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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 特39条先願  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 1項1号公知  G02F
管理番号 1079659
異議申立番号 異議2001-73406  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-06-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-18 
確定日 2003-06-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3178530号「表示記憶媒体、画像書き込み方法および画像書き込み装置」の請求項1〜9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、平成14年11月14日付けの決定に対し、東京高等裁判所における決定の取消の判決(平成14(行ケ)651号、平成15年5月18日判決言渡し)が確定したのでさらに審理した結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第3178530号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
特許第3178530号の請求項1〜9に係る発明は、平成9年11月18日に出願された特許出願(特願平9-317049号)を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであり、平成13年4月13日にその設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社により特許異議の申立てがなされ、 平成14年11月14日付けで訂正を認め、請求項1〜9に係る特許を取り消す旨の決定がなされたところ、本件の請求人はこれを不服として東京高等裁判所に当該決定の取消を求める訴(14(行ケ)651号)を提起し、平成15年2月10日、本件特許についての訂正の審判を請求し、平成15年3月25日付けで訂正を認める旨の審決がなされ、当該審決が確定し、平成15年5月18日に東京高等裁判所において、前記取消決定を取り消す旨の判決があり確定した。

【2】本件特許発明
本件特許発明は、平成15年3月25日付けの審決(訂正を認める旨の審決)により確定した訂正特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、以下のものである。
なお、本件特許についての前記訂正の審判において、訂正を認める旨の審決が前述のとおり確定したので、平成14年5月7日付けの訂正請求書は取り下げられたものと同様に取り扱う。

「【請求項1】 少なくとも一方が透明の一対の基板間に、それぞれ可視光中の互いに異なる色光を選択反射するコレステリック液晶によって構成された複数の表示層が積層され、複数の表示層の外部の画像書き込み装置から前記積層された複数の表示層に電界が印加されることによって画像が書き込まれるとともに、前記複数の表示層の、それぞれのプレーナー相とフォーカルコニック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値Eth1と、前記複数の表示層の、それぞれのフオーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も小さい値Eth2とが、Eth1<Eth2の関係を有するように構成し、前記Eth1とEth2の間の電界強度をEa、前記複数の表示層の、それぞれのフォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値以上の電界強度をEbとした場合、前記電界強度Ea,Ebから選定された電界強度となる書き込み信号を前記表示記憶媒体に印加することにより、前記電界の印加後の無電界下では複数の前記コレステリック液晶表示層が前記電界の電界強度に応じて全てプレーナー相の状態または全てフオーカルコニック相の状態のいずれかを選択的に呈するように前記複数の表示層が構成されたことを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項2】
請求項1の表示記憶媒体において、前記複数の表示層が、400〜500nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層、500〜600nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層、および600〜700nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層によって構成されたことを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項3】
請求項1または2の表示記憶媒体において、前記複数の表示層は、それぞれ、コレステリック液晶の連続相中に高分子のネットワークが形成されたPNLC構造であることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項4】
請求項1または2の表示記憶媒体において、前記複数の表示層は、それぞれ、高分子マトリックス中にコレステリック液晶が分散されたPDLC構造であることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかの表示記憶媒体において、前記複数の表示層のそれぞれが、互いに同じ色光を選択反射し、かつ互いに螺旋ねじれ方向が逆のコレステリック液晶によって構成された2つの表示層からなることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの表示記憶媒体において、前記一対の基板が、可とう性を有することを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの表示記憶媒体において、一方の基板側に共通電極が設けられたことを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの表示記憶媒体に画像を書き込む方法において、外部の画像書き込み装置から、前記積層された複数の表示層に、少なくとも、セレクト期間と、その後の無電界の表示期間とによって構成され、そのセレクト期間での電界強度Esが、前記複数の表示層のコレステリック液晶を全て同じ相状態に変化させる電界強度となる書き込み信号を印加することを特徴とする画像書き込み方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかの表示記憶媒体に画像を書き込む装置において、表示記憶媒体の外部から、前記積層された複数の表示層に、少なくとも、セレクト期間と、その後の無電界の表示期間とによって構成され、そのセレクト期間での電界強度Esが、前記複数の表示層のコレステリック液晶を全て同じ相状態に変化させる電界強度となる書き込み信号を印加することを特徴とする画像書き込み装置。」
(以下、請求項順に、「発明1」〜「発明9」という。)

【3】異議申立の概要
公知又は先願の刊行物等
甲第1号証: 特開平7-287214号公報
甲第2号証: 特開平9-160066号公報
甲第4号証: 特開平2-084616号公報
甲第5号証: 特公平7-119920号公報
甲第6号証: 特開平9-197381号公報
甲第7号証: 特許第3147156号掲載公報(本件特許出願の分割の基礎となる特許出願の特許発明)

理由1:本件の請求項1〜9に係る発明は、甲第1、2、4、6号証を公知の刊行物とした場合、特許法第29条第1項又は同第2項に違反して特許されたものである。
理由2:本件の請求項1〜9の記載に不備があるので特許法第36第4項または第6項の規定に違反して特許されたものである。
理由3:本件の請求項1〜9に係る発明は、甲第7号証の特許発明と実質的に同一あるので特許法第39条第1項の規定に違反して特許されたものである。

【4】刊行物等の記載
刊行物1:特開平9-160066号公報(甲第2号証)
段落【0004】「液晶材料としてコレステリック液晶を用い、この液晶を高分子体中に分散してなる液晶-高分子複合膜を有する液晶表示デバイスが双安定性を示すことが報告されている。これは、カイラルネマティック液晶が、低電圧パルス印加によりヘリカル軸がランダムなフォーカル・コニック状態になり光を透過する状態と、高電圧パルス印加によりヘリカル軸が揃ったプレーナ配列による選択反射状態となるのを利用して、反射型表示を行うものである」
段落【0008】「3層積層構成の表示デバイスにおいて、赤色表示デバイス、緑色表示デバイス、青色表示デバイスの各層を同時に反射状態とすることにより白色表示を行う」
段落【0011】「印可(印加の誤記と認められる)される電圧に応答して特定波長の可視光を選択的に反射する選択反射状態と可視光を透過する光透過状態とが切り替わる」
段落【0012】、図1「図1は本発明の一実施例であるフルカラー液晶表示デバイス1の断面図である。図1に示すように、この表示デバイス1は、透明基体94の上に赤色表示を行う赤色表示デバイス40を積層し、ついで順番に透明基体93、緑色表示を行う緑色表示デバイス30、透明基体92、青色表示を行う青色表示デバイス20、透明基体91、白色表示を行う白色表示デバイス10、および、透明基体90を積層してなり、さらに、各表示デバイスに電圧を印可(印加の誤記と認められる)するための電源200を備えている。」
段落【0080】「白色表示デバイスを設けないこと以外は実験例1と同様にして、光吸収体上に赤色表示デバイス、緑色表示デバイスおよび青色表示デバイスを順次積層したフルカラー液晶表示デバイス2を作製した。」
段落【0081】、図8「図8は、赤色、緑色、青色の各表示デバイスを全て選択反射状態にした場合のフルカラー表示デバイス2の分光反射特性を示す。図8に示すように、…観察面に対して垂直方向において白色となるように設定…」
段落【0104】「本実験例においては、左旋性のカイラルネマティック液晶を用いた青色表示デバイスと、右旋性のカイラルネマティック液晶を用いた青色表示デバイスとを重ね合わせたものを一つの青色表示デバイスとした例を示す。」
以上の記載において、
「印加される電圧に応答して特定波長の可視光を選択的に反射する選択反射状態と可視光を透過する光透過状態とが切り替わる」点について、ここで用いられているコレステリック液晶が電界強度に応じて状態を変化させているのは明らかなのであるから、「印加される電圧に応答」することは、印加される電界強度に応じて変化することに等しい。また、「電圧パルス印加」により「光を透過する状態」と「選択反射状態」になり、これらの状態は「双安定を示す」のであるから、刊行物1に記載の発明も一種の記憶媒体である。さらに、段落【0080】の記載から、前記媒体は、黒色表示もできることは明らかである。
したがって、刊行物1には、
「透明基体の間に、コレステリック液晶を高分子体中に分散してなる液晶-高分子複合膜を用いた赤色表示デバイス、緑色表示デバイスおよび青色表示デバイスを順次積層させ、低電圧パルス印加によりフォーカル・コニック状態に、高電圧パルス印加によりプレーナ配列になり、印加される電界強度に応じて特定波長の可視光を選択的に反射する選択反射状態と可視光を透過する光透過状態とを切り替え、赤色、緑色、青色の各表示デバイスを全て選択反射状態にした場合に白色となるように設定した、白黒表示を行うことのできる表示記憶媒体、画像書き込み方法および画像書き込み装置、および、左旋性のカイラルネマティック液晶を用いた表示デバイスと、右旋性のカイラルネマティック液晶を用いた表示デバイスとを重ね合わせたものを一つの表示デバイスとした前記表示記憶媒体、画像書き込み方法および画像書き込み装置」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

刊行物2:特開平7-287214号公報(甲第1号証)
段落【0009】、図12「該媒体では、同図(b)に示すように、HF電源61から高周波電界を印加すると特定の波長の光を反射する選択反射状態となる。この状態は(c)に示すように電界を除去しても維持される(メモリ性がある)」
段落【0013】「高分子中にコレステリック液晶またはカイラルネマティック液晶(以下、コレステリック液晶と総称する)を分散させ、特定の波長の円偏光を反射する選択反射状態と反射しない状態とに交互に変化させられる高分子分散型コレステリック液晶(以下、PDCLC)層を含む表示・記録媒体であって、電極を形成した基板の間に、ある円偏光を反射する第一のPDCLC層とそれとは異なる方向の円偏光を反射する第二のPDCLC層を各々少なくとも一層以上含むことを特徴とする表示・記録媒体」
段落【0024】「同じ波長ではあるが、右円偏光のみを選択反射する右旋性PDCLC層11と左円偏光のみを選択反射する左旋性PDCLC層12とを透明電極4を形成した一組の基板5の間に挟み込んだ構造である。両円偏光を反射させ得るとともに、一組の基板の間に挟み込まれているので、基板や電極による反射面の数と光の吸収が減り、高い反射光強度を得ることができる。」
段落【0028】、図2「図2(d)は右旋性PDCLC層11と左旋性PDCLC層12をそれぞれ複数層積層した構成である。(e)は(d)のPDCLC層の各接触面にPDCLCでない層を介在させた構成である。」
段落【0072】「基板上にPDCLC層を次々に形成していく方法は層構成の自由度が高く、PDCLC層が二層を越える複雑な構成等が作製できる効果がある。基板にフレキシブルなシート状のフィルムを使用すれば、連続的にPDCLC層を積層することができ、大面積化が可能である。」
また、図2(a)〜(e)、図10から明らかなように、透明電極4と電源6は、積層したPDCLC層11、12の外部にある。
以上の記載にから、刊行物2には、
右旋性PDCLC層と左旋性PDCLC層をそれぞれ複数層積層、または、PDCLC層を二層を越えて積層したものを、透明電極を形成した一組のフレキシブルなシート状のフィルムの基板の間に挟み込んだ表示・記録媒体に、前記媒体に電源から電界を印加するものであって、前記透明電極と電源は積層したPDCLC層の外部にあるものが記載されていると認められる。

刊行物3:特開平2-84616号公報(甲第4号証)
2頁右下欄7〜10行「液晶材料が連続相を形成し、前記透明性固体物質が前記液晶材料中に粒子状又は3次元ネットワーク状に存在している液晶デバイス」
3頁右上欄15〜17行「用いられる液晶としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶が好ましい」
3頁左下欄18行〜右上欄1行「重合性組成物としては、高分子形成性モノマー若しくはオリゴマーが挙げられ、硬化によって、液晶材料の連続相中に3次元ネットワークを形成するものであれば良い」
以上の記載から、刊行物3には、
コレステリック液晶の連続相中に高分子のネットワークが形成されたPNLC構造を用いた液晶デバイスが記載されているものと認められる。

刊行物4:特開平9-197381号公報(甲第6号証)
段落【0007】、図1「図1は、本発明に係る反射型で高分子分散型の液晶パネルの一例を示している。この液晶パネルは、シリコン基板10(以下、Si基板10という)及び透明基板20(ガラス或いは透明樹脂からなる)を備えており、これらSi基板10と透明基板20の間には、PDLC層30ないし50が順次積層されている。」
段落【0020】「PDLC層30は、互いに対向する駆動電極30a及び共通電極30bの間に電圧を印加することにより駆動され、PDLC層40は、互いに対向する駆動電極40a及び共通電極40bの間に電圧を印加することにより駆動され、かつ、PDLC層50は、互いに対向する駆動電極50a及び共通電極50bの間に電圧を印加することにより駆動される」
以上の記載から、刊行物4には、PDLC層に電圧を印加する構成として、電極の一方を共通電極としたものが記載されている。

刊行物5:特公平7-119920号公報(甲第5号証)
【特許請求の範囲】「【請求項1】得られる硬化物の屈折率が、使用する液晶物質の常光屈折率(no)、異常光屈折率(ne)または液相物質がランダムに配向するした場合の屈折率(nx)のいずれかと一致するように選ばれた硬化物マトリックス中に液晶物質が分散保持されたフィルム状液晶層を一対の電極付基板間に挟持してなる液晶光学素子において、部分的にそのフィルム状液晶層のしきい値電圧が異なる部分を有することを特徴とする液晶光学素子。
・・・
【請求項6】請求項1または2または3の液晶光学素子と、それに電圧を印加する駆動手段とからなり、印加電圧により3以上の光の透過状態を得ることを特徴とする調光体。」
4欄45行〜5欄11行「ここで得られる硬化物の屈折率が、使用する液晶物質の常光屈折率(no)または異常光屈折率(ne)のいずれかと一致するように選ばれた硬化物マトリックス中に液晶物質が分散保持されたフィルム状液晶層を用いた場合を例にとって説明する。この場合、部分的にしきい値電圧を変化させた場合には、電圧を変化させない状態では、フィルム状液晶層は散乱状態である。そこで、電圧を印加していくと、素子の半分は徐々に光が透過しはじめ、第1の電圧V1で見た場合、素子の半分は光がある程度透過状態しているが、残りの半分は散乱している状態となる。さらに電圧を上げていくと、残りの半分も光が透過しはじめ、充分に高い第2の電圧V2(V1<V2)で見た場合、素子の全面が透過状態となる。このため電圧不印加、第1の電圧V1印加、第2の電圧V2印加の3状態により、1つの素子について3種類の光の透過状態(全面散乱、半分透過半分散乱、全面透過)を設定できることとなる。」

先願の特許発明:特許第3147156号(甲第7号証)
【特許請求の範囲】「【請求項1】少なくとも一方が透明の一対の基板間に、それぞれ可視光中の互いに異なる色光を選択反射するコレステリック液晶によって構成された複数の表示層が積層され、外部の画像書き込み装置から前記積層された複数の表示層に電界が印加されることによって画像が書き込まれるとともに、前記複数の表示層は、外部の画像書き込み装置から印加される電界に対して、それぞれのコレステリック液晶の相変化しきい電界強度が異なることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項2】請求項1の表示記憶媒体において、前記複数の表示層が、400〜500nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層、500〜600nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層、および600〜700nmの波長域にピークを有する色光を選択反射する表示層によって構成されたことを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項3】請求項1または2の表示記憶媒体において、前記複数の表示層は、それぞれ、コレステリック液晶の連続相中に高分子のネットワークが形成されたPNLC構造であることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項4】請求項1または2の表示記憶媒体において、前記複数の表示層は、それぞれ、高分子マトリックス中にコレステリック液晶が分散されたPDLC構造であることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項5】請求項1〜4のいずれかの表示記憶媒体において、前記複数の表示層のそれぞれが、互いに同じ色光を選択反射し、かつ互いに螺旋ねじれ方向が逆のコレステリック液晶によって構成された2つの表示層からなることを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項6】請求項1〜5のいずれかの表示記憶媒体において、前記一対の基板が、可とう性を有することを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項7】請求項1〜6のいずれかの表示記憶媒体において、一方の基板側に共通電極が設けられたことを特徴とする表示記憶媒体。
【請求項8】請求項1〜7のいずれかの表示記憶媒体に画像を書き込む方法において、外部の画像書き込み装置から、前記積層された複数の表示層に、少なくとも、リフレッシュ期間およびセレクト期間と、その後の無電界の表示期間とによって構成され、そのリフレッシュ期間およびセレクト期間での電界強度ErおよびEsが、Er>Esの関係をもって、前記複数の表示層のコレステリック液晶の相変化しきい電界強度を境界とする複数段階の電界強度から選定された電界強度となる書き込み信号を印加することを特徴とする画像書き込み方法。
【請求項9】請求項1〜7のいずれかの表示記憶媒体に画像を書き込む装置において、表示記憶媒体の外部から、前記積層された複数の表示層に、少なくとも、リフレッシュ期間およびセレクト期間と、その後の無電界の表示期間とによって構成され、そのリフレッシュ期間およびセレクト期間での電界強度ErおよびEsが、Er>Esの関係をもって、前記複数の表示層のコレステリック液晶の相変化しきい電界強度を境界とする複数段階の電界強度から選定された電界強度となる書き込み信号を印加することを特徴とする画像書き込み装置。」

【5】判断
【5-1】理由2(記載に不備)について
申立人は、各構成要件の相互の関係が不明確であること、複数の液晶層がどのようにして一対の基板間に保持されているのかが不明確であること、分割の基礎出願の実施例と本件の実施例が共通していることを記載不備の根拠として挙げている。
しかし、請求項1〜9に記載された技術事項から、それらによって奏する「表示記憶媒体、画像書き込み方法および画像書き込み装置」としての作用は明確であり、発明1〜発明9の複数の構成の相互の関係は、対応する請求項の記載のとおりのものであると技術的に理解することができるので、不明確であるとはいえない。また、液晶の保持の態様は、発明1〜発明9の目的を達成する上で、必須の技術事項ではないので、発明1〜発明9の技術事項として特定する必要性は認められない。さらに、分割の基礎出願の実施例と本件の実施例が共通していても、それぞれの発明が同一ではなく、かつ、それらの発明が、共通する実施例からそれぞれ個別に把握できるのであるから、実施例が共通するとしても、本件の明細書の記載が不備であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件の明細書に、申立人の主張する記載の不備はない。

【5-2】理由3(39条違反)について
申立人は、発明1〜発明9と分割の基礎となる出願の特許発明とが区別がつかない、即ち同一であり、特許法第39条第1項に違反すると主張している。しかし、発明1〜発明9は、「プレーナー相とフォーカルコニック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値Eth1と、前記複数の表示層の、それぞれのフオーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も小さい値Eth2とが、Eth1<Eth2の関係を有するように構成し、前記Eth1とEth2の間の電界強度をEa、前記複数の表示層の、それぞれのフォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値以上の電界強度をEbとした場合、前記電界強度Ea,Ebから選定された電界強度となる書き込み信号を前記表示記憶媒体に印加する」ことを共通する技術事項としているのに対して、分割の基礎となる特許出願の特許発明(「【4】刊行物等の記載先願の特許発明:特許第3147156号(甲第7号証) 【特許請求の範囲】」参照)は、Eth1とEth2の関係及び印加電界強度となるEa,Ebの選定の範囲を技術事項としていない。よって、両者の発明は同一とはいえず、申立人の主張は採用できない。

【5-3】理由1(29条違反)について
請求項1
発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「透明基体」、「赤色表示デバイス、緑色表示デバイスおよび青色表示デバイスを順次積層」させたもの、「フォーカル・コニック状態」および「プレーナ配列」は、発明1の「少なくとも一方が透明の一対の基板」、「それぞれ可視光中の互いに異なる色光を選択反射するコレステリック液晶によって構成された複数の表示層」、「フォーカルコニック相」および「プレーナー相」に、それぞれ相当する。引用発明において「白黒表示」を行うことは、発明1において「全てプレーナー相の状態または全てフォーカルコニック相の状態のいずれかを選択的に呈する」ことに相当する。よって、発明1と引用発明とは、少なくとも一方が透明の一対の基板間に、それぞれ可視光中の互いに異なる色光を選択反射するコレステリック液晶によって構成された複数の表示層が積層され、前記積層された複数の表示層に電界が印加されることによって画像が書き込まれるとともに、前記電界の印加後の無電界下では複数の前記コレステリック液晶表示層が前記電界の電界強度に応じて全てプレーナー相の状態または全てフォーカルコニック相の状態のいずれかを選択的に呈するように前記複数の表示層が構成されたことを特徴とする表示記憶媒体である点で一致し、前者が、「複数の表示層の外部の画像書き込み装置」から電界を印加するのに対し、後者はそのようには記載されていない点(相違点1)、及び書き込みのために前者は、「プレーナー相とフォーカルコニック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値Eth1と、前記複数の表示層の、それぞれのフオーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も小さい値Eth2とが、Eth1<Eth2の関係を有するように構成し、前記Eth1とEth2の間の電界強度をEa、前記複数の表示層の、それぞれのフォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値以上の電界強度をEbとした場合、前記電界強度Ea,Ebから選定された電界強度となる書き込み信号を前記表示記憶媒体に印加する」のに対して後者は印加される電界強度に応じて特定波長の可視光を選択的に反射する選択反射状態と可視光を透過する光透過状態とを切り替え、赤色、緑色、青色の各表示デバイスを選択反射状態とする点(相違点2)で相違する。
相違点1に関しては、刊行物2には、複数層積層したPDCLC層に、該複数層積層したPDCLC層の外部の電源および透明電極から電界を印加する表示・記録媒体が記載されている。すなわち、複数の表示層の外部の装置から電界を印加することは刊行物2に記載されており、刊行物1に記載の発明に、高い反射光強度を得ることに着目して刊行物2に記載の構成を適用することに、格別の困難性は認められない。
しかし、相違点2に関しては、引用発明には、プレーナー相とフォーカルコニック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も大きい値Eth1と、前記複数の表示層の、それぞれのフオーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい電界強度のうちの最も小さい値Eth2とが、Eth1<Eth2の関係を有するように構成することについては記載も示唆もなく、発明1のこの構成により、各層に対して状態を独立に制御する必要がなくなり単純な駆動信号で、紙に代わる書き換え可能な表示記憶媒体を実現できるものと認められる。そして、この点は、他の刊行物を参酌しても当業者が容易に想到できたものとは認められない。
よって、発明1は、刊行物1〜刊行物5に記載された発明であるとも、また、それらに基づいて当業者が容易に発明できたものとも認められない。

請求項2〜請求項9
発明2〜発明9は、発明を特定する技術事項として、発明1の前記相違点2に係る構成を含む表示記憶媒体、画像書き込み方法、画像書き込み装置である。
よって、既に説明した前記相違点2についての理由により、発明2〜発明9は、刊行物1〜刊行物5に記載された発明であるとも、また、それらに基づいて当業者が容易に発明できたものとも認められない。

以上のとおり、発明1〜発明9は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

【6】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては、本件の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-14 
出願番号 特願2000-305710(P2000-305710)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G02F)
P 1 651・ 537- Y (G02F)
P 1 651・ 121- Y (G02F)
P 1 651・ 4- Y (G02F)
P 1 651・ 111- Y (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井口 猶二  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 畑井 順一
町田 光信
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3178530号(P3178530)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 表示記憶媒体、画像書き込み方法および画像書き込み装置  
代理人 柳澤 正夫  

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