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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) D04B
管理番号 1075655
審判番号 無効2001-35076  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-20 
確定日 2003-01-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2964078号発明「下着用編レース」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2964078号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2964078号の請求項1ないし5に係る発明についての出願からの手続の経緯は次のとおりである。

平成10年03月19日 出願 特願平10 -092383号

平成11年08月13日 設定登録、特許第2964078号

平成13年02月20日 無効審判請求

平成13年05月29日 答弁書・訂正請求書提出

平成13年07月06日 答弁書・訂正書副本送付(弁駁指令)

平成13年09月20日 口頭審理陳述要領書(請求人)

平成13年10月04日 口頭審理陳述要領書(被請求人)

平成13年10月04日 口頭審理・検証・証人尋問

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
平成13年5月29日付け訂正請求書による訂正は、以下の訂正事項(1)ないし(30)のとおりである。
訂正事項:
(1)特許請求の範囲の請求項1における「前記夫々のウエール又は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」を「前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」と訂正する。
(2)特許請求の範囲の請求項1における「編地裏面側で少なくともウエールの一側面に遊離部分を形成する浮かし糸」を「編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸」と訂正する。
(3)特許請求の範囲の請求項1の末尾における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(4)特許請求の範囲の請求項2の冒頭における「請求項1記載の編レース」を「請求項1記載の下着用編レース」と訂正する。
(5)特許請求の範囲の請求項2の末尾における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(6)特許請求の範囲の請求項3の末尾における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(7)特許請求の範囲の請求項4の末尾における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(8)特許請求の範囲の請求項5の末尾における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(9)特許明細書の発明の名称を「編レース」から「下着用編レース」に訂正する。
(10)特許明細書の1頁下から2行(本件公報の2頁3欄3〜4行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(11)特許明細書の1頁末行(本件公報の2頁3欄5行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(12)特許明細書の2頁下から12行(本件公報の2頁3欄27行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(13)特許明細書の2頁下から9行(本件公報の2頁3欄31行)における「本発明編レース」を「本発明下着用編レース」と訂正する。
(14)特許明細書の2頁下から2行〜末行(本件公報の2頁3欄41〜42行)における「前記夫々のウエール又は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」を「前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」と訂正する。
(15)特許明細書の2頁末行〜3頁1行(本件公報の2頁3欄43〜44行)における「編地裏面側で少なくともウエールの一側面に遊離部分を形成する浮かし糸」を「編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸」と訂正する。
(16)特許明細書の3頁下から12行(本件公報の2頁4欄12行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(17)特許明細書の3頁下から7行(本件公報の2頁4欄18行)における「本発明編レース」を「本発明下着用編レース」と訂正する。
(18)特許明細書の3頁下から2行(本件公報の2頁4欄24行)における「裏面側に一側面に遊離されるので、」を「裏面側に両側面に遊離されるので、」と訂正する。
(19)特許明細書の4頁3行(本件公報の2頁4欄29行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(20)特許明細書4頁8行(本件公報2頁4欄34〜35行)における「図1は本発明に係る編レースの1例を示す編組織であり、」を 「図1は本発明に係わる下着用編レースの1例の説明のための図である。この図に示す下着用編レースと本発明の下着用編みレースとはつぎの点で異なる。まず、図においては、浮かし糸3は各ウエールに挿入されているが、本発明では浮かし糸3は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入されることになる。また、図においては、浮かし糸3の遊離部分はウエールの一面側に形成されているが、本発明では浮かし糸3はウエールの両側面に現れることになる。以下において図1に基づいて説明する。」と訂正する。
(21)特許明細書の4頁11行(本件公報の2頁4欄38〜39行)における「各ウエール又は適宜間隔をおいたウエール」を「各ウエール」と訂正する。
(22)特許明細書の6頁12行(本件公報の3頁6欄3〜4行)における「図2は本発明レース編地の第2の例であり、」を「図2は本発明下着用レース編地の第2の例の説明のための図である。ただし、この図に示す下着用レース編地と本発明の下着用レース編地の第2の例とは、図1について前記したのと同様の点で相違している。以下において図2について説明する。」と訂正する。
(23)特許明細書の6頁12行(本件公報の3頁6欄4行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(24)特許明細書の6頁下から5〜4行(本件公報の3頁6欄19行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(25)特許明細書の7頁6行(本件公報の3頁6欄30行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(26)特許明細書の7頁8行(本件公報の3頁6欄33行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(27)特許明細書の7頁12行(本件公報の3頁6欄37行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(28)特許明細書の7頁12行(本件公報の3頁6欄38行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(29)特許明細書の7頁16行(本件公報の3頁6欄41行)における「本発明編レース」を「本発明下着用編レース」と訂正する。
(30)特許明細書の7頁18行(本件公報の3頁6欄43行)における「本発明編レース」を「本発明下着用編レース」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張又は変更の存否
上記訂正事項のうち、(1)ないし(8)の訂正は、「夫々のウエール又は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され」という並列的な記載を「適宜間隔をおいたウエール毎」に、また、「少なくともウエールの一側面に」という記載を「ウエールの両側面に」に訂正するものであり、かつ発明の対象を「編レース」を「下着用編レース」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。訂正事項(9)ないし(30)の訂正は、特許請求の範囲の減縮に伴って発明の詳細な説明の記載を整合させるために訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、上記訂正事項(1)ないし(30)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に選択的に記載された事項の一方に限定するか、例示された事項に限定したものであり、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書、第134条第5項において準用する第126条第2項ないし第3項の規定に適合するので、当該訂正は認められるものである。

3.本件発明
上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】ウエール方向に多数並列し、十数コース乃至数十コース編成した後、隣りのウエールに移行し、十数コース乃至数十コース編成して元のウエールに戻って再び同様に編成し、これを繰り返して隣接ウエール間で十数コース乃至数十コースを単位として横振り編成した地編部と、該地編部の各ウエールに挿入され、隣接するウエール間に透孔を形成するように隣接ウエール間あるいは隣接ウエールを越えて更に隣りのウエール間にわたり一部横振りして編み込まれた挿入糸と、前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離とを繰り返して編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸よりなることを特徴とする下着用編レース。
【請求項2】請求項1記載の下着用編レースの地編部において、各ウエール又は適宜間隔おきのウエールに、該ウエールの各ループにわたって伸縮糸を伸張状態で編み込んだことを特徴とする下着用編レース。
【請求項3】地編部のウエールにおける編成コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、適宜異なるコース数の組み合わせである請求項1又は2記載の下着用編レース。
【請求項4】浮かし糸の編み込みコース数と遊離コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、異なるコース数である請求項2又は3記載の下着用編レース。
【請求項5】地編部を編成する編糸が50デニール以下のフィラメント糸である請求項1〜4の何れかの項に記載の下着用編レース。」

4.当事者の主張及び提出した証拠方法
4-1.請求人の主張の概要
請求人は、平成13年2月20日付け審判請求書、平成13年9月20日付け口頭審理陳述要領書において、「特許第2964078号の請求項1ないし5に係る特許を無効とする。」との審決を求めている。
その理由として、審判請求書において、本件の請求項1ないし5に係る発明は、検甲第1号証の公然と実施をされた発明及び/又は甲第6ないし第12号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定に違反(以下、無効理由という)しており、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであると主張している。

4-2.証拠方法
そして、請求人は、平成13年2月20日付け審判請求書と同時に次の証拠方法を提出している。
《検証物(物証)》
(1)検甲第1号証: 栄レース株式会社製編レース品番314108の編レースの総称
(検甲第1号証は品番314108の編レース品の総称であって、検甲第1号証として単独で呼称した物件の提出はない。個別の検証物としては検甲第1号証の1、検甲第1号証の2及び検甲第1号証の3の1参照。)
(2)検甲第1号証の1:栄レース株式会社製編レース品番314108の編レースのサンプルで平成5年特許願第286329号の出願審査期間中の平成9年10月3日付けで提出した物件提出書に添付の見本(▲1▼本件の見本(裏面に綿糸をパイル糸として備えた編レース))に使用した編レースの残余の製品
(3)検甲第1号証の2:援用する平成5年特許願第286329号(特許第2735783号)の特許庁内の包袋内に入っている平成9年10月3日付けで提出された物件提出書に添付の見本(▲1▼本件の見本(裏面に綿糸をパイル糸として備えた編レース))
(4)検甲第1号証の3:株式会社ファニーが製造販売した C‐TK2766 のタグの付いた女性用ガードル
(5)検甲第1号証の3の1:株式会社ファニーが製造販売した C‐TK2766 のタグの付いた女性用ガードル(検甲第1号証の3)に装飾されていた栄レース株式会社製編レース品番314108の編レースを切取ったレース片
(6)検甲第2号証: 栄レース株式会社製編レース品番214319の編レースを装飾したワコール品番EJ3240LのP‐パンツの総称
(検甲第2号証として単独で呼称した物件の提出はない。個別の検証物としては検甲第2号証の2、検甲第2号証の2A及び検甲第2号証の2B参照。)
(7)検甲第2号証の1: 栄レース株式会社製編レース品番214319の編レースの総称
(検甲第2号証の1として単独て呼称した物件の提出はない。個別の検証物としては検甲第2号証の2の1並びに上記検甲第2号証の2、検甲第2号証の2A及び検甲第2号証の2Bに装飾されている編レース参照。)
(8)検甲第2号証の2: 株式会社ワコール製の品番EJ3240LのP‐パンツ
(8)-1検甲第2号証の2A : 栄レース株式会社製編レース品番214319のレース製品を使用した株式会社ワコールの使用品番EJ3240LのP‐パンツで大阪府立産業技術総合研究所で編組織の分析に用いられた編レースの一部を切取ったP‐パンツ
(8)-2検甲第2号証の2B : 公証人の面前で縫われていた編レースの一部を切取ったワコールの品番EJ3240LのP‐パンツ
(9)検甲第2号証の2の1:株式会社ワコール製の品番 EJ3240L のP‐パンツに装飾されている栄レース株式会社製編レース品番214319の編レース

《書証》
(1)甲第1号証の1: 北村修一郎国際特許事務所所員 東邦彦の陳述書(口頭審理で参考資料とされた)
(2)甲第1号証の2: 栄レース株式会社取締役工場長 本谷康彦の陳述書
(3)甲第1号証の3: 株式会社アイリス社員 田中常夫の陳述書
(4)甲第1号証の4: 株式会社ファニー社長 菅佐原勇の陳述書(口頭審理で参考資料とされた)
(5)甲第1号証の5: 栄レース株式会社製編レース品番314108号の設計図
(6)甲第1号証の6: 検甲第1号証の1の編レースによる大阪府立産業技術総合研究所の編組織分析の試験報告書
(7)甲第1号証の7: 北村修一郎国際特許事務所所員 中森繁雄の陳述書(口頭審理で参考資料とされた)
(8)甲第1号証の8: 福井県工業技術センターからのファックスによる編レースの組織分析依頼についての組織図を示す書面
(9)甲第1号証の8の1: 品番314108及びC‐TK2766 の「地部」の組織図No.1
(10)甲第1号証の8の2: 品番314108及び C‐TK2766のひし形メッシュ部の組織図No.2
(11)甲第1号証の9: 平成拾弐年第417号 編レース組織解析標本の切取り・封入発送に関する事実実験公正証書
(12)甲第1号証の10: 2000年10月6日の福井県工業技術センターへの問合せの電子メール写し
(13)甲第1号証の11: 甲第1号証の10の問合せに対する同日付け福井県工業技術センターからの返信メ一ル写し
(14)甲第1号証の12: 特許第2735783号公報
(15)甲第1号証の13: 平成5年特許願第286329号(特許第2735783号)の特許庁保存の出願の包袋内にある見本・ひな形指示メモを撮影した写真
(16)甲第1号証の14: 上記包袋内にある見本「▲1▼本件の見本(裏面に綿糸をパイル糸として備えた編レース)」を撮影した写真
(17)甲第1号証の15: 上記包袋内にある見本「▲1▼本件の見本(裏面に綿糸をパイル糸として備えた編レース)」の実物大コピー
なお、(14)〜(17)の甲各号証は口頭審理で取り下げられた。
(18)甲第2号証の1: 栄レース株式会社製編レース品番214319号の設計図
(19)甲第2号証の2: 検甲第2号証の1の編レースの大阪府立産業技術総合研究所による編組織分析の試験報告書
(20)甲第2号証の3: 福井県工業技術センターに依頼したワコール製P‐パ ンツEJ3240Lに装飾していた編レースの組織図
(21)甲第3号証: 特開平7-54247号公報
(22)甲第4号証: 特開昭60-65162号公報
(23)甲第5号証: 特開平7-126967号公報
(24)甲第6号証: 特開昭57-501967号公報
(25)甲第7号証: 英国特許第1410757号明細書
(26)甲第7号証の1:甲第7号証の訳文
(27)甲第8号証: EP0033605号明細書
(28)甲第8号証の1:甲第8号証の訳文
(29)甲第9号証: 実願昭60-88131号(実開昭61-202479号)のマイクロフィルム
(30)甲第10号証:米国特許第3106079号明細書
(31)甲第10号証の1:甲第10号証の訳文
(32)甲第11号証:実願昭55-39344号(実開昭56-143292号)のマイクロフィルム
(33)甲第12号証: 特開昭63-112759号公報
(34)甲第13号証:フランス国特許第1262443号公報
なお、(34)甲号証は口頭審理で取り下げられた。
(35)参考資料1: 1991年11月15日株式会社岩波書店発行の広辞苑第四版の表紙、第1363頁および奥付
(36)参考資料2: 株式会社講談社発行の日本語大辞典の表紙、第1026頁および奥付
(37)参考資料3: 株式会社講談社発行の日本語大辞典の表紙、第1362頁および奥付
(38)参考資料4: 株式会社小学館発行の国語大辞典の表紙、第1034頁および奥付
なお、口頭審理の場において、被請求人は、甲第1号証の8、甲第1号証の8の1、甲第1号証の8の2、甲第1号証の10及び甲第1号証の11の書証としての成立性を争うとし、請求人側が原本提出を約束した証拠方法である甲第1号証の8、甲第1号証の8の1、甲第1号証の8の2、甲第1号証の10及び甲第1号証の11の原本提出を待って、当該書証が成立しない理由を記載した文書を提出すると主張したが、原本が提出された後、所定期間の30日を経過し、年末年始を間に挟むことも考慮して更に30日程度待つなど、十分な期間を設定し、応答を待った後、電話で督促したものの、その後も、被請求人からは何らの文書の提出も電話連絡もなく、今日に至っており、上記1.の手続の経緯から、書証の成立性を争うとした被請求人の主張には根拠がなく、上記甲第1号証の8、甲第1号証の8の1、甲第1号証の8の2、甲第1号証の10及び甲第1号証の11の書証としての成立を争う意思がないものと判断した。
(当審注:丸囲み数字は、表記上の都合により、▲▼付き数字で表現した。)

《人証》
証人 本谷康彦
証人 田中常夫

4-3.被請求人の主張
被請求人は、平成13年5月29日付け答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない」との審決を求めている。
その理由として、被請求人は、訂正請求書により、本件発明は下着用編レースに限定され、かつ訂正後の請求項1に係る発明の(1)ウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、(2)編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸の構成を併有した点は、検甲第1号証及び検甲第2号証の1、甲第3ないし第12号証のいずれにも、示されていないから、本件の訂正後の請求項1ないし5に係る発明は、検甲各号証並びに甲各号証から容易に発明することができたものとすることはできない旨主張している。

5.証拠の内容
5-1.検証物について
検甲第1号証の1:栄レース製編レース品番314108の編レースのサンプル(以下、「品番314108編レース見本」という。)、検甲第1号証の2:援用する平成5年特許願第286329号(特許第2735783号)の特許庁内の包袋内に入っている平成9年10月3日付けで提出された物件提出書に添付の編レースの見本(以下、「物件提出編レース見本」という。)、及び検甲第1号証の3:株式会社ファニーが製造販売したC‐TK2766のタグの付いた女性用ガードルに装飾されていた編レースを切取ったレース片(以下、「女性用ガードル編レース片」という。)は、平成13年10月4日に審判廷において当事者立ち会いによる検証を行った結果、「品番314108編レース見本」、「物件提出編レース見本」及び「女性用ガードル編レース片」の全ての編レース片は、特願平5-286329号に対する拒絶理由通知に応答するため平成9年10月3日付けで特許庁に提出され、同月6日に受け入れられた物件提出書に添付された見本と同じものであることが確認された。また、被請求人もこの点について認めている。

5-2.人証について
平成13年10月4日に特許庁審判廷において実施した証人尋問における、証人 本谷康彦 並びに証人 田中常夫の陳述の要領は、証人尋問調書に記載のとおりであり、概略以下の点を証言した。
5-2-1.証人 栄レース株式会社(以下、「栄レース」という)取締役工場長本谷康彦の証言
・昭和60年11月に栄レースに入社し生産現場を経たあと、昭和62年から開発、製品開発業務に携わり、現在の職責は取締役工場長で、甲第3号証の公開特許公報、特許公報では甲第1号証の10に対応する発明の発明者は証人本谷であること。

<栄レース社製の編レース品番314108の構成について>
・甲第1号証の2に添付された資料1-6は、栄レース社製編レースの品番314108の設計図で、この設計図は、97年の4月に製作されたこと。
・栄レース内では、設計図をこの品番を基に管理しており、品番314108で特定される編レースの構造は唯一これだけであること。
・栄レースの品番314108で特定される編レースの地編を構成するチェーンステッチの糸の走りは、設計図によると、
縦糸は左右にこう動いてるっていう表現はこれ全体的にはされていないこと。縦糸の動きが11行って左が3番から2番に変わって、2番で13きまして今度また3番に戻って11、13と繰返されること。
縦糸は縦にずっと走っており、これであれば、ばらばらになりますので、それを渡っているネットを構成しているのが横糸で、図面には表現はされていないこと。
本件の浮かし糸もその縦糸に沿って挿入されているものであるが、チェーンステッチ全部に縦糸が挿入され、どのチェーンステッチをとっても、一回チェーンステッチの中に編込まれていること、それから数コースその編込みから外して遊離させてまた戻る、またかかる、というようなことを繰返して全面に渡って行われていること。全面に渡って同じことを繰返すので設計図には表記はしないこと。
伸縮糸について、同じくチェーンステッチに毎コース挿入されてる糸であり、ゴム性を出すレースを作る為に使われるもので、チェーンステッチが縦にでき、それに毎コースごとに入っているので、図面に表記されていないこと。
・品番314108で特定される編レースの地組織の糸のデニール数は、35デニールであること。
・品番314108で特定される編レースを97年8月にアイリス株式会社に販売したこと。
・株式会社アイリスに対して販売した事を裏付ける資料は、甲第1号証の2に添付してある、資料1の1、1の2、1の3、1の4-1、1の4-2、資料1の4-1であり、複写物しかないこと。資料1の4-2は二枚を切り貼りして一枚に合わせて複写しており、それぞれの要部が複写物に記載されていること。
・資料1の1は栄レース株式会社が株式会社アイリスに対して、1997年8月22日に品番314108を出荷した出荷伝票で、品番とロットナンバー、レースの種類、色、反数及び数量が記載されていること。
・資料1の2は、株式会社アイリスに対しての納品伝票で、左の項目から入日記、月日、品番、ロットナンバーがあり、品番の5行目に314108の品番が記載されており、発行された日は1997年8月25日であること。
・資料1の3は、品番314108が特定顧客に販売された出荷メーターの総メーター数で、資料1の3の左上の方に数字が2000.10.04/16書いてあるのは、書類の発行日、二段目に品番、納品月とあって、1997年8月にアイリスに4,133.5メーター出荷したこと。資料1の3に示すようなデータは栄レース内では、帳票ではなく、コンピューターに全部保管されており、随時出力すること。
・品番314108は株式会社ファニーに製品を提案しており、販売のルートとしてアイリスがその間に入って、商社的な役割を果たしていること。
・ファニーはこの品番でフジサンケイのテレフォンショッピング用ガードルを作り、レースは、そのガードルのウェスト部分に使われていること。
97年9月の5日にテレフォンショップがあり、それと同時にチラシが同時に出されたこと。
・検甲第1号の3が、本件無効審判で特許庁に証拠として提出した物で、その当時、フジサンケイリビングで購入した女性用ガードルに相違ないこと。
・検甲1号証の2は、95年頃、当社栄レースのマグノリアという特許を申請した時に、拒絶理由に対する補正の際に提出したサンプルで、品番314108、通常の編レースで裏にそのパイルを出すもの。

<品番214319について>
・甲第2号証の1は、製品の214319の設計図で97年3月ころに作成し、この品番で管理し、品番214319で特定される編レースの構造は唯一これだけでであること。
・品番214319は地編部を構成するチェーンステッチは、縦糸が存在し、その一本をとらまえると11コースチェーンステッチを作った後、隣にループが移行し、さらにそこから11コースループを作り、さらに、その元に戻るというチェーンステッチの繰返しをしていること。
浮かし糸は、図面には明記されておらず、毎ウェールに挿入され、その糸が1コースニッティングされた後3コース遊離して、チェーンステッチから飛び出し、さらに1コースまたニッティングされ、また3コース遊離されるという繰返したものが全面に存在すること。
伸縮糸も毎コース挿入され、フローティングなしで毎コースチェーンステッチ中に挿入され、全コースに存在すること。
地組織のデニール数は35デニールで、糸使い票にそのデニール数が明記されること。
・資料2の11は、品番214319の生産実績を表した台帳で、編織、97年9月20日に反番2001番のAという反物が、50メーター存在していて、50メーターの一反、15本、750メーターのレース、略語PKC2の糸使いで生産したという実績が示されていること。
・資料の2の12が、214319のPKC2は、チェーンステッチの太さがプロミランのナイロンで35デニールを表示していること。
・資料2-1.は、品番214319が、1997年9月から2000年7月までの株式会社ワコールウイング事業部に出荷されたメータ数の累計であること
・97年10月28日の伝票(資料2-2)には、品番214319が使用される製品の品番がEJ3240Lで、製品がP-パンツ(検甲第2号証の2)、伝票のナンバー;6752は支払明細書(資料2-3)中に記載があり、明細書と伝票が一致していること。
・設計図は主に柄糸の動きの結果を表現するもので、製品が編成されることを意味し、設計図中に浮かし糸が現れていないのは、品番314108、214319は固定品番であり、浮かし糸が必ず入るものなので記入していないこと。写真(資料1-6)は、L1トラバースを分かりやすくするため浮かし糸を除いて撮ったものであること。
さらに、甲第1号証の2の当社取締役工場長本谷康彦の陳述書、および同陳述書に添付の、
資料1‐1・・・1997.08.22付け栄レース株式会社発行の出荷案内書番号No.57505及びNo.57506の(株)アイリスレースDIV殿向け出荷案内書、
資料1‐2・・・1997.08.25 付け栄レース株式会社発行の納品伝票番号No.10003及びNo.1510004の(株)アイリスレースDIV殿向け納品伝票、
資料1‐3・・・栄レース株式会社の品番314108の編レースの1997年8月〜2000年8月の月別出荷納品統計累積ファイルを用いて販売した事実について言及した。

(ii)株式会社アイリスの社員田中常夫の証言
証人は、概略、以下のように証言した。
・平成9年3月に株式会社アイリスに入社し、平成12年10月までレースの営業販売員として、営業の業務をしていること。
・アイリス株式会社はレース地のレースの卸をしている会社で、栄レース株式会社から品番314108の編レースを購入したこと。
・資料3がコンピューター出力の仕入れリストであって、仕入れ伝票ナンバーが151003に基づいて、97年の8月28日に仕入れ、仕入れた商品は、栄レースのレース品番314108、ダークブラウンラッセルナローレースで、仕入れた数量は、852.00メーターであること。
・資料4;アイリス株式会社より栄レースの商品を株式会社ファニーに売ったもので、摘要っていう欄の下の314108が品番であり、栄レースで加工した商品はD、アイリス株式会社の方で加工したものはSと付記していること、アイリスが株式会社ファニーに対して販売した数量と販売日は、97年8月29日であること。
・株式会社ファニーはフジサンケイリビングに下着、ガードル;総レースのガードルを企画販売している会社で、テレビショッピングのコーナーで、平成9年9月5日(証言では、平成9年9月2日と答えているが、資料4、5の新聞広告記事から平成9年9月5日であることは明らかであり、平成9年9月5日の錯誤と認められる。)にテレビで放映されたこと。
・そのテレビ放映の時がその日に行われたという事を裏付ける資料として、菅佐原の陳述書に添付された資料4、5として提出した、図書館に保存されている平成9年9月5日付けサンケイ新聞の朝刊から複写した、下段広告に記載された内容でフジテレビのテレビショッピングが行われた。

6.当審の判断
6-1.検証物;検甲第1号証 品番314108編レース(検甲第1号証の1ないし3の総称)の公知性について
上記5-1.で記載したように、検証の結果、品番314108編レース見本、物件提出編レース見本、及び女性用ガードル編レース片(検甲第1号証の1ないし3)は、全ての同じ編レースであることが確認された。そして、検甲第1号証の1として提出された編レースは、平成9年10月6日に特許庁に受け入れられ、閲覧可能となり、平成9年11月26日に閲覧されていることから、遅くとも平成9年11月26日には公知となったと認められる。したがって、検証物である品番314108編レース見本、女性用ガードル編レース片は本件発明の出願日前公知となったと認められる。

6-2.検証物の編レースの編組織構造について
平成13年10月4日付けの口頭審理、甲第1号証の2及び証人本谷康彦の証言、甲第1号証の5、6、成立に争いのない甲第1号証の8〜8の2、甲第1号証の9〜甲第1号証の11、及び検甲第1号証の1から明らかなとおり、品番314108編レースの編組織構造については、チェーンステッチを構成する糸は各ウエール毎に設けられていて、11コースと13コース毎に交互に横振りし、隣のウエールへの移行と復帰をくり返していること、挿入糸はチェーンステッチに編み込まれた各ウエールに挿入され、隣接するウエール間に透孔を形成するように隣接ウエール間あるいは一部隣接ウエールを越えて更に隣のウエール間に渡り一部横振りして編み込まれていること、浮かし糸は、ウエール毎に挿入され、1コースの編み込みと、複数コース(3コース)遊離とを繰り返して、編地裏面側でウエールの一側面に遊離部を形成していること、伸縮糸は各ウエールの各ループにわたって編み込まれていることからなる編レース構造となっているものと認められる。

6-3.検証物編レースの公然実施について
甲第1号証の2及び証人本谷康彦の証言、甲第1号証の3及び証人田中常夫の証言によれば、検証物である品番314108編レースは、その品番により栄レース株式会社(以下、「栄レース」という。)において過去から現在まで同一性を保った編レース製品を意味すること、栄レースの1997.8.22付け出荷案内書あるいは1997.8.25付け納品伝票(納入者控)により、栄レースは、品番314108 色ピンクXPIを出荷したこと、株式会社アイリス(以下、「アイリス」という。)の、97年8月20日〜97年8月31日仕入リスト出力帳票により、アイリスは、97/8/28、314108 ピンクラッセルナローレースを栄レースより仕入れたこと、アイリスは、97/08/29売上明細目録帳票及び田中常夫の証言により該品番314108編レースを97/08/29に株式会社ファニー(以下、「ファニー」という。)に販売したこと、ファニーは、フジサンケイリビングに下着、ガードル;総レースのガードルを企画販売している会社であること、本谷康彦の証言及び’97.9.5付けサンケイ新聞広告及び証人田中常夫の証言により、品番314108編レースは、テレビショッピングで販売する女性用ガードル(検甲第1号証の3)に使用され、該女性用ガードルがテレビショッピングにより1997年9月5日には既に日本国内において広く販売されていたことが認められる。
以上のことから、品番314108編レースが、下着用編レースとして本件特許発明の出願前に公然と実施されていたものと認められる。

6-4.刊行物の記載事項について
刊行物1:実願昭55-39344号(実開昭56-143292号)のマイクロフィルム(甲第11号証)
ア.「1.天然繊維糸、化学繊維等の地編糸を数コース毎に片隣り側ウエールに交互に編成してなる経編地編部に、吸湿性を有する糸を該地編部の地組織の内側においてウエール方向に数コース毎にウエールを横切つて挿入し、地組織のウエールに絡みついた部分と、数コースの遊離した部分とを形成すると共に、更にその裏面側でウエール方向に数コース絡み、次に隣接するウエールに1乃至数コース絡みつけて伸縮性糸を挿入編成し、編地表面に吸湿性糸をパイル状に現わすと共に、縦横両方向の伸度を保持するようにしたことを特徴とする表裏異層の伸縮性経編地。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
イ.「(1)は地編糸で天然又は化学繊維糸等からなり地組織を編成する地糸として各ウエールにおいて数コース毎、図では3コース毎であるが、片隣りのウエールに交互に編成されて地編部を構成しており、又、(2)は吸湿性を有する糸で、前記地組織の内側に各ウエール毎に経方向に挿入され、夫々数コース毎に、図では3コース毎にウエールを交互に横切つて編み込まれ地編部の組織ループに絡みついた部分(a)と数コース(3コース)遊離した部分(b)とを作つており、更にその裏面側において伸縮性糸(3)が各ウエールにおいて夫々ウエール方向に数コース、図では2コース絡み、次に隣接するウエールに1乃至数コース絡みつけ、再び元のウエールに戻って数コース(2コース)編成した後、前記絡みつけたウエールとは反対側の隣接ウエールに1乃至数コース絡みつけ、この繰り返しによつて一連の編成がなされている。」(明細書第3頁7行〜第4頁4行、第1図)
ウ.「本考案経編地は、これをボディースーツ、ガードルを始めフアンデーシヨン生地として使用し、適宜、縫製するが、吸湿性糸のパイルが現われた表面側(A)を裏面側に利用するときはフアンデーシヨンに吸湿性を付与し、パイルの肌触りを着用者に付与すると共に選定した地編糸の密な組織が表面側となってフアンデーシヨン外面の外観を良好ならしめることになり、一方、地組織部をフアンデーシヨン裏面として使用するときは地編糸の肌触りの滑らかさと共に、表面側のパイル状外観によつて表面にソフトな感じを付与し、全く異質の感じを与えることができる。」(明細書第5頁7〜18行)
刊行物2 特開昭60-65162号公報(甲第4号証):
エ.「ほつれにくい経編レース地に関し、特に大きさの異なるネット目が自由に形成可能な素地よりなるレース地において前記素地がほつれにくい組織に形成された経編レース地に関する」(第1頁下右欄第12〜16行)
オ.レース地(10)の素地(11)は、ウエール(W1)(W2)・・・を形成する経糸(11)(12)・・・と、任意のコースにおいて前記ウエール(W1)(W2)・・・間に渡され前記コース以外のコースにおいてはウエール(W1)(W2)・・・に編込まれる経糸(21)(22)・・・とにより編成されるとともに、・・・(中略)・・・任意のコース(C2)(C5)において前記側端(12)とは反対側に隣接するウエール(W2)(W3)・・・へ移行してそのウエール(W2)(W3)・・・のループ(l1)を形成し、その後、任意のコース(C4)(C6)において前記ウエール(W2)(W3)・・・から元のウエール(W1)(W2)・・・へ戻ってそのウエ-ル(W1)(W2)・・・のループ(l1)を形成する編成を繰返し、・・・(中略)・・・ほつれにくい経編レース地。」(特許請求の範囲)
カ.「(10)は経編編成された細幅レース地で、その素地(11)は経糸(11)(12)・・・と経糸(21)(22)・・・とにより編成される。すなわち経糸(11)(12)・・・はそれぞれのウエール(W1)(W2)・・・のループ(l1)をコース(C1)まで形成し、それに続く次のコース(C2)では素地(11)の一方の側端(12)側とは反対側に隣接するウエール(W2)(W3)・・・へ移行してそのウエール(W2)(W3)・・・のループ(l1)をコース(C3)まで形成し、その後、それに続く次のコース(C4)において上記ウエール(W2)(W3)・・・から元のウエール(W1)(W2)・・・へ戻ってそのウエール(W1)(W2)・・・のループ(l1)を形成する編成を繰返しており、そのため側端(12)のウエール(W1)におけるコース(C2)からコース(C3)までの部分(a)は経糸(11)のループ(l1)が欠如している。」(第3頁上左欄8行〜同頁上右欄3行)
刊行物3:特開昭63-112759号公報(甲第12号証)
地組織のたて糸を横振りさせることと糸のデニール数について
キ.「[1]ウエール方向の多数本の鎖編と、そのニードルループとループの脚との間に挿入されて上記のウエール間を往復する地糸挿入糸とによって地組織を構成したたて編レース地において、上記の鎖編が1本のウエールのみを編成する第1たて糸と、複数のウエール間を往復し、各ウエールで複数コースずつ交互に編成する30デニール以下の細い第2たて糸とによって二重に形成されていることを特徴とするたて編レース地。」(特許請求の範囲第1項)
ク.「[5]第2たて糸が隣接する各ウエールで4〜20コースずつ鎖編を形成する特許請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載のたて編レース地。」(特許請求の範囲第5項)

6-5.特許法第29条第2項について
請求人は、無効理由の具体的理由として、検甲第1号証の公然実施された品番314108編レースと甲各号証から容易に発明できたと主張するので、この点について検討する。

6-5-1.本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と前記認定の通り、公然実施された品番314108編レースとを対比すると、公然実施された品番314108編レースは、上記6-2.に記載した編組織構造し、上記6-3.に記載したように下着用編レースとされたものであるから、両者は、「ウエール方向に多数並列し、11コース編成した後、隣りのウエールに移行し、13コース編成して元のウエールに戻って再び同様に編成し、これを繰り返して隣接ウエール間で11コース乃至13コースを単位として横振り編成した地編部と、該地編部の各ウエールに挿入され、隣接するウエール間に透孔を形成するように隣接ウエール間あるいは隣接ウエールを越えて更に隣りのウエール間にわたり一部横振りして編み込まれた挿入糸と、前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、1コースの編み込みと、2コースの遊離とを繰り返して編地裏面側でウエールの側面に遊離部分を形成する浮かし糸よりなることを特徴とする下着用編レース」である点で一致し、
(1)浮かし糸が、本件請求項1に係る発明では、適宜間隔をおいたウエール毎に挿入されるのに対し、公然実施された品番314108編レースではウエール毎に挿入されている点
(2)編地裏面側で浮かし糸が、本件請求項1に係る発明では、ウエールの両側面に遊離部分を形成したのに対し、公然実施された品番314108編レースでは、ウエールの片側面に遊離部分を形成した点
で相違している。
6-5-1-1.相違点(2)について
刊行物1には、摘示事項ア.〜ウ.の記載から、下着用編地において、肌触りをソフトにするためウエールに遊離する部分を形成したものが記載されており、かつ、特に、摘示事項イ.の「(2)は吸湿性を有する糸で、前記地組織の内側に各ウエール毎に経方向に挿入され、夫々数コース毎に、図では3コース毎にウエールを交互に横切つて編み込まれ地編部の組織ループに絡みついた部分(a)と数コース(3コース)遊離した部分(b)とを作つており、」との記載から明らかなように、遊離する部分はウエールの両側に形成されている。このように、「ウエールの両面側に遊離部分を設けるように編成する」ことは公知の技術と認められるから、公然実施された品番314108編レースにおける浮かし糸を、相違点(2)のようにウエールの両側面に遊離部分を設けるように編成し、相違点(2)のようにすることは、当業者ならば格別の創意工夫も要することなく、容易になし得たものと認める。
6-5-1-2.相違点(1)について
本件請求項1に係る発明では、浮かし糸は「適宜間隔をおいたウエール毎に挿入される」とされているところ、この「適宜間隔」とは、どのような間隔をいうのか特許請求の範囲の記載からは明確でない。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、実施例として具体的に記載されているものではなく、単に、請求項において適宜間隔をおいて挿入してもよいこと及び、本件特許明細書第5欄29〜35行、特に、34〜35行には、「この場合、(浮かし糸の)挿入は各ウエールに行ってもよく、また適宜定間隔又は不定間隔をおいて挿入してもよい。」(括弧は当審で補足した)と記載されており、その間隔がどの程度かで両当事者間に解釈に相違はあるが、概略、浮かし糸が編み込まれて存在するウエールと、浮かし糸が編み込まれていないウエールとが存在する編構造である点では、当事者間に争いがないものと認められる。
そこで、「適宜間隔」の程度についてさらに検討すると、この記載に従って解釈すれば、ある間隔(編レース地全体を見たとき、全体ウエールに対して一定間隔であるものに限定されない)に位置するウエール毎に浮かし糸が挿入されているものと認められ、その間隔は、本件特許発明においては下着の裏面にループ状のパイル部を形成するもので、その形成されるループ状パイルが「下着に要求される肌触りのよさを損なわない程度の間隔」をいうものと解される。
そうすると、公然実施された品番314108編レース及び刊行物1も共に、肌触りをよくする等のために全てのウエールに浮かし糸をループ状パイルを形成するように編み込んだものであるから、そのようにウエール毎に浮かし糸を配してループ状パイルを全てのウエールに形成するのではなく、肌触り等が悪くならない程度に浮かし糸をウエールに適宜間隔を空けて配するようなことは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
被請求人は、本件特許発明は、相違点(1)のように浮かし糸を配することで、肌触りをよくしたり、編地の外観を良好にし且つ変化を与えることとなるという効果とともに、答弁書において、浮かし糸の使用の問題点として「多量の浮かし糸を消費するのでコストが大きい、他の糸と接触して毛羽が絡み合い、編成が困難、浮かし糸が綿糸であるときには、多量の風綿(糸くず)が発生し環境を悪化する」(答弁書第3頁12〜18行)、「浮かし糸の前記のような効果からすれば、これをできるだけ多く、すなわち編レースの広い面積にわたって挿入することが好ましい。すなわち、浮かし糸を挿入しないウエールがあると、そこにおいて筋目が目視されて編地の外観上好ましくなく、また、浮かし糸が存在しないウエ-ルにおいては浮かし糸による肌触りの良さや吸湿性、吸汗性などの効果が十分ではなく、編地全体としては浮かし糸の効果が充分に発揮されない製品となるからである。・・・浮かし糸を多用することの弊害を除きつつ、浮かし糸の持つ有用性も充分に発揮させ得たものである。」(答弁書第3頁19〜27行)と主張するが、特許明細書には「・・・浮かし糸は1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離の繰り返しで裏面側に一側面に遊離されるので、透孔の部分から表面に顕出されにくく、外観が良好であると共に、浮かし糸によって肌触りがよくなる。更に、・・・あるいは浮かし糸の編み込みコース数と、遊離コース数の変化による編地外観の変化が得られ、多様な編レースを得ることができる。」(段落9)、「なお、この浮かし糸は肌に接するため、柔らかみがある糸が好まし、例えば吸湿性、吸汗性に優れた綿糸や改良レーヨンの使用が好適である。・・・」(段落17)と記載され、前記被請求人の浮かし糸についての効果の主張は、特許明細書に記載のない効果又は請求項に記載された発明特定事項に基づいた効果の主張ではない。また、仮に、本件特許明細書又は発明特定事項に基づくものであると仮定しても、何れの効果も当業者ならば設計上当然に考慮している範囲内のもので、格別顕著なものではないから、被請求人の主張は採用することができない。

6-5-2.本件特許発明2について
請求項2に係る発明は、本件特許発明1の発明特定事項に、さらに「ウエールの各ループにわたって伸縮糸を伸張状態で編み込んだものであるが、前記「6-2.検証物の編レースの編組織構造について」の項で記載したように公然実施された品番314108編レースも同様に伸縮糸を伸張状態で編み込んだものであるから、この点において両者に差異はない。

6-5-3.本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2の発明特定事項にさらに「地編部のウエールにおける編成コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、適宜異なるコース数の組み合わせ」たものであるが、前記「6-2.検証物の編レースの編組織構造について」の項で記載したようにチェ-ンステッチの編み目構成として13コースと11コースに交互に編成されている公然実施された品番314108編レースでは、他のウエールとの間で異なるコース数としたことが示されている。また、刊行物2では、同一ウエールで異なるコース数としたものが記載されている。
してみると、地編部のウエールの編み方として、編地の解れ防止の手段として、本件特許発明3のように地編部のウエールにおける編コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、適宜異なるコース数の組み合わせとするようなことは当業者が必要に応じて適宜採用しなし得ることであって、格別のことと認めることはできない。

6-5-4.本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明2又は3の発明特定事項にさらに「浮かし糸の編み込みコース数と遊離コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、異なるコース数」としたものであるが、公然実施された品番314108編レースでは、前記「6-2.検証物の編レースの編組織構造について」の項で記載したように浮かし糸の編み込みコース数と遊離コース数は同一ウエール及び他のウエールで同じであるから、本件特許発明4と相違する。しかしながら、編み込みコース数と遊離コース数は浮かし糸により形成されるループの大きさを変えるものであり、肌触りに関係してくるものであり、下着用編レースにおいて感触を変化させようとするならば当然に考慮される事項であるから、浮かし糸の編み込みコース数と遊離コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、異なるコース数とすることは当業者が必要に応じて適宜なし得たことと認められる。

6-5-5.本件特許発明5について
本件特許発明5は、本件特許発明1ないし4の発明特定事項に、さらに「地編部を編成する編糸が50デニール以下のフィラメント糸であること」を特定したものであるが、公然実施された品番314108編レースは、証人本谷康彦が、「品番314108で特定される編レース、地組織の糸のデニール数は、35デニール。」と証言したこと、同じような編レースについて記載した刊行物3には、地編部の編糸として30デニール以下の編糸を用いることが開示されていることから、編糸として50デニール以下のフィラメント糸を用いることは当業者にとって格別困難なこととは認められない。

6-5-6.特許法第29条第2項違反のむすび
以上のとおり、本件特許発明1ないし5は、本出願前に公然実施をされた下着用編レースに係る発明及び上記各刊行物に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

7.むすび
したがって、本件の請求項1ないし請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
下着用編レース
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ウエール方向に多数並列し、十数コース乃至数十コース編成した後、隣りのウエールに移行し、十数コース乃至数十コース編成して元のウエールに戻って再び同様に編成し、これを繰り返して隣接ウエール間で十数コース乃至数十コースを単位として横振り編成した地編部と、該地編部の各ウエールに挿入され、隣接するウエール間に透孔を形成するように隣接ウエール間あるいは隣接ウエールを越えて更に隣りのウエール間にわたり一部横振りして編み込まれた挿入糸と、前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離とを繰り返して編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸よりなることを特徴とする下着用編レース。
【請求項2】 請求項1記載の下着用編レースの地編部において、各ウエール又は適宜間隔おきのウエールに、該ウエールの各ループにわたって伸縮糸を伸張状態で編み込んだことを特徴とする下着用編レース。
【請求項3】 地編部のウエールにおける編成コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、適宜異なるコース数の組み合わせである請求項1又は2記載の下着用編レース。
【請求項4】 浮かし糸の編み込みコース数と遊離コース数が同一ウエール又は/及び他のウエールとの間で一定でなく、異なるコース数である請求項2又は3記載の下着用編レース。
【請求項5】 地編部を編成する編糸が50デニール以下のフィラメント糸である請求項1〜4の何れかの項に記載の下着用編レース。
【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
本発明は透孔を有する下着用編レースに係り、特にほつれが発生せず、裏面の浮かし糸が透孔部分より表面に顕出されにくい上記下着用編レースに関するものである。
【従来の技術】
編レースは女性の下着などに広く用いられていて、各種組織、形状のものが数多く提供されており、特開平7-54247号ではチェーンステッチに編まれたウエールを緯糸で適宜連結して所定形状の透孔を形成し、同一の前記ウエールの一側面側に一部突出する状態でパイル糸を編み込むと共にウエールの各ループにわたって伸縮糸を編み込んだ編レースが提案されている。
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記編レースはチェーンステッチに編まれたウエールが夫々ウエール方向に個別に各独立して並列されていて緯方向には緯糸のみで連結されているため、ほつれが発生し易く、特に起毛工程など後工程ではランが発生し易い懸念を有している。
そこで、本発明は上記問題に対処し、特にチェーンステッチによる地編部の構成に着目して、隣りのウエールとの間で十数コース乃至数十コースの往復移行を行うことにより、地編部を編組織として編糸の移行によりほつれの発生の起こり難い下着用編レースを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
即ち、上記目的に適合する本発明下着用編レースの特徴は、先ず、ウエール方向に多数並列し、十数コース乃至数十コース編成した後、隣りのウエールに移行し、十数コース乃至数十コース編成して元のウエールに戻って再び同様に編成し、これを繰り返して隣接ウエール間で十数コース乃至数十コースを単位として横振り編成することによって地編部を構成せしめることを基本として、これに該地編部の各ウエールに挿入され、隣接するウエール間に透孔を形成するように隣接ウエール間あるいは隣接ウエールを越えて更に隣りのウエール間にわたり一部横振りして編み込まれた挿入糸と、前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離とを繰り返して編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸を具備せしめたことにある。
また、第2の構成は、上記構成に更に伸縮糸を付加し、該伸縮糸を地編部の各ウエール又は適宜間隔おきのウエールに該ウエールの各ループにわたって伸張状態で編み込んだ構成にある。そして、上記何れの構成においても地編部のウエールにおける編成コース数は同一のウエールにおいても必らずしも一定でなく異ならしめるようにしてもよく、また他のウエールとの間においても同様に異ならしめてもよく、更に両者を組み合わせてもよい。
また、浮かし糸についても、編み込みコース数と遊離コース数は同一ウエールにおいても必らずしも一定にすることなく、異ならしめてよく、また他のウエールとの間においても種々異なる変化をもたせてもよい。更に両者を組み合わせ、同一ウエールにおいても異ならしめると共に、他のウエールとの間においても変化させるようにすることも好適である。
なお、本発明は下着用編レースとして女性の下着などに用いられる関係上、地編部編成糸は余り太いものは得策でなく比較的細い、例えば50デニール以下、特に40デニール以下のマルチフィラメントを用いることが望ましい。
【作用】
本発明下着用編レースは地編部が所要のコースを単位として隣接ウエールとの間を往復するものであり、所要のコースで隣りのウエールに移行しているため、単に並列されたチェーンステッチ編に比較し、ほつれの発生が阻止され、ほつれのないものとなる。しかも浮かし糸は1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離の繰り返しで裏面側に両側面に遊離されるので、透孔の部分から表面に顕出されにくく、外観が良好であると共に、浮かし糸によって肌触りがよくなる。更に、地編部の隣接ウエールにおける横振りの単位の変化あるいは浮かし糸の編み込みコース数と、遊離コース数の変化による編地外観の変化が得られ、多様な下着用編レースを得ることができる。
【発明の実施の形態】
以下、更に添付図面にもとづいて本発明の具体的な態様を説明する。
図1は本発明に係わる下着用編レースの1例の説明のための図である。この図に示す下着用編レースと本発明の下着用編みレースとはつぎの点で異なる。まず、図においては、浮かし糸3は各ウエールに挿入されているが、本発明では浮かし糸3は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入されることになる。また、図においては、浮かし糸3の遊離部分はウエールの一面側に形成されているが、本発明では浮かし糸3はウエールの両側面に現れることになる。以下において図1に基づいて説明する。図において1は地編部を編成する糸、2は地編部に挿入され、一部隣接するウエール又は隣接ウエールを越えて更に隣りのウエールに横振りされて隣接ウエール間に透孔4を形成する挿入糸、3は各ウエールに1コース以上の編み込みと、複数コースの遊離を繰り返して編地裏面側でウエール一側面に遊離部分を形成する浮かし糸を夫々示し、地編部を形成する糸1はウエール方向に多数並列し、夫々所要の十数コース乃至数十コースにわたり鎖編編成した後、隣りのウエールに移行し、このウエールで十数コース乃至数十コース編成した後、再び元のウエールに戻って十数コース乃至数十コース編成し、これを繰り返すことによって各ウエールが横振り連結によって繋がれた編地構成の地編部が構成されている。
ここで、上記十数コース乃至数十コースの単位は同一の各ウエールにおいて必らずしも一定である必要はなく、適宜、変化せしめてもよい。また、各移行する他のウエールにおいても同様であり、必らずしも一定である必要はない。更に元のウエールと移行する他のウエールもそのコース数を随時、互いに変化せしめることも可能であり、このような種々の変化を加えることによって地編部の組織に多様性を与えることができる。
なお、この地編部編成に用いる編糸は余り太くては商品価値が低下するので、可及的細く50デニール以下、特に40デニール以下のマルチフィラメントを用いることが望ましい。編糸はナイロン、ポリエステル、アクリル繊維、ポリプロピレン等、各種の繊維が使用可能である。
次に上記地編部の各ウエールに挿入されて隣接するウエールとの間に透孔4を形成するよう、隣接ウエール間にわたり、あるいは隣接ウエールを越えて更に隣りのウエールにわたって一部横振りして編み込まれた挿入糸2はその横振りする位置が挿入されているウエールにおいて別段、特定される必要はなく、適宜位置で随時横振りすればよく、また横振りにあたっても隣接ウエールとの間のみならず、更に隣接ウエールを越えた隣りのウエールとの間にわたって振ってもよい。そして、隣接ウエールにわたる横振り連結か、隣接ウエールを越えた更に隣りのウエールにわたる横振り連結かは夫々、単独に行ってもよく、また適宜両者を併用し、組み合わせてもよい。この挿入糸2の横振り態様によってレース地における透孔模様が表現され、変化を得ることができる。なお、上記挿入糸は細デニール糸が好ましく、合成繊維のマルチフィラメントが使用される。
更に上記地編部のウエール方向に挿入される前記浮かし糸3は編地裏面側に遊離部分3aを形成し、肌に接触する際の感触を高める上に有効なものであり、前述の如く1コース以上のウエールへの編み込みと、複数コースにわたる遊離との繰り返しが行われる。この場合、挿入は各ウエールに行なってもよく、また適宜定間隔又は不定間隔をおいて挿入してもよい。
また、ウエールに対し編み込む際にもウエール方向に必らずしも規則的に編み込みコース数と遊離コース数を特定する必要はなく、不規則的に適宜変化を付与してもよい。そして、上記の浮かし糸3挿入個所の選択と、編み込みコース数と遊離コース数との変化を組み合わせることによって、遊離部分3aが変化し、より多彩な変化を作ることが容易となる。
なお、この浮かし糸は肌に接するため、柔らかみのある糸が好ましく、例えば吸湿性、吸汗性に優れた綿糸や改質レーヨン糸の使用が好適である。しかし、用途に応じナイロン、ポリエステルなども使用することができる。
かくして、上記地編部編成用の糸1と挿入糸2及び浮かし糸3との組み合わせ編成によって地編部編地に透孔模様を有し、しかも編地裏面側に遊離部分3aを有する好適なインナー地を得て、商品価値に優れた下着などインナー製品を作ることができる。
図2は本発明下着用レース編地の第2の例の説明のための図である。ただし、この図に示す下着用レース編地と本発明の下着用レース編地の第2の例とは、図1について前記したのと同様の点で相違している。以下において図2について説明する。前記下着用編レースが地編部の編成糸1と、挿入糸2及び浮かし糸3よりなるのに対し、更にスパンデックス糸、コアヤーンなどの伸縮糸5を併用し伸縮性を付与したものであり、ウエールの各ループにわたって伸縮糸5が伸張状態で編み込まれている。
この伸縮糸5の編み込まれるウエールは各ウエールが最も有効であるが必らずしも各ウエールでなくても、適宜、所要の定間隔又は不定間隔をおいて挿入せしめてもよい。この伸縮糸5を伸張状態で編み込むことにより収縮時、編地の収縮により浮かし糸3の遊離部分3aが裏面に浮き出るように顕出される。
かくて、伸縮糸5の併用により裏面側に浮き出る浮かし糸によって、これが吸湿性を有するときは内面に吸湿性を有するインナーを作ることができると共に、表面に地編部によって滑らかさと外観の美麗さが得られ、商品価値に富む下着用編レースを得ることができる。
【発明の効果】
本発明は以上のようにウエール方向に多数並列し、十数コース乃至数十コース編成した後、隣りのウエールに移行し、十数コース乃至数十コース編成して元のウエールに戻って再び同様に編成し、これを繰り返して隣接ウエール間で十数コース乃至数十コースを単位として横振り編成した地編部を基本編地として透孔を作る挿入糸及び浮かし糸を挿入したものであり、横振り編成によりウエール間を移行しているので、ほつれの発生は阻止され、起毛などの後工程においてもランの発生はなく、商品価値に優れた下着用編レースを作成することができると共に、浮かし糸は裏面側に出て透孔部分から表面に顕出されることもなく、外観の美麗で表面の滑らかな下着用編レースを作ることができる。
しかも、また伸縮糸の使用により浮かし糸を浮き出し、肌触りを良好ならしめると共に、地編部挿入糸、浮かし糸及び伸縮糸の夫々の組織化構造を変化させ、組み合わせることにより下着用編レースの編組織に頗る多様な変化を与え、下着用編レースの模様、外観の多品種化をもたらし、商品価値の向上を図る効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明下着用編レースの1例を示す編成組織図である。
【図2】
本発明下着用編レースの他の実施例に係る編成組織図である。
【符号の説明】
1 地編部編成糸
2 挿入糸
3 浮かし糸
3a 遊離部分
4 透孔
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項:
(1)特許請求の範囲の請求項1における「前記夫々のウエール又は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」と訂正する。
(2)特許請求の範囲の請求項1における「編地裏面側で少なくともウエールの一側面に遊離部分を形成する浮かし糸」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸」と訂正する。
(3)特許請求の範囲の請求項1の末尾における「編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(4)特許請求の範囲の請求項2の冒頭における「請求項1記載の編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「請求項1記載の下着用編レース」と訂正する。
(5)特許請求の範囲の請求項2の末尾における「編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(6)特許請求の範囲の請求項3の末尾における「編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(7)特許請求の範囲の請求項4の末尾における「編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(8)特許請求の範囲の請求項5の末尾における「編レース」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(9)特許明細書の発明の名称を「編レース」から、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」に訂正する。
(10)特許明細書の1頁下から2行(本件公報の2頁3欄3〜4行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(11)特許明細書の1頁末行(本件公報の2頁3欄5行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(12)特許明細書の2頁下から12行(本件公報の2頁3欄27行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(13)特許明細書の2頁下から9行(本件公報の2頁3欄31行)における「本発明編レース」を「本発明下着用編レース」と訂正する。
(14)特許明細書の2頁下から2行〜末行(本件公報の2頁3欄41〜42行)における「前記夫々のウエール又は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「前記のウエールのうち適宜間隔をおいたウエール毎に挿入され、」と訂正する。
(15)特許明細書の2頁末行〜3頁1行(本件公報の2頁3欄43〜44行)における「編地裏面側で少なくともウエールの一側面に遊離部分を形成する浮かし糸」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「編地裏面側でウエールの両側面に遊離部分を形成する浮かし糸」と訂正する。
(16)特許明細書の3頁下から12行(本件公報の2頁4欄12行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(17)特許明細書の3頁下から7行(本件公報の2頁4欄18行)における「本発明編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「本発明下着用編レース」と訂正する。
(18)特許明細書の3頁下から2行(本件公報の2頁4欄24行)における「裏面側に一側面に遊離されるので、」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「裏面側に両側面に遊離されるので、」と訂正する。
(19)特許明細書の4頁3行(本件公報の2頁4欄29行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(20)特許明細書4頁8行(本件公報2頁4欄34〜35行)における「図1は本発明に係る編レースの1例を示す編組織であり、」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「図1は本発明に係わる下着用編レースの1例の説明のための図である。この図に示す下着用編レースと本発明の下着用編みレースとはつぎの点で異なる。まず、図においては、浮かし糸3は各ウエールに挿入されているが、本発明では浮かし糸3は適宜間隔をおいたウエール毎に挿入されることになる。また、図においては、浮かし糸3の遊離部分はウエールの一面側に形成されているが、本発明では浮かし糸3はウエールの両側面に現れることになる。以下において図1に基づいて説明する。」と訂正する。
(21)特許明細書の4頁11行(本件公報の2頁4欄38〜39行)における「各ウエール又は適宜間隔をおいたウエール」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「各ウエール」と訂正する。
(22)特許明細書の6頁12行(本件公報の3頁6欄3〜4行)における「図2は本発明レース編地の第2の例であり、」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「図2は本発明下着用レース編地の第2の例の説明のための図である。ただし、この図に示す下着用レース編地と本発明の下着用レース編地の第2の例とは、図1について前記したのと同様の点で相違している。以下において図2について説明する。」と訂正する。
(23)特許明細書の6頁12行(本件公報の3頁6欄4行)における「編レース」を「下着用編レース」と訂正する。
(24)特許明細書の6頁下から5〜4行(本件公報の3頁6欄19行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(25)特許明細書の7頁6行(本件公報の3頁6欄30行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(26)特許明細書の7頁8行(本件公報の3頁6欄33行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(27)特許明細書の7頁12行(本件公報の3頁6欄37行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(28)特許明細書の7頁12行(本件公報の3頁6欄38行)における「編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「下着用編レース」と訂正する。
(29)特許明細書の7頁16行(本件公報の3頁6欄41行)における「本発明編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「本発明下着用編レース」と訂正する。
(30)特許明細書の7頁18行(本件公報の3頁6欄43行)における「本発明編レース」を、明りょうでない記載の釈明を目的として「本発明下着用編レース」と訂正する。
審理終結日 2002-11-05 
結審通知日 2002-11-08 
審決日 2002-12-09 
出願番号 特願平10-92383
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (D04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 哲男栗山 卓也  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 高梨 操
船越 巧子
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2964078号(P2964078)
発明の名称 下着用編レース  
代理人 北村 修一郎  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 橋本 薫  
代理人 蔦田 璋子  

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