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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04D
管理番号 1079489
異議申立番号 異議2002-72265  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-18 
確定日 2003-04-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3266396号「太陽電池屋根」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3266396号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続きの経緯
本件特許第3266396号発明は、平成5年12月20日に出願されたものであり、平成14年1月11日にその特許権の設定登録がなされ、その後佐藤正より請求項1ないし3に係る特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、意見書及び訂正請求書が提出されものである。

第2.訂正の適否についての判断
I.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は、本件特許明細書を平成15年1月21日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち次のとおりに訂正しようとするものである。
a 明細書の「特許請求の範囲」を、
「【請求項1】 所定寸法の太陽電池パネルが複数配列される太陽電池屋根であって、所定高さ寸法の間隔保持材を介して該太陽電池パネルが該太陽電池屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持され、かつ、配列された太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間のそれぞれの屋根面に、調整面材が配置されている太陽電池屋根であって、
該間隔保持材は屋根面に平行に敷設された一対のレール状部材であり、太陽電池パネルの両端を支持するとともに、該棟側の調整面材は該レール状部材より高さ寸法の大きい角材で支持されるものであることを特徴とする太陽電池屋根。
【請求項2】 請求項1に記載の太陽電池屋根において、上記太陽電池パネルと屋根面との間の隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた網状部材で塞がれていることを特徴とする太陽電池屋根。」
と訂正する。
b 明細書の段落【0005】を、
「本発明は、所定寸法の太陽電池パネルが複数配列される太陽電池屋根であって、所定高さ寸法の間隔保持材を介して該太陽電池パネルが該太陽電池屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持され、かつ、配列された太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間のそれぞれの屋根面に、調整面材が配置されている太陽電池屋根であって、該間隔保持材は屋根面に平行に敷設された一対のレール状部材であり、太陽電池パネルの両端を支持するとともに、該棟側の調整面材は該レール状部材より高さ寸法の大きい角材で支持されるものであることを特徴とする太陽電池屋根。」
と訂正する。
c 明細書の段落【0006】を、
「そして、上記太陽電池パネルと屋根面との間の隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた網状部材で塞がれていることが好ましい。」
と訂正する。

II.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
これらの訂正事項について検討すると、
訂正事項aは、請求項1を削除し、請求項2、3の項番を繰り上げると共に、記載を整理するものであるから、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項b、cは特許請求の範囲を訂正したことに伴い、対応する発明の詳細な説明の記載の整合をはかるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項aないしcは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

III.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項に規定する訂正の目的を満たすものであり、かつ、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するので、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについての判断
I.本件の請求項に係る発明
上記「第2.訂正の適否についての判断」に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件の請求項1、2に係る発明は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、上記第2.I.aに記載したとおりのものと認める。

III.引用刊行物の記載事項
(1)当審で通知した取消しの理由で引用した刊行物1(特開昭60-173256号公報、異議申立人の提出した甲第8号証)には、「エネルギー集収屋根」に関して、次のとおり記載されている。
「第1図は、エネルギー集収屋根の完成状態の斜視図を示し、Aは中間部接続部材、Bは、これら中間部接続部材A,A間に取付けられたカバーガラス枠で、軒先部カバーガラス枠B1、中間部カバーガラス枠B2、及び棟部カバーガラス枠B3で構成されている。・・・Gは防塵・配線点検カバーで、Hは、該カバーGに設けた軒先吸気孔である。Iは棟冠で、棟部熱気排出孔Jを有する。」(1頁右下欄末行〜2頁左上欄12行)、
「第4図は、第2図の線A-A断面図を示し、金属屋根板4は、その立ち上がり部5を中間部接続部材Aに係合することにより横方向に順次接続される。Bは中間部接続部材間に取付けられたカバーガラス枠で、カバーガラス枠Bの下側には、アモルファスシリコンあるいは結晶シリコン等からなるエネルギー集収器Sが取付けられている。」(2頁右上欄19行〜同頁左下欄5行)、
「防塵・配線点検カバーGは第20図に示すように、本体75の上面棟方向端部に立上り水返係合壁76を形成し、・・・軒先端部に垂下水切片79を形成する。軒先部下面には垂下板80を設け、・・・垂下板80の中間部外面部には、軒先部吸気孔Hを穿設し、その上部に庇84を形成する。」(4頁左下欄2〜14行)、
「第19図及び第21図のGAは、軒先防塵装置であり、第23図に示すように、防塵・配線点検カバーGの本体75下面と張出係合突片82に嵌合する枠体100に防塵網101を設け、前記枠体100の棟側下部に前記防塵・配線点検カバーGの嵌合凸部83に嵌合する嵌合凹部102を形成する。」(4頁左下欄16行〜同頁右下欄2行)
また、第1図ないし第3図には、金属屋根板4の上に、軒先から棟に向かって防塵・配線カバーG、軒先部カバーガラス枠B1、中間部カバーガラス枠B2及び棟部カバーガラス枠B3が順次連結されていることが示され、棟部カバーガラス枠B3の棟側には、エネルギー集収器Sの棟側端部位置より棟冠下方に亘って、上部にカバーガラス洗浄装置Tを連絡する散水管Qを載置した平坦な部分が形成されていることが示されている。また、第4図には、エネルギー集収器Sを有するカバーガラス枠が、所定高さ寸法の中間部接続部材Aを介して金属屋根板4との間に隙間を形成した状態で支持されている構成が示され、また、中間部接続部材Aは、平行に敷設された軒先から棟へ伸びる長尺な部材であって、カバーガラス枠Bの両端を支持していることが示されている。
これらの記載を含む、明細書及び図面の記載からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「アモルファスシリコンあるいは結晶シリコン等からなるエネルギ-集収器Sが取り付けられた、所定寸法のカバーガラス枠Bが複数配列されるエネルギー集収屋根であって、所定高さ寸法の中間部接続部材Aを介して該カバーガラス枠Bが屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持され、中間部接続部材Aは、平行に敷設された軒先から棟へ伸びる長尺な部材であって、カバーガラス枠Bの両端を支持し、配列されたカバーガラス枠Bの下端縁と屋根の軒側端縁との間に防塵・配線カバーGが設けられ、カバーガラス枠Bと屋根面との隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた防塵網101で塞がれているエネルギー集収屋根」

(2)同じく刊行物2(実公昭63-50340号公報、同甲第2号証)には、「熱交換器を備えた屋根」に関し、次のとおり記載されている。
「第1図は屋根の傾斜に対して直角方向上方から見た平面図である。本実施例は屋根全体が熱交換器を有するものではなく、図示の図面上左右両側はカラー石綿セメント板によって屋根を構成させている。最上段の1が棟包みであり、その下に3枚の熱交換器を有しない屋根板2,2,2が並べられ、その下に本実施例に係る屋根材3,3……が連結されて並べられている。この屋根材3は屋根材2より短いものを使用し、その図面上左右両端に調整材4,4を設けて屋根板2の長さと同一とされている。・・・最下段には前記屋根板2と同様の軒先調整材5が取り付けられている。」(1頁2欄17行〜2頁3欄4行)、
「屋根材3の基部6の裏面には2本のパイプ16,16がリブ17,17を介して、基部6から離して形成させてある。」(2頁3欄28〜30行)、
「上記構成になる屋根材3,3……を調整材等とともに屋根に葺くわけであるが、まず、第3図に示すように建物の鼻隠し18の短尺寸法の補助材19で取り付けられた端部材20に軒先調整材5の先端を連結し、前述のように、その固着部7を心木8に固着させ、以下同様に、前記のように、屋根材3を下段のものから順次上段のものへ隣接する下段のものと連結部で連結させつつ固着部で固着させながら最上段のもの、さらには屋根板2,2(第4図)を固着し屋根とする。最上段の屋根板2の接続部12と挟持部13とには、受材34を覆うように取り付けられた上端材33の、前記屋根板3の挿入部14と同一に成形された端部が挿入される。・・・棟包み1は上端材33の表面から離れた位置に設けられ、その間に排気口36を形成させている。・・・これらの屋根部材は前記のように、野地板22に取り付けられた心木8に固着し、野地板22と屋根との間に空間を形成させる。この空間に空気を流通させ、前記排気口36から排気させる。」(2頁3欄37行〜同頁4欄17行)。

(3)同じく刊行物3(特開平5-243598号公報、同甲第7号証)には、「太陽電池付き屋根パネル」に関して、次のとおり記載されている。、
「各屋根パネル本体3A、3Bの上面であってその長さ方向に沿った両縁部および両縁部間の中央には、角柱状のスペーサ18が、接着剤等により固着されている。これらスペーサ18は、屋根パネル本体3A、3Bの長さ方向に沿って延びており、これらスペーサ18上に、・・・ジョイントピース16が接着剤等で固着され、これによって、各太陽電池モジュール4は、屋根パネル本体3(3A、3B)の上面に貼設されている。そして、図2等に示すように、スペーサ18があることにより、屋根パネル本体3(3A、3B)の上面と各太陽電池モジュール4の下面との間には、スペーサ18の厚さ分の空隙が形成されており、この空隙が、屋根パネル1の長さ方向に延びて軒先部J1から棟部J2にわたる前記通気層5となっている。」(段落【0017】)。

2.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「アモルファスシリコンあるいは結晶シリコン等からなるエネルギ-集収器S」は「太陽電池」にほかならないから、「エネルギ-集収器Sが取り付けられたカバーガラス枠B」、「エネルギー集収屋根」は、請求項1に係る発明の「太陽電池パネル」、「太陽電池屋根」に相当し、刊行物1記載の発明の「中間部接続部材A」は、請求項1に係る発明の「間隔保持材」に相当し、長尺な部材であるから、「レール状部材」といえる。
したがって、両者は、「所定寸法の太陽電池パネルが複数配列される太陽電池屋根であって、所定高さ寸法の間隔保持材を介して該太陽電池パネルが該太陽電池屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持される太陽電池屋根であって、該間隔保持材は屋根面に平行に敷設された一対のレール状部材であり、太陽電池パネルの両端を支持するものである太陽電池屋根。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:請求項1に係る発明は、配列された太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間のそれぞれの屋根面に、調整面材が配置されているのに対し、刊行物1記載の発明は、このような調整面材を有していない点。
相違点2:請求項1に係る発明では、棟側の調整面材は、レール状部材より高さ寸法の大きい角材で支持されるものであるが、刊行物1記載の発明は、このような角材を有していない点
上記相違点1について検討すると、刊行物1記載の発明の防塵・配線カバーGも、請求項1に係る発明の調整面材と同様に、複数配列される太陽電池パネルと屋根端縁との間の余り部分を覆って、太陽電池パネルと連続する面を屋根の端縁まで形成するものであり、また、棟部カバーガラス枠B3の棟側には、エネルギー集収器Sの棟側端部より棟冠下方に亘る平坦な部分が形成されている。
一方、刊行物2には、屋根に設置される熱交換器用のパイプ付き屋根材3と屋根の軒側端縁の間に板状の「軒先調整材5」を配置し、パイプ付き屋根材3と屋根の棟側端縁の間に板状の屋根材2を配置することが記載され、さらにパイプ付き屋根材と屋根の左右両端間に板状の調整材4,4を設けて屋根板の長さを調整することが記載されており、また、一般に、幅等を調整した屋根材を配置して、屋根面の形状に合わせることは、異議申立人の提出した甲第4号証(『金属屋根の施工と管理』社団法人日本長尺金属工業会、株式会社神戸クリエイテイブ 昭和61年9月発行)、甲第5号証(『建築構造ハンドブック』編集 建築構造ハンドブック編集委員会 昭和54年4月15日発行)に記載のように周知の技術であるから、刊行物1記載の発明において、太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間の余り部分を覆うために、屋根面に調整面材を配置し、太陽電池パネルと屋根端縁との間隔に対応させることは、上記刊行物2記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易になしうることである。
相違点2について検討すると、刊行物2には、熱交換器用のパイプ付き屋根材3及び棟側の屋根材2を屋根面に平行に敷設された心材8により屋根面との間に隙間を形成した状態で支持することが記載されており、また、太陽電池パネルを支持する間隔保持材を角材(角柱状スペーサ)で構成することが刊行物3に記載されており、刊行物1記載の発明において、棟側に調整面材を配置する際に、これを角材により支持することは、刊行物2、3に基いて当業者が容易になしうることである。
また、屋根材を、棟側が低くならないように支持することは当然のことであり、棟側の屋根材に相当する棟側調整面材を支持する角材の高さは、調整面材と太陽電池パネルの厚さや形状等に応じて適宜決めうることであって、例えば、調整面材の厚さが太陽電池パネルよりも薄い場合に、角材をレール状部材より高さ寸法の大きいものとすることは当業者が容易になしうることである。
そして、請求項1に係る発明の効果は、全体として刊行物1、2記載の発明及び周知の技術から予測できる程度のことであって、格別のものとは認められない。
したがって、請求項1に係る発明は、上記刊行物1ないし3記載の発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、さらに「太陽電池パネルと屋根面との間の隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた網状部材で塞がれている」ものに限定した発明であるが、刊行物1には、屋根面と太陽電池パネルとの隙間を、屋根の軒側端縁に位置する細かい孔のあいた防塵網(請求項2に係る発明の「網状部材」に相当する)で塞ぐことが記載されており、請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本件請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された上記引用刊行物1ないし3記載の発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1、2についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
太陽電池屋根
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定寸法の太陽電池パネルが複数配列される太陽電池屋根であって、所定高さ寸法の間隔保持材を介して該太陽電池パネルが該太陽電池屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持され、かつ、配列された太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間のそれぞれの屋根面に、調整面材が配置されている太陽電池屋根であって、
該間隔保持材は屋根面に平行に敷設された一対のレール状部材であり、太陽電池パネルの両端を支持するとともに、該棟側の調整面材は該レール状部材より高さ寸法の大きい角材で支持されるものであることを特徴とする太陽電池屋根。
【請求項2】 請求項1に記載の太陽電池屋根において、上記太陽電池パネルと屋根面との間の隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた網状部材で塞がれていることを特徴とする太陽電池屋根。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、太陽電池屋根に係り、住宅等の建物に利用できる。
【0002】
【背景技術】
従来より、環境や生態系に悪影響を与えないエネルギーとして太陽エネルギーがあり、この太陽エネルギーを利用するために、太陽電池を住宅等の屋根に設置することが図られている。太陽電池を屋根に設置するにあたり、水による漏電や短絡等の事故を防止するために、太陽電池であるソーラーセルを平板状の完全防水ケースの内部に収めた太陽電池パネルを利用するのが好ましい。太陽電池パネルは、一枚の太陽電池パネルで所定の電圧および電力が得られるように、寸法等が規格化され、所定枚数のソーラーセルが内部に配列されたものとなっている。また、太陽電池パネルは、屋根面との間に隙間を形成した状態で屋根面に張り付けられる。この屋根面との間に形成される隙間は外部と連通され、隙間内部の空気が外部と循環可能とされている。これにより、太陽電池パネルが高温になると、隙間内部を循環する空気が太陽電池パネルを冷やし、太陽電池パネルの発電電圧が低下しないようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、太陽電池パネルは、寸法や面積が規格化されているのに対し、住宅等の屋根は、建物の大きさや屋根の傾斜によって寸法や面積が異なるため、屋根面に太陽電池パネルを密集させて配列すると、屋根の端縁には、太陽電池パネルが配置できない余り部分が生じる。この余り部分においては、太陽電池パネルと屋根面との間に隙間を形成したことから、太陽電池パネルの表面と屋根面とが大きな段差を生じさせるので、屋根の外観を損なうという問題がある。また、瓦等の屋根葺材で余り部分を葺くことも考えられるが、瓦等の屋根葺材で余り部分を単に葺いてしまうとと、太陽電池パネルと屋根面との間に形成した隙間の軒側および棟側の端縁が屋根葺材で塞がれるので、太陽電池パネルを冷却するための冷却空気の通路を確保できず、太陽電池屋根の組立作業が煩雑となるという問題が生じる。
【0004】
本発明の目的は、規格化された太陽電池パネルを用いても、屋根の外観を損なうことがなく、太陽電池屋根の組立作業が容易に行える太陽電池屋根を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、所定寸法の太陽電池パネルが複数配列される太陽電池屋根であって、所定高さ寸法の間隔保持材を介して該太陽電池パネルが該太陽電池屋根の屋根面との間に隙間を形成した状態で支持され、かつ、配列された太陽電池パネルの上下両端縁と該屋根の棟側及び軒側端縁との間のそれぞれの屋根面に、調整面材が配置されている太陽電池屋根であって、該間隔保持材は屋根面に平行に敷設された一対のレール状部材であり、太陽電池パネルの両端を支持するとともに、該棟側の調整面材は該レール状部材より高さ寸法の大きい角材で支持されるものであることを特徴とする太陽電池屋根。
【0006】
そして、上記太陽電池パネルと屋根面との間の隙間は、屋根の軒側端縁における開口が細かい孔のあいた網状部材で塞がれていることが好ましい。
【0007】
【作用】
このような本発明では、太陽電池パネルを配列した結果、屋根の上下両端端縁に規格化された太陽電池パネルが配置できない余り部分が生じても、この上下両端部の余り部分にそれぞれ調整面材を配置することにより、太陽電池パネル上面と連続する面を屋根の端縁まで形成することが可能となり、屋根には大きな段差のない連続面が構成されるようになり、これにより前記目的が達成される。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1および図2には、本実施例の太陽電池屋根1が示されており、この太陽電池屋根1は、住宅の棟2から軒3に向かって下り方向に傾斜した垂木4と、この垂木4に沿って張り付けた野地板5Aと、この野地板5Aの上側に縦横に配列される太陽電池パネル10とを含んで構成される傾斜屋根である。垂木4は、図示しない棟木や梁とともに住宅の骨組みをなすものである。野地板5Aは、表面にアスファルトルーフィング等の防水面材が張り付けられた合板である。この野地板5Aを屋根1の全面に張り付けることにより、屋根1の防水性能を確保する屋根面5が形成されている。
【0009】
太陽電池パネル10は、所定数のソーラーセルを平板状の完全防水ケース11の内部に収めた規格化されたサイズのものである。太陽電池パネル10の周縁には、補強用の枠材12が取付けられている。このような構造により、水による漏電や短絡等の事故および表面に加わる荷重等からソーラーセルが保護されるようになっている。太陽電池パネル10には、電力を外部に取り出すためのケーブル6が設けられている。ケーブル6は、棟2の近傍の屋根面5に開けられた孔7から室内に配線されている。太陽電池パネル10の枠材12には、軒3側へ水平に延びる鍔部13が設けられている。この鍔部13は、軒3側に隣接する太陽電池パネル10の枠材12等の上面に重ね合わされるものである。他の太陽電池パネル10等の上面と鍔部13との隙間には、ウレタンフォーム等のシール部材13Aが詰め込められている。このような太陽電池パネル10は、所定高さ寸法を有する間隔保持材であるレール状部材14を介して屋根面5に支持されている。
【0010】
レール状部材14は、略四角形状の断面を有する細長い筒状部材である。屋根面5の上には、一対のレール状部材14が太陽電池パネル10の幅に応じた間隔をあけて平行に敷設され、太陽電池パネル10の両端を支持するようになっている。これにより、太陽電池パネル10と屋根面5との間に隙間15が形成されており、この隙間15には、太陽電池パネル10を冷却する空気が流通するようになっている。一対のレール状部材14の上に配列した太陽電池パネル10の両端には、調整面材16,17がそれぞれ屋根面5と平行に配置されている。調整面材16,17は、レール状部材14の上に配列した端部の太陽電池パネル10に隣接配置される面材であり、その厚さは太陽電池パネル10よりも薄いものとなっている。調整面材16,17の太陽電池パネル10と隣接する隣接辺の長さである、調整面材16,17の幅寸法は、太陽電池パネル10の幅寸法と同一とされている。また、調整面材16,17の傾斜方向に沿った辺の寸法、換言すると、隣接辺と交差する交差辺の長さである、奥行き寸法は、それら両調整面材16,17の和が、屋根面5の棟2から軒3までの勾配長さLに対し太陽電池パネル10の列の全長1との差に対応している。換言すれば、調整面材16,17の奥行き寸法は、勾配長さLに対し全長lが不足する分を補う長さに設定されている。すなわち、棟2側に配置される調整面材16の奥行き寸法は、太陽電池パネル10の最上部の端縁から屋根面5の最寄りの端縁である棟2までの長さmとされ、軒3側に配置される調整面材17の奥行き寸法は、太陽電池パネル10の最下部の端縁から屋根面5の最寄りの端縁である軒3までの長さnとされている。
【0011】
このうち調整面材16は、レール状部材14よりも高さ寸法の大きい角材20を介して屋根面5に固定されている。これにより、調整面材16の上面と太陽電池パネル10の枠材12の上面とが同一面を形成するようになっている。一方、調整面材17は、レール状部材14の上に載せて固定されるとともに、屋根面5との間に、細かい貫通孔が無数にあいた網状部材21が介装されている。網状部材21は、全長が直径よりも長い貫通孔を有する蜂の巣状のものである。この網状部材21により、太陽電池パネル10と屋根面5とが形成する隙間15の軒3側の開口が通気・通水可能に塞がれて、隙間15の内部に害虫等の侵入が防止され、かつ、調整面材17の荷重が支持されるようになっている。なお、隙間15の棟2側の開口は、棟2の内部に設けられた中空部2Aに連通している。この中空部2Aは、外部と連通する開口を有し、この開口は、網条部材21と同じ構造の網状部材22により通気可能に塞がれている。この網状部材22から隙間15内の空気を排出することで、太陽電池パネル10が冷却可能となっている。
【0012】
このような本実施例では、屋根1の屋根面5を完成させた後に、レール状部材14および角材20を敷設するとともに、屋根面5に孔7を開けてから、太陽電池パネル10をレール状部材14に固定するとともに、隙間15の軒3側の開口となる部分の近傍に網状部材21を取付ける。この後、調整面材16,17を取付けて屋根1を完成させる。ここで、調整面材16,17は、屋根面5に太陽電池パネル10を取付けた後、実際に寸法m,nを測定した結果に基づき奥行き寸法を決定し、現場で製作することができる。なお、屋根1の各寸法が建物の設計時に決定している場合には、予め調整面材16,17の寸法を決定しておき、予め工場等で調整面材16,17を製作しておくことが望ましい。
【0013】
前述のような本実施例によれば、次のような効果がある。すなわち、太陽電池パネル10と隣接する隣接辺の長さが当該太陽電池パネル10に応じた寸法とされ、この隣接辺と交差する交差辺の長さが、隣接する太陽電池パネル10の端縁から屋根面5の最寄りの端縁までの距離に応じた寸法となっている調整面材16,17を採用したので、屋根面5の寸法が規格化された太陽電池パネル10の寸法に対応せず、屋根面5に太陽電池パネル10を配列すると、太陽電池パネル10が配置できない余り部分が生じる場合でも、この余り部分に調整面材16,17を配置することにより、太陽電池パネル10の上面と連続する面が屋根1の端縁まで形成されるようになり、屋根1には大きな段差のない連続面が構成され、建物の外観を良好なものとできる。そのうえ、調整面材16,17を屋根面5と平行に配置したので、太陽電池パネル10と屋根面5との間に形成した隙間15が軒3の先端縁から棟2まで連通するようになり、太陽電池パネル10を冷却するための冷却空気の通路形成が容易に行え、屋根葺き作業が煩雑にならず、太陽電池屋根1の組立作業を容易に行うことができる。
【0014】
また、レール状部材14を介して太陽電池パネル10を屋根面5に取付けるようにし、太陽電池パネル10および屋根面5との間に隙間15を形成し、この隙間15を太陽電池パネル10のケーブル6の配線路として利用できるようにしたので、ケーブル6が外部露出しないようになり、ケーブル6の耐久性を向上できるうえ、ケーブル6等の配線により建物の外観が損なわれることがない。
【0015】
さらに、太陽電池パネル10と屋根面5とが形成する隙間15の軒3側の開口を、細かい貫通孔が無数にあいた網状部材21で通気・通水可能に塞いだので、隙間15の内部における通気性を充分確保しつつ、屋根1の内部に害虫等の侵入を未然に防止でき、室内の衛生環境を良好にできる。
【0016】
また、太陽電池パネル10の枠材12に鍔部13を設け、鍔部13を他の太陽電池パネル10等の上面に重ね合わせて太陽電池パネル10を配列したので、太陽電池パネル10の継目部分から雨水等が侵入することがなくなり、屋根1の防水性能を向上できる。
【0017】
以上、本発明について好適な実施例を挙げて説明したが、本発明は、この実施例に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更が可能である。例えば、間隔保持部材としては、太陽電池パネル10を屋根面5と平行に支持するものに限らず、棟2側と軒3側とでは高さ寸法が異なる楔状のレール状部材でもよい。このような楔状のレール状部材によれば、屋根面5とは異なる傾斜角度で太陽電池パネル10を支持することができるので、屋根の傾斜角度が太陽の日射角度に対応していない既存の建物に太陽電池パネル10を取付ける際に、太陽電池パネル10の傾斜角度を日射角度に合わせることができる。
【0018】
さらに、網状部材としては、全長が直径よりも大きい貫通孔を有する蜂の巣状の網状部材21に限らず、図3に示されるように、Z字状の断面を有する長尺部材であって、Z字の中間の辺となる立ち上がり部23に無数の貫通孔24が開けられた網状部材25や、断面コ字のチャンネル材にウェブを貫通する開口を設けるとともに、その開口に金網等を張り付けたものでもよく、要するに、調整面材17の支持が行え、害虫等の侵入を防ぎ、かつ、隙間15の通気を確保できるものであれば、具体的な構造は限定されない。
【0019】
また、調整面材としては、配列された太陽電池パネル10を一列のみ接続可能なものに限らず、太陽電池パネル10の二倍以上の幅を有し、太陽電池パネル10を二列以上接続可能にしたものでもよく、さらには、配列された太陽電池パネル10の屋根1の傾斜方向の端部に接続されるものに限らず、配列された太陽電池パネル10の棟2・軒3に沿った方向に接続されるものでもよい。
【0020】
また、前記実施例では、太陽電池パネル10を調整面材16,17よりも先に屋根面5に取付けたが、逆に、調整面材16,17を太陽電池パネル10よりも先に屋根面5に取付けてもよい。
【0021】
【発明の効果】
前述のように本発明によれば、規格化された太陽電池パネルを用いても、屋根の外観を損なう段差等が生じず、太陽電池屋根の外観を良好なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示す断面図である。
【図2】
本実施例を示す斜視図である。
【図3】
本発明の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 太陽電池屋根
5 屋根面
10 太陽電池パネル
14 間隔保持材としてのレール状部材
16,17 調整面材
15 隙間
21,25 網状部材
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-02-20 
出願番号 特願平5-319693
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (E04D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 山口 由木
長島 和子
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3266396号(P3266396)
権利者 ミサワホーム株式会社
発明の名称 太陽電池屋根  
代理人 土井 清暢  
代理人 土井 清暢  

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