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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1078933
審判番号 不服2001-1215  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-01-25 
確定日 2003-06-20 
事件の表示 平成 6年特許願第241090号「エンジンのアイドル回転速度制御装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 4月23日出願公開、特開平 8-105341]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯
本願は、平成6年10月5日の出願であって、その請求項1に係る発明は特許を受けることができないとして、平成12年12月15日に前審において拒絶査定がなされた。
これに対し、平成13年1月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成13年2月23日付けで手続補正がなされたものである。
そして、この補正は、明細書の「特許請求の範囲」を補正対象として変更するものを含むものであって、該変更は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲を、特許法第17条の2第1項第5号の規定により平成13年2月23日付けの手続補正書に記載のとおりに補正するものである。

【2】平成13年2月23日付けの手続補正について
・[補正却下の決定の結論]
平成13年2月23日付けの手続補正を却下する。

・[理由]
(1)補正の内容
出願人が求めている特許請求の範囲に関する補正の内容は、次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1の記載の、
「【請求項1】 油圧により変速切換が行われる自動変速機であって、シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、前記シフト位置検出手段によりDレンジにあることが検出されたときに第1目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置検出手段によりRレンジにあることが検出されたときに前記第1目標アイドル回転数よりも高い第2目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定する目標アイドル回転数設定手段とを備え、前記RレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保したことを特徴とするエンジンのアイドル回転速度制御装置。」を、
「【請求項1】 油圧により変速切換が行われる自動変速機を備えた車両に適用され、前記自動変速機のシフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、前記シフト位置検出手段により前記シフト位置がRレンジにあることが検出されたときに通常のアイドル回転数である第2目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置検出手段により前記シフト位置がDレンジにあることが検出されたときに前記第2目標アイドル回転数よりも低い第1目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定するアイドル回転数設定手段とを備え、シフト位置が前記RレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保するようにしたことを特徴とするエンジンのアイドル回転速度制御装置。」、
と補正する。
そして、上記下線部を付した事項を新たに付け加えるこの補正は、特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認める。
(2)新規事項の有無の検討
補正後の特許請求の範囲に記載される「通常のアイドル回転数」は、何をもって「通常」とするか、という具体的な記述が発明の詳細な説明の箇所には何ら記載されておらず、また、この用語は当初明細書に記載されていないことからみて、当該「通常」の意味は不明であるというべきである。
この「通常」という用語の意味をうかがわせる記載として、明細書の段落[0004]、[0015]には、「現行のアイドル回転数(約650rpm程度)」という記載があることにはある。
しかし、「通常」と「現行」とでは明らかにその意味が異なり、これらの用語を同義であるとすることはできない。
即ち、上記補正後の特許請求の範囲に記載される「通常のアイドル回転数」は、車両のさまざまな車種によって異なる数多くのアイドル回転数を含むものとなって、「現行のアイドル回転数」である約650rpm程度の回転数に、その意味が限定されるものとはいえない。
したがって、願書に最初に添付された明細書に、その記載の存在がまったくなかった用語である「通常」を唐突に用いて、特許請求の範囲に「通常のアイドル回転数」という構成を付け加えた補正事項は、新たな技術上の意義を導入するものであるから、出願当初の明細書又は図面に記載した事項に基づくものではなく、いわゆる「新規事項」の追加に該当する。
それゆえ、当該補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項範囲内においてされたものではない。
(3)独立特許要件の検討
[特許法第29条第2項違反について;]
イ.補正後の発明
上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項は、(1)の箇所で既述したとおりである。
ロ.引用刊行物の記載事項
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用した実願昭59-15641号(実開昭60-127446号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、次の技術的事項が記載されている。
「上記従来のアイドル回転数制御装置においては、自動変速機の切換に伴う負荷変動に対し、上述のように非ニュートラル時つまり前進位置および後進位置の何れであつても一律(例えば1.5%)に補正を加えるようにしており、それ故後進時に所謂エンストが発生し易いという欠点があつた。」(第6頁第2〜8行)、
「この考案に係る自動車用機関のアイドル回転数制御装置は、第2図に示すように、温度に応じて目標アイドル回転数を設定する目標設定手段11と、温度に応じて基本制御値を設定する基本制御値設定手段12と、この設定された基本制御値に基づいて電磁弁のデューティ比制御等によりアイドル回転数調整用の補助吸気流量を制御する吸気流量制御機構13と、機関の実際の回転数を検出する実回転数検出手段14と、この実回転数と上記目標アイドル回転数とを比較し、その偏差に応じて上記基本制御値を補正する第1補正手段15と、自動変速機のニュートラル,前進,後進の夫々に対し予め設定された補正値を上記基本制御値に加えて補正する第2補正手段16とを備えて構成されたものであつて、上記第2補正手段16において、自動変速機の後進位置では前進位置に比較して一層大きな補正が与えられ、これによりエンストの発生を確実に回避するのである。」(第7頁第9行〜第8頁第11行)、
「一方、第2補正手段16においては、次表に示すように、エアコンのON-OFF、ニュートラルスイッチ(ニュートラル時にON,非ニュートラル時に OFF )のON-OFF、リバーススイツチ(後進時にのみON )のON-OFFに対応して、[1]〜[5]までの補正値が設定されている。」(但し、[]の数字は、原文ではマル数字で表わされている。以下同様。)(第9頁第10〜15行)、
「例えばエアコンがOFFで自動変速機がニュートラルの場合には、温度に応じて設定された基本制御値がそのまま電磁弁6の制御の基準として用いられ、またエアコンがOFFで自動変速機が前進位置あるいは後進位置の場合には、夫々基本制御値に補正値[1]あるいは[2]を付加した制御値が制御の基準として用いられて、変速機の負荷を相殺することになる。そして、上述のように、後進時の補正値は前進時に与えられる補正値よりも大きく([1]<[2],……)、従って比較的高い回転数を基準として制御が行われるので、急ブレーキ等によるエンストを確実に防止できるのである。」(第10頁第7行〜第11頁第10行)
ところで、自動変速機のニュートラル、前進、後進を検出するニュートラルスイッチ、リバーススイッチは、自動変速機のシフトレバーのシフト位置を検出するものであり、また、その時、シフトレバーのシフト位置が後進にあることを「Rレンジ」にあるといい、シフトレバーのシフト位置が前進にあることを「Dレンジ」にあるということは、当業者にとって技術常識である。
そして、自動変速機が前進位置(シフトレバーのシフト位置がDレンジ)にある時は、基本制御値に補正値[1]を付加したものが制御の基準値に用いられ、自動変速機が後進位置(シフトレバーのシフト位置がRレンジ)にある時は、基本制御値に補正値[2](>補正値[1])を付加したものが制御の基準値に用いられるから、それぞれの基準値が「目標アイドル回転数」といい得るものであることは、当業者にとって自明である。
以上の記載、及び、第1〜3図の記載からみて、
引用例1には、
「変速切換が行われる自動変速機を備えた自動車に適用され、前記自動変速機のシフトレバーのシフト位置を検出する手段と、前記シフト位置を検出する手段により前記シフト位置がRレンジにあることが検出されたときに基本制御値に補正値[2]を付加した制御値を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置を検出する手段により前記シフト位置がDレンジにあることが検出されたときに前記制御値よりも低い(基本制御値に補正値[1]を付加した)制御値を目標アイドル回転数として設定する手段とを備えたエンジンのアイドル回転数制御装置」、
という発明が記載されているものと認められる。
ハ.対比・判断
(対比)
そこで、補正発明1と上記引用例1に記載された発明とを対比すると、
引用例1に記載された「自動車」、「基本制御値に補正値[2]を付加した制御値」、「基本制御値に補正値[1]を付加した制御値」、「アイドル回転数制御装置」は、それぞれ、補正発明1の「車両」、「第2目標アイドル回転数」、「第1目標アイドル回転数」、「アイドル回転速度制御装置」に相当するものであるから、両者は、
「変速切換が行われる自動変速機を備えた車両に適用され、前記自動変速機のシフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、前記シフト位置検出手段により前記シフト位置がRレンジにあることが検出されたときに第2目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置検出手段により前記シフト位置がDレンジにあることが検出されたときに前記第2目標アイドル回転数よりも低い第1目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定するアイドル回転数設定手段とを備えたエンジンのアイドル回転速度制御装置」、
で一致し、以下の各点(a)、(b)で相違している。
(相違点)
(a)補正発明1の自動変速機は、油圧により変速切換が行われ、自動変速機のシフトレバーのシフト位置がRレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保したものであるのに対し、引用例1に記載された発明は、これらの構成を備えるものであるのか、不明である点。
(b)補正発明1の第2目標アイドル回転数が「通常」のアイドル回転数であるのに対し、引用例1に記載された発明はそのような構成を備えていない点。
以下、前記相違点(a)、(b)について検討する。
(相違点の検討)
・相違点(a)について;
自動変速機の変速切換が油圧により行われることは、当業者にとって技術常識であるに等しい周知又は慣用の事項にすぎず、しかも、引用例1に記載された発明の自動変速機の変速切換が油圧により行われないという根拠は何ら存在しないことから、引用例1に記載された発明の自動変速機の変速切換が油圧により行われるものであることは、当業者が当然のようにきわめて普通に想到し得る程度の事項にすぎない。
そして、引用例1に記載された発明の自動変速機の変速切換が油圧により行われるものであれば、引用例1に記載された発明は、Rレンジ時の第2目標アイドル回転数がDレンジ時の第1目標アイドル回転数より高いものである以上、引用例1に記載された発明は、必然的に、シフト位置がRレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保するようになるということができるから、この相違点(a)は、格別のものとはいえない。
・相違点(b)について;
「自動車用語辞典」改訂版(トヨタ自動車株式会社トヨタ技術会、1988-12-27発行)第4頁の「アイドリング[Idling]」の項には、「アイドリングのエンジン回転数は、エンジンが安定して運転でき、円滑に発進のできる最低度の値に設定される」と記載されている。
このことを自動変速機を備えた車両であるA/T車に対して考えると、シフトレバーのシフト位置がDレンジにある時の目標アイドル回転数は、通常、最低に近いエンジン回転数に設定されるものであることが容易に理解できる。
そして、このような「知見」は、本願出願前、当業者にとって技術常識であったものと認められる。
この点を踏まえて、補正発明1における「通常のアイドル回転数」の技術的意味を検討すると、この「通常のアイドル回転数」は、出願当初の明細書の段落[0004]、[0015]の記載からみて、「現行のアイドル回転数(約650rpm程度)」と同義であり、それ以外のなにものでもないと解される。
しかるに、補正発明1においては、通常のアイドル回転数である第2目標アイドル回転数よりも低い第1目標アイドル回転数を、Dレンジ時の目標アイドル回転数としているのであるから、この「通常のアイドル回転数」は、目標アイドル回転数として、これ以下にさらに引き下げる余地があったといえる。
換言すれば、補正発明1においては、さらにひき下げることの出来る目標アイドル回転数を、たまたま、「通常のアイドル回転数」(=「現行のアイドル回転数」)と定義していたにすぎない。
それゆえ、Dレンジ時の目標アイドル回転数は、最低に近いエンジン回転数に設定されるものであるという上記「知見」、及び、補正発明1における「通常のアイドル回転数」はDレンジ時にはさらにひき下げられる余地を含んだものであったという技術的事情を考えるならば、引用例1に記載された発明のDレンジ時の目標アイドル回転数を最低に近いエンジン回転数に設定することは、当業者が容易に想到し得るものと認められ、また、その時、Rレンジ時の目標アイドル回転数を、「現行のアイドル回転数」と同義の「通常のアイドル回転数」とすることも、当業者が容易に想到し得るものというべきである。
また、この時、補正発明1において定義された「通常のアイドル回転数」が、上記「知見」の最低度の値に設定されたものではなかったことは、いうまでもない。
(効果について)
そして、補正発明1の構成によってもたらされる効果も、引用例1に記載された発明から当業者であれば当然予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
ニ.まとめ
以上のとおりであるから、補正発明1は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(4)むすび
したがって、上記補正は、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定、及び、特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第3項の規定に適合しないので、当該補正は認められない。
それゆえ、本件補正は、特許法第159条第1項の規定によって準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について
(1)本願発明
平成13年2月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成11年4月28日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】 油圧により変速切換が行われる自動変速機であって、シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、前記シフト位置検出手段によりDレンジにあることが検出されたときに第1目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置検出手段によりRレンジにあることが検出されたときに前記第1目標アイドル回転数よりも高い第2目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定する目標アイドル回転数設定手段とを備え、前記RレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保したことを特徴とするエンジンのアイドル回転速度制御装置。」
(2)引用例の記載事項
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用した引用例1(実願昭59-15641号(実開昭60-127446号)のマイクロフィルム)には、上記【2】(3)ロ.で既述したとおりの技術的事項が記載されている。
(3)対比・判断
そこで、本願発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると、上記【2】(3)ハ.で既述したと同様に、両者は、
「変速切換が行われる自動変速機であって、シフトレバーのシフト位置を検出するシフト位置検出手段と、前記シフト位置検出手段によりDレンジにあることが検出されたときに第1目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定し、前記シフト位置検出手段によりRレンジにあることが検出されたときに前記第1目標アイドル回転数よりも高い第2目標アイドル回転数を目標アイドル回転数として設定する目標アイドル回転数設定手段とを備えたエンジンのアイドル回転速度制御装置」、
で一致し、次の点で相違している。
(相違点)
本願発明1の自動変速機は、油圧により変速切換が行われ、自動変速機のシフトレバーのシフト位置がRレンジからDレンジへ切り換えられた際に急発進可能な油圧を確保したものであるのに対し、引用例1に記載された発明は、これらの構成を備えるものであるのか、不明である点。
(相違点の検討)
前記相違点について検討すると、この相違点は、上記【2】(3)ハ.の「相違点の検討」の「相違点(a)」の箇所で既述したように、格別のものではない。
(効果について)
そして、本願発明1の構成によってもたらされる効果も、引用例1に記載された発明から当業者であれば当然予測することができる程度のものであって、格別のものではない。

【4】むすび
以上のとおりであって、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-22 
結審通知日 2003-04-23 
審決日 2003-05-12 
出願番号 特願平6-241090
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 哲  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 亀井 孝志
清田 栄章
発明の名称 エンジンのアイドル回転速度制御装置  
代理人 長門 侃二  

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