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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H01F
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H01F
管理番号 1082066
審判番号 無効2001-35286  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-03-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-02 
確定日 2003-04-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2877913号発明「高周波用縦▲ま▼きコイル及びコイル製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2877913号の請求項1及び5に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯

(1)本件特許第2877913号の請求項1乃至9に係る発明についての出願は、平成2年7月17日になされ、平成11年1月22日にその発明について特許の設定登録がされたものである。

(2)これに対して日特エンジニアリング株式会社は、平成13年6月29日付けで請求項1、5及び9に係る発明について無効審判を請求した。
無効審判請求人(以下「請求人」という。)は、無効審判の請求理由において、証拠方法として甲第1号証乃至甲第14号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明と同一であるか、又は甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項5に係る発明は、甲第7号証乃至甲第11号証に記載された発明と同一であるか、又は甲第7号証乃至甲第11号に記載された発明証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項9に係る発明は、甲第4号証、甲第7号証乃至甲第14号証に記載された発明と同一であるか、又は甲第4号証、甲第7号証乃至甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、5及び9に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号或いは、同条第2項の規定に違反してなされた旨主張している。

(3)無効審判被請求人株式会社モステック(以下「被請求人」という。)は、平成13年9月26日に答弁書の提出とともに同日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めた。
当該訂正は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5及び9を、次のとおりに訂正することを求めるものである
(訂正事項a)
請求項5の「ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、
前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、
その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、
段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、
前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、
前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。」を、「ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、該孔又は袋穴には軸部材が挿入され、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており、前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。」と訂正する。
(訂正事項b)
請求項9を削除する。

(4)その後の手続の経緯は次のとおりである。
被請求人審尋:平成13年10月10日
請求人答弁書副本送付:平成13年10月10日
請求人上申書:平成13年10月16日
請求人弁駁書:平成13年11月13日
被請求人回答書:平成13年12月10日
被請求人物件提出書:平成13年12月10日
請求人回答書:平成14年2月20日
口頭審理:平成14年3月26日

2.訂正の可否に関する判断

(1)これらの訂正事項について検討する。
上記訂正事項aは、請求項5に記載の「・・・袋穴を有し、」の後に、「該孔又は袋穴には軸部材が挿入され、」を挿入し、さらに、「段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており」の後に、「、さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており」を挿入するものである。
特許明細書の発明の詳細な説明には、「入口部2a付近では、いっそう段差Sが大きくなるように、支持面は低く(図面状右側へ後退)なっている((a)図参照)。」(公報第3頁第6欄第2行〜第4行)、「前記孔1に回転軸部材5が挿入されている。」(公報第3頁第6欄第7行〜第8行)が記載されており、上記訂正事項aは、特許明細書に記載された事項の範囲内において、「該孔又は袋穴には軸部材が挿入され」る点及び「さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており」の点を限定したものであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項bは、請求項9を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)したがって、平成13年9月26日付けの訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件請求項1に係る発明(以下「本件第1発明」という。)は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明と同一であるか、又は甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項5に係る発明(以下「本件第5発明」という。)は、甲第7号証乃至甲第11号証に記載された発明と同一であるか、又は甲第7号証乃至甲第11号に記載された発明証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び5に係る発明についての特許は、無効にされるべきであると主張している。
なお請求項9についての無効の主張は、口頭審理において取り下げられ、またこれに関連した甲第12乃至甲第14号証も取り下げられている。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件第1発明について、甲第1号証乃至甲第6号証には、「箔を縦状に面同士が対向する状態で軸方向に捲かれた高周波用コイル」については何らの記載がなく、また、示唆する記載もない。よって、特許法29条第1項第3号の規定に該当せず、同法第29条第2項の規定に違反しない旨主張している。
また、本件第5発明については、甲第7号証乃至甲第11号証には、「さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており」の点については何ら記載がなく、また、示唆する記載もない。よって、特許法29条第1項第3号の規定に該当せず、同法第29条第2項の規定に違反しないので、請求人の主張は失当である旨主張している。

5.本件第1発明について

(1)本件第1発明
本件第1発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された次のとおりのものである。
「箔が縦状に捲かれることによって、その箔の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、前記箔は接着剤を用いることなく軸に捲かれており、高周波帯の処理に用いられることを特徴とする高周波用箔縦捲きコイル。」

(2)甲第1乃至第3号証及び甲第5号証

甲第1号証(米国特許第4,833,437号明細書)
同号証には、次の技術事項が記載されている。
「磁気コイルはトランスフォーマ、電気モータ、リレー及びインダクティブインピーダンスとして種々多様に用いられている。・・・・他の時折用いられる方法は、長方形の銅薄帯板、ボビンに螺旋巻きコイルとして巻きつけるもので、そのコイルは磁性コア上に配設される。
・・・これらの不利な点は薄帯板巻きコイルによって克服される。長方形の薄帯板はよりぴったりとボビンに巻き付けられるので、より多量の導体をボビンに巻き付けることができ、内部損失が低減される。薄帯板巻きコイルは、巻き線間に高い電圧が存在しないように連続する巻き線は互いにずらすよりはむしろ互いに並べられているので、アークが発生する危険が少ないとともに連結部の形成がより容易で、また熱伝導性も大きい。」(第1欄第19行〜第38行)
「図2は、本発明による一体タブを備えた螺旋捲きの上面図である。
図2Aは、絶縁コイル巻線の断面図である。
図3は、本発明による一体タブを備えた伸張された螺旋捲きの側面図である。
図4は、磁気コアに装着されたコイルの上面図である。
図5は、圧縮されたコイルを示す構成の側面図である。」(第2欄第46行〜第57行)
「この巻線11は、図2Aに示されるように、長方形断面を有し、塗装、さもなければ絶縁外被13で包まれた導体12より形成される。巻線の導体12は、銅、アルミニューム等良好な電気導電性を有する金属で形成され、図3に最もよく示されるように円形螺旋状に再形成される」(第3欄第11行〜第17行)
「1.コア窓回りの実質的に閉じた磁気通路を含むコアと、厚さよりも大きい幅を有し、第1の一体成型端部と第2の一体成型端部と中央開口を有する、少なくとも二つの絶縁された重ね巻に形成された絶縁され平坦な金属リボンの連続、一体の螺旋コイルであって、」(第6欄第18行〜第26行)
そして、図3、5において、絶縁された金属の薄帯板(「長方形の銅薄帯板」、「長方形断面を有し、塗装、さもなければ絶縁外被で包まれた導体12」及び「絶縁され平坦な金属リボン」の記載から)が縦状に捲かれることによって、その絶縁された金属の薄帯板の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれている構成が読み取れる。
以上まとめると、甲第1号証には次のような発明が記載されている。
「金属の薄帯板が縦状に捲かれることによって、その金属の薄帯板の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれていることを特徴とする金属の薄帯板縦捲きコイル。」

甲第2号証(特開平2-114606号公報)
同号証には、次の技術事項が記載されている。
「らせん状に巻かれたコイルであって、半径方向に所定の幅を有し軸線方向に厚さを有するような薄板部材により形成されたことを特徴とするコイル」(第1頁左下欄第5行〜第8行)
「このような形状の薄板部材1は、分かりやすくするために第1図ではその軸線Lの方向に伸ばした状態で示されているが、実際にコイルとして使用するときは、第2図に符号3で示すように、軸線Lの方向に圧縮させて、薄い絶縁膜部材(図示せず)を介して各部材間を密着させる。」(第2頁左上欄第19行〜右上欄第4行)
「本発明のようなコイルによれば、薄板部材1の厚さを極薄にして多層構造にすることにより、表面積を限りなく大きくすることができるため、限られた空間の中で流せる電流を限りなく大きくすることができる。
特に、・・・本発明によるコイルの方が表面積を増大させるには適している」(第2頁左下欄第2行〜第5行)

甲第3号証(実願昭61-55813号のマイクロフィルム(実開昭62-167353号))
同号証には、「高周波駆動による電子レンジ用マグネトロンのチョークコイル」が第1図〜第3図とともに記載されている。そして、次の技術事項が記載されている。
「表皮効果は周波数・・・が大きい程著しく・・・表皮効果を低減するには・・・導体径を小さくする、・・・、或いは第1図〜第2図に示すように厚さの薄い箔状の巻線7a,7cを使用すればよい。」(第5頁第12行〜第19行)

甲第5号証(特開平2-62012号公報)
同号証には、次の技術事項が記載されている。
「この製造方法は所定の断面寸法を有する平角導線を用いて所望の巻径、巻数に整列巻きした無芯の巻線コイルを作成し、この巻線コイルを外部端子となる金属板端子に取付けた後、高透磁率の磁性体粉末と樹脂との混合物で上記巻線コイルを埋込むように所望の寸法形状に圧縮成型し、外部に露出している金属板端子を外部端子となすように成形加工したものである。」(第2頁右上欄第8行〜第15行)
「高周波帯域用のインダクタンス素子としても優れており、」(第2頁右下欄第7行〜第8行)
「有機絶縁被覆された0.03mm×0.09mm平角銅線を用いて」(第2頁右下欄第19行〜第20行)

(3)対比
本件第1発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証には、絶縁された金属の薄帯板を軸に捲くに当たって、接着剤を用いる旨の記載は無く、「この巻線11は、図2Aに示されるように、長方形断面を有し、塗装、さもなければ絶縁外被で包まれた導体12より形成される。巻線の導体は、銅、アルミニューム等良好な電気導電性を有する金属で形成され、図3に最もよく示されるように円形螺旋状に再形成される」旨の記載からみて、甲第1号証に記載された発明も本件第1発明と同様に、絶縁された金属の薄帯板は、接着剤を用いることなく捲かれているとするのが相当である。なおこの点に関しては被請求人、請求人ともに異論はない。
また本件第1発明において「軸に捲かれており」の意味するところは、物件提出書に添付した高周波用コイルにみるように、製造段階の態様を単に記述したものにすぎず、特段の構造を限定するものではないからこの意味において、甲第1号証に記載された発明の金属の薄帯板も「軸に捲かれてお」る構成を備えているといえる。
更に本件第1発明の箔及び甲第1号証に記載された発明の金属の薄帯板も、「金属の薄い導体」とみることができるから、両者は、「金属の薄い導体が縦状に捲かれることによって、その金属の薄い導体の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、前記金属の薄い導体は接着剤を用いることなく軸に捲かれていることを特徴とする金属の薄い導体縦捲きコイル。」の点で一致し、次の点で相違している。
(相違点1)
金属の薄い導体が本件第1発明では、「箔」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、「金属の薄帯板」である点。
(相違点2)
本件第1発明では、「高周波帯の処理に用いられることを特徴とする高周波用」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、高周波帯の処理に用いられる高周波用として使用可能かどうか明確な記載のない点。

(4)当審の判断
1)相違点1について
本件特許において「箔」とはどのようなものをいうか、また平角線等の線材とどのように異なるかについて、本件特許明細書には明記がなされていない。
ここでマグローヒル科学技術用語大辞典によると、箔とは「金属の薄いシート.通常,0.006in(0.15mm)以下の厚さのものをいう.」と記載されている。
本件特許明細書には、箔と他の線材との関係について次のような記載がされている。
「本発明は、n本(n:2以上)の丸線、箔又は平角線の線材が、それぞれ軸の周りに軸方向とは垂直な方向に配列されて板状の形状を作り出し、この配列した板状の線材群が、その面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ」(公報第2頁第4欄第28行〜第32行)
「箔(丸線、平角線、その他の線材)11の送り込みローラ12と」(公報第4頁第7欄第25行〜第26行)
「以上述べた第1図〜第3図の実施例では、箔11の縦捲きコイルを製造する方法について述べたが、これら製造方法によって、他の線材、例えば、平角線などを製造しながら捲き線をすることももちろん可能である。」(公報4頁8欄6行〜第9行)
また箔の寸法については、本件特許明細書の表1に、「0.04T×0.6W」とあり、即ち「0.04mmT×0.6mmW」のものが例示されている。
更に被請求人が物件提出書に添付して提出した、本発明の方法で製造した高周波用コイル2個についての各ターンの厚みはそれぞれ0.12ミリメートル及び0.14ミリメートルである。
以上を参酌すると、本件特許において「箔」とは、丸線、平角線などの線材の一種であり、少なくとも0.15mm以下の厚さの金属の薄い導体であるとすることができる。
次に、甲第1号証には、金属の薄帯板の厚みについて具体的な数値は挙げられていないが、「長方形の銅薄帯板」、「長方形断面を有し、塗装、さもなければ絶縁外被で包まれた導体12」及び「絶縁され平坦な金属リボン」の記載から、薄い平角線或いはこれに近い金属の薄い導体と考えられる。
また甲第2号証には、「らせん状に巻かれたコイルであって、半径方向に所定の幅を有し軸線方向に厚さを有するような薄板部材により形成されたことを特徴とするコイル」が開示され、「本発明のようなコイルによれば、薄板部材1の厚さを極薄にして多層構造にすることにより、表面積を限りなく大きくすることができるため、限られた空間の中で流せる電流を限りなく大きくすることができる。特に、・・・本発明によるコイルの方が表面積を増大させるには適している」旨の記載があり、甲第3号証には、「高周波駆動による電子レンジ用マグネトロンのチョークコイル」として厚さの薄い箔状の巻線が開示され、甲第5号証には、高周波帯域用のインダクタンス素子としても優れており、有機絶縁被覆された0.03mm×0.09mmの平角銅線が開示されている。
以上によれば、本件発明の出願当時、コイルの線材として厚さの薄い箔状の巻線が使用されていたこと、薄板部材1の厚さを極薄にして多層構造にすること、平角銅線と呼ばれるものの中には、本件発明の実施例として例示の箔よりも薄い厚さのものがあること及び箔が他の線材、例えば、平角線などと並んでコイルの線材として知られていたことがわかる。
更に甲第1号証には、金属の薄帯板の厚みを薄くすることについて阻害要因となるような記載はなく、箔と平角線とが厚みについて重複しているおり、かつ箔と平角線との間に、格別の臨界的意義を有する境界が存在することも本件特許明細書に記載がないことを勘案すれば、金属の薄帯板に代えて箔を選定することは当業者にとって設計事項の域を出るものではない。
2)相違点2について
特許請求の範囲の請求項1には、「高周波帯の処理」、「高周波用」と記載されているのみで高周波帯の数値範囲について格別の限定はないから、単に高周波で使用されることを特許請求の範囲に確認的に記載したに過ぎないものである。
一般に、コイル部品は、低周波用等として特に用途が限定されているものを除いて、高周波用としても使用できることは、例えば甲第3号証及び甲第5号証にもあるように周知の技術事項である。そして甲第1号証には、高周波用としての使用を阻害するような記載もないことから、甲第1号証に記載のコイルを高周波用として用いることは、当業者が格別の創意工夫をすることなくなし得たことである。
3)相違点1及び2の組合せについて
箔を捲いた高周波用コイルの点について更に検討する。
本件特許明細書の作用の項において、「高周波電流は、表皮効果を持つから、線材の表面しか電流が流れない。従って、線材の内部は役に立たない。つまりできるだけ薄い線材の方が無駄がないといえる。本発明が箔を用いているのもそのためである。しかも、単に材料的に無駄が無いというのみならず、同じインダクタンスを得るためには、平角線の場合に比べてコンパクト化が容易であり、また、同じ寸法の場合は、箔の方が捲き数がはるかに多くなり、その結果インダクタンスは捲き数の二乗に比例するので大きなインダクタンスが得られる。勿論、箔を横に寝かせて捲いたコイルの場合は、その両端からリード線を取り出すことが困難になるが、本発明の様に箔を縦に捲いた場合はリード線の取り出しが極めて容易になる。」と記載されている。
しかしながら、高周波電流の表皮効果は、例えば甲第3号証に、本件第1発明とは捲き線が縦捲きか横捲きかの違いはあるが、「表皮効果は周波数・・・が大きい程著しく・・・表皮効果を低減するには・・・導体径を小さくする、・・・、或いは第1図〜第2図に示すように厚さの薄い箔状の巻線7a,7cを使用すればよい。」と記載されているように周知の技術事項である。そして高周波電流の表皮効果は、丸線、平角線等の線材においても高周波電流を流した場合に通常生じる現象である。
次に、本件第1発明の効果に関し、箔のようにできるだけ薄い線材の方が無駄がない旨記載されているが、この点も甲第2号証に、「本発明のようなコイルによれば、薄板部材1の厚さを極薄にして多層構造にすることにより、表面積を限りなく大きくすることができるため、限られた空間の中で流せる電流を限りなく大きくすることができる。
特に、・・・本発明によるコイルの方が表面積を増大させるには適している」とあるように、本件第1発明に特有の効果であるとはいえない。
よって、相違点1及び2の組合せの点についても、当業者にとって想到することが格別困難であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件第1発明は、甲第1乃至第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本件第5発明について

(1)本件第5発明
本件第5発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その請求項5に記載された次のとおりのものである。
「ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、該孔又は袋穴には軸部材が挿入され、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており、前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。」

(2)甲第9号証(英国特許第1,371,245号明細書)記載の発明
甲第9号証には、次の技術事項が記載されている。
「薄帯板金属から螺旋コイルを製作する方法であって、」(第1頁第46行〜第48行)
「前記テールストックはハウジング5を支え、該ハウジングの中心には前記心棒3を受け入れる寸法の開口13を有するダイブロック4が装着されている。該ダイブロックは圧接面12を有し、該圧接面は、実質的に直線状の入口区域121で始まり、支持ハウジング5の前面からの距離が螺旋1回転を通して増加し、巻き線される薄帯板の厚さに実質的に等しい距離だけ前記入口区域の表面から高くされたエッジ124で終わる。」(第2頁第27行〜第39行)
「入口区域は、薄帯板の各部分がダイリング軸に交差する垂直軸Vに達する前に薄帯板金属を中立軸Nの上側から下側へメタルフローを起こさせるための引き抜き面を有するように形成される。該入口区域の形状は図3にもっと明瞭に見られる。同図における垂直方向の尺度は誇張されており、水平方向の尺度は図2と同じである。前記区域に入る薄帯板の厚さ(即ち寸法x)は約0.036吋であり、薄帯板の幅(即ち図2の寸法y)は約2吋である。
入口区域は実質的に平坦で前記ダイブロックの軸に対して垂直な発端部35を有する。この部分は、図2に示されるように、薄帯板が押し出されるに従って下方向に金属の流れを作り出すように形成された引抜き面37に融合する。図3に見られるように、前記引抜き面は前記発端部35から作業に適する鈍角38で延びる表面36を有し、該面はリングが形成されるにつれ次々に重なるようにするのに適正な勾配を有する表面122に融合する。前記引抜き面の表面36の発端を示す線39は、図2に示されるような角度で入口区域を斜めに横切るか、あるいは材料に応じてその他の角度で横切る。・・・(中略)・・・そしてモーターを駆動すると、薄帯板は入口区域に沿い、圧接面の弧状の区域を回って引き抜かれて一連の螺旋巻きが行われ、その間テールストックは弾性抵抗に抗して押し戻される。コイルは圧力下にあるので薄帯板はコイル巻線を通して伝えられる摩擦圧力によりコイル形状に引き抜かれる。入口区域にある薄帯板の部分は同時にエッジ124を横切って圧接面を離れる薄帯板の長さ分だけ常に入口区域でダイの面に押し付けられている。・・・引抜き面は、波打ちの発生を防止し中立軸の上側の余分な金属が中立軸の下側へ流されるように圧力がかけられる。」(第2頁第43行〜第105行)
また、上記「入口区域は実質的に平坦で前記ダイブロックの軸に対して垂直な発端部35を有する。この部分は、図2に示されるように、薄帯板が押し出されるに従って下方向に金属の流れを作り出すように形成された引抜き面37に融合する。図3に見られるように、前記引抜き面は前記発端部35から作業に適する鈍角38で延びる表面36を有し、該面はリングが形成されるにつれ次々に重なるようにするのに適正な勾配を有する表面122に融合する。」旨の記載及び図2、図3の記載からみて、入口区域121及びその入口区域に隣接するエッジ124によって前記面12、122上に段差が形成されており、更に鈍角38で延びる表面36を有することにより、入口区域付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されていることが読み取れる。
次に上記「入口区域は、薄帯板の各部分がダイリング軸に交差する垂直軸Vに達する前に薄帯板金属を中立軸Nの上側から下側へメタルフローを起こさせるための引き抜き面を有するように形成される。」及び「そしてモーターを駆動すると、薄帯板は入口区域に沿い、圧接面の弧状の区域を回って引き抜かれて一連の螺旋巻きが行われ、その間テールストックは弾性抵抗に抗して押し戻される。コイルは圧力下にあるので薄帯板はコイル巻線を通して伝えられる摩擦圧力によりコイル形状に引き抜かれる。入口区域にある薄帯板の部分は同時にエッジ124を横切って圧接面を離れる薄帯板の長さ分だけ常に入口区域でダイの面に押し付けられている。・・・引抜き面は、波打ちの発生を防止し中立軸の上側の余分な金属が中立軸の下側へ流されるように圧力がかけられる。」旨の記載及び薄帯板を捲き付けるに当たって、薄帯板同士が衝突したり、摩擦したりしないように徐々に捲き付けることは技術常識であり、甲第9号証には、これと異なる特段の記載もないことから、甲第9号証には、「新たに導入されてくる薄帯板金属に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその薄帯板金属先端を心棒方向にダイブロックの面から相対的に後退させ、その薄帯板金属を心棒3の周りに捲いている」構成が示されているといえる。
以上まとめると、甲第9号証には、
「ダイブロック4を利用してコイルを製造する方法であって、前記ダイブロックは薄帯板金属を支える面12、122を有し、その面はその中央に開口13を有し、該開口には心棒3が挿入され、さらに前記薄帯板金属を導き入れるための入口区域121を有し、段差が、少なくとも前記入口区域及びその入口区域に隣接するエッジ124によって前記面12、122上に形成されており、さらに前記段差は入口区域付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており、前記ダイブロックの前記入口区域に前記薄帯板金属を導き入れ、前記面に沿わせながら、前記心棒3の周りに捲き付け、前記エッジ124において、前記入口区域に新たに導入されてくる薄帯板金属に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその薄帯板金属先端を前記心棒方向に前記ダイブロックの面から相対的に後退させ、その薄帯板金属を前記心棒3の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。」が記載されている。

(3)対比・判断
本件第5発明と甲第9号証に記載された発明とを対比すると、甲第9号証に記載の「ダイブロック4」、「開口13」、「面12、122」、「心棒3」、「入口区域121」、「エッジ124」及び「薄帯板金属」は、本件第5発明の、「ブッシュ」、「孔」、「支持面」、「軸部材」、「入口部」、「出口部」及び「線材」に相当するから、両者は、
「ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔を有し、該孔には軸部材が挿入され、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており、前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。」の点で一致し、相違点はない。
よって、本件第5発明は、甲第9号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件第1発明及び本件第5発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高周波用縦捲きコイルおよびコイル製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】箔が縦状に捲かれることによって、その箔の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、前記箔は接着剤を用いることなく軸に捲かれており、高周波帯の処理に用いられることを特徴とする高周波用箔縦捲きコイル。
【請求項2】n本(n:2以上)の丸線、箔又は平角線の線材が、それぞれ軸の周りに軸方向とは垂直な方向に配列されて板状の形状を作り出し、この配列した板状の線材群が、その面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、その線材群の両端部のそれぞれにおいて、前記n本の前記線材群はそれぞれ互いに接続されていることを特徴とする縦捲きコイル。
【請求項3】断面積が、外側にある線材の方が大きくされていることを特徴とする請求項2記載の縦捲コイル。
【請求項4】断面積が、各線実質的に同じで、前記軸方向の途中で、各線材が層転位されていることを特徴とする請求項2記載の縦捲コイル。
【請求項5】ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、該孔又は袋穴には軸部材が挿入され、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、さらに前記段差は入口部付近ではいっそう段差が大きくなるように形成されており、前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。
【請求項6】ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、さらに前記線材は導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、さらに、前記ブッシュの前記入口部の前記軸を基準として外周側に、ローラが配置されており、前記ブッシュの前記入り口部に前記線材を導き入れ、前記ローラの周面を前記線材の前記軸を基準として外側縁に当接させつつ、その線材を前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。
【請求項7】軸の周囲に、n本(n:2以上)の丸線、箔又は平角線の線材のそれぞれを軸方向とは垂直な方向に配列して板状の形状を作りだし、この配列した板状の線材群を支える支持面及び、その中央から軸部材を突出させるための孔を有し、その支持面が、前記線材群を導き入れるための入口部を有するところのブッシュの前記入口部に、前記線材群を導き入れ、前記支持面に沿わせながら、前記線材群を前記軸部材の周りに捲き付け、徐々にその線材群の先端を前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材群を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。
【請求項8】軸の周囲に、n本(n:2以上)の丸線、箔又は平角線の線材のそれぞれを軸方向とは垂直な方向に配列して板状の形状を作りだし、この配列した板状の線材群を支える支持面及び、その中央から軸部材を突出させるための孔を有し、その支持面が、前記線材群を導き入れるための入口部を有するところのブッシュの前記入口部に、前記線材群を導き入れ、その導入の際、ローラの周面を前記線材の前記軸を基準として外側縁に当接させ、さらに、前記線材群を前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、徐々にその線材群の先端を前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材群を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、縦捲きコイル及びその製造方法に関するものである。
【従来の技術】
従来の平角線の縦捲きコイルは、例えば、その母線となる平角線の厚みが厚く、且つ幅との比が小さいものに限って、その平角線を立てた状態でその母線に引っ張りテンションによって縦捲きを実現している。このようにして出来たコイルは、単線、又は複数本横並列の連続多層捲きであった。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、その様な方法では、十分品質のよい、平角線の縦捲きコイルが製造できなく、まして箔の縦捲きコイルを製造することはできなかった。
本発明は、このような従来の縦捲きコイルの課題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、箔が縦状に捲かれることによって、その箔の面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、前記箔は接着剤を用いることなく軸に捲かれており、高周波帯の処理に用いられることを特徴とする高周波用箔縦捲きコイルである。
また、本発明は、n本(n:2以上)の丸線、箔又は平角線の線材が、それぞれ軸の周りに軸方向とは垂直な方向に配列されて板状の形状を作り出し、この配列した板状の線材群が、その面同士が対向する状態で軸方向に捲かれ、その線材群の両端部のそれぞれにおいて、前記n本の前記線材群はそれぞれ互いに接続されていることを特徴とする縦捲きコイルである。
また、本発明は、ブッシュを利用してコイルを製造する方法であって、前記ブッシュは線材を支える支持面を有し、その支持面はその中央に孔又は袋穴を有し、さらに前記線材を導き入れるための入口部を有し、段差が、少なくとも前記入口部及びその入口部に隣接する出口部によって前記支持面上に形成されており、前記ブッシュの前記入口部に前記線材を導き入れ前記支持面に沿わせながら、前記軸部材の周りに捲き付け、前記出口部において、前記入口部に新たに導入されてくる線材に衝突、又は摩擦しないようにしながら、徐々にその線材先端を前記軸方向に前記ブッシュの支持面から相対的に後退させ、その線材を前記軸部材の周りに捲いていくことを特徴とする縦捲きコイルの製造方法である。
【作用】
請求項1の本発明は、高周波用のコイルであり、この高周波用コイルであることと、線材が上記のように箔であることとは深く関わり合っている。
すなわち、高周波電流は表皮効果を持つから、線材の表面しか電流が流れない。従って、線材の内部は役に立たない。つまり、できるだけ薄い線材の方が無駄が無いといえる。本発明が箔を用いているのもそのためである。しかも、単に材料的に無駄が無いというのみならず、同じインダクタンスを得るためには、平角線の場合に比べてコンパクト化が容易であり、また、同じ寸法の場合は、箔の方が捲き数がはるかに多くなり、その結果インダクタンスは捲き数の二乗に比例するので大きなインダクタンスが得られる。
勿論、箔を横に寝かせて捲いたコイルの場合は、その両端からリード線を取り出すことが困難になるが、本発明の様に箔を縦に捲いた場合はリード線の取り出しが極めて容易になる。
請求項2の本発明では、従来知られていた「絶縁された単線を何層にも連続して捲いた複数層捲きコイル」に比べて、浮遊容量の発生が少なく、インダクタンスの質が向上する作用を奏する。また、他の本発明の製造方法を利用して製造することが出来る。
本発明では、線材を支える支持面及び、その中央から軸部材を突出させるための孔を有し、その支持面は、線材を導き入れるための入口部を有し、少なくともその入口部及びその入口部に隣接する出口部が段差を形成するブッシュを利用するので、線材が箔のようなものでも、品質よく捲くことが出来る。
また、本発明では、線材を支える支持面及び、その中央から軸部材を突出させるための孔を有し、その支持面は、線材を導き入れるための入口部を有し、少なくともその入口部及びその入口部に隣接する出口部が段差を形成するブッシュを用い、しかもブッシュの入口部の少なくとも一部を切り欠き、そこへ回転可能なローラを少し臨出させているので、線材とブッシュの支持面との摩擦を大幅に低下させることが出来る。
【実施例】
以下に本発明の実施例を図面を参照して説明する。
第1図は、本発明に係る箔縦捲きコイルの製造装置の一例である。
同図(d)は、同装置に用いられるブッシュ10の側面図(d1)及び正面図(d2)である。第2図は、その斜視図である。これらの図において、1は後記する軸部材が挿入される孔、2は箔を支える支持面である。この支持面2には、箔を導き入れるための入口部2aと、その入口部2aに隣接する出口分2bが形成され、この入口部2aと出口部2bとは段差Sを有している。すなわち、図に示すように、入口部2aから出口部2bへ移行するにつれて、この支持面1周の間に、螺旋状に徐々に面が高く(図面上左側へ突出)なっている。なお、図から分かるように、完全な螺旋状ではなく、入口部2a付近では、いっそう段差Sが大きくなるように、支持面は低く(図面状右側へ後退)なっている((a)図参照)。さらに、入口部2a付近の上には、後述する押えローラが組み込めるように、切り欠き3が形成されている。
このブッシュ10は、図(b)に示すように、前記孔1に回転軸部材5が挿入されている。この回転軸部材5の先端側には、箔を捲くための回転捲き手段6が回転可能に嵌め込まれている。この回転捲き手段6には、箔の先端をチャックする留め部材(図示省略)が設けられている。この回転捲き手段6のブッシュ10側の面は、箔を支える役割を果たす。
また、ブッシュ10は、非回転の保持部材7によって保持されている。そして、この保持部材7及びブッシュ10は、回転軸部材5上を矢印に示すように、前後(図面上左右)方向に摺動可能になっており、しかも、後ろからスプリング等によって、前(左)方向へ付勢されている。8はそのためのベアリングである。なお、このスプリングという付勢手段の代わりに、トルクモータ、エアーシリンダー等の他の手段を用いてもかまわない。
また、この保持部材7の前面にはローラ9が回動自在に取り付けられている。このローラ9の下端は、前記ブッシュ10の切り欠き3に入り込んでいる。
また、この保持部材7の横側には、図(a)に示すように、箔11を送り込むための一対の送りローラ12が配置されている。
次に、上記製造装置を用いて箔縦捲きコイルを製造する方法を説明する。
まず、箔11の先端を回転捲き手段6の留め部材に固定する。そして、それ以後の箔11を第1図(a)に示すように、送りローラ12の間に挟んだ状態とする。そして、回転捲き手段6とブッシュ10を当接させる。その結果、箔11の先端付近は、支持面2の入口部2aの処にくる。このような状態で、回転捲き手段6が自ら回転軸部材5の周囲を回転し、あるいは回転軸部材5とともに回転する箔11の先端は、その入口部2aから螺旋状の支持面2に沿って徐々に前方(左方向)へ動く。なお、本実施例では、その場合、回転捲き手段6は回転軸部材5の軸方向に移動するものではなく、逆にブッシュ10の方がスプリングの付勢力に抗して、後方(右方向)へ移動するようになっている。いずれが後退するようになっていてもよい。また、スプリングの代わりに、箔11の厚さ毎所定ピッチで後退するようにしてもよい。このようにして、箔11の先端付近は、支持面2の出口部2bにやってくる。ところで、その出口部2bと、引続き箔11が導入されている入口部2aとは、少なくとも箔11の厚さ以上の段差Sが設けられているので、その箔11の先端付近とその新たに導入されてくる箔11は衝突、あるいは摩擦する心配がない。従って、更に回転捲き手段6によって、箔11を捲いて行くことによって、スムーズに箔11が次々と捲き込まれていく。なお、入口部2aを第1図(a)に示すように、本来の螺旋状の支持面2から更に後方(右方向)へ逃がしており、そこへ送りローラ12から箔11を送り込んでいるので、箔11は多少カーブMを描いて支持面上を摺動して行く。そのため、箔11は倒れにくくなる。また、箔11の上端縁は、第1図(c)に示すように、押えローラ9によって押えられているので、幅の大きい箔11でもスムーズに捲き取りする事が出来る。なお、箔11を一層捲く場合は、その押えローラ9を箔11の上端縁より低くすることによって、箔11を断面弧状に湾曲させたコイルに出来る。このようにして出来たコイルは、その母材が弾力性を有していないものであっても、スプリング効果を持ったものになり、又電気部材コイルとした場合は、浮遊容量(キャパシタンス)が小さい高品質のものとなる。
第1図(e1)、(e2)は、ブッシュ10の他の実施例であり、入口部2aと出口部2bとの間には仕切り2cが立設しており、箔11は、この仕切りによって、一周してきた箔11と新たに入り込んで来た箔11とが接触しなくてすむようになる。なお、仕切り2cの形状は、長くてもよく、軸部材5の周りを一周するものであってもよい。
なお、上記実施例では、回転捲き手段6が箔11をチャックした後回転させ、ブッシュ10は回転しないものであったが、逆に、回転捲き手段6を固定しておき、箔(丸線、平角線、その他の線材)11の送り込みローラ12と、ブッシュ10をともに、回転軸部材5の周りを大きく回転させることによって、捲き取って行くようにしてもよい。なお、その場合、回転軸部材5は、回転しなくてもよい。
第3図は、別の本発明に係る箔縦捲きコイルの製造装置の一例を示す図である。
第1図の装置との違いは、ブッシュ10の上部が大きく切り欠かれ、更にその背後に次に述べるローラを配置できる空間が形成されている点である。すなわち、同図(d1)、(d2)に示すように、前記入口部にほぼ相当する場所に切り欠き20が形成され、さらに、その背後に空間21が設けられている。そして、その空間21に、同図(a)、(b)、(c)に示すように、ローラ22が回転可能に配置されている。このローラ22は、箔11が送り込まれてきた際、箔11を摩擦なくスムーズにブッシュ10の支持面に導く役割を果たす。このローラ22の径とブッシュ10の径の比によっては切り欠き20の中央より右側、背後空間21の左端に支持面30を立設してもよい。このローラ22は、保持部材7に取り付けられている。この場合、ブッシュ10にかわり、ローラ22を回転軸部材5の周りにn個配設し、ブッシュ10による摩擦抵抗をより少なくしてもよい。
以上述べた第1図〜第3図の実施例では、箔11の縦捲きコイルを製造する方法について述べたが、これら製造方法によって、他の線材、例えば、平角線などを製造しながら捲き線をすることももちろん可能である。
さらに、次のような丸線(又は、箔線、平角線など他の線材)をn本縦に並べたものを対象としてもよい。すなわち、第4図に示すように、丸線25をn本n個のボビン26から引出し、それを送りローラに相当する送り部材27に送り込む。この送り部材27は幅がその丸線25とほぼ同じで、高さがn本分の隙間を有しており、そこへn本の丸線25を縦に並んだ状態で送り込むので、n本の丸線25が縦並列した板状の丸線群が、送り出され、ブッシュ10の入口部2aへ、カーブMを経てくるので、相互の重なりや乱れがなく、導入される。その結果、n本の丸線25が縦に並列した線材が、第1図、第3図に示すように、その面同士が対向する状態で軸方向に捲かれる。そして、最後に回転軸部材5を基準として、左側にあるn本の丸線25が互いに接続され、また右側にあるn本の丸線25が互いに接続される。なお、n回路に対応させることもできる。
いずれの場合もコイル巻線完了後、回転巻取り手段6又は回転軸手段5とブッシュのいずれかを後退させコイルを取り出す。
なお、回転巻手段6の代わりに、回転軸手段5になんらかの手段で回転駆動を与え、その先端でコイルの先端をキャッチし、その先端の形状を回転巻手段6と同様のコイル受け側壁を果たす形状にするようにしても良い。あるいは、回転軸手段5に治具を取り付け、その治具の形状を、コイルキャッチ可能で受け側壁化することも可能である。またその治具を、脱着式とし、治具を外す、あるいは回転軸手段5を抜くことによってコイルを取り出すようにする。
次に、本発明にかかる箔縦捲きコイルとn本丸線縦捲きコイルの性能について述べる。
まず箔縦捲きコイルについて説明する。
表1に示すような箔縦捲きコイルと、通常の丸線コイルを用意した。なお、コイルは、絶縁皮膜付き銅線である。

線径は、その断面積が同じになるように設定した。
それらのコイルのL(インダクタンス)値とC値(キャパシタンス(浮遊容量))とを測定した結果、表2のようになった。

この表から明らかなように、Lがほぼ同じでも、Cが格段に小さく、本発明のコイルの方が優れていることが分かる。この原因は、比較例のコイルは4層連続捲きであるので、どうしても上下層間などでキャパシタンス(浮遊容量)が発生してしまうからであり、箔の場合は複数層にならないので、容量が小さくなるのである。
第5図は、これらコイルのLの周波数特性図である。図から明らかなように、約500kHz以上の高周波数領域で、本発明のコイルの方がLがずっと優れていることも分かる。その結果、トランスコイルとして使用した場合、雑音除去機能などが非常に優れていることになる。
次に、本発明の丸線縦捲きコイルについて述べる。
表3に示すような丸線縦捲きコイルと、通常の丸線コイルを用意した。

線径は、その断面積が同じになるように設定した。
それらのコイルのL(インダクタンス)値とC値(キャパシタンス(浮遊容量))とを測定した結果、表4のようになった。

この表から明らかなように、Lがほぼ同じでも、Cが格段に小さく、本発明のコイルの方が優れていることが分かる。この原因は、比較例のコイルは2層連続捲きであるので、どうしても電位の異なる層間などでキャパシタンス(浮遊容量)が発生してしまうからであり、丸線縦捲きの場合は電位が同じで複数層にならないので、容量が小さくなるのである。
第6図は、これらコイルのLの周波数特性図である。図から明らかなように、約3M Hz以上の高周波数領域で、本発明のコイルの方がLが安定しており、ずっと優れていることも分かる。その結果、雑音除去機能などが非常に優れていることになる。
なお、n本の丸線、箔又は平角線の線材を縦方向に並列し、この縦並列した板状の線材群を、その面同士が対向する状態で軸方向に捲くことによって、コイルを製造する場合、断面積を、外側にある線材の方を大きくすることによって、各線材の長さによる抵抗値の違いを平均化することが出来る。その際、丸線を用いるときは、第4図の送り部材27の平行な隙間に嵌め込む必要上、外側の丸線ほど、その断面形状が縦長の楕円になるようにする必要がある。その縦楕円断面形状は、送り部材27が圧延機能を有することによって実現される。
また、断面積が、各線実質的に同じである場合は、各線材が軸方向の途中で層転位してもよい。これによって、線材の長さによる抵抗値を平均化することが出来る。
また、ブッシュの支持面に全く段差を設けないようにしてもよい。あるいは、その段差の存在しない支持面が円錐台の傾斜面の様な傾斜をしており、その傾斜の角度が1°〜5°の様に小さいものであってもよい。これは、線材の材質や硬度、あるいは皮膜なし線によっては、スムーズに捲ける場合があるからである。なお、このブッシュ形状の場合は、ブッシュを、回転捲き手段6及び/又は回転軸手段5と同期又は非同期で回転させても良い。
なお、ブッシュ形状に関わらず、回転軸手段5は、回転捲き手段6と結合同期せず、フリーの状態で任意回転や従動回転してもかまわない。
本発明に係るコイルは、Cを小さくできる、Lを優れたものに出来る、表皮効果をよくすることが出来る等の優れた特徴を持つので、ノイズフィルタ、高圧トランス、高周波トランス、高圧高周波トランス、チョークトランス等の分野に主に適用可能である。さらに、バネ等にも適用可能である。
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかるコイルは、Cを小さくできるという優れた効果を有する。また、本発明に係る製造方法によれば、優れた品質の縦捲きコイルを製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の縦捲きコイル製造方法の一実施例に用いられる製造装置を示す図、第2図は、同装置に用いられるブッシュの斜視図、第3図は、他の本発明の縦捲きコイル製造方法の一実施例に用いられる製造装置を示す図、第4図は、同装置に用いられる丸線送り部材の模式図、第5図は、本発明に係る製造方法によって製造された箔縦捲きコイルの性能を示すグラフ、第6図は、本発明に係る製造方法によって製造された丸線縦捲きコイルの性能を示すグラフである。
1……孔、2……支持面、2a……入口部、2b……出口部、5……回転軸部材、6……回転捲き手段、7……保持手段、9……押えローラ、10……ブッシュ、11……箔、12……圧延送りローラ、20……切り欠き、21……空間部、22……ローラ、27……(圧延)送り部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2002-04-16 
出願番号 特願平2-188733
審決分類 P 1 122・ 121- ZA (H01F)
P 1 122・ 113- ZA (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 酒井 朋広  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 岡 和久
松本 邦夫
登録日 1999-01-22 
登録番号 特許第2877913号(P2877913)
発明の名称 高周波用縦▲ま▼きコイル及びコイル製造方法  
代理人 長瀬 成城  
代理人 長瀬 成城  
代理人 山口 金弥  
代理人 山口 金弥  
代理人 山崎 順一  
代理人 高橋 昌久  

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