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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1076473
異議申立番号 異議2002-70183  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-01-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-23 
確定日 2003-04-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3191622号「エンボス化粧シートの製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3191622号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3191622号は、平成7年7月11日に出願され、平成13年5月25日に設定登録(請求項の数2)されたところ、平成14年1月23日に特許異議申立人大日本印刷株式会社(以下、「申立人」という)から特許異議の申し立てがされたものである。

2.特許異議申立について
(1)本件発明
特許第3191622号の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された下記の事項により特定されるものと認められる。
【請求項1】溶融した透明なオレフィン系樹脂を、表面にエンボス版を有する冷却ロール上に押し出し、得られるエンボスシートの表裏面にコロナ放電処理を施した後、表面のエンボス模様の凹部に着色インキを埋め込み、さらに樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成し、前記エンボスシートの裏面には絵柄層及び隠蔽層を印刷により施し、全体の厚さを70〜120μmとすることを特徴とするエンボス化粧シートの製造方法。
【請求項2】前記オレフィン系樹脂はポリプロピレン樹脂を主体とすることを特徴とする請求項1に記載のエンボス化粧シートの製造方法。

(2)申立の理由の概要
申立人は、甲第1号証(特表平6-155692号公報)、甲第2号証(実願昭57-55343号(実開昭58-157633号)のマイクロフイルム)、甲第3号証(特開平6-278261号公報)を提出して、
理由1:本件明細書の記載には、一部不備があるから、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反するものであり、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである、
理由2:請求項1ないし2に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2項の規定により取り消すべきものである、旨主張している。

(3)甲各号証の記載事項
甲第1号証には、
1-1「【請求項1】溶融したポリオレフィン系樹脂をエンボスの施された冷却ロール上に押し出して得られるエンボスシートのエンボスの裏面と、任意の絵柄の施されたポリオレフィン系樹脂からなる基材シートの絵柄を施した面とを、少なくともいずれかの面にコロナ処理を施した後、少なくともいずれかの面に接着剤を塗布、乾燥した後、熱圧ロールにより接着することを特徴とする化粧シート
の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
1-2「また化粧板とする際に隠蔽性を得る為、この基材シートは無機顔料等により任意に着色されているものが望ましい。」(段落【0010】1ないし3行)、
1-3「また、エンボス加工後はエンボスシート10としてなるため、基材に施した任意の絵柄との同調効果を得るために、この溶融樹脂は透明であることが好ましい。」(段落【0013】)、
1-4「ここで押し出された溶融樹脂7はエンボスの施された冷却ロール8により冷却固化とエンボス加工が同時になされるわけであるが、従来塩化ビニルの化粧シートで行われている加熱ダブリングエンボスのように機械的にエンボスを施しているのではなく、溶融している樹脂を型に入れている状態なので、例えばホログラムに用いられるような非常に微細なエンボスも問題なく入り、エンボス加工後のエンボスの耐熱性も良好なものが得られる。」(段落【0014】)が記載されている。

甲第2号証には、
2-1「(1)無色透明又は着色透明な熱可塑性樹脂フイルムの片面に、所望の模様層とアクリル系樹脂をバインダーとするインキによる不透明ベタ層とが順に設けられていることを特徴とする化粧フイルム。
(2)熱可塑性樹脂フイルムの他の片面には任意の形状のエンボス加工を施され、該エンボスによって形成された凹部には着色樹脂が埋設されていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第(1)項記載の化粧フイルム。」(実用新案登録請求の範囲第1、2項)、
2-2「又、その凹部には着色樹脂(4)を埋設することができ、その方法としてはエンボスと同時に着色樹脂を転移するバーレープリント方法や、エンボスした後に着色樹脂を埋め込むワイピング法等が用いられる。」(3頁18行-4頁2行)、
2-3「フイルムは1層であるので、従来の2層タイプに比較して安価であり、又フイルム間の剥離による不良も生じない。」(4頁8-10行)が記載されるとともに、
2-4 第2図として、エンボス加工を施し、設けられた凹部に着色樹脂を埋め込んだ場合を示す断面図が記載されている。

甲第3号証には、
3-1 内部に凹凸感のある化粧シート及びその製造方法が記載され、
3-2「【0007】……。図1に本発明の内部に凹凸感のある化粧シートの構造の概略を示す。着色したオレフィン系熱可塑性樹脂1としては、塩化ビニル以外で、溶融押出して成形の容易なものであれば特に規定するものではないが、ポリオレフィン系エラストマーなどが特に好適である。
【0008】樹脂への着色は、とくに限定しないが、押し出し樹脂と同系の樹脂に金属粉末で着色したマスターバッチを使用するのが、シートの性質を考える事がなく、望ましい。
【0009】また、シートの厚さも特に規定されるものではないが、シート全体を薄くし、凹凸を明確に表現することを考慮すれば、50〜200μm程度が良い。
【0010】省略。
【0011】透明なオレフィン系熱可塑性樹脂3としては、前記同様溶融押出して成形の容易なものであれば特に規定するものではない。この樹脂は前記着色したオレフィン系熱可塑性樹脂の凹凸2が、層を通して見えるように透明でなければならない。
【0012】また、その厚さは特に規定されるものではないが、全体のシートの厚さと平滑な表面から立体感を得るための視差を考えて、凹凸面の凸部から50〜200μm程度とするのがよい。」(段落【0007】-段落【0012】)、
3-3「【0016】
【実施例】ポリプロピレン樹脂90重量部と、マスターバッチとして茶色に着色したポリプロピレン樹脂(酸化チタン、酸化鉄からなる金属粉末(配合は色による)65重量%含有)10重量部とを混合し、これを図2に示した溶融押出機にて溶融温度240℃で凹凸模様を有する冷却ロール上に溶融押出した。」(段落【0016】の1-6行)が記載されている。

(4)当審の判断
理由1について検討する。
申立人は、明細書の記載不備の理由として、請求項2に係る発明は、「ポリプロピレンを主体とする」点を特徴としているが、明細書の詳細な説明において、「ポリプロピレンを主体とする」が具体的にどのような意味なのか、又はどのような樹脂であるのか明らかにされておらず、当業者がその作用効果を追認することができないものであり、発明の内容を不明確にしている旨を主張している。
しかし、樹脂において「△△を主体とする」とは、樹脂成分に着目した場合に、各樹脂成分中で「△△」が最大の成分量であることを意味することは当業者にとって自明のことであると認められる。
したがって、「ポリプロピレンを主体とする」という技術的事項は、本件発明の目的を達成する範囲内で必要に応じて他の樹脂を配合した場合には、各樹脂成分中でポリプロピレンが最大の成分量であることを意味するものであり、その記載が不明瞭であるとは認められないので、申立人の主張は採用できない。

理由2について
本件発明1について
甲第1号証には、摘示記載1-1ないし1-3からみて、溶融した透明なポリオレフィン系樹脂を、エンボスの施された冷却ロール上に押し出して得られるエンボスシートのエンボスの裏面と、任意の絵柄が施され、隠蔽性を得る為無機顔料等により任意に着色されたポリオレフィン系樹脂からなる基材シートの絵柄を施した面とを、少なくともいずれかの面にコロナ処理を施した後、少なくともいずれかの面に接着剤を塗布、乾燥し、熱圧ロールにより接着することを特徴とする化粧シートの製造方法(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「エンボスの施された冷却ロール」は、摘示記載1-4からみて、本件発明1の「表面にエンボス版を有する冷却ロール」に相当すると認められるから、両者は、溶融した透明なオレフィン系樹脂を、表面にエンボス版を有する冷却ロール上に押し出し、得られるエンボスシートの裏面にコロナ放電処理を施した後、前記エンボスシートの裏面に絵柄層及び隠蔽層を設けるエンボス化粧シートの製造方法である点で共通するが、
(1)本件発明1が、エンボスシートの裏面に絵柄層及び隠蔽層を印刷により形成するのに対し、甲1発明は、エンボスシートの裏面に、絵柄層が施された隠蔽性の基材シートを接着により設ける点、
(2)本件発明1が、得られるエンボスシートの表面にコロナ放電処理を施した後、表面のエンボス模様の凹部に着色インキを埋め込み、さらに樹脂塗料を塗布して樹脂層を形成するのに対し、甲1発明ではこの点について明示されていない点、
(3)本件発明1が、ポリオレフィン系樹脂エンボスシートを含むエンボス化粧シートの全体の厚さを70〜120μmに限定しているのに対し、甲1発明ではこの点について明示されていない点、
の三点で相違していると認められる。
先に、相違点(3)について検討する。
甲第2ないし3号証には、それぞれ、化粧フイルムの製造方法、内部に凹凸感のある化粧シートの製造方法が記載されているが、ポリオレフィン系樹脂エンボスシートを含むエンボス化粧シートの全体の厚さを70〜120μmとすることは記載されておらず、示唆もされていない。
申立人は、甲第3号証には、摘示記載3-2中の段落【0009】の記載から、エンボス化粧シート全体の厚さを70〜120μmとすることについて記載されている旨を主張しているが(特許異議申立書11頁24-25行)、摘示記載3-2の段落【0007】ないし段落【0009】全体を見れば、50〜200μmは、エンボス化粧シート全体の厚さではなく、着色したオレフィン系熱可塑性樹脂1の厚さを示すものであり、エンボス化粧シート全体の厚さを70〜120μmとすることが記載されているとはいえないから、申立人の主張は採用できない。
本件発明1は、相違点(3)に係る技術的事項を有することにより、特許明細書に記載された、シートの厚さが薄いことから低温下でのVカット時に、白化現象が全く見られない優れたエンボス化粧シートが得られるという効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点(1)、(2)を検討するまでもなく、本件発明1は甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、本件発明1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

b)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由により甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

3.むすび
以上のとおりであるから申立人の特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-04-03 
出願番号 特願平7-174958
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
田口 昌浩
登録日 2001-05-25 
登録番号 特許第3191622号(P3191622)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 エンボス化粧シートの製造方法  
代理人 石川 泰男  

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