ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L |
---|---|
管理番号 | 1074899 |
異議申立番号 | 異議1998-71562 |
総通号数 | 41 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-11-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-04-02 |
確定日 | 2003-03-27 |
異議申立件数 | 4 |
事件の表示 | 特許第2661009号「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の請求項1ないし3に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2661009号の請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2,661,009号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。 特許法第44条第1項に基づくと主張する特許出願 平成8年5月16日 (原特許出願 平成3年10月30日) 特許権設定登録 平成9年6月13日 特許公報発行 平成9年10月8日 特許異議の申立て(4件) 平成10年4月2日〜平成10年4月8日 訂正請求 平成10年11月6日 訂正請求書の補正 平成11年5月6日 2.訂正の適否 2.1 訂正の補正について 訂正請求書により特許明細書の段落【0036】において、「高キャリア濃度n+層3に対する第2の電極8は、p型不純物添加層5に対する第1の電極7との位置関係の対象性から、」とあるを「高キャリア濃度n+層3と層5に対する第1の電極7との位置関係から、」と訂正請求された。そして、該請求書第26頁において、「電極の対象性の記載とすれば誤記であることが明確であり、不明瞭である。」と記載され、「対象」は、「対称」の誤記であると特許権者自身が認めている。 しかるに、上記訂正拒絶理由通知に対する意見書第5頁において、「しかし、段落番号【0036】の『対象』とは、「(1)認識や意志などの意識作用が向けられる当のもの。物的・心的・実在的・観念的なあらゆるものが対象となりうる。(2)目標となるもの(広辞苑)」であり、第2の電極8と第1の電極7との位置関係から立体的な層関係を含むことは明らかである。」と主張し、特許明細書の段落【0036】に記載されている「対象」は、文字通り「対象」であるとし、上記訂正請求書における解釈とはまったく異なった解釈をしている。 よって、上記補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであるので、特許法第131条第2項の規定により認めることがでない。 2.2 訂正の目的等について 訂正事項16について 本件特許明細書の段落【0036】において、「高キャリア濃度n+層3に対する第2の電極8は、p型不純物添加層5に対する第1の電極7との位置関係の対象性から、」を「高キャリア濃度n+層3と層5に対する第1の電極7との位置関係から、」とする訂正に関しては、訂正前においては、第2の電極と第1の電極の平面的な配置における対称性を述べているのに対し、訂正後は高キャリア濃度n+層3と第1の電極7との縦方向の位置関係に変更するものである。したがって、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲内においてなされているとは認められない。 2.3 独立特許要件について (2.3.1) 分割出願の是非 <1>原明細書に記載されている事項 本件特許出願の基礎となった原出願の出願当初の明細書(以下「原明細書」という。)には、特許請求の範囲、産業上の利用分野、従来技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、作用、効果及び実施例の冒頭において、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】n型の窒化カリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るn層と、前記n層に接合するp型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成る i層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記i層の表面に形成された透明導電膜から成る第1の電極と、前記i層の側から前記n層に接続するように形成された第2の電極とから成り前記i層の側から外部に発光させることを特徴とする半導体発光素子。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は青色や短波長領域発光の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関する。 【0002】 【従来技術】従来、青色や短波長領域発光の発光ダイオードとしてGaN系の化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)を用いたものが知られている。そのGaN系の化合物半導体は直接遷移であることから発光効率が高いこと、光の3原色の1つである青色を発光色とすること等から注目されている。 【0003】このようなGaN 系の化合物半導体は、低抵抗p型結晶が得られていないため、これを用いた発光ダイオードは金属電極(Metal)-半絶縁性のGaN から成るi層(Insulator)-n型GaNから成るn層(Semiconductor)の構造を持つ、いわゆるMIS型構造をとる。発光はi層への電極(発光電極)の直下で見られる。すなわち、この電極形成部分がMIS構造を形成する。このようなMIS構造のGaN青色LEDにおいては、光を効率よく取り出すための素子構造および実装方法の確立が不可欠となっている。 【0004】AlXGa1-XAs などの他の3-5族化合物半導体を用いたpn接合型構造の発光素子においては、素子内での接合面に平行な横方向への電流の拡散のために、接合面に垂直に且つ均一に電流が流れる。この結果、MIS型LEDのように電極直下部分のみが発光するのと異なり、電極の大きさに関係なく接合面全体が発光する。接合面全体がほぼ均一に発光するため、光の取り出しが容易である。 【0005】しかし、MIS型構造をとるGaN 青色LEDは、発光電極直下のi層中では、接合面に平行な横方向への電流拡散はほとんど起こらない。このため、発光する部分は発光電極直下の領域に限られる。したがって、通常電極は金属を用いるため、発光電極側からは、発光は電極のかげになってほとんど見えない。 【0006】そこで、従来のGaN 青色LEDは、サファイア基板とGaN とが発光に対して透明であることを利用して、発光電極を下面にしてのフリップチップ方式により、光を基板を通して表面より取り出す方法をとっている。すなわち、発光電極と、n層と電気的に接続された電極(n層側電極)とをGaN エピタキシャル層表面に形成し、これらの電極とリードフレームとをハンダによって接合することにより、基板を通して光を取り出すことを可能にしたものである。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、フリップチップ方式を用いた場合、発光電極(i層電極)およびn層電極とリードフレームはハンダによって接合されているため、以下にあげる理由により、素子の電気的な直列抵抗成分が大きくならざるを得ない。 1. 発光電極(i層電極)とn層電極とのハンダの短絡を防ぐため電極間隔を余り狭くできず、電気的な抵抗成分が大きくなってしまう。 2. 発光電極(i層電極)とn層電極の形状が大きく異なると、ハンダバンプ形成時においてハンダバンプの高さも異なってしまうため、リードフレームとの接合不良が起こり易くなる。 【0008】したがって、両電極の面積は略同じ形状としなければならない。このため、電極パターンの自由度がなくなり、電気的な抵抗成分を減少させるための最適なパターンをとれなくなる。又、素子の電気的な直列抵抗成分が大きいということは素子の発光効率を低下させるためばかりではなく、素子の発熱を誘因し、素子の劣化や発光強度の低下を引き起こすことになり好ましくない。 【0009】本発明は、発光素子において、光の取り出し効率を向上させると共に電気的な抵抗成分を低く抑えることでさらに発光効率を向上させることである。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記裸題を解決するための発明の構成は、n型の窒化カリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るn層と、前記n層に接合するp型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るi層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、i層の表面に形成された透明導電膜から成る第1の電極と、i層の側からn層に接続するように形成された第2の電極とから成りi層の側から外部に発光させることを特徴とする。 【0011】 【作用】半絶縁性のi層に対して透明導電膜から成る第1の電極を形成している。この第1の電極を介して光が放射される。この第1の電極の面積が発光面積を規定している。又、第1の電極は導電性を有するので、第1の電極に対してスポットで電流を注入させても、第1の電極全体を均一の電位とし、第1の電極の下方の全面から発光する。 【0012】 【発明の効果】上述のように、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、第1の電極(発光電極)として透明導電膜を用いており、透明導電膜が可視光に対して透明であることを利用しているので、発光電極側からの光の取り出しが可能である。このため以下に例示する種々の作用効果を奏する。 【0013】 1. 電極を上面にして実装できるため、ハンダを用いずに通常のワイヤボンディングによって接続でき、第1の電極に対してスポット的にリード線を接続しても、第1の電極の導電性により、平面方向にも電流が拡散するので、第1の電極全体を均一電位とすることができる。よって、第1の電極に対するワイヤボンディングパッドは狭くできる。従って、第1の電極(発光電極)と第2の電極(n層電極)は、フォトリソグラフやエッチング、リフトオフなど、素子作製のプロセスにおいて短絡を防ぐために必要とされる間隔があれば良い。即ち、従来のフリップチップ方式では、2つの電極間距離は、2つの電極に対するハンダ間の短絡を防止することから、フォトリソグラフやエッチング技術の限界からくる距離よりも更に長い距離を必要とするので、第1の電極の面積を広くできない。本発明では、この点、チップ面積に対する第1の電極面積の占有率を向上させることができるので、発光効率を向上させることができる。 また、二つの電極間距離は、従来のフリップ方式よりもかなり小さくでき、素子の電気的な抵抗成分を減少させることができる。 【0014】 2. フリップチッブ方式では第1の電極(発光電極)と第2の電極(n層電極)のパターンは同じくする必要があったが、本発明では、2つの電極のパターンの自由度が増し、素子の電気的な抵抗成分を減少させる最適なパターンを設計することができる。 【0015】 3. 第1の電極(発光電極)と第2の電極(n層電極)との間隔を小さくできること、および電極のパターンの自由度が増えることにより、発光面積に対するチップサイズの小型化、あるいは発光面積の拡大が可能となり、経済的な素子作製を容易に行うことができる。 【0016】 4. AlGaAs 赤色LEDなど他の発光素子と、同一のリードフレーム内でのハイブリッド化が可能となることから、一つの素子で青や緑、赤などの多色を表示するLEDの実現が容易となる。 【0017】 【実施例】以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。図1は、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を適用した発光ダイオードの構成を示す断面図である。発光ダイオード10はサファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上には 500ÅのAlNのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、膜厚約 2.5μm のn型GaNから成るn層4が形成されている。さらに、n層4の上に膜厚約 0.2μm の半絶縁性GaN から成る i層5が形成されている。そしてi層5の表面からi層5を貴通しn層4に達する凹部21が形成されている。この凹部21を覆うようにn層4に接続する金属製のn層4のための第2の電極8が形成されている。この第2の電極8と離間してi層5上に錫添加酸化インジウム(以下ITOと略す)から成る透明導電膜のi層5のための第1の電極7が形成されている。第1の電極7の隅の一部分には取出電極9が形成されている。その取出電極9はNi層9bとAu層9 cとの2層で構成されている。又、第2の電極8はn層4に接合するAl層8aとNi 層8bとAu 層8cとの3層で構成されている。この構造の発光ダイオード10のサファイア基板1の裏面にはAlの反射膜13が蒸着されている。」 以上の、原明細書の記述においては、本件発明は、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)型、すなわち、金属/半絶縁体/半導体の組み合わせから成る発光素子に関するものであり、金属に接するのは、半絶縁性の窒化ガリウム系化合物半導体のi層である。そして、段落【0003】に記載されているように、他の化合物半導体においては、pn接合型発光素子が開発されているが、GaN系化合物半導体では、低抵抗のp型結晶が得られていないためMIS構造を形成するのであると記載されており、窒化ガリウムにおけるpn接合型については、一切記載されていない。 <2>訂正された本件発明 上記原明細書の記載に対し、本件の訂正された明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1ないし3に係る発明(以下「訂正第1発明」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層とを有し、発光する部分が電極下領域に限定される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、 前記p型不純物を添加した層上に形成された透明電極と、前記透明電極上に形成されたニッケル(Ni)層と金(Au)層との2重層から成る電極とを設けたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求頃2】前記p型不純物を添加した層は、p型不純物を添加したGaNから成る層であり、前記透明電極はITOであることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求項3】基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層とを有し、発光する部分が電極下領域に限定される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記n層に対する電極をアルミニウム(Al)とニッケル(Ni)層と金(Au)層との3重層としたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」 <3>本件訂正された発明は、原明細書中に記載されていたのか否かについて 原出願明細書において、「p型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成る i層」とされたいたものが、分割出願当初の明細書及び訂正された明細書においては、「p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」とされている。この「p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」という表現は、「p型の不純物を添加した高抵抗のi層」及び「p型の不純物を添加したp型の特性を示すp層」の両方を包含するものであるが、原明細書には、MIS型の発光素子、すなわち、「p型の不純物を添加した高抵抗のi層」を有する発光素子についての発明は記載されているが、pn接合型、すなわち、「p型の不純物を添加したp型の特性を示すp層」を有する発光素子については記載されていない。そして、i層上に形成される透明電極とp層上に形成される透明電極とが同じ作用及び効果を奏するのか否かはまったく不明である。 したがって、本件出願は、原特許出願に包含されている発明の一部を新たな特許出願、すなわち特許法第44条第1項の規定に基づく特許出願とは認められない。 よって、本件特許の出願日は、現実の出願日である平成8年5月16日である。 (2.3.2)引用刊行物記載の発明 本件特許出願の出願日前である平成5年5月25日に公開された本件分割出願の基礎となった出願の公開公報である特開平5-129658号公報(以下「刊行物」という。)には、「【請求項1】n型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成るn層と、前記n層に接合するp型不純物を添加した半絶縁性のi型の窒化ガリウム系化合物半導体(AlXGa1-XN;0≦X<1)から成る i層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記i層の表面に形成された透明導電膜から成る第1の電極と、前記i層の側から前記n層に接続するように形成された第2の電極とから成り前記i層の側から外部に発光させることを特徴とする半導体発光素子。」(特許請求の範囲)、「さらに、n層4の上に膜厚約0.2μmの半絶縁性GaNからなるi層5が形成されている。・・・・この第2の電極8と離間してi層5上に錫添加酸化インジウム(以下ITOと略す)から成る透明導電膜のi層5のための第1の電極7が形成されている。第1の電極7の隅の一部分には取出電極9が形成されている。その取出電極9はNi層9bとAu層9cとの2層で構成されている。・・・・又、第2の電極8はn層4に接合するAl層8aとNi層8bとAu層8cとの3層で構成される。」(段落【0017】)及び「・・・第1の電極7直下のi層5にて発光を得ることができた。・・・」(段落【0029】)と記載されている。 したがって、上記刊行物には、基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した半絶縁性のi型GaNから成る層とを有し、発光する部分が電極直下のi層領域に限定される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記p型不純物を添加したi層上に形成された透明電極(ITO)と、前記透明電極上に形成されたニッケル(Ni)層と金(Au)層との2重層から成る電極と、前記n層に対する電極をアルミニウム(Al)とニッケル(Ni)層と金(Au)層との3重層とした窒化ガリウム系化合物半導体発光素子が記載されている。 (2.3.3)対比及び判断 <1> 訂正第1発明について 訂正第1発明と上記刊行物に記載された発明とを比較すると、後者における「p型不純物を添加した半絶縁性のi型GaN層」は、前者における「p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」の一つであるので、両者は、基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層とを有し、発光する部分が電極下領域に限定される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記p型不純物を添加した層上に形成された透明電極と、前記透明電極上に形成されたニッケル(Ni)層と金(Au)層との2重層から成る電極とを設けた窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であり、同一の発明である。 したがって、訂正第1発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので出願の際独立して特許を受けることができないものである。 <2> 訂正第2発明について 訂正第2発明と上記刊行物に記載された発明とを比較すると、上記訂正第1発明と同様に、後者における「p型不純物を添加した半絶縁性のi型GaN層」は、前者における「p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」の一つであり、両者において、p型不純物を添加した層は、p型不純物を添加したGaNから成る層であり、透明電極はITOである窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であるので、両者は、同一の発明である。 したがって、訂正第2発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので出願の際独立して特許を受けることができないものである。 <3> 訂正第3発明について 訂正第3発明と上記刊行物に記載された発明とを比較すると、後者における「p型不純物を添加した半絶縁性のi型GaN層」は、前者における「p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層」の一つであるので、両者は、基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成る層とを有し、発光する部分が電極下領域に限定される窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、前記n層に対する電極をアルミニウム(Al)とニッケル(Ni)層と金(Au)層との3重層とした窒化ガリウム系化合物半導体発光素子であり、同一の発明である。 したがって、訂正第3発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (2.3.4) この項のむすび 以上のとおりであるので、訂正事項16は、願書に添付した明細書及び図面に記載した範囲内においてなされていないので、また、訂正第1発明ないし第3発明は、上記刊行物に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する第126条第2項及び第4項の規定、ただし、平成7年7月1日より前の特許出願の特許に係る明細書又は図面についての訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされるので、同法律により改正される前の特許法第126条第1項ただし書き及び第3項の規定により認められない。 3.本件発明 本件発明は、特許された明細書の特許請求の範囲請求項1ないし3に記載された事項により特定された以下のとおりのものである(以下「本件第1発明」などという。)。 「【請求項1】基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型不純物添加層とを有する発光素子において、 前記p型不純物添加層上に形成された透明電極と、 前記透明電極上に形成されたニッケル(Ni)層と金(Au)層との2重層から成る電極とを設けたことを特徴とする発光素子。 【請求頃2】前記p型不純物添加層は、p型不純物を添加したGaNから成る層であり、前記透明電極はITOであることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。 【請求項3】基板と、この基板上に形成されたn型の窒化ガリウム系化合物半導体から成るn層と、p型の不純物を添加した窒化ガリウム系化合物半導体から成るp型不純物添加層とを有する発光素子において、 前記n層に対する電極をアルミニウム(Al)とニッケル(Ni)層と金(Au)層との3重層としたことを特徴とする発光素子。」 4.刊行物記載の発明 特開平6-151963号公報(以下「刊行物」という。)には、上記(2.3.2)「引用刊行物記載の発明」に記載した事項が記載されている。 5.対比及び判断 本件第1発明ないし第3発明と上記刊行物に記載された発明とを比較すると、本件第1発明ないし第3発明は、上記訂正第1発明ないし第3発明よりも実質的には「発光する部分が電極下領域に限定される」という限定がないものであるから、上記本件第1発明ないし第3発明が上記刊行物記載の発明と同一である以上、本件第1発明ないし第3発明も上記刊行物記載の発明と同一の発明である。 したがって、本件第1発明ないし第3発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するので特許を受けることができないものである。 6.むすび 以上のとおり、本件第1発明ないし第3発明に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものであるので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-06-23 |
出願番号 | 特願平8-148351 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZB
(H01L)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小橋 立昌 |
特許庁審判長 |
小林 邦雄 |
特許庁審判官 |
田部 元史 東森 秀朋 |
登録日 | 1997-06-13 |
登録番号 | 特許第2661009号(P2661009) |
権利者 | 株式会社豊田中央研究所 豊田合成株式会社 |
発明の名称 | 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子 |
代理人 | 木下 雅晴 |
代理人 | 菊地 精一 |
代理人 | 萬田 正行 |
代理人 | 萬田 正行 |
代理人 | 樋口 武尚 |
代理人 | 樋口 武尚 |
代理人 | 小池 隆彌 |