• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800061 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C08J
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C08J
管理番号 1073936
審判番号 無効2002-35004  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-12-28 
確定日 2003-01-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3168034号発明「ポリオキシメチレン製ギア」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3168034号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3168034号発明は、平成3年10月4日に特許出願され、その特許について平成13年3月9日に設定登録がなされ、その後、平成13年12月28日付けで請求人三菱瓦斯化学株式会社より特許無効の審判が請求され、審判請求書が被請求人旭化成株式会社に送達され、平成14年3月27日付けで被請求人より審判事件答弁書と訂正請求書が提出され、さらに平成14年8月23日付けで請求人より弁駁書が提出されたものである。
【2】請求人の主張及び証拠方法
〔1〕請求人の主張の概要
請求人三菱瓦斯化学株式会社は、審判請求書において、訂正前の本件請求項1に係る発明は、(1)甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、或いは、(2)甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第123条第1項の規定によって無効とされるべきである旨主張している。
〔2〕証拠方法
請求人が上記主張を立証するために提示した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平3-212418号公報
甲第2号証:「エンプラ90」、化学工業日報社、1989年10月12日発行、第96頁〜第101頁
甲第3号証:桜内雄二郎著「新版プラスチック材料読本」、株式会社工業調査会、1989年5月20日発行、第193頁〜第196頁
甲第4号証:監修平井利昌「エンジニアリングプラスチック」、株式会社プラスチックス・エージ、1984年5月10日発行、第46頁〜第62頁
甲第5号証:『「Atlas of Polymer and Plastics Analysis」、Verlag Chemie GmbH,D-6940 Weinheim,1984』の第53頁
甲第6号証:松島哲也著「プラスチック材料講座〔13〕ポリアセタール樹脂」、日刊工業新聞社、昭和45年6月30日発行、第21頁〜第23頁
【3】被請求人の主張
一方、被請求人は、答弁書及び訂正請求書及び訂正明細書を提出し、請求人が主張する無効理由は根拠を欠くものである旨主張している。
【4】訂正の可否についての判断
〔1〕訂正事項
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であであるポリオキシメチレン製ギア。」
を、
「【請求項1】オキシメチレン単位(-CH2 O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギア。」
と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の段落番号【0006】の
「【0006】(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であるポリオキシメチレン製ギアである。」
を、
「【0006】(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギアである。」
と訂正する。
〔2〕訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
本件の願書に最初に添付した明細書及び訂正前の本件特許明細書の段落番号【0014】には「本発明における共重合体のホルメート基の量はD1710/D1470として0.025以下、更に好ましくは0.020以下が好ましい。D1710/D1470が0.025を超えると、ギヤの長期間熱水や水蒸気あるいは塩基性溶液などにさらされる雰囲気での耐久性が低下する。……。」と記載されており、訂正事項aのホルメート基の量(D1710/D1470)を0.025以下とすることは本件の願書に最初に添付した明細書及び訂正前の本件特許明細書に記載されていたことであり、また、ホルメート基の量を数値的に限定することは特許請求の範囲を減縮することである。それ故、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲に対応する発明の詳細な説明の記載である段落番号【0006】の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合するように同様な訂正をするものであるから、明瞭でない記載を釈明することを目的とするものであり、また、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
〔3〕むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項に掲げる事項を目的とし、且つ同条第5項において準用する同法第126条第2項〜第5項に規定する要件を満たしているので、当該訂正を認める。
【5】無効理由についての判断
〔1〕訂正後の本件特許発明
訂正後の本件特許発明(以下「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 オキシメチレン単位(-CH2 O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギア。」
〔2〕甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証:特開平3-212418号公報
該刊行物には次の事項が記載されている。
「オキシメチレン単位(-CH2 O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位

(Ro、R’o:同一又は異なって水素、アルキル基、フェニル基より選ばる。nは1以上の整数で、n=1の割合がオキシアルキレン単位全体の95mol%以上、n≧2の割合がオキシアルキレン単位全体の5mol%以下、m=2〜6)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.1〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、メトキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはフォルメート基よりなり、ヒドロキシアルコキシ基の比率がオキシメチレン単位100mol当たり2.0×10-2mol以下であり、数平均分子量が10,000〜100,000の間にあるポリオキシメチレンコポリマー。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「[発明が解決しようとする課題]
本発明のポリオキシメチレンコポリマーは優れた機械物性と、優れた安定性とを併せ持つ重合体である。……。本発明の目的は優れた機械物性と優れた安定性とを併せ持つポリオキシメチレンコポリマーを提供する事にある。」(第2頁左上欄第14行〜同頁右上欄第11行)、
「[課題を解決するための手段及び作用]
本発明のポリオキシメチレンコポリマーは、限定された主鎖組成と特別な末端基組成とを有している。限定された主鎖組成と特別な末端基組成とを有する場合のみ、優れた機械物性と優れた安定性とを併せ持つポリオキシメチレンコポリマーが得られる。これらの組成の一方もしくは両方が欠けた場合には、これらの二つの優れた性質は実現されない。」(第2頁右上欄第12行〜最終行)、
「本発明の重合体の末端基としては、メトキシ基(-OCH3)、ヒドロキシアルコキシ基

(Ro、R’oは同一又は異なって水素、アルキル基、フェニル基より選ばる。m=2〜6)、フォルメート基(―OCHO)のみが許容される。これらの基以外の末端基、例えば、水酸基(―OH)、アセテート基(-OCOCH3 )等の場合には安定性が不良となり、本発明の重合体の末端基としては不適である。」(第3頁右下欄第16行〜第4頁左上欄第6行)、
「ここで末端基の分析は以下の手法で行なわれる。
(1)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で表示した。)メトキシ基:……。
(2)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で表示した。)ヒドロキシアルコキシ基:……。
(3)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で表示した。)フォルメート基:赤外線吸水スペクトル法を用いて1720cm-1のフォルメートのカルボニル基を分析、定量する。オキシメチレン基100mol当りのフォルメート基の比率(β)は次の式を用いて算出する。

」(第4頁左上欄第14行〜同頁右上欄最終行)。
また、発明の具体例を記載した第4頁左下欄第13行〜第8頁最終行の[実施例]の欄には、実施例1〜15及び比較例1〜13とその結果が記載され、第1表及び第2表にはそのまとめが一覧表として示され(但し実施例1のみは表でなく本文中に記載されている。)、また、各例ごとに使用したエチレンオキシド(gr)や環状ホルマール、オキシエチレン基挿入率(mol)あるいはオキシアルキレン基挿入率(mol)、シークエンス(mol%)(n=1、n≧2の両方について)、末端基(×10-2mol)〔α(ヒドロキシアルコキシ基の比率)、β(フォルメート基の比率)、γ(メトキシ基の比率)の3者について〕、Mn(数平均分子量)、引張強度(kg/cm2 )、Rv(%)(熱安定性;加熱残存重量%)、BS(%)〔塩基性物質(化学薬品)に対する安定性;残存重量%〕についての数値が示されている。
そして、この第1表及び第2表において、βの値は、実施例では最低は2.01(実施例5、10)で最高は2.17(実施例13)、比較例では最低は2.01(比較例1、6、7、9、13)で最高は2.56(比較例8)である。
(2)甲第2号証:「エンプラ90」、化学工業日報社、1989年10月12日発行、第96頁〜第101頁
該刊行物の第96頁〜第101頁はポリアセタール(POM)について記載されており、第98頁左欄第3行〜19行の「(4)耐熱劣化性」の欄には「高温環境での長期使用に際しての機械的性質など、各種特性の耐熱劣化性は重要であるが、ポリアセタールはこの点でも優れている。この特性は、試験片を種々の環境下(高温の空気、油、水中など)に、長期間放置して物性の保持率の時間経過による変化により評価する方法が一般的である。……。」と記載され、第98頁左欄第20行〜同頁右欄第27行の「(5)耐薬品性」の欄には「……(4)(該刊行物では丸数字で記載されているが、丸数字は審判ペーパーレスシステムで使用できない符号であるので、括弧数字で表示した。)コポリマータイプは高温での耐油性、耐熱水性、耐アルカリ性など、高温での熱安定性に優れている。……」と記載され、また、第99頁左欄第13行〜同頁右欄第24行の「用途と適性」の欄には「ポリアセタールの主な用途はエンプラの名に相応して、ほとんどが機能部品、機構部品である。その用途分野は電気・電子、自動車およびその他の諸機械あるいは機能雑貨と幅広く活用され、ポリアセタールの優れた各種の特性が発揮されている。これらの分野で共通して使用されているギヤでは、ポリアセタールの耐疲労性、摺動特性、寸法安定性、さらに圧入、インサートモールドされたシャフトなどを保持するための耐クリープ性、潤滑油への耐油性などの長期耐久性が総合的に活用されている。その例としてはAV機器の各種ギヤ、あるいは自動車のワイパーやパワーウインドーの駆動ギヤ、安全ベルトのラッチなど非常に多くの例がみられる。……。」と記載されている。
(3)甲第3号証:桜内雄二郎著「新版プラスチック材料読本」、1989年5月20日発行、第193頁〜196頁
該刊行物の第193頁〜第196頁の「5・3・2 ポリアセタール」の欄には「……(1)製造法……(2)分子の構造と性質……(3)応用 強力な機械強さ、摩擦係数、耐摩耗性の利用、歯車、軸受、カム、スピンドル、マンドレルなどの機構部品がつくられる。弾性の利用:強力な弾性を使って、各種スプリングアクションをもつ製品をつくる。弾性バネ、板バネ。(4)減摩材充てんポリアセタール……。」と記載されている。
(4)甲第4号証:監修平井利昌「エンジニアリングプラスチック」、株式会社プラスチックス・エージ、1984年5月10日発行、第46頁〜第62頁
該刊行物の第46頁〜第62頁には、「ポリアセタール」について記載されており、その「3.ポリアセタールの物性」の欄(第48頁右欄第15行〜第52頁右欄第2行)には「4)コポリマータイプは、高温での耐熱水性、耐アルカリ性、耐油性に優れる。すなわち、コポリマーは高温での熱安定性が優れる。」(第50頁右欄第6行〜第8行)と記載され、「5.ポリアセタールの応用用途」の欄(第56頁左欄第6行〜第57頁右欄第3行)には「以上の各産業分野における具体的な応用用途例は、既に多くの文献、報告に示されている。それらは、材料の性能,成形加工性などの特長が活用反映されており,多くの場合,外かく部品などより内蔵部品としての機構部品に用途例が多い。各分野の応用部品例の中から幾つかを取上げ,表12に示した。また,写真1〜7にその一例を示した。」(第57頁左欄第25行〜同頁右欄第3行)と記載され、第59頁左欄の写真3の「自動車のウインドワイパシステム(ウオッシャ連動)」を示す写真3には、明らかにギアが記載されている。
(5)甲第5号証:『「Atlas of Polymer and Plastics Analysis」、Verlag Chemie GmbH,D-6940 Weinheim,1984』の第53頁
該刊行物の第53頁の上段(2054)及び中段(2055)には、ヘキスト社製のポリオキシメチレンコポリマー(Hostaform C 9021)の熱プレスした40μm厚さのフィルム、及びBASF社製のポリオキシメチレンコポリマー(Ultraform N 2320)の溶融物から再結晶した10μm厚さのフィルムの赤外線吸収スペクトルが記載されている。
但し、ここでは、ホルメート基は、吸収波数(ν)=1710cm-1ではピークとして現れておらず、ほぼ1730cm-1で現れている。
(6)甲第6号証:松島哲也著「プラスチック材料講座〔13〕ポリアセタール樹脂」、日刊工業新聞社、昭和45年6月30日発行、第21頁〜第23頁
該刊行物の第22頁の表2・6には、「アセタール・ホモポリマーのN2 中での紫外線照射による(赤外)吸光度変化」が示されているが、ここでもホルメート基は、1710cm-1ではなく、1735cm-1で存在を示すことが記載されている。
〔7〕対比・判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明を対比すると、
両者の重合体は、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とし、これにオキシアルキレン単位が共重合しているものであり、末端にフォルメート(ホルメートと同義)基を含む場合があるものであるから、このような重合体の基本骨格では両者は同じであり、オキシアルキレン単位の一般式中の記号について、本件発明のR及びRoはそれぞれ甲第1号証のRo及びR’oと一致しており、また、オキシアルキレン単位単位の挿入割合の数値も両者で重複一致しているから、両者は、
「オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】


(R、Roは同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、Roもそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であるポリオキシメチレン」
で一致しており、
次の2点で両者は相違している。
(1)本件発明が「ギア」と言う用途を限定しているのに対し
甲第1号証ではそれについて記載がされていない点。
(2)本件発明がホルメート基の量(D1720/D1470)が0.025以下であるのに対し、甲第1号証では重合体の末端基のフォルメート基があること、及び、実施例においてβとして具体的数値〔実施例では最低は2.01(実施例5、10)で最高は2.17(実施例13)、比較例では最低は2.01(比較例1、6、7、9、13)で最高は2.56(比較例8)〕が記載されている点。
そこで、上記の相違点について検討する。
(イ)相違点(1)について
甲第2号証の「エンプラ90」、甲第3号証の「新版プラスチック材料読本」、第4号証の「エンジニアリングプラスチック」、はいずれもプラスチックについて記載した一般的な技術の文献であり、そこにはポリオキシメチレン(ポリアセタール)の代表的な用途や具体例である写真などが記載され、代表的な用途としてギアが記載されている。
また、この他にも、松島哲也著「プラスチック材料講座〔13〕ポリアセタール樹脂」、日刊工業新聞社、昭和45年6月30日発行(甲第6号証と同一のもの)の第166頁〜第182頁には「6・4歯車設計」と言う項が設けられるほどギアについての記載がされている。
これらの一般的な技術の文献の記載からもわかるようにギアはポリオキシメチレンの代表的な用途であることが本件出願前から周知ないしは自明のことであると言えるから、本件発明において用途をギアに限定することは、いわば周知ないし自明の用途を限定したに過ぎないと言えることであり、また、甲第1号証において、ポリオキシメチレンの用途が記載されていないと言っても、ギアの用途はポリオキシメチレンにとって周知ないし自明の用途であると言える。
なお、この点について、被請求人は甲第1号証には「熱水、水蒸気あるいは塩基性溶液と接するような過酷な雰囲気での耐久性」を要求されるギアに適することは記載されておらず、従来市販のポリオキシメチレンポリマーはこのような苛酷な環境におけるギアには適さない旨主張するが、本件発明には単に「ギア」と用途が記載されているだけなので、被請求人の該主張は特許請求の範囲の記載に基づく主張ではないので採用することができない。
よって、この点で本件発明は甲第1号証に記載された発明と相違すると言うことはできない。
(ロ)相違点(2)について
甲第1号証には、その実施例の項に記載されたものは、フォルメート基量が最低でも0.0301〔即ち、実施例及び比較例のβの最低値0.0201をβ=0.667×D1710/D1470で計算すると0.0301となる。〕であり、本件発明の「0.025以下」と一致はしてはいない。
しかし、甲第1号証に記載された発明はフォルメート基量については特に限定はなく(従って、実施例や比較例のものに限定されるものではなく)、実施例に記載されたものはたまたま実際に実験を行ったもののデータである。
そして、実施例の第1表及び第2表を見ると、実施例や比較例は極く少数(比較例10と11)を除けば、その数平均分子量は35,100〜40,700の間に入るのである。一方、甲第1号証の特許請求の範囲には数平均分子量は10,000〜100,000と記載されており、その上限の100,000から比べれば大多数の実施例や比較例の35,100〜40,700の値はそれよりはるかに低いと言える。そして、分子量が大きくなれば末端基量は相対的に減少するのであるから、実施例や比較例に記載されたものよりも大きい分子量のもの(もちろん、数平均分子量100,000以下で)を製造すれば、相対的に末端基であるフォルメート基量が減少することになる。してみると、甲第1号証に記載された発明がホルメート(フォルメート)末端基量が0.025以下のものを含んでいる蓋然性は極めて高いと言える。
よって、この点で本件発明は甲第1号証に記載された発明と相違すると言うことはできない。
してみると、本件発明は甲第1号証に記載された発明であり、甲第1号証は本件出願前に頒布されたものであるから、本件発明は特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであると言わざるを得ない。
また、仮に、相違点(1)及び(2)で両者が相違するとしても、ポリオキシメチレンがギアに使用されることは先にも述べたように本件出願前から周知ないし自明のことであるから、相違点(1)は当業者であれば極めて容易に想到し得ることであると言えるものである。
また、相違点(2)についても、先にも述べたように、甲第1号証において、実施例や比較例の35,100〜40,700の数平均分子量を100,000を限度として上げて行けば、相対的に末端基が減少し、ホルメート末端基量(D1710/D1470)が0.025以下となることも当業者であれば容易に予測し得ることである。
被請求人は、甲第1号証に記載された発明は従来のポリオキシメチレンコポリマーの機械物性を改良したと言っても甲第1号証には具体的には引張強度が記載されているのみであって、摩擦摩耗特性などの諸性質が関連するギア耐久性(破壊にいたる積算回転数)までは容易に類推できるものではなく、また、甲第1号証には安定性に優れ、熱安定性と種々の化学薬品に対する安定性が記載されているが、熱水や水蒸気に対する安定性は記載されていないので、熱水や水蒸気に対する安定性は容易に類推し得ることではない旨主張する。
しかし、ポリオキシメチレンがギアに使用されることは本件出願前から周知ないし自明のことであるから、甲第1号証を見れば当業者であればギア耐久性についても当然思いを馳せるところであり、また、ポリオキシエチレンコポリマーは耐熱水性が優れることも甲第2号証や甲第4号証に記載されているように本件出願前から周知〔なお、この他にも宮坂啓象他6名編集「プラスチック事典」株式会社朝倉書店、1992年3月1日発行、第499頁〜第500頁にも「ポリアセタールのコポリマーの利点として成形時の安定性、成形加工性にすぐれることと、耐熱水性、耐アルカリ性にすぐれること」が記載されている。〕であるから、甲第1号証において「安定性」と記載されていれば当業者であれば耐熱水性もすぐに思いつく試験項目である。してみると、甲第1号証に記載された発明に係るポリマーでホルメート基量(D1710/D1470)が0.025以下のものについて、ギア耐久性や耐熱水性を試験してみることは当業者であれば容易になし得ることであると言える。
また、被請求人は、本件発明の効果について、従来市販のものとの対比でそれらに較べて優れる旨の主張をするとともに、本件明細書の実施例に従来市販のものが比較例として挙げられてはいるが、本件発明の新規性進歩性が問題とされるのはかかる従来市販のものに対してではなく、甲第1号証に記載された発明に係るものに対してであるから、該主張は的確に問題に対応しているとは言い言い難いので、被請求人の該主張は採用することができない。
なお、耐塩基性については甲第1号証に記載されていることであり、また、耐水蒸気性については本件明細書の実施例には記載がない事項である。
してみると、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると言わざるを得ない。
【5】むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、或いは、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、或いは、同条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するので、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリオキシメチレン製ギア
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギア。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は耐久性に優れたポリオキシメチレン製ギアに関する。さらに詳しくは、特に熱水、水蒸気あるいは塩基性溶液と接する雰囲気での耐久性に優れたポリオキシメチレン製ギアに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリオキシメチレンは、バランスのとれた機械物性と優れた疲労特性を有していることから、広くギア部品として使用されている。しかし、従来のポリオキシメチレンホモポリマーからなるギアは通常の雰囲気で使用される場合は耐久性に優れているが、熱水や水蒸気あるいは塩基性の溶液に長期間さらされる雰囲気での使用はポリマー自体の加水分解が起こり耐久性に劣る。これは、従来のポリオキシメチレンホモポリマーの末端がアセチル基で安定化されているためである。一方、従来のポリオキシメチレンコポリマーからなるギアは熱水や水蒸気あるいは塩基性の溶液に長期間さらされる雰囲気での安定性は優れているが、ギアとしての耐久性は充分ではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、長期間熱水や水蒸気あるいは塩基性溶液などにさらされる雰囲気での使用に適した優れた耐久性を有するポリオキシメチレン製ギアを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明のポリオキシメチレン製ギアは、特定の主鎖組成と末端基を有するポリオキシメチレン共重合体からなる点に特徴を有する。すなわち本発明は、オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【0005】
【化2】

【0006】
(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギアである。
【0007】
本発明において、重要なポイントの1つは、ポリオキシメチレン共重合体中のポリアルキレン単位の量である。ポリオキシメチレン共重合体中の、オキシアルキレン単位の挿入率はオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol更に好ましくは0.1〜0.3molの範囲から選ばれる。オキシアルキレン単位の挿入率が0.07mol未満の場合には、長期間熱水や水蒸気あるいは塩基性溶液などにさらされる雰囲気での耐久性が低下する。一方、オキシアルキレン単位の挿入率が0.5molを超える場合には、通常雰囲気でもギア強度の耐久性低下が顕著になる。
【0008】
また、オキシアルキレン単位はブロックと成らずに出来得る限り単独で共重合体中に分散されているのが好ましい。オキシアルキレン単位のシーケンスを表すnは、n=1の割合がオキシアルキレン単位全体の95mol%以上、n≧2の割合がオキシアルキレン単位全体の5mol%以下であることが好ましい。n=1の割合が95mol%を超えるものは耐久性にすぐれる。
【0009】
これら、オキシアルキレン単位の挿入量とシーケンスは、重合体を3NのHCl水溶液中で加熱分解し、分解液中のアルキレングリコール、ジアルキレングリコール、トリアルキレングリコールを分析することによって求めることができる。また、ポリオキメチレン共重合体の末端基も重要なファクターの1つである。
【0010】
本発明においてポリオキメチレン共重合体の末端基は、メトキシ基(-OCH3)等のアルコキシ基、下記式で表されるヒドロキシアルコキシ基
【0011】
【化3】

【0012】
(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。mは2〜6の整数)、またはホルメート基である。これら以外の末端基、例えば、オキシメチレンユニットに付加した水酸基は、非常に不安定で、重合後の後処理、例えばアルカリ性物質の存在下での加熱分解によって分解除去し、ヒドロキシアルコキシ基となる。
【0013】
ポリオキメチレン共重合体のホルメート末端基の量は、重合体を熱プレスして得たフィルムの赤外線分光スペクトルにより測定できる。末端ホルメートに起因する吸収波数(ν)は1710cm-1であり、ポリオキシメチレン主鎖のメチレン基に起因する吸収波数(ν)は1470cm-1である。共重合体の末端ホルメート基の量はこれら吸光度の比D1710/D1470で表すことができる。
【0014】
本発明における共重合体のホルメート基の量はD1710/D1470として0.025以下、更に好ましくは0.020以下が好ましい。D1710/D1470が0.025を超えると、ギアの長期間熱水や水蒸気あるいは塩基性溶液などにさらされる雰囲気での耐久性が低下する。次に本発明のギアの原料であるポリオキシメチレン共重合体の製法について説明する。
【0015】
ポリオキシメチレン共重合体は、ホルムアルデヒドもしくはトリオキサンと、一般式
【0016】
【化4】

【0017】
(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。mは2〜6の整数である。)で表される環状エーテル、もしくは、一般式
【0018】
【化5】

【0019】
(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。mは2〜6の整数である。)で表される環状ホルマールとをカチオン触媒を用いて共重合し得ることが出来る。
【0020】
このポリオキメチレン共重合体を得るために用いられる環状エーテルとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシドなどが挙げられる。環状ホルマールとしては、例えば、エチレングリコールホルマール(1,3-ジオキソラン)、ジエチレングリコールホルマール、1,3-プロパンジオールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマールなどが挙げられる。好ましいコモノマーはエチレングリコールホルマール(1,3-ジオキソラン)、1,4-ブタンジオールホルマール等の環状ホルマールである。
【0021】
本発明のギアの原料となるポリオキシメチレン共重合体、即ち、限定された主鎖組成と末端基を有するポリオキメチレン共重合体を得るために用いられるカチオン重合触媒としては、パーフルオロアルキルスルホン酸又はその誘導体が適している。具体的には例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸、パーフルオロヘプタンスルホン酸等、また誘導体としては、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、ペンタフルオロエタンスルホン酸無水物、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸無水物、ノナフルオロブタンスルホン酸無水物、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸無水物、パーフルオロヘプタンスルホン酸無水物等の超強酸無水物、あるいはトリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸エチル、ペンタフルオロエタンスルホン酸メチル、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸メチル等の超強酸のアルキルエステル、あるいはトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸トリエチルシリル等の超強酸のアルキルシリルエステルなどが挙げられる。
【0022】
この場合、触媒濃度は、主モノマーに対し、1×10-6〜2×10-5mol%の範囲が好ましい。通常トリオキサンの重合あるいは共重合に触媒として用いられるルイス酸例えば三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン及びその化合物又はその塩も使用できる。しかしこれらの触媒を使用した場合には、得られる共重合体のオキシアルキレン単位のシーケンスを表すn=1の割合を、オキシアルキレン単位全体の95mol%以上とすること、および共重合体の末端ホルメート基の濃度D1710/D1470を0.025以下とすることが困難である。
【0023】
重合時の分子量調節剤は、アルコール、エーテル類が好ましく、特にメチラールなどのアルキルエーテルが最も好ましい。本発明のギアの原料となるポリオキシメチレン共重合体の分子量は、10.000〜200,000の範囲が好ましい。分子量が10,000未満では充分な耐久性が得られにくく、また、分子量が200,000を超えると射出成形が困難となる。
【0024】
重合装置としては、バッチ式、連続式のいずれでもよく特に制限はない。バッチ式重合装置としては、一般的に攪拌機付きの反応槽が使用でき、連続式装置としては、コニーダー、2軸スクリュウー式連続押出し混練機、2軸のパドルタイプの連続混合機などのセルフクリーニング型混合機が使用できる。重合温度は、60〜200℃、好ましくは、60〜140℃で行うことが出来る。また、重合時間は、特に制限はないが、一般に10秒以上100分以下が選ばれる。
【0025】
重合後、重合ポリマー中に含まれる触媒は、解重合を起こすため、通常、触媒を失活する。重合触媒の失活法としては、トリエチルアミン等の塩基性物質を含む溶液と重合ポリマーの接触あるいは重合ポリマーへの塩基性物質の添加による酸触媒の中和が一般的であるが、少なくとも2種類以上の金属酸化物あるいは金属水酸化物からなる結晶性の酸吸着剤を添加溶融混合することが非常に効果的な方法である。更に詳しくは、ポリオキシメチレン共重合体100重量部に対し、a.アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物より選ばれる少なくとも1種と、3価及び4価元素の酸化物より選ばれる少なくとも1種からなる2種以上の酸化物を主成分とするイオン吸着体又はb.一般式M11-xM2x(OH)2An-x/n・mH2O(但し、式中M1はアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも1種の2価金属を示し、M2は3価金属を示し、An-はn価のアニオンを示す。
【0026】
またxは0<x≦0.5であり、mは正の数である。)で表されるイオン吸着体より選ばれる少なくとも1種を0.01〜5.0wt%更に好ましくは0.01〜1wt%添加し溶融混合することが好ましい。ここで、アルカリ金属酸化物としてはNa2O、K2O等が挙げられ、アルカリ土類金属酸化物としてはMgO、CaO等が挙げられ、更に3価及び4価元素の酸化物としては、Al2O3、SiO2、TiO2等が挙げられる。これら酸化物より選ばれる少なくとも2種の酸化物を主成分とするイオン吸着体として、具体的には2.5MgO・Al2O3・nH2O、2MgO・6SiO2・nH2O、Al2O3・9SiO2・nH2O、Al2O3・Na2O・2CO3・nH2O、Mg0.7Al0.3O1.15等が挙げられる。また一般式M11-xM2x(OH)2An-x/n・mH2Oにおいて、M1の例としては、Mg、Ca等、M2の例としては、B、Al、Ga、In、Ti、Tl等、An-の例としてはCO32-、OH-、HCO3-、H2PO4-、NO3-、I-サルチル酸イオン-、クエン酸イオン-、酒石酸イオン-等が挙げられる。特に好ましい例としてはCO32-、OH-が挙げられる。この種のイオン吸着体の具体例としては、Mg0.75Al0.25(OH)2CO30.125・0.5H2Oで示される天然ハイドロタルサイト、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O等で示される合成ハイドロタルサイトがある。
【0027】
これら失活剤の添加量は重合体に対し、0.001〜0.5wt%が好ましく、更に好ましくは0.005〜0.05wt%である。添加量が0.001wt%未満では重合触媒の失活が不十分であり、また、添加量が0.5wt%を超える場合は、成形時に着色し、成形品の色調を悪化させる。失活剤の粒径は、特に制限はないが、分散性を向上させるために100μm以下が好ましい。更に失活剤は、重合体との分散性を向上させるために表面処理することもできる。
【0028】
失活剤の添加は、重合終了後、重合機に供給、あるいは連続重合機においては重合機の後段部に供給、又は重合機から排出された重合体に添加混合などにより行うことが出来る。失活剤が添加された重合体は、更に溶融混合することによってより完全に重合触媒を失活する事が出来る。溶融混合は、重合体の融点から270℃の温度範囲で実施される。溶融混合装置としては、単軸スクリュウ式連続押出し機、コニーダー、2軸スクリュウ式連続押出し機などが挙げられる。
【0029】
得られた共重合体が、不安定な末端水酸基を有する場合には、従来公知の方法で、例えばトリエチルアミン水溶液などの塩基性物質と加熱処理をする事によって、不安定部分を分解除去する。また、この操作は、触媒の失活剤の添加溶融混合操作と同時にあるいは同じ溶融混合機によって実施することが出来る。本発明のポリオキシメチレン製ギアは、以上の方法によって得られたポリオキシメチレン共重合体を、必要に応じて従来公知の添加剤、例えば各種の酸化防止剤、熱安定剤、顔料、核剤、帯電防止剤、潤滑剤、ガラスファイバー、カーボンファイバー、タルク、マイカ等各種フィラーなどを混練した後、射出成形して得ることが出来る。射出成形機としては、スクリュウータイプ、プランジャータイプ等特に制限はなく使用できる。好ましい成形条件としては、シリンダー温度180℃〜230℃、金型温度0℃〜120℃である。その他種々の条件については、ギアの大きさ、形状などによって設定することが出来る。
【0030】
本発明のポリオキシメチレン製ギアは、優れた耐久性を有しており種々の用途に使用することが出来る。特に、その特徴である熱水や塩基性溶液中での耐久性、及び錆の発生のないことから、温水あるいは熱水または塩基性溶液中で使用されるギアに適している。
【0031】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明するが、実施例により本発明が何等限定されるものではない。なお実施例中の測定項目は次の通りである。
1.末端ホルメート:共重合体を200℃で熱プレスし15μのフィルムを形成する。得られたフィルムの赤外線吸収スペクトルを取り、ν=1710cm-1での吸光度とν=1470cm-1の吸光度の比D1710/D1470を計算する。
2.オキシアルキレンユニット挿入量及びシーケンス:共重合体10gを100mlの3NHC1水溶液に入れ密封容器中で、120℃×2時間加熱し分解させる。冷却後水溶液中のアルキレングリコール、ジアルキレングリコール、トリアルキレングリコールの量をガスクロマトグラフィー(FID)にて測定し、オキシアルキレンユニットの量を共重合体のオキシメチレンユニットに対するモル%で表す。
【0032】
オキシアルキレンユニットのシーケンスは、モノアルキレングリコールの量がn=1に、ジアルキレングリコールの量がn=2に、トリアルキレングリコールの量がn=3に対応する。
3.MI:ASTM D-1238-86に基づく。
4.ギア耐久性:動力消費型のギア耐久試験機を用い破壊にいたる積算回転数を評価した。
【0033】
測定条件:ギア形状 ;モジュール1、歯数30、歯幅3mm、平歯車
組合せギア ;同一材料同一形状によるギア
回転速度 ;1m/sec(ピッチ円)
環境 ;23℃、50%RH
潤滑 ;無潤滑
負荷トルク ;9kgf-cm、13.5kgf-cm
5.耐熱水性:ギア成形品を、120℃に調節した熱水中(流水式)に浸漬し評価した。測定項目は重量保持率である。
6.耐塩基安定性:ギア成形品を、1NのNaOH水溶液中に60℃で浸漬し評価した。測定項目は重量保持率である。
【0034】
【参考例】
(ポリオキシメチレン共重合体の製造)
(1)サンプルAの製造
高度に精製したトリオキサン(トリオキサン中の水2ppm、蟻酸3ppm)2000g、1,3-ジオキソラン(トリオキサンに対し0.8mol%)、およびメチラール(トリオキサンに対し0.2mol%)を2枚のΣ羽根を有するジャケット付きのニーダーに入れて70℃に昇温した。ついでトリフルオロメタンスルホン酸のジオキサン溶液(0.002mol/1)をトリフルオロメタンスルホン酸がトリオキサンに対し5×10-6mol%となるように加え重合を行った。反応開始後、15min経過したところでジャケットに冷水を入れ窒素雰囲気下冷却した。1時間後、ニーダーの内容物を取り出し失活剤としてMg0.75Al0.25O1.125(KW-2300 協和化学)を得られたポリマーに対し0.01wt%添加し、ベント付きの2軸押出し機を用いて、200℃で押出した。更に、得られたポリマー100重量部に対しトリエチルアミン1重量部、水5重量部、2,2-メチレンビス-(4メチル-6-t-ブチルフェノール)を0.2重量部添加し、ベント付き単軸押出し機で押出した(押出し温度200℃、ベント圧力200torr)。
(2)サンプルB〜Eの製造
サンプルAと同様の方法で、1,3-ジオキソランの量、メチラールの量を変えポリオキシメチレン共重合体を合成した。得られたポリマーの末端は、メトキシ基、オキシエトキシ基、ホルメート基で構成されている。
【0035】
【実施例1】
参考例で得られたサンプルAの末端ホルメート、オキシアルキレンユニット挿入量、オキシアルキレンユニットのシーケンス、MIを評価した。結果を表1に示す。サンプルAを原料に用い射出成形機にてモジュール1のギアを成形した。(シリンダー温度200℃、金形温度40℃)成形した1対のギアを動力消費型のギア耐久試験機により耐久性を評価した。
【0036】
また別途、成形したギアの耐熱水性、耐塩基安定性を評価した。表2にこれらの結果を示す。ギアの耐久性は良好で、且つ、耐熱水性、耐塩基安定性も非常に良好であった。
【0037】
【実施例2〜5】
実施例1と同様の方法で、サンプルB〜Eについて同様の評価を行った。結果を表1及び2に示す。いずれもギアの耐久性は良好で、且つ、耐熱水性、耐塩基安定性も非常に良好であった。
【0038】
【比較例1、2】
市販のポリオキシメチレンホモポリマーであるテナック5010(旭化成製)、デルリン500(Du Pont製)について、実施例1と同様の方法で同様の評価を行った。結果を表1及び2に示す。テナック5010の末端基はアセチル基、デルリン500の末端基はアセチル基とメトキシ基で構成されている。
【0039】
いずれもギアの耐久性は良好であったものの、耐熱水性、耐塩基安定性は非常に劣っていた。
【0040】
【比較例3、4】
市販のポリオキシメチレンコポリマーであるテナック-C4520(旭化成製)ジュラコンM-9002(ポリプラスチックス製)について、実施例1と同様の方法で、同様の評価を行った。結果を表1及び2に示す。テナック-C4520、ジュラコンM-9002ともに末端基はメトキシ基、オキシエトキシ基、ホルメート基で構成されている。
【0041】
いずれもギアの耐熱水性、耐塩基安定性は良好であったものの、耐久性は非常に劣っていた。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、熱水、水蒸気あるいは塩基性溶液と接する雰囲気での耐久性にすぐれたギアが得られる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3168034号発明の明細書を本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりにすなわち
(a)特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であであるポリオキシメチレン製ギア。」
を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】 オキシメチレン単位(-CH2O-)の繰り返しよりなる重合体中に、オキシアルキレン単位
【化1】

(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギア。」
と訂正する。
(b)明細書の段落番号【0006】の
「【0006】(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であるポリオキシメチレン製ギアである。」
を、明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0006】(R、R0は同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれ、更に異なる炭素原子に結合するR、R0もそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アリル基より選ばれる。nは1以上の整数であり、mは2〜6の整数である。)がオキシメチレン単位100mol当たり、0.07〜0.5mol挿入された構造を有し、且つ、重合体の末端基が、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基またはホルメート基であり、ホルメート基の量(D1710/D1470)が0.025以下であるポリオキシメチレン製ギアである。」
と訂正する。
審理終結日 2002-12-03 
結審通知日 2002-12-05 
審決日 2002-12-17 
出願番号 特願平3-257958
審決分類 P 1 112・ 113- ZA (C08J)
P 1 112・ 121- ZA (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐野 整博
中島 次一
登録日 2001-03-09 
登録番号 特許第3168034号(P3168034)
発明の名称 ポリオキシメチレン製ギア  
代理人 木川 幸治  
代理人 渡邉 一平  
代理人 樋口 武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ