ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない E04H |
---|---|
管理番号 | 1078727 |
審判番号 | 無効2002-35292 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-03-04 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-07-10 |
確定日 | 2003-04-23 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3197465号発明「回転遊戯設備付き建物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 出願(特願平7-214475号) 平成 7年 8月23日 特許権の設定登録(特許第3197465号) 平成13年 6月 8日 本件審判の請求(無効2002-35292号) 平成14年 7月10日 答弁書・訂正請求書 平成14年10月 3日 弁ぱく書 平成14年12月24日 第2.訂正の適否について 1.訂正の内容 被請求人が求めている、訂正の内容は、次の訂正事項1〜6からなる。 訂正事項1:特許請求の範囲の「回転遊戯設備」(特許公報1欄5行)を「観覧車」に訂正する。 訂正事項2:特許請求の範囲の「凹部」(特許公報1欄8行)を「溝状の凹部」に訂正する。 訂正事項3:特許請求の範囲の「透視可能な状態に形成し、」(特許公報1欄10行)のあとに「前記観覧車(C)を建物天部(A)上の屋上域、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部(E)の溝状域に位置するように前記溝状凹部(E)内に配置すると共に、」を挿入する。 訂正事項4:明細書中、段落0004の「回転遊戯設備」(特許公報3欄21〜22行)を「観覧車」に訂正する。 訂正事項5:明細書中、段落0004の「凹部」(特許公報3欄24行)を「溝状の凹部」に訂正する。 訂正事項6:明細書中、段落0004の「透視可能な状態に形成し、」(特許公報3欄25〜26行)のあとに「前記観覧車を建物天部上の屋上域、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部の溝状域に位置するように前記溝状凹部内に配置すると共に、」を挿入する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正は、特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加には該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。 よって、上記訂正は、特許法134条2項ただし書き、および同条5項において準用する同法126条2項、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3.請求人の主張及び提出した証拠方法 請求の趣旨は、本件特許第3197465号についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、その理由の要点は、次のとおりである。 「無効理由1:本件特許に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。従って、本件特許に係る発明は特許法第29条第2項の規定に該当し、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 無効理由2:本件特許に係る発明は、甲第2号及び甲第3号証に記載された発明と同一であり、あるいはこの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。従って、本件特許に係る発明は特許法第29条第1項若しくは第2項の規定に該当し、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。」 証拠方法 甲第1号証:実願平4-31401号(実開平5-82483号)のCD-ROM 甲第2号証:草津駅東口開発事業提案競技建築基本設計図書「NEOFLEX」、クサツイースト共同企業体(近鉄不動産、近鉄百貨店グループ、清水建設、三井建設) 甲第3号証:草津駅東口開発事業提案競技提案趣旨説明書「NEOFLEX」、クサツイースト共同企業体(近鉄不動産、近鉄百貨店グループ、清水建設、三井建設) 甲第4号証:1991(平成3)年6月16日付け読売新聞25面 甲第5号証:「しみずまんすり一」通巻642号、1991(平成3)年8月26日、清水建設(株)広報部 甲第6号証:宇野茂男の陳述書 甲第7号証:平井勉の陳述書 甲第8号証:神谷映次の陳述書 甲第9号証:高殿修の陳述書 (甲第4〜9号証は、甲第2、3号証が、本件出願前に国内において頒布された刊行物であることを証明しようとするものである。) 第4.被請求人の主張 被請求人は、答弁書において、概略、以下の反論を行っている。 「本件特許に係る発明は、特許法第29条第1項若しくは第2項の規定に該当するものではなく、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものではない。」 第5.当審の判断 1.本件発明 上記「第2.訂正の適否について」で示したとおり、訂正が認められるから、特許第3197465号(請求項の数1)の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】水平軸(1)周りに鉛直回転自在な回転体(2)を設け、且つ、前記回転体(2)を前記水平軸(1)周りに回転駆動する駆動装置(6)を設けてなる観覧車(C)を、建物(B)に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、 前記建物(B)の上層階部に、前記建物(B)の天部(A)から下方に凹入する溝状の凹部(E)を形成し、 前記上層階部における前記凹部(E)周辺の突設階層部(F)の内側壁(F1)を、透視可能な状態に形成し、 前記観覧車(C)を建物天部(A)上の屋上域、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部(E)の溝状域に位置するように前記溝状凹部(E)内に配置すると共に、 前記凹部(E)における底部に、前記水平軸(1)の両端部(1a),(1b)を支持する一対の支持部材(D)の基礎部を設けることにより、前記支持部材(D)を、前記突設階層部(F)から独立した状態に立設してある回転遊戯設備付き建物。」 (以下、「本件発明」という) 2.刊行物 2-1.刊行物の公知日 請求人が提出した甲第2、3号証には、発行日の記載がないので、その公知日について検討する。 甲第4号証には、草津駅東口開発委員会が平成3年6月15日に事業コンペ参加企業の中から近鉄グループ案を採用すると発表したこと、百貨店を中心とした近鉄グループの案に決まったこと、が記載されている。また、甲第2号証の24頁および甲第3号証の4.1頁に示されているものと同一の、観覧車を付設した建物のイラストが掲載され、「進出が決まった近鉄百貨店の完成予想図」との説明が付されている。 また、甲第5号証には、第2葉の「大阪支店」の欄に、「草津市駅前で、また大型開発、多機能複合型ビル ネオ・フレックスが事業コンペに当選」とあり、草津駅東口開発委員会主催の駅前開発事業提案競技に、清水建設株式会社が、近鉄不動産、近鉄百貨店グループ、三井建設とのJVで応募し、6月17日、最優秀に選ばれたことが記載されている。また、甲第2号証の第2葉および甲第3号証の第2葉に示されているものと同一の、観覧車を付設した建物の模型の写真が掲載され、「将来の草津駅東口のシンボルとして期待されている。」との説明が付されている。 これら甲第4、5号証の記載、新聞発表にあたって記者へ資料提供がなされること、および甲第6〜9号証の陳述内容から鑑みて、甲第2、3号証は、遅くとも平成3年6月15日頃には、公知となったものと推認できる。すなわち甲第2、3号証は、本件出願前に国内において頒布された刊行物であると認める。 2-2.刊行物に記載された事項 請求人が提出した甲第1号証(実願平4-31401号(実開平5-82483号)のCD-ROM)には、「観覧車」に関して、 (1)「以下、本考案の実施例を添付図面に従って説明する。図1は第1実施例に係る観覧車の正面図を示す。11は観覧車で、観覧車11は、客が昇降する多数のかご13と、多数のかご13を循環運動させる循環駆動手段15とを備える。前記循環駆動手段15は、かご13を上下方向に直線状に移動させる上下直線移動部17と、垂直面内に延在し下部が前記上下直線移動部17の上端に接続された円移動部19とで構成されている。【0006】循環駆動手段15、即ち、上下直線移動部17や円移動部19を構成する場合、種々の構造が考えられ、例えば、次のように構成することができる。図1及び図2に示すように、所定の半径で形成された同形同大の一対のスプロケット21を、脚体23により地上から所定の高さで回転可能に設置する。両スプロケット21の下部から下方に直線状に延出する一対のガイドレール25を地上から立設する。この時、ガイドレール25の上部には、スプロケット21の下半部に臨ませた円弧状のガイドレール25Aを連結する。前記一対のスプロケット21とガイドレール25とに渡って一対のチェーン27を夫々掛け渡たし、チェーン27の長手方向に間隔をおいて両チェーン27を連結する多数の軸29に夫々かご13の上端のフック31を回転可能に取り付ける。そして、モータ等の動力源でスプロケット21を回転させ、かご13をガイドレール25とスプロケット21に沿わせて循環運動させる。このように循環駆動手段15を構成した場合には、かご13を上下方向に直線状に移動させる上下直線移動部17は、ガイドレール25やチェーン27等により構成され、また、かご13を円運動させる円移動部19はスプロケット21やチェーン27等により構成されることになる。」(段落【0005】、【0006】)、 (2)「次に、図4を参照して第2実施例について説明する。第2実施例では、建物61の吹き抜け部63に上下直線移動部17を配置した点が前記実施例と異なり、このように構成することで、建物61の屋上65に円移動部19を設置でき、建物61の屋上65においてかご13からの眺望を楽しむことができる。【0012】次に、図5を参照して第3実施例について説明する。 第3実施例では、水族館や海中公園等において、水中や海中をガラス板67等により区画して空間69を仕切り、この空間69に上下直線移動部17によりかご13を循環させるようにしたもので、上下直線移動部17から水中、海中を眺望でき、同時に円移動部19により周辺の景色を眺望できるようにしたものである。この場合には、客のかご13への昇降は、例えば、上下直線移動部17の下部や円移動部19の下部等で行なわれる。」(段落【0011】、【0012】)、等の記載がある。 これらを含む明細書全体の記載および図面(特に図4、5)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。かっこ内は、対応する甲第1号証における構成・用語である。 「水平軸周りに鉛直回転自在な回転体(スプロケット21)を設け、且つ、前記回転体(スプロケット21)を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置(モータ等の動力源)を設けてなる観覧車(観覧車11)を、建物(建物61)に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、 前記建物(建物61)に、前記建物(建物61)の天部(屋上65)から下方に凹入する凹部(吹き抜け部63)を形成し、 前記凹部(吹き抜け部63)周辺の内側壁を、透視可能な状態に形成(ガラス板67等により区画)し、 前記観覧車(観覧車11)を建物天部(屋上65)上の屋上域、及び、凹部(吹き抜け部63)に位置するように建物天部(屋上65)に配置すると共に、 前記天部(屋上65)に、前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材(脚体23)の基礎部を設けることにより、前記支持部材(脚体23)を、立設してある回転遊戯設備付き建物。」 (以下、「甲第1号証発明」という) 同じく、請求人が提出した甲第2、3号証(これらは、同じ「ネオフレックス」に関する刊行物であるので、以下、一体のものとして取り扱う)には、 (3)水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設けてなる観覧車がアミューズメントパークに設置されていることが示されている。(甲第2号証第2葉右側のイラスト、甲第3号証第5葉) (4)建物の階数が地上8階であることが記載されている。(甲第2号証1頁右欄) (5)7、8階はアミューズメントのフロアであり、8階の上に屋上フロアがあり、屋上フロアに正方形の開口部があり、その下方は7階まで吹き抜けとなっていて7、8階で囲まれていること、および、屋上フロアの開口部の真下に位置する7階フロアの屋上庭園内に観覧車の支持部材の基礎部(6つの黒丸)が設けられていることが示されている。(甲第2号証9、10、11頁) (6)7階フロアに観覧車の支持部材の基礎部が設けられていること、および、観覧車を屋上フロア上の屋上域、及び、吹き抜けに位置させていることが示されている。(甲第2号証18、19頁) (7)「建物最上部には開放的な吹き抜けを持つアミューズメント施設を設け、眺望と外気を楽しめる空間を提供します」と記載されている。(甲第3号証4.5頁右下) なお、この観覧車も、回転体の駆動装置を設けてなることは自明といえるから、これらの事項によれば、甲第2、3号証には、次の発明が開示されているものと認める。かっこ内は、対応する甲第2、3号証における構成・用語である。 「水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設け、且つ、前記回転体を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置を設けてなる観覧車を、建物に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、 前記建物の上層階部(7、8階)に、前記建物の天部(屋上フロア)に設けた正方形の開口部から下方に連通する凹部(吹き抜け)を形成し、 前記上層階部(7、8階)における前記凹部(吹き抜け)周辺の突設階層部(7、8階)の内側を、透視可能な状態に形成し、 前記観覧車を建物天部(屋上フロア)上の屋上域、及び、凹部(吹き抜け)に位置するように前記凹部(吹き抜け)内に配置すると共に、 前記凹部(吹き抜け)における底部(7階フロア)に、前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、前記支持部材を、前記突設階層部(7、8階)から独立した状態に立設してある回転遊戯設備付き建物。」 (以下、「甲第2、3号証発明」という) 3.対比・判断 (無効理由1について) 本件発明と甲第1号証発明を対比すると、両者は、 「水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設け、且つ、前記回転体を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置を設けてなる観覧車を、建物に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、 前記建物に、前記建物の天部から下方に凹入する凹部を形成し、 前記凹部周辺の内側壁を、透視可能な状態に形成し、 前記観覧車を建物天部上の屋上域、及び、凹部に位置するように配置すると共に、 前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、前記支持部材を、立設してある回転遊戯設備付き建物。」 である点で一致し、次の点で相違している。 相違点1:建物に形成する凹部が、本件発明においては、建物の上層階部のみに形成される溝状の凹部であるのに対し、甲第1号証発明においては、そのようになっていない点。 相違点2:透視可能な状態に形成する内側壁が、本件発明においては、突設階層部の内側壁であるのに対し、甲第1号証発明においては、そのようになっていない点。 相違点3:観覧車を配置するに際し、本件発明においては、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部の溝状域にも位置するように溝状凹部内に配置するのに対し、甲第1号証発明においては、そのようになっていない点。 相違点4:水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、支持部材を、立設するに際し、本件発明においては、溝状凹部における底部に、基礎部を設けることにより、支持部材を、突設階層部から独立した状態に立設してあるのに対し、甲第1号証発明においては、天部(屋上65)に、基礎部を設けることにより、支持部材を、立設している点。 そこで、相違点3から検討すると、 甲第1号証記載の観覧車は、円移動部19で屋上の眺望を楽しみ、、上下直線移動部17で建物内を透視しようとするものであるから、本件発明の相違点3に係る事項は、甲第1号証に記載された事項から当業者が容易に想到できるものとは認められない。 また、本件発明は相違点3に係る事項を有することにより、被請求人が主張するように(答弁書4頁)、建物外壁を越えて壁面側方域を通過する際の高層階の壁面から飛出して足元直下の市街地風景を高い位置から見下ろす様な景観を楽しめ得るという格別な効果を奏し得るものであり、このような効果は特許明細書および図面の記載から明らかである。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証発明と同一であるとすることも、これに基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることもできない。 (無効理由2について) 本件発明と甲第2、3号証発明を対比すると、両者は、 「水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設け、且つ、前記回転体を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置を設けてなる観覧車を、建物に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、 前記建物の上層階部に、前記建物の天部から下方に凹部を形成し、 前記上層階部における前記凹部周辺に突設階層部を形成し、 前記観覧車を建物天部上の屋上域、及び、凹部に位置するように前記凹部内に配置すると共に、 前記凹部における底部に、前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、前記支持部材を、前記突設階層部から独立した状態に立設してある回転遊戯設備付き建物。」 である点で一致し、次の点で相違している。 相違点5:建物の上層階部に形成する凹部が、本件発明においては、建物の天部から下方に凹入する溝状の凹部であるのに対し、甲第2、3号証発明においては、建物の天部に設けた正方形の開口部から下方に連通する凹部である点。 相違点6:透視可能な状態に形成するものが、本件発明においては、上層階部における凹部周辺の突設階層部の内側壁であるのに対し、甲第2、3号証発明においては、そもそも内側壁の存在は不明である点。 相違点7:観覧車を配置するに際し、本件発明においては、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部の溝状域にも位置するように溝状凹部内に配置するのに対し、甲第2、3号証発明においては、そのようになっていない点。 そこで、相違点7から検討すると、 甲第2、3号証に開示する観覧車は、天部(屋上フロア)に設けた正方形の開口部から下方に連通する凹部(吹き抜け)内に配置されており、凹部(吹き抜け)周辺の突設階層部(7、8階)で囲まれていて、建物外壁を越えては位置していないものであり、これらの事項から、凹部を溝状とすること、あるいは、観覧車を建物外壁を越える壁面側方域にも位置するように溝状凹部内に配置すること、を想到することは当業者が容易になし得るものであるとするには無理がある。 すなわち、本件発明の相違点7に係る事項は、甲第2、3号証の開示事項から当業者が容易に想到できるものとは認められない。 また、本件発明は相違点7に係る事項を有することにより、被請求人が主張するように(答弁書7頁)、建物外壁を越えて壁面側方域を通過する際の高層階の壁面から飛出して足元直下の市街地風景を高い位置から見下ろす様な景観を楽しめ得る。さらに、観覧車を設置する凹部が溝状であるから、建物外壁を越えて張出す観覧車を大径にする事ができ、一回転当りの搭乗者人数を大幅に増加し得るという格別な効果を奏し得るものである。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、甲第2、3号証発明と同一であるとすることも、これに基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることもできない。 なお請求人は、証人尋問により、甲第2、3号証が本件出願前に国内において頒布された刊行物であることを立証しようとするが、その必要がないので、これを行わない。 第6.むすび 以上、請求人の主張する理由および提出した証拠によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。 また他に、本件発明の特許を無効とすべき理由を発見しない。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 回転遊戯設備付き建物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 水平軸(1)周りに鉛直回転自在な回転体(2)を設け、且つ、前記回転体(2)を前記水平軸(1)周りに回転駆動する駆動装置(6)を設けてなる観覧車(C)を、建物(B)に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、前記建物(B)の上層階部に、前記建物(B)の天部(A)から下方に凹入する溝状の凹部(E)を形成し、前記上層階部における前記凹部(E)周辺の突設階層部(F)の内側壁(F1)を、透視可能な状態に形成し、前記観覧車(C)を建物天部(A)上の屋上域、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部(E)の溝状域に位置するように前記溝状凹部(E)内に配置すると共に、前記凹部(E)における底部に、前記水平軸(1)の両端部(1a),(1b)を支持する一対の支持部材(D)の基礎部を設けることにより、前記支持部材(D)を、前記突設階層部(F)から独立した状態に立設してある回転遊戯設備付き建物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設け、且つ、前記回転体を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置を設けてなる回転遊戯設備を、建物に付設してある回転遊戯設備付き建物に関する。 【0002】 【従来の技術】 このような回転遊戯設備付き建物としては、従来、百貨店屋上等で頻繁に見掛けられるように、建物の屋上に、前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、前記屋上に、観覧車等の回転遊戯設備を立設したもの(以下、従来装置という)があった。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、前記屋上では、地上よりも強い横風が当たることになるので、前記屋上に前記観覧車等の回転遊戯設備が立設されている場合には、その回転遊戯設備に対して前記横風の風圧がかかり、その風圧対策が必要になる。そこで、従来装置では、前記屋上に前記風圧を遮る壁体(例えば、コンクリートや鉄板よりなる壁体)を設置する等の対策が講じられていたが、前記壁体は通常、透視できないものであるため、前記壁体の存在によって、前記回転遊戯設備の利用者の視界が狭まり、前記回転遊戯設備の価値が大きく低減してしまう、という問題があった。 本発明は、このような実情に着目してなされたものであり、上述した従来装置における問題、即ち、前記回転遊戯設備の価値が大きく低減してしまうという問題を、前記風圧対策を実現しつつ解消し得る回転遊戯設備付き建物を提供することを目的としている。 【0004】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る回転遊戯設備付き建物(以下、本発明装置という)は、水平軸周りに鉛直回転自在な回転体を設け、且つ、前記回転体を前記水平軸周りに回転駆動する駆動装置を設けてなる観覧車を、建物に付設してある回転遊戯設備付き建物であって、前記建物の上層階部に、前記建物の天部から下方に凹入する溝状の凹部を形成し、前記上層階部における前記凹部周辺の突設階層部の内側壁を、透視可能な状態に形成し、前記観覧車を建物天部上の屋上域、建物外壁を越える壁面側方域、及び、凹部の溝状域に位置するように前記溝状凹部内に配置すると共に、前記凹部における底部に、前記水平軸の両端部を支持する一対の支持部材の基礎部を設けることにより、前記観覧車の回転体の支持部材を、前記突設階層部から独立した状態に立設してある点を特徴構成としている。 【0005】 〔作用〕 このような特徴構成を備えた本発明装置にあっては、前記上層階部に形成された凹部の底部に、前記支持部材の基礎部が設けられて、前記支持部材が前記突設階層部から独立した状態に立設されているので、前記支持部材の下部が前記突設階層部によって囲われた状態となり、前記回転遊戯設備(特にその下部)に前記風圧がかかるのが抑止されるようになる。しかも、前記凹部周辺の突設階層部の内側壁が、透視可能な状態に形成されているので、前記回転遊戯設備の利用者にとって、前記突設階層部の内部が前記内側壁を通して透視できるようになり、前記回転遊戯設備の利用者の視界が従来のように遮られることが回避されるようになる。 【0006】 〔効果〕 従って、本発明装置によれば、前記回転遊戯設備に対する風圧対策が実現される上、前記回転遊戯設備の利用者の視界が狭まって、前記回転遊戯設備の価値が大きく低減してしまうという従来の問題が解消されるようになり、もって、本発明の目的が達成されるようになる。 【0007】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 図1〜図4中、Bは、本発明に係る建物であり、その建物Bは主要部が10階建てとなっている。その建物Bの上部には、回転遊戯設備C(本実施例では、観覧車)が付設されている。尚、以下の説明では、前記回転遊戯設備Cを側面視する方向(即ち、後述する回転体2の軸芯方向)を前後方向とする。前記建物Bの上層階部には、その一部が建物B天部Aから下方に凹入してなる凹部E(その凹部Eの形成部分は、建物Bとしては6階建てとなっている)が、前記前後方向と直交する方向に延在するように形成されている。換言すれば、前記建物Bにおける6階建ての部分(即ち、前記凹部E)の周辺(即ち、前後)には、その部分から更に上方に4階分だけ突出してなる突設階層部Fが形成されている。 【0008】 前記回転遊戯設備Cは、前後方向に軸芯方向が設定される水平軸1を備えると共に、その水平軸1周りに鉛直回転(更に詳しくは、鉛直面内で360°回転)自在な回転体2(半径:約40メートル)を備え、更に、前記回転体2を前記水平軸1周りに回転駆動する駆動装置6を備えている。尚、前記水平軸1は、その両端部1a,1bが前後一対の支持部材Dによって支持されている。前記回転体2は、前記水平軸1から放射状に延びる多数の放射状フレーム2aと、それら多数の放射状フレーム2aを等間隔に繋いで全体を一体化する環状フレーム2bとを備えている。そして、前記放射状フレーム2aの各先端側部分には、遊覧車5(更に詳しくは、人が乗降でき、乗り込んだ人が周囲を眺望できるようになっている遊覧車5)が、正常な上下姿勢を常に維持できる状態に連結されている。前記一対の支持部材Dは、夫々、基礎部が3点に分離し、頂点部が1点に集合する3本足構造の支柱3a,3b,3cよりなる。そして、その3本足構造の支柱3a,3b,3cよりなる支持部材Dは、その基礎部が、前記建物B天部Aから下方に凹入してなる凹部Eの底部に設けられることにより、前記前後の突設階層部Fから独立した状態に立設されている。更に、前記3本足構造の支柱3a,3b,3cの設置スペースを確保するための半円錐状の凹入部が、前記凹部Eの前後の突設階層部Fに夫々形成されている。更に、前記突設階層部Fの内側壁F1は、前記突設階層部Fの各階に設けられた窓を、図2(回転遊戯設備Dの軸芯部で鉛直切断したもの)及び図3(回転遊戯設備Dの軸芯をずれた部分で鉛直切断したもの)に示すように、適宜ブロック毎の透明なガラス張り構造に構成することにより、前記遊覧車5に乗り込んだ人が、前記内側壁F1を通して前記突設階層部F内を透視できるようになっている。 【0009】 前記突設階層部Fの一部で、前記凹部Eに面する部分の適宜位置には、前記回転体2を前記水平軸1周りに回転させるための油圧シリンダ式の駆動装置6が設けられている。その駆動装置6は、図5に示すように、前記回転体2の一部を構成する環状フレーム2bから、前記突設階層部F側に突出形成された駆動用レール2dを挟持するローラー体6aを回転駆動して、その回転駆動力を前記駆動用レール2dに伝達し、前記回転体2を全体として前記水平軸1周りに回転駆動するように構成したものである。 【0010】 上記構成の回転遊戯設備C付き建物Bにあっては、その上層階部に形成された凹部Eの底部に、前記3本足構造の支柱3a,3b,3cよりなる支持部材Dの基礎部が設けられて、その支持部材Dが前記突設階層部Fから独立した状態に立設されている。従って、前記支持部材Dの下部が前記突設階層部Fによって前後囲われた状態となり、その突設階層部Fの存在によって、前記回転遊戯設備Cの下部に風圧がかかるのが抑止されるようになる。しかも、前記凹部E周辺の突設階層部Fの内側壁F1が、透視可能な状態に形成されているので、前記回転遊戯設備Cの利用者にとって、前記突設階層部Fの内部が前記内側壁F1を通して透視できるようになる。従って、前記回転遊戯設備Cの利用者の視界が遮られるのが回避されるようになる。また、前記支持部材Dが前記突設階層部Fとは独立しているので、地震発生時に前記前後の突設階層部Fに夫々固有に起こる揺れが、前記支持部材Dには直接的には伝達しないことになる。これは、前記回転遊戯設備Cに対する地震対策として有効である。 【0011】 次に、別実施形態について説明する。 〈1〉上述した実施形態では、前記回転遊戯設備Cの中心部において、前記突設階層部Fに、前記支持部材Dの設置スペースを確保するための半円錐状の凹入部を大きく形成しなければならないが、その大きな凹入部の有効利用を図るため、前記3本の支柱3a,3b,3cとは独立の斜壁4を、図6に示すように、前記凹部Eの底部から前記突設階層部Fの頂部に向けて斜めに架設し、その斜壁4と前記突設階層部Fの凹入部とで囲まれる空間に適宜施設を設けて、その空間を有効利用することができる。前記斜壁4をガラス張り構造にすれば、回転遊戯設備Cから透視性を確保しながら、斜壁4と前記凹入部とで囲まれた空間に自然光を取り入れることが可能となり、その空間を、例えば、回転遊戯設備に対する待合いスペースや、イベントスペース、植物観賞スペース(温室)等、より多目的に使用することが可能となる。また、前記空間は、斜壁4によって風雨をしのぐことが可能となり、雨の日でも、回転遊戯設備Cの乗降部まで濡れずに行き来することができ、快適環境での遊戯設備の利用を叶えることが可能となる。また、図6に示すように、前記斜壁4を、前記支持部材Dとは独立した状態に設けておくことによって、例えば、地震や強風による建物の揺れに対しても、各部材どうしが個別に弾性変形することが許容され、不用意な応力集中を回避することが可能となる。 〈2〉前記突設階層部Fの内側壁F1を、遊覧車5に乗り込んだ人が透視できるように透明なガラス張り構造にするのに、前記遊覧車5の通過軌跡に相当する部分だけを、図7に示すように局部的に前記ガラス張り構造にする別実施例も考えられる。この別実施例によれば、前記ガラス張り構造にする部分を少なくすることができるので、建物Bの強度を考慮したとしても、例えば、前記突設階層部Fの内側壁F1のみならず、前記突設階層部Fの外側壁もガラス張り構造にすることができる。このようにすれば、前記二つのガラス張り構造を通して、遊覧車5に乗り込んだ人が突設階層部Fを透視できるようになる、というメリットが生じる。また、前記ガラス張り構造にする部分を開口窓にすることもできる。 〈3〉前記回転遊戯設備Cは、上述の実施形態では、360°回転する観覧車であったが、前記回転遊戯設備Cとしては、図8に示すように、水平軸周りに揺動する観覧車も考えられる。即ち、前記回転遊戯設備Cにおける回転とは、回転、回動、揺動を含む概念である。換言すれば、前記回転遊戯設備Cは、前記360°回転する観覧車、前記水平軸芯周りに揺動する観覧車等、各種遊戯設備を含むものである。 【0012】 尚、特許請求の範囲の項に、図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明装置の全体構成を示す斜視図 【図2】 その縦断(回転遊戯設備の軸芯で鉛直切断)側面図 【図3】 その縦断(回転遊戯設備の軸芯をずれた部分で鉛直切断)側面図 【図4】 その正面図 【図5】 回転遊戯設備の駆動装置を示す説明図 【図6】 本発明装置の別実施形態の概念を示す縦断側面図 【図7】 本発明装置の別実施形態の概念を示す正面図 【図8】 本発明装置の別実施形態の概念を示す正面図 【符号の説明】 1 水平軸 1a,1b 端部 2 回転体 6 駆動装置 A 天部 B 建物 C 回転遊戯設備 D 支持部材 E 凹部 F 突設階層部 F1 内側壁 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2003-02-20 |
結審通知日 | 2003-02-25 |
審決日 | 2003-03-11 |
出願番号 | 特願平7-214475 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
YA
(E04H)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 忠夫 |
特許庁審判長 |
安藤 勝治 |
特許庁審判官 |
藤原 伸二 山口 由木 |
登録日 | 2001-06-08 |
登録番号 | 特許第3197465号(P3197465) |
発明の名称 | 回転遊戯設備付き建物 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 森 厚夫 |
代理人 | 北村 修一郎 |