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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A63F
管理番号 1080741
審判番号 無効2000-35520  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-09-26 
確定日 2003-07-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第2663243号発明「記憶媒体式遊技設備」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2663243号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2663243号発明は、昭和62年7月20日に出願された特願昭62-180666号発明の一部を分割して新たな出願(平成6年7月20日)としたものであって、平成9年6月20日に設定登録がなされ、その後、クリエイションカード情報システム株式会社より特許無効審判の申立てがなされ、答弁書(平成13年1月15日付)の提出がなされたものである。
(2)特許無効についての判断
1.請求の趣旨
請求人は、
本件特許発明に係る特許出願は、特願昭62-180666号の特許出願を原出願とする分割出願(特願平6-168223号)であるところ、その分割出願は不適法であるから、出願日は原出願の出願日(昭和62年7月20日)ではなく、分割出願が行われた実際の出願日(平成6年7月20日)である。本件特許発明は、分割出願の出願日である平成6年7月20日以前に日本国内で頒布された特開昭64-22274号公報(甲第1号証)、特開昭62-170279号公報(甲第2号証)、および特公平6-51072号公報(甲第3号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、この特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである、
と主張している。
2.本件発明
分説して記載すると、
請求項1
(A)カード状記憶媒体の有する有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるように構成された複数の遊技装置および少なくともこれらの遊技装置を管理する管理装置を備えた記憶媒体式遊技設備において、
(B)上記各遊技装置の所定部位には、上記記憶媒体の有する有価データを読み取る記憶媒体読取手段と、上記記憶媒体読取手段によって読み取った有価データに基づき、上記記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を遊技球あるいは遊技球情報に変換可能な変換操作手段と、上記有価データとしての少なくとも金額情報を表示可能な有価データ表示手段と、を備えて、
(C)上記記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶するとともに、上記管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して、上記記憶媒体のデータ記憶部および上記管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにしたことを特徴とする記憶媒体式遊技設備。(以下、「本件発明1」という。)
請求項2
(D)上記記憶媒体に記憶される有価データは、金銭と実質的に等価な金銭情報およびこの金銭情報から変換された遊技球あるいは遊技球情報であることを特徴とする請求項1記載の記憶媒体式遊技設備。(以下、「本件発明2」という。)
3.本件発明の分割の適否
(ア)請求人の主張
本件発明が特徴とするところは、「発明の詳細な説明」に記載された発明の目的、作用、および効果から判断して、「記憶媒体の有する有価データとしての金額情報を記憶媒体のデータ記憶部と管理装置の記憶手段とに記憶させ、この両方に記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理する。」という点にある。
ところが、記憶媒体の有する有価データとしての金額情報を記憶媒体のデータ記憶部に記憶させるという事項、および記憶媒体のデータ記憶部と管理装置の記憶手段とに記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するという事項は、原出願の当初明細書に記載がなく、分割出願の明細書で新たに付加されたものである。
本件特許公報(甲第4号証)の「発明の詳細な説明」の「実施例」の欄には、次の記載1、2が存在するが、記載1は分割出願時に修正が加えられ、また、記載2は分割出願時に追加されたものである。
記載1・・・「さらに、予備エリアRSUが設けられている。例えば、この予備エリアRSUには有価データとしての持玉数や金額等を記録するようにしてもよい。」(甲第4号証の3頁6欄1〜3行)
記載2・・・「一方、カードがパチンコ機等の端末機に挿入された場合には、カードに記憶されているカード番号毎に管理装置のカードファイルに記憶されている当該カードの有価データとしての持玉数および金額をデータ伝送路を介して端末機に送って、当該カードに記憶されている持玉数および金額と比較照合することが可能である。これにより、カードに記憶されている有価データの信頼性が向上する。」(甲第4号証の27頁54欄11〜18行)
甲第5号証は原出願(特願昭62-180666号)の出願書類であり、前記した記載1は、原出願の当初明細書では、「・・・予備エリアRSVが設けられてぃる。例えばここに持玉数を記録してもよい。」(甲第5号証の10頁13〜14行)となっており、予備エリアに有価データとしての金額を記録することは記載されていない。又、前記した記載2は原出願の当初明細書の対応する箇所(甲第5号証の87頁20行と88頁1行との間)は勿論、それ以外の箇所にも、その記載が存在しない。
甲第6号証は分割出願(特願平6-168223号)の出願書類であり、明細書の6頁6〜8行に前記の記載1が、明細書の57頁2〜6行に前記の記載2が、それぞれ存在しており、分割出願に際して、記載1のように修正が加えられ、かつ記載2が新たに追加されたことは明らかである。
その後、平成6年8月18日付手続補正と平成8年9月12日付手続補正とによって、「特許請求の範囲」は、記憶媒体に金額情報を記憶させることを含む現在の内容に変更されている。
以上のとおり、本件特許発明は、分割出願の明細書で付加された技術事項を要旨とし、しかも、付加された技術事項は原出願の明細書および図面のどこにも記載がないから、分割出願は不適法である。
したがって、本件特許発明に係る特許出願の出願日は、分割出願が行われた実際の出願日であり、特許法第29条第2項の判断も、分割出願の出願日である平成6年7月20日を基準とすべきである。
(イ)被請求人の主張
請求人の主張は、本件特許が分割の要件を具備しないことを前提としているが、そもそも、この前提自体が誤りである。
すなわち、分割出願の目的の一として、原出願において明細書に記載はしたが発明として認識していなかった事項につき、後に特許を求めたい場合が生じうる。かかる場合には、その点の開示が必ずしも十分でない場合が多いから、分割出願が原出願に明記されなくとも、当業者に自明な事項を補足することが許容されることは、過去の判例(東高裁昭53年8月30日判決「磁気異方性永久磁石の製造装置」)における判旨、昭和62年(行ケ)226号の判旨等からも明らかである。
そして、請求人が本件特許発明の特徴であるとして主張する「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術は、本件特許発明の属する技術の分野において、出願当時既に当業者にとって技術常識となっており、技術的に自明な事項である。
上記の被請求人の主張は、以下に示す公開特許公報及び公開実用新案公報などからも明らかである。
特開昭53-93937号公報(乙第1号証)
特開昭53-125141号公報(乙第2号証)
特開昭60-116386号公報(乙第3号証)
特開昭61-33690号公報(乙第4号証)
実願昭59-74412号(実開昭60-2581号)のマイクロフィルム(乙第5号証)
特開昭62-170279号公報(乙第6号証)
特開昭62-233181号公報(乙第7号証)
特開昭63-51882号公報(乙第8号証)
特開昭63-102783号(乙第9号証)
特開昭63-122482号(乙第10号証)
特開昭63-229084号(乙第11号証)
実願昭62-98149号(実開昭64-3685号)のマイクロフィルム(乙第12号証)
実願昭62-98150号(実開昭64-3686号)のマイクロフィルム(乙第13号証)
実願昭62-100443号(実開昭64-7381号)のマイクロフィルム(乙第14号証)
上記各号証のうち、乙第1〜5号証は、本件特許発明に係る特許出願日前の公知刊行物であり、乙第6〜14号証は、本件特許発明に係る特許出願日前の出願に係る文献であり、いずれも本件特許発明に係る特許出願日(昭和62年7月20日)当時の技術常識の認定に資するものである。
本件特許発明に係る特許出願日前の技術として、「記憶媒体(カード)に識別情報を記憶させる」技術は、上記の乙第1〜3号証並びに乙第5〜14号証等に開示されており、これらの公知刊行物からも、前記技術が本件特許発明が属する技術分野の技術常識となっているものと認められる。
また、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術は、乙第4号証、乙第6〜14号証等に開示されており、前記と同様に本件特許発明が属する技術分野の技術常識となっている技術と認められる。
さらに、乙第8〜12号証には、記憶媒体(カード)に「識別情報」を記憶させる技術と、記憶媒体(カード)に「識別情報」と「金額情報」とを記憶させる技術とが選択可能に記載されており、これらの技術もまた、本件特許発明が属する技術分野の技術常識を構成していると認められるのである。
以上により、本件特許発明の属する技術分野においては、記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる技術は、分割出願が原出願に明記されなくとも、当業者に自明な事項であって、出願当初の明細書の技術的事項の範囲内の事項であって、これを補足することは何ら不適法なものではなく、本件特許発明に係る特許出願は適法に分割された出願にかかるものである。
よって、前述のとおり、本件特許発明に係る特許出願の出願日は原出願の出願日(昭和62年7月20日)であって、甲第1号証(本件特許発明に係る原出願についての公開特許公報)は、本件特許発明の出願前の公知資料となりえず、また、同様に、甲第2号証の公開日は昭和62年7月27日であることから、甲第2号証も本件特許発明の出願前の公知資料となりえず、さらに、甲第3号証についても、公告日が平成6年7月6日(公開日は、昭和62年10月27日)であることから、同様に、本件特許発明の出願前の公知資料とはなりえず、甲第1号証乃至甲第3号証を引用して特許法第29条第2項の規定が適用される余地はない。
(ウ)当審の判断
上記本件発明の特許請求の範囲には、その構成要件(C)として、記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶する点(以下、構成要件(C1)という。)、管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して、記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにした点(以下、構成要件(C2)という。)、が記載されており、記憶媒体には少なくとも有価データとしての金額情報を記憶すること、即ち金額情報が必須に記憶されるものであることが認められる。
この点に関して被請求人も本件発明の原出願に記載がないことを前提として、本件発明の属する技術分野において記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる技術は、分割出願が原出願に明記されなくとも、当業者に自明な事項であるとし、出願当初の明細書の技術的事項の範囲内の事項であって、これを補足することは何ら不適法なものではないとし、その証拠として乙第1〜14号証を提出している。
この被請求人の主張について検討する。
上記の構成要件(C)の記載によれば、構成要件(C1)の記載のみならず構成要件(C2)の記載も認められる。この構成要件(C2)の記載、及び本件発明の効果の記載「各記憶媒体の有価データが別の場所(管理装置)に重複して記憶されることにより、有価データの信ぴょう性を向上させ、設備の信頼性を向上させることができるとともに、遊技者が不正に記憶媒体の有価データを改ざんして使用したとしても管理装置の記憶手段に記憶されている当該記憶媒体の有価データと照合することで容易に不正を発見することができ、これによって遊技店が不利益を被るのを防止することができる」(甲第4号証の30頁60欄36〜44行・・2頁4欄31〜38行の作用の欄にも同様な記載あり)によれば、本件発明の金額情報の管理は記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われるものと認められる。また、上記本件発明の構成要件(B)によれば、各遊技装置が備える、遊技球あるいは遊技球情報に変換可能な変換操作手段、及び少なくとも金額情報を表示可能な有価データ表示手段は、記憶媒体読取手段によって読み取った有価データに基づくものであることが認められる。
以上の点に関して、原出願の当初明細書には下記の記載、
「一方、カードCDの表面下部には、磁性材が塗布された磁気記録部MGが設けられており、・・・なお、カード番号No.と補助データETXとの間には、上記以外の情報を入れることができるように予備エリアRSVが設けられている。例えばここに持玉数を記録してもよい。」(甲第1号証3頁左下欄12行〜右下欄14行)、
「このように、この実施例のカードの磁気面に記録される情報は、カードの使用可能空間を特定するための識別コードとカードの有効期間を示すための発行年月日と、発行通し番号nから適当な関数もしくは変換方式を使って得られる識別符号としてのカード番号と、エラー検出用のチェックコードのみであり、購入金額や持玉数は記録されないようになっている。これらは、上記カード番号によって管理装置400のデータファイルからリアルタイムで引出し可能な構成にしてある。これによって、カードのコピーによる不正を防止し、かつ不正による被害を最小限にとどめることができる。」(甲第1号証3頁右下欄15行〜4頁左上欄7行)、
「次に、管理装置によるカード番号の鑑定の手続きについて第23図を用いて説明する。カードリーダ180のコントローラ188は、第22図のデータ鑑定処理中のルーチンR59で所定のエリアに記憶したカード番号No.を制御ユニット160のユニットコントローラ190に転送する(ステップS1)。すると、そのデータ(カード番号)はユニットメモリ170内の送信エリアSDAに格納され、カードリーダにカードが挿入されたことを知らせる“カードイン”パケットに入れられてネットワーク500を介して制御ユニット160から管理装置400に送信される・・・“カードイン”パケットを送信した制御ユニット160は、管理装置400から応答があるとその応答が“NAK”か“ACK”か判定し(ステップS11)、“ACK”を受信したときは、制御ユニット全面の表示器162,163に管理装置から送られて来たカードテキストを参照して未使用金額と持玉数を表示させる(ステップS12)。・・・一方ステップS11で“NAK”受信と判定すると、カードリーダ180のコントローラ188に対して排出指令を与える(ステップS17)。」(甲第1号証25頁左上欄17行〜右下欄5行)、
等、が認められるのみで、本件発明のような、金額情報の管理は記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる、ものに関する記載がない。
また、被請求人は、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術は、本件の出願当時既に当業者にとって技術常識となっており、技術的に自明な事項であると主張しているが、提出された乙号証(乙4、6〜14号証)の中で本件出願前に公知のものは乙第4号証のみ(乙第6〜14号証は先願)であり、この提出された証拠のみでは本件出願前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったということはできない。そして、この技術が本件出願前に当業者にとって技術常識又は自明なことであったとしても、本件発明のような、金額情報の管理が記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータの双方により行われる点まで技術常識又は自明なことであったということはできない。
以上のことからすれば、本件発明の属する技術分野において記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる技術が当業者に技術常識又は自明な事項であったとしても上記本件発明の構成要件(C)は、原出願の当初明細書に記載されていない事項を含むというべきであるので、本件特許出願は特許法第44条第2項の規定の適用を受けることができず、その出願日はその実際の出願日(平成6年7月20日)に繰り下がることになる。
4.刊行物記載の発明
上記のとおり本件出願の出願日が繰り下がると、請求人の提出した甲第1号証(特開昭64-22274号公報・・本件発明の原出願の公開公報)、甲第2号証(特開昭62-170279号公報)及び甲第3号証(特公平6-51072号公報)は本件出願前公知のものとなる。
甲第1号証は、本件発明の原出願の公開公報であり、
「金額もしくは玉数と実質的に等価な有価データを、記憶媒体に対して与えられた識別符号毎に管理装置において管理し、パチンコ遊技機においては上記記憶媒体より読み出した識別符号に基づいて上記管理装置から得られた有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるようにされパチンコ遊技システムにおいて、」(1頁左欄5〜11行)、
「この実施例のパチンコ遊技システムは、遊技機としてのパチンコ機100と、・・・発行機200と、・・・精算機300と、上記各種端末機を集中的に管理し、制御する管理装置400と、この管理装置400と各端末機を有機的に結合するデータ伝送路500とからなり、これらによって、有機的結合体が構成される。」(3頁左上欄12行〜同頁右上欄3行)、
「この実施例のパチンコ機100は、遊技機本体110と、・・・制御ユニット160とにより構成される。制御ユニット160は、遊技機本体110と別個に構成され、カード挿排口161と、カードの有する金額を表示する金額表示器162、・・・等を前面に有している。」(7頁右上欄14行〜同頁左下欄5行)、
「制御ユニット160の内部には、上記カード挿排口161に対応してカードリーダ180が、・・・各々設けられている。」(7頁右下欄1〜6行)、
「さらに、穿孔装置807の近傍には磁気ヘッド808が設けられており、カードの磁気記録部MGに記録されている識別コード等のデータを読み取る」(8頁右上欄7〜10行)、
「また遊技機本体110の下部には、・・・購入スイッチ113、・・・が設けられている。・・・購入スイッチ113は、カード挿排口161へのカードの挿入を前提としてカードの有する金額の範囲内で、200円等の単位でこれを遊技球に変換するための指示スイッチで、変換された遊技球が持玉数となる。」(8頁左下欄4〜15行)、
と記載されている。また、本件の分割出願時に付け加えられた技術的事項以外については本件発明と同じである。
したがって、甲第1号証には、
「(a)カード状記憶媒体の有する有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるように構成された複数の遊技装置および少なくともこれらの遊技装置を管理する管理装置を備えた記憶媒体式遊技設備において、
(b)上記各遊技装置の所定部位には、上記記憶媒体の有する有価データを読みだすための識別符号等を読み取る記憶媒体読取手段と、上記記憶媒体読取手段によって読み取った識別符号に基づき管理装置から記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を読み出し、該金額情報を遊技球あるいは遊技球情報に変換可能な変換操作手段と、上記有価データとしての少なくとも金額情報を表示可能な有価データ表示手段と、を備えて、
(c)上記記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶するとともに、上記管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して、上記管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにしたことを特徴とする記憶媒体式遊技設備。
(d)上記記憶媒体のデータ記憶部の予備エリアRSVには、持玉数を記憶した記憶媒体式遊技設備。」
が記載されている。
甲第2号証には、カード発行機、パチンコ玉貸し出し機、パチンコ台、カード精算機、およびセンタコンピュータにより構成されたパチンコ遊技システムが記載されており(3頁右上欄6〜19行および第1図)、このパチンコ遊技システムでは、センタコンピュータに記憶されているカードの価値の範囲内で、パチンコ玉貸し出し機によりパチンコ玉が貸し出される(3頁右上欄19行〜同頁左下欄2行)。
本件特許発明の構成要件(C)に関して、
「磁気記録部2は一般の磁気カードにおける磁気ストライプあるいは全面磁気であり、例えば発行日付、店コード、カード番号及び付与する価値(玉数あるいは金額)等のデータが記録されている。」(6頁右下欄17行〜7頁左上欄1行)、
「そこで、例えばパーソナルコンピュータ等から成る上記センタコンピュータ400により、このカード1Aに関する全データが常時管理されていることになる。すなわち、カード発行機100から磁気カード1Aを発行する際に、上記カード1Aの番号、カード固有のデータ等と共に、付与した価値(このカードの金額等)がセンタコンピュータ400に伝送されて日付と共に記憶される。」(5頁右下欄17行〜6頁左上欄5行)、
「・・・このカード番号及びカード固有データをIDNoとして当該磁気カードに付与されている価値、発行日付、店コード等のデータが上記センタコンピュータのカードデータファイルに記憶される。」(10頁右上欄13〜17行)、
「そこで、このカード固有のデータから当該カード1Aの真偽をチェックし(ステップS203)、”真”ならば磁気カード・リーダ213A(又は213B)により上記磁気記録部2に記録されている発行日付、店コード、カード番号及び付与された価値等のデータを読取り(ステップS204)、・・・そして、上記読取った各種データは上記センタコンピュータ400に出力され(ステップS208)、このセンタコンピュータ400において、上記カード発行時に記憶されている当該カード1Aに関するデータと比較照合し(ステップS209)、・・・」(8頁左下欄11行〜同頁右下欄7行)、
と記載されている。
本件発明の構成要件(D)に関して、
「磁気記録部2は一般の磁気カードにおける磁気ストライプあるいは全面磁気であり、例えば発行日付、店コード、カード番号及び付与する価値(玉数あるいは金額)等のデータが記録されている。」(6頁右下欄17行〜7頁左上欄1行)、
と記載されている。
以上の記載によれば甲第2号証には、
「センタコンピュータ及び磁気カードにはカード番号とともに付与する価値としての玉数あるいは金額が記録され、パチンコ機に磁気カードが挿入された場合、この双方に記録された該玉数あるいは金額等のデータの比較照合を行うパチンコ遊技システム」が記載されているものと認められる。(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)
甲第3号証の特公平6-51072号公報は、分割出願の出願日である平成6年7月20日以前の平成6年7月6日に出願公告されたものである。
この甲第3号証は、カードを挿入することによりパチンコ玉を貸し出すカード式玉貸装置に関するもので(1頁2欄4〜5行)、
本件発明の構成要件(C)に関して、
「このカード式玉貸装置に使用されるカードAの磁気ストライプ中には、登録番号と金額がデータとして記憶される。・・・Bはカード発行機1に内蔵されたメモリで、登録番号や金額のデータが格納される。・・・カード発行機1は登録番号とカード金額をメモリBに格納し、該登録番号と金額を記憶させたカードAをカード発行口11より発行する。且つ、このカード発行機1には、後記する玉貸機2,残金払戻機3からのデータの照合並びにデータの処理機能を有している。なお、上記カードAの登録番号は、カード発行時点で使用されていないランダム番号が抽出され、顧客にも開示されないカード固有の番号になっているので、登録番号の盗用によるカード偽造等の不正行為が防止されている。・・・更に、この玉貸機2は挿入されたカードAの登録番号、金額を読み取る読み取り機能、並びに使用した金額の減額分を更新して書換える書換え機能(カードリーダ・ライタ機能)を有している。」(2頁4欄19〜43行)、
「ステップs1で玉貸機2のカード挿入口20にカードAを挿入するとステップs2に移り、挿入されたカードAの登録番号と金額が読み取られ、そのデータがカード発行機1に送信されてメモリBと照合され、適正カードか否かが判断される(ステップs3〜s6)。ステップs6で適正カードならば金額ボタン22を操作で貸玉が行われ、同時にメモリBにデータが送信され、カードAはその金額が更新されて返却される(ステップs7〜s11)。」(3頁5欄24〜32行)、
と記載されている。
以上の記載によれば甲第3号証には、
「カード発行機とカードの双方に金額等のデータを記憶させ、カード式玉貸機にカードが挿入された場合、この双方に記憶させた金額の比較照合を行い不正防止を行うカード式玉貸機」が記載されている。(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)
5.対比・判断
本件発明1の前記した構成要件(A)〜(C)について、甲第1号証記載の発明と対比する。
本件発明1の構成要件(A)は、分割出願時に付加された事項でないから、甲第1号証記載の発明は本件発明1の構成要件(A)の全てを備えている。
また、本件発明1の構成要件(B)である「記憶媒体読取手段が記憶媒体の有する有価データを読み取る」ものを、本件発明の実施例の記載のものと解すれば、原出願である甲第1号証に記載の発明の構成要件(b)と同じ、記憶媒体読取手段が記憶媒体の有する有価データを読みだすための識別符号等を読み取り、読み取った識別符号に基づき管理装置から記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を読み出しているものであり両者は一致することになるが、上記記載を文言通り解すれば、記憶媒体読取手段が記憶媒体自体に記憶されている記憶媒体の有する有価データを読み取るものとも解することができるが、このように解した場合でも記憶媒体のデータを読み取ることにより有価データとしての少なくとも金額情報を得ているものである点において共通している。(以下、構成要件(B)をこのように解することとする。)
してみると、両者は、
A)カード状記憶媒体の有する有価データの範囲内で遊技を可能ならしめるように構成された複数の遊技装置および少なくともこれらの遊技装置を管理する管理装置を備えた記憶媒体式遊技設備において、
B)上記各遊技装置の所定部位には、上記記憶媒体のデータを読み取る記憶媒体読取手段と、上記記憶媒体読取手段を介して得た有価データに基づき、上記記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を遊技球あるいは遊技球情報に変換可能な変換操作手段と、上記有価データとしての少なくとも金額情報を表示可能な有価データ表示手段と、を備えて、
C)上記記憶媒体のデータ記憶部に当該記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を得るためのデータを記憶するとともに、上記管理装置の記憶手段には各記憶媒体毎に付与された識別符号を用いて各記憶媒体の有する少なくとも有価データとしての金額情報を記憶して、上記管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するようにしたことを特徴とする記憶媒体式遊技設備。
で一致し、
相違点1・・上記記憶媒体読取手段が読み出すデータが、本件発明1は、その構成要件(B)のように記憶媒体読取手段が記憶媒体の有する有価データを読み取り、その読み取った有価データに基づき、少なくとも金額情報を遊技球情報などに変換可能にしたり、表示可能にしたりするものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、記憶媒体読取手段が記憶媒体の有する有価データを読みだすための識別符号等を読み取り、読み取った識別符号に基づき管理装置から記憶媒体の有する有価データとしての少なくとも金額情報を読み出し、その読み取った有価データに基づき、少なくとも金額情報を遊技球情報などに変換可能にしたり、表示可能にしたりするものである点で相違している。
相違点2・・記憶媒体の有価データとしての金額情報を管理するのに、本件発明1は記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータにより行うのに対し、甲第1号証記載の発明は管理装置の記憶手段に記憶されたデータでのみ行うものである点で相違している。
上記相違点を検討する。
上記相違点1も上記相違点2も、本件発明が有価データとしての金額情報を記憶媒体および管理装置の双方に記憶させている点をその前提としている。
この点に関して、甲第2号証記載の発明を検討すると、甲第2号証記載の発明のパチンコ遊技システムも、カード遊技システムであるので、カード(記憶媒体)の有する付与された価値(有価データ)をセンタコンピュータ(管理装置)に記憶させるとともに、カード自身にも記憶させる点が記載されており、
甲第3号証記載の発明を検討すると、甲第3号証記載の発明のカード式玉貸機もカード遊技システムに用いるものであるので、カード(記憶媒体)の有する金額(有価データ)を管理装置としてのカード発行機に記憶させるとともに、カード自身にも記憶させる点が記載されており、
これら甲第2、3号証記載の発明を、カード式遊技システムとして共通する甲第1号証記載の発明に適用することは当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。
また、甲第2、3号証記載の発明を甲第1号証記載の発明に適用するにあたって、少なくとも金額情報を遊技球情報などに変換可能にしたり、表示可能にしたりするためのデータとして、記憶媒体のデータ記憶部に記憶されたものを用いるか、管理装置側のデータを用いるかは、当業者が適宜行う設計的事項程度のことであるので、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。
そして、上記相違点2に関して、記憶媒体の有価データとしての金額情報の管理を、記憶媒体のデータ記憶部および管理装置の記憶手段に記憶されたデータによりどのように行うかについて、本件特許明細書には上記3.本件発明の分割の適否(ア)請求人の主張の上記記載2があるのみであり、これによれば、管理装置及び記憶媒体の双方に記憶されている持玉数および金額を比較照合することが記載されていると認められる。
この点からすれば、甲第2号証記載の発明も管理装置としてのセンタコンピュータとカード双方に記憶させた付与された価値の比較照合を行っているものであり、甲第3号証記載の発明も管理装置としてのカード発行機とカードの双方に記憶させた金額の比較照合を行っているものであるので、この相違点2に係る本件発明1の構成は、上記甲第2、3号証に記載されているものと認められ、この点を甲第1号証に記載の発明に単に適用しただけのことである本件発明1は、当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。
本件発明2については、上記本件発明1において検討したように、甲第2、3号証記載の発明がカードに金額情報も記憶させているものであるので、甲第1号証記載の発明において、甲第2、3号証記載の発明の上記点を適用し、持玉数のみならず、金額情報も記憶させることは当業者が容易に想到し得る程度のことである。
また、本件発明1、2の奏する効果も格別なものということはできない。
したがって、本件発明1、2は、上記甲第1〜3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
なお、出願日が上記のとおり繰り下がったので本件発明2も検討したが、無効の対象となる特許されている発明は、特許時の特許請求の範囲第1項(請求項1・・本件発明1)のみである。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-08-30 
結審通知日 2001-09-04 
審決日 2001-10-18 
出願番号 特願平6-168223
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 白樫 泰子
二宮 千久
登録日 1997-06-20 
登録番号 特許第2663243号(P2663243)
発明の名称 記憶媒体式遊技設備  
代理人 鈴木 由充  
代理人 中尾 真一  
代理人 中尾 真一  
代理人 尾崎 英男  
代理人 山上 和則  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 登夫  
代理人 稲岡 耕作  

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