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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200480218 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
審判199223900 審決 特許
無効200235252 審決 特許
無効200335505 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 産業上利用性 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 特38条共同出願 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A61K
管理番号 1077159
審判番号 審判1997-21765  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-06-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-12-24 
確定日 2003-05-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2088774号発明「整腸剤」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第2088774号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2088774号に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)についての特許出願は,昭和61年12月11日にされたものであり,平成5年12月14日に特許法(平成6年法律第116号による改正前)第51条第2項の規定による出願公告がされ,平成6年12月19日に同法第64条第1項の規定に基づく明細書の補正がされた後,平成8年9月2日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
本件特許に対し,平成9年12月24日にミヤリサン株式会社から本件無効審判の請求がなされ,この請求書の副本を被請求人に送達したところ,その指定期間内である平成10年4月27日に被請求人から答弁書の提出があり,該答弁書の副本は請求人に送達された。(なお,被請求人は,本無効審判事件においては,明細書または図面の訂正を請求していない。)
さらに,特許法第150条第1項の規定に基づく請求人の申立てによる証拠調として,平成12年1月19日に特許庁審判廷において,証人前田暁男,証人音在清高,証人田中守及び証人三上襄の4名に対する証人尋問が行われた。
そして,平成15年3月14日付けで,請求人及び被請求人に対し本無効審判事件の審理の終結が通知されている。

2.特許発明の認定
本件特許発明は,その特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。(なお,本件特許に係る出願公告公報の特許請求の範囲には第1項及び第2項の2つの発明が記載されているが,上記した特許法(平成6年法律第116号による改正前)第64条第1項の規定に基づく明細書の補正により,第2項は削除されている。)

「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する酪酸菌〔クロストリジウムブチリクム(Clostridium butyricum)〕MII588-Sens1株の菌体の純化培養物,又はその純化培養物の培養で得られる内生胞子を有効成分とすることを特徴とする,バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち且つ投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性をもつ細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤。」

3.当事者の主張及び証拠
(1) 請求人の主張及び証拠
請求人ミヤリサン株式会社は,後記の書証及び人証をもって,本件特許第2088774号に係る特許を以下に示す理由により無効とすべきであると主張している。

第1の理由
本件特許発明は,本件特許出願前に公然知られた発明及び本件特許出願前に公然実施をされた発明であるから,本件特許は特許法第29条第1項第1号及び第2号の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第1号(第2号の誤記と認める:注1)に該当する。

第2の理由
本件特許発明は,当業者が本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第1号(第2号の誤記と認める:注1)に該当する。

第3の理由
本件特許発明は未完成発明であるから,本件特許は同法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第1号(第2号の誤記と認める:注1)に該当する。

第4の理由
本件特許発明についての特許を受ける権利は共有に係るものであったにもかかわらず,その特許出願は共有者全員が共同してなされていないので,本件特許は特許法第37条(第38条の誤記と認める:注2)の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第1号(第2号の誤記と認める:注1)に該当する。

第5の理由
本件特許に係る出願は,願書に添付した明細書について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がその要旨を変更するものと認められるから,特許法(注:平成6年法律第116号の第2条による改正前)第40条の規定により,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる。そうすると,本件特許発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明であり,または,当業者が同号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許法第29条第1項第3号または第2項の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第1号(第2号の誤記と認める:注1)に該当する。

第6の理由
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていないから,本件特許は同法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第3号(第4号の誤記と認める:注1)に該当する。

(注1) 請求人は,本件特許に係る特許出願が出願された当時に施行されていた昭和60年改正特許法に基づき無効事由に係る適用条文を示しているものと思われるが,平成5年改正特許法(平成5年法律第26号)附則第2条第4項及び第5項並びに平成6年改正特許法(平成6年法律第116号)附則7条第1項の規定からみて,現行特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定は平成5年改正特許法の施行前にした特許出願に係る特許についてもそのまま適用されるものであるから,上記のとおりの誤記と認める。
(注2) 請求人は,本件特許に係る特許出願が出願された当時に施行されていた昭和60年改正特許法に基づき共同出願違反に係る適用条文を示しているものと思われるが,昭和62年改正特許法(昭和62年法律第27号)附則第3条第1項の規定からみて,現行特許法第38条の規定については当該改正特許法の施行前にした特許出願に係る特許についてもそのまま適用されるものであるから,上記のとおりの誤記と認める。

証拠方法
《書証》
●甲第1号証:The Journal of General Microbiology, Vol.132, Part 8, pp.2271〜2275 (1986年8月発行)
●参考資料1:甲第1号証の翻訳
●甲第2号証:日本細菌学雑誌,第41巻第1号,341頁の「E-III-7」の部分(昭和61年1月25日発行)
●甲第3号証:特開昭63-146825号公報(昭和63年6月18日公開)
●甲第4号証の1:特公平5-86930号公報(平成5年12月14日公告)
●甲第4号証の2:特公平5-86930号の特許法(平成6年法律第116号による改正前)第64条の規定による補正公報(平成9年9月3日発行)
●甲第5号証:特公昭52-48169号公報(昭和52年12月8日公告)
●甲第6号証:「報告書 整腸剤ミヤリサン製剤よりの分離菌と工業技術院分譲株との各種性状の比較検討(第二報)」,平成7年12月23日付,岐阜大学医学部附属嫌気性菌実験施設教授渡邉邦友作成
●甲第7号証の1:「遺伝子レベルでのミヤリサン使用菌株の同一性の検討」,平成9年9月29日付,東京大学伊藤喜久治作成
●甲第7号証の2:「平成9年第0427号事実実験公正証書」,平成9年3月24日作成,公証人中津川彰作成
●甲第7号証の3:「平成9年第0546号事実実験公正証書」,平成9年4月11日作成,公証人中津川彰作成
●甲第7号証の4:本間崇弁護士宛書面,平成9年9月11日付,ミヤリサン株式会社戸倉工場品質管理室室長伊藤廣作成
●甲第7号証の5:日本細菌学雑誌,第49巻第5,6号,808〜821頁(平成6年9月25日発行)
●甲第7号証の6:臨床と微生物,第23巻第6号,40〜51頁(1996年11月25日発行)
●甲第8号証:薬理と治療,Vol.14, No.7,137〜141頁(1986年7月20日発行)
●甲第9号証:薬理と治療,Vol.14, No.10,33〜40頁(1986年10月20日発行)
●甲第10号証の1:「陳述書」,平成9年11月12日付,株式会社ミヤリサン生物医学研究所主任研究員前田暁男作成
●甲第10号証の2:資料A-0〜3(実験ノート):
●甲第10号証の3の1:資料B:「Congress on Bacterial and Parasitic Drug Resistance, Program and Abstracts」(1986年12月10〜13日,タイ国バンコク),155頁の「No.98」の部分
●甲第10号証の3の2:資料B(甲第10号証の3の1)の翻訳
●甲第10号証の4の1:資料C,研究報告書「Clostridium butyricum Miyairiの研究」(研究に要した期間:昭和62年6月1日〜8月31日)のうち「酪酸菌と食中毒菌及び赤痢菌との拮抗」(前田暁男作成)の部分,日宝化学株式会社作成
●甲第10号証の4の2:資料C(甲第10号証の4の1)のFig.1dの翻訳
●甲第11号証の1:「陳述書」,平成9年11月12日付,株式会社ミヤリサン生物医学研究所主任研究員音在清高作成
●甲第11号証の2:資料A-1〜6(音在清高の実験ノート)
●甲第11号証の3:資料B:日本細菌学雑誌,第42巻第1号,318頁の「C-III-9」の部分(昭和62年1月25日発行)
●甲第11号証の4の1:資料C:研究報告書「Clostridium butyricum Miyairiの研究」(研究に要した期間:昭和61年9月1日〜11月30日)のうち「ハムスター消化管中での,宮入菌の時間的変動」(1986年12月7日,音在清高作成)の部分,日宝化学株式会社作成
●甲第11号証の4の2:資料C(甲第11号証の4の1)の図4の翻訳
●甲第12号証:「岩波 生物学辞典 第3版」,207頁右欄の「株」の項,299頁左欄の「菌株」の項及び577頁右欄の「純粋培養」の項,1983年3月10日第3版(1992年7月27日第12刷)発行(株式会社岩波書店)
●甲第13号証:特許庁編「産業別審査基準」のうち「応用微生物工業(改訂2版)」(昭和57年8月作成)の3〜8頁,及び同「微生物の発明に関する運用基準」(昭和57年8月作成)の1〜6頁(発明協会)
●甲第14号証:「陳述書」,平成9年2月3日付,株式会社ミヤリサン生物医学研究所主任研究員前田暁男作成
●甲第15号証の1:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1に係る「寄託申請書」,昭和61年12月5日付,寄託者新井正/代理人前田暁男作成
●甲第15号証の2:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1の寄託申請に係る「微生物条件記録書」,前田暁男作成(日付なし)
●甲第15号証の3:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1の寄託申請に係る「手数料納付書」,昭和61年12月5日付,申請者新井正/代理人前田暁男作成
●甲第15号証の4:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1の寄託に係る「委任状」,昭和61年12月5日付,新井正作成
●甲第15号証の5:「旅費精算書」,昭和61年12月22日付,前田暁男作成
●甲第15号証の6:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1に係る「受託証」(微工研菌寄第9070号(FERM P-9070)),昭和61年12月5日付,工業技術院微生物工業技術研究所長作成)
●甲第15号証の7:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588-Sens1に係る「原寄託についての受託証」(微工研条寄第1612号(FERM BP-1612)),昭和62年12月10日付,通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第16号証:吉藤幸朔作著,熊谷健一補訂「特許法概説〔第11版〕」,56〜60頁, 「(iv)具体性を欠く発明-未完成発明-」の項,1996年5月30日発行(株式会社有斐閣)
●甲第17号証:「陳述書」,平成8年11月26日付,ミヤリサン株式会社研究員田中守作成
●甲第18号証:「陳述書」,平成9年4月14日付,ミヤリサン株式会社研究部研究課長黒岩豊秋及び同主任研究員田中守作成
●甲第19号証:石井賢治供述に係る「供述録取書」,平成9年1月31日付,弁護士本間崇作成
●甲第20号証:特願昭61-293349号に係る「拒絶理由通知書」,平成4年10月16日付,特許庁審査官作成
●甲第21号証:特願昭61-293349号に係る「手続補正書(自発)」,平成5年1月11日付,特許出願人新井正/代理人弁理士八木田茂作成
●甲第22号証:特許庁編「工業所有権法逐条解説〔第14版〕」,476〜479頁, 「特許法第197条」の項,1998年1月1日発行(社団法人発明協会)
●甲第23号証:中山信弘編著「注解 特許法 第二版【下巻】」1586〜1592頁, 「第197条」の項,平成元年10月25日発行(株式会社青林書院)
●甲第24号証:高木篤外2名編「エッセンシャル微生物学 第II版」,91〜93頁, 「F. 自然突然変異」の項,1986年12月25日第4刷発行(医歯薬出版株式会社)
●甲第25号証:「陳述書」,平成10年1月20日付,株式会社ミヤリサン生物医学研究所前田暁男及びミヤリサン株式会社研究部黒岩豊秋作成
●甲第26号証:甲第20号証の拒絶理由通知に対する「意見書(指令)」,平成5年1月11日付,特許出願人新井正/代理人弁理士八木田茂作成
●甲第27号証:【欠番】
●甲第28号証:高木篤外2名編「エッセンシャル微生物学 第II版」,38〜47頁の「II. 細菌の増殖とこれに影響する諸条件」の項及び173〜178頁の「II. 培地と培養法」,1986年12月25日第4刷発行(医歯薬出版株式会社)
●甲第29号証:「陳述書」,平成10年12月15日付,ミヤリサン株式会社坂城工場品質保証室係長兼研究部研究員池田尊及び研究部研究員宮川夏樹作成
●甲第30号証:ミヤリサン株式会社パンフレット「-自然,その限りなき力-MIYARISAN」(発行日不明)
●甲第31号証の1:Clostridium butyricum Miyairi IIに係る「微生物寄託証明書」(微工研菌寄第1467号),昭和55年8月5日付,工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第31号証の2:Clostridium butyricum MIYAIRI 588に係る「原寄託についての受託証」(微工研条寄第2789号(FERM BP-2789)),平成2年3月6日付,通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第31号証の3:微工研条寄第2789号(FERM BP-2789)に係る「生存に関する証明書」,平成2年3月28日付,通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第32号証:「技術開示に関する覚書」,昭和57年12月21日付,ミヤリサン株式会社及び日宝化学株式会社作成
●甲第33号証:日宝化学株式会社パンフレット(発行日不明)
●甲第34号証:取締役社長宮入久和宛「昭和58年度受託研究員の受け入れについて(通知)」,昭和58年4月1日付,千葉大学長作成
●甲第35号証:「企業提携趣意書」,昭和58年9月付,ミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和作成
●甲第36号証の1:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588(FERM P-7765)の寄託申請に係る「手続補正指令書」,昭和59年8月17日付,工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第36号証の2:甲第36号証の1の手続補正指令に対する「手続補正書」,昭和59年9月14日付,申請者新井正/代理人上杉秀幸作成
●甲第37号証の1:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588に係る「寄託申請書」,寄託者新井正/代理人上杉秀幸作成(日付なし)
●甲第37号証の2:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588の寄託申請に係る「微生物条件記録書」,前田暁男作成(日付なし)
●甲第37号証の3:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588の寄託申請に係る「手数料納付書」,申請者新井正/代理人上杉秀幸作成(日付なし)
●甲第37号証の4:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588の寄託申請に係る「委任状」,昭和59年8月3日付,新井正作成
●甲第37号証の5:酪酸菌(Clostridium butyricum)MII588に係る「受託証」(微工研菌寄第7765号(FERM P-7765)),昭和59年8月7日付,工業技術院微生物工業技術研究所長作成
●甲第38号証:特公平3-68011号公報(平成3年10月25日公告)
●甲第39号証:「第二回宮入菌研究会記録」(昭和60年11月27日,上山田文化会館),日宝化学田口信洋及びミヤリサン待井一浩編集
●甲第40号証の1:ミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和宛「生物学療法研究会設立趣意書」,昭和61年10月1日付,新井正作成
●甲第40号証の2:「生物学療法研究会定款」(日付,作成者の記載なし)
●甲第41号証:新井正教授宛書簡,昭和61年11月29日付,ミヤリサン株式会社社長宮入久和作成
●甲第42号証:「稟議書」,昭和61年11月18日付,駒澤宣明起案(昭和61年11月28日決裁)
●甲第43号証:ミヤリサン株式会社宮入和久社長宛書簡,昭和61年12月1日付,新井正作成
●甲第44号証:ミヤリサン株式会社取締役社長宮入和久宛書面,昭和62年3月31日付,生物学療法研究会会長新井正作成
●甲第45号証の1:「出金票」,1987年3月20日付,日宝化学株式会社松野次郎作成
●甲第45号証の2:生物学療法研究会宛「預金口座振込金受取書(三和銀行)」,昭和62年3月20日付,日宝化学株式会社依頼
●甲第45号証の3:日宝化学株式会社取締役社長熊沢俊彦宛「領収書」,昭和62年3月31日付,生物学療法研究会会長新井正作成
●甲第45号証の4:日宝化学株式会社取締役社長熊沢俊彦宛書面,昭和62年3月31日付,生物学療法研究会会長新井正作成
●甲第46号証:宮入久和宛「委嘱状」,昭和62年8月3日付,日本生物学療法研究会会長新井正作成
●甲第47号証:「覚書」,昭和62年12月付,新井正,ミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和及び日宝化学株式会社取締役社長熊沢俊彦作成
●甲第48号証:新井正教授退官記念会の「趣意書」,昭和63年1月付,発起人五十嵐一衛外21名作成
●甲第49号証:ミヤリサン株式会社社長宮入久和宛書簡,昭和63年8月13日付,生物学療法研究会新井正作成
●甲第50号証の1:Progress in Medicine, Vol.13, No.3, pp.157〜162(1993年3月発行)
●甲第50号証の2:医学と薬学,第29巻第4号,1027〜1030頁(1993年4月発行)
●甲第51号証の1:ミヤリサン株式会社滝沢渉社長宛書簡,平成6年2月5日付,加藤巌作成
●甲第51号証の2:ミヤリサン生医研滝沢渉社長及び河野進副社長宛書簡,平成6年3月17日付,加藤巌作成
●甲第51号証の3:書簡(宛先不明),平成6年5月6日付,加藤巌作成
●甲第51号証の4:滝沢渉社長宛書簡,(年不明)6月4日付,加藤巌作成
●甲第52号証:契約書,平成6年(月日未記入)付,新井正(押印なし)及びミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和作成
●甲第53号証の1:ミヤリサン株式会社代表取締役宮入久和宛書面,平成6年11月30日付,新井正代理人弁護士品川澄雄作成〔内容証明郵便(渋谷郵便局長)〕
●甲第53号証の2:新井正代理人弁護士品川澄雄宛「通知書」,平成6年12月(日未記入)付,ミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和/代理人弁護士牛島勉作成
●甲第53号証の3:ミヤリサン株式会社代理人弁護士牛島勉宛書簡,平成6年12月27日付,新井正代理人弁護士品川澄雄作成〔内容証明郵便(渋谷郵便局長)〕
●甲第53号証の4:新井正代理人弁護士品川澄雄宛「通知書」,平成7年1月(日未記入)付,ミヤリサン株式会社取締役社長宮入久和/代理人弁護士牛島勉作成
●甲第54号証:東京地方裁判所宛「訴状」,平成7年3月13日付,原告新井正/訴訟代理人弁護士品川澄雄,被告ミヤリサン株式会社〔平成7年(ワ)第4566号特許権侵害禁止等請求訴訟事件〕
●甲第55号証:東京地方裁判所宛「反訴状」,平成9年11月14日付,反訴原告ミヤリサン株式会社/訴訟代理人弁護士本間崇外1名,反訴被告新井正〔平成9年(ワ)第24447号損害賠償請求反訴事件〕
●甲第56号証:東京地方裁判所平成7年(ワ)第4566号特許権侵害差止等請求事件及び平成9年(ワ)第24447号損害賠償反訴請求事件判決(平成12年1月31日判決言渡)
●甲第57号証:「試験報告書 Clostridium butyricum菌株のファージKM1感受性試験」,平成10年8月10日付,ミヤリサン株式会社研究部研究課長黒岩豊秋作成
●甲第58号証:「意見書」,平成10年9月3日付,ミヤリサン株式会社研究部研究課長黒岩豊秋作成
●甲第59号証:「ファージKM1試験における短時間空気暴露の影響」,平成11年1月8日付,ミヤリサン株式会社研究部主任研究員田中守作成
●甲第60号証:「陳述書」,平成11年1月11日付,ミヤリサン株式会社研究部研究課長黒岩豊秋作成
●甲第61号証:「陳述書」,平成11年4月12日付,ミヤリサン株式会社研究部研究課長黒岩豊秋作成
●甲第62号証:「BERGEY'S MANUAL of Systematic Bacteriology, Volume 2」, pp.1160〜1161, 「13. Clostridium butyricum Prazmowski 1880」の項,1986年発行(Williams & Wilkins)
●甲第63号証:光岡知足著「腸内菌の世界-嫌気性菌の分離と同定-」,291頁, 「Clostridium butyricum Prazmowski 1880」の項,1984年11月10日二版発行(叢文社)
●甲第64号証:「陳述書」,平成13年5月20日付,前田暁男作成

《人証》
証人:前田暁男 株式会社ミヤリサン生物医学研究所 主任研究員
証人:音在清高 株式会社ミヤリサン生物医学研究所 主任研究員
証人:田中 守 ミヤリサン株式会社 研究部 主任研究員
証人:三上 襄 千葉大学 生物活性研究所 助教授
なお,各証人の肩書は証人尋問当時のものである。

各証人の証言内容については「第1回証拠調べ及び口頭審理調書」中の各「証人調書」の「陳述の要領」にそれぞれ記載されたとおりである。

(2) 被請求人の主張及び証拠
被請求人新井正は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの趣旨の答弁をし,その理由として,下記のとおり,請求人のいずれの主張も正当な根拠を欠くものであって,本件特許は無効とされるべきものでないと主張している。

第1及び第2の理由に対して
甲第1号証,甲第2号証に記載の従来技術について事実誤認と微生物学上の誤った解釈に基づいており,正当な理由がない。また,本件特許発明による整腸剤は,甲第1号証及び甲第2号証によって,あるいは甲第6〜第7号証の実験報告の内容並びにその他の各甲号証の内容を参照しても,それの発明の新規性進歩性を有することが否定されるべきものでない。

第3の理由に対して
(A) 酪酸菌MII588-Sens1株は,酪酸菌MII588株と同一の菌株ではない。当該Sens1株は昭和61年12月5日にFERM P-9070として寄託され,その後に昭和62年12月10日にブダペスト条約の規約下に寄託移管した(FERM BP-1612)。
(B) 本件明細書の出願当初の開示内容によれば,酪酸菌MII588-Sens1株の菌体及び内生胞子が整腸作用を有することは充分に明白である。酪酸菌MII588-Sens1株がファージKM1感受性菌のみから実質的に成るものであること,耐性菌を含有しないことの理由からは,該Sens1株が,整腸作用までを喪失したと考えねばならない充分な科学的根拠は見出せない。
酪酸菌MII588-Sens1株の整腸作用を確認した直接の試験例が明細書に示されていないと主張して,本件特許発明が未完成発明であるとした請求人主張は誤りである。

第4の理由に対して
(A) 本件特許の出願の以前において,石井賢治は,ファージKM1の発見者であったと言えるほどに,ファージKM1の発見,単離,精製,同定に貢献していなかった。また,ファージKM1を利用して,酪酸菌MII588株から酪酸菌MII588-Sens1株を純化培養により分離,創製した実験には関与した事実は全くない。発明の材料として使用されたファージKM1の発見の「きっかけ」に関与したかもしれないけれども,その程度で発明者とは認定し難いことは明白である。
(B) 本願の特許出願時には,請求人会社と被請求人は相互間の契約があって良好な協力関係にあった。発明者である前田と田中がそれぞれ所属する日宝化学株式会社,ミヤリサン株式会社との間で被請求人が単独出願することについて了解されており,両者及び被請求人の間の覚書の規定からこのことは自明である。

第5の理由に対して
(A) 補正前の「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体」と,補正後の「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」とは,同じものを意味するのであって,発明の同一性の範疇内にあり,要旨変更の問題を起こさないものである。「酪酸菌MII588-Sens1の菌体」といっても,「酪酸菌MII588-Sens1の菌体の純化培養物」といっても,これらの用語で意味されるものは同一である。内生胞子についても,同様である。
従って,本件特許発明の有効成分であるMII588-Sens1株の菌体の純化培養物は,出願当初の明細書に支持されているので,平成5年1月11日付の当該補正は要旨変更には当たらない。
(B) 特許請求の範囲の「バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち且つ投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性を持つ」の部分が平成5年1月11日付手続補正書により追加されたが,この部分に記載の技術的事項は本発明の整腸剤の有効成分の属性を表現するものであって,MII588-Sens1株の菌体の純化培養物それ自体が所有する性質である。かかる性質が特許請求の範囲に特別に記載されているか否かにかかわらず,特許請求の範囲で特許請求された整腸剤の技術的範囲が変わるというものではない。
因みに,「投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性を持つ」については本願の公開公報に記載され支持されている。また,「バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性を持ち」の技術的事項の追加については,一般に特定の菌株についてファージが発見されその感受性菌が得られた場合,当然のこととして,感受性菌自体はその非感受性菌を排除しているのであるから,別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性を持っていることは当然の理であって,MII588-Sens1株あるいはその菌体の純化培養物を入手した際に必然的に導き出される性質である。したがって,本件特許出願時にMII588-Sens1株が明細書に記載されていたことにほかならない。
したがって,前記の技術的事項の追加の記載は何ら要旨変更に当たるものではない。
(C) 以上の理由により,平成5年1月11日手続補正書は,要旨変更の補正を含まないことが明らかであり,したがって,本件特許出願は平成5年1月11日に出願日を繰り下げられるべきものでない。

第6の理由に対して
(A) 「純化培養」または「純化培養物」という用語は現実に微生物学者により日常的に行われる微生物培養技法を表すものである。したがって,本件特許の明細書において,前記の純化培養(物)の用語の意味を定義する特別な説明及び記載を書く必要がない。
(B) 本件特許明細書には「酪酸菌MII588親株(微工研菌寄7765号)からクローニングによりバクテリオファージKM1に感受性のあるものを選択したもの」が酪酸菌MII588-Sens1株であると記載される(公報4頁右欄31-35行)。この記載によって,微生物学者または生菌製剤の製造業者は,微生物学上で自明の手段により酪酸菌MII588-Sens1株を取得できる。なお,酪酸菌MII588-Sens1株は微工研にFERM BP-1612の受託番号で寄託され,それの分譲を受けることができる。
(C) 酪酸菌MII588にはファージKM1耐性菌とファージKM1感受性菌とが混在して,単一の均質な菌体でないとした明細書記載について,それを裏付ける客観的証拠が明細書に記載されていないこと,並びに酪酸菌MII588からクローニングによりファージKM1に感受性のあるものを選択して酪酸菌MII588-Sens1株を作出したことを裏付ける証拠が明細書に記載されないこと,さらに,親株の酪酸菌MII588と,酪酸菌MII588-Sens1株との差異を,少なくともファージKM1の感受性につき,例えば溶菌曲線等の実験データで比較する試験例が明細書に記載されていないことを,明細書の「記載不備」であると指摘するが,本件特許の明細書の開示全体は,本件特許発明を当業者が容易に実施できる程度に発明の技術的内容を記載してある。本件特許の発明の目的,構成及び効果は,明細書に十分な程度に記載されてあるから,特許法36条3項に規定する要件をすべて満たしている。

証拠方法
《書証》
●乙第1号証:日本微生物学協会編「微生物学辞典」,639頁右欄, 「タクソン」の項,1989年8月23日発行(技報堂出版株式会社)
●乙第2号証:特願昭61-293349号に係る「特許異議の決定」,平成8年5月2日付,特許庁審査官作成
●乙第3号証:「Clostridium butyricum菌株のバクテリオファージKM1感受性試験(2)報告書」,平成10年10月15日付,国立感染症研究所生物活性物質部遺伝生化学室室長堀田国元作成
●乙第4号証:「Clostridium butyricum菌株のバクテリオファージKM1感受性試験(3)報告書」,平成11年11月15日付,国立感染症研究所生物活性物質部遺伝生化学室室長堀田国元作成
●乙第5号証:「酪酸菌Clostridium butyricum MII588-Sens1および整腸剤ミヤリサンより分離した酪酸菌のバクテリオファージKM1に対する挙動に関する研究」,平成8年3月31日付,東邦大学薬学部微生物学教室教授小山泰正作成
●乙第6号証の1:「意見書」,平成11年3月1日付,国立感染症研究所生物活性物質部遺伝生化学室室長堀田国元作成
●乙第6号証の2:「意見書」,平成11年6月7日付,新井正作成
●乙第7号証:「酪酸菌BP-1611株と酪酸菌BP-1612株の集落形態の比較研究」,平成10年3月15日付,茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター教授医学博士小池和子作成
●乙第8号証:医科学研究所学友会編「改訂5版 細菌学実習提要」,517〜524頁, 「141. ファージの実験法」の項,昭和53年6月20日第3刷発行(丸善株式会社)
●乙第9号証:Agricultural and Biological Chemistry, Vol.40, No.7, 1307〜1311頁(1976年5月発行)
●乙第10号証:「意見書」,平成8年11月26日付,農学博士木下祝郎作成
●乙第11号証:日本微生物学協会編「微生物学辞典」,165頁右欄, 「外因性溶菌」の項,1989年8月23日発行(技報堂出版株式会社)
●乙第12号証:「参考資料 細菌のsmoothとroughコロニー」(出典不明。被請求人はBurrowsの「微生物学教科書」42頁と主張している。)

4.当審の判断
A.無効理由1について(特許法第29条第1項違反(同項第1号又は第2号に該当))
(1) 従来周知の酪酸菌整腸剤について
請求人の無効理由1は,「(甲第1,2号証各刊行物の記載を参酌すれば,) バクテリオファージKM1の存在および酪酸菌MII588がバクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有するという事実は本件特許出願前において周知であり,さらにそのような性質を有する酪酸菌MII588が整腸剤として用いられていることも周知の事実である」(審判請求書11頁13〜17行)ところ,酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とは同一の菌株であり(甲第6号証及び甲第7号証の1の各報告書参照),また,甲第8,9号証各刊行物によれば,「『細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する』ことは,親株である酪酸菌MII588の本来有する特徴である」(同17頁26行〜末行)し,このことは甲第10号証の前田暁男陳述書からも裏付けられるので,酪酸菌MII588株を有効成分として含有する従前の整腸剤と本件特許発明に係る整腸剤とは同一であるというものである。
すなわち,請求人は,本件特許発明が甲第1,2号証各刊行物に記載された発明である(特許法第29条第1項第3号に該当)と主張しているのではなく,公然知られた発明又は公然実施された発明である(同条第1項第1号又は第2号に該当)と主張しているのであるが,それにもかかわらず,公然知られた発明又は公然実施された発明としての具体的な対象物(酪酸菌MII588株を有効成分とする整腸剤)は周知であるとして,特定の物を証拠として提出していない。
しかし,被請求人は,一貫して,請求人が主張するとおりの「酪酸菌MII588株を有効成分とする整腸剤」が本件特許に係る特許出願前に周知のものとして存在していたことを前提とし,その整腸剤に含有された酪酸菌MII588株は甲第1,2号証各刊行物に記載されたものであるとして答弁を行っている。すなわち,被請求人は例えば以下のように述べている。
・「本件特許発明の整腸剤の有効成分である『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物』を得るために用いられる菌材料である酪酸菌MII588-Sens1株が甲第1,第2号証に記載される酪酸菌MII588株と微生物学上で明白に区別されるべき別異な菌株であることを下記に説明する。」(答弁書4頁18〜22行)
・「本件特許の整腸剤は,甲第1号証,甲第2号証に記載されない,且つ甲第1,第2号証から予測されない酪酸菌MII588-Sens1株を有効成分の製造用材料として利用した点で甲第8号証および甲第9号証に示された本願出願前に既知のミヤリサン製剤と相違する。」(第2答弁書27頁12〜15行)
・「親株の酪酸菌MII588が整腸剤として効果を有することは既知である。」(第2答弁書40頁7〜8行)
・「当審においては,甲第1号証,甲第2号証記載の酪酸菌MII588株(親株)(FERM P-7765)と,本件特許発明に係る酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)とが『菌株』として互いに同一か,異なるかを論証することが第1の争点である。」(第3答弁書3頁5〜8行)

さらに,この従来周知の「酪酸菌MII588株を有効成分とする整腸剤」が「細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する」ことについても被請求人は争っていないし,このことは甲第8,9号証各刊行物の記載からも明らかといえる。

したがって,「酪酸菌MII588株を有効成分とする細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤」(なお,当該酪酸菌MII588株は甲第1,2号証各刊行物に記載されたものである)が本件特許に係る特許出願前に周知のものとして存在しており,すなわち,そのような整腸剤は本件特許に係る特許出願前に公然知られた発明又は公然実施された発明であることを前提として,以下判断する。

(2) 本件特許発明について
(a) 特許請求の範囲の記載
本件特許発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲に記載されたとおり,「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する酪酸菌〔クロストリジウムブチリクム(Clostridium butyricum)〕MII588-Sens1株の菌体の純化培養物,又はその純化培養物の培養で得られる内生胞子を有効成分とすることを特徴とする,バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち且つ投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性をもつ細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤。」というものである。
そうすると,本件特許発明に係る整腸剤の有効成分は,該特許請求の範囲の記載からすれば「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物,又はその純化培養物の培養で得られる内生胞子」ということになる。

(b) 特許請求の範囲の記載の解釈
(i) 「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する」の解釈
「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する」ことについて,本件特許明細書には次の記載がある。
・「これ迄報告のない酪酸菌バクテリオファージKM1に感受性を有する酪酸菌MII588-Sens1株」(本件公告公報2欄13〜14行)
・「酪酸菌MII588株の中から,バクテリオファージKM1に感受性がある特殊な酪酸菌MII588-Sens1株,……を作出し」(同3欄21〜25行:なお旧特許法第64条の規定により補正されている)
・「バクテリオファージKM1は米国タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC),日本?酵研究所(IFO),東京大学応用微生物研究所(IAM),等から分与された酪酸菌,Schlechteより分与された酪酸菌H8および癌溶解クロストリジウムC.oncolyticum M55(C.butyricum ATCC13732)のいずれも全く溶菌しない。」(同4欄21〜27行)
・バクテリオファージKM1感受性 酪酸菌MII588-Sens1株[++],酪酸菌MII588-Res1株[-],Clostridium butyricum IAM19001株[-](同3頁表2)
・「MII588-Sens1株は,バクテリオファージKM1に感受性で溶菌される点で従来知られた酪酸菌菌株と区別される。」(同7欄16〜19行)
・「酪酸菌MII588-Sens1株は酪酸菌MII588親株……よりクローニングによりバクテリオファージKM1に感受性のあるものを選択したものである。」(同8欄31〜35行)

これらの記載からすれば,バクテリオファージKM1(以下,「ファージKM1」ということがある)に感染すると溶菌する感受性を有するものは酪酸菌MII588-Sens1株のみであり,逆に酪酸菌MII588-Sens1株であれば必ずバクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有するものといえるから,「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する」との文言は「酪酸菌MII588-Sens1株」に特異的な性質を単に表示したものに過ぎないと解される。すなわち,「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する」との構成に格別の意味はなく,この構成を特許請求の範囲に記載することによって「酪酸菌MII588-Sens1株」は何ら限定されるものではない。したがって,「酪酸菌MII588-Sens1株」と記載しても「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する酪酸菌MII588-Sens1株」と記載してもその意味するものは何ら変わらない。
なお,被請求人も,例えば,「本件特許発明の整腸剤の有効成分である『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物』」(答弁書4頁18〜19行),「本件特許発明の整腸剤の有効成分についての技術構成Aを解釈するに当たって,該整腸剤の有効成分は,特許請求の範囲に記載のとおり,『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物,又はその純化培養物の培養で得られる内生胞子』である。」(答弁書9頁18〜21行),「本件特許発明の整腸剤の有効成分は,『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物』であることを確認する。」(第3答弁書3頁3〜4行)と述べており,「バクテリオファージKM1に感染すると溶菌する感受性を有する」の構成を特に含めていない。

(ii) 「純化培養物」の解釈
「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」の「純化培養物」あるいは「純化培養」という用語はそれ自体明確な用語ではない。(被請求人も「『純化培養』というのは微生物学上で特別に定義された技術用語でない。微生物学で用いられる専門用語「純(粋)培養」とは全く異なる意味を有する。」(答弁書7頁4〜6行)と述べている。)それにもかかわらず,本件特許明細書中に「純化培養(物)」を明確に定義する記載は見あたらない。したがって,本件特許明細書の記載のみから「純化培養物」について正確に技術的意義を把握することは困難である。(なお,本件特許明細書には「本発明の整腸剤を製造する場合,その有効成分となる酪酸菌MII588-Sens1株は偏性嫌気性菌を培養するのに普通用いられる方法で培養することができる。」(本件公告公報9欄11〜14行:なお旧特許法第64条の規定により補正されている)と記載されているが,この培養が特許請求の範囲に記載された「純化培養」とは認められない。また,実施例においても「純化培養」の操作については一切触れていない。)

これに対し,被請求人は,「純化培養物」とは「バクテリオファージKM1に対する感受性を指標にして一つの菌株から選択を繰り返して,可及的にKM1感受性菌体のみに純化した培養物」(第3答弁書4頁2〜4行,同旨答弁書7頁17〜19行)を意味するものであると主張し,この定義について,証人三上襄の証言を引用しつつ「当業者にとって周知の作業の呼称である。被請求人独自の定義でもないから説明の要もない。甲第4号証本願特許公報では,クローニングと記載されている。」(第2答弁書33頁13〜16行),「『純化培養』という用語は微生物学者により日常慣用の作業を表すのに用いられており,周知の技術手段を表現するものである。」(同34頁16〜17行)と述べ,当業者に周知のものであると主張している。(なお,被請求人の主張する本件特許明細書の記載は,「本発明で用いる酪酸菌MII588-Sens1株は酪酸菌MII588親株……よりクローニングによりバクテリオファージKM1に感受性のあるものを選択したものである。」(本件公告公報8欄31〜35行)との部分のことであるが,この記載は酪酸菌MII588-Sens1株を作出するための手法を述べたにとどまり,作出された酪酸菌MII588-Sens1株の純化培養について述べたものではない。本件特許明細書には,酪酸菌MII588-Sens1株作出後の培養については上記したとおりの通常の培養手法しか記載されていないのである。)
しかし,このような状況において,「純化培養(物)」の定義が被請求人の主張するとおりのものであるとしてもなお,「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」と「酪酸菌MII588-Sens1株」とは,いずれも「酪酸菌MII588-Sens1株」という「菌株」自体を示すものであり,構成として何も異なるところはないものと認められる。この理由は次のとおりである。

請求人が「純化培養」は甲第12号証の「岩波生物学辞典」に記載された技術用語である「純(粋)培養」と同義と解されると述べたことに対し(審判請求書11頁24行〜末行),被請求人は,「『純(粋)培養』とは,……『ただ1種類だけしか存在しない状態で生物を培養すること。』であり,外来雑菌の侵入しない状態で培養することである。そして,微生物学では,初めの微生物1種のみを培養して得られたもので,云い換えれば雑菌の侵入のない状態で継代保存された『系統』が『株』もしくは『菌株』であると解される。……『株』や『菌株』は,それ自身が『純(粋)培養』された系統であり,微生物分類学で『純(粋)培養』物というのは微生物学の専門用語で単一の微生物種類よりなり且つ外来の別種の雑菌を含んでいない培養物をいうことである。」(答弁書7頁7〜16行,同旨同6頁9〜11行)と反論,説明している。この説明と上記した「純化培養物」についての被請求人の説明とを併せて解釈すると,ある「菌株」(初めの微生物1種のみ)の「純(粋)培養」中に自然突然変異(外来雑菌の侵入ではない)により別異の「菌株」が生じてもやはりそれは「純(粋)培養物」であり,元の「菌株」(初めの微生物1種のみ)が継代保存された「系統」としての「菌株」すなわち単一の微生物種類と呼べるが,一方,この自然突然変異により生じた別異の「菌株」の混入した継代培養物の中から,例えばファージ感受性を指標として選択し,ただ1種類の菌体のみに純化することが「純化培養」である旨主張しているものと認められる。

ところで,本件特許明細書において「酪酸菌MII588-Sens1株は酪酸菌MII588親株……よりクローニングによりバクテリオファージKM1に感受性のあるものを選択したものである。」(本件公告公報8欄31〜35行)と記載されていることから,「酪酸菌MII588-Sens1株」自体が「菌株」であることは明らかである。(このことは,被請求人も「本件特許発明に係るSens1株は,MII588株から選択されたバクテリオファージKM1感受性菌体を純化して『菌株』として樹立された単一の均質な菌株である。」(第3答弁書4頁4〜6行)と述べ,認めている。)
そして,上記「純化培養」の概念に基づけば,「酪酸菌MII588-Sens1株」を保存するためには「純(粋)培養」しただけでは自然突然変異によりファージKM1耐性菌が生じてしまうから,随時ファージKM1感受性試験を基に「純化培養」を行う必要があるというものである。(被請求人も「必然的に,酪酸菌MII588-Sens1株はその性質の劣化を防止するために,随時,バクテリオファージKM1感受性を指標にして純化培養するものである。」(答弁書8頁7〜9行,同旨第3答弁書4頁12〜14行)と述べていることからすれば,この認定に誤りはない。)このとき,「酪酸菌MII588-Sens1株」と「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」とが異なるものであるとの観点からすれば,菌株としての「酪酸菌MII588-Sens1株」中に自然突然変異によりファージKM1耐性菌が生じた状態をなお単一の微生物種類である「菌株」としての「酪酸菌MII588-Sens1株」と呼ぶことが必要になる。(このことは,「純化培養」を行う対象は「酪酸菌MII588-Sens1株」の菌体としていることからも明らかである。)その結果,ファージKM1耐性菌を含む「酪酸菌MII588-Sens1株」に対し,「酪酸菌MII588-Sens1株の純化培養物」は耐性菌を含まないものであるから両者は異なるものを示すこととなる。しかし,これは,自然突然変異が生じる前の「酪酸菌MII588-Sens1株」と自然突然変異が生じた後の「酪酸菌MII588-Sens1株」とはその菌学的性質(ファージKM1感受性)が異なるにもかかわらず同一の名称とする(すなわち,同一の名称の「菌株」が一定の菌学的性質を有さない)一方,自然突然変異により生じたファージKM1耐性菌を取り除いた「酪酸菌MII588-Sens1株の純化培養物」は自然突然変異の生じる前の「酪酸菌MII588-Sens1株」と同一の菌学的性質(ファージKM1感受性)を有するにもかかわらず別の名称とする点で不合理な結果となることから,決して採用し得ないものである。
すなわち,「酪酸菌MII588-Sens1株」が単一の微生物種類よりなる「菌株」を指すものである限り,そこに自然突然変異によるファージKM1耐性株が混入した状態はもはや単一の微生物種類よりなるものとはいえないことは明らかであるから,これらを同一の「菌株」と解する余地はない。そして,「純化培養」とは「菌株」を保存するための手段(被請求人も「菌株は,これを実験に応じて純化培養するのは微生物研究のルーチンの操作」(第3答弁書21頁20〜22行)であると述べている)に過ぎないのであるから,「純化培養」を行った結果得られる「菌株」は,その「純化培養」前にすでに存在していた「菌株」そのもののはずである。(そうでなければ「菌株」の保存手段とはいえない。)
結局,「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体」をファージKM1感受性を指標に「純化培養」したところで,ファージKM1感受性を有する「酪酸菌MII588-Sens1株」という「菌株」がそのまま保存されるだけで,別異の「菌株」となるものではない。すなわち,「酪酸菌MII588-Sens1株」と「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」とは,いずれも「酪酸菌MII588-Sens1株」という「菌株」それ自体を意味する点で何ら異なるものと解することはできない。(酪酸菌MII588-Sens1株」という「物」の構成を表現するために「純化培養」という方法概念を含む構成を加味したところで,そのような操作によって得られたものが元の「物」と何ら変わらなければ,そのような製法概念を含む構成は「物」としての構成に何ら影響を及ぼさないことは当然である。)

なお,被請求人自身,平成5年1月11日付け手続補正書により特許請求の範囲において「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体」を「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」と補正したことについて,「前記の補正前の『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体』と,前記の補正後の『酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物』とは,同じものを意味する」(第2答弁書44頁3〜5行),「『純化培養物』との用語を補正後に用いたのは,酪酸菌MII588-Sens1株中に元来,実質的に含有されていないファージKM1耐性菌が『酪酸菌MII588-Sens1の菌体の培養物』にも,実質的に混在しないように純化されてあることを明確にするためである。『酪酸菌MII588-Sens1の菌体』と言っても,『酪酸菌MII588-Sens1の菌体の純化培養物』と言っても,これらの用語で意味される物は同一である。」(同書44頁8〜13行)と述べているとおりである。

(c) 本件特許発明に係る整腸剤の有効成分の本質
そうすると,本件特許発明に係る整腸剤の有効成分は,「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体又はその内生胞子」としても何ら変わらないことになる。
なお,このことは,本件特許明細書において「本発明の整腸剤を製造する場合,その有効成分となる酪酸菌MII588-Sens1株は ……」(本件公告公報9欄11〜12行),「本発明で用いる酪酸菌MII588-Sens1株の抗食中毒菌,抗赤痢菌作用について説明する。」(同10欄9〜11行),「酪酸菌MII588-Sens1株の内生胞子8×108個を雄100gr前後のゴールデンハムスターに経口投与した」(同12欄36〜38行)及び「酪酸菌MII588-Sens1株及びRes1株の内生胞子を4週令の雄DDYマウスに投与した。」(同13欄13〜14行)等と記載されているように,本件特許発明に係る整腸剤の有効成分を,「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体又はその内生胞子」と認識して記述しており,「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物又はその純化培養物の培養で得られる内生胞子」とことさら明示していないことからも明らかである。

(3) 従来周知の酪酸菌MII588株を有効成分とする整腸剤と本件特許発明との対比
上記した本件特許発明についての解釈を基にすれば,従来周知の「酪酸菌MII588株を有効成分とする細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤」と本件特許発明に係る整腸剤とは,(i)その有効成分が前者においては酪酸菌MII588株であるのに対し,後者においては酪酸菌MII588-Sens1株であるという点,及び(ii)本件特許発明に係る整腸剤は「バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち且つ投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性をもつ」と記載されているが,従来周知の整腸剤はこの特性が明示されていないという点がとりあえずの相違点となる。

ところで,本件特許明細書(本件公告公報8欄11〜30行及び12欄9〜35行)の記載からすると,本件特許発明に係る整腸剤の有効成分である酪酸菌MII588-Sens1株のみがバクテリオファージKM1に感受性で溶菌されるという特異な性質を有し,この酪酸菌MII588-Sens1株の特異な性質をもっぱら利用することにより,「バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち且つ投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性をもつ」との特徴を有する整腸剤が得られたことが明らかであり,この特徴は「酪酸菌MII588-Sens1株を有効成分とする細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤」が必然的に有するものといえる。
この点につき,被請求人も「本件特許発明の整腸剤が有する,バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち,且つファージ非感受性酪酸菌が常在する消化管内において投与酪酸菌が定着,生息し整腸作用を発揮することを確認できるという特性は,ファージKM1感受性を指標にして純化されていない,したがってファージ耐性菌を大きい含有量で含むMII588株では全く得ることが出来ないのである。」(第2答弁書39頁12〜17行),「ここの部分に記載の技術的事項は本発明の整腸剤の有効成分の属性を表現するものであって,MII588-Sens1株の菌体の純化培養物それ自体が所有する性質である。」(同44頁19〜21行)と上記と同趣旨の内容を述べている。
そうすると,相違点(i)が否定されれば相違点(ii)も当然に否定されるものであることは明らかである。(被請求人も「当審においては,甲第1号証,甲第2号証記載の酪酸菌MII588株(親株)(FERM P-7765)と,本件特許発明に係る酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)とが「菌株」として互いに同一か,異なるかを論証することが第1の争点である。」(第3答弁書3頁5〜8行)と述べるに過ぎず,相違点(ii)を議論の対象として取りあげていない。)

したがって,本件特許明細書の記載にもかかわらず酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とが同一のもの,あるいは区別がつかないものといえるのであれば,従来周知の「酪酸菌MII588株細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する」は本件特許発明に係る整腸剤と何ら変わるものではないということになり,逆に,両者が別異の菌株ということであれば,本件特許発明は公然知られた発明でも公然実施された発明でもないということになる。

(4) 酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株との関係
(a) 本件特許明細書には,酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株との関係について,以下の記載があるにとどまり,これ以外の記載はない。
・「酪酸菌MII588株の中から,バクテリオファージKM1に感受性がある特殊な酪酸菌MII588-Sens1株,……を作出し」(本件公告公報3欄21〜25行:なお旧特許法第64条の規定により補正されている)
・「MII588-Sens1株は,バクテリオファージKM1に感受性で溶菌される点で従来知られていた酪酸菌菌株と区別される。」(同7欄16〜19行)
・「従来,整腸剤として投与されていた酪酸菌MII588株(親株)は,バクテリオファージKM1を用いるファージタイピングによる菌株同定法で試験すると,ファージKM1で溶菌される菌体と溶菌されない菌体とが混在しており,単一の均質な菌株でないことが本発明者らによって発見された。」(同8欄5〜10行)
・「本発明で用いる酪酸菌MII588-Sens1株は酪酸菌MII588親株(微工研菌寄7765号)……よりクローニングによりバクテリオファージKM1に感受性のあるものを選択したものである。」(同8欄31〜35行)
これらの本件特許明細書の記載からすると,酪酸菌MII588-Sens1株が酪酸菌MII588株と区別し得る唯一の特徴はファージKM1に感受性を有するという点のみであるといえる。

一方,甲第1号証刊行物には,「試験した32のクロストリジウム属の菌株のうち,ファージKM1は酪酸菌MII588株のみに感染した。」(2271頁抄録部分5〜6行),「ファージKM1は酪酸菌MII588株のただ1株のみに感染した」(2273頁RESULTS欄5〜6行),「試験した32株(表1)のうち,酪酸菌MII588株のみがファージKM1による溶菌を受けた。」(2274頁DISCUSSION欄6行)と,また,甲第2号証刊行物には,「19株のC.butyricum及び13株の他のclostridiaに対し,phage KM1はMII588のみにしか感染しなかった。」(右欄15〜16行)と記載されている。
そうすると,甲第1,2号証刊行物に記載された酪酸菌MII588株は酪酸菌MII588-Sens1株と同様にファージKM1に感受性を有しており(感受性を有さないものを含むことについて何ら記載されていない),溶菌されることが明らかであるから,この性質を有する点において両者は相違しないものということもできる。

ところで,被請求人は「酪酸菌MII588-Sens1株」が「酪酸菌MII588株」とは異なる新規の菌株であると主張しているが,その根拠は,やはり本件特許明細書に酪酸菌MII588株はファージKM1感受性菌体と耐性菌体との混合物である旨(本件公告公報8欄5〜10行)記載されている点にある。そして,被請求人は,「甲第1号証,甲第2号証に記載された酪酸菌MII588株は,バクテリオファージKM1感受性に関して不均一であって,感受性菌体と耐性菌体とより構成された混合物であることは,本件特許明細書に記載されたとおりである。」(答弁書9頁12〜14行)と述べている。したがって,この点について検討する。

(b) 被請求人の主張
被請求人の主張は,詳細には次のようなものである。
甲第1号証刊行物には,「ファージKM1耐性変異株の単離 平板上で内生胞子1×106個とファージ1×109個を混合することにより,酪酸菌MII588の自然発生的なファージKM1耐性変異株を選別した。37℃で48時間培養後,コロニーを釣り上げ,3回連続の単一コロニー単離により純化した。」(2273頁14〜16行),「ファージKM1耐性変異株の調製 酪酸菌MII588の安定なファージKM1耐性変異株であるRes1,Res2,Res3を得た。」(2274頁9〜10行)と,そして,甲第2号証刊行物には,「(9) PhageKM1耐性株の作成。平板にphage KM1及びMII588を塗沫し37℃にて48時間培養後生じたコロニーをpick upした。得られた耐性株は,更にphage無添加の平板で3回継代後耐性を維持していることを確認した。」(右欄4〜6行)と記載されているが,この点を指摘しつつ,「甲第1号証および甲第2号証の前記諸記載から,酪酸菌MII588からKM1耐性菌の3株を分離できたことが実験の事実として明らかにされてある。また,酪酸菌MII588は,KM1によって溶菌されることが甲第1号証には記載されるものの,酪酸菌MII588はファージKM1で溶菌され得ない耐性菌を有意な含有率で含有したことが甲第1号証,甲第2号証の実験事実から明らかである。」(第2答弁書11頁23〜27行,同旨第3答弁書6頁27行〜7頁1行),「事実として,酪酸菌MII588株(親株)は,バクテリオファージKM1で溶菌されるファージKM1感受性菌体と,溶菌されないファージKM1耐性菌体との混合物である。」(答弁書5頁16〜18行)及び「甲第1号証,甲第2号証に記載された酪酸菌MII588株は,バクテリオファージKM1感受性に関して不均一であって,感受性菌体と耐性菌体とより構成された混合物であることは,本件特許明細書に記載されたとおりである。」(同9頁12〜14行)と主張するものである。さらに,甲第1号証刊行物に記載されたFig.2の溶菌曲線につき,乙第5号証の小山泰正報告書を提出して,甲第1号証刊行物に記載された酪酸菌MII588株は,「ファージKM1耐性菌を明白に或る含有率で混在し含有することが結論できる。」(第2答弁書12頁11〜12行),「ファージKM1耐性菌を明白に多数混在,含有する」(第3答弁書7頁16〜17行)と主張している。
他方,本件特許発明に係る酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)については,被請求人は「Sens1株は,バクテリオファージKM1によって溶菌されない耐性菌体を本質的には含有しないものである。」(第3答弁書3頁25〜26行,同旨答弁書5頁22〜23行)とした上で,結局,ファージKM1による溶菌の感受性を指標にして調べると,酪酸菌MII588株(親株)とMII588-Sens1株とは,「その中に含まれるファージ耐性菌の数の点で相違することが確認できるのであり,その点でMII588株とSens1株とが互いに相違する別異の菌株である。」(第3答弁書3頁27行〜4頁1行),「ファージKM1による溶菌に対する挙動の様相を全く異にすることが明白であり,その点で両者は相違する別異の菌株であることが明らかである。」(答弁書5頁23〜26行,同旨第2答弁書26頁28行〜27頁1行),「単に溶菌が認められるということではなく,バクテリオファージKM1による溶菌の様相こそが本件特許発明による酪酸菌MII588-Sens1株及びそれの菌体の純化培養物を識別する核心要素である。」(答弁書9頁9〜11行)と結論し,両菌株におけるファージKM1耐性菌の含有の有無が「菌株」として相違する根拠である旨主張している。

(c) 酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株との同一性について
そこで,被請求人の主張する,酪酸菌MII588-Sens1株が酪酸菌MII588株(親株)の純化培養により得られたものであり,「ファージKM1耐性菌の含有量が酪酸菌MII588とMII588-Sens1との間で同一のレベル」(第2答弁書27頁2〜3行)にないことが酪酸菌MII588-Sens1株と酪酸菌MII588株との「菌株」としての異同に影響を与えるものであるか否かを検討する。

(i) 自然突然変異の存在
被請求人は,「本件特許発明は酪酸菌MII588株からバクテリオファージKM1感受性菌体を純化して『株』として樹立したことを発明の基盤にするものである。酪酸菌MII588-Sens1株は,上記のように純化されたものであり,理論的に耐性菌を含まないものであるが,経時的な菌増殖に伴なって自然突然変異が可能なためバクテリオファージKM1耐性菌が菌株中に生じることもある。…… 必然的に,酪酸菌MII588-Sens1株はその性質の劣化を防止するために,随時,バクテリオファージKM1感受性を指標にして純化培養するものである。」(答弁書7頁末行〜8頁9行,同旨第3答弁書4頁4〜14行)と述べているが,このことは,請求人の述べるように「バクテリオファージKM1耐性菌という不純物を無視できない割合で含む酪酸菌MII588株をバクテリオファージKM1を用いて精製してバクテリオファージKM1耐性菌を無視できる量まで除去して酪酸菌MII588-Sens1株を得ても,時間がたつと酪酸菌MII588-Sens1株中に自然突然変異により不純物のバクテリオファージKM1耐性菌が増えてきてそれが無視できない量になりもとの酪酸菌MII588株に戻る」(平成10年12月31日付け弁駁書9頁12〜18行)ことを示唆するものといえる。すなわち,酪酸菌MII588-Sens1株は経時的な菌増殖に伴い被請求人の主張する酪酸菌MII588株の状態と区別がつかなくなることがあることが明らかである。
そして,このことは,本件特許発明に係る整腸剤で使用する酪酸菌MII588-Sens1株として寄託されたFERM BP-1612株であっても,被請求人の提出した乙3号証の堀田国元報告書によれば,2.1%又は6.6%のファージKM1耐性菌を含むものであることによっても裏付けられている。
なお,被請求人も,「酪酸菌MII588をクロスストリーク法で試験すると,酪酸菌MII588の培養ごとに,あるいは継代培養物の継代ごとに,得られた培養菌株の中のファージKM1耐性菌の含有量が不安定であり,培養菌株ごとにバラつくことが見出された。」(第2答弁書30頁23〜26行),「細菌の一世代あたりの変移率は菌株によって一定し1遺伝子で10-8〜10-9であるが,他方,菌株中の変異菌含有量は培養の歴史や条件によって大きく変わる。酪酸菌とそのファージ耐性菌の関係がその良い例である。…… 乙3号証堀田報告書の表1におけるコロニーカウントによる耐性菌含有量の計数,あるいは甲6号証渡辺報告書BP-1789,P-7765,BP-1612中の溶菌曲線で示唆されたファージ耐性菌含有量の相違を見れば明らかである。」(第2答弁書35頁9〜15行)と述べているように,ファージKM1による感受性試験による耐性菌のコロニーの出現率は一定しておらず,「菌株中の変異菌含有量は培養の歴史や条件によって大きく変わる」ことを述べている。さらに,乙第3号証の堀田国元報告書の考察においても,酪酸菌MII588株であるP-7765のファージKM1耐性菌率は酪酸菌MII588-Sens1株であるBP-1612に近くなる場合があることを述べている。そうすると,被請求人の主張する「溶菌の様相」の違いは,「酪酸菌MII588株」と「酪酸菌MII588-Sens1株」という「菌株」の違いではなく,単に,「培養の歴史や条件」による違いということもでき,実験で測定された耐性菌含有率の大小のみではその純化の度合いを正確には表せないものと認められる。
結局,酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612:なお被請求人の主張及び特許明細書の記載からいえば,当該寄託株は,「酪酸菌MII588-Sens1株の純化培養物」のはずである)のように,いくら純化培養したものであっても,自然突然変異によりファージKM1耐性株が混入してしまうものであるから,甲第1,2号証各刊行物における耐性株の分離に関する記載を基に,そこに記載された酪酸菌MII588株が純化されたものでないということは不当である。(すなわち,被請求人は,甲第1,2号証各刊行物に記載された酪酸菌MII588株からはファージKM1耐性菌が分離されたことをことさら強調するものの(第3答弁書6頁25行〜7頁1行参照),被請求人の提出した乙第3号証の堀田国元報告書においては,酪酸菌MII588-Sens1株として寄託されたはずのBP-1612であっても,甲第1,2号証各刊行物記載の酪酸菌MII588株同様ファージKM1耐性株が分離されるのであるから,該耐性株が分離されたという事実のみをもって菌株の相違を証明することにはなり得ないことは明らかである。)

(ii) 菌株の性質の把握
ところで,「菌株」の意味については甲第12号証刊行物である「生物学辞典」に記載されている。(なお,両者とも同辞典に従うことについては異論がないようである。)そこには,「菌株=株」として,「菌・細菌・細胞などを分離して純粋培養し,植え継いで継代培養するとき,その系統を株という。」と記載されている。
被請求人は,同辞典において「純粋培養」が「ただ1種類だけしか存在しない状態で生物を培養すること。」と記載されていることをもって,「外来雑菌の侵入しない状態で培養すること」と言い換え,ただ1種類しか存在しない状態で培養しているうちに自然突然変異で別の「菌株」が生じたとしても,それは「純粋培養」(すなわち,同じ「菌株」である)であるとした上で,そこには「純化」(元の「菌株」の選択)の概念がないから,「純化培養」と異なるとしているものと認められる。しかし,該「純粋培養」の項には,被請求人の引用した個所の後にさらに「特に純粋培養が不可欠なのは微生物の生理学的研究で,その技術は滅菌と分離にもとづき,」と記載されていることからすると,「純粋培養」においても「ただ1種類だけしか存在しない状態」を保つために分離操作が行われることが示されているのである。すなわち,「菌株」とは分離操作をも含む「純粋培養」により保存されるものである。本件特許発明においてはこの分離操作としてバクテリオファージKM1感受性試験を指標に用いたということに過ぎない。「菌株」を得るための純(粋)培養は,「ただ1種類だけしかない状態」をいかにしてつくるかが重要であり,純(粋)培養で確立された「菌株」は「ただ1種類だけしかない状態」のものといえる。そうすると,自然突然変異により別の「菌株」が生じた場合,それは「雑菌の侵入のない状態で継代保存」されていない,すなわち「ただ1種類だけしかない状態」ではないことになるから,その状態がなお元の「菌株」のままということは誤りである。
そして,この「菌株」の概念からすれば,「酪酸菌MII588株」という「菌株」がファージKM1感受性菌と耐性菌との混合物であるとすることは認められない。
すなわち,本件特許明細書に記載された「従来,整腸剤として投与されていた酪酸菌MII588株(親株)は,バクテリオファージKM1を用いるファージタイピングによる菌株同定法で試験すると,ファージKM1で溶菌される菌体と溶菌されない菌体とが混在しており,単一の均質な菌株でない」(本件公告公報8欄5〜10行)との事実は,もともとファージKM1感受性の「酪酸菌MII588株」を培養中に,自然突然変異によりファージKM1耐性菌が生じ,ファージKM1耐性菌はファージKM1により溶菌されないという点を除き元の「酪酸菌MII588株」と同一の性質を有していたため,ファージKM1が発見されるまで両者を区別できずにそのまま培養していたことによるものであると認められる。ただし,従来周知の「酪酸菌MII588株」は菌株として確立されたものであるから,その継代培養は甲第28号証刊行物である「エッセンシャル微生物学第II版」176〜177頁に記載されているようなモノコロニーアイソレーションの方法が採られていたものとすることに何ら問題はない(請求人上申書4頁15行〜5頁17行及び甲第29号証陳述書)。そうすると,モノコロニーアイソレーションにより確立された「酪酸菌MII588株」という「菌株」自体はファージKM1感受性という単一の菌学的性質を有するものであって,ファージKM1感受性菌と耐性菌との混合物として把握されるべきものではない。(被請求人のいう「酪酸菌MII588-Sens1株の純化培養物」でさえ自然突然変異によりファージKM1耐性菌が生じてくるのであるから(答弁書8頁2〜5行,同旨第3答弁書4頁6〜9行参照),従来周知の「酪酸菌MII588株」を分析した結果は同様の状態にあったものといえ,本質的に変わるものではない。)もちろん,「酪酸菌MII588株」の本質はファージKM1感受性菌かあるいは耐性菌かという議論も当然ありうるが,被請求人も述べているとおり「バクテリオファージKM1感受性株から耐性の変異菌の生じる率は,耐性菌から感受性変異菌の生じる率より多いのが普通である」(答弁書8頁5〜6行,同旨第3答弁書4頁9〜11行)し,実際「酪酸菌MII588株」には耐性菌より感受性菌の方が圧倒的に多く存在しているのであるから(例えば乙第3号証参照),「酪酸菌MII588株」はもともとファージKM1感受性株であったと考える方がきわめて自然である。
なお,請求人が「酪酸菌MII588元菌株は,モノコロニーアイソレーションにより継代されているのでただ1種類の菌体しか含み得ないのである。」(請求人上申書5頁13〜14行)と主張するのに対し,被請求人は,「モノコロニーアイソレーションとは,目的とする性質を有する菌が圧倒的優位を占める菌集団(コロニー)からこの操作を繰り返し目的菌のみの菌集団を樹立する確率論に基づく操作で,絶対的なものでは全くない。目的に添った検出法との組合せで初めて完全なものとなる。さもなければ,例えば,請求人は,感受性菌コロニーを更にモノコロニーアイソレーションをして釣菌した菌が偶々耐性変異菌であっても,その株は元株感受性菌と同一であると言い張ることになる。」(第2答弁書51頁15〜21行)と主張する。しかし,「目的に添った検出法」すなわちファージKM1は菌株の最終的な確認に必要なだけで,これがない限りファージKM1感受性菌の菌集団を樹立できないわけではない。そもそも従来周知の「酪酸菌MII588株」は大多数がファージKM1感受性で,溶菌することは事実であるから,耐性変異菌の菌集団を樹立したものではあり得ない。そうすると,モノコロニーアイソレーションで継代保存されてきた「酪酸菌MII588株」は実際にファージKM1感受性菌の菌株であったと認められる。
したがって,被請求人が試験分析した「酪酸菌MII588株」中にファージKM1耐性菌が混在していたからといって,それが「酪酸菌MII588株」という菌株のもつ菌学的性質ととらえることは誤りである。「酪酸菌MII588株」の菌学的性質は,自然突然変異により混在した菌株であるファージKM1耐性株を除去した上で分析する必要があり,そうしなければ単一の微生物種類からなる「菌株」の菌学的性質を分析したとはいえない。(被請求人も「菌株は,これを実験に応じて純化培養するのは微生物研究のルーチンの操作」(第3答弁書21頁20〜22行)であると述べているとおり,「菌株」の菌学的性質を分析するのに,不純物が混入したままの状態で分析することは適切なことではない。)
なお,本件特許明細書を精査しても,酪酸菌MII588株(親株)と対比した酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)の詳細な性質(形態学的及び生化学的性状)の相違は述べられておらず,酪酸菌MII588-Sens1株(の純化培養物)にファージKM1で溶菌されない菌体が存在しないことも客観的に何ら確認されていない。

(iii) 自然突然変異株と元の菌株との関係
被請求人は,前記したとおり,ある「菌株」(初めの微生物1種のみ)の「純(粋)培養」中に自然突然変異(外来雑菌の侵入ではない)により別異の「菌株」が生じてもやはりそれは「純(粋)培養」であるが,この自然突然変異により生じた別異の「菌株」を取り除き元の「菌株」(初めの微生物1種のみ)を選択し,純化することが「純化培養」である旨主張しているようである。(これが適切でないことは既に述べたとおりである。)しかし,この被請求人の主張に従っても,その結果得られた「純化培養物」は自然突然変異が生じる前の「初めの微生物1種のみ」と何ら変わるものではないはずである。このことは,被請求人が,「ブドウ球菌の『菌株』中に,抗生物質メチシリン耐性変異菌が生じ,これをメチシリンを指標にして選択することにより『菌株』として樹立されれば,これがメチシリン耐性株となり,これと区別されて元の菌株は,メチシリン感受性株であるという」(答弁書6頁25〜28行)と述べていることに符合する。
被請求人は,「ファージ感受性菌の中には各種の栄養要求自然突然変異株や,ファージ感受性の異なる株が存在するから,…… ファージ感受性株については,レプリカ法,あるいはその変法により,希望のファージ感受性を有する集落を釣菌し菌株として樹立することにより新しい菌株の作成が達成される。」(第3答弁書18頁21行〜末行)と述べるが,これは必ずしも新しい菌株の作成を達成する手法ではない。レプリカ法等により新しい菌株の作成が達成されるのであれば,酪酸菌MII588-Sens1株からファージKM1を指標に純化培養によって得られたファージKM1感受性菌もまた,酪酸菌MII588-Sens1株とは異なる新菌株であるということになってしまう。しかし,いずれもファージKM1に感受性を有する同一の菌株に過ぎない。(なお,被請求人の主張は,「酪酸菌MII588株」中に混在していたファージKM1耐性菌を純化培養により取り除いて「酪酸菌MII588-Sens1株」を得,これは「酪酸菌MII588株」とは別異の菌株であるが,「酪酸菌MII588-Sens1株」中のファージKM1耐性菌を純化培養により取り除いて得たものはあいかわらず「酪酸菌MII588-Sens1株」であるというものである。しかし,これは上記した自らの主張と矛盾するものである。)
ファージ感受性の菌体の中からファージ耐性菌の菌株を樹立する場合には,上記被請求人の主張のとおりであるとしても,ファージ感受性の菌体の中からファージ感受性菌株を選択した場合,そのファージ感受性菌株はファージ感受性以外の菌学的性質が元のファージ感受性菌と何ら異ならないのであればこれらは全く区別がつかないのであるから,結局同じものであると考える以外になく,別異の「菌株」としては取り出すことができない。
被請求人は,「純化培養」について「本願特許公報では,クローニングとも記載されている。」(第2答弁書33頁15〜16行)と述べ,「純化培養」イコール「クローニング」であると主張しているが,本件特許明細書における「クローニング」とは,酪酸菌MII588親株から酪酸菌MII588-Sens1株を選択する際に行われている操作であって(本件公告公報8欄31〜35行参照),酪酸菌MII588-Sens1株に生じた耐性菌を除去して「酪酸菌MII588-Sens1株」を保存する際に行うものとしては記載されているものではない。(そもそも,本件特許明細書にはそのような「酪酸菌MII588-Sens1株」の「菌株」を保存する操作について何ら記載されていない。)このような本件特許明細書の記載においてもなお「純化培養」を「クローニング」と同義と主張するのであれば,耐性菌の混在した「酪酸菌MII588親株」から「酪酸菌MII588-Sens1株」を得る操作としての「クローニング」も新たな菌株を創製するためのものではなく,既存の「菌株」を保存する操作と認識されていたものである。この二つの状況における「クローニング」の操作に何ら異なるところはない。

ところで,甲第24号証の「エッセンシャル微生物学第II版」には,「自然突然変異とは,既知の変異原による処理をしないのに起こる突然変異のことである。その頻度は細胞1世代あたり1遺伝子で10-6〜10-9である。細胞の培養液中に抗菌物質(ファージとか薬剤など)を投入すると,培養液中にその抗菌物質に抵抗性の細菌が生じてくる。これは細菌が抗菌物質に接触したのちに,適応して,または誘導されて抵抗性菌になったのではなくて,抗菌物質に接触する以前に,自然に一定の頻度でその抗菌物質に抵抗性になるような突然変異が起こっていて,それが選択されて生じたためである」(91頁5〜11行)と記載されている。また,乙第10号証の木下祝郎意見書では,「因みに一般的な突然変異体の発現頻度は,細胞集団の10-5〜10-10とされており,ミヤリサン製剤が感受性菌のみを含むことは理論的にもあり得ない」(5頁22〜24行),「菌は自然状態であっても変異を起こすものですし,培地及び環境によっても形態も変化します。…… 即ち感受性菌であっても,分裂を繰り返す間に,一定の頻度で耐性菌を生ずるのです。」(7頁20〜24行)と述べられている。すなわち,新たに得られたとするファージ感受性菌もその培養により,元のファージ感受性菌と同様に各種の栄養要求自然突然変異株や,ファージ感受性の異なる株が存在するようになる。
そうすると,本件特許発明においても同様のことがいえ,酪酸菌MII588株(親株)より,ファージKM1に感受性のあるものを選択し,純化培養して得られた「酪酸菌MII588-Sens1株」は,自然突然変異によりファージKM1耐性菌が生じる前の「酪酸菌MII588株」にほかならないといえる。このことは,被請求人が述べるように「(継代培養すると)経時的な菌増殖に伴って自然突然変異によりバクテリオファージKM1耐性菌が菌株中に生じることもある。」(答弁書8頁3〜5行,第3答弁書4頁8〜9行)と述べるとおりである。

(iv) 本件特許発明は,「酪酸菌MII588株」の「菌株」としての本質を見誤ったことにより,「酪酸菌MII588株」そのものを新菌株「酪酸菌MII588-Sens1株」と誤解したことに基づくものであり,結局,実体として両者は同じものに過ぎない。
なお,被請求人は「酪酸菌MII588-Sens1株は,上記のように純化されたものであり,理論的に耐性菌を含まないものである」(答弁書8頁2〜3行,同旨第3答弁書4頁6〜7行)と述べているとおり,「酪酸菌MII588-Sens1株」の性質は理論的なもの(これは「菌株」である)を基準とする一方で,「酪酸菌MII588株」の性質については現実に存在する,不可避的に耐性菌を含むもの(正確にはもはや「菌株」ではない)を基準としており,「菌株」同士の対比を行っていないのである。被請求人は,「甲第1号証,甲第2号証に記載された酪酸菌MII588は,多くのファージKM1耐性菌を含有したものであり,1.0のM.O.I.の感染量でのファージKM1の接種によっては完全には溶解されないのであり,そして,ファージ感染によって不完全な溶菌を起こした後に非溶解の耐性菌が無視できない個数で生き残るという菌学的性質を有する。これに反して,酪酸菌MII588-Sens1株は,ファージKM1耐性菌を実質的に含有しないものであり,1.0のM.O.I.の感染量でのファージKM1の接種によって完全に溶解されて,完全な溶菌後には非溶解の耐性菌を実質的に残さないという菌学的性質を有する。」(第2答弁書26頁21〜28行)と主張するが,溶菌の様相の相違は単一微生物種類よりなる「菌株」同士で比較すべきものである。
そして,甲第1号証刊行物に記載されたFig.2の溶菌曲線が,酪酸菌MII588に「ファージKM1耐性菌を明白に多数混在,含有する」(第3答弁書7頁16〜17行)事実を示すものであることを説明する証拠として被請求人が提出した乙第5号証の小山泰正報告書においては,被検菌は「酪酸菌Clostridium butyricum MII588-Sens1はClostridium butyricum MII588 FERM P-7765より特許公告平5-86930号の記載に従ってバクテリオファージKM1 IFO20064に対する接触画線培養cross streak methodを繰り返し純化培養して得た。」と記載されているが,これは,本件特許明細書において酪酸菌MII588-Sens1株として寄託されたFERM BP-1612とは異なるものを用いたことを示しているものである。その場で純化培養により調製したことは上記の点を一層際だたせる結果となるものと認められ,妥当な実験とはいえない。さらに,液体培養におけるバクテリオファージKM1感染実験で使用された酪酸菌MII588株はいかなる由来のものかは記載されていない。すなわち,酪酸菌MII588株としてのFERM P-7765は酪酸菌MII588-Sens1株を取得するために用いられたことが記載されているのみであり,FERM P-7765自体が実験に用いられたことは記載されておらず,かつ,このFERM P-7765自体が微工研に寄託された菌の分譲菌であるか否か,仮に分譲菌であってもどのような経緯で実験者に渡ったものかも不明である。このような状況に鑑みると,この乙第5号証の小山泰正報告書における実験結果を直ちに被請求人の主張するとおりに甲第1号証刊行物記載の溶菌曲線と対比して評価することはできない。

なお,乙第10号証の木下祝郎意見書では「ミヤリサンの場合,新井特許の発明以前にはおそらく,これらに類する明確な指標が存在しなかったのではないでしょうか。」(2頁26〜27行),「ミヤリサン製剤は本発明により,明確な指標を得たこととなり,そこに工業的意義あるいは,安全性確保という医療上の社会的意義があると思われます。」(3頁9〜11行)と述べられている。このことは,本件特許発明の意義は「明確な指標」すなわちファージKM1を発見したことにより,従来周知の整腸剤「ミヤリサン」の有効成分である酪酸菌MII588株の種菌の管理ができるようになったことにあることが示されており,本発明により新規な菌株が創製されたことを示しているわけではない。「このファージを指標として菌を純化し製剤を得ようという新井特許」(3頁6〜7行)との記述も,新たな菌株の創製ではなく,既存の菌(すなわち酪酸菌MII588株)の純化であって,純化されたものは菌株として異ならないことが前提となっていることは明らかである。

(v) 甲第7号証の1について
被請求人は,酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とは遺伝子レベルでも相違するという(第2答弁書39頁9〜11行)。これは甲第7号証の1の伊藤喜久治報告書に記載された「RAPD法によるバンドパターンの比較」に関する表4及び写真1において,プライマーAP-42に関するバンドパターンがP-7765とBP-1612とで異なっているということに基づくものである(第2答弁書24頁8行〜25頁6行,38頁14〜16行,49頁5行〜50頁2行,第3答弁書17頁18行〜18頁7行)。
P-7765は,被請求人が本件特許に係る特許出願の前に「抗腫瘍剤」に係る発明の特許出願をする際に,請求人会社から分与を受けた「宮入菌」すなわち酪酸菌MII588株をそのまま微工研に寄託したものであることについて両者に争いはない(特に被請求人の主張について第2答弁書28頁6〜24行,54頁18〜25行参照)。そして,このP-7765が本件特許発明に係る酪酸菌MII588-Sens1株(BP-1612)を分離する基となった親株である。
ところで,被請求人が提出した乙第3号証の堀田国元報告書の「感受性試験1」において,「考察」の欄には,「P-7765株は,GAMブロスでの生育は他の株と同様の生育を示すが,生菌数測定のため寒天培地に塗り広げると他の株よりも2オーダー低いコロニーしかでないことが多い。稀に他の株と同じオーダーのコロニーが出ることもある。従って,表1にはのせていないが,試験毎にデータの振れが多く,ファージ耐性菌率はBP-2789株レベルになったり,BP-1612株に近くなったりと変動する。すなわち,P-7765株はファージ感受性が変動するという点では他の菌株と異なるといえるが,安定した性質として判定することはできない。」と述べられており,また,同「感受性試験2」の「考察」の欄にも,「P-7765株はファージゾーン中に出現したコロニー数はBP-1612とBP-2789の中間であったが,分母となるコロニー数出現数が少ない」と述べられており,P-7765株の他の株との特異性が示されている。さらに,甲第57号証の黒岩豊秋報告書においても,「結果」1(2)に「P-7765以外の3菌株はファージによる単一のプラークが多数集まった溶菌斑が観察された。」と,また4(2)に「P-7765株は他の3菌株と比較して,好気性環境下での生菌数の減少は少なかった。」と記載されており,P-7765株の他の株との特異性が示されている。
P-7765株の寄託の経緯からすれば,P-7765株のみに特異的な性質が現れることは考え難く,このような状況においては,このP-7765株は少なくとも一部が変質している可能性が窺われ,甲第7号証の1の伊藤喜久治報告書のP-7765のバンドパターンの他の菌株との相違についても同じ理由によるものと推察される。すなわち,このP-7765株を用いた試験は必ずしも適切な結果が得られていない可能性がある。
しかし,甲第7号証の1の伊藤喜久治報告書においても,本件特許に係る特許出願の前に製造された製品から分離した「宮入菌」とBP-1612株とはバンドパターンが一致していること等を参酌すると(被請求人も同号証の表1の番号1の菌株とのバンドパターンの相違は指摘していない),従来周知の整腸剤の有効成分である酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とが遺伝子レベルで異なるものであるとは必ずしも結論することはできない。

なお,請求人及び被請求人は,実験結果についての報告書をいくつか証拠として提出しているが,これらの実験は,試験サンプルの適切性が確保されているとは言えず,いずれもそのまま証拠として採用することは困難である。(例えば,乙第3号証の堀田国元報告書に記載された試験で使用された菌は,被請求人自身が分譲を受けたものであることが明記されており,乙第3号証の報告書の試験実施者自身が直接分譲を受けたものではないことからすると,この試験菌株の客観的な正当性は確認できないものである。)この点については,乙第10号証の木下祝郎意見書において,「被告のみが専有している情報,及びサンプルはたとえ被告が適性であると主張しても,原告側にその適否を確かめる手段がありません。これは特に,菌株に関する訴訟では致命的です。」(7頁12〜15行)と述べるとおりである。なお,この木下祝郎意見書の内容は,請求人側の実験及び被請求人側の実験のいずれにも言えることであり,また試験サンプルが寄託菌とされていても,実際に寄託菌であったのか否かについては確認する手段がない。
したがって,これらの実験報告書のみに基づいた主張はそのまま採用することはできない。

(5) 酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株との同一性についての被請求人の認識
上記したとおり,酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とは同一の菌株であると認められるが,このことは,以下に示すとおり,被請求人自身本件特許出願前に認識しており,同一の菌株について特許出願する際に単に別の名称を付与しただけのものと認められる。

(a) 文献における記載
甲第11号証の3刊行物には,「酪酸菌の多くの菌株のうち,MII588はphage KM1が感染し得る唯一の株であり,さらに本株より誘導したphage KM1耐性株(C.butyricum Res1)の生物学的性状がMII588と何ら相違ないことを報告した。」(左欄3〜7行)と記載されているが,この記載は明らかに被請求人の主張する「酪酸菌MII588-Sens1株」を「酪酸菌MII588株」と表示しているといえる。なぜなら,ここに記載されている「MII588」はファージKM1が感染し得る唯一の株,すなわち酪酸菌MII588-Sens1株であり,この「MII588」がファージKM1耐性株の混入していないものでなければ,「KM1耐性株の生物学的性状がMII588と何ら相違ない」とすることにも意味がないことになるからである。(これと類似の記載は甲第1号証刊行物(2274頁10〜12行)にも存在する。)このような記載となったのは,酪酸菌MII588株がもともとファージKM1感受性菌であるから,ファージKM1感受性菌としての「酪酸菌MII588-Sens1株」は新たな菌株ではなく,従来の「酪酸菌MII588株」そのものと認識し,一方,ファージKM1耐性菌である「Res1株」は「酪酸菌MII588株」とは異なる新たな菌株と認識されたためと合理的に推測される。耐性菌の純化培養物に対して「Res1」との名称を付与した上で,これと対比すべき感受性菌が純化されていないものであるはずがない(被請求人も「菌株は,これを実験に応じて純化培養するのは微生物学研究のルーチン操作」(第3答弁書21頁20行)であると述べている)。
なお,被請求人は甲第11号証の3刊行物に記載された「MII588」は「酪酸菌MII588-Sens1株」であるとしている(第2答弁書37頁1〜17行)。この趣旨は,新菌株に対し従来周知の菌株と同じ名称で呼んだということであるが,従来周知の「酪酸菌MII588株」と異なる菌株と認識したものに対し,同じ「酪酸菌MII588株」という名称を付けて発表することは常識的にあり得ないし,そうすることは同じ分野の研究者に対する研究発表の内容として著しく信頼性を欠く行為となることから受け入れられない。そうすると,従来周知の「酪酸菌MII588株」の菌学的性質は,当該文献の発表者(被請求人もその一人である)の認識として被請求人の主張する「酪酸菌MII588-Sens1株」のそれと同一であることを前提とするものであったと認められる。そして,このような認識は本件特許に係る特許出願前に存在したといえる(第2答弁書37頁10行に,甲第11号証の3の「学会抄録」提出締め切り日は本件特許に係る特許出願前の昭和61年11月15日であったと被請求人が述べている)。
被請求人は,「学問上の新菌種(株)としての優先権は …… 原著として学会誌に刊行されて初めて認められるものである。」(第2答弁書37頁14〜16行),「MII588-Sens1を同定するために必要な実験成績が特許出願として提出されるまでは,MII588-Sens1株は学会では未同定とされる菌株であった。」(同37頁11〜13行)と述べ,「酪酸菌MII588-Sens1株」と明示しなかった理由を主張しているが,この主張は,新菌株「Res1」も同定するために必要な実験成績が本件特許出願として提出されるまでは学会では未同定とされる菌株のはずであるのに,同じ取扱いがなされていないのであるから,両者の取扱いの差を首肯し得るほどの説明にはなっていないことから受け入れられない。
さらに,甲第11号証の3刊行物はファージKM1耐性菌である「酪酸菌Res1株」に関するものであって,本件特許の対象である「酪酸菌MII588-Sens1株」自体には全く着目していないし,また,同号証に記載された日本細菌学会の発表プログラムにも「酪酸菌MII588-Sens1株」に係る発表は掲載されていない。被請求人は,「菌株は,これを実験に応じて純化培養するのは微生物研究のルーチンの操作であり,ファージKM1を使用したのが本件特許発明に関する実験の特殊性であったが,そのようなことは学術論文として発表されるような代物ではない。」(第3答弁書21頁20〜21行)と述べてはいるが,この説明は逆に被請求人の「酪酸菌MII588-Sens1株」についての新規性の欠如の認識を窺わせるに十分である。

このことは,甲第39号証の「第二回宮入菌研究会記録」の記載からも言える。すなわち,同号証中の「酪酸菌に感染するphageに関する研究」(16〜17頁)においては,phage KM1が宮入菌のみに感染することやphage耐性菌を得たことが記載されるが,この内容に関し,被請求人が前田暁男に対し「phage KM1は非常に特異性が高いので,このphageが感染する酪酸菌ということで特許を取ることを検討されたらどうか。」(17頁20〜22行)と述べているのである。この「phage KM1が感染する酪酸菌」とは当該報告における実験菌である「宮入菌」以外に考えられず,またこの「宮入菌」は耐性菌を分離できたものであることも当該報告書に記載されている。そして「宮入菌」とは従来周知の酪酸菌MII588株のことであるから,従来周知の酪酸菌MII588株が「phage KM1が感染する酪酸菌」すなわち被請求人の主張する「酪酸菌MII588-Sens1株」であることを被請求人自ら認識していたものといえる。

(b) 酪酸菌MII588-Sens1株創出の経緯
被請求人は,「発明者としてファージKM1に対して感受性を有して該ファージで溶菌される菌(体)のみを実質的に含有する酪酸菌MII588-Sens1株をスクリーニングにより酪酸菌MII588から分離して創製することに成功した。」(第2答弁書31頁8〜10行,同旨第3答弁書4頁25行〜末行),「被請求人は,その創製された酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)が新規な菌株であると考えており,酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物を有効成分として整腸剤に利用する発明を特許出願した」(第3答弁書5頁7〜9行)と述べ,被請求人自ら「酪酸菌MII588-Sens1株」を創製したと主張している。そして,被請求人は,「酪酸菌II588-Sens1株を整腸剤に利用する発明を特許出願することを意図していた。整腸剤についての特許出願前には,その創製された菌株について発明の新規性の喪失を懸念していたので,Sens1という呼称は,教室においても公には使用せずに,分類学上の上位概念のMII588(株ではない)と呼ばれていた。実体は酪酸菌MII588-Sens1株であったが教室ではMII588と呼称された菌を用いた実験を被請求人は研究員に指導した。」(第2答弁書31頁18〜25行)と述べており,被請求人が「酪酸菌MII588-Sens1株」を創出したこと自体公にしていなかったと主張する。すなわち,本件特許の発明者は被請求人自身と田中守及び前田暁男であるが,被請求人は本件特許に係る特許出願のために「酪酸菌MII588-Sens1株」の存在を当時被請求人の教室の受託研究員であった前田暁男らに伏せていたというのである(このような状況からみて,もう一人の発明者の田中守(請求人会社の社員)にも伏せていたものと合理的に推察される)。
そうすると,「酪酸菌MII588-Sens1株」の存在を本件特許に係る特許出願前に知っていたのは,被請求人自身のみか,被請求人と本発明者以外の第三者ということになるが,後者は前田暁男らにそのことを伏せていた理由から考えるとあり得ないことといえる(発明者に隠しておいて,発明者でない者にそれを開示するという説明は特許出願のためという理由からは受け入れられない)ので,本件特許に係る特許出願前に「酪酸菌MII588-Sens1株」について知っていたのは被請求人のみしかいないことになる。
このような状況において,被請求人は請求人の主張立証に対し反論はするものの,「酪酸菌MII588-Sens1株」の創出の経緯を立証する証拠を一切出さないでいる。そうすると,本件特許に係る特許出願前に,新菌株としての「酪酸菌MII588-Sens1株」が存在したとする被請求人の主張は極めて不自然であり,何らの裏付けもない主張といわざるを得ない。特に,特許出願を理由に新規性の喪失を恐れて発明者にまで実体を秘密にするという説明は,直ちに受け入れることはできない。被請求人は,「前田暁男は,…… 被請求人の信任も厚かった」(第3答弁書20頁14〜15行)と述べており,また,被請求人は,本件特許に係る特許出願前に前田暁男を代理人として微工研に「酪酸菌MII588-Sens1株」の寄託を行っている(甲第15号証の1〜7)のであるから,なおさらである。また,甲第39号証の「第二回宮入菌研究会記録」によると,被請求人は前田暁男に対し,「phage KM1は非常に特異性が高いので,このphageが感染する酪酸菌ということで特許を取ることを検討されたらどうか。」(17頁20〜22行)と述べていることからしても,その後における前田暁男に対する秘密保持の必要性は到底考慮し得ないものである。
そうすると,実際には「酪酸菌MII588-Sens1株」は「酪酸菌MII588株」と同じものと認識していたため(単にルーチンの操作としての純化培養を行い,「菌株」の保存を行っただけである),別途新たな名称を付与する必要がなかったと解するのが相当である。(このことは,「Res1株」については,同様に新規に得られた菌株であり,特許出願も行っている(本件特許に係る公開公報(甲第3号証)及び公告公報(甲第4号証の1の特許請求の範囲第2項参照)にもかかわらず,新規性喪失を防ぐための配慮を何ら行っていなかったという対応の違いからも明らかである。)

被請求人は,「昭和59年暮,ファージKM1が発見された。それ以後,昭和60年〜61年にはファージとMII588株を使用した活発な実験が行われた。ファージKM1を酪酸菌MII588と接触させる各種の実験に際しては,実験に供された菌株の性質が実験ごとに不同であったのでは,実験の結果の再現性が得られない。…… 当時,常に均質な菌学的性質を有するところの,酪酸菌MII588菌株を実験に供することが実験の再現性を確保するために要求された。新井教室において実験に供される酪酸菌MII588菌として均質な性質をもち,ファージKM1耐性菌の少なく,換言すればファージKM1感受性に関してより純化された菌株を選択することが常に心がけられた。」(第2答弁書30頁20行〜31頁2行)と述べている。
この記述から,当時,酪酸菌MII588株がファージKM1感受性菌であることを前提として,ファージKM1耐性菌を取り除くことにより酪酸菌MII588株の菌学的性質を一定化させようとしたこと,すなわち,ファージKM1感受性に関して純化された菌株が酪酸菌MII588株の本質であって,そのような性質を有する酪酸菌MII588株自体を選択しようとしていたことが窺われる。このことは,当時,「酪酸菌MII588株」という菌株はファージKM1感受性のものであり,被請求人の主張する「酪酸菌MII588-Sens1株」そのものであるとの技術常識が存在していたことを示しているものといえる。被請求人自身,「菌株は,これを実験に応じて純化培養するのは微生物研究のルーチンの操作」(第3答弁書21頁20行)であると述べており,まさに,酪酸菌MII588株そのものを実験に応じて純化培養し,被請求人のいう「酪酸菌MII588-Sens1株」とすることは微生物研究のルーチン操作であったのであり,両者は同一の菌株と考えられていたことが被請求人の主張からも明白である。

耐性菌と明確に区別する場合,あるいは自然突然変異によりファージKM1耐性菌が混入してしまった「酪酸菌MII588株」と特別に区別する場合には,上位概念的な名称である「酪酸菌MII588株」より「Sens1」の方が便利ではある。
そうすると,本件特許に係る特許出願を行うにあたり,「純化培養」を行うもととなった「酪酸菌MII588株の培養物」(自然突然変異によりファージKM1耐性菌を含むものであって,「酪酸菌MII588株」そのものではない)と形式的かつ明示的に区別するために,「酪酸菌MII588株」に対して耐性菌「Res1」と対比する形で「酪酸菌MII588-Sens1株」と名付けたに過ぎないものと認められる。なお,被請求人は,「『純化培養されたMII588』(後にMII588-Sens1と命名された)」(第3答弁書21頁4〜5行)と述べるが,この純化培養自体「微生物学研究のルーチン操作」(同書21頁20行)であり,新たな菌株を得るためのものではないことから,結局「酪酸菌MII588株」自体について後に「MII588-Sens1」と命名したことを示すものといえる。

(6) まとめ
以上のことから,酪酸菌MII588株と酪酸菌MII588-Sens1株とは同一の菌株であると認められる。
そうすると,上記A(3)で示した相違点が存在しなくなるので,本件特許発明に係る整腸剤は,従来周知の「酪酸菌MII588株を有効成分とする細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤」と何ら変わらないものといえる。したがって,本件特許発明は,請求人が主張するとおり,本件特許に係る特許出願前に公然知られた発明又は公然実施された発明であるから,本件特許は,特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し,同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

B.無効理由2について(特許法第29条第2項違反)
上記A(3)において示したとおり,本件特許明細書の記載によれば,本件特許発明に係る整腸剤は,甲第1,2号証各刊行物に記載された従来周知の酪酸菌MII588株を含有する整腸剤と形式的には相違するものであるが,その相違点については,下記の理由により,当業者が容易に想到し得たものと認められるので,本件特許発明は当業者が甲第1,2号証各刊行物の記載に基づいて容易に発明することができたものであり,本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(1) ファージKM1感受性菌の選択について
ファージKM1耐性菌が混入してしまった酪酸菌MII588株(もはや菌株と呼べるものではなく感受性菌と耐性菌の混合物である。以下同じ)からファージKM1を用いてファージKM1感受性の酪酸菌MII588-Sens1株のみを得ることは,不純物の混入した菌体を純化したものといえる。この菌体の純化培養はファージKM1の発見により可能になったものである。そして,ファージKM1は,甲第1,2号証各刊行物により,本件特許に係る特許出願前に公知のものであった。
ところで,医薬として使用する成分について,不純物の混入を避けるために精製(純化)することは当業者が通常行うことである。当該酪酸菌MII588株についてもファージKM1の発見により単一の菌株でないことが既にわかっていたのであるから,それを純化培養(これは当業者が通常行う周知の方法と被請求人は主張している)により単一の菌株にしようとすることは医薬に使用する成分として極めて当然のことに過ぎない。
その際,当該酪酸菌MII588株はファージKM1感受性菌と耐性菌との混合物であることからすれば,これら2つの菌株のいずれを純化して使用するかは,整腸剤の用途等を考慮した上で当業者が適宜判断すればよいことでありそこに何らの困難性もない。そして,ファージKM1感受性菌は,上記したとおり,元の酪酸菌MII588株の本質と考えられていたのであるから,純化培養によって得られたそのファージKM1感受性菌を得て,これを元の酪酸菌MII588株とは別の用途に用いるのであれば格別,本件特許発明においては全く同じ用途に使用するものであるから,本件特許発明はその有効成分及び用途を含めて当業者が何ら創意工夫することなく,極めて容易に想到し得ることに過ぎない。

なお,確かに,ファージ感染防止という観点からのみ考えれば,ファージ耐性菌を使用することが技術の方向であり,当業者はファージ感受性菌を使用することはあり得ないと考えられる(後記乙第10号証の木下意見書でいう「第二の方法」はこの観点で述べているものと考えられるし,また,本件出願公告時の明細書にはこのことに触れており(本件公告公報13欄21〜25行),さらに甲第11号証の3刊行物の記載内容も,このことを裏付けるものである)としても,本件特許発明はそもそもファージ感染防止をその目的とするものではなく,また,ファージ感染防止のみが当該分野の技術の流れではないことから,ファージ感染対策のみの観点から進歩性を検討し,判断することは必ずしも適切なことではない。

(2) 本件特許発明に係る整腸剤の作用効果(特性)について
本件特許明細書によれば,本件特許発明に係る整腸剤が従来の酪酸菌MII588株を用いる整腸剤と比べてその作用効果として最も大きく相違する点は,(i)「バクテリオファージKM1感受性試験により酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性をもち」且つ(ii)「投与後の消化管内の定着,生息による整腸作用を確認できる特性をもつ」ことにあるとしている。(特許請求の範囲の記載,本件公告公報8欄11〜30行及び第2答弁書38頁28行〜39頁8行参照)

(a) (ii)の点について
このうち(ii)の特性については,甲第1,2号証各刊行物に記載された従来の酪酸菌MII588株もファージKM1感受性試験により溶菌される菌株でその大半を占めるものであるから,本件特許明細書の「整腸剤として従来投与された酪酸菌MII588株またはその他の酪酸菌菌株は,それらの投与後にその整腸作用を果たすべく消化管内で定着,生息していることが本来必要とされるが,その定着,生息を,消化管内に常在する酪酸菌のその他の菌株と的確に識別して確認することができない」(本件公告公報8欄17〜23行)との記載に反し,ファージKM1感受性試験により消化管内での定着,生息を確認できるものと認められる(常在酪酸菌の駆逐を確認するものではない)。なぜなら,この観点からはファージKM1感受性試験による溶菌が生じる酪酸菌が存在するという事実が確認できれば足りるのであり(このような感受性菌は経口投与したものにほかならない),そのためにはファージKM1感受性菌の一定量の存在が必要なだけであって,ファージKM1感受性菌のみからなる整腸剤までを必要とはしないからである。
なお,このような確認が行えるか否かは,ある限られた研究の用途としては有用とされることもあるといえるかもしれないが,一般的には,「細菌性食中毒の予防及び治療作用を有する整腸剤」として使用する場合,必ずしも必要な性質であるとは認められない。これは,ファージKM1感受性試験で確認できることと整腸剤としての有効性とは直接の関係はないからである。(本件特許明細書の記載からもファージKM1感受性菌と耐性菌とで消化管内の定着,生息に差があり,整腸剤としての効果も相違するとしているわけではない。)被請求人は,「整腸剤として優れた効果を奏するためには,経口投与された菌が消化管内に定着,増殖することが必要である。しかしヒトや動物の腸管にはファージ非感受性の酪酸菌が常在するから,投与した菌製剤を追跡することは,特異的なファージKM1感受性のMII588-Sens1株を使ってファージ感受性をテストしつつ追跡することによってはじめて可能である。」(第2答弁書39頁2〜6行)と述べるが,「経口投与された菌が消化管内に定着,増殖」すれば,それを「追跡」できなくても「整腸剤として優れた効果を奏する」のであるから,被請求人のこの主張は「整腸剤」の効果の主張としては格別の意味を持たないはずである。

(b) (i)の点について
一方,上記(i)については,本件特許明細書における「整腸剤として従来投与されていた酪酸菌MII588株またはその他の酪酸菌菌株は,それの整腸剤として製造する過程で菌体を培養する段階に酪酸菌のうち別異な菌株として,整腸作用のない菌株及び(又は)毒素生産株の迷入が起きた場合にも,その迷入を確認できない欠点があった。」(本件公告公報8欄11〜17行)との記載からすれば,ファージKM1により溶菌される酪酸菌MII588-Sens1株のみを使用することによって,ファージKM1感受性試験により溶菌されない菌体が確認できれば,それを直ちに「酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入」と判断することができるというものと認められる。これはファージKM1耐性菌を混在している従来の酪酸菌MII588株では得られない特徴であるといえ,そして,この特徴は酪酸菌を含有する生菌整腸剤の製造において重要な効果をもたらすものといえる。
ただし,この(i)の特性に関しては,整腸剤がファージKM1感受性である酪酸菌MII588-Sens1株以外の酪酸菌菌株を含まないことが絶対的前提として必須である。被請求人は,「ファージ耐性菌を多く含む株では,…… 酪酸菌の別異な迷入菌の侵入の確認も全く不可能である。」(第2答弁書39頁6〜8行),「ファージKM1感受性を指標にして純化されていない,したがってファージ耐性菌を大きい含有量で含むMII588株では全く得ることが出来ないのである。」(同39頁15〜17行)と述べ,ファージKM1耐性菌を多少含んでもかまわないものであることを主張しているようであるが,これは大きな誤りであり,ほんのわずかでもファージKM1耐性菌を含むものであると,ファージKM1感受性試験で溶菌されない菌が必ず存在することになり,この非感受性菌はもとから存在したものか,別異の迷入菌株の侵入が生じたものかを確認できず,本目的を達成することは不可能となるはずである。
しかし,本件特許発明で使用する酪酸菌MII588-Sens1株として寄託されたFERM BP-1612株でも,被請求人の提出した乙3号証の堀田報告書によれば,2.1%又は6.6%のファージKM1耐性菌を含むものであり,そうすると,酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612株)を使用しても,酪酸菌の別異の迷入菌株の侵入の有無は必ずしも確認できないことになるはずである。
なお,被請求人自身も「酪酸菌MII588-Sens1株は,…… 理論的に耐性菌を含まないものであるが,経時的な菌増殖に伴なって自然突然変異が可能なためバクテリオファージKM1耐性菌が菌株中に生じることもある。バクテリオファージKM1感受性株から耐性の変異菌の生じる率は,耐性菌から感受性変異菌の生じる率より多いのが普通である。」(答弁書8頁2〜6行,第3答弁書4頁6〜11行)と述べており,耐性菌を含まないものは理論的なものであることを認めている。さらに,被請求人は,「本件特許発明の整腸剤では,Sens1株はその自然変異耐性菌の増加を防止するために,随時,バクテリオファージKM1感受性を指標にして純化培養されるものであり,その純化培養物が有効成分として使用される。」(第3答弁書4頁12〜14行)と主張するが,このような純化培養の手法については,本件特許明細書には厳密には記載されていない。(本件明細書には「本発明の整腸剤を製造する場合,その有効成分となる酪酸菌MII588-Sens1株は変性嫌気性菌を培養するのに普通に用いられる方法で培養することができる。」(本件公告公報9欄11〜14行)と通常の培養が記載されているに過ぎず,また,被請求人の主張する純化培養の根拠である「クローニング」は酪酸菌MII588株(親株)から酪酸菌MII588-Sens1株を得る際に使用されるものである。)それだけでなく,この純化培養物自体は本件特許明細書中でも客観的に確認されておらず,またいずれの証拠からもこれを全く確認することはできないものである。被請求人の上記主張からしても,有効成分としての「酪酸菌MII588-Sens1株」は,どんなに純化したとしても最終的に行う通常の方法での培養の際に自然突然変異により生じたファージKM1耐性菌を取り除くことはできず,「整腸剤」の有効成分としての「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」はほとんど意味をなさないものである。

そうすると,「酪酸菌MII588株」を基に「酪酸菌MII588-Sens1株の菌体の純化培養物」を得たとしても,結局はファージKM1感受性菌の純化の程度の問題に過ぎず,そうすると,本件特許発明の作用効果(特性)も,上記したとおり厳密には従来周知の整腸剤と区別できる程度には達成されていないことになる。

(c) 乙第10号証について
ところで,乙10号証の木下祝郎意見書において,本件特許発明の特許性,工業的意義について,「一般的にファージが発生したら,先程述べた第一の方法(注:工場全体或いは製造現場を徹底的に清浄すること)は勿論,第二の方法(注:ファージに耐性を有する菌を造成するか,ファージにもともと抵抗性を持った系統の異なる菌を用いること)もとられます。しかしながら,ミヤリサンのように伝統的な生菌製剤では,別系統の菌種を用いることもできないでしょう。従って,親株から耐性菌を造成することが考えられます。…… ところが,新井特許(注:本件特許)の特徴は逆にわざわざファージにかかる菌を純化して用いようというもので,発酵工業において他に例を知りません。このような逆転の発想は,毒素原性を持ったClostridium菌の混入を回避できる等の効果に通じ,……」(2頁3〜12行)と述べられており,前記(ii)の特徴を基に,ファージKM1感受性菌の選択は「逆転の発想」すなわち当業者において容易に想到し得ないことを示している。
しかし,上記したように,本件特許発明において特許明細書に開示した酪酸菌MII588-Sens1株(FERM BP-1612)ではこの特徴は従来の酪酸菌整腸剤と明確に区別し得る程度には確認できないことからすると,本件特許発明について木下祝郎意見書における進歩性の根拠はそもそも存し得ないことになる。
さらに,同意見書では,「因みに一般的な突然変異体の発現頻度は,細胞集団の10-5〜10-10とされており,ミヤリサン製剤が感受性菌のみを含むことは理論的にもあり得ない」(5頁22〜24行),「菌は自然状態であっても変異を起こすものですし,培地及び環境によっても形態も変化します。…… 即ち感受性菌であっても,分裂を繰り返す間に,一定の頻度で耐性菌を生ずるのです。」(7頁20〜24行)と述べられている。このことは,酪酸菌MII588-Sens1株を何度純化培養したものであっても,整腸剤を製造するために大量培養する際には,その培養過程で耐性菌を一定の頻度で生じてしまうことを示すものにほかならない。自然突然変異が避けられないものである限り,酪酸菌MII588-Sens1株がファージKM1感受性菌のみを含む整腸剤も理論的にあり得ないはずである。そして,この自然突然変異により生じた耐性菌は「酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入」と区別できないことから,結局,本件特許発明の整腸剤においても「酪酸菌の別異な迷入菌株の侵入の有無を確認できる安全性」を持ち得ないことになってしまう。これは,結果として従来周知の酪酸菌MII588株を有効成分とする整腸剤とその作用効果において何ら相違しないものであることを示しているものといえ,上記認定,判断に沿うものにほかならない。

5.むすび
以上のとおり,本件特許発明は,本件特許に係る特許出願前に公然知られた発明又は公然実施をされた発明であるから,特許法第29条第1項第1号若しくは第2号の規定に該当し,また,本件特許発明は,当業者が甲第1,2号証各刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は同条第2項の規定に違反してされたものである。したがって,本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し,請求人の主張する他の無効理由について検討するまでもなく,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-03-14 
結審通知日 2003-03-19 
審決日 2003-04-02 
出願番号 特願昭61-293349
審決分類 P 1 112・ 151- Z (A61K)
P 1 112・ 112- Z (A61K)
P 1 112・ 113- Z (A61K)
P 1 112・ 121- Z (A61K)
P 1 112・ 14- Z (A61K)
P 1 112・ 531- Z (A61K)
P 1 112・ 111- Z (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 竹林 則幸
松浦 新司
登録日 1996-09-02 
登録番号 特許第2088774号(P2088774)
発明の名称 整腸剤  
代理人 八田 幹雄  
代理人 田中 成志  
代理人 本間 崇  
代理人 八木田 茂  
代理人 野上 敦  
代理人 品川 澄雄  
代理人 浜野 孝雄  
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