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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A23L
管理番号 1080491
審判番号 無効2000-35084  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-12-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-10 
確定日 2003-03-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2735927号発明「密封容器入り中性飲料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2735927号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
出願日 平成2年3月26日
登録 平成10年1月9日
異議申立 平成10年9月30日
異議申立 平成10年10月1日
異議申立 平成10年10月2日
訂正請求 平成11年2月15日
異議決定(訂正認める・維持) 平成11年4月30日

本件無効審判請求 平成12年2月10日
答弁書 平成12年5月26日
訂正請求 平成12年5月26日
弁駁書 平成12年9月21日
第1回口頭審理 平成12年10月3日
上申書(被請求人) 平成12年10月3日
上申書(請求人) 平成12年11月6日
物件提出書 平成12年11月6日
上申書(被請求人) 平成12年11月6日
上申書(請求人) 平成12年12月13日
第2回口頭審理 平成13年1月19日
上申書(請求人) 平成13年2月9日
上申書(被請求人) 平成13年2月9日

2.訂正の適否についての判断
被請求人は、平成12年5月26日付け訂正請求書を提出して訂正を求めているので、先ず当該訂正の適否について検討する。
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
平成11年2月15日付け訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下、全文訂正明細書という。)の特許請求の範囲に記載の「乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料。」を、
「乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料。」と訂正する。
イ.訂正事項b
全文訂正明細書第2頁第6行〜第8行に記載の「上記目的は、乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料によって達成される。」を、
「上記目的は、乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料によって達成される。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
全文訂正明細書第2頁第11行〜第12行に記載の「その結果、密封容器入り中性飲料中の脂肪分として、中鎖脂肪酸トリグリセライドを用いると、」を、
「その結果、密封容器入り中性飲料中の脂肪分として、上記中鎖脂肪酸トリグリセライドを用いると、」と訂正する。
エ.訂正事項d
全文訂正明細書第2頁第20行〜第21行に記載の「この中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂肪酸鎖長は、炭素数6〜12が好ましく、」を、
「この中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂肪酸鎖長は、炭素数6〜12であり、」と訂正する。
オ.訂正事項e
全文訂正明細書第2頁第25行〜第26行に記載の「また、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点は、-5℃以下であることが好ましい。」を、
「また、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点は、-5℃以下である。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否
訂正事項aについては、特許請求の範囲に記載された「中鎖脂肪酸トリグリセライド」を「脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライド」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項b〜eは、特許請求の範囲の上記減縮に伴って、明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するようにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a〜eについては、願書に添付した明細書第4頁第3行〜第4行に「この中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂肪酸鎖長は、炭素数6〜12が好ましく」、同じく第10行〜第11行に「また、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点は、ー5℃以下であることが好ましい。」と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項及び第5項によって準用する同法第126条第2項、第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許無効についての判断
(1)本件特許発明
本件特許発明は、平成12年5月26日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料。」(以下、本件特許発明という。)
(2)請求人の主張
請求人は、平成12年2月10日付け審判請求書において、「第2735927号特許はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。
そして、上記審判請求書において、以下の特許無効の理由を挙げて、本件特許発明は、特許法第123条の規定により無効とされるべきであると主張している。
ア.本件特許発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明とそれぞれ同一であって、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。
イ.本件特許発明は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ウ.本件特許発明の訂正明細書に於ける「加熱加圧殺菌」なる記載の追加は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものではなく、特許法第120条の4で準用する同法第126条第2項の規定に違反して訂正されたものである。
そして、請求人は、平成12年2月10日付け審判請求書と同時に次の証拠方法を提出している。
甲第1号証 特開昭61-56061号公報
甲第2号証の1 実験報告書(株式会社ヤクルト本社 開発部主任研究員
水澤進作成)
甲第2号証の2 証明書(株式会社ヤクルト本社 代表者 堀澄也作成)
甲第3号証 特開昭61-180714
甲第4号証 「新FDA規格食品編」(昭和53年3月10日 日本衛
生技術研究会発行)第99〜126頁
甲第5号証 特開平3-277260号公報
甲第6号証の1 「ジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)」
と題する商品パンフレット(昭和61年キユーピー株式
会社作成)
甲第6号証の2 パンフレット頒布証明書(キユーピー株式会社 家庭用加 工食品部)
甲第6号証の3 「臨床栄養別冊第68卷・第1号」(昭和61年1月 医 歯薬出版株式会社発行)第77〜79頁
甲第7号証の1 「缶詰製造設備ハンドブック」(昭和61年5月15日
缶詰技術研究会発行)第293頁
甲第7号証の2 「食品衛生小六法」(平成10年11月16日 新日本法 規出版株式会社発行)第1500〜1501頁
甲第8号証 加熱加圧殺菌出荷証明書(キユーピー株式会社 常務取
締役生産本部長 木村元彦作成)
甲第9号証 警告書(鐘紡株式会社 知的財産センター長 松居宏典
作成)
甲第10号証 「最新改稿乳業技術便覧」(1975年10月1日
酪農技術普及学会発行)

また、平成12年10月3日付け弁ぱく書と同時に次の証拠方法を甲号証として提出している。
甲第2号証の3 証明書(株式会社ヤクルト本社 開発部主任研究員 水澤 進作成)
甲第6号証の4 「ダイヤモンド会社職員録(全上場会社版)1987年版 ・上巻」(昭和61年11月25日 ダイヤモンド社発
行)第514〜515頁
甲第8号証の2 証明書(キユーピー株式会社 常務取締役生産本部長
木村元彦作成)
甲第11号証 「食品殺菌工学 光琳全書24」(昭和44年9月15日 株式会社 光琳書院発行)
甲第12号証 「臨床栄養第37巻第6号」(昭和45年11月 医歯薬 出版株式会社発行)第756〜761頁
甲第13号証 EP第0 351 910 A1号公報(1990年1月 24日発行)
甲第14号証 「臨床栄養第38巻第3号」(昭和46年3月 医歯薬
出版株式会社発行)第331〜335頁」
甲第15号証 「コーヒーとお茶の現況と展望」(1989年8月31日
工業技術会発行)第132〜138頁
甲第16号証 「食品衛生学雑誌、第23巻、第6号」(昭和57年12 月5日 社団法人日本食品衛生学会発行)第480〜48 6頁
甲第17号証 「月刊フードケミカル 1985年11月号」(昭和60 年11月1日 株式会社食品化学新聞社発行)第110〜
113頁
甲第18号証 「油脂化学便覧」(平成2年2月28日 丸善株式会社発 行)282頁
甲第19号証 「食品油脂の科学」(1989年10月20日 株式会社 幸書房発行)
甲第20号証 特開昭54ー84036号公報
甲第21号証 「油脂 1984年8月号」(昭和59年8月15日発
行)第60〜65頁
甲第22号証 特開昭51ー57860号公報

さらに、平成12年11月6日付け物件提出書において、次の証拠方法を甲号証として提出している。
甲第2号証の4 見解書(社団法人 日本缶詰協会研究所 次長兼第二研究 室室長 駒木 勝作成)
甲第6号証の5 証明書(東京慈恵会医科大学附属柏病院 久保宏隆作成)
甲第6号証の6 「JJPEN.Vol.11 No.1 1989年」 第109〜112頁
甲第6号証の7 「JJPEN.1988年増刊号」第23頁
甲第6号証の8 「臨床栄養 Vol.75 No.2 1989」第17 1頁及び広告頁
甲第6号証の9 実験成績書(キユーピー株式会社研究所 山形徳光作成)

(3)被請求人の主張
被請求人は、上記請求人の主張する無効の理由ア〜ウは、いずれも理由がない旨主張し、これを立証する証拠方法として、次の書証を提出している。
なお、無効の理由イについての被請求人の具体的な主張は、下記の「(4)当審の判断」において取り上げる。
乙第1号証 特許第2657003号公報
乙第2号証 「Beverage Japan No.81 1988年 9月号」ビバリッジジャパン社発行
乙第3号証 「ダイヤモンド会社職員録 全上場会社版 1986年版・ 上巻」ダイヤモンド社発行
乙第4号証 特公昭57ー26104号公報
資料1-1 報告書(大阪市立工業研究所作成)
資料1-2 報告書(大阪市立工業研究所作成)
資料2 New Food Industry Vol.24,
No.4 (株)食品資材研究会発行 1982年4月1日
28頁
資料3 Improvement of OilーSeed and
Industrial Crops by Induced
Mutations 1982年6月発行 162頁
資料4 日本栄養・食糧学会誌 Vol.40,No.6 日本栄養 ・食糧学会発行 昭和62年12月10日 486頁
資料5 第24回日本外科代謝栄養学会機関誌 昭和62年12月
25日発行 282頁
資料6 特開昭63ー154618号公報
資料7 特公昭58ー20578号公報
資料8 第35回夏季ゼミナール ー油糧資源の高度利用と油化学ー 昭和63年7月20日〜22日 103頁
資料9 油脂 Vol.40,No.4(1987) (株)幸書房
第59頁
資料10 特開昭58ー134961号公報
資料11 特開昭63ー152942号公報
資料12 缶詰手帳付会員名簿2001 第284、285、428、 429、468、469頁
(4)当審の判断
〈無効理由イについて〉
(一)先ず、甲第6号証の1の「ジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)」と題する商品パンフレット(以下、単に「商品パンフレット」ということがある。)が、本件特許の出願前に頒布された刊行物であるか否かについて検討する。
熊本大学医学部代謝内科の小堀祥三らの研究報告に係わる甲第6号証の3には、10名の脳卒中の患者にジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)を1日800kcal与えて、自覚症状および臨床検査成績について検討したことが、同じく東京慈恵会医科大学第二外科の久保宏隆らの研究報告に係わる甲第6号証の6には、ジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)が大腸検査食として適した食品であるか否かについて試験したことが記載され、また、甲第6号証の7には、キューピー株式会社の広告としてジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)が写真入りで掲載され、甲第6号証の8には、日本ヘルスフード株式会社によるジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)の広告が写真入りで掲載されている。
そして、これら刊行物に記載されているジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)は、上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)と同一の物であり、しかもこれらはいずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物であることを考えると、上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)は、本件特許の出願前にすでに不特定多数の第3者に販売されていたものと認められる。
そして、一般に商品パンフレットは、その性質上、配布、公開してその商品を広く紹介、宣伝する目的で作成されるものであるから、商品発売時あるいは発売日からそれほど日時を経ることなく頒布されるものとみるのが社会常識であり、加えて、甲第6号証の2において、キユーピー株式会社 家庭用加工食品部の河野盛雄が、ジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)の発売当時(1985年11月)から上記商品パンフレットを商品紹介用に頒布したことを証明していること、甲第6号証の5において、東京慈恵会医科大学附属柏病院外科の久保宏隆が、ジャネフ濃厚流動食発売当時(1985年末頃)に商品と一緒に上記商品パンフレットを受け取ったことを証明していること、及び被請求人は、上記商品パンフレットが本件特許の出願前に頒布されていなかったと窺えるような証拠方法を何も提出していないことを考えると、甲第6号証の1の商品パンフレットは、本件特許の出願前に頒布されたものと認めるのが相当である。
(なお、被請求人は、平成13年2月9日付け上申書において、上記甲第6号証の5〜8の全てのものが期間経過後の提出に係るものであって、証拠として認められない旨主張するが、これら書証は、上記商品パンフレットが本件特許の出願前に頒布された刊行物であると「請求の理由」で主張する事実の信憑性を高めるための間接証拠にあたるものであるから、これら証拠を追加しても「請求の理由」の要旨を変更することにはならず、被請求人の上記主張は採用しない。)

(二)また、被請求人は、甲第6号証の1の商品パンフレットには発行年月日が記載されていないこと、及び1985年(昭和60年)11月18日発行の会社年鑑(乙第3号証)によれば、キユーピー株式会社の関東支店の所在地は、東京都新宿区西新宿7ー1ー12薫友ビルとなっており、甲第6号証の1のパンフレットが、甲第6号証の2にいうように、1985年11月より商品紹介用に頒布したものであるなら、関東支店の住所は、上記の住所になっているはずであるが、上記商品パンフレットの末尾には、関東支店の住所は東京都渋谷区代々木2ー7ー7池田ビルとなっているのであるから、上記パンフレットは1985年11月から頒布されたものと認めることはできない旨主張している。
しかしながら、請求人の提出した上記の証拠方法及び社会常識を考慮することなく、上記商品パンフレットに発行年月日が印刷されていない事実だけをもって直ちに上記パンフレットが本件特許の出願前に頒布されたものでないとすることはできず、また、乙第3号証の会社年鑑の発行月日とそこに記載の住所の表記データの入手時期とは時期的にずれていると考えられることからすれば、上記パンフレットの住所表記をもってこれが本件特許の出願前に頒布されたものではないとすることはできない。

(三)そこで、甲第6号証の1の商品パンフレットの記載内容についてみると、該商品パンフレットには、その表紙に缶入りジャネフ濃厚流動食の写真が示され、次頁に「ジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエット)Kー1の特長」という表題の下に、
「1.成分について
〔1〕たんぱく質
・NPC/N=150と理想的なバランスになっています。
………〔中略〕………
〔2〕糖質
・消化吸収のよいデキストリンと、しょ糖を使用しています。
〔3〕脂質
・消化吸収のよい中鎖脂肪(MCT)、調整サラダ油及び卵黄レシチンを使用しています。調整サラダ油とは、米油とサフラワー油を7:3の割合に配合したサラダ油をいい、血中コレステロールを抑制する作用が最も強いといわれています。卵黄レシチンはその優れた乳化作用により、………………
〔4〕ビタミン
・「日本人の栄養所要量」に示されてい成人一日分のビタミン所要量(A、B1、B2,C、D、ナイアシン)を5缶(1000ml)で摂取することができます。
〔5〕エネルギー
・エネルギーは1缶当たり200kcal.(1kcal./ml)になっており、カロリー計算が簡単です。
〔6〕エネルギー構成比
・三大栄養素がバランス良く配合されています。……………
2.性状について
〔1〕風味
・天然食品主体の配合になっており、おいしく飽きのこない味になっております。
〔2〕流動性
・沈殿を生じる事もなく、……………良好な懸濁性と流動性を示します。
〔3〕浸透圧
…………〔中略〕…………
〔4〕乳化性
・卵黄レシチンを使用し、高度な乳化技術によって、すぐれた乳化安定性を示します。
3.使用原材料
「脱脂粉乳、粉あめ、食用植物油脂(米油、中鎖脂肪、サフラワー油)、砂糖、卵黄レシチン、卵黄、紅茶エキス、ビタミン」
と記載されている。
また、ジャネフ濃厚流動食(Kー1)の組成(製品100ml当り)について、
「水分85.2g たんぱく質3.5g(乳たんぱく3.4g、卵黄0.1g) 糖質13.3g(デキストリン6.7g、乳糖4.4g、しょ糖2.2g) 脂質3.7g(卵黄レシチン1.4g、米油1.0g、中鎖脂肪(MCT)0.9g、サフラワー油0.4g) 灰分0.9g(カルシウム128mg………) ビタミン」と記載され、
さらに、中鎖脂肪酸(24.3%)の脂肪酸組成は、カプリル酸(C8)20.3%、カプリン酸(C10)3.9%、ラウリン酸(C12)0.1%であること、及びジャネフ濃厚流動食(Kー1)の比重は1.066、pHは6.4であることが記載されている。

(四)本件特許発明と甲第6号証の1の商品パンフレットに記載の発明を対比、検討する。
上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエット)Kー1は、比重1.066の濃厚流動食ではあるが、良好な懸濁性と流動性を示す液体であり、本件特許発明の飲料と実質的に区別できないものである。
また、本件特許明細書にpH6.5に調整した飲料が実施例として記載されていることからみて、pH6.4に調整した上記ジャネフ濃厚流動食は、本件特許発明の「中性飲料」に相当する。
さらに、上記商品パンフレットに記載の「卵黄レシチン」、「乳たんぱく」及び「中鎖脂肪(MCT)」は、それぞれ本件特許発明の「乳化剤」、「乳成分」及び「中鎖脂肪酸トリグリセライド」に相当する。
してみると、両者は、乳成分及び乳化剤を含有する密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数8〜12の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料の点で一致し、(a)前者は、加熱加圧殺菌されたものであるのに対して、後者には、加熱加圧殺菌することについて記載されていない点、及び(b)前者は、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点を「-5℃以下」に限定しているのに対して、後者では、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点について記載されていない点、で両者は相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(a)について
乳成分を含有する中性飲料においては、種々の微生物が発育し易いことは周知の事実であり(例えば、乙第2号証参照)、このような中性飲料を容器に充填密封後に加熱加圧殺菌することは本件特許の出願前当業者の慣用手段である(必要なら、甲第1号証、甲第7号証の1、甲第7号証の2、乙第2号証、及び乙第4号証参照)ことから、上記商品パンフレットに記載の中性飲料を容器に充填密封後に加熱加圧殺菌して本件特許発明のような構成にすることは当業者が容易になし得ることである。
この点について、被請求人は、平成12年5月26日付け答弁書において、密封容器入り食品の殺菌については、甲第4号証のFDA規格にも記載されているように、レトルト殺菌だけでなく無菌充填、火炎殺菌等も知られていることから、レトルト殺菌(加熱加圧殺菌)が公知であるからといって、それを上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食に応用することは容易であるというのは短絡すぎる旨主張しているが、これら公知の殺菌方法の中から加熱加圧殺菌法を選択することは格別困難なことではなく、被請求人の上記主張は採用しない。

相違点(b)について
請求人が提出した甲第6号証の9の実験成績書には、上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食(リキッドダイエットKー1)に配合した中鎖脂肪(MCT)の融点を島津示差走査熱量計DSCー60(島津製作所製)を使用し、「A:試料を-40℃に30分ホールドし、昇温速度1分間に10℃」及び「B:試料を-40℃に30分ホールドし、昇温速度1分間に10℃」という条件で測定し、それぞれ-15.26℃及び-15.26℃
の結果を得たことが記載されている。
一方、被請求人は、上記実験成績書の実験結果に対し何も反論しておらず、また、上記ジャネフ濃厚流動食に配合する中鎖脂肪を入手して被告自身が追試試験を行って融点を確認することができたにもかかわらず、実験成績書の提出はなく、また、上記ジャネフ濃厚流動食に配合する中鎖脂肪の融点は「-5℃以下」の条件を満足するものではないと推測できる合理的理由も示していない。
加えて、本件特許発明における「融点」が「凝固点」を意味するものと仮定すれば(本件特許明細書には、「融点」を技術的に定義した記載はなく、その測定方法、測定条件等についても何も記載されていない。)、請求人の提出した甲第20号証には、上記ジャネフ濃厚流動食に配合する中鎖脂肪の脂肪酸組成(カプリル酸とカプリン酸の含有比)と類似する、カプリル酸とカプリン酸を75:25の比で配合した混合脂肪酸より合成された中鎖脂肪酸トリグリセリドは-5℃以下の凝固点を有することが記載され、同じく甲第21号証には、上記ジャネフ濃厚流動食に配合する中鎖脂肪の脂肪酸組成(カプリル酸とカプリン酸の含有比)と類似する商品名「ホモテックス」(花王フード製)の中鎖脂肪酸トリグリセライドは、-5℃〜-20℃の凝固点を有することが記載されている。
(なお、上記甲第20、21号証は、無効審判請求書と同時に提出されたものではないが、これら書証は、本件特許発明で使用する中鎖脂肪酸トリグリセライドを含む中性飲料は甲第6号証の1の商品パンフレットに記載されているという「請求の理由」で主張する事実の信憑性を高めるための間接証拠にあたるものであるから、これら証拠を追加しても「請求の理由」の要旨を変更することにはならない。)
以上の点を考慮すると、両者は、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点の点で実質的に相違しているということはできず、上記相違点(b)は単なる表現上の差異に過ぎないものと認める。
この点について、被請求人は、資料7及び8を提出して、平成12年11月6日付け上申書において、MCTの融点は-5℃以下のものだけでなく、それ以上のものもあることは「MCT13kg(融点 -2℃…)」(資料7)及び「融点(17℃)が常温では液状であり、……」(資料8)との記載から明らかであり、本件特許発明で融点を-5℃以下に限定したことに技術的な意味がある旨主張するが、融点が-5℃を超える中鎖脂肪酸トリグリセライドも存在するという事実から直ちに「上記ジャネフ濃厚流動食に配合する中鎖脂肪は、融点が-5℃以下であるという条件を満足しない」という結論を導き出せないことは明らかであり、被請求人の上記主張は採用できない。

そして、本件特許発明は、上記商品パンフレットに記載の発明に比べて格別の効果を奏するものとは認められない。
この点について、被請求人は、平成12年11月6日付け及び平成13年2月9日付け上申書において、本件特許発明は、「脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下」という特定の中鎖脂肪酸トリグリセライドを用いることにより、加熱加圧殺菌時の乳化安定性のみならず、高温保存状態において乳化破壊が起こることがなく、また、低温保存状態においても脂肪が凝固することがなく、乳化安定性に優れたものになる等の効果を奏する旨主張するが、上記商品パンフレットに記載のジャネフ濃厚流動食においても、上記のとおり本件特許発明で限定する中鎖脂肪酸トリグリセライドと実質的に同一のものが含まれているのであるから、かかる中鎖脂肪酸トリグリセライドに基づく効果は上記ジャネフ濃厚流動食においても当然に奏されるものと認められ、また、加熱加圧殺菌することに基づく本件特許発明の効果も、当業者なら容易に予測できることである。
したがって、本件特許発明は、甲第6号証の1の商品パンフレットに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本件特許発明は、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第6号証の1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。したがって、請求人の主張する他の無効理由について検討するまでもなく、本件特許は特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
密封容器入り中性飲料
(57)【特許請求の範囲】
乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、缶や紙パック等の保存密封容器に充填され、加温販売のみならず冷蔵販売においても、風味を損わず、長期乳化安定性に優れた密封容器入り中性飲料に関するものである。
〔従来の技術〕
従来の密封容器入り中性飲料の多くは、ミルクコーヒーやミルクティーなどに代表されるように、乳成分を添加することにより苦味や渋味を抑え、こくのあるまろやかな風味にしている。そして、その効果は乳成分中の脂肪含有量に影響される。すなわち、脂肪含有量が多いほどまろやかでこくのある風味となる。しかし、従来の密封容器入り中性飲料においては、長期間乳化安定なものは脂肪含有量が1.5重量%以下のものに限定されていた。脂肪含有量が1.5重量%を超えると、乳化安定性が低下し、製品の液表面に脂肪が分離,凝集を起こし、商品としての価値が低下してしまう。
このような脂肪の分離,凝集を防ぐために、乳化剤を数種組合わせる、あるいは、均質化方法を変更する方法がある。しかしながら、これらの方法を用いても従来の密封容器入り中性飲料は、その脂肪分として、全脂粉乳,全脂練乳,生乳等の乳製品を添加しているため、冷蔵中には、製品液表面に脂肪が浮遊し、凝固し、食品としての価値を低下してしまうという問題があった。したがって、冷蔵中においても長期乳化安定な密封容器入り中性飲料の発見が望まれているが、上記問題は未解決のままであった。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、風味が良好で、かつ冷蔵保存中においても乳化安定性に優れた密封容器入り中性飲料を提供するにある。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的は、乳成分及び乳化剤を含有する、加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料において、脂肪分として、脂肪酸の炭素数6〜12で融点が-5℃以下の中鎖脂肪酸トリグリセライドを含有することを特徴とする密封容器入り中性飲料によって達成される。
すなわち、本発明者は脂肪中の脂肪酸の種類により、脂肪の融点が異なり、その融点が冷蔵中の乳化安定性と密接な関係にあることに着目し、鋭意研究を行なった。その結果、密封容器入り中性飲料中の脂肪分として、上記中鎖脂肪酸トリグリセライドを用いると、冷蔵中においても乳化安定な密封容器入り中性飲料が得られることを見出し本発明を完成した。
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明の対象となる飲料としては、ミルクコーヒー,ココア,ミルクセーキ,ミルクティー,スープ等、乳成分,乳化剤及び脂肪の含有が前提条件である中性飲料が挙げられる。また、密封容器とは、缶,瓶,紙パック,ラミネートパック等の容器であって上記飲料を充填後、密封したもののことであり、本発明の密封容器入り中性飲料は、密封後、オートクレーブ等により、加熱加圧殺菌されている。本発明では、脂肪分として中鎖脂肪酸トリグリセライドを用いる。この中鎖脂肪酸トリグリセライドの脂肪酸鎖長は、炭素数6〜12であり、脂肪酸として、例えば、ヘキサン酸,オクタン酸,デカン酸,ラウリン酸等が挙げられる。脂肪酸鎖長が炭素数13以上になると、高温保存中に熱履歴を受けやすくなり、脂肪の劣化臭が強くなる傾向がある。これらの脂肪酸は一種でも、組合わせて用いてもよい。また、中鎖脂肪酸トリグリセライドの融点は、-5℃以下である。
-5℃より高くなると冷蔵保存中に脂肪が製品液面を浮遊し、凝固しやすくなる。
本発明の密封容器入り中性飲料中の中鎖脂肪酸トリグリセライド含有量は、10重量%未満であることが好ましく、含有量がこれ以上になると、脂肪のべとつきが強くなり、風味的に好ましくない状態になってしまう傾向がある。
上記中鎖脂肪酸トリグリセライドと共に、通常使用されている乳成分、中鎖脂肪酸トリグリセライド以外の脂肪を併用させてもよい。このとき、乳成分中の脂肪もしくは中鎖脂肪酸トリグリセライド以外の脂肪の含有量は、保存安定性の点から3重量%未満とすることが望ましい。
本発明に用いられる乳成分としては、全脂粉乳,脱脂粉乳,練乳,牛乳等が挙げられ、これらは単独あるいは組み合わせてもよい。
また、本発明に用いられる乳化剤としては特に限定されるものではなく、蔗糖脂肪酸エステル,グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、これらは単独でもあるいは組み合わせてもよい。
本発明に用いられる甘味料として、糖からは、蔗糖,ぶどう糖,果糖,異性化糖,水飴等、糖アルコールからは、マルチトール,ソルビトール,エリスリトール等、非糖類甘味料からはアスパルテーム,ステビオサイド,サッカリンナトリウム等が挙げられ、これらは単独でも、あるいは組み合わせてもよい。
本発明の密封容器入り中性飲料は、常法に従って製造すればよい。例えば、コーヒー飲料を例にとると、まず、焙煎したコーヒー豆を用いて抽出を行い、得られた抽出液のpHを調整する。これとは別に、中鎖脂肪酸トリグリセライド,乳成分,糖類等を混合する。この抽出液と乳糖液とを混合し60〜70℃に加温し、高圧ホモゲナイザー等を用いて均質化を行う。そして、容器に充填,密封し、オートクレーブ等で加熱加圧殺菌することにより、密封容器入りコーヒー飲料が得られる。
また、製造工程中、均質化を行う際に、均質化圧力を250kg/cm2以上にすると、より長期乳化安定性に優れた密封容器入り中性飲料が得られ好適である。
〔発明の効果〕
本発明の中鎖脂肪酸トリグリセライドを添加した加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料は、加温販売時における高温状態において乳化破壊が起こることなく、また、低温状態においても脂肪が凝固することはない。
すなわち、本発明により風味が良好で、かつ、低温、あるいは高温での保存中の乳化安定性に優れた加熱加圧殺菌された密封容器入り中性飲料の製造が可能となった。
また、本発明は、高脂肪含有の密封容器入り中性飲料としても上記効果が得られ、こくのあるまろやかな飲料の製造が可能である。
次に、本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1,2,3.比較例1,2)
焙煎したコーヒー豆をドリップ式抽出機を用い常法に従って抽出を行い、得た液(抽出液)を重曹でpH6.5に調整した。これとは別に第1表の抽出液以外の中鎖脂肪酸トリグリセライド,乳,糖類等を混合し、乳糖液とした。この抽出液と乳糖液を第1表の割合に従って混合し、所定量までフィルアップし調合液とした。
この調合液を60〜65℃に加温し、高圧ホモゲナイザーを用いて、150kg/cm2の圧力で均質化を行った。ただし、実施例2は、250kg/cm2で均質化を行った。そして、85℃に昇温し充填,巻締を行い、オートクレーブで殺菌(121℃,25分)を行いサンプルとした。得られたサンプルを、5℃と55℃において4週間保存した後に、静かに開缶しその液表面の状態を評価した。また、保存後の風味についても評価した。
その結果を第2表に示す。


結果は、第2表に示したように、比較例1のコーヒー飲料は、脂肪分に乳脂を用いたもので、風味的には特に問題はなかったが、5℃の保存後に凝固物があり、脂肪の固化したものであった。乳脂は融点が5℃よりも高いためこの温度による保存で固化したものと考えられる。比較例2のコーヒー飲料は、保存後の液表面の状態は良好であり特に問題はなかったが、55℃保存後の風味で脂肪の劣化臭が強く問題であった。コーン油は長鎖長の脂肪酸を含む脂肪であるが、長鎖長の脂肪は熱履歴に弱く酸化劣化したと考えられる。
これら比較例に比べ実施例の中鎖脂肪酸トリグリセライドを添加したコーヒー飲料は、低温,高温での保存後の液表面の状態も良好であり風味についても良好であった。また、実施例2のコーヒー飲料は、5℃で更に長期保存してもオイル分離,脂肪凝固を起こすことがなく、良好であった。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2001-03-16 
結審通知日 2001-03-30 
審決日 2001-04-13 
出願番号 特願平2-77268
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (A23L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 徳廣 正道
大高 とし子
登録日 1998-01-09 
登録番号 特許第2735927号(P2735927)
発明の名称 密封容器入り中性飲料  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 中島 俊夫  
代理人 有賀 三幸  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 的場 ひろみ  
代理人 中島 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中島 俊夫  
代理人 西藤 征彦  
代理人 山本 博人  
代理人 西藤 征彦  
代理人 山本 博人  
代理人 山本 博人  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中島 俊夫  
代理人 有賀 三幸  
代理人 有賀 三幸  
代理人 有賀 三幸  
代理人 高野 登志雄  
代理人 山本 博人  

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