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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A23C 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 A23C 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23C |
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管理番号 | 1076445 |
異議申立番号 | 異議2001-70171 |
総通号数 | 42 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-09-14 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-01-16 |
確定日 | 2003-04-16 |
異議申立件数 | 4 |
事件の表示 | 特許第3066000号「酸性乳食品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3066000号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許第3066000号に係る発明についての出願は、平成1年12月28日に出願した特願平1-342599号の一部を新たな特許出願としたものであって、平成12年5月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、4件の特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、これに対し特許異議意見書が提出された。 II.本件発明 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「乳成分を含む酸性乳食品であって、該酸性乳食品中に、乳成分由来の乳蛋白と粒子径が2μ以下の複合体を形成するペクチン水和物を含有してなることを特徴とする酸性乳食品。」 III.特許異議申立 1.大山育男よりの特許異議申立 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証乃至甲第2号証を提出し、(1)本件発明は、特許法29条1項3号の規定に該当する、又は、(2)同条2項の規定に違反する、或いは、(3)本件明細書は同法36条3項乃至5項の要件を満たしていない、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「月刊フードケミカル 1985年6月号」(昭和60年6月1日食品化学新聞社発行)79頁〜89頁)には、(a)「HMペクチンあるいはLMペクチンのグループの中には、用途に応じた各種のタイプがあり、これらのうち代表的なものを表1に示した。ペクチンは主としてゲル化剤として用いられているが、表の中でGENU PECTIN Type JMJのみがゲル化剤とは異なった役割を果たしている。当初JMという名で販売され、JuiceとMilkを混ぜるときに起きる凝乳を防止し、安定化する目的で開発されたHMペクチンの一種である。その後、改良が加えられて新しくJMJという名が付けられた。酸性乳安定の力価は従来品や他の製品に比べ約25%強いという特徴がある。」(80頁右欄下6行〜81頁左欄下12行)、(b)「酸乳ドリンクの酸度は高いので、味の点からpHを3.0にまで下げることはほとんど不可能であり、普通4.0近辺のpHが選ばれることが多い。pH4.0の酸性乳(無脂乳固形分7.5%)にペクチンを添加していくと、その粘度は図7に示したように変化する。ペクチンの添加量を0.25%程度にまで増やしていくにしたがって、粘度は上昇する。これはプラスのチャージをもつ酸乳粒子の表面にペクチンが吸着されることによって、ペクチンのガラクチュウロン酸のカルボキシル基によってチャージが中和され、そして粒子間の反発力が低下するために粒子同士の付着力が強くなることにより、粘度が上昇するものと考えられる。さらに、ペクチンの添加量を増やしていくと、0.4%になるまでの間で急激に粘度が低下する。マイナスのチャージをもったペクチンを多量吸着することによって酸乳粒子の表面チャージがマイナスになり、それが強くなるにしたがって粒子間の摩擦が少なくなるためである。0.4%のところで粘度の変曲点が見られ、ペクチン濃度がこれ以上になると粒子同士の電気的な反発力によって安定な分散状態が保たれるようになる。顕微鏡下にこれらの粒子の状態を観察するとペクチン濃度0.4%を境にして、低濃度側では粒子が付着し合いひどい場合には房状になっており、また高濃度側では粒子はバラバラになって互いに付着し合っていないことがわかる。」(82頁左欄6行〜右欄12行)、(c)「(1)溶液添加法 ペクチンは水に分散するときにダマになり易いので、ハイスピードミキサーを用いるとよい。60〜80℃の湯を用いれば10%程度の溶液をつくれるが、実用上粘度が高すぎるので、5%程度の水溶液を使用するのが好ましい。」(83頁左欄下16行〜11行)、(d)「6.ペクチンの添加量 最も経済的なペクチンの添加量は、酸乳の粒子径、粒度分布、酸度、加熱条件、シェルライフ等によって決まる。これらの中で最も重要なものは粒子径と粒度分布である。先に述べたとおり、酸乳粒子の表面がペクチンでカバーされることによって分散液は安定になるから、カバーされるべき表面積の大小が直接ペクチンの必要添加量にひびいてくる。実際の酸乳粒子は不規則な形状をしていて表面積を測定することは不可能に近いが一応球状になっているものとすると、体積(たんぱく質濃度)が一定の場合、粒子の表面積の和はその半径に反比例する(表2)。」(84頁左欄5行〜17行)、及び、(e)「図11は無脂乳固形分7.5%のスキムミルクに1.9%のGDLを各温度で添加して得られた酸乳カードをベースにして、これらにペクチンを添加して作った酸乳ドリンクの粘度を示したものである。ペクチンが酸乳粒子の表面を覆い尽くしたと考えられる粘度の変曲点の現れるペクチン濃度をみると、5℃で酸性化した場合は0.5%であるが、22℃で0.4%、30℃ではわずかに0.2%になっている。顕微鏡でこれらの酸乳を観察すると30℃で酸性化したものの粒子径は明らかに22℃や5℃で調製した酸乳粒子よりも大きい。体積が等しい場合、球の表面積の和はその半径に反比例するから、22℃の酸乳粒子の径が安定な酸乳ドリンクを製造するための標準的な粒子径である1μとすると30℃の酸乳は変曲点の現れるペクチン添加量から表面積が半分になっていると考えられるのでその粒子径は2μのはずで、このような大きな粒子径の酸乳はペクチンによって沈殿を防止することはできない。」(84頁右欄8行〜27行)がそれぞれ記載されている。 甲第2号証(「ユニペクチン社技術資料(日本語版)1984」(1984年6月12日印刷第5版)13頁)には、「(e)ペクチン溶液の保存 温かいペクチン溶液(60℃)は、できるだけ迅速に使用する必要がある。数時間その性質を保持する必要がある場合には、15〜20℃に冷却しなければならない。その日の作業に、もっとよいやり方としては半日分の作業に必要な量の溶液を毎朝調製するように力説したい。溶液を調製した日に使用できない場合に保存するためリッター当たり0.2〜0.5gの亜硫酸を加える必要がある。この亜硫酸は、このように少量であれば、ペクチンに作用することはない。ペクチン溶液添加後ジャムを沸騰する際に、この亜硫酸は完全に除去されることになろう。新鮮な溶液は、何等の危険なく冷蔵庫内に(0〜5℃)1晩保存できる。」が記載されている。 B.判断 (1)特許法29条1項3号について 甲第1号証の(a)には、HMペクチンの一種である「JMJ」が、酸性乳ドリンクの凝集を防止し安定化させること、及び(e)には、「22℃の酸乳粒子の径が安定な酸乳ドリンクを製造するための標準的な粒子径である1μとすると30℃の酸乳は変曲点の現れるペクチン添加量から表面積が半分になっていると考えられるのでその粒子径は2μのはず」であることの記載があるものの、甲第1号証には、本件発明の特徴である「ペクチン水和物」については開示されていない。 すなわち、本件明細書の「このようなペクチン水和物は、例えば、エージングを行うことにより得られる。本発明において、エージングとは、ペクチンが溶解した水溶液を保管してペクチンを水和させる操作を示す。例えば、まず、ペクチンを水と共に撹拌しながら、50〜80℃に加熱し、ペクチンを溶解させた後、好ましくは30℃以下、更に好ましくは5〜10℃程度に冷却後、エージングを行う。」(段落【0011】)の記載に徴し、「ペクチン水和物」を調製するには「エージング」が必要であるところ、甲第1号証の(c)には、「溶液添加法」として「ペクチンは水に分散するときにダマになり易いので、ハイスピードミキサーを用いるとよい。60〜80℃の湯を用いれば10%程度の溶液をつくれるが、実用上粘度が高すぎるので、5%程度の水溶液を使用するのが好ましい。」との記載があるだけで、「エージング」に相当する工程ついて言及するところはない。 そうすると、甲第1号証には、「ペクチン水和物」については記載されてないと解されるので、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 ところで、特許異議申立人は、甲第2号証に記載された事項を根拠として、「甲第1号証に記載された方法により得られる工業的に生産された酸性乳飲料は、通常、エージング時間が数時間取られたペクチンが含まれていることは周知であり、甲第1号証には、このような数時間のエージングが確保されたペクチンが混合された酸性乳飲料が記載されているに等しいものである。」(7頁11〜14行)とも主張している。 しかし、甲第2号証に「・・・半日分の作業に必要な量の溶液を毎朝調製するように力説したい」という記載があるからといって、それが直ちに「エージング時間が数時間取られたペクチンが含まれている」とはいえず、しかも、甲第1号証においては、常に甲第2号証に係るペクチン溶液が使用されるものではないから、甲第2号証に記載の事項を加味しても、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 (2)特許法29条2項について 本件発明は、本件明細書段落【0007】に記載のように「ペクチンを予め水に溶解させた後、エージングする等により充分にペクチンを水和させ、得られたペクチン水和物を、他の原料と混合、均質化すると、乳成分由来の乳蛋白と粒子径が2μ以下の複合体が形成され、その結果、少量のペクチンで乳蛋白の凝固、沈殿を防止し、かつ過剰に増粘することなく酸性乳食品を製造することができることを見出し本発明に到達した。」ものであるところ、甲第2号証には、ペクチン水和物としての認識がないのであるから、本件発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (3)明細書の記載不備について 特許異議申立人は、(i)「本件異議申立人側で行った実験結果では、十分に溶解されたペクチン水溶液を使用した場合にはエージング時間が0のものであっても沈殿が認められなかった。そして、ペクチンを完全溶解させない場合のみに沈殿が認められた。」(特許異議申立書8頁2〜4行)と主張した上で、ペクチンについて溶解時間や溶解の程度については記載されておらず、この溶解が完全溶解であるならば、その溶解条件を明確にすべきである、(ii)乳蛋白とペクチン水和物との複合体粒子径の測定方法が明細書に記載されていない、及び(iii)「複合体」の意味合いが不明瞭である、と主張している。 (i)について 特許異議申立人は、自らが実施したという実験に関して単に結果を示すだけであって具体的な事項については何ら開示していないのであるから、(i)に関する主張は、裏付けのない実験結果に基づく不当なものである。 (ii)について 本件明細書には、乳蛋白とペクチン水和物との複合体粒子径の測定方法について記載されておらず、この点で本件明細書の記載は適切なものとはいえないが、特許異議申立人 株式会社ヤクルト本社が提出した甲第1号証に「この蛋白集合体は、均質化処理の段階で例えばペクチンが0.6%存在すると、分解されて、直径約1μmの粒子となる。」(6頁9〜11行)と記載されているように第三者も測定し得たことを考慮すると、該測定方法が具体的に記載されてないことをもって、違法であるとまではいえない。 (iii)について 本件明細書には、「本発明において、複合体とは、ペクチン水和物が乳蛋白の表面に電気的な力により吸着して乳蛋白を取り込み、一体化した物体を示す。」(段落【0010】)との記載があり、この記載に照らし、本件発明に係る「複合体」は、明瞭であるといえる。 2.羽島義一よりの特許異議申立 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証を提出し、(1)本件発明は、特許法29条1項3号の規定に該当する、又は、(2)同条2項の規定に違反する、と主張している。 A.甲第1号証の記載内容 「1」の甲第1号証と同じ。 B.判断 「1.B.(1)及び(2)」に記載の判断と同じ。 3.株式会社ヤクルト本社よりの特許異議申立 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証乃至甲第6号証を提出し、(1)本件発明は、特許法29条1項3号の規定に該当する、又は、(2)同条2項の規定に違反する、或いは、(3)本件明細書は同法36条4項及び5項の要件を満たしていない、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「乳製品一覧」38号、74巻、1982年9月22日発行、852〜854頁)には、翻訳文4頁に、「図1」として「20℃で2週間保存した場合に、ペクチン添加による安定化がドリンク・ヨーグルトの乳奨分離に及ぼす影響。左はペクチンを添加しなかった場合。右はペクチンを0.6%の添加した場合。」との記載とともに、ビン中のドリンク・ヨーグルトの乳奨分離したものとしないものの写真が示され、「図2」として「安定化されたドリンク・ヨーグルトと安定化されないドリンク・ヨーグルトの間の蛋白配分の違い。左はペクチンを添加しなかった場合。右はペクチンを0.6%添加した場合。」との記載とともに、写真が示されている。 また、「ヨーグルトへのペクチンの均等分散 ドリンク・ヨーグルトの調合プロセスにはいくつかの重要な段階が存在しているが、そのひとつがペクチンをヨーグルトに均等に分散する段階である。ペクチンは、後で崩しにくい塊を形成する性質を有しているので、均等に分散する必要がある。原則として、ペクチンは乾燥粉末の状態および濃縮懸濁液の状態でヨーグルトに添加される。乾燥粉末の場合は、添加すべき砂糖の一部と事前に混ぜて添加すると最善である。尤も、この方法で最善の結果が得られる(表2参照)が、塊ができ易いので、充分に攪拌するようにしなければならない。従って、実際には、急速撹拌装置を利用して、事前にペクチンと砂糖を約80℃の温度の湯に入れて撹拌して、均等に混ぜておくとよい。そうすると、それで発生するペクチン・スラリーがヨーグルトとよく混ざり合い、塊ができるのを防ぐという利点が得られる。」(翻訳文5頁下11〜末行)、「均質化処理 牛乳の発酵段階で形成される構造は、互いに連結されているカゼイン・ミセル(膠質粒子)の三次元ネットワークから成り立っている。この構造は、撹拌されると部分的に壊される。しかし、その場合でも、蛋白質は部分的に結合して大きな集合体が残る。この蛋白集合体は、均質化処理の段階で例えばペクチンが0.6%存在すると、分解されて、直径約1μmの粒子になる。」(同6頁6〜11行)、「ペクチン濃度が低いと、保存中に蛋白粒子のサイズが大きくなるのに応じて、サンプルの粘度がゆっくりと上昇する。このように、ドリンク・ヨーグルトの安定性はペクチン濃度に大きく依存している。乳奨分離を認容できるレベルに制限するには、ペクチンを少なくとも0.4%の濃度まで添加する必要がある(図1c)」(同15頁22〜末行)、及び「安定性のメカニズム 酸っぱいミルク・ドリンクをペクチンで安定させることは、負の電荷を持つペクチン分子と正の電荷を持つ蛋白粒子の間の電荷相互作用に依存していると推定したい。そして、そう考えると、綿状の塊が発生しにくいのは、蛋白粒子が保護層で覆われるためであると説明できる。」(同21頁16〜20行)がそれぞれ記載されている。 甲第2号証(「発酵乳、乳酸菌飲料の開発戦略セミナー」(1989年5月)コペンハーゲンペクチンファクトリー社、工業技術会 16〜34頁)には、17頁に「生菌発酵乳ドリンク製造のフローシート」とともに、「通常のヨーグルトと異なる点は、無脂乳固形分の高いことだけで、その他の製造工程は同じです。無脂乳固形分を高めにした理由は、あとでペクチン溶液を添加して稀釈することを考慮したためです。しかし同時に発酵速度が遅くなり、小さな酸乳粒子が得られます。粒子のサイズはこの他、微生物のタイプ及び発酵温度によって調整することができます。 ペクチン溶液(そのpHは約3.5〜4.0ですが)は70〜80℃で10〜15分間加熱して殺菌します。これにより高温をかけることは避けて下さい。なぜなら不必要ですし、たとえpHが4.0であっても、沸騰温度に近い温度で加熱するとペクチンの安定化力が低下するかも知れないからです。もし長時間の殺菌を希望する場合には、70℃程度で行って下さい。」が記載され、「図.4には無脂乳固形分17%の酸性化乳と濃度の異なるペクチン溶液(濃度0〜1%)を混合し、ペクチン濃度を0〜0.5%に変化させたときの製品の粘度と沈降量を示しました。」(18頁16〜17行)との記載とともに、「図.4A ホモゲナイズの沈降量に及ぼす影響」が記載され、「酸乳粒子のサイズを小さくすれば、粘度は高くなります。粒子のサイズが1〜2μ(最大で)のときに粘度は最も低くなります。大きな粒子はさらに粘度を低くしますが、ホエイの分離や沈降量が多くなりすぎます、またペクチンの添加量が最適のときに粘度は最も低くなります。」(22頁7〜10行)、「ペクチン添加量 無脂乳固形分8%の発酵乳ドリンクを安定化するための、最小添加量について述べてきました。無脂乳固形分を下げても、ペクチンの添加量を無脂乳固形分に比例して下げることはできません。無脂乳固形分が低いときは、高いときに比べて相対的にペクチン添加量が多く必要になります。その理由は、安定性を得るためにサイズの小さな酸乳粒子が必要なこと、そして酸乳粒子に吸着されたペクチンとホエイ層に存在しているフリーのペクチンとが平衡状態にあること、を考慮しなければならないからです。」(22頁14〜21行)、「低粘度のドリンクを少ないペクチン量で作るときには、粒子のサイズを直径1〜2ミクロン程度にしなければなりません。ホエイの分離を完全に避けたいときには、粒子のサイズをこれより小さくしなければなりませんし、ペクチンの添加率も増加しなければなりません。そうすれば同時に、最終ドリンクの粘度は高くなります。」(24頁下6〜3行)、及び「ホモゲナイズ ホモゲナイズには、酸乳のカードをバラバラの酸乳粒子にする働きと、ペクチンを溶解する働きがあります。ペクチンを5〜10℃で冷蔵したヨーグルトに分散するときには、ペクチンをより効果的に溶解するため、ホモゲナイズする前に40〜60℃に加熱してペクチンを水和させる必要があります。」(26頁1〜6行)がそれぞれ記載されている。 甲第3号証の1(「GENU HANDBOOK」1986年コペンハーゲンペクチンファクトリー社)には、「酸性乳ドリンク及びデザート」の項に、「安定剤はGENU Type JMJで、特にこの目的のために開発し、そして標準化したHMペクチンの一タイプです。」(549頁15〜16行)、「[製造プロセス] 図.14(552頁)にこのヨーグルトドリンク製造のフローシートを示しました。発酵後のプロセスは次の通りです。 1.ペクチンを5倍量の砂糖とブレンドする。 2.1.のブレンドを水に分散し、残りの砂糖や他の成分を添加する。 3.80℃で15〜30秒間殺菌し、醗酵温度にまで冷却する。 4.醗酵乳と混合する。 5.5〜10℃に冷却する。 6.180気圧でホモゲナイズする。 7.無菌充填又は厳重に管理した清潔な条件下で充填する。 安定なヨーグルトドリンクを製造するためには、醗酵条件が非常に重要です。また醗酵条件によって安定化に必要なGENU Pectin Type JMJの濃度も異なります。詳細については第6章の技術的説明のところで述べますが、もし無脂乳固形分が高く、そして相対的に低い温度で醗酵すると発酵時間が長くなり、酸乳粒子は非常に小さくなります。小さな粒子ができると安定な製品になりますが、小さすぎると粘度が高くなり、また安定化に必要なペクチン量も多くなります。無脂乳固形分8%のヨーグルトドリンクの場合の最適粒子径は約1μです。」(550頁1〜17行)、「[ペクチン添加法] ペクチン添加法には次の3つがあります。 1)水溶液添加法 2)分散液添加法(飽和砂糖溶液使用) 3)粉末添加法(砂糖とブレンド) 最適と思われる方法は2)の飽和砂糖溶液にペクチンを分散して添加する方法です。この方法を用いるとペクチンを均一に分散させやすいからです。もし砂糖を添加しないなら、又は殺菌後にホモにかけるならペクチンは水溶液で添加しなければなりません。」(556頁下8〜末行)がそれぞれ記載されている。 甲第3号証の2(平成12年12月27日付三晶株式会社 林 良純作成の証明書)には、「当社にて翻訳、印刷した「GENU HANDBOOK」は、1986年5月15日に印刷し、1986年6月より、ペクチン及びカラギーナンの営業用資料として、食品メーカー等のユーザー向けに頒布しておりました。」旨の記載がある。 甲第4号証(平成13年1月12日付橋本進二及び小林洋子作成の試験成績証明書)は、甲第3号証の1の記載にしたがって製造したヨーグルトドリンク中の酸乳粒子の粒子径を測定したもので、「表3 酸乳粒子の粒子径」には、メディアン径(μ)で「0.584乃至0.891」、モード径(μ)で「0.613乃至0.736」であることが記載されている。 甲第5号証(特開昭61-47142号公報)には、「IST-カルチャー(NIZOにより市販されているストレプトコツカス テルモフイルス及びラクトバチルス ブルガリカスの標的培地)」が記載されている。 甲第6号証(大木ら編「化学大辞典」(1989年10月20日東京化学同人発行)1185頁)には、「水和物[hydrate]」の項に、「一つの化合物が水分子と一緒に別種の固体分子を形成する場合、その化合物を水和物とよぶ。」との記載がある。 B.判断 (1)特許法29条1項3号について 甲第1号証には、乳成分を含む酸性乳食品にペクチンを添加することにより安定化させること、そして、「急速撹拌装置を利用して、事前にペクチンと砂糖を約80℃の温度の湯に入れて撹拌して、均等に混ぜておくとよい。そうすると、それで発生するペクチン・スラリーがヨーグルトとよく混ざり合い、塊ができるのを防ぐという利点が得られる。」との記載がある。 しかし、甲第1号証には、本件発明に係る「乳成分由来の乳蛋白と粒子径が2μ以下の複合体を形成するペクチン水和物を含有してなること」について言及されているところはない。 これに関し、特許異議申立人は、甲第1号証記載のペクチン水溶液とペクチン水和物とは区別できない、と主張しているが(申立書12頁末行〜13頁1行)、本件明細書の「実施例1〜4、比較例1」の記載によると、乳蛋白の凝固や沈澱は、ペクチンを溶解させた水溶液に対する一定時間のエージングの有無により、みられたりみられなかったりするのであるから、該エージングを実施することにより、ペクチンは単なる水溶液という状態ではないこと、そして明細書の段落【0011】の記載に照らし、エージングによりペクチンは水和物になっていると推認できるのであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 甲第2号証には、乳成分を含む酸性乳食品にペクチン水溶液を添加することの記載とともに、「ペクチンを5〜10℃で冷蔵したヨーグルトに分散するときには、ペクチンをより効果的に溶解するため、ホモゲナイズする前に40〜60℃に加熱してペクチンを水和させる必要があります。」(26頁4〜6行)というように、「水和」という語句の記載がある。 しかし、ここでの「水和」とは、これに先立つ「ペクチンをより効果的に溶解するため」という記載を踏まえると、本件発明に係る「水和」、すなわち、エージングを実施することよりなるものとは異なり、単に溶解を十分にするためのことと解される。 そうすると、甲第2号証には、本件発明が記載されているということにはならない。 甲第3号証の1には、乳成分を含む酸性乳食品にHMペクチンを水に分散して混合することが記載されている。 しかし、甲第3号証の1のどこにもペクチンを水和物とすることについて言及するところはないのであるから、甲第3号証の1には、本件発明が記載されているということにはならない。 以上のとおり、本件発明は、甲第1号証乃至甲第3号証の1に記載された発明であるとはいえない。 (2)特許法29条2項について 上述のように、甲第1号証乃至甲第3号証の1には、乳成分を含む酸性乳食品にペクチン水溶液を加えることまでは記載されているが、該ペクチン水溶液が「ペクチン水和物」の状態であることについて言及されているところはない。 そして、本件発明は、「乳成分由来の乳蛋白と粒子径が2μ以下の複合体を形成するペクチン水和物を含有してなる」という構成を採用することにより、酸性乳食品の乳蛋白の凝固、沈澱を長期にわたって防止することができるという顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件発明は、甲第1号証乃至甲第3号証の1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)特許法36条4項及び5項について 特許異議申立人は、(i)「ペクチン水和物」はどういうものか不明確であり、また、ペクチン水溶液との物理化学的相違点が示されていないからエージング終了点を観察することができず、当業者が実施できる程度に記載されてない、(ii)「複合体」について当業者が実施できる程度に説明されてない、と主張している。 (i)について ペクチン水和物については、本件明細書の段落【0011】に記載されており、また、本件発明は、「乳成分由来の乳蛋白と粒子径が2μ以下の複合体を形成するペクチン水和物を含有してなること」を特徴とするものであるところ、これについては、実施例として本件明細書に具体的に記載されているのであるから、エージング終了点が観察できるか否かによって、当業者が実施できる程度に本件明細書が記載されているかが左右されるものではない。 (ii)について 「1.B.(3)(iii)」に記載の判断と同じ。 4.伊藤理恵よりの特許異議申立 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証乃至甲第2号証を提出し、(1)本件発明は、特許法29条1項3号の規定に該当する、又は、(2)同条2項の規定に違反する、或いは、(3)本件明細書は同法36条3項の要件を満たしていない、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証は、「1」の甲第1号証と同じ。 甲第2号証(「安定剤とその利用技術」(昭和60年5月31日工業技術会発行))には、「ペクチン溶液中に無水亜硫酸0.1〜0.5g/lを加え保存する方法は、実際にヨーロッパの多くの食品工場で実施されている。」(156頁右欄2〜4行)が記載されている。 B.判断 (1)特許法29条1項3号について 「1.B.(1)」に記載の判断と同じ。 (2)特許法29条2項について 甲第2号証には、ヨーロッパでは水溶液の状態で保存されたペクチン水溶液が使用されていることが記載されているものの、ペクチン水和物について言及されているところはない。 そうすると、甲第1号証に記載の事項に甲第2号証に記載の事項を加味しても、本件発明は当業者が容易に想到することができないというべきである。 (3)特許法36条3項について 特許異議申立人は、「ペクチン水和物」の具体的な調製方法については一切開示がないので、当業者が実施できるように記載されていない、と主張している。 これについては、「3.B.(3)(i)」に記載の判断と同じ。 5.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-03-28 |
出願番号 | 特願平11-3907 |
審決分類 |
P
1
651・
532-
Y
(A23C)
P 1 651・ 113- Y (A23C) P 1 651・ 121- Y (A23C) P 1 651・ 531- Y (A23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田中 倫子、鵜飼 健、田村 明照 |
特許庁審判長 |
徳廣 正道 |
特許庁審判官 |
近 東明 田中 久直 |
登録日 | 2000-05-12 |
登録番号 | 特許第3066000号(P3066000) |
権利者 | カネボウ株式会社 |
発明の名称 | 酸性乳食品 |
代理人 | 中島 俊夫 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 的場 ひろみ |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 浅野 康隆 |
代理人 | 村田 正樹 |