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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22D
管理番号 1076462
異議申立番号 異議2001-70522  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-15 
確定日 2003-03-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3078743号「溶鋼の連続鋳造方法」の請求項1、2に係る発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3078743号の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第3078743号は、平成8年2月9日に出願され、平成12年6月16日にその特許の設定登録がなされ、その後、本件請求項1,2に係る特許に対し、特許異議の申立てが住友金属工業株式会社よりなされ、当審より取消理由が通知され、その通知書で指定した期間内の平成14年8月22日付で訂正請求がなされたものである。なお、特許異議の申立て後、上記取消理由が通知される前に、特許異議申立人より上申書が提出された。

II.訂正の適否

1.訂正の内容
訂正a:
特許請求の範囲の請求項1の「水平部を有する」と「連続鋳造機」の間に「(該水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く)」を挿入する。
訂正b:
段落【0007】の「水平部7を有する」と「連続鋳造機」の間に「(該水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く)」を挿入する。
訂正c:
段落【0008】の「水平部を有する」と「連続鋳造機」の間に「(該水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く)」を挿入する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
上記訂正aは、請求項1における「連続鋳造機」を「水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。又、訂正b,cは、請求項1における上記訂正に伴い、明細書の発明の詳細な説明の記載を該訂正と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
又、訂正aは、専ら、引用例1,2に記載された発明との同一性を回避するための減縮に過ぎないから、いわゆる新規事項を追加するものではなく、訂正b,cについても同断である。又、これらの訂正は、その訂正内容からみて、いずれも特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
よって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項但し書き、及び同条第3項において準用する特許法第126条第第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについての判断

1.本件発明
上記IIで述べたように訂正が認められるから、訂正後の本件請求項1,2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】鋳片が鋳型を通過した後の2次冷却帯に垂直部、曲部及び水平部を有する(該水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く)連続鋳造機を用いて溶鋼を鋳造するに際し、上記垂直部に、2次冷却帯で使用する全水量の30重量%以上60重量%未満を注水し、かつ上記曲部に、2次冷却帯で使用する全水量から上記垂直部で使用した水量を除いた水量の70%以上を注水することを特徴とする溶鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】上記溶鋼をステンレス鋼としたことを特徴とする請求項1記載の溶鋼の連続鋳造方法。」

2.引用例
当審が取消理由において引用した引用例のうち、引用例1、3及びこれらに記載された事項は、下記のとおりである。而して、これら引用例に記載された事項は、引用例1、3の日本鉄鋼協会共同研究会製鋼部会への提出、それに基づく各当該回次の上記製鋼部会での発表及び該製鋼部会におけるこれら引用例に対する取扱いを通じて、本件出願前に日本国内において公然知られるに至ったものと認められる。

引用例1:「厚板向けCCスラブの無手入化」(昭和57年6月25日開催日本鉄鋼協会共同研究会第82回製鋼部会提出資料「鋼82-自」p.1〜19(甲第1号証))
引用例3:「千葉第4連鋳機の建設と操業」(平成6年9月21日開催日本鉄鋼協会共同研究会第111回製鋼部会提出資料「鋼111回-自-2」p.1〜14(甲第3号証))

〈引用例1に記載された事項〉
イ.「1.緒言
CCスラブの熱片装入を実施するにあたり、無欠陥鋳片製造技術に裏付けされた表面品質保証体制が必要である。……
本報では、厚板向CCスラブの表面品質向上経緯、無手入化の現状および熱片装入計画について述べる。
2.製造条件
厚板材は主にNo.1連鋳機で製造されている。
No.1連鋳機の特徴は、1)5Mの垂直部を有する、2)最終凝固部に軽圧下装置を有する、3)多点曲げ方式の採用等があり主な設備仕様を表1に示す。……

(1〜2頁)
ロ.「4.4 無欠陥スラブの鋳造条件
以上述べてきた無欠陥スラブ製造条件を要約すると……
図11に対策前后の2次冷却水パターンおよびスラブ表面温度については対策後の推移を示した。
……

(12〜14頁)

〈引用例3に記載された事項〉
ハ.「本報告では新製鋼設備の中で、ステンレス鋼及び高炭素鋼の品質要求の多様化・厳格化への対応、及び効率的な操業、作業環境の改善を主な目的として建設した千葉No.4連続鋳造機(以下4CCMと称す)の建設コンセプト及び立ち上げ状況について報告する。」(1頁(下から)4〜1行)
ニ.「4CCMは、ステンレス鋼・高炭素鋼鋳片内の気泡・介在物の浮上分離を目的として、垂直曲げタイプを導入した。垂直部の長さは、ステンレス鋼・高炭素鋼のスループットを考慮した計算より、2.5mと決定した。」(9頁6〜8行)

3.対比・判断
3-1.本件発明1について
本件発明1と引用例1に記載のものを対比すると、後者における「NKK-垂直曲げ型」の「No.1連鋳機」による「鋳片製造」方法は、前者における「連続鋳造機」を用いる「溶鋼の鋳造方法」に相当し、又、後者において引用例1の図11中に示された1〜10ゾーンの冷却域は、前者でいう「鋳片が鋳型を通過した後の2次冷却帯」に相当し、又、後者の上記冷却域のうち、(a)1ゾーン始端〜5ゾーン略ぼ1/5地点の「ベンディングゾーン」始端まで、(b)該「ベンディングゾーン」始端〜10ゾーン略ぼ1/10地点の「矯正点」まで、及び(c)該「矯正点」〜10ゾーン終端まで、の各部分は、それぞれ、前者における「垂直部」、「曲部」、「水平部」に相当し、又、後者においても上記各部分が注水により冷却されるものであることは、図11に「2次冷却比水量およびスラブ表面温度」なる標題で1〜10ゾーンの各ゾーン毎の(いずれもプラスの)2次冷却水量密度指数が図示されていることからみて明らかであるから、結局、両者は、
“鋳片が鋳型を通過した後の2次冷却帯に垂直部、曲部及び水平部を有する連続鋳造機を用いて溶鋼を鋳造するに際し、上記垂直部、曲部を含む各部を注水する溶鋼の連続鋳造方法”
である点で一致し、次の点で、一応相違する。
(1)2次冷却帯の各部での注水量が、本件発明1では、「垂直部に、2次冷却帯で使用する全水量の30重量%以上60重量%未満」、かつ「曲部に、2次冷却帯で使用する全水量から上記垂直部で使用した水量を除いた水量の70%以上」であるのに対し、引用例1に記載のものでは、かかる水量比の形での各部の注水量が示されていない点。
(2)使用する連続鋳造機につき、本件発明1では、「水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く」と規定されるのに対し、引用例1に記載のものでは、「最終凝固部に軽圧下装置を有する」と記載されている点。

そこで、以下、これらの点について検討する。
(1)の点について:
引用例1の図11には、2次冷却帯の1〜10ゾーン毎の2次冷却水量密度指数が棒グラフで示されており、この図から各ゾーンの長さと各ゾーンの2次冷却水量密度指数の概略値を読みとることができる。又、ここでいう2次冷却水量密度指数は、後述するように、2次冷却水の水量密度(単位時間及び単位面積当たりの水量)に比例する数値と解される。又、図11の上記1〜10ゾーンは、上述したように、それを、本件発明1でいう「垂直部」、「曲部」及び「水平部」に相当する部分に区分けすることができる。そこで、これらのことから、上記各部分のうち、前二者(「垂直部」相当部分、「曲部」相当部分)についての2次冷却水量比を、下記表Aのようにして本件発明1と同様表現の比率として求めてみると、それらは、それぞれ、概略45.7%、同90.7%となり、いずれも、本件発明1の「垂直部」、「曲部」について規定される2次冷却水量比の範囲内にあると認められるから、結局、(1)の点は、実質的には相違点といえない。

なお、この点について、特許権者は、特許異議意見書において、引用例1の図11でいう2次冷却水量密度指数は意味が不明であり、かかる意味不明なパラメータを用いて行った計算結果は本件発明1に対する新規性阻却の根拠となり得ない旨主張している(7〜8頁)。そして、引用例1には、確かに、そこでいう2次冷却水量密度指数を定義した記載はない。しかし、先ず、連続鋳造での2次冷却についていう「水量密度」とは、鋳片に対する2次冷却水の単位面積及び単位時間当たりの水量をいうことは周知である。次に、「水量密度」に付された「指数」の語についても、引用例1では、図11以外にも各種のグラフを示す図の殆ど全てにおいて、大小を比べる縦軸の量に「指数」の語が常用されている(6〜10図参照)が、それらにおける「指数」の語の用例からみても、又、図11の場合に、「指数」の語が、縦軸の量をその単純な量比を表す値により表示する、という以上の複雑な意味合いを付与するためのものであることを窺わせるような記載も特にない上、各ゾーン毎の水量密度の大小を示すに当たり、それをわざわざ或る公式により複雑に変換した値で示す必要性も格別認められないことからみても、図11における「指数」の語を、単純な比例値を超えた複雑な変換値を表すためのものと解することには合理的な理由がない。従って、図11の2次冷却水量密度指数は、前述したとおり、2次冷却水の水量密度(単位面積及び単位時間当たりの水量)に比例する値と素直に解するのが妥当であり、これに基づき上記表Aのとおりの計算を行うことに問題はないと認められるから、特許権者の上記主張は採用できない。
(2)の点について:
連続鋳造において「最終凝固部」とは、「水平部」と同一の概念でないことは、例えば、水平部以前で最終凝固させる例があること(特開平7-112255号公報等参照)からみても明らかである。従って、本件発明1が「水平部に鋳片の軽圧下手段を有する場合を除く」ものであるからといって、それにより、「最終凝固部に軽圧下装置を有する」引用例1に記載のものが除外されるとはいえない。従って(2)の点も、実質的には本件発明1と引用例1に記載のものとの間の相違点を構成するとはいえない。

したがって、上記(1)及び(2)の点に拘わらず、本件発明1は、引用例1に記載された発明であると認められる。

3-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、その「溶鋼」を「ステンレス鋼」に限定したものである。しかし、垂直曲げ型連続鋳造機をステンレス鋼の鋳造に用いることは、引用例3にみるように何ら新規なことではない。従って、引用例3と同じく垂直曲げ型連続鋳造機を用いるものである引用例1に記載の連続鋳造方法をステンレス鋼の鋳造に用いることに困難性があるとはいえない。従って、本件発明2は、引用例1、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しえた程度のものと認められる。

4.むすび
以上のことからみて、結局、本件発明1は、引用例1により本件出願前に日本国内において公然知られた発明であり、又、本件発明2は、引用例1、3により本件出願前に日本国内において公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。従って、本件発明1についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、又、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、2についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-29 
出願番号 特願平8-23934
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B22D)
P 1 651・ 113- Z (B22D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 伊藤 明
三崎 仁
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3078743号(P3078743)
権利者 川崎製鉄株式会社
発明の名称 溶鋼の連続鋳造方法  
代理人 穂上 照忠  
代理人 森 道雄  
代理人 小杉 佳男  

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