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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
管理番号 1074969
異議申立番号 異議2002-70190  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-23 
確定日 2003-03-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3192140号「生理用ナプキンまたは失禁防護帯」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3192140号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 1,手続きの経緯
特許第3192140号の請求項1〜12に係る発明についての出願は、平成3年3月26日に特許出願され、平成13年5月25日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人花王株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。

2,特許異議申立てについて

(1)本件発明
本件特許の請求項1〜12に係る発明(以下、それぞれ本件発明1〜12という。)は、特許明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜12に記載されたとおりのものである。

(2)申立ての理由の概要

異議申立人は甲第1〜5号証を提出し、請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第1号証若しくは甲第1及び2号証の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、同法同条第2項の規定に違反してなされたものであって、その特許は、取り消されるべきであるとし、また、請求項1〜12に係る発明は甲第1〜5号証に記載された発明から当業者であれば容易に想到できるものであるから、同法同条第2項の規定に違反してなされたものであって、その特許は、取り消されるべきであると主張している。

(3)申立人が提出した証拠の記載内容の概要

甲第1号証(特開昭61-85943号公報)
使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品及びその物品に使用される吸収構造体に関し以下の記載がある。
a
「弾性繊維の繊維ウェブ、・・・前記ウェブの繊維の間に配置された超吸収剤からなり、そして約50より小さいテイバー剛性値を有することを特徴とする吸収構造体。」(特許請求の範囲第1項)
b
「木材パルプ繊維の層が前記吸収構造体の少なくとも一方の側に配置されている特許請求の範囲第1項記載の吸収構造体。」(特許請求の範囲第3項)
c
「得られる吸収層は、超吸収剤の高い配合量のため、大抵の使用にため剛性であり過ぎ、そのままで、あるいはより高い密度の移送層または吸上げ層を吸収層の上に重ね・・柔軟化できる。」(第4頁左下欄末行〜右下欄5行)
d
「第3図は、・・斜視図である。出発材料30は吸収層32として繊維ウェブを有する。吸収層中に介在および固定されて、超吸収物質36が存在する。吸収層に直ちに関連して、吸上げ層34が存在する。」(第5頁左上欄16行〜右上欄2行)
e
「第4図は、・・・出発材料中の層の関係を詳しく示す。吸収層42は一般に弾性ステープル繊維から作られる。超吸収物質44は、弾性繊維43の間に介在しかつ好ましくは固定されている。吸上げ層48は部分46から構成されており、その一部分は吸収層中に延び込みかつそれと一体化するようになる。」(第5頁右上欄17行〜左下欄5行)
f
「第4A図は圧縮された状態の第4図の構造体を図解し、吸収層42Aが厚さを実質的に減少しておりかつ吸上げ層48Aがまた厚さを減少しているが、吸収層の中にかなり延び込みかつそれと一体化するようになって、転移ゾーン45Aを形成していることを示す。」(第5頁左下欄9〜14行)
g
「第6図は、本発明の吸収構造体を利用する使い捨て溶液60(「使い捨ておむつ」の誤記であると認められる。)を示す。・・・使い捨て溶液60は、液体透過性表材料66および液体不透過性裏材料62を有する。表材料66と裏材料62との間に、吸収構造体64が存在する。この構造体は・・・吸上げ層、転移ゾーン、および吸収層を有する。」(第5頁右下欄10〜18行)
h
「超吸収剤を含有しかつ本発明の吸収構造体のための基本層を形成する繊維ウェブは、実質的に高い弾性(loft)を有し、そして乾式圧縮し、次いで開放すると、実質的にそのもとの厚さに戻る傾向を有する。例えば、合成ステープル繊維、、・・・レーヨンのようなセルロース繊維も使用できる。」(第6頁左下欄9〜18行)
i
「吸上げ層は親水性繊維、例えば、レーヨン繊維・・・またはそれらの混合物から構成される。セルロース繊維は、木材パルプ繊維、綿リンターなどを包含する。木材パルプ繊維は、一般に、従来の吸収製品、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキンなどにおける毛羽または繊維のバットを形成するために使用されるものである。」(第8頁右下欄13行〜第9頁左上欄1行)
j
「第1繊維層と第2層との間の吸引性は、層の相対密度およひ各層中の個々の繊維の相対的湿潤性の両者により影響を受ける。第2層の個々の繊維は、好ましくは、第1繊維層のものよりも実質的に小さい液体繊維接触角を有し、密度の差に打ち勝ち、そして毛管圧力を全体的に有意に増加して液体を第2層中に吸収する。」(第9頁右上欄7〜13行)
k
「第2繊維(粒子)層は、一般に、液体-接触角が小さいか、あるいは層がより細い毛管半径を有する、繊維から構成される。」
(第9頁右上欄17〜19行)
l
「吸上げ層を予備成形し、圧縮前に吸収層に隣接させて配置するか・・・レイイングすることができる。転移ゾーンは吸収層と吸い上げ層の接合部において形成する区域である。・・転移ゾーンにおいて吸収層の繊維、超吸収物質および吸上げ層の粒子の複合体が存在する。吸収層の中に延び込んだ吸上げ層の粒子は、吸収層の超吸収物質の一部分と緊密に接触している。これにより、液体はその移動をz方向に開始して、超吸収物質に到達することができる。液体がz方向に進行するにつれて、超吸収物質は柔軟となり、吸収層の繊維を解放し、こうして吸収層は実質的にその圧縮されない厚さ以上に戻ることができる。」(第9頁左下欄5行〜右下欄5行)

甲第2号証(特開昭49一51049号公報)
吸収体が2層構造となっている使い捨ておむつの構造に関し以下の記載がある。
a
「順次に、幼児の皮膚と接触する繊維状上張層と、高多孔性のゆるくコンパクトされたセルロースパット層と、上記のゆるくコンパクトされたパットと一体になっている紙状のち密な高コンパクト化セルロース繊維状層と・・・ち密化層に接着している不透過性裏張シートとからなる多層おむつによって上記の機能が達成される。」
(第5頁左上欄17行〜右上欄3行)
b
「ち密化繊維状層はゆるくコンパクトしたバットよりも小さな平均孔大きさをもつから、液体がバットからバットの他の区域よりも下のち密化層に優先的に流れる傾向を生じ、そこてバットにおける湿りを適度の大きさの区域に限定する傾向がある。ち密化層に流れた液体は、その灯心作用(Wicking action)のため横にひろがる傾向があり、・・」
(第5頁右上欄7〜14行)
c
「尿がパット本体を通過すると、まず厚いち密化部分19の1つまたはそれ以上と接触し、尿は高密度のためにち密化層18中に強くひかれ、通過する尿量に依存してバットのはるかに大きい帯城を通し横にひろがりまたはパットの端までひろがる。」 (第10頁右下欄1〜5行)

甲第3号証(米国特許第3017304号明細書)
吸収性繊維構造体を開示するものであり、吸収性構造体は、比較的緩く圧縮された多孔性の毛羽体68と、該毛羽体68の下部に位置し且つエンボスによって比較的繊密に圧縮された表皮層69とを有し、且つ表皮層69の幅が毛羽体68の幅よりも小さいことが示されている。

甲第4号証(特開昭)64-49555号公報
生理用ナプキンなどの体液吸収体を開示するものであり、綿状パルブ層が本来有している吸収性に加えて、エンボス加工によって圧縮成型された密度の高い工シボス部内で、面方向への体液の分散を行うものとなることが記載されている。

甲第5号証(特開昭60-75058号公報)
経血を吸収する中心吸収性部材の縦方向端に設けられ、且つ縦方向端から延出する一対のフラップを有する生理用ナプキンが記載されている。

(4)判断

4-1 本件発明1について
本件発明1は請求1に記載のとおりの
「第1液体透過性外側シート(1)と第2液体不透過性外側シート(2)とよりなるケーシング(1,2)内に密閉された吸収パッドで、親水性繊維および超吸収性材料の混合物で構成された第1吸収層(5)とこれに直結された第2吸収層(6)とによって形状が与えられた吸収パッドよりなる吸収性物品において、上記第1吸収層(5)が使用中着用者の方に面する物品の側の液体透過性シート(1)の直ぐ内側に配置され、上記第2吸収性層(6)が上記液体透過性シート(1)に関して上記第1吸収層(5)の向こう側に配置されて高度に圧縮され従って良好な液体展延性を示す液体吸収性繊維材料よりなることを特徴とする吸収性物品。」というものである

4-1-1 特許法第29条第1項3号について
甲第1号証には、繊維ウエブと超吸収物質を含有する吸収層と、木材パルプ繊維の層からなる吸上げ層の両層からなる圧縮された状態の吸収構造体が記載されているが、吸収構造体を構成する吸収層及び吸上げ層のうち、どちらの層が液体透過性表材料の側に対向し、どちらの層が液体不透過性裏材料の側に対向するのかは明記されていない。
しかしながら、摘記事項lの記載からすると、液体の移行順序は吸上げ層、転移ゾーン、吸収層(超吸収物質および繊維)の順となる。
また、甲第1号証の摘記事項cの記載によれば、吸上げ層は吸収層より高い密度を有するものであり、摘記事項jの記載によれば、液体は第1繊維層から密度の差に打ち勝ち第2層中へ吸収されるとされているところ、通常液体はち密度の高い吸収層にむかって流れる(甲第2号証のb、cの記載参照)ものであるから、「密度の差に打ち勝ち」との記載からすると、上記第1繊維層は吸上げ層、第2層は吸収層に対応し、液体は密度の高い吸上げ層から密度の低い吸収層に移行することとなり、上記摘記事項lの記載とも一致する。そうすると、甲第1号証の吸収構造体は、吸上げ層が液体透過性表材料の側に位置するものと解するのが自然である。
なお、甲第1号証に記載の吸収構造体は、第4頁左上欄4行〜右上欄7行の記載によれば、米国における同時継続出願第439963号(審査段階で引用例1として引用された特開昭61-29350号公報に対応する)の吸収層(ポリエステルのような不織布と超吸収性物質から形成される)と吸上げ層(木材パルプ繊維など)からなる圧縮複合体に柔軟性を与える改良を加えた発明であると説明されているところ、上記米国特許明細書には、液体は第2の層(吸上げ層)を伝わって流れ第1の繊維層(超吸収物質を含む繊維層)に移行すること、および一般に吸上げ層が水分透過性表面に一番近く配置されて使用されることが明記されており、上記解釈とも整合する。
そうすると甲第1号証第6図に記載の吸収性物品は、液体透過性外側シートと液体不透過性外側シートとよりなるケーシング内に親水性繊維および超吸収性材料の混合物で構成された吸収層(第1吸収層に相当)とこれに直結された吸上げ層(第2吸収層に相当)とによって形状が与えられた吸収パッドを備えた吸収性物品である点で本件発明1と一致するものの、吸上げ層(第2吸収層)が使用中着用者の方に面する物品の側の液体透過性シートの直ぐ内側に配置され、吸収層(第1吸収性層)が上記液体透過性シートに関して上記第2吸収層の向こう側に配置されている点で相違するものである。
したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

4-1-2 特許法第29条第2項について
上記の通り、甲第1号証の吸収性物品は吸収構造体の配置の点で本件発明1と相違するが、甲第1号証においては、液体は吸上げ層から吸収層へ移行し、吸収層で液体が保持されるものであるから、吸上げ層を液体透過性シート側に位置させることはその機能から見て不可欠のものである。
また、甲第2号証には、高多孔性のゆるくコンパクトされたセルロースパット層と、紙状のち密な高コンパクト化セルロース繊維状層とからなるものであって、セルースパット層が繊維状上張層(液体透過性外側シート)の側に配され、且つち密な高コンパクト化セルロース繊維状層が不透過性裏シート(液体不透過性外側シート)の側に配された使い捨ておむつにおける吸収体が開示されているが、液体透過性外側シート(繊維状上張層)の側に位置するセルロースパット層には、超吸収性材料が含まれていない点で、本件発明1と相違する。
異議申立人は、甲第1号証では吸収層に超吸収物質が使用されているから
甲第2号証の高多孔性のゆるくコンパクト化されたセルロースパット層に超吸収性材料を含有させることは容易である主張とするが、甲第1号証では液体不透過性外側シート側に位置する吸収層に超吸収物質を存在させて液体の保持能力を高めているのに対し、甲第2号証の高多孔性のゆるくコンパクトされたセルロースパット層は、液体吸収後速やかに不透過性シート側に位置する高コンパクト化セルロース繊維状層に液体を移行させる機能を有し、皮膚と接触するおむつの表面から水分を離すものであるから、あえてこのセルロースパット層中に液体保持能力の高い超吸収物質を含有させることは上記機能と相反することとなり、当業者が容易に行うものということはできない。
更に甲第3〜5号証を見ても親水性繊維と超吸収剤を含む第1吸収層を液体透過性シートの直ぐ内側に配置し、高度に圧縮された第2吸収性層を上記液体透過性シートに関して上記第1吸収層の向こう側(液体不透過性シート側)に配置することを動機付けるに足る技術的記載は見あたらない。
そして本件発明1は、上記構成を採用することにより、第2吸収層に入った液が人体接触面側へ戻るのを超吸収物質により阻止し、長時間着用の場合でも乾いた気持ちよい表面を提供するという効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲第1〜5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明できたとすることはできない。

(5) 本件発明2〜12について
本件発明2〜12はいずれも請求項1を引用し、本件発明1の構成のすべてを具備しているから、更に付加された構成について検討するまでもなく、甲第1〜5号証に記載された発明と同一である言うことはできず、また、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとすることもできない。

5、むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜12に係る発明の特許は、特許異議申し立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-28 
出願番号 特願平3-506531
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61F)
P 1 651・ 113- Y (A61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 淳子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 横尾 俊一
深津 弘
登録日 2001-05-25 
登録番号 特許第3192140号(P3192140)
権利者 エスシーエー ハイジーン プロダクツ アーベー
発明の名称 生理用ナプキンまたは失禁防護帯  
代理人 羽鳥 修  
代理人 安達 智  
代理人 安達 光雄  

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