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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A61L
審判 全部無効 発明同一 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A61L
管理番号 1074520
審判番号 審判1997-2827  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-02-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-02-21 
確定日 2000-04-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2121472号発明「生体用ジルコニアインプラント材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2121472号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 (1)手続きの経緯
特許第2121472号に係る発明(以下「本件発明」という。)は、昭和62年8月6日に特許出願され、平成6年3月30日にその特許の設定登録がなされ、その後京セラ株式会社より、本件発明の特許を無効とすべきとの審判請求がなされ、平成9年7月29日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、訂正拒絶理由通知に対して平成10年3月16日付手続補正書、及び平成10年8月3日付手続補正書が提出されたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正請求に対する補正の適否について
平成10年3月16日付手続補正書により、被請求人は、訂正請求書の特許請求の範囲を
「【請求項1】人工関節の回動する部分に用いられる人工関節用ジルコニアインプラント材であって、
安定化剤としてY2O3のみを2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均結晶粒径0.8μm以下であり、生体内と同様な環境に配置した場合の700日後の正方晶から単斜晶への相転移量が40%以下であることを特徴とする人工関節用ジルコニアインプラント材。
【請求項2】上記部分安定化ジルコニア微粉末に、Al2O3及び又はTiNを、150重量%以下添加したものを成形焼結した特許請求の範囲第1項記載の人工関節用ジルコニアインプラント材。」から、
「【請求項1】人工股関節の回動する部分に用いられる人工股関節用ジルコニアインプラント材であって、
安定化剤としてY2O3を2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均結晶粒径0.8μm以下であり、生体内と同様な環境に配置した場合の700日後の表面部の正方晶から単斜晶への相転移量が20%以下であることを特徴とする人工関節用ジルコニアインプラント材。
【請求項2】上記部分安定化ジルコニア微粉末に、Al2O3及び又はTiNを、150重量%以下添加したものを成形焼結した特許請求の範囲第1項記載の人工股関節用ジルコニアインプラント材。」にする補正を求めるものである。
上記補正は、▲1▼訂正明細書の特許請求の範囲請求項1における「人工関節」を「人工股関節」に、▲2▼同「安定化剤としてY2O3のみを」を「安定化剤としてY2O3」に、▲3▼同「正方晶から単斜晶への相転移量が40%以下」を「正方晶から単斜晶への相転移量が20%以下」に、それぞれ補正するものである。
上記補正のうち▲2▼は、特許請求の範囲を拡張するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものするから、特許法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。
また、平成10年8月3日手続補正書により、被請求人は、訂正請求書の特許請求の範囲を
「【請求項1】人工股関節の骨頭球に用いられる人工股関節用ジルコニアインプラント材であって、
安定化剤としてY2O3を2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均結晶粒径0.8μm以下であり、生体内と同様な環境に配置した場合の700日後の表面部の正方晶から単斜晶への相転移量が20%以下であることを特徴とする人工股関節用ジルコニアインプラント材。
【請求項2】上記部分安定化ジルコニア微粉末に、Al2O3及び又はTiNを、150重量%以下添加したものを成形焼結した特許請求の範囲第1項記載の人工股関節用ジルコニアインプラント材。」にする補正を求めるものである。
上記補正は、▲1▼訂正明細書の特許請求の範囲請求項1における「人工関節の回動する部分」を「人工股関節の骨頭球」に、▲2▼同「安定化剤としてY2O3のみを」を「安定化剤としてY2O3」に、▲3▼同「正方晶から単斜晶への相転移量が40%以下」を「正方晶から単斜晶への相転移量が20%以下」に、それぞれ補正するものである。
上記補正のうち▲2▼は、特許請求の範囲を拡張するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものするから、特許法第131条第2項の規定に適合せず、したがってこの補正も採用しない。
イ、訂正請求の適否について
平成9年7月29日付けの上記訂正請求は、特許明細書の特許請求の範囲、
「【請求項1】Y2O3を2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均結晶粒径0.8μm以下である生体用ジルコニアインプラント材。
【請求項2】上記部分安定化ジルコニア微粉末に、Al2O3及び又はTiNを、150重量%以下添加したものを成形焼結した特許請求の範囲第1項記載の生体用ジルコニアインプラント材。」を、
「【請求項1】人工関節の回動する部分に用いられる人工関節用ジルコニアインプラント材であって、
安定化剤としてY2O3のみを2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均結晶粒径0.8μm以下であり、生体内と同様な環境に配置した場合の700日後の正方晶から単斜晶への相転移量が40%以下であることを特徴とする人工関節用ジルコニアインプラント材。
【請求項2】上記部分安定化ジルコニア微粉末に、Al2O3及び又はTiNを、150重量%以下添加したものを成形焼結した特許請求の範囲第1項記載の人工関節用ジルコニアインプラント材。」に、訂正するものであるから、上記訂正請求は、特許明細書の特許請求の範囲請求項1に、ジルコニアインプラント材が(1)人工関節の回動する部分に用いられる人工関節用である点、および(2)生体内と同様な環境に配置した場合700日後の正方晶から単斜晶への相転移量が40%以下である点を追加するものである。
しかし、これらの点については、特許明細書には記載がない。(1)の点については人工股関節に関する実施例の記載はあるものの、この記載から人工関節が一義的に導き出せるとはいえない。(2)の点については、実施例に本件発明に相当する試料A、Bの表面部の結晶相の変化が20%以下であり、比較例に相当する試料C、D、Eでは40%を越えた旨の記載はあるが、この記載から「40%以下」の数値限定が一義的に導き出せるとはいえない。
したがって、上記(1)(2)の点は、特許明細書又は図面に記載した範囲内のものではない。
ウ、むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定に基づき、特許法第134条第2項ただし書(平成5年法)の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
(3)特許無効の請求について
ア、本件発明
本件発明の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「Y2O3を2mol%以上6mol%未満含み、
共沈法又は加水分解法で得られる、Y2O3の分散性の良好な部分安定化ジルコニアの微粉末を成形焼結した平均焼結体粒径0.8μm以下である生体用ジルコニアインプラント材。」
イ、当事者の主張
請求人は、「特許第2121472号の発明についての特許を無効とする。」との審決を求めている(請求の趣旨)。
その理由として、本件特許の特許請求の範図第1項(以下「請求項1」という)および同第2項(実施態様項、以下「請求項2」という)に係る発明についての特許は、下記の理由により特許法第123条第1項第1号および第3号の規定により、無効とすべきである。
(i)甲第1号証(本件特許発明の出願前の出願であり、その出願後に出願公開された先願の明細書および図面)に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(ii)甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証のそれぞれの刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(iii)甲第2号証に記載された発明に基づいて、甲第7号証刊行物に記載された知見を参酌することにより、あるいは、甲第3、第4、第7〜9号証の各刊行物に記載された知見を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(iv)甲第3号証または甲第4号証に記載された発明に基づいて、甲第7号証刊行物に記載された知見を参酌することにより、あるいは、甲第2、第5〜9号証の各刊行物に記載された知見を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(v)甲第5号証に記載された発明に基づいて、甲第7号証刊行物に記載された知見を参酌することにより、あるいは、甲第3、第4、第7〜9号証各刊行物に記載された知見を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(vi)甲第6号証に記載された発明に基づいて、甲第7号証刊行物に記載された知見を参酌することにより、あるいは、甲第3、第4、第7〜9号証各刊行物に記載された知見を参酌することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
さらに、
(vii)本件特許発明の明細書および図面の記載には不備があり、特許法第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていない。
と、主張している。
そして、請求人は、証拠方法として、甲第1〜9号証を提出している。
甲第1号証(「特願昭61-267060号明細書および図面。特開昭63-123861号公報でこれに代える。)
甲第2号証(特開昭61‐219756号公報)
甲第3号証(「新時代をめざすバイオニクス技術(生体機能代替機器編)」第153頁〜156頁、昭和60年6月、財団法人日本産業技術振興協会発行)
甲第4号証(「高機能性無機材料の先端的技術開発の現状と将来」(化学的機能材料編)、第128頁〜131頁、昭和61年6月、財団法人日本産業技術振興協会発行)
甲第5号証(特開昭61‐146757号公報)
甲第6号証(特開昭62‐153163号公報)
甲第7号証(「セラミックス」、第17巻、第10号、第816頁〜822頁、昭和57年10月1日、社団法人日本窯業協会発行)
甲第8号証(「窯業協会誌」、第92巻、第5号、第11頁〜19頁、昭和59年5月1日、社団法人窯業協会発行)
甲第9号証(「新素材シリーズ、ジルコニアセラミックス 9」第13頁〜25頁、昭和62年4月10日、株式会社内田老鶴圃発行)
これに対して被請求人は、答弁書及び訂正請求書を提出し、請求人の主張は、いずれも妥当ではない旨の主張をしている。しかし、訂正請求については、上記(2)で述べたとおりあり、訂正は認められないものである。
ウ、甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)を安定剤として含む主として正方晶あるいは正方晶と立方晶よりなる部分安定化ジルコニア50〜98重量%と、分散成分としてアルミナ・・・のうち少なくとも1種以上50〜2重量%とからなり、焼結体の平均結晶粒径が2μm以下で・・・高強度ジルコニア系HIP焼結体」(特許請求の範囲第1項)
「本発明の焼結体は、焼結体の平均結晶粒子径が2μm以下であることが必要である。好ましくは1μm以下であることが良い。これは平均結晶粒子径が2μmを越えると、熱および熱水環境下で正方晶から単斜晶への変態が生じ易くなる。ジルコニア焼結体の熱安定性は、焼結体の粒子径に大きく依存しており、粒子径が小さい程安定性が向上する。」(公開公報7頁左上欄3〜10行)
「酸化ジルコニウムのゾルおよび/またはジルコニウムを含む水溶液の塩と、Y2O3、CeO2の水溶液の塩を含む水溶液から共沈法により調整することができる。」(公報8頁左上欄5〜12行)
「酸またはアルカリ等の薬品にさらされる部品、例えば、・・・人工骨、人工関節、人工歯冠、鋳造セラミックスによる人工歯のブリッジ芯材料、人工歯根の芯材・・・への応用および実用化と性能向上・・・産業上極めて有用なものである。」(公報14頁左下欄2〜11行)
エ、当審の判断(請求人の主張(i)について)
本件発明と、先願明細書(甲第1号証)に記載された発明とを対比すると、前者は、ジルコニア微粉末のY2O3の含有量が前者が2mol%以上6mol%未満、焼結体の平均粒子径が前者は0.8μ以下、であるのに対して、後者は実施例に記載されるものが、Y2O3の含有量が2.5mol%または4mol%で、焼結体の平均粒子径が好ましくは1μm以下、実施例では0.1、0.2、0.3、0.5、0.6μmであって、両者はY2O3含有量および焼結体の平均粒子径で一致しており、また、部分安定化ジルコニア微粉末の製法として、後者は前者と同じ共沈法により調整されることが記載されているから、粉末の製法の同じであり、後者で製造される粉末も、Y2O3の分散性の良好な部分安定化微粉末であるといえる。さらに、後者の焼結体の用途は人工骨、人工関節等であり、前者の生体用インプラント材と一致する。
先願明細書に記載された発明は、さらにCe2O2を含むものであるが、本件発明は、安定剤としてY2O3以外の成分を含有することを制限するものではないから、両者は発明として相違するものではない。
なお、被請求人の提出した乙第1、2号証に記載の事項を参酌しても、上記判断は覆るものではない。
よって、本件発明は先願明細書に記載された発明と同一である。
オ、むすび
以上のとおり、本件発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1998-10-01 
結審通知日 1998-10-23 
審決日 1998-11-19 
出願番号 特願昭62-195349
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (A61L)
P 1 112・ 161- ZB (A61L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高梨 操多喜 鉄雄  
特許庁審判長 吉村 康男
特許庁審判官 谷口 浩行
中島 庸子
登録日 1996-12-20 
登録番号 特許第2121472号(P2121472)
発明の名称 生体用ジルコニアインプラント材  
代理人 西 義之  
代理人 足立 勉  

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