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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B |
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管理番号 | 1081029 |
審判番号 | 不服2000-12562 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-08-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-08-10 |
確定日 | 2003-07-30 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第 17654号「多重通信装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 8月22日出願公開、特開平 7-226978]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明の要旨 本願は、平成6年2月14日の出願であって、平成12年9月11日付け手続補正書(なお、同日付けで2件の手続補正書が提出されたが、平成12年10月26日付けの通知書により、受付番号50001162378の手続補正書は返戻されたので、ここでいう「平成12年9月11日付けの手続補正書」は、受付番号50001162441のものである。)によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1には、 「【請求項1】基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、前記第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて、端末毎に上り通信回線と下り通信回線の所要の伝送速度を独立に設定する手段を備えた多重通信装置。」 と記載されている。 2.平成12年9月11日付け手続補正についての補正却下の決定 (1)結論 平成12年9月11日付けの手続補正を却下する。 (2)理由 A.補正の内容 平成12年9月11日付けの手続補正書による補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、 a.特許請求の範囲の欄の記載である 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、前記第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて上り通信回線または下り通信回線の本数を変更する手段を備えた多重通信装置。 【請求項2】 基地局の送信部が、入力直列情報をkビット(kは以上の整数)毎に並列情報に変換する直列/並列変換器と、前記直列/並列変換器から出力されたk個の並列情報のそれぞれに各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記乗算器から出力されたk個の信号を加算する加算器とを有する拡散変調部を複数備え、各端末の送信部が、入力直列情報をkビット毎に並列情報に変換する直列/並列変換器と、前記直列/並列変換器から出力されたk個の並列情報のそれぞれに各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記乗算器から出力されたk個の信号を加算する加算器とを有する拡散変調部を備え、前記基地局の受信部が、前記各端末から受信した信号から得られたベースバンド信号に各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記各乗算器から出力されたk個の信号を情報速度の1/kに適応した遮断周波数で通過させるk個のローパスフィルタと、前記各ローパスフィルタから出力された並列情報を直列情報に変換する並列/直列変換器とを有する拡散復調部を複数備え、前記各端末の受信部が、前記基地局から受信した信号から得られたベースバンド信号に各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記各乗算器から出力されたk個の信号を情報速度1/kに適応した遮断周波数で通過させるk個のローパスフィルタと、前記各ローパスフィルタから出力された並列情報を直列情報に変換する並列/直列変換器とを有する拡散復調部を備え、第2の通信モードでは、前記kの値を、送信する情報の速度または容量に応じて上り通信回線と下り通信回線とで異なるように設定するとともに、kの値を越えるパスの値を0に設定した請求項1記載の多重通信装置。 【請求項3】 高速度または高容量情報の送信部および受信部におけるkの値を、高速度または高容量情報の伝送速度を低速度または低容量情報の伝送速度の割った値とするとともに、低速度または低容量情報の送信部および受信部におけるkの値を1に設定した請求項2記載の多重通信装置。」を、 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、前記第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて、端末毎に上り通信回線と下り通信回線の所要の伝送速度を独立に設定する手段を備えた多重通信装置。 【請求項2】 基地局の送信部が、入力直列情報をkビット(kは1以上の整数)毎に並列情報に変換する直列/並列変換器と、前記直列/並列変換器から出力されたk個の並列情報のそれぞれに各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記乗算器から出力されたk個の信号を加算する加算器とを有する拡散変調部を複数備え、各端末の送信部が、入力直列情報をkビット毎に並列情報に変換する直列/並列変換器と、前記直列/並列変換器から出力されたk個の並列情報のそれぞれに各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記乗算器から出力されたk個の信号を加算する加算器とを有する拡散変調部を備え、前記基地局の受信部が、前記各端末から受信した信号から得られたベースバンド信号に各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記各乗算器から出力されたk個の信号を情報速度の1/kに適応した遮断周波数で通過させるk個のローパスフィルタと、前記各ローパスフィルタから出力された並列情報を直列情報に変換する並列/直列変換器とを有する拡散復調部を複数備え、前記各端末の受信部が、前記基地局から受信した信号から得られたベースバンド信号に各端末に固有の異なる拡散符号を乗算するk個の乗算器と、前記各乗算器から出力されたk個の信号を情報速度1/kに適応した遮断周波数で通過させるk個のローパスフィルタと、前記各ローパスフィルタから出力された並列情報を直列情報に変換する並列/直列変換器とを有する拡散復調部を備え、第2の通信モードでは、前記kの値を、送信する情報の速度または容量に応じて上り通信回線と下り通信回線とで異なるように設定するとともに、kの値を越えるパスの値を0に設定した請求項1記載の多重通信装置。 【請求項3】 高速度または高容量情報の送信部および受信部におけるkの値を、高速度または高容量情報の伝送速度を低速度または低容量情報の伝送速度の割った値とするとともに、低速度または低容量情報の送信部および受信部におけるkの値を1に設定した請求項2記載の多重通信装置。」と補正し、 b.発明の詳細な説明の欄の記載のうち、 b-1.段落【0010】の記載を 「【0010】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記目的を達成するために、基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、ある端末から基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、第2の通信モードでは、送信する情報の速度または容量に応じて上り通信回線または下り通信回線の本数を変更するようにしたものである。」を、 「【0010】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記目的を達成するために、基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、前記第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて、端末毎に上り通信回線と下り通信回線の所要の伝送速度を独立に設定するようにしたものである。」と補正し、 b-2.段落【0011】の記載を 「【0011】 【作用】 したがって、本発明によれば、基地局と個々の端末の間に複数本の上り通信回線と複数本の下り通信回線を用意し、情報の速度または容量に応じて割り当てる通信回線の数を変更することにより、送信する情報に応じた常に最適な通信回線を設定することが可能となる。」を、 「【0011】 【作用】 したがって、本発明によれば、基地局と個々の端末の間に複数本の上り通信回線と複数本の下り通信回線を用意し、情報の速度または容量に応じて、端末毎に上り通信回線と下り通信回線の所要の伝送速度を独立に設定することにより、送信する情報に応じた常に最適な通信回線を設定することが可能となる。」と補正するものである。 B.本件手続補正についての判断 本件手続補正が特許法第17条の2第3項各号に規定する要件を満たしているか検討する。 本件手続補正aは、特許請求の範囲の請求項1の構成要件である「第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて上り通信回線または下り通信回線の本数を変更する手段」を、「第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて、端末毎に上り通信回線と下り通信回線の所要の伝送速度を独立に設定する手段」と補正し、又、請求項2の「(kは以上の整数)」を、「(kは1以上の整数)」と補正するものであるので、請求項2に対する補正は、特許法第17条の2第3項第3号の「誤記の訂正」に該当するものと認められるが、請求項1に対する補正は、請求項1の構成要件の一部を変更するものであるものと認められるので、この補正は、特許法第17条の2第3項各号に規定するいずれの事項にも当てはまらない。したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反するものであり、特許法第159条読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 C.むすび よって、本件手続補正を却下する。 3.本願発明 上記の通り、本件手続補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりのものである。 そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、 「基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の速度または容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードを有し、前記第2の通信モードでは、前記情報の速度または容量に応じて上り通信回線または下り通信回線の本数を変更する手段を備えた多重通信装置。」にあるものと認める。 4.引用文献 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1である、「佐藤和也 他2名”マルチメデイア無線通信システムにおける回線割り当て法”、電子通信情報学会 信学技報 RCS92-127、P.67〜72、1993年1月」(以下、「引用文献」という。)には、 その「1 まえがき」に、 「様々な性質を持つメディアを統合的に扱うためには,異速度情報の効率的な扱い,必要な伝送速度が時刻により変動するVBR(Variable Bit Rate)情報に対する柔軟な対応などが必要となってくる。」(第68頁左欄第10〜13行目) 「筆者らは,マルチキャリヤ変調方式を用いて,異速度情報やVBR情報の効率的な伝送を実現するために,各端末の情報伝送要求量の変化に応じて,使用できるサブチャネル数を短時間ごとに繰り返し動的に割り当てる方法を提案し,その結果音声パケット廃棄率特性,データパケット伝送遅延特性について,それぞれ優れた伝送特性が得られることを明らかにした.」(第68頁左欄第19〜25行目)と記載され、 又、「2 回線割り当て法」には、 「2.1 システムモデル 本報告では,移動体無線端末が複数個存在し,それらが一つの無線基地局との間で通信を行うシステムを考える. 各端末と無線基地局との間は,上り回線(各端末から無線基地局へ)及び下り回線(無線基地局から各端末へ)からなる.下り回線については,使用周波数帯域など無線基地局側で適当な制御が施せるものとし,本報告では上り回線の回線割り当てについてのみを検討対象とする.この様子を図1に示す.」(第68頁左欄第35〜43行目) 「2.2 回線割り当て法 (略) まず,各端末及び無線基地局は,以下に示すマルチキャリヤ変調方式の送受信機を持つものとする.マルチキャリヤ変調方式は,図2に示すように,システム全体で占有できる周波数帯域をN個のサブチャネルに分割し,並列に伝送を行う方式である.そして各サブチャンネルの伝送速度を抑えることにより,高速伝送を保ったまま周波数選択性フェージングを抑制することができる. 一方,このシステムでは,複数の端末がサブチャネルを別々に用いることが可能である.つまり,周波数分割多元接続が可能である.更に,送信要求のある端末にその要求量に応じて,サブチャネルを柔軟に割り当てるように適当な制御を施せば,複数の端末に可変伝送速度サービスを提供することができる. 図3に本方式で用いる端末から基地局方向へのチャネルの周波数,時間スロット構成を示す.システム全体で使える帯域はマルチキャリヤ変調により周波数軸上でN個のサブチャネルに分割されている.さらに各サブチャネルは弛緩軸上で固定長T[ms]のタイムスロットに分割されている.各タイムスロットはさらにT1[ms]の割当要求用スロットと,T2[ms]の割当通知用スロット,残りのT3[ms]の情報伝送用スロットに分けられている. (略) 回線割り当ては以下のように行う. 1.各端末は,区間 [kT,(k+1)T)に各端末で生じたパケット数を数えて,[(k+1)T,(k+1)T+T1)の割当要求スロットT1により,基地局に対してパケット送信要求を行う. 2.基地局は、この端末からの送信要求に応じて情報伝送用スロットT3のサブチャネルを各々1あるいは複数個割り当て、[(k+1)T+T1,(k+1)T+T1+T2)の割当通知スロットT2を通じて通知する。(略) 3.各端末はこれを受けて,[(k+1)T+T1+T2,(k+2)T)の情報伝送用スロットT3のうち,割り当てられたサブチャネルを用いて情報パケットを伝送する. 4.k←k+1として,1.へ戻る。 従来の周波数分割多重(FDMA;Frequency Division Multiple Access)方式では,分割したサブチャネルをあらかじめ各端末に固定的に割り当ててあるため,割当要求スロットT1は必要ではなくなる.しかし,バースト的に発生するデータの伝送では,実際には情報伝送が行われていない間も,回線が割り当てられているために,回線利用効率は低下する. 一方,本提案方式では,割当要求スロットT1が余分に必要となるが,1タイムスロットごとにサブチャネルの割り当てが繰り返されるので,回線利用効率が向上すると考えられる.また,VBR伝送にも柔軟に対応できる。(略)」(第68頁左欄第44行〜第69頁左欄第26行目)と、記載されている(以下、引用文献に記載の発明を「引用発明」という。)。 5.対比 そこで、本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明も、上りの通信回線と下りの通信回線とで伝送容量が異なる通信における効率的な回線割り当てを目的としているものであり、その方法として、システム全体で占有できる周波数帯域をN個のサブチャネルに分割し、各端末からの送信要求に応じて、1タイムスロットごとに、各端末に割り当てるサブチャネルを各々1あるいは複数個としており、又、本願発明における多重通信装置というのは、「符号分割多重通信」,「時分割多重通信」,「周波数分割多重通信」及びこれらの組み合わせを意味している(発明の詳細な説明の段落【0029】の記載を参照。)が、引用発明も周波数分割多元接続である、と記載されており、これは、本願発明の周波数分割多重通信を意味しているものである。したがって、引用発明における「無線基地局」,「移動体無線端末」,「上り回線」,「下り回線」,「N個のサブチャネル」は、それぞれ本願発明における「基地局」,「端末」,「上り通信回線」,「下り通信回線」,「複数の通信回線」に相当するので、両者は共に、基地局と1以上の端末のそれぞれの端末との間に複数の上り通信回線と複数の下り通信回線を用意しておき、前記基地局からある端末へ送信する下り通信回線における情報の容量と、前記ある端末から前記基地局へ送信する上り通信回線における情報の容量が同一でない通信モードでは、前記情報の容量に応じて上り通信回線または下り通信回線の本数を変更する手段を備えた多重通信装置である点では同じである。 ただ、(a)本願発明においては、上りの通信回線における速度または容量と下りの通信回線における速度または容量が同一である第1の通信モードと同一でない第2の通信モードとを有しているのに対して、引用文献には、第1の通信モードに相当するモードについては記載されていない点、及び、(b)本願発明においては、下りの通信回線においても情報の速度または容量に応じて通信回線の本数を割り当てているのに対して、引用文献には、下りの通信回線についてはどうするのかについては記載されていない点、で両者は相違している。 6.相違点(a),(b)についての当審の判断 よって、上記相違点について判断すると、(a)については、本願発明における第1の通信モードというのは、上りと下りの容量が等しいという場合であって、この場合には両者の本数を等しくすればよいことは当業者とって自明の事項にすぎないものと認められ、「第1の通信モード」として場合分けするほどの格別のモードであるものとは認められない。したがって、相違点(a)は、格別の相違点であるものとは認められない。 次に、(b)は、引用発明に、「下り回線については,使用周波数帯域など無線基地局側で適当な制御が施せるものとし、本報告では上り回線の回線割り当てについてのみを検討対象とする。」(第68頁左欄第40〜42行目)と記載されていることから明らかなように、下り回線においても、同様な制御を行うことは示唆されているものと認められる。したがって、下り回線においても、上り回線と同様な制御を行うことは、引用発明から、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、相違点(b)も格別の相違点であるものとは認められない。 以上のとおりであるので、本願発明は、上記引用文献に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 7.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成12年11月29日付け提出の手続補正書の審判請求の理由中の「【本願発明が特許されるべき理由】」において、 「4.請求項1の発明と引用例の発明との対比 このため、…引用例の発明と本願発明との間には次のような相違点があります。すなわち、…引用例では、端末の上り回線の伝送レートと下り回線の伝送レートを独立に設定する機能はなく、また、端末間で上り回線の方が高レートのものと、下り回線の方が高レートのものとの混在はできない。・・・・ 特に本願発明について理解、ないしは認識していただきたいことは、上り下り伝送レートが異なるといっても・・・・単なる「上り、下り異速度」というのではなく、各端末について上り下り伝送レートが「互いに独立である」という意味での上り下り伝送レートが異なるというものである。このような考えは、CDMAの技術分野では最初から唱える者は全く存在しておらず、初期の商用CDMAシステムを規定したIS95の方式には全く触れられていなかった事項である。その後(本件出願後)世の中における通信態様はマルチメディア化に対応した多重通信が注目されるようになり、また通信技術の進歩発展にともないWCDMAとかcdma2000といった方式が開発されるにいたって、その中で上り、下り異なる(独立な)伝送速度(レート)という仕様を取り入れるようになったのがこの技術分野における変遷である。本願発明はこのような技術の変遷を先取りし、特許出願として提案したものであり、引用例に記載された発明における課題、およびその解決手段とは一線を画するものであると出願人は考える。 したがって、先行技術である引用例・・・・の発明では、本願発明におけるような、「各端末の上り回線の伝送レートと、下り回線の伝送レートを異なる値(どちらが大きくても、また端末間でそれぞれ独立でもよい)」といった設定を行なうことはできない。このため、本願発明におけるような、「無駄のない通信回線の設定が可能になったり、或いはファックス通信や静止画像の通信等を取り入れたマルチメディア対応の多重通信において有効になる」といった、作用、効果を得ることはできないものであり、かかる作用、効果は本願発明独自のものであると出願人は考える。」と主張している(本件審決と関係あるところのみを抜粋。)。 よって、該主張について検討する。 引用発明においても、下り回線については、無線基地局側で適当な制御が施せること、及び、送信要求のある端末にその要求量に応じて、サブチャネルを柔軟に割り当てるように適当な制御を施せば、複数の端末に可変伝送速度サービスを提供できることが記載されており、このことは、引用発明に、各端末について上り下りの伝送レートを互いに独立に異速度に設定できることを示唆しているものと認められ。又、本願発明は、その発明の詳細な説明の段落【0029】の記載から明らかなように、多重通信方式はCDMAに限ったものではなく、TDMAやFDMA、及びそれらを組み合わせたものでもよいことが記載されている。 したがって、審判請求人の係る主張には根拠がなく、採用することはできない。 8.むすび 以上のとおりであるので、本願特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、上記引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-05-27 |
結審通知日 | 2003-06-03 |
審決日 | 2003-06-16 |
出願番号 | 特願平6-17654 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 望月 章俊 |
特許庁審判長 |
井関 守三 |
特許庁審判官 |
橋本 正弘 前田 典之 |
発明の名称 | 多重通信装置 |
代理人 | 蔵合 正博 |