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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効としない B01J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効としない B01J
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない B01J
管理番号 1078718
審判番号 無効2002-35078  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-03-06 
確定日 2003-04-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2898742号発明「拡散接合によるメタル担体の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2898742号の請求項1乃至5に係る発明は、平成2年11月13日に特許出願され、平成11年3月12日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、カルソニックカンセイ株式会社から平成14年3月6日付けで請求項1乃至5に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その手続の経緯は、次のとおりである。
無効審判請求書: 平成14年3月6日
答弁書: 平成14年6月5日
訂正請求書: 平成14年6月5日
弁駁書: 平成14年8月7日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成14年10月17日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成14年10月17日
口頭審理: 平成14年10月17日
上申書(請求人): 平成14年11月8日
上申書(被請求人): 平成14年12月6日
II.訂正の適否
1.訂正の内容
平成14年6月5日付け訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項aのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:特許明細書の第7頁16行(特許公報第2頁第4欄41行)の記載において、「面圧」を「後方張力」に訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについては、請求項3に「後方張力が0.5kg/mm2以上であること」と記載され、実施例においても「平板に5kg/mm2の張力を付与しながら」(特許公報第3頁第6欄14〜15行)と記載されている。そして、特許明細書(特許公報第2頁第4欄25行〜第3頁第5欄17行)には、この後方張力と面圧との関係について記載されているが、この記載によれば、平板と波板を積層し、巻込んでハニカム体を形成するに際し平板に「後方張力」を付与することによって平板と波板との接触部に「面圧」が付加されるとされている。そして、特に特許明細書の訂正個所の前後の記載をみると、その内容は専ら面圧を付加させるための「後方張力のかけ方」に関するものであり、訂正個所に係る「ほぼ10kg/mm2以下」や「ほぼ0.5kg/mm2以上」の数値も、請求項3の「後方張力が0.5kg/mm2以上である」の構成要件と符合するものである。
そうすると、訂正個所に係る「前記面圧で・・・ほぼ0.5kg/mm2以上になるようにすることが好ましい。」の記載は、平板と波板との接触部に「面圧」を付加させるための「後方張力のかけ方」について、その好ましい後方張力の具体的な数値を記載したものであると云えるから、「前記面圧」は、「前記後方張力」と記載すべきことは明らかである。
してみると、訂正事項aは誤記の訂正に該当するものと云える。
次に、明りょうでない記載の釈明の観点から検討すると、「面圧」については、特許明細書に「面圧は波板2の波形の形態が保たれる程度で極力大きい程よい。」(特許公報第2頁第4欄39〜40行)と記載され、これを受けて「そのため本発明では比較的簡易な設備で行い、前記面圧でほぼ・・以下にすることがよく、」(特許公報第2頁第4欄40〜42行)と記載されている。これら記載の関係は、前者が「面圧」をどの程度とするかの目安を記載するものであり、後者がその「そのため本発明では」や「・・・でほぼ・・以下にすることがよく」との記載に照らせば、面圧を確保するために本発明でなされる具体的な操作を記載するものであると解される。
そうすると、本件発明1又は本件発明3では、面圧を確保する操作としてなされることは「平板に後方張力を付与」することであり、「面圧」は操作条件ではなく後方張力の付与によってもたらされる結果であるから、特許明細書の「前記面圧でほぼ・・以下にすることがよく、」の「前記面圧」は、操作条件としての「前記後方張力」と解するのが妥当であり、この解釈は本件発明1又は3の構成要件とも符合するものであると云える。
してみると、上記訂正事項aは、その前後の記載内容の不明りょうな点を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当するとも云える。
したがって、上記訂正事項aは、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、この訂正事項aは、特許明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるから新規事項の追加に該当せず、しかも当該訂正によって実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
なお、請求人は、この訂正請求について、平成14年8月7日付け弁駁書において「文脈上、上記第41行の「面圧」が「後方張力」の誤記であるとは誰も想定しない。・・・数値に付せられた単位「kg/mm2」も面圧の単位であって張力を意味する単位でない。・・・被請求人の上記訂正請求は認められるべきでない。」(第8頁23行〜第9頁7行)と主張している。
しかしながら、この訂正請求は、上述したとおり、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明に該当するものである。また、単位についても、「張力」とは「圧力に対する語であり、張力の大きさはその面の単位面積に働く垂直な力」(共立出版(株)「化学大辞典5」第959頁参照)であり、その単位を「kg/mm2」と表記しても何ら誤りではないから、この「単位」の誤りを根拠とする上記請求人の主張は理由がない。
3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第134条第2項ただし書の規定及び特許法第134条第5項で準用する平成6年改正法による改正前の第126条の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件訂正後の特許発明
本件無効審判請求の対象とされた請求項1乃至5に係る発明については、上記訂正を認容することができるから、本件発明は、訂正明細書の請求項1乃至5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1乃至5」という)。
【請求項1】金属箔からなる平板および波板を重ね合わせて巻回しハニカム体を製造するに際し、平板に後方張力を付与しながら波板と共に巻き込んでハニカム体を形成し、該ハニカム体を外筒に挿入した後さらにハニカム体と共に外筒を縮管加工した後、真空中1200℃以上の高温で拡散熱処理することを特徴とする拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項2】波板の板厚が平板より厚い50μm以上であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項3】後方張力が0.5kg/mm2以上であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項4】波先端の曲率半径を0.7mm以下にした波板を使用することを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項5】波幅方向に波高さの異なる部分を設けた波ピッチ同一の波板を用いることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
IV.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、証拠方法として下記2.の証拠を提出して、口頭審理(口頭陳述要領書を含む)及びその後の上申書において、これまでの審判請求書における主張を整理して次のとおり主張している。
(1)本件発明1は、甲第1号証と甲第2号証に記載の発明に基づいて、又は甲第1号証及び甲第2号証と甲第3、4、及び8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件発明2乃至5は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)請求人の本件発明3についての記載不備の主張は、次のとおりである。
(イ)本件発明3は、「後方張力が0.5kg/mm2以上であること」を構成要件とするものであるが、この「0.5kg/mm2以上であること」の点について、発明の詳細な説明には、「上記面圧で・・・ほぼ0.5kg/mm2以上になるようにすることが好ましい。」(特許公報第2頁第4欄第41〜43行)と記載されているだけであり、この記載は後方張力についての記載ではないから、本件発明3の「後方張力が0.5kg/mm2以上」とする根拠が記載されておらず、その構成の内容が不明確である。また、「kg/mm2」の単位は「面圧」のような「圧力」を表すものであり、「張力」を表す単位ではないから、この点でも本件発明3の内容は不明確である。
(ロ)本件発明3では、「後方張力」を0.5kg/mm2以上とするものであるが、発明の詳細な説明(特許公報第2頁第4欄25〜43行)によれば、この後方張力の付与により「面圧」が「0.5kg/mm2以上になることが好ましい。」と記載されている。しかしながら、特許明細書には、「後方張力」を「0.5kg/mm2以上」付与すると記載されているだけであり、この後方張力がどの程度であれば、上記「面圧」が「0.5kg/mm2以上」とすることができるのかについてまでは何ら記載されておらず、また付与される後方張力の大きさによって一律に上記「面圧を0.5kg/mm2以上」とすることができるものでもない。さらに、平板に一定の後方張力を付与した場合でも、平板と波板との接触部の箇所によってその面圧が異なるものであるから、後方張力を付与しただけで上記「面圧」を「0.5kg/mm2以上」とすることは当業者といえど容易に実施できないことは明らかである。
してみると、本件発明3については、特許明細書に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項または第6項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)平成14年6月5日付け訂正請求は、特許明細書(特許公報第2頁第4欄41行)の「面圧」を「後方張力」と訂正するものであるが、この訂正は、誤記の訂正に該当するものではないから、この訂正請求は、特許法第126条第1項に違反してなされたものである。
2.証拠の記載事項
甲第1号証乃至甲第8号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開平2-14747号公報
(a)「金属ハニカム構造体とその外周に配設した外筒とよりなる金属ハニカム担体を製造するに当り、金属の平板と波板とを交互に積層してハニカム構造体を作製し、該ハニカム構造体をパイプ状の外筒に挿入し、その後外筒の外周をダイス等により絞り、然る後高温に加熱して拡散接合させることを特徴とする金属ハニカム担体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)「上記従来法においては、平板と波板をロウ材により接合しているため、その接合部は腐食され易く、耐久性が充分でない。・・・・ハニカム構造体及びハニカム構造体と外筒との接合状態が強く、高温耐久性に優れた金属ハニカム担体を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄3行〜同頁右上欄18行)
(c)「本発明において、ハニカム構造体を外筒に挿入したもの(中間体)につき、外筒の外周よりその全体を絞るに当たっては、ローラダイス、或いはダイスなど、外筒の径を若干縮少させるダイスを用いて行う。これにより、平板と波板及びハニカム構造体と外筒との間の密着状態が向上する。・・・密着させることができない。」(第2頁左下欄8〜19行)
(d)「上記加熱の際の非酸化雰囲気としては、真空中或いは窒素、水素、不活性ガス等のガス中がある。加熱温度は、850〜1400℃とすることが好ましい。」(第3頁左上欄8〜11行)
(e)「本発明において、金属ハニカム構造体を構成する金属板は、フェライト系或いはオーステナイト系ステンレス鋼などを用いる。また、平板及び波板の厚みは、その加工性、ハニカム構造体の軽量化及び多数のセル形成上から、0.03〜0.2mmとすることが好ましい。また、本発明に関するハニカム構造体は・・・長い平板と長い波板とを重ね合わせながらロール状に巻いて積層体としたもの、・・・がある。」(第3頁左上欄18行〜同頁右上欄8行)
(f)「上記絞りによってハニカム構造体における平板と波板との接触部の密着性、ハニカム構造体と外筒との接続部の密着性は著しく向上する。」(第3頁左下欄11〜14行)
(g)「第1図に示すごとく、平板2及び波板3の金属材を準備し(A工程)、両板を重ね巻きしてハニカム構造体1となし(B工程)、更に該ハニカム構造体1を外筒4内に挿入して中間体45となした(C工程)。次いで、該中間体45を絞り(D工程)、更にこれを非酸化雰囲気中で加熱して(E工程)、第2図に示すごとき金属ハニカム担体10を作製した。」(第3頁右下欄13〜20行)
(h)「素材としては、冷間圧延により形成したフェライト系ステンレス鋼Fe-20Cr-5Al(厚み0.04mm、幅130mm)の薄板を準備した。」(第4頁左上欄1〜4行)
(2)甲第2号証:特開平1-218636号公報
(a)「(1)金属ハニカム構造体とその表面に固着形成した多孔質担体と該担体に担持した触媒成分とよりなる触媒であって、上記ハニカム構造体は金属の平板と波板とを交互に積層してなると共に該平板と波板との接触部分は相互に拡散接合してなることを特徴とする触媒。
(2)金属の平板と波板とを交互に積層して積層体を作り、該積層体をその平板と波板との接触部分を接触させた状態に保持して非酸化雰囲気中において高温に加熱し、上記平板と波板との接触部分を拡散接合させて金属ハニカム構造体となし、・・・触媒の製造方法。
(3)第1請求項に記載の触媒の製造方法において、積層体は850〜1400℃において加熱することを特徴とする触媒の製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明はかかる問題点に鑑み、ロウ付けを用いることなく平板と波板とを接合すること、及び・・・もので、使用中における耐酸化性、耐食性にも優れた触媒及びその製造方法を提供しようとするものである。」(第2頁左下欄8〜13行)
(c)「ニッケル系、コバルト系の金属がある。また、平板及び波板の厚みは、その加工性、ハニカム構造体の軽量化及び多数のセル形成上から、0.03〜1.0mmとすることが好ましい。」(第2頁右下欄7〜10行)
(d)「上記加熱の際の非酸化雰囲気としては、真空中或いは窒素、水素、不活性ガス等のガス中がある。加熱温度は、850〜1400℃とすることが好ましい。」(第3頁左下欄13〜16行)
(e)「また、上記加熱の際には、平板と波板との拡散接合を充分とするために、両板の接触部分を充分に接触させる。また、平板と波板とを第2図に示すごとく、ロール状に巻き込んだ積層体の場合には、この巻き込みによって波板が変形を受け、その反発力によって両板の接触部分が適度の圧力で密着している。」(第3頁右下欄3〜9行)
(f)「厚み0.05mm、幅130mmの上記金属の薄板を準備し、・・・次いで、該波板と上記薄板(平板)とを重ねて巻き(第2図参照)、得られた積層体を円筒状の外筒内に挿入し、・・・拡散接合させた。」(第5頁左下欄10〜16行)

(3)甲第3号証:実願昭63-150049号(実開平2-70829号)のマイクロフィルム
(a)「本考案は、メタル触媒担体の成形装置に関し、特に波板と平板とを重ねて巻回しながらスポット溶接してハニカム担体を成形する成形装置に関する。」(第3頁4〜7行)
(b)「上述のような従来のハニカム担体成形装置では、・・・巻き上げられたハニカム担体の外径寸法及び巻き密度にばらつきが生じ、品質及び特性の安定した量産に適するメタル触媒担体の成形装置を提供することを目的とする。」(第4頁5〜16行)
(c)「本考案においては、巻取りカラーが駆動モータにより間欠回転されると、波板及び平板はそれぞれのガイドより一定の姿勢で巻取りカラー側へ案内され、かつそれぞれのテンション機構によって所定の巻取りテンションが付与されながら巻回される。そして、巻取りカラーが所定角度回転された後停止すると、・・・波板と平板間を自動的にスポット溶接する。また、波板及び平板が巻取りカラーに所定巻数巻回されると・・・巻き終わり側の波板及び平板を押え込み、巻取りカラーの回転に伴いゆるみなく巻回する。」(第6頁16行〜第7頁10行)
(d)「波板4及び平板5にはそれぞれのテンション機構20,24によって巻き張力を付与するから、ハニカム担体の巻き径が安定し、しかもテンション機構20,24により波板4及び平板5へのテンションを調整することにより担体の外径をコントロールできる。」(第21頁4〜9行)
(e)第1図には、メタル触媒担体成形装置において、「巻取りカラーとリール間にテンション機構を配設すること」が記載される。
(4)甲第4号証:特開平1-274845号公報
(a)「(2)波板供給装置および小波付平板供給装置からそれぞれ供給される波板と小波付平板とを重ねながら、これ等を芯金に多重に巻回するメタル触媒担体の製造方法において、前記小波付平板の中央部に形成される平坦部を、前記小波付平板供給装置と芯金との間の所定の位置で両側から押圧し、小波付平板に張力を作用した状態で、前記波板と小波付平板とを前記芯金に巻回することを特徴とする請求項1記載のメタル触媒担体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)「このような従来のメタル触媒担体では、平板13に小波19が形成されているために、平板13と波板11とを強固に巻回することが困難であり、・・・コア部17の中心部17に位置する波板11および平板13がコア部17の軸方向に突出する、いわゆるフィルムアウト現象が生じるという問題がある。」(第2頁左上欄13行〜同頁右上欄4行)
(c)「第3図において符号45は、テンションローラを示している。しかして、本発明のメタル触媒担体の製造方法によれば、小波付平板25の中央部に形成される平坦部31を、小波付平板供給装置35と芯金41との間の所定の位置でローラ43により両側から押圧し、小波付平板25に張力を作用した状態で、波板23と小波付平板25とを芯金41に巻回するようにしたので、小波付平板25と、波板23とを強固に巻回することができる。」(第3頁右上欄3〜12行)
(5)甲第5号証:「溶接技術 第35巻第1号」産報出版株式会社、昭和62年1月1日発行、第130〜135頁
(a)拡散接合について「加熱装置と加圧装置があればできます。一番簡単なのは、ボルトとナットで接合部を加圧しながら、電気炉に入れる。」(第134頁左欄24〜26行)
(b)加熱装置に関し「最高加熱温度として1200℃もあれば、ほとんどの材料が接合できます。」(第134頁右欄8〜9行)
(c)加圧装置について「油圧やてこを利用した機械的加圧がよく使われます。たとえば・・・接合物より熱膨張係数の小さい材料で作ったジグで固定して、加熱の際の熱膨張係数の差を利用して、加圧する方法もあります。・・・高温高圧のガスを利用して接合する場合もあります。」(第134頁右欄16行〜第135頁5行)
(d)拡散接合において「加圧力の制御は、一定に保持できればよく、とくに加圧力を周期的に変動させるなどの制御機構は不要です。加圧力の範囲ですが、接合面の単位面積当たり最大2〜3kg/mm2加圧できれば、ほとんどの材料の組み合わせが可能です。」(第135頁左欄8〜12行)
(6)甲第6号証:特開昭50-103466号公報
(a)「この発明は拡散接合法を利用した、金属製波形積層構造物の製作方法に関する。」(第1頁左欄13〜14行)
(b)「金属製(以後省略)平板と金属製(以後省略)波板を接合して金属製(以後省略)積層構造物を製作するにあたり、波板として、波形頂点の曲率半径Rが板厚tに関してR/t≦2の範囲にあるよう断面形状を直線波形にしたものを使用し、この波板を平板で挟んでから拡散接合法を適用すること、にある。従来の波板形状に対しては、拡散接合法は適用できない。この方法は加熱と共に大きな荷重たとえば面圧0.1kg/mm2以上の荷重を必要とするが、・・・接合不可能となる。」(第2頁左上欄9行〜同頁右上欄4行)
(c)「なお波形頂点の形状は、曲率半径R=0に限る必要はない。・・・板厚tに関して、R/t≦2.0の範囲にあれば、変形も小さく接合も良好である。」(第2頁右上欄17〜20行)
(7)甲第7号証:特開昭63-104653号公報
(a)「金属製の波板と平板とを重ね、これ等を多重に巻回しコア部を形成してなるメタルハニカム担体において、前記波板の凹凸形状を、半径Rの凸半円と、この凸半円に連接される半径Rの凹半円とにより形成したことを特徴とするメタルハニカム担体。」(特許請求の範囲)
(b)「第1図は、本発明のメタルハニカム担体の一実施例の要部・・・波板33の凹凸形状は、半径Rの凸半円35と、この凸半円35に連接される半径Rの凹半円37とにより形成されている。すなわち、凹半円37は、凸半円35の両端において、接線を共有して接続されている。ここで、半径Rは、0.26mm以上とされている。これは、半径Rが、0.26mm未満の時には、触媒層の形成が困難になるとの理由による。」(第2頁右上欄15行〜同頁左下欄7行)
(8)甲第8号証:特開平2-241614号公報
(a)「金属担体は金属帯の平板と波板を交互に配置した層でハニカム状に成形されたものである。従来は平板と波板を重ね合わせて巻くときに、非常に薄い板のために、板のつぶれ等が生じ易く、取り扱いが難しいことから、巻くときの張力、巻き堅さ度合い等に配慮しながら、人手作業による手の感触に依存して作業を行う必要があり、品質上のばらつき等で歩留りが低く、低効率である問題があった。・・・本発明は、以上の如く従来、巻き張力、巻堅さ度合い等人手の感触で巻かれていた金属帯の巻き取り作業を、機械化し自動的に行うことで、品質の安定した状態が得られる巻取り装置の提供を目的とする。」(第1頁右欄3〜17行)
(b)「平板送り用としてピンチローラ7bの片軸端には同様に平板送りモータがエアークラッチを介して連結し、反対軸端には張力を制御するためのブレーキ9を具備している。」(第2頁右上欄10〜13行)
(c)「平板送りモータのエアークラッチのエアーを解放し、ブレーキ9に一定電圧をかける。巻取りモータ77を駆動し巻取りが開始し、平板が波板を巻き込むように巻き始め、回転軸26の外周になじんで巻き付く程度の張力を、ブレーキ9で与える。次いで、初期巻き形状ができたところで・・・巻取りモータ77の速度を徐々に上げ、張力を制御しながら巻く。」(第4頁右上欄8行〜同頁左下欄2行)
なお、甲第8号証は、平成14年8月7日付け弁駁書の提出時に新たに提出された文献であるが、この文献については、被請求人が口頭審理において甲第3、4号証と同様の内容として扱うのであれば証拠とすることを争わないとされたものである。
V.被請求人の反論
被請求人は、請求人の上記主張に対して、次のとおり反論している。
(1)本件発明1乃至5は、ハニカム体の製造に際し、メタル担体の内部の、拡散接合するために必要な面圧Pを確保するために、巻き始め当初から一定の張力をかけて巻締めするものである。そして、このような張力をかけて巻締めを進めると、メタル担体の径が大きくなるにつれて面圧が低下し、巻締め終了段階では最終外部の面圧が上記面圧Pより低下するために、これを縮径により上記面圧P以上に確保しようとした内容のものである。
これに対し、甲第1号証乃至甲第8号証には、ハニカム体の拡散接合において必要な面圧が低下するという課題については何ら記載されていない。また、ハニカム体の拡散接合において必要な面圧の低下分を縮管によって補うという本件発明の技術思想についても何ら記載されていないから、本件発明1乃至5は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができないものである。
(2)本件発明3の「後方張力が0.5kg/mm2以上」の記載については、その「kg/mm2」が圧力の単位を示すことは明らかである。また、特許明細書の「後方張力のかけ方」に関する具体的な記載内容には、「後方張力」の付与についても当業者が容易に実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、特許明細書の記載が特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反するとの請求人の主張は失当である。
(3)平成14年6月5日付け訂正請求は、請求項3及び特許明細書の実施例(特許公報第3頁第6欄14〜15行)の記載から明らかな如く、「後方張力」を「面圧」と誤記した内容を訂正するものであるから、特許法第126条第1項の規定に違反するものではない。
VI.当審の判断
1.請求人の上記1.の主張(進歩性)について
(1)本件発明1について
(1-1)請求人の上記1.の主張(進歩性)は、いずれも甲第1号証を主要な第1の証拠とするものであるから、以下、甲第1号証について詳細に検討する。
甲第1号証の上記(a)には、拡散接合による「金属ハニカム担体の製造方法」に関し、「金属の平板と波板とを交互に積層してハニカム構造体を作製し、該ハニカム構造体をパイプ状の外筒に挿入し、その後外筒の外周をダイス等により絞り、然る後高温に加熱して拡散接合させることを特徴とする金属ハニカム担体の製造方法」と記載され、上記(d)には、この高温加熱について「真空中850〜1400℃の高温に加熱する」と記載されている。また、「金属」は、「メタル」と同義であるし、上記(e)及び(h)によれば「金属の平板と波板」は、厚さ0.03〜0.2mmの薄板であるから、これら記載を整理すると、甲第1号証の上記(a)の記載は、「金属薄板(厚さ0.03〜0.2mm)の平板と波板とを交互に積層してハニカム構造体を作製し、該ハニカム構造体をパイプ状の外筒に挿入し、その後外筒の外周をダイス等により絞り、然る後真空中850〜1400℃の高温に加熱して拡散接合させるメタルハニカム担体の製造方法」と云うことができる。また、上記「平板と波板とを交互に積層してハニカム構造体を作製」についても、上記(e)によれば「平板と波板とを重ね合わせながらロール状に巻いて積層してハニカム構造体を作製」していると云えるから、甲第1号証には、「金属薄板(厚さ0.03〜0.2mm)の平板と波板とを重ね合わせてロール状に巻いてハニカム構造体を作製し、該ハニカム構造体をパイプ状の外筒に挿入し、その後外筒の外周をダイス等により絞り、然る後真空中850〜1400℃の高温に加熱して拡散接合させるメタルハニカム担体の製造方法」の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「外筒の外周をダイス等で絞り」は、本件発明1の「縮管加工」に相当する。また甲1発明の「金属薄板(厚さ0.03〜0.2mm)」については、本件訂正明細書の実施例に照らせば、本件発明1の平板の板厚の「50μm」(0.05mm)と一致するところがあり、本件訂正明細書の「本発明の平・波板にする金属箔は、・・・通常は50μm前後の厚さを有する。」(特許公報第2頁第4欄11〜14行)という記載からみても、甲1発明の「金属薄板」と格別相違するものではない(なお、日刊工業新聞社「マグローヒル 科学技術用語大辞典 第3版」第1379頁によれば、「箔」とは、通常0.15mm以下の薄いシートと云われている。)から、甲1発明の「金属薄板」は、本件発明1の「金属箔」に相当すると云える。さらに、甲1発明の「850〜1400℃」の温度範囲も、本件発明1と「1200℃以上」のいわゆる「1200〜1400℃」の範囲において一致していると云える。
そうすると、両者は、「金属箔からなる平板および波板を重ね合わせて巻回しハニカム体を製造するに際し、平板を波板と共に巻き込んでハニカム体を形成し、該ハニカム体を外筒に挿入した後さらにハニカム体と共に外筒を縮管加工した後、真空中1200℃〜1400℃の高温で拡散熱処理することを特徴とする拡散接合によるメタル担体の製造方法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点(イ):本件発明1では、「平板に後方張力を付与しながら波板と共に巻き込んでハニカム体を形成し」ているのに対し、甲1発明では「平板と波板を巻き込んで形成し」ているだけで、平板に後方張力を付与していない点
(1-2)次に、上記相違点(イ)について検討するに、先ず本件発明1の上記相違点(イ)の「後方張力の付与」の技術的な意味について検討すると、この「後方張力の付与」は、特許明細書の「拡散処理で接合するためには、平板と波板の接触を面圧を加えて緊密にしなければならない。そのため本発明は以下の方法を実施することにより平板と波板の所定部位を緊密接触させることにより特徴がある。」(特許公報第2頁第4欄25〜28行)及び「後方張力をかけておくことにより、ハニカム体はタイトに巻かれ、平板と波板山部は強く密着する」(特許公報第2頁第4欄34〜36行)という記載によれば、巻き始め当初から拡散接合に必要な平板と波板との接触部の面圧を確保するためになされていることは明らかである。また、本件発明1の「縮管加工」は、特許明細書(特許公報第2頁第4欄50行〜第3頁2行)の「平板と波板を単にバックテンションをかけて巻込むだけは(当審註:「だけでは」の誤記と認められる)、径が大きくなるにつれて面圧が低下するため密着度が低下する」という記載によれば、後方張力の付与に係る上記知見(巻き取り径の増大に伴う面圧の低下)に基づいてその「面圧の低下」分だけ補うためになされるものであることも明らかである。
そこで、この「面圧の確保」の点から甲第1号証を改めて検討すると、甲第1号証には、巻き取り工程に関しては、「金属の平板と波板とを交互に積層してハニカム構造体を作製し、」(第1頁特許請求の範囲)及び「ハニカム構造体は平板と波板を重ね合わせながらロール状に巻いて積層体としたもの」(上記(e)参照)と記載されているだけであり、この巻き取り工程において巻き始め当初から拡散接合に必要な「面圧」を確保しているとする記載はない。また、面圧の確保に関しても、甲第1号証の「外筒の外周よりその全体を絞るに当たっては、ローラダイス、或いはダイスなど、外筒の径を若干縮少させるダイスを用いて行う。これにより、平板と波板及びハニカム構造体と外筒との間の密着状態が向上する。」(第2頁左下欄第9行乃至第13行)及び「上記絞りによってハニカム構造体における平板と波板との接触部の密着性、ハニカム構造体と外筒との接続部の密着性は著しく向上する。」(第3頁左下欄11〜14行)という記載によれば、巻き取り工程後の「絞り」(縮管)によって面圧を確保しているのであり、このことは、「絞り」工程の有無について比較した甲第1号証の「これに比して、絞り工程(D工程)を施さなかった比較金属担体は約50%にすぎなかった。」(第4頁左下欄第18行乃至第19行)という記載からも窺い知ることができると云える。
してみると、甲第1号証のハニカム構造体の作製方法では、「絞り」工程が施されなければ、結果として半分程度の接触部でしか面圧が確保されていないのであるから、本件発明1のように、その巻き始め当初から拡散接合に必要な面圧を確保しようとしているものではなく、巻き取り径の増大に伴う最外周部近傍の面圧の低下分を補うために「縮管加工」が行われているものでもないと云うべきである。
また、甲第2号証について検討するに、甲第2号証の上記(e)には、「面圧の確保」に関する記載として「上記加熱の際には、平板と波板との拡散接合を充分とするために、両板の加熱部分を充分に接触させる。また、平板と波板とを第2図に示すごとく、ロール状に巻き込んだ積層体の場合には、この巻き込みによって波板が変形を受け、その反発力によって両板の接触部分が適度の圧力で密着している。」と記載されているが、この記載によれば、「面圧」は平板と波板とをロール状に巻き込んで確保されているのであるから、本件発明1のような「後方張力の付与」によるものではない。また接触部の「面圧」も、「波板が変形を受け」ると共にその変形による「反発力」によって確保されているのに対し、本件発明1の「面圧」は、本件特許明細書の「面圧は波板2の波形の形態が保たれる程度で極力大きい程よい。」(特許公報第2頁第4欄39〜40行)という記載によれば、「波板の形態が保たれる程度」のものであって波板が変形を受けるほどのものでもない。
してみると、甲第2号証の上記(e)に記載の方法では、その面圧が「平板と波板との巻き込み」によって波板を変形しこの変形による反発力によって確保されているのであり、本件発明1とその面圧の確保に係る具体的な手段の点で相違していることは明らかであるから、甲第2号証にも、本件発明1の上記相違点(イ)について何ら示唆されていないと云える。
したがって、本件発明1は、甲第1号証と甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(1-3)さらに巻き取り技術に関するその余の証拠を検討するに、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証には、巻き取り技術において平板に後方張力を付与することが記載されているが、これら証拠に記載の後方張力の付与は、その巻き取り外径や巻き密度のばらつきを防止する等のためであり、拡散接合に必要な「面圧の確保」のためではない。またこれら証拠には、本件発明1の知見というべき後方張力の付与に関連して発生する「巻き取り径の増大に伴う面圧の低下」という現象についても何ら示唆されていない。
すなわち、甲第3号証の「後方張力の付与」は、上記(b)及び(c)の記載によれば、平板と波板のそれぞれに一定に調整されたバックテンションを付与するためのものであり、その目的も、テンション度合いの差異によるハニカム担体の外径寸法や巻き密度のばらつきを改善するためのものである。そして、この証拠には、本件発明1の如き拡散接合に必要な「面圧の確保」という点を示唆する記載はなく、巻き取り径の増大に伴う面圧の低下についても何ら示唆されていない。
また、甲第4号証の「後方張力の付与」は、上記(b)の「小波付平板と波板を強固に巻回することが困難であって、フィルムアウト現象が生じる」という記載から明らかなように、小波付き平板と波板とのフィルムアウト現象の発生を防止するためのものであり、甲第3号証と同様、この証拠にも、本件発明1の如き拡散接合に必要な「面圧の確保」という点を示唆する記載はなく、巻き取り径の増大に伴う面圧の低下についても何ら示唆されていない。
さらに、甲第8号証についても検討すると、甲第8号証の「後方張力の付与」は、上記(a)に記載されているとおり、平板が薄い場合にそのテンションの度合いによって「板のつぶれ等が生じ易く、取扱が難しい」ために、その薄板がつぶれないような張力に調整するという内容のものであり、甲第8号証の「切断後に弛まないように巻き取り・・・」(第4頁左下欄8〜9行)という記載に照らせば、巻き取り後の平板と波板との接触部は、「弛まないように」配慮されているだけであるから、この証拠にも、本件発明1の如き拡散接合に必要な「面圧の確保」という点を示唆する記載はなく、巻き取り径の増大に伴う面圧の低下についても何ら示唆されていない。
してみると、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証には、巻き取り技術における「後方張力の付与」について記載されてはいるものの、この「後方張力の付与」は、もっぱら巻き取り技術における特有の課題を解決するためのものであり、拡散接合に必要な「面圧の確保」という課題を解決するためのものではない。また、これら証拠には、この巻き取り技術における「後方張力の付与」によって拡散接合に必要な面圧を確保することができるとする記載や示唆もないのであるから、この「後方張力の付与」技術を甲第1号証又は甲第2号証に適用する技術的な動機もないと云うべきである。
さらに「面圧の確保」の仕方から検討すると、甲第1号証又は甲第2号証に記載の拡散接合による作製方法では、その拡散接合に必要な「面圧」は、巻き取り後にハニカム構造体全体を絞って(塑性変形によって)確保されているものであったり(甲第1号証)、波形の変形(塑性変形)による反発力によって確保されているものであり(甲第2号証)、基本的にはハニカム構造体の全体に亘って多少ともその接触部に変形を伴う方法によって面圧が確保されているものであると云える。一方、本件発明1の「後方張力の付与」は、上述したとおり、巻き始め当初から波板の波形の形態が保たれる程度で面圧を確保することができる方法であるから、基本的に塑性変形を伴う甲第1号証又は甲第2号証の作製方法に、そうでない「後方張力の付与」技術を適用する根拠がないと云うべきである。
仮に、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に記載の巻き取り技術の「後方張力の付与」技術でも「面圧」を確保することができるとして、この「後方張力の付与」技術を甲第1号証に記載の発明に適用する場合を想定すると、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証には、巻き取りが進むに伴なって発生する面圧の低下という現象についてまでは何ら記載されていないのであるから、この証拠に接した当業者は、後方張力の付与によって拡散接合に必要な面圧を確保することができるとしか考えないはずである。ましてや最外周部近傍の面圧の低下という現象が発生することなど知るはずもないのであるから、この「後方張力の付与」を甲第1号証の「作製方法」に適用した場合には、当業者は後方張力の付与によって既に面圧が確保されたと考えるのが普通であるから、この場合には甲第1号証に記載の作製方法で面圧を確保するための「絞り」工程を行う必然性が生じないこととなり、本件発明1に辿り着くことができないことは明らかである。
してみると、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明と甲第3、4及び8号証に記載の巻き取り技術とから当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。
(1-4)以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできないし、また甲第1号証及び甲第2号証と甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともすることはできない。
(2)本件発明2乃至5について
これら発明は、いずれも請求項1を引用し、さらに本件発明1の構成を限定するものであるところ、甲第5号証乃至甲第7号証の証拠を検討しても、依然として上記(1)と同様の理由により、上記甲第1号証乃至甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
2.審判請求人の主張に対して
(1)上記1.に関する具体的な主張に対して
(イ)請求人は、平成14年11月8日付け上申書において、甲第1号証の「作製方法」でも、平板と波板とを巻き上げただけの密着度合い(面圧)では拡散接合に十分でないため、その不足する面圧分を絞りによって補うものであるから、甲第1号証の「作製方法」も、縮管で面圧を補うという点では本件発明1と共通するものである(第5頁第15行乃至第18行参照)と主張している。
甲第1号証の作製方法の「絞り」も、上位概念的には面圧の不足分を補うためのものであるから本件発明1の「縮管」と作用的には共通するものであるが、本件発明1の「縮管」は、巻き取り径の増大に伴う最外周部近傍の面圧の低下分を補う程度のものであるのに対し、甲第1号証の作製方法の「絞り」は、上記1.(1-2)でも指摘したとおり、巻き込みだけで絞りを行わない場合の約50%に亘る面圧不足箇所の面圧を補うためのものであるから、その面圧を補う箇所やその度合いが相違していることは明らかである。
してみると、請求人の上記主張は、甲第1号証と本件発明1との一面的な共通点を指摘しているにすぎないものであり、依然として甲第1号証に本件発明1の「平板に後方張力を付与しながら」面圧を確保する点について示唆されているとは云えないから、上記主張を採用することができない。
(ロ)請求人は、平成14年11月8日付け上申書において、甲第2号証の「巻き込みによって波板が変形を受け、その反発力によって両板の接触部分が適度の圧力で密着している」という記載について、「巻き込みによって波板が変形」を受けた結果生じる反発力とは、波板が元の波高さに戻ろうとする反発力が平板との間に及ぼされることであり、この作用は引張り力がなければ生じないものであるから、甲第2号証の「巻き込み」でも拡散接合に必要な面圧が引張り力によって確保されているのである(第7頁第1行乃至17行参照)と主張している。
しかしながら、甲第2号証の「作製方法」では、平板と波板とを単に巻き込む操作を行っているだけであるから、平板と波板との接触部に作用する「力」をミクロ的に見れば、そこには変形による「反発力」が作用しているとまでは云えても、引張り力が作用しているとする根拠はない。ましてや甲第2号証には、平板にのみ後方張力を付与するという何らの示唆もないのであるから、甲第2号証の巻き込み操作によって「平板に後方張力を付与しながら」面圧を確保しているとも解することができないと云うべきである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(2)上記2.の主張(記載不備)に対して
(2-1)上記2.(イ)について
請求人の上記2.(イ)の主張は、特許明細書の上記「面圧」が「後方張力」の誤記でないことを前提とするものであるが、この点については、上記「II.2.」の項で述べたとおり、「面圧」を「後方張力」とする訂正を容認することができるから、何ら理由がない。また、本件発明3の「後方張力が0.5kg/mm2以上」という単位の表記についても、上記「II.2.」の項で述べたとおり、「kg/mm2」が張力を示す単位として使用されていることは明らかであるから、請求項3には、請求人の主張する記載不備はない。
(2-2)上記2.(ロ)について
請求人の上記2.(ロ)の主張も、(イ)と同様の前提であるから、何ら理由がない。また、本件明細書には後方張力のかけ方についても、本件訂正明細書(第3頁23〜28行)に具体的に記載されていることから、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明が記載されていると云える。
したがって、請求人の上記主張も採用することはできない。
(3)上記3.の主張(訂正請求の適否)に対して
請求人の上記3.の主張(訂正請求の適否)は、特許明細書の上記「面圧」を「後方張力」とする訂正が誤記の訂正に該当しないというものであるが、この主張については、上記「II.2.」の項で述べたとおりである。
したがって、請求人の上記3.の主張も採用することができない。
VII.結び
以上のとおり、請求人の理由及び証拠方法によっては、本件請求項1乃至5に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
拡散接合によるメタル担体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属箔からなる平板および波板を重ね合わせて巻回しハニカム体を製造するに際し、平板に後方張力を付与しながら波板と共に巻き込んでハニカム体を形成し、該ハニカム体を外筒に挿入した後さらにハニカム体と共に外筒を縮管加工した後、真空中1200℃以上の高温で拡散熱処理することを特徴とする拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項2】波板の板厚が平板より厚い50μm以上であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項3】後方張力が0.5kg/mm2以上であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項4】波先端の曲率半径を0.7mm以下にした波板を使用することを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【請求項5】波幅方向に波高さの異なる部分を設けた波ピッチ同一の波板を用いることを特徴とする請求項1記載の拡散接合によるメタル担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、自動車排気ガスを浄化する触媒用メタル担体の拡散による接合法に関するものである。
(従来の技術)
従来、自動車排気ガスを浄化する触媒用担体は、セラミックスよりなるハニカム体が主流であって、殆どの車種に搭載されているが、エンジンの排ガス系に組み込む構造が複雑であり、またセラミックスであるがために取扱いを慎重にしなければならない等の問題があった。
近時、これに代わるべきものとして、金属箔ハニカム構造のメタル担体が開発され、すてに実車に搭載されている。このハニカム体は、金属の平板(箔)と波板(箔)とを重ね合わせ、渦巻状に巻き込んで形成され、この平板と波板との接触部の所定の部位をリジッドに接合している。接合は通常ロウ付けで行われ、例えば、特公昭63-44466号公報に開示されているように、ハニカム体の一端を液状の結合剤に浸漬し、粉状のロウ材を散布付着させた後、これを加熱してロウ付けしているが、一般的に均一なロウ付けをするには、かなりの技術が必要であり、そのため簡易な接合法が求められている。
特開平1-218636号公報には、ロウ付け接合に代わるものとして、ハニカム体を非酸化性雰囲気のもとで850〜1400℃に加熱して拡散接合を行うことを開示している。言うまでもなく拡散は、物質が他の物質に透過し内部に拡がる現象であるから、接合強度が十分で、ばらつきのないハニカム体を製作するには、平板と波板とは十分にかつ緊密面圧が加わった状態でに接触していなければならない。
(発明が解決しようとする課題)
ハニカム体を製作する際、平板と波板とを単に巻き込むだけでは両者は面圧が加わり、均一に接触しているとは限らず、特に、波板形成にあたって全ての波高を寸部の狂いもなく均一にすることは困難であるから、この様な波板を用いて通常の方法で巻き込むのでは平板との間で均一接触を狙っても非接触部分の生成を皆無にすることは無理である。
本発明はこのような現状に鑑み、メタル担体、特にハニカム体を構成する平板と波板とを、その接触面圧が高くなるように重ね合わせて巻き込んで緊密な接触部を得、さらにハニカム体を外筒に挿入した後、外筒を縮管加工すると共に、波板の波高さを部分的に調整してパターン化した接合部分を形成せしめ耐久性の優れたハニカム体を得ることができるところの拡散接合によるメタル担体の製造方法を提供することを目的とするものである。
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、(1)金属箔からなる平板および波板を重ね合わせて巻回しハニカム体を製造するに際し、平板に後方張力を付与しながら波板と共に巻き込んでハニカム体を形成し、該ハニカム体を外筒に挿入した後さらにハニカム体と共に外筒を縮管加工した後、真空中1200℃以上の高温で拡散熱処理することを特徴とする拡散接合によるメタル担体の製造方法であり、更に、(2)前記した波板の板厚が平板より厚い50μm以上であること、(3)前記した後方張力が0.5kg/mm2以上であること、(4)前記した波板の波先端の曲率半径を0.7mm以下にしたこと、を含みこれらにより平板の波板との接触面圧を一層高めて緊密な接合部とすると共に、(5)波ピッチは同一であるが、波幅方向に波高さの異なる部分を設けた波板を用いること、即ちパターン化された波高さの低い部分を設定してこの部分の波板と平板とを非接触にし、ハニカム体に拡散の生じない非接合部を設けることにより熱応力を緩和して耐久性を向上することができる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の平・波板にする金属箔は、Al、Crなどを含有するステンレス鋼や耐熱合金鋼素材を圧延あるいは急冷凝固法等により製造され、通常は50μm前後の厚さを有する。
上記平板と波板は重ね合わせられながら渦巻状に巻取りハニカム体を形成する。ハニカム体は外筒8に収納した後(第7図参照)、拡散熱処理を施すことにより、第6図に示すように、平板1と波板2の接触部は一体(拡散接合)になる。この拡散熱処理は、それ自身公知の方法を採用し、即ち、非酸化性雰囲気中で1200〜1400℃の温度範囲で数時間の処理を行う。拡散処理をする平・波板は表面ができるだけ望ましく、必要あれば有機溶剤、酸洗剤、蒸気、ブラッシングあるいは高真空処理等を行う。
拡散処理で接合するには、平板と波板の接触を面圧を加えて緊密にしなければならない。そのため本発明は、以下の方法を実施することにより平板と波板の所定部位を緊密接触させることにより特徴がある。
まず本発明は平板と波板を積層し、巻込んでハニカム体を形成する際に平板に張力を付与する。第1図はこの状態を示す実施例であり、平板1と波板2が重ね合わせられながら巻取モーター3で連続的に巻き込んでハニカム体4を形成しつつあり、この際平板1の後方適当位置には、その表裏面に重垂5等の手段で後方張力をかけておくことにより、ハニカム体はタイトに巻かれ、平板1と波板2山部は強く密着する。後方張力のかけ方は、重垂に限らずピンチロールなどの張力付与装置を用いてもよく、これについては特段の限定はないが、平板1と波板2の山部の接触部における面圧は波板2の波形の形態が保たれる程度で極力大きい程よい。そのため本発明では比較的簡易な設備で行い、前記後方張力でほぼ10kg/mm2以下にすることがよく、また少なすぎると効果がないのでほぼ0.5kg/mm2以上になるようにすることが好ましい。
通常この種のハニカム体に用いられる金属箔(平・波板)は50μm前後の厚さであるが、本発明においては特に波板の厚さをそれ以上の厚さのもの、好ましくは60μm以上(100μm以下)にすることにより前記バックステーションを大きくしても変形がなくなる。従って面圧をさらに大きくできて密着度を増加できる。しかしながら平板と波板を単にバックテンションをかけて巻込むだけは、径が大きくなるにつれて面圧が低下するため密着度が低下する恐れがある。
そのためハニカム体に形成後、ハニカム体4を外筒8に収納するにあたって、外筒の内径をわずかにハニカム体外径より小さくしておき、ハニカム体をこの外筒内に圧入することにより縮径させ、ハニカム体を構成している平板と波板山部とをより密着させることが必要である。更に別の方法として、ハニカム体を収納した外筒を治具で支持し、治具によりあるいは治具と共に径小の内径を有するダイス内に該外筒を引き込んで縮径することにより平板、波板の密着を緊密化することもできる。
ハニカム体を構成する波板は波形状を台形あるいは正弦波としているが、本発明にいおいては波板先端の形状を尖鋭化することを実施手段の一つとして採用する。すなわち波先端の曲率半径を0.7mm以下にすると、平板との接触が線状になり面圧を高めることができるようになる。
本発明において、ハニカム体の上記した平-波板の密着性向上を決められたパターンに従って部分的に行うこと、換言すれば調整されたパターンでハニカム体の拡散接合分を選択して形成することを別の特徴としている。
第2図は平板より波板2を製造する手段の一例を示したもので、波付け歯車6にモジュール、歯数は同一であるが歯高の異あった歯車6a、6bを設けている。第3図(a)に歯車6aの歯形、同図(b)には歯車6bの歯形を示すように、両歯6a、6bの歯のピッチPはP1=P2であるが、歯車6aの歯高h1と歯車6bの歯高h2はh1>h2としている。すなわち、このような歯形状を有する歯車で製造される波板2は、第3図の歯形に応じた波高形状になり、歯車6bで形成された波部2bは歯車6aで形成された波部2aより低い波高となる。第4図は該歯車6で製造された波板2を用いたハニカム体の一部を軸方向に断面した例を示した。波板2は両端側では平板1と接触(図では分りやすくするため間隙をもたせている)する波高部2aを有するが、中央部では波低部2bとなっており、平板1とは間隙ができて非接触部7が形成されている。尚、第5図(a)、(b)に第4図のA-A線断面図およびB-B線断面図(何れもハニカム体の半径方向断面の一部)を示している通り、平板1と波板2とは接触(a図)、非接触(b図)が選択的に形成できる。
第2図の波付け歯車6は2種類の歯形を用い、中央部を低い歯形2bとした例を示したが高低の歯形配置を変えることによって平板-波板の接触-非接触パターンを適宜選択できる。
以上のように本発明においては平板と波板を緊密に密着させると共に、その密着部を選択パターン化することが可能であって、拡散接合を確実に実施できると共に所望の部位を拡散接合できるから、エンジンの走行、停止の繰返しによる熱応力に対しても耐久性の強いハニカム構造とすることができる。
(実施例)
Cr-Al合金鋼よりなる厚さ50μmの平板と厚さ60μmの波板とでハニカム体を形成するにあたり、波板を第2図に示す波付けロールで製造し、平板に5kg/mm2の張力を付与しながら波板と重ね合せて巻回し、直径80mmφ、長さ100mmのハニカム体とした。両板はあらかじめ有機溶剤で清浄にしておいた。上記ハニカム体をステンレス製外筒に圧入した後さらに外筒を直径で0.5mm縮管した後、このメタル担体を1300℃の温度で60分間、真空中10-4Torrで加熱処理し、拡散接合を行った。このメタル担体の接合部を調査したところ、波板と平板の接触部の70%以上が拡散接合で接合されており良好な接合が行われていた。さらに荷重試験として、冷間で外筒の下端部のみリング状の台にのせ、上方より直径が50mmφのヘッドを有する油圧シリンダーでハニカム体を押し抜いたところ、2500kg以上の耐力があることが判明し、強度的にも十分な接合が行われていることが分った。
(発明の効果)
以上のように本発明の方法により優れた拡散接合部を有するハニカム体を得ると共に、選択されたパターンの接合部とすることができて、耐久性の優れたメタル担体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のハニカム体製造工程の一例を示す図、第2図は本発明の波板製造の一例を示す図、第3図(a)、(b)は第2図における波付け歯車の歯高を示す説明図、第4図は本発明の平板、波板の接触状況説明図、第5図(a)、(b)は第4図A-A、B-B断面図、第6図は拡散接合の説明図、第7図はメタル担体の斜視図を示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-02-05 
結審通知日 2003-02-10 
審決日 2003-02-24 
出願番号 特願平2-306833
審決分類 P 1 112・ 537- YA (B01J)
P 1 112・ 121- YA (B01J)
P 1 112・ 536- YA (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥井 正樹  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 岡田 和加子
大黒 浩之
登録日 1999-03-12 
登録番号 特許第2898742号(P2898742)
発明の名称 拡散接合によるメタル担体の製造方法  
代理人 内藤 俊太  
代理人 田中 久喬  
代理人 田中 久喬  
代理人 牧 哲郎  
代理人 内藤 俊太  
代理人 菊谷 公男  
代理人 内藤 俊太  
代理人 牧 レイ子  
代理人 田中 久喬  

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