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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  D02G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1079715
異議申立番号 異議2002-71963  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-09 
確定日 2003-06-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3256068号「杢調多色染色性捲縮糸およびこの捲縮糸を用いた杢調柄カーペット」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3256068号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3256068号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成6年3月23日(国内優先による優先権主張平成5年3月23日)の出願であって、平成13年11月30日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成14年8月9日に特許異議申立人吉川由美子(以下、「申立人A」という)及び特許異議申立人ユニチカ株式会社(以下、「申立人B」という)より、それぞれ特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という)は、本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】同一ポリマー素材からなり染色性または染料吸収能の異なる複数種の合成繊維マルチフィラメントと、少なくとも1種の原着合成繊維マルチフィラメントとからなる捲縮糸であり、前記の染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントの各単糸と前記原着合成繊維マルチフィラメントの各単糸とが交絡している交絡部と、前記の染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントの各単糸と前記原着合成繊維マルチフィラメントの各単糸とが一群をなし交絡が少ない非交絡部とを、捲縮糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が30〜50個/m、前記非交絡部における前記原着合成繊維マルチフィラメントの前記染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントへの混繊度(Z)が10〜60%の範囲にあることを特徴とする杢調多色染色性捲縮糸。
【請求項2】原着合成繊維マルチフィラメントが、グレー系に着色されていることを特徴とする請求項1に記載の杢調多色染色性捲縮糸。
【請求項3】原着合成繊維マルチフィラメントが、染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントよりも明度の低いグレー系に着色されていることを特徴とする請求項1または2に記載の杢調多色染色性捲縮糸。
【請求項4】同一ポリマー素材からなり染色性または染料吸収能の異なる複数種の合成繊維マルチフィラメントと、少なくとも1種の原着合成繊維マルチフィラメントとからなる捲縮糸であり、前記の染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントの各単糸と前記原着合成繊維マルチフィラメントの各単糸とが交絡している交絡部と、前記の染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントの各単糸と前記原着合成繊維マルチフィラメントの各単糸とが一群をなし交絡が少ない非交絡部とを、捲縮糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が30〜50個/m、前記非交絡部における前記原着合成繊維マルチフィラメントの前記染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントへの混繊度(Z)が10〜60%の範囲にある杢調多色染色性捲縮糸をタフティングしたパイル布帛を、少なくとも2種以上の染料を用いて染色し、この染色パイル布帛に裏打ち樹脂層を形成したことを特徴とする杢調柄カーペット。
【請求項5】原着合成繊維マルチフィラメントが、グレー系に着色されていることを特徴とする請求項4に記載の杢調柄カーペット。
【請求項6】原着合成繊維マルチフィラメントが、染色性または染料吸収能の異なる合成繊維マルチフィラメントよりも明度の低いグレー系に着色されていることを特徴とする請求項4または5に記載の杢調柄カーペット。」

3.特許異議申立ての理由の概要
3-1.申立人Aからの特許異議申立てについて
申立人Aは、甲第1〜4号証を提出し、本件発明1、4は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1〜6は、甲第1〜4号証に記載のものから当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、本件特許明細書は記載不備があり、特許法第36条第4項の規定に違反するから、本件発明1〜6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開昭62-206041号公報
甲第2号証:特開昭50-63248号公報
甲第3号証:特開昭55-84429号公報
甲第4号証:特開昭56-148932号公報

3-2.申立人Bからの特許異議申立てについて
申立人Bは、甲第1〜5号証及び参考文献1を提出し、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号の規定に違反してされたものであり、また、本件発明2〜6は、甲第1〜5号証に記載のものから当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1〜6に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特公昭62-28211号公報
甲第2号証:特公平7-18089号公報
甲第3号証:実公平6-47032号公報
甲第4号証:特公平3-47327号公報
甲第5号証:特公平2-14468号公報
参考文献1:繊維辞典刊行会編著「繊維辞典」(昭和26年9月10日)財団法人商工会館出版部1148〜1149頁、奥付

4.甲各号証、参考文献について
(1)申立人Aが掲示した甲各号証について
申立人Aが提示した甲各号証には、以下のような事項が記載されている。
(A1)甲第1号証
(A1-a)「染色されたポリエステルフイラメント繊維(A)と捲縮ポリアミドフイラメント繊維(B)とからなり混繊部と非混繊部とを有する混繊糸であつて、かつ下記条件(イ)〜(ニ)を満足することを特徴とする混色染色可能なカーペツト用混繊糸
(イ)…
(ハ) 混繊率:繊維(B)/繊維(A)+繊維(B) 0.8〜0.95
(ニ) 繊維(A)と繊維(B)との交絡度(インターレース度) 35〜55ケ/m」(特許請求の範囲第1項)
(A1-b)「本発明はカーペツト用混繊糸およびその製造方法に関する。詳しくは、反染加工でコントラストの強い幅広い色相が得られるナイロンBCFカーペツト用混繊糸およびその製造方法に関する。」(1頁右下欄9〜13行)
(A1-c)「本発明に用いる染色されたポリエステルフイラメント繊維(A)とは原液着色された又は糸状で染色されたポリエステルフイラメント糸(捲縮ポリエステルフイラメント糸を含む)である。」(2頁左下欄6〜9行)
(A1-d)「未染色ナイロンBCF糸とはポリアミド類例えばナイロン6…からなるマルチフイラメント糸であってランダムクリンプを有する三次元非らせん状の捲縮を有するポリアミド捲縮糸である。各単糸のフイラメント断面形状は三角、丸、三角中空等いずれでもよく、…が望ましい。この未染色ナイロンBCF糸は酸性染料に対して濃染のタイプ(D.R)、標準タイプ(S.H)、淡染のタイプ(P)およびカチオン染料に対して可染のタイプ(C.Z)などがあり、これらが単独または複数で用いられる。」(2頁左下欄13行〜同頁右下欄6行)
(A1-e)「実施例2 三角中空断面でレギユラータイプのナイロン6マルチフイラメント捲縮糸(Hタイプ;830デニール/46フイラメントと、三角中空断面でカチオン染料可染タイプのナイロン6マルチフイラメント捲縮糸(Zタイプ;830デニール/46フイラメント)とを引揃えて、供給速度450m/minのフイードローラーへ供給し、引き続き混繊ノズルに通すとともに黒色の原着ポリエステルフイラメント糸(75デニール/36フイラメント)を2本引揃えて0.013g/dの供給張力で直接混繊処理ノズルを通し、ナイロン6マルチフイラメント捲縮糸とポリエステルフイラメント糸とを交互に交絡させ、…の条件で混繊処理を施した。得られた混繊糸を2本合せて…パイル糸とした(第2表、試作No.5)。…得られた3種類のパイル糸のおのおのについて、ループパイル用タフテイングマシーンを用い…タフテイングし、次いで連続染色機により、酸性染料…とカチオン染料…を用いて、…染色した。得られたループパイルカーペツトは、第2表に示す如き性能を有するものであつた。」(5頁左上欄10行〜同頁左下欄13行)
(A2)甲第2号証:
(A2-a)「3原色、3中間色および黒、白から選ばれてた少なくとも3色…の単位色糸を混繊器に導き、単位色糸の張力、または空気圧、単位色糸の供給角度、もしくは電圧、電導率、開繊幅等のいずれかの1または2以上の条件を…変化させて混繊し、混繊糸の平均混繊度が40%以上、混繊度40%以上の高混繊域と混繊度30%以下の低混繊域とのそれぞれの平均長さの割合が1対0.5〜10で混繊糸の長さ方向にランダムな長さで分布するようにしたことを特徴とする多彩色調を呈するフイラメント混繊糸の製造法。」(特許請求の範囲)
(A2-b)「この発明における混繊度とは、任意の特定の単位色糸の単糸が混繊糸の任意の断面において分布している状態を示すもので、次式によって算出される。
(式省略)
上式において、Nは特定の単位色糸を構成する単糸数、Xは特定の単位色糸の単糸同士が隣接して形成された各塊状部分の単糸数…、NCXは各X値の塊状部分の数である。平均混繊度とは、混繊糸の長さにわたつた約5mmの間隔で測定した各断面の混繊度の平均値であり、…中混繊域Bとする。…混繊糸の平均混繊度が40%以下では、各単位色が渾然一体となつた混合色の色調が表われる部分が少なく、引揃え糸のような色斑の多いものとなつて好ましい色調は得られない。」(3頁右上欄2行〜同頁左下欄13行)
(A2-c)「実施例1 第5図において、赤と黄とに染色した撚数…ポリエステルフイラメント糸…と黒に原着した撚数…ポリエステルフイラメント糸…混繊糸Eとして巻取った。このようにして得られた混繊糸Eは平均混繊度57%、高混繊域の最高混繊度は83%、低混繊域の最低混繊度18%、…であった。」(4頁左下欄2〜20行)
(A2-d)「第2表
…/実施例2/実施例3/実施例4/実施例5/実施例6/実施例7/実施例8
平均混繊度/58/55/50/45/50/52/48」(6頁右上欄第2表 抜粋)
(A3)甲第3号証
(A3-a)「差別的に染色可能な少なくとも2種の、ランダムに混合した、連続的な、捲縮フイラメントから成る実質的に撚りのない、かさ高な、ヘザー染色可能な混合糸にして、他の種類のフイラメント(類)と比較して淡色に染色する1種のフイラメントは混合糸中の全フイラメントの約20%乃至約50%を占め且つ混合糸中の他種フイラメント(類)よりも約15%乃至約45%長い良さを有し、該比較的長く且つ淡色に染色するフイラメントは混合糸の表面に沿つてランダムに分布した多くの捲縮したループを形成し、該ループは混合糸中のフイラメントの巻き付きおよび相互のからみ合いによつて約1.5インチ以下の横方向の引離し試験による平均分離距離を与えるに充分なようにその場に保持せしめていることを特徴とする該混合糸。」(特許請求の範囲第1項)
(A3-b)「本発明によって、差別的に染色することができる少なくとも2種のランダムに混合した連続的捲縮フイラメントから成る改良した、実質的に撚りのない、かさ高のヘザー染色可能な混合糸を提供する」(2頁右下欄6〜10行)
(A3-c)「混合糸の、ふさ付き、水平ループパイルじゆうたんを、…クロス染めする…。乾燥後に、通常のように、じゆうたん裏張りをラテツクス処理する。これらの染料は、黄色の上色を伴なう灰色の色調を有するカチオン染色フイラメントによる”土色の色調”を有するじゆうたんを与える。染色した淡色酸性染色性フイラメントは、染色した濃色酸性染色性フイラメントに対する比較的濃い灰色の色調と比較して、且つカチオン染色フイラメント比較して、顕著に淡色の灰色の色調を有する。」(15頁左上欄12行〜同頁右上欄14行)
(A4)甲第4号証
(A4-a)「本発明は区分的に染色された、或いは染色することができ、新規混色…糸の外観を生じる合成嵩性連続フイラメント(BCF)に関する。」(2頁左下欄13〜16行)
(A4-b)「本発明の糸をつくる場合、色点を与える糸を先ず張力をかけて凝集性を除去し、次に個々にインターレースして…全体として束になつた凝集した節をつくる。ある与えられた糸の速度において、節の頻度は絡み合わせ用ジエツトを供給する流体圧によつてコントロールすることができ、圧力を高くすると節の頻度は増加し、節の間の距離は減少する。」(5頁右上欄2〜11行)
(A4-c)「成分の供給糸として通常のBCF絨毯糸を用いることができる。…陽イオン性、淡い酸性及び濃い酸性染色性をもつたポリアミド、特に66-ナイロンのような供給糸を組合わせて用いることが様式化及び使用特性上特に好適である。」(6頁左下欄6〜11行)
(A4-d)「この合糸した糸を、…ループの揃った構成において通常のポリプロピレン紡糸結合した絨毯の裏地の中にタフト化した。この絨毯地を、…染料混合物を用い通常の方法で皿染めした。」(10頁左上欄8〜16行)

(2)申立人Bが掲示した甲各号証および参考文献について
申立人Bが提示した甲各号証および参考文献には、以下のような事項が記載されている。
(B1)甲第1号証
(B1-a)「互いに染色性および/または染着率が異なるか或いは着色が異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフイラメントが混合され、その際(a)フイラメント同士がランダムに混合且つ交絡して結束部分と収束部分とがそれぞれ糸軸方向に沿って15〜50ケ/mずつ存在すると共に糸軸方向全体には収束性を有しており、かつ(b)0.6g/deの荷重をかけた後に水蒸気処理を施したとき、収束部分は1個当り10〜200mmの長さにわたつて開繊し、潜在捲縮が発現して収束性を失ない、他方結束部分は1個当り1〜20mmの長さで残存する性質を有し、更に(c)実質上撚りを有しない、ことを特徴とする潜在捲縮型のカーペットパイル糸。」(特許請求の範囲第1項)
(B1-b)「本発明で言う熱可塑性合成繊維マルチフイラメントとは、カーペツトパイル糸として用い得る熱可塑性合成繊維のマルチフイラメントを総称するが、ポリアミド類、…が適当である。本発明では、前記マルチフイラメントのうち、互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメントあるいは互いに着色が異なる2種以上のマルチフイラメントを使用する。ここで言う「染色性及び/又は染着率が異なる」とは、或種の染料に対する親和性がフイラメントの種類によって異なること…や、染料吸収能がフイラメントの種類により異なること…、又はこれら両方の性質を兼ね備えていることを言い、また「着色が異なる」とは、2種以上のフイラメントがすでに相異なる色調あるいは色相に着色されていること…を言う。」(2頁右欄15〜35行)
(B1-c)「ここで「結束部分」とは各成分糸フイラメントが強固に交絡し、…つまり完全に開繊しない程度に強固に交絡している部分を示す。…一方、「収束部分」とは、各フイラメント(成分糸)が軽度に交絡し、」(3頁左欄23〜40行)
(B1-d)「実施例1 カチオン染料可染タイプAと酸性染料可染タイプBと難染タイプCの3種のナイロン6未延伸糸…を引揃えて延伸した後、…攪拌乱流型ノズルに導き…流体処理を行い…潜在型捲縮率を得た。各条件で得られた異なる混合マルチフイラメント捲縮糸を…タフトを行い、…カーペツトを作製して青色のカチオン染料と黄色の酸性染料で同浴染色した後評価した。」(5頁右欄6〜19行)
(B2)甲第2号証
(B2-a)「長繊維が集積されてなる不織布を、ハロゲンを含有する樹脂のエマルジョン中に浸漬させた後、乾燥することによって、該長繊維相互間の間隙を残存させたまま、該長繊維の表面にハロゲンを含有する樹脂を付着させてタフトカーペット用一次基布を得た後、該タフトカーペット用一次基布に、ポリアミド系繊維で構成されたパイル糸を植え込むことを特徴とするタフトカーペットの製造方法。」
(B2-b)「次に、オーバーマイヤーを用いた含金染料でグレー色に先染したナイロン糸1500d/80f(セット糸)を用いて、上記5種類のタフトカーペット用一次基布に1/2″ゲージ,9ステッチ,9.5mmパイル高さの条件にてタフト(カットパイル)し、ナイロン糸で形成されたパイル糸を、タフトカーペット用一次基布に植え込んだ。なお、ナイロン糸は、次の染色浴組成及び染色条件にて先染したものである。」(3頁右欄32〜39行)
(B3)甲第3号証
(B3-a)「融着杢糸と融着無地糸とでジヤカード組織に交編された編地であって,該融着杢糸は互いに染色性を異にする2種の合成繊維マルチフイラメントからなり,かつ糸条長手方向に嵩高撚糸部と該2種のフイラメントがともに融着した緊密撚糸部を交互に有し,該融着無地糸は単一成分の合成繊維マルチフイラメントからなり,該融着杢糸の嵩高撚糸部によって構成される編目と該融着杢糸の緊密撚糸部によって構成される編目とがそれぞれ空隙の大きさを異にし,かつランダムに存在していることを特徴とする麻様杢調柄編地。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(B3-b)「得られた編地の表面拡大写真を第5図に示す。図において,黒灰色の糸条は融着杢糸,半透明の糸条の融着無地糸であり,融着杢糸の編成部では嵩高撚糸部が形成するさな編目と緊密撚糸部が形成する大きな編目とがランダムに配されていることがわかる。」(4頁左欄下から5〜1行)
(B4)甲第4号証
(B4-a)「本発明は、酸化中和処理カーボンブラツクおよび銅フタロシアニン誘導体を使用したポリエステル繊維原着用の黒色液状着色剤およびそれを用いて着色された原着ポリエステル繊維に関し、さらに詳しくは、本発明は、カーボンブラツク含有量が高く、かつ均一な分散性を有するポリエステル繊維原着用の黒色液状着色剤、およびそれによつて着色された、カーボンブラツク特有の赤みが少なく、発色に優れた原着ポリエステル繊維に関する。」(2頁左欄22〜31行)
(B5)甲第5号証
(B5-a)「1 熱溶融型繊維によつて構成されたパイル部と難燃性ポリエステル繊維によつて構成された基布部とからなるパイル織編物が、その基布部に、リン元素及びハロゲン元素のいずれか一方又は双方を含む熱溶融促進型難燃化剤の含有された熱可塑性ポリウレタン樹脂によりバツクコーテイングされてなる難燃性パイル織編物。」(特許請求の範囲)
(B6)参考文献1
(B6-a)「べにがら …顔料の一種で…ともいう。主成分は酸化鉄で…つくる。…染色上往々引染めに用いられる。」(1149頁左欄7〜13行)

5.当審の判断
5-1.申立人Aからの特許異議申立てについて
(1)特許法第36条第4項違反に係る申立てについて
申立人Aは、本件発明に係る混繊度は、群(ブロック)を形成している原着合成繊維マルチフィラメントの単糸の数を目視によってカウントし、これに基づいて決めるのであるから、群(ブロック)を形成している原着合成繊維マルチフィラメントであるのか、群(ブロック)を形成していない原着合成繊維マルチフィラメントであるのか、判断することが極めて困難な原着合成繊維マルチフィラメントは、測定者の全くの自由裁量で区分されることになり、甚だ客観性に乏しく、本件発明の構成を不明瞭にするものであるから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項の規定を満足するものではない旨主張している。
しかしながら、申立人Aの提出する甲第2号証においても、混繊度を測定する際には、特定の糸の塊部分の単糸の数を測定することにより行っており(摘示記載(A2-b))、混繊度を測定する際に、特定の糸の塊部分に着目し、塊部分の単糸の数を測定する手法は、当業界において通常に採用されているものと認められるから、申立人Aの主張には理由がない。

(2)特許法第29条第1項第3号違反に係る申立てについて
ア.本件発明1ついて
甲第1号証には、混繊部と非混繊部を有する混色染色可能なカーペツト用混繊糸が記載され、該混繊糸を構成する染色されたポリエステルフイラメント繊維(A)として、原液着色された捲縮ポリエステルフイラメント糸が採用でき(摘示記載(A1-c))、また、捲縮ポリアミドフイラメント繊維(B)(=未染色ナイロンBCF糸)として、同一ポリマー素材からなり複数の染色性の異なる単糸から構成されたものが採用でき(摘示記載(A1-d)、(A1-e))、さらに、該繊維(A)と繊維(B)との交絡度が35〜55個/m(摘示記載(A1-a))であることが記載されている。
ここで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明を対比すると、本件発明における「交絡部」、「非交絡部」、「同一ポリマー素材からなり染色性または染料吸収能の異なる複数種の合成繊維マルチフィラメント」、「少なくとも1種の原着合成繊維マルチフィラメント」および「多色染色性捲縮糸」は、それぞれ、甲第1号証における「混繊部」、「非混繊部」、「捲縮ポリアミドフイラメント繊維(B)」、「染色されたポリエステルフイラメント繊維(A)」及び「混色染色可能なカーペツト用混繊糸」に相当するから、両者は、「同一ポリマー素材からなり染色性または染料吸収能の異なる複数種の合成繊維マルチフィラメント(以下、「異染色フィラメント」という)と、少なくとも1種の原着合成繊維マルチフィラメント(以下、「原着フィラメント」という)とからなる捲縮糸であり、異染色マルチフィラメントの各単糸と原着フィラメントの各単糸とが交絡している交絡部と、異染色フィラメントの各単糸と原着フィラメントの各単糸とが一群をなし交絡が少ない非交絡部とを、捲縮糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が35〜50個/mの範囲にある多色染色性捲縮糸」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点a.本件発明1では、非交絡部における原着フィラメントの異染色フィラメントへの混繊度(Z)を10〜60%と特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点b.本件発明1では、多色染色性捲縮糸が杢調であると特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
まず、上記相違点a.について検討する。
甲第1号証には、混繊度(Z)について一切記載されていない。
これに関連し、申立人Aは、原着フィラメントの異染色フィラメントと混繊、交絡させて得られる混繊、交絡糸において、交絡度(K)を35〜50個/m程度とすれば、混繊度(Z)が10〜60%という条件は、極く普通にして備わる条件に過ぎない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の比較例に関する記載(特に【表1】)をみると、比較例4及び5においては、交絡度(K)がそれぞれ35コ(=個)/m及び40コ(=個)/mであるのに対し、混繊度(Z)はそれぞれ5%及び70%であり、交絡度(K)を35〜40個/m程度にしたからといって混繊度(Z)が10〜60%に必ずなるとはいえず、申立人Aの主張は採用できない。
したがって、相違点b.を検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載されたものであるとはいえない。
イ.本件発明4について
甲第1号証には、上述ア.のとおりの記載がなされ、さらに、混色染色可能なカーペツト用混繊糸をタフティングしたパイル布帛を2種の染料を用いて染色し、カーペットを得ることも記載(摘示記載(A1-e))されている。
ここで、上述ア.での検討を踏まえ、本件発明4と甲第1号証に記載の発明を対比すると、両者は、「異染色フィラメントと、少なくとも1種の原着フィラメントとからなる捲縮糸であり、異染色マルチフィラメントの各単糸と原着フィラメントの各単糸とが交絡している交絡部と、異染色フィラメントの各単糸と原着フィラメントの各単糸とが一群をなし交絡が少ない非交絡部とを、捲縮糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が35〜50個/mの範囲にある多色染色性捲縮糸をタフティングしたパイル布帛を、少なくとも2種以上の染料を用いて染色したカーペット」である点で一致し、上記相違点a.、b.以外に以下の点で相違する。
相違点c.本件発明4では、染色パイル布帛に裏打ち樹脂層を形成したと特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点d.本件発明4では、カーペットが杢調柄であると特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点a.については、上述ア.で検討したとおりであるから、相違点b.〜d.を検討するまでもなく、本件発明4は甲第1号証に記載されたものであるとはいえない。

(3)特許法第29条第2項違反に係る申立てについて
ア.本件発明1について
上述(2)ア.において検討したとおり、本件発明1と甲第1号証に記載の発明は、上記相違点a.、b.において相違する。
まず、相違点a.について検討する。
甲第2号証には、少なくとも3色の単色糸を混繊するに際し、その平均混繊度を40%以上とすることが記載(摘示記載(A2-a)、(A2-b))され、さらに、実施例においては、45〜58%としたものが記載(摘示記載(A2-c)、(A2-d))されている。しかしながら、甲第2号証に記載の発明は、平均混繊度について特定するものであり、本件発明1の如く、非交絡部における混繊度(Z)に着目したものではなく、また、該非交絡部に着目した混繊度を特定するという技術思想は、甲第2号証には記載も示唆もされていない。
また、甲第3、4号証は、相違点a.について何ら記載するものではない。
これに対し、本件発明1は、相違点a.により、本件特許明細書記載の顕著な効果が奏されるのである。
よって、本件発明1は、相違点b.を検討するまでもなく、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ.本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述ア.で示したのと同様の理由により、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ.本件発明4について
上述(2)イ.において検討したとおり、本件発明4と甲第1号証に記載の発明は、上記相違点a.〜d.において相違する。そして、相違点a.については、上述(3)ア.において検討したとおりである。
したがって、本件発明4は、相違点b.〜d.を検討するまでもなく、上述(3)ア.において示したのと同様の理由により、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ.本件発明5、6について
本件発明5、6は、本件発明4にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述ウ.で示したのと同様の理由により、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5-2.申立人Bからの特許異議申立てについて
(1)特許法第29条第1項第3号違反に係る申立てについて
甲第1号証には、結束部分と集束部分とがそれぞれ糸軸方向に沿って15〜50ケ/mずつ存在するカーペットパイル糸が記載(摘示記載(B1-a))され、該パイル糸は潜在捲縮が発現しており(摘示記載(B1-a))、また、互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメントとして、同一ポリマー素材のものが記載(摘示記載(B1-d))されている。
ここで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明を対比すると、甲第1号証における「結束部分」及び「集束部分」(摘示記載(B1-a)、(B1-c))は、それぞれ本件発明1における「交絡部」及び「非交絡部」に相当するものと認められるから、両者は、「マルチフィラメントとからなる捲縮糸であり、各単糸が交絡している交絡部と、非交絡部とを、糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が30〜50個/mの範囲にある多色染色性捲縮糸」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点e.本件発明1では、マルチフィラメントからなる捲縮糸は、異染色フィラメントと、少なくとも1種の原着フィラメントとから構成されると特定しているが、甲第1号証に記載の発明では、互いに染色性および/または染着率が異なるか或いは着色が異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフイラメントから構成されると特定している点。
相違点f.本件発明1では、非交絡部における原着フィラメントの異染色フィラメントへの混繊度(Z)を10〜60%と特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点g.本件発明1では、多色染色性捲縮糸が杢調であると特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
まず、相違点e.について検討する。
甲第1号証における「互いに染色性および/または染着率が異なるか或いは着色が異なる2種以上の熱可塑性合成繊維マルチフイラメント」とは、「互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメントあるいは互いに着色が異なる2種以上のマルチフイラメント」(摘示記載(B1-b))であり、実施例では、「互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメント」のみが使用(摘示記載(B1-d))されており、さらに、「互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメント」と「互いに着色が異なる2種以上のマルチフイラメント」を混合して使用することについては記載も示唆もされてないことから、甲第1号証に記載の発明には、本件発明1の如く、互いに染色性および/または染着率が異なる2種以上のマルチフイラメント」と「互いに着色が異なる2種以上のマルチフイラメント」を混合して使用するという技術思想は存在しないものと認められる。
したがって、相違点f.、g.を検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載されたものであるとはいえない。

(2)特許法第29条第2項違反に係る申立てについて
ア.本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、さらに発明を特定する事項を付加したものであるから、まず、本件発明1について検討する。
上述5-2.(1)において検討したとおり、本件発明1と甲第1号証に記載の発明は、上記相違点e.〜g.において相違する。
まず、相違点e.について検討すると、甲第1号証は相違点e.について何ら記載していない。さらに、甲第2〜5号証及び参考文献1は、相違点e.について何ら記載するものではない。
また、相違点f.について検討すると、申立人Bは、通常の方法においては、交絡度を30〜50個/mとすると、混繊度が10〜60%の範囲になるものと想定され、混繊度を規定することに格別の技術的な意味はない旨主張する。しかしながら、本件特許明細書の比較例に関する記載(特に【表1】)をみると、比較例4及び5においては、交絡度(K)がそれぞれ35コ(=個)/m及び40コ(=個)/mであるのに対し、混繊度(Z)はそれぞれ5%及び70%であり、交絡度(K)を35〜40個/m程度にしたからといって混繊度(Z)が10〜60%に必ずなるとはいえず、さらに、本件発明1の如く、該非交絡部に着目した混繊度を特定するという技術思想は、甲第1〜5号証及び参考文献1には記載も示唆もされていない。
これに対し、本件発明1は、相違点e.、f.により、本件特許明細書記載の顕著な効果が奏されるのである。
したがって、本件発明1は、相違点g.を検討するまでもなく、甲第1〜5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1にさらに発明を特定する事項を付加した本件発明2、3は、本件発明1に対して示した上述の理由と同様の理由により、甲第1〜5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ.本件発明4について
甲第1号証には、上述5-2.(1)のとおりの記載がなされ、さらに、カーペツトパイル糸をタフティングしたパイル布帛を2種の染料を用いて染色し、カーペットを得ることも記載(摘示記載(B1-d))されている。
ここで、上述5-2.(1)での検討を踏まえ、本件発明4と甲第1号証に記載の発明を対比すると、両者は、「マルチフィラメントとからなる捲縮糸であり、各単糸が交絡している交絡部と、非交絡部とを、糸の長さ方向に交互に形成すると共に、交絡度(K)が30〜50個/mの範囲にある多色染色性捲縮糸をタフティングしたパイル布帛を、少なくとも2種以上の染料を用いて染色したカーペット」である点で一致し、上記相違点e.〜g.以外に以下の点で相違する。
相違点h.本件発明4では、染色パイル布帛に裏打ち樹脂層を形成したと特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点i.本件発明4では、カーペットが杢調柄であると特定しているが、甲第1号証に記載の発明ではそのような特定をしていない点。
相違点e.、f.については、上述(2)ア.において検討したとおりである。
したがって、本件発明4は、相違点g.を検討するまでもなく、上述(2)ア.において示したのと同様の理由により、甲第1〜5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ.本件発明5、6について
本件発明5、6は、本件発明4にさらに発明を特定する事項を付加したものであって、上述イ.で示したのと同様の理由により、甲第1〜5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-22 
出願番号 特願平6-51449
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D02G)
P 1 651・ 531- Y (D02G)
P 1 651・ 113- Y (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 田口 昌浩
石井 克彦
登録日 2001-11-30 
登録番号 特許第3256068号(P3256068)
権利者 東レ株式会社 東リ株式会社
発明の名称 杢調多色染色性捲縮糸およびこの捲縮糸を用いた杢調柄カーペット  
代理人 野口 賢照  
代理人 小川 信一  
代理人 小川 信一  
代理人 斎下 和彦  
代理人 斎下 和彦  
代理人 野口 賢照  

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