して光学系全体での球面収差を0に近ずけることができる。

(1)式において、Zは平面からのSag量、Yは光軸からの距離である。r0は光軸上での曲率半径、aは4次の非球面形状の係数、Kは円錐定数である。
この断面が非円弧であるレンズ面において、N,N′を前後の媒質の屈折率として、ψを(2)式で定義し、

S′を屈折後の光線の延長が光軸と交わる位置の面頂面さらの距離とすると、(3)式を満たす形状の場合にその効果は大きい。
-3.0×102≦S′3ψ≦-1.0×102 ・・・(3)
なお(2)式においては、4次の非球面形状の係数までを考慮したが、より高次の場合にも形状が類似しておれば同様の効果がある。
走査垂直方向の断面を非円弧で構成した場合のレンズ諸元を表1に示す。
表1において、Rは走査方向曲率半径、rは走査垂直方向曲率半径、dは面間距離、nは屈折率、Iは走査方向垂直方向3次球面収差係数である。ここで、第6面のrは光軸上での値を示す。

ここで、a,b,Kは定数で、とくにKは円錐定数と呼ばれる。
第5図に光線の入射高と縦方向球面収差の関係を示す。図において、53が断面が円弧の場合、54が断面が非円弧の場合である。これから、非円弧にすることにより球面収差が著しく改善されることがわかる。
第6図にFナンバーを変えた時の最良像点の位置の変化を走査全域について示す。図において、61が走査方向の断面が円弧でFナンバー112の場合、62が走査方向の断面が円弧でFナンバー45の場合、63が走査方向の断面が非円弧でFナンバー112の場合、64が走査方向の断面が非円弧でFナンバー45の場合である。これから、非円弧にすることにより、Fナンバーを変えた時の最良像点の位置の変化を著しく小さくできることがわかる。なお最良像点の定義は、開口絞りを等分割した100本の光線による追跡を行い、10cycle/mmのMTF値が最大となる点
とした。
本実施例においては4次曲線を用いたが、K≠0として円錐曲線としても相当の効果を得ることができる。レンズ諸元を表2に示す。

2面以上に非円弧を用いたり、4次を越える高次の曲線を用いても更に高い効果を得ることができる。
[発明の効果]
本発明によれば、走査レンズのうちの一面の走査垂直方向の断面の形状を非円弧とすることにより、光学系全体の球面収差を補正することができる。従って、NAの大きな系でも結像特性を良好に保つことができるため、高精細なレーザビームプリンタに適した光走査装置を実現することができる。更に、NAの切り替えによる最良像点の位置ずれも小さくすることができるため、印刷ドット密度を切り替えても結像特性を良好に保つことができる。また、断面の形状を非円弧とする面を光偏向手段より後の系にしたため、各偏向位置に応じて収差補正ができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の構成を示す模式図、第2図は従来例の結像を示す模式図、第3図は本発明の一実施例の結像を示す模式図、第4図はFθレンズの第2レンズの形状を示す模式図、第5図は従来例および本発明の一実施例の球面収差を示すグラフ、第6図は従来例および本発明の一実施例の像点位置を示すグラフである。
図において、11は光源、14は回転多面鏡、16はFθレンズ、18はビームである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲に係る記載
「【請求項1】光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】N,N’が上記非円弧である面の前後の媒質の屈折率、r0が近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/r03)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」

「【請求項1】光源からの光束を偏向走査する光偏向手段と、該光偏向手段の誤差に伴う走査位置のずれを補正あるいは減少させる機能を有し、上記偏向走査された光束を感光ドラム面に結像させる走査レンズとを備えて成る光走査装置において、上記走査レンズのうち少なくとも一面は、主走査方向、副走査方向ともに正のパワーを有し、上記光束が偏向走査される平面に垂直でかつ該平面による断面の法線を含む平面による断面の曲率が、レンズの光軸から偏向走査される方向に離れるに従って連続的に減少するとともに、該断面の形状が走査領域において補正過剰の球面収差を発生させる非円弧であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】上記非円弧である断面の曲率が、光束が偏向走査される平面から離れるにつれて小さくなることを特徴とする請求項1記載の光走査装置。
【請求項3】請求項1記載の非円弧である面は、N,N’が該面の前後の媒質の屈折率、r0が近傍の曲率半径、Kが円錐定数、aが4次の非球面形状の係数として、ψを次式で定義し、
ψ=(N’-N)(8a+K/r03)
S’を上記非円弧である面による屈折光線の延長が光軸と交わる位置の面頂点からの距離とすると、上記非円弧である断面の形状が次式を満たすか、またはこれより高次の非球面形状であることを特徴とする光走査装置。
-3.0×102≦S’3ψ≦-1.0×102」
と訂正する。
異議決定日 2002-10-25 
出願番号 特願平2-236946
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (G02B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 津田 俊明  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 稲積 義登
東森 秀朋
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第3122452号(P3122452)
権利者 日立工機株式会社 株式会社日立製作所
発明の名称 光走査装置  
代理人 作田 康夫  
代理人 作田 康夫  
代理人 作田 康夫  

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