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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 F02B |
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管理番号 | 1075693 |
審判番号 | 不服2000-19455 |
総通号数 | 42 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-01-16 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-12-07 |
確定日 | 2003-04-17 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第148223号「4サイクルエンジンの防音構造」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 1月16日出願公開、特開平8-14059]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本願は、平成6年6月29日の出願であって、原審において、平成12年4月17日付け拒絶理由通知がなされ、平成12年6月26日付け手続補正書により明細書の補正がなされたところ、この補正に対して、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていない」旨の、平成12年7月17日付け拒絶理由通知(最後)がなされたものであり、その後、当該理由により、平成12年10月16日付け拒絶査定がなされたものである。 なお、平成12年9月25日付け手続補正は、上記拒絶査定時に補正の却下の決定により却下され、審判請求時になされた平成12年12月18日付け手続補正は、当審における補正の却下の決定により、却下されている。 【2】拒絶の理由1 そこで、平成12年6月26日付け手続補正書(全文補正)により補正された明細書の記載を検討する。 当該補正後の明細書には、 (a)その特許請求の範囲の請求項1、段落【0010】、及び、段落【0036】に、「この連結部材をカム軸の軸方向視でカムチェーンの環状軌道内、かつ上記チェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部の略中央部に配置した」と、 (b)段落【0013】に、「特に、連結部材をカム軸の軸方向視でチェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部の略中央部に配置したため、反シリンダボア側の壁部の剛性強化作用を高めるとともに、チェーンテンショナーおよびカムチェーンが連結部材に衝突することを防止し、エンジンの静粛性向上に大きく貢献することができる。」と、 (c)段落【0024】に、「例えば上記連結部材26は……(中略)…… そして、図2に示すように、カム軸15の軸方向視で、連結部材26はカムチェーン19の環状軌道内、かつチェーンテンショナー23の先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部24の略中央部に配置されている」と、 (d)段落【0026】に、「また、連結部材26高さを、チェーンテンショナー23の先端にほぼ並ぶ高さとしたため、エンジン1の作動時に激しく揺動するカムチェーン19やチェーンテンショナー23が連結部材26に干渉することを回避させ、騒音の発生を防止できる。」と、 (e)段落【0037】に、「特に、連結部材をカム軸の軸方向視でチェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部の略中央部に配置したため、反シリンダボア側の壁部の剛性強化作用を高めるとともに、チェーンテンショナーおよびカムチェーンが連結部材に衝突することを防止し、静粛性の向上に大きく貢献することができる。」と、 記載されている。 以上の記載からみて、当該補正後の明細書には、結局、 「連結部材(の高さ)を、カム軸の軸方向視でチェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとした」こと(以下、「補正事項A」という。)により、「エンジン1の作動時に激しく揺動するカムチェーン19やチェーンテンショナー23が連結部材26に干渉することを回避させ、騒音の発生を防止できる」こと(以下、「補正事項B」という。)が、記載されているものと認められる。 そこで、「補正事項A」について検討する。 「補正事項A」は、願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)には記載されていない。 ただ、願書に最初に添付された図面(以下、「当初図面」という。)の「図2」から、チェーンテンショナー23の先端が連結部材26とほぼ並ぶ高さにあることがかろうじて読みとれるだけである。 しかし、「図2」において図示されるチェーンテンショナー23は、ドライブスプロケット18の近辺に枢動軸を設け、チェーンテンショナーのほぼ全長にわたってチェーンにテンションを加えるタイプのものであって、「図2」には、そのような特定されたタイプの特別なチェーンテンショナーが記載されているだけであって、しかも、このような構成を採用すべき蓋然性を示すような課題、作用又は効果は、当初図面には何ら記載されていない、と解すべきである。 したがって、この図示されたタイプ以外の別異の各種チェーンテンショナーは、「図2」になんら記載されていないというべきであり、上記別異の各種チェーンテンショナーとの関係にあっては、「図2」が、連結部材を各種チェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる位置に配置することまで明示している、とは到底認められない。 換言すれば、補正後の明細書に記載されるチェーンテンショナーは、ドライブスプロケット18の近辺に枢動軸が設けられていないタイプのチェーンテンショナーや、先端に設けた押圧ローラでチェーンにテンションを加えるタイプのチェーンテンショナーまでも含むことになる、といわなければならない。 それゆえ、「補正事項A」は、当初明細書及び当初図面の記載に基づいて、直接的かつ一義的に導き出せる事項ではないというべきである。 次に、「補正事項B」について検討する。 「補正事項B」は、当初明細書又は当初図面に何一つ記載されていない。 それゆえ、「補正事項B」は、当初明細書又は当初図面に記載された事項ではなく、しかも、当初明細書又は当初図面の記載に基づいて、直接的かつ一義的に導き出せる事項ではない。 したがって、「補正事項A」及び「補正事項B」についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第2項において準用する特許法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。 【3】拒絶の理由2 1.本願発明 本件出願の請求項1、2に係る発明は、平成12年6月26日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載されるとおりものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。 『【請求項1】 シリンダアッセンブリを構成するシリンダヘッド内にて回転自在に軸支された2本のカム軸の一端にそれぞれ回転一体に設けられたドリブンスプロケットと、クランク軸に回転一体に設けられたドライブスプロケットとの間に、チェーンテンショナーにより張力を調整されたカムチェーンが巻き掛けられ、上記カムチェーンにより上記クランク軸の回転が上記各カム軸に伝達され、カムチェーンが通されるカムチェーン室が上記シリンダアッセンブリの一側に設けられた4サイクルエンジンの防音構造において、上記カムチェーン室を構成する上記シリンダーヘッドの反シリンダボア側の壁部にて2本のカム軸の一端を軸支し、上記反シリンダボア側の壁部とシリンダボア側の壁部との間を連結する連結部材を設け、この連結部材をカム軸の軸方向視でカムチェーンの環状軌道内、かつ上記チェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部の略中央部に配置したことを特徴とする4サイクルエンジンの防音構造。』 (なお、前記したように、平成12年9月25日付け及び平成12年12月18日付け手続補正は、いずれも却下された。) 2.引用例に記載された発明 原審における平成12年4月17日付け拒絶理由通知で引用した実願昭63-38474号(実開平1-142546号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という)には、以下のような技術的事項が記載されている。 (a)「第9図はかかるシリンダヘッドを例示したもので、このシリンダヘッド1はアルミニウム合金で作られていて、吸入側および排出側のカムシャフト(図示省略)をその各前側(図面において左側)と後側、および中間部位3ケ所で支承するためにそれぞれ5個のカムベアリング3および5を各々1列に配列してある。各カムベアリング3および5は、それぞれシリンダヘッド1側と一体にしてベアリングの下側半分を形成するベアリングベース3aおよび5aと、ベアリングベース3a,5aに締結されて上側半分を形成するブラケット3bおよび5bとによって構成される。そしてシリンダヘッド1の前側には、前壁7aと側壁7b,7cとで囲まれて上下に開放するチェーンケース7を形成してある。符号9はチェーンテンショナ操作用の開口で、この開口はチェーンテンショナカバー(図示省略)によって閉塞される。そして第10図および第11図に示すように、吸気側および排気側のカムシャフト11および13をそれぞれ対応するカムベアリング列で支承して、それらの前端部に固定したカムスプロケット15,15の各下半分をチェーンケース7内に配し、これらのカムスプロケット15,15とシリンダブロック23に支承した図示しないクランクシャフトのスプロケットとにチェーン17を掛け渡してチェーンテンショナ19によりこのチェーン17に所定の張力を付与している。」(第2頁第12行〜第3頁第18行) (b)「この実施例に係るシリンダヘッド2は前記従来のシリンダヘッド1と同じ構成を備えるほか、第3図に示したように、最前位のカムベアリングにおけるベアリングベース3aおよび5aをそれぞれ内方へ延長してこれらの延長部3cおよび5cにそれぞれ上方へ開口するねじ穴3dおよび5dを形成し、またチェーンケース7のシリンダヘッド端部壁面としての前壁7aのほぼ中央の上端部を内方へ突出させてこの突出部7dにも上方へ開口するねじ穴7eを形成する。そして延長部3c,5cおよび突出部7dの各上面は、各ベアリングベース3a,5aおよびシリンダヘッド2の周縁部2aと共に面一に機械加工が施されている。一方第4図に示すように、ステー27をばね鋼などの厚板を用いてT字形に形成し、このステー27には前記ねじ穴3d,5dおよび7eに対応する3つの通孔27aを穿孔してある。そして第1図および第2図に示したように、ステー27のT字形上辺部の両側をベアリングベースの延長部3cと5cとに、またT字形の脚辺末端部をチェーンケース前壁7aの突出部7dにそれぞれボルト29によって締結する。カムシャフト11および13をそれぞれカムベアリング3および5の列によって支承し、各カムシャフト11,13前端部のカムスプロケット15の各下半分をチェーンケース7に配してこれらにチェーン17を巻き掛ける構成は前記従来の場合と同じである。 実施例は以上のように構成してある。したがって、最前位延長部付きカムベアリング3Fおよび5Fとチェーンケース7の前壁7aとがばね鋼などの板厚によって頑丈に作られたステー27を介して強固に一体化するので、前壁7aの振動系がこのステー27を締結した突出部7dのところで2分割され、またカムベアリング3F,5Fがステー27の前記上辺部を介して振動入力を分担し合うので、前述したような膜振動が効果的に抑制される。そして実施例は、チェーンケース7の前壁7a中最も振動し易い上縁をその中央部においてステー27と連結しているので、振動励起の抑制作用が顕著である。」(第6頁第19行〜第8頁第19行) (c)「この考案によれば、最端部にあるカムベアリング近傍部位とシリンダヘッドの端部壁面とをステーを介して連結するという極めて簡易な手段によってシリンダへッドの端部壁面の膜振動を抑止しうるので、シリンダヘッドに大きな設計変更などを加えることなくエンジンの静粛化を図ることができる。」(第10頁第11〜17行) そして、上記記載(a)の「吸入側および排出側のカムシャフト」という記載から、引用例1記載のエンジンが4サイクルエンジンであると推認することは、当業者にとって技術常識に属する程度のことであるから、 上記記載(a)〜(c)、及び、図面の第1〜4、9〜11図等の記載からみて、引用例1には、次のとおりの発明が記載されているものと認められる。 『シリンダアッセンブリを構成するシリンダヘッド2内にて回転自在に軸支された2本のカムシャフト11,13の一端にそれぞれ回転一体に設けられたカムスプロケット15と、クランクシャフトに回転一体に設けられたスプロケットとの間に、チェーンテンショナ19により張力を調整されたチェーン17が巻き掛けられ、上記チェーン17により上記クランクシャフトの回転が上記各カムシャフト11,13に伝達され、チェーン17が通されるチェーンケース7が上記シリンダアッセンブリの一側に設けられた4サイクルエンジンの防音構造において、チェーンケース7を構成する前壁7aとベアリングベース3a,5aとの間を連結するステー27を設け、このステー27をカムシャフト11,13の軸方向視でチェーン17の環状軌道内に配置した4サイクルエンジンの防音構造』 3.対比・判断 (対比) そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「カムシャフト」は本願発明1の「カム軸」に相当し、以下同様に、「クランクシャフト」は「クランク軸」に、「カムスプロケット15」は「ドリブンスプロケット」に、クランクシャフトに回転一体に設けられた「スプロケット」は「ドライブスプロケット」に、「チェーンテンショナ19」は「チェーンテンショナー」に、「チェーンケース7」は「カムチェーン室」に、「チェーン17」は「カムチェーン」に、「前壁7a」は「反シリンダボア側の壁部」に、「ベアリングベース3a、5a」は「シリンダボア側の壁部」、に、そして、「ステー27」は「連結部材」に、それぞれ、相当する。 したがって、両者は、 「シリンダアッセンブリを構成するシリンダヘッド内にて回転自在に軸支された2本のカム軸の一端にそれぞれ回転一体に設けられたドリブンスプロケットと、クランク軸に回転一体に設けられたドライブスプロケットとの間に、チェーンテンショナーにより張力を調整されたカムチェーンが巻き掛けられ、上記カムチェーンにより上記クランク軸の回転が上記各カム軸に伝達され、カムチェーンが通されるカムチェーン室が上記シリンダアッセンブリの一側に設けられた4サイクルエンジンの防音構造において、上記カムチェーン室を構成する上記シリンダーヘッドの反シリンダボア側の壁部とシリンダボア側の壁部との間を連結する連結部材を設け、この連結部材をカム軸の軸方向視でカムチェーンの環状軌道内に配置した4サイクルエンジンの防音構造」、 である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。 (相違点) ・相違点1; カム軸の軸支構造に関して、本願発明1が、「カムチェーン室を構成するシリンダーヘッドの反シリンダボア側の壁部にて2本のカム軸の一端を軸支し」ているのに対して、引用例1記載の発明は、2本のカム軸の一端を反シリンダボア側の壁部では軸支しないものである点。 ・相違点2; 連結部材を配置する箇所について、本願発明1が、「カム軸の軸方向視でチェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さとなる反シリンダボア側の壁部の略中央部に配置し」ているのに対して、引用例1記載の発明は、チェーンケース7の前壁7a中最も振動し易い上縁の略中央部に配置している点。 以下、上記各相違点について検討する。 (相違点についての検討) ・相違点1について; (カム軸の)軸支構造として軸端部で支持することは、普通に知られている軸支構造であって、しかも、その採用に特段の技術的困難性は見当たらないから、相違点1の構成は、設計事項として、当業者が適宜選択し得る程度のものにすぎないと認められる。 ・相違点2について; 壁面に発生する膜振動を、壁面に配置した連結部材により抑制する時には、壁面に生じる膜振動がいかなる振動モードのものであり、しかも、その膜振動を抑制するために、壁面のいかなる箇所に連結部材を設ければよいのか、を考えることは、当業者が必要に応じて選択しなければならない事項であるから、壁部に対する連結部材の配置箇所については、振動の腹を固定すれば振動が抑制されること、膜振動の腹は通常膜の中央部に生じること等の技術常識を考慮して、カム軸の軸方向視でカムチェーンの環状軌道内に配置するに当たり、膜振動の発生を抑制できる最適の箇所が設計において選択されることは明らかである。 そして、この際、チェーンと連結部材との干渉が生じない箇所や製造の容易性等が考慮されることは、当然のことである。 また、引用例1の第1図の記載をみれば、チェーンテンショナー19の先端が、カム軸の軸方向視で、カムチェーン室を構成するシリンダーヘッドの反シリンダボア側の壁部の略中央部の高さに位置することをかろうじて読みとることができるから、壁部に対する連結部材の配置箇所を、カム軸の軸方向視で反シリンダボア側の壁部の略中央部とすれば、連結部材は、必然的に、カム軸の軸方向視でチェーンテンショナーの先端にほぼ並ぶ高さになるものと認められる。 したがって、相違点2は、当業者が必要に応じて容易に変更し得る程度の相違にすぎないというべきである。 (効果について) そして、本願発明1によってもたらされる効果も、刊行物1記載の発明から当業者であれば当然予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 4.むすび したがって、本願発明1は、引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【4】まとめ 以上のとおりであるから、本願は、上記の「理由1」又は「理由2」によって、特許を受けることができない。 したがって、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-02-13 |
結審通知日 | 2003-02-18 |
審決日 | 2003-03-05 |
出願番号 | 特願平6-148223 |
審決分類 |
P
1
8・
55-
Z
(F02B)
P 1 8・ 121- Z (F02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 黒瀬 雅一 |
特許庁審判長 |
舟木 進 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 清田 栄章 |
発明の名称 | 4サイクルエンジンの防音構造 |
代理人 | 波多野 久 |
代理人 | 関口 俊三 |