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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない E04B
管理番号 1082074
審判番号 無効2002-35380  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-09-06 
確定日 2003-06-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2718594号発明「プレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2718594号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成4年4月1日にされ、平成9年11月14日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
これに対して、請求人は、「本件の請求項1及び2に係る発明は、甲第1〜8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。」と主張し、証拠方法として甲第1〜8号証を提出している。
被請求人は、平成14年12月2日に答弁書とともに訂正請求書を提出して訂正を求めた。
請求人は、これに対して、弁駁書を提出している。

2.訂正の可否に対する判断
(2-1)訂正の内容
(訂正事項1)
請求項1において、「…前記PC鋼線を緊張してなることを特徴とする・・・」を、「・・・前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とする・・・」に訂正する。
(訂正事項2)
段落番号【0004】において、「・・・前記PC鋼線を緊張してなることを特徴とする構成にすることである・・・」を、「・・・前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とする構成にすることであり、・・・」に訂正する。
(訂正事項3)
段落番号【0010】において、「・・・プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリートの単純梁となる・・・」を、「・・・プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁の単純梁となる・・・」に訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1は、「前記PC鋼線を緊張してなることを特徴とするプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。」を「前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とするプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。」と限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
訂正事項2は、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図る明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3は、「プレキャストコンクリート」を「プレキャストコンクリート大梁」と訂正したものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし3は、本件特許明細書の段落【0009】、【0011】及び【0013】に記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2-3)むすび
したがって、平成14年12月2日付けの訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び、特許法第134条第5項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

3.本件発明に対する判断
(3-1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、本件発明1、本件発明2という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 コンクリートの基礎上に多数のプレキャストコンクリート柱を立設し、該プレキャストコンクリート柱には大梁受け用顎が一体成形され、該大梁受け用顎にプレキャストコンクリート大梁端部の突起を支持させて多数の大梁が各柱間に架設され、該プレキャストコンクリート大梁はPC鋼線によりプレストレスが付与されてプレキャストコンクリート柱に緊張定着されてなるプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造おいて、前記プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設け、前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とするプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。
【請求項2】 前記充填材はモルタルであることを特徴とする請求項1に記載のプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。」

(3-2)甲第1〜8号証等
甲第1号証:「プレストレストコンクリート構造の設計」 -構造計算のすすめ方・5- 社団法人日本建築学会関東支部 編集 昭和63年10月25日第2版発行、82〜89頁の 3.プレキャストPC造の設計、102〜103頁の 3.3 ラーメン応力算定
甲第2号証:「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」 1961制定 社団法人日本建築学会 昭和43年6月15日第3刷発行 255〜256頁 70条 継目の項
甲第3号証:「プレストレストコンクリ一ト」第24巻第1号(通巻131号)社団法人プレストレストコンクリート技術協会 昭和57年1月20日発行30〜32頁 一宮地方総合卸売市場の構造設計の施工についての項
甲第4号証:「プレストレストコンクリート」Vol.34,NO.3,May l992 38〜46頁 プレキャスト組立建築における埋込み柱脚の試験と実例の項
甲第5号証:特開昭48-72943号公報
甲第6号証:特開昭60-5972号公報
甲第7号証:特開昭55-52471号公報
甲第8号証:特開昭57-165565号公報
参考資料1:建築大辞典(縮刷版)株式会社彰国社 昭和59年2月10日第1版第8刷発行の「単純梁」の項
参考資料2:「プレストレストコンクリート 第2巻 第4号(通巻8)」社団法人プレストレストコンクリート技術協会19608自発行の27頁表-3のc)鋼材の項と、28頁表-4プレストレスカー覧表(抜粋)の項

甲第1号証:「プレストレストコンクリート構造の設計」には、次のことが記載されている。
「3.1.1建設概要
用途・・・
規模・・・
構造形式 柱・梁:プレキャストプレストレストコンクリート造
地中梁・基礎:場所打ち鉄筋コンクリート造
床:プレキャストプレストレストコンクリ一ト床板と場所打ちコンクリート(厚さ8cm)の合成床板」(82頁3ないし12行)、
「3.1.2設計方針
・・・
5)プレキャスト柱と梁の接合、柱と基礎の接合はPC鋼材による圧着接合とする。スラブは梁上にDT板をのせその上にコンクリートを打設する合成スラブとする。
・・・
8)PC梁は柱に設けたブラケットにのせた状態(単純支持)で自重およびPC床板荷重を作用させ、その後目地モルタル(厚さ2cm)を打設しPC鋼材により圧着してラーメン架構を形成する。」(82頁下から9行ないし84頁5行)。
上記記載事項、87頁の「1-3柱と梁の接合図」及び103頁「解説図3.10 柱・梁の接合部の応力の発生状況」の記載事項からみて、甲第1号証には、
「コンクリートの基礎上に多数のプレキャストコンクリート柱を立設し、該プレキャストコンクリート柱にはブラケットが一体成形され、該ブラケットにプレキャストコンクリート梁端部の突起を支持させて多数の梁が各柱間に架設され、該プレキャストコンクリート梁はPC鋼材によりプレストレストが付与されてプレキャストコンクリート柱に緊張定着されてなるプレキャストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造において、前記プレキャストコンクリート柱のブラケットとプレキャストコンクリート梁端部の突起との接合面に目地モルタルを設け、PC鋼材を緊張したプレストレストコンクリート構造物における柱と梁の接合構造」の発明が記載されている。
甲第2号証:「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」には、次のようなことが記載されている。
70条 継目
1.継目に働く合成圧縮力と継目の面となす角度は 90°とするのがよいが、やむをえず90°未満とする場合にも45°以上とする。
2.上項の角度が70〜55°の場合には確実な継目をつくるために継目の面に適当な処置を施すものとし、55°未満の場合には継目の面に必ず適当な切欠きを設ける。
プレキャストブロックを継ぎ合わせて一体に働く部材とする場合、部材と部材との接合点などの継目には、なじみをよくするために必ずモルタルまたはコンクリートを入れる。
・・・
建築構造物では、普通の場合、継目面と圧縮主応力とのなす角は70°前後におさまることが多い。たとえば、図70.2に示すように材軸と直角に継目とするときには、主圧縮応力度と継目面とのなす角は65〜70°程度となる。このような場合の継目のせん断耐力は軸方向力(すなわち、プレストレス)によって継目面が圧着されているためにきわめて大きい。L.L.Jonesの実験によると、継目面と垂直方向に働く軸方向応力σとするとき、継目面の平均せん断破壊強度τmaxは、つぎのようであった。
・・・
モルタル目地継目の場合 τmax=0.645〜0.765σ (70.2)
したがって、普通のモルタルまたはコンクリート目地の継目の場合には、継目のせん断破壊(ずれ破壊)はほとんどおこらないと考えてよい。しかし、部材の打ち継ぎ目におけるひび割れ耐力は、打ち継ぎ目地モルタルまたはコンクリートの強度に関係する。実験によると打ち継ぎ面のレイタンスを十分取り除いた場合のコンクリート打ち継ぎ面の引張強度σt’は、σt’=0.35〜0.5σt(70.3)である。
ここに
σt:コンクリートの引張強度である。したがって、打ち継ぎ目断面におけるひび割れ耐力は一体にプレキャストされたコンクリート部材の場合と比べてやや低下する。したがって、曲げモーメントの極値となる付近を避けて打ち継ぎ目をつくることが望ましい。しかし、ラーメン構造を組立式で施工する場合には、PCばりと柱との節点に継目が設けられるのが一般である。したがって、このような位置での継目のコンクリート引張強度は(70.3)式の値を用いるのが望ましい。はり端断面はウェブ厚さを増加させて長方形またはこれに近い断面とするのが普通であるので、コンクリートの引張強度を(70.3)式にしたがって低下させてもひび割れに対する安全度が著しく悪くなることはないと考えてよい。
また、打ち継ぎ目のモルタルまたはコンクリート強度は部材の破壊耐力にも関係する。一般には部材本体のコンクリート強度と同程度またはそれ以上であれば、破壊耐力になんらの悪影響をあたえない。実験によれば、打ち継ぎ部分の目地コンクリートの圧壊で曲げ破壊がおこる場合でも、目地の幅が20〜30cm程度まであれば、目地コンクリートの強度が本体コンクリートのそれの80%程度であっても部材の曲げ破壊耐力はほとんど低下しないことが明らかにされている。」255頁2行〜256頁25行)。
甲第3号証:「プレストレストコンクリート」には、次のようなことが記載されている。
「4.構造設計
4.1設計方針
(1)長期荷重に対して、PC部材はすべてフルプレストレスとする。
(2)短期地震荷重に対して、各方向とも純ラーメン構造として設計する。特に耐震設計に関しては、建築基準法および建築学会PC規準による終局強度設計とするのみならず、新耐震設計法に適合するものとする。
(3)応力計算は、ぶ材の曲げ、せん断、軸変形を考慮し、DEMOS-E,FRAP-GENによる。また、不静定二次応力、クリープ変形応力、温度応力なども考慮する。
(4)組立て施工段階における応力を考慮する。このため、場所打ち一体式PCラーメンの柱にはプレストレスを入れる。
(5)地中梁で24mスパンは、タイビームとして設計し架構応力(水平応力)にみあうプレストレス量を入れ、その効果をはかる。
4.2使用材料
(1)コンクリート
・基礎、地中梁:Fc=240kg/cm2 ・場所打ち一体式PCラーメン:Fc=350kg/cm2 ・プレキャストPC大梁、小梁、間柱:Fc=400kg/cm2 ・合成梁RC部分:Fc=240kg/cm2 ・目地コンクリート:Fc=300kg/cm2 ・DT版:Fc=400kg/cm2 ・シルバークール版:Fc=450kg/cm2」(31頁右欄10行ないし32頁左欄下から12行)。
甲第4号証:「プレストレストコンクリート」には、次のようなことが記載されている。
「表-1 使用材料一覧
コンクリート σck=500kgf/cm2 大梁部材、床版部材
σck=300kgf/cm2 柱 部材、力一テンウオール、目地、TOPコンクリート」(41頁右欄)。
甲第5号証:特開昭48-72943号公報には、次のようなことが記載されている。
「2以上の部材をPC鋼材によって結合したものにおいて、上記部材の接合部付近に設けた、上記PC鋼材の特定部分のみが、該部材に対して無拘束に装置され、上記のPC鋼材の引張力が所定の値よりも大きくなったとき、上記部材同士の結合が剛接から滑接に変化するようにしたことを特徴とする柔結合構造体。」(特許請求の範囲)、
「この発明の目的は、このような欠点を除去し、PC鋼材の引張力が所定の値(たとえばプレストレスト力)よりも小さいばあいは、部材同志の結合が剛接であるも、いったんPC鋼材の引張力が上記の値以上になったときには、部材同志の剛接が急激に低下して滑接の状態に変化し、地震エネルギーなどを効果的に吸収する非常に安全性の高い柔結合構造体を提供するにある。」(1頁右欄4ないし11行)、
「第1図は、本発明に係る柔結合構造体の接合部を示すたて断面図である。図面においては、1は、結合すべき梁用の部材1で、その頭部には、PC鋼材3を通すための貫通孔1aが両端面間に設けてあり、その貫通孔1aの端部には凹部1bがうがってある。第1図には、貫通孔1aは、2本のみ図示してある。
2は、接合すべき柱用の部材であり、上記の梁用部材1の接合面内でかつ貫通孔1aと見合う位置に、PC鋼材3と定着金具4とによりプレストレストが導入して固定してある。第1図に示した実施例のばあい定着金具4は、PC鋼材3を介して柱用部材2のみを緊張・定着する。また、PC鋼材3は、柱用部材2に内装した部分3aにのみグラウチングなどをして柱用部材2に一体堅固に固定してあり、」(1頁右欄17行ないし2頁左上欄11行)、
「両部材1、2の接合面に設けた目地8は、接合面における両部材1、2のなじみを良好にする。」(2頁右上欄下から2行ないし最下行)、
「この発明は、以上のような構造になっているので、つぎのような作用がある。
地震などが発生して、本発明による柔結合構造体が、全体的に上下に振動し、しかもその振動が強かったばあい、ある瞬間においては、梁用の部材1は、その自重のために下方向に向かって著しく強い分布荷重がかかったと同じ状態になる。そして、第1図に示した実施例のばあい、梁用部材1の頭部は、柱用部材2の角部を支点として上方に持ちあがろうとし、そのため、とくに右側寄りのPC鋼材は、強い引張力を受ける。このとき、そのPC鋼材の引張力が、所定の値、たとえばプレストレスト力よりも大きくなると、PC鋼材の、部材に対して無拘束の部分は、塑性または弾性変形して伸びる。この現象は、両部材1、2の接合部が、その接合角度を変えることであるから、プレストレス力を超えた時点で剛接から滑接に変化したことを意味し、したがって、PC鋼材と両部材とは、それぞれトラス結合の引張材と圧縮材の役割をすることになる。」(2頁左下欄2行ないし3頁左欄1行)。
甲第6号証:特開昭60-5972号公報には、次のことが記載されている。
「(1)せん断破壊型鉄筋コンクリート造耐震壁において、壁板(1)の四隅部に、梁(2)、柱(3)の圧力により所定の耐力で圧壊する圧壊容易箇所(4)を設けたことを特徴とする、変形能力の大きいせん断破壊型鉄筋コンクリート造耐震壁。」(特許請求の範囲)、
「上記目的を達成するために、この発明のRC耐震壁は柱、梁で囲まれた壁板の四隅部に、柱、梁の圧力により所定の耐力(初期剛性耐力程度)で圧壊する圧壊容易箇所を設けた構成とされている。
前記圧壊容易箇所は、壁板における柱、梁との接合部に、断面積縮小の目地部又は孔を設けることにより形成されている。
従って、このRC耐震壁の場合、第1図に荷重変形曲線を実線で示したとおり、地震力が初期剛性耐力に達した時点から第2次剛性耐力が上昇してゆくと共に、前記圧壊容易箇所の圧壊が開始する。以後はほとんど最大耐力を維持したまま、前記圧壊容易箇所の圧壊が進行するが、壁板は全体としていまだ健全なままであり、ラーメンの変形により全体の変形が伸びてゆき、大きな変形能力を発揮するのである。」(2頁右下欄1行ないし下から4行)、
「(第1の実施例)
第3図と第4図において、1は壁板、2は梁、3は柱、4は壁板1の四隅部に圧壊容易箇所として設けた目地部、5は壁鉄筋である。
目地部4の詳細は、第4図に示したとおり、壁板1と梁2(又は柱3)との接合部に、壁板1の両側から対称(但し、非対称でも可)にくさび形状の切り込みを入れ、壁板断面寸法を(t-2l)に縮小したものとして形成されている。」(3頁左上欄12行ないし右上欄1行)。
甲第7号証:特開昭55-52471号公報には、次のことが記載されている。
「(1)壁体の少なくとも1個所でこれを縦断するとともに内部に鉄筋が配設された低強度コンクリートにより構成された低強度部分を備えてなる鉄筋コンクリート造可撓耐震壁。」(特許請求の範囲)、
「図に示されるように梁1および柱2とによって囲まれる部分に設けられた本発明に係る鉄筋コンクリート造可撓耐震壁3は、全体に鉄筋4が配置されるとともに、壁を縦断する2個所の低強度部分5が高強度部分6と交互に配置されている。
前記高強度部分6のコンクリート強度は通常の耐震壁に要求される充分な強度のコンクリートおよび鉄筋とよりなり、また低強度部分5は前記高強度部分6よりも強度が低くヤング係数の小さなコンクリートおよび鉄筋とにより構成されている。
上記実施例のような鉄筋コンクリート造可撓耐震壁3は地震力が加わると、壁体は小さな変形の間は一体として挙動し、さらに変形が進むと低強度部分5にひび分れが生じ、さらに変形が大きくなると低強度部分5が破壊し、最大耐力に達して、高強度部分6が曲げ降伏した形となる。この時低強度部分5のコンクリ一ト塊が落下しようとするが鉄筋4があるために細かいコンクリートのみが落下するにとどまる。
低強度部分5が完全に破壊された後は、充分せん断補強された高強度部分6によって水平力が受け持たれ急激に耐力を失うことなくこの高強度部分6が充分粘りのある変形をして地震力を吸収することになる。」(2頁左上欄10行ないし右上欄13行)。
甲第8号証:特開昭57-165565号公報には、次のことが記載されている。
「鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリートまたは鉄骨構造骨組における骨組付耐震壁の壁板を、モルタルまたは普通強度コンクリートよりなる壁板表面材内に、低強度で圧縮靭性に富む壁板芯材を介在せしめてなるサンドイッチ状鉄筋コンクリートで構成するとともに、前記鉄筋コンクリートまたは鉄骨コンクリートの柱梁を前記壁板のトラス的圧縮抗力で剪断破壊しないように普通または高強度コンクリートで構成してなり、耐震壁として過度の剛性または耐力を有するとともに大きな靭性を有し、常時及び弱震時には弾性限度内の適度の剪断強度を有し、剛性の高い建物として機能し、強震時には前記壁板における低強度コンクリートよりなる壁板芯材に徐々にひび割れを生起して剛性を低下し、建物の剛性低下を生起せしめ、建物への地震入力を低減せしめるとともに最終的には連続的に周囲の柱、梁の骨組と前記壁板との耐力及び剛性について共同作用を可能ならしめる自律的可変な剛性機能を有するように構成されたことを特徴とする可撓耐震壁。」(特許請求の範囲)。

(3-3)対比・判断
(3-3-1)本件発明1について
本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。)と甲第1号証記載の発明とを比較すると、甲第1号証記載の発明の「プレキャスト柱」、「ブラケット」、「PC梁」が、それぞれ、本件発明1の「プレキャストコンクリート柱」、「大梁受け用顎」、「大梁」に相当しているから、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
コンクリートの基礎上に多数のプレキャストコンクリート柱を立設し、該プレキャストコンクリート柱には大梁受け用顎が一体成形され、該大梁受け用顎にプレキャストコンクリート大梁端部の突起を支持させて多数の大梁が各柱間に架設され、該プレキャストコンクリート大梁はPC鋼材によりプレストレスが付与されてプレキャストコンクリート柱に緊張定着されてなるプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造において、プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート梁端部の突起との接合面に充填材を設け、PC鋼材を緊張したプレストレストコンクリート構造物における柱と梁の接合構造。
(相違点)
本件発明1が、前記プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設け、前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にするのに対し、甲第1号証には、このような構成が記載されていない点。

上記相違点を検討する。
甲第2号証には、「ラーメン構造を・・・PCばりと柱との節点に継目が設けられるのが一般的である」(256頁14ないし15行)と記載され、確かに、「・・・目地コンクリートの強度が本体コンクリートのそれの80%・・・」(同頁24〜25行)と記載されていることから、プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁端部との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材(目地コンクリート)を設けたことが記載されている。
しかし、それは、「打ち継ぎ目のモルタルまたはコンクリート強度は部材の破壊耐力にも関係する。一般には部材本体のコンクリート強度と同程度またはそれ以上であれば、破壊耐力になんらの悪影響をあたえない」(同頁20ないし23行)ことを前提とし、仮に目地コンクリートの強度が本体のコンクリート強度以下の場合であっても、80%までは許容されるという文脈の中で述べられているだけであり、本件発明1のように、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にするものではない。
甲第3号証には、プレキャストコンクリートPC大梁、小梁、間柱の圧縮強度Fcを400kg/cm2、目地コンクリートの圧縮強度Fcを300kg/cm2とし、梁と柱の強度よりも低い強度の充填材(目地コンクリート)を設けたことが記載され、甲第4号証には、プレストレスプレキャスト造において、大梁部材の圧縮強度をσck=500kg/cm2とし、目地コンクリートの圧縮強度σckを300kg/cm2とし、梁の強度よりも低い強度の充填材(目地コンクリート)を設けたことが記載されているものの、上記相違点の本件発明1に係る構成は、記載されていない。
甲第5号証には、プレキャストコンクリートの柱と梁とをプレストレストを付与して緊張定着する接合構造において、柱と梁の接合面に充填材(目地)を設けたことが記載されているものの、梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設けたとの記載はなく、上記相違点の本件発明1に係る構成は、記載されていない。
甲第6号証には、鉄筋コンクリート造耐震壁において、壁板の四隅部に圧壊容易箇所を設けたことが記載され、甲第7号証には、鉄筋コンクリート造可撓耐震壁において、壁体の少なくとも1箇所でこれを縦断する低強度コンクリート部分を備えたことが記載され、甲第8号証には、可撓耐震壁において、壁板表面材内に、低強度の壁板心材を介在させたことが記載されているが、いずれも耐震壁であり、本件発明1のような梁と柱の接合構造ではなく、梁と柱の接合面に充填材が存在するものでもなく、上記相違点の本件発明1に係る構成は、記載されていない。

したがって、本件発明1は、その出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-3-2)本件発明2について
本件発明1が上記(3-3-1)に述べたとおりのものである以上、本件発明1を限定した本件発明2は、甲号各証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-4)請求人の主張について
請求人は、平成15年2月7日付け弁駁書において、訂正後の本件発明について、(1)訂正の目的違反、(2)実質変更、(3)特許法第36条の要件を満たしていない、(4)特許法第29条の規定に違反すると、主張するので、以下、検討する。

(3-4-1)訂正の目的違反について
請求人は、「訂正中、「前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にする」という構成は発明の詳細な説明及び図面の記載事項とに全く矛盾するものであり、当該訂正の目的は、被請求人の主張する誤記の訂正を目的としたものでは断じてなく、特許法第126条第1項の第1〜第3号に規定する特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しないものである・・・その理由は、・・・参考資料1として提出した建築大辞典(縮刷版)株式会社彰国社 昭和59年2月10日第1版第8刷発行の「単純梁」の項には、「一端ピン、他端ローラの単純支持条件を持つ梁」と定義されており、本件特許明細書の図4の(マル4)を検討してもプレキャストコンクリート柱1、1間の大梁受け顎に載置され、両プレキャストコンクリート柱1にPC鋼線5で連結されたプレキャストコンクリ一ト大梁3は、充填材が破損しても、前記プレキャストコンクリート柱1とプレキャストコンクリート大梁3の両端とはPC鋼線5で連結されているのは明らかであり、PC鋼線が破断しない限り単純梁の状態には決してならないものであるから、上記訂正の内容は発明の詳細な説明及び図面の記載事項と全く矛盾する」と主張する(弁駁書3頁(B)項参照)。
しかし、本件特許明細書には、「【0009】・・・本発明はPC鋼線6の耐力の40〜70%の緊張力で緊張することであり、・・・」、「【0011】図2は設計荷重以上の地震力を受けた場合のプレキャストコンクリート大梁3とプレキャストコンクリート柱1における接合部の状態を示したものであり、設計荷重以上の地震による正負繰り返しの荷重を受けると、プレキャストコンクリート柱1とプレキャストコンクリート大梁3との縁が切れてヒンジ支持となり、さらに地震力が増し、構造の変形が進むと接合部における充填材5を破損させて地震エネルギーを吸収することにより、・・・」及び「【0013】・・・充填材5が破壊すると、図4の(マル2)に示すように、プレキャストコンクリート大梁3はプレキャストコンクリート柱1の大梁受け用突起2で受けた単純梁となって荷重を負担し、かつPC鋼線6の連結により梁が落ちることはない。」と明確に記載されている。また、ここでいう単純梁とは、地震力により柱1と大梁3との縁が切れ、さらに地震力が増し、構造の変形が進むと接合部における充填材5を破損させて地震エネルギーを吸収するものであることを比喩的に述べたにすぎず、文字どおりの「一端ピン、他端ローラの単純支持条件を持つ梁」のことではない。したがって、上記訂正は、発明の詳細な説明及び図面の記載事項と矛盾するものではなく、又、訂正の目的も、上記(2-2)に記載したとおり、特許請求の範囲の減縮に該当するから、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(3-4-2)実質変更について
請求人は、「訂正中の「前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にする」という構成は、特許明細書に記載された特許請求の範囲に「単純梁にする」という構成は全くなく、当該訂正は、特許請求の範囲を実質的に変更するもの」と主張する(弁駁書4頁(C)項参照)。
しかし、上記(3-4-1)に検討したと同様の理由により、特許請求の範囲を実質的に変更するものではなく、この点に関する請求人の主張は理由がない。

(3-4-3)特許法第36条について
請求人は、「今回の訂正中の「前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり」という構成は、その数値限定の臨界的意義が、発明の詳細な説明になく、訂正後発明は、不明確であり特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。また、今回の訂正中の「設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリ一ト柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより「プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にする」という構成は、前述のように、発明の詳細な説明及び図面の記載事項からみて、単純梁には決してならないものであるから、訂正後発明は、不明確であり特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」と主張する(弁駁書(D)イ)項参照)。
しかし、今回の訂正は、本件特許明細書に記載された「【0009】・・・本発明はPC鋼線6の耐力の40〜70%の緊張力で緊張することであり、・・・」を本件発明1の構成要件として追加したにすぎず、引用刊行物に数値を除いて本件発明1の構成要件が記載されているのであればまだしも、その数値限定の臨界的意義を発明の詳細な説明に記載する必要はない。また、単純梁に関しては、上記(3-4-1)において検討したとおりである。

(3-4-4)特許法第29条について
請求人は、「甲第2号証の第44頁の表10.1 PC鋼棒の各種荷重と、今回参考資料2として提出した「プレストレストコンクリート 第2巻 第4号(通巻8)」社団法人プレストレストコンクリート技術協会19608自発行の第27頁表-3のc)鋼材の項と、第28頁表-4プレストレスカー覧表(抜粋)の項を検討すると、柱に使用する24ののPC鋼棒の許容荷重が22.26tであり、現場での緊張が11.8tですから、11.8÷22.26=0.53となり、PC鋼棒の耐力の53%で緊張させるものですから、訂正後発明の「PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張する」という構成の範囲内である。また、梁に使用する22ののPC鋼棒の許容荷重が18.51tであり、現場での緊張が9.4tですから、9.4÷18.51=0.50となり、PC鋼棒の耐力の50%で緊張させるものですから、訂正後発明の「PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張する」という構成の範囲内である。上記のように、PC構造において、PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張定着することは、本件特許出願時において、周知の事項である。・・・したがって、訂正後発明は、甲第1〜第8号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの」と主張する(弁駁書(D)ロ)項参照)。
しかし、例え、PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張することが、周知であったとしても、本件発明1は、甲第1号証記載の発明との相違点として挙げた構成、すなわち、前記プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設けることと相俟って、前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張させることにより、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にするものであるから、本件発明1は、甲第1〜第8号証に記載された発明及び周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3-5)むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンクリートの基礎上に多数のプレキャストコンクリート柱を立設し、該プレキャストコンクリート柱には大梁受け用顎が一体成形され、該大梁受け用顎にプレキャストコンクリート大梁端部の突起を支持させて多数の大梁が各柱間に架設され、該プレキャストコンクリート大梁はPC鋼線によりプレストレスが付与されてプレキャストコンクリート柱に緊張定着されてなるプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造おいて、前記プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設け、前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とするプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。
【請求項2】 前記充填材はモルタルであることを特徴とする請求項1に記載のプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プレストレストコンクリート構造物は、基礎上に立設したプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎にプレキャストコンクリート大梁端部の突起を支持させてプレキャストコンクリート大梁を各柱間に架設し、該プレキャストコンクリート大梁がPC鋼線の緊張力によりプレストレスを付与されて定着されている。
この時、柱と大梁のコンクリート強度と、目地モルタルの強度とはほぼ同じにしている。
したがって、このようなプレストレストコンクリート構造物は、一般的に弾性耐力がRC構造に比べて著しく高い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のようなプレストレストコンクリート構造物は、この高度な復元力性が正負繰り返しの加力を受けると動的な応答が増大すると共に、大地震に対しては構造物の塑性変形によるエネルギー消費能力が少ないと言われている。
本発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、大地震における構造物の塑性変形によるエネルギー消費を、柱と梁の接合部における充填材を破損させることによって達成できるプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を達成するための本発明のプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造は、コンクリートの基礎上に多数のプレキャストコンクリート柱を立設し、該プレキャストコンクリート柱には大梁受け用顎が一体成形され、該大梁受け用顎にプレキャストコンクリート大梁端部の突起を支持させて多数の大梁を各柱間に架設し、該プレキャストコンクリート大梁はPC鋼線によりプレストレスが付与されて該プレキャストコンクリート柱に緊張定着されてなるプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造おいて、前記プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材を設け、前記PC鋼線を該PC鋼線の耐力の40〜70%の緊張力で緊張してなり、設計荷重以上の地震による荷重を受けると、前記プレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁との接合部の縁が切れたヒンジ支持で充填材を破損させることにより、プレキャストコンクリート大梁をプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎で受けた単純梁にすることを特徴とする構成にすることであり、前記充填材がモルタルである構成にすることである。
【0005】
【作用】
而して、上記のようにプレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に充填材を設け、前記PC鋼線を緊張した構成にしたことにより、前記柱と梁の接合部が大地震による正負繰り返し荷重を受けると、柱と梁の接合部がヒンジの働きをして接合部における充填材を破損させることにより地震エネルギーを吸収する。
【0006】
【実施例】
以下、本発明のプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明のプレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造の断面図を示すものである。
【0007】
梁と柱の接合構造は図1に示すように、プレキャストコンクリート柱1が基礎コンクリートの台座ブロックM上に立設され、PC鋼材1a又はPC鋼線1aの緊張によりプレストレスを付与されている。
このプレキャストコンクリート柱1には、予め所望の高さ位置に大梁受け用顎2が一体形成されており、該大梁受け用顎2上にプレキャストコンクリート大梁3端部の突起4を支持させて各柱1間に大梁3が架設されている。
【0008】
そしてこのプレキャストコンクリート大梁3の突起4と前記プレキャストコンクリート柱1の大梁受け用顎2との接合面には充填材5が設けられ、該充填材5を介してプレキャストコンクリート大梁3端部の突起4がプレキャストコンクリート柱1の大梁受け用顎2に載置されている。
この充填材5はモルタル等であり、大梁受け用顎2の上面から前面にかけて適宜厚さに設けられている。
また充填材5はモルタルの他にゴム、鉛、樹脂モルタル、グラウト、パテ及びこれらを組合せたものも使用することができる。
【0009】
また、このプレキャストコンクリート大梁3とプレキャストコンクリート柱1との連結はPC鋼線6をプレキャストコンクリート柱1に連通させ、該PC鋼線6の緊張力により緊張してプレストレスを付与する。
尚、この緊張はPC鋼線6にある程度余裕をもたせて緊張することにより大変位に対応できる構造とすることができる。
即ち、従来の緊張がPC鋼線6の耐力の80〜85%の緊張力で緊張していたのに対して、本発明はPC鋼線6の耐力の40〜70%の緊張力で緊張することであり、この緊張力の範囲が最も好ましい。
【0010】
このような構成にしたことにより、本発明は地震時の設計荷重まではプレキャストコンクリート大梁3端部の突起4とプレキャストコンクリート柱1の大梁受け用顎2とにおける接合部の充填材5は破壊されないで、門型のPCラーメン構造で地震時の水平力に抵抗する。
そしてそれ以上の地震力となったときに前記接合部における充填材5を破壊させて、当初のPCラーメン構造であったものがプレキャストコンクリート柱とプレキャストコンクリート大梁の単純梁となるように変化させて地震力に耐えさせるものとする。
【0011】
図2は設計荷重以上の地震力を受けた場合のプレキャストコンクリート大梁3とプレキャストコンクリート柱1における接合部の状態を示したものであり、設計荷重以上の地震による正負繰り返しの荷重を受けると、プレキャストコンクリート柱1とプレキャストコンクリート大梁3との縁が切れてヒンジ支持となり、さらに地震力が増し、構造の変形が進むと接合部における充填材5を破損させて地震エネルギーを吸収することにより、プレキャストコンクリート柱1は健全な状態を保ち、プレキャストコンクリート大梁3も部材としては健全な状態を保っている。
【0012】
このことをプレキャストコンクリート柱1についてみると、充填材5が健全なときは、プレキャストコンクリート柱1の変形は図3の▲1▼に示すように、プレキャストコンクリート柱1のhの長さがdの変形を受けるのに対し、充填材5が破壊すると、図3の▲2▼に示すように、プレキャストコンクリート柱1の長さ2hに対してdの変形を受けるためプレキャストコンクリート柱1の応力は一時減じて、それ以上の変形に対しては柱の変形性能が増すことから大変形に追随できより安全となる。
【0013】
一方、プレキャストコンクリート大梁3についてみると、充填材5が健全なときは図4の▲1▼に示すように、プレキャストコンクリート大梁3は地震力に対してプレキャストコンクリート柱1のように曲げモーメントを受けているのに対し、充填材5が破壊すると、図4の▲2▼に示すように、プレキャストコンクリート大梁3はプレキャストコンクリート柱1の大梁受け用顎2で受けた単純梁となって荷重を負担し、かつPC鋼線6の連結により梁が落ちることはない。
【0014】
【発明の効果】
プレキャストコンクリート柱の大梁受け用顎とプレキャストコンクリート大梁端部の突起との接合面に充填材を設け、前記PC鋼線を緊張して梁と柱との接合構造としたことにより、大地震における構造物の塑性変形によるエネルギー吸収を柱と梁の接合部における充填材で対応する。
【0015】
本発明の梁と柱の接合構造はRC構造のエネルギー吸収を上回る性能を得ることができる。
【0016】
梁端崩壊による構造体の最終形状が最初から設定できるので、保有耐力の算定の明確化が図れる。
【0017】
梁端固定からヒンジ支持に至る過程においても、柱の大梁受け用顎に支持されるので大梁が落下する危険性がない。
【0018】
梁の崩壊に至らない状態で、接合部の崩壊後も構造体は原形に復し、RC構造に比べて人命に対する安全性がはるかに大きい。
【0019】
従来に比べ少ないPC鋼線であっても充填材の破壊により梁の崩壊を防止できるので、経済的効果も非常に大きい。
【0020】
梁と柱の接合面の充填材が地震でひび割れや破壊をすることによって梁からの力が柱に伝わらないので、パネルゾーンの破壊が避けられる。
【0021】
梁と柱の接合面の充填材が地震でひび割れや破壊をすることによって構造物の地震の振動周期が長くなるので、衝撃力が低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
梁と柱の接合構造を示す断面図である。
【図2】
充填材が破壊した状態を示す断面図である。
【図3】
柱の変形状態を説明する概略図である。
【図4】
梁の変形状態を説明する概略図である。
【符号の説明】
M 台座
1 プレキャストコンクリート柱
2 大梁受け用顎
3 プレキャストコンクリート梁
4 突起
5 充填材
6 PC鋼線
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-04-15 
結審通知日 2003-04-18 
審決日 2003-04-30 
出願番号 特願平4-105263
審決分類 P 1 112・ 121- YA (E04B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 長島 和子
山口 由木
登録日 1997-11-14 
登録番号 特許第2718594号(P2718594)
発明の名称 プレストレストコンクリート構造物における梁と柱の接合構造  
代理人 川村 恭子  
代理人 森 俊秀  
代理人 片寄 武彦  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  
代理人 林 信之  
代理人 佐々木 功  

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