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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1082382
審判番号 不服2000-13532  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-07-24 
確定日 2003-08-22 
事件の表示 平成 8年特許願第193811号「誘電体超薄膜電源素子」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 1月16日出願公開、特開平10- 12937]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年6月20日の出願であって、特許法第30条新規性喪失の例外規定の適用を受けるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成8年10月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1により特定される次のとおりのものであると認める。
「(1)厚さがオグストローム(Å)のオーダーの無極性誘電体超薄膜を仕事関数の異なる二種類の金属で挟んだ
金属I-無極性誘電体超薄膜-金属II
の構造を有する誘電体超薄膜電源素子。」

2.引用例
これに対して、平成10年4月28日付けの拒絶理由通知で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、Japanese Journal of Applied Physics Vol.34 Part2(1995)p.L1416-1419(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
「1986年に作られたAl/ポリイミド ラングミュア-ブロジェット膜/Auの金属-絶縁体-金属(MIM)構造において、電圧が発生された。電圧発生により引き起こされる温度低下が真空アバランシェフォトダイオードを用いる非接触温度測定によって確認された。その電圧は、6ヶ月間発生され続け、現在も未だ発生されている。実験結果から、現在のMIM構造は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する新規なごく微細な素子であるということが見出された。」(p.L1416要約)、
「2.1 試料
試料は、図1に示すように、ガラス基板(…)上に堆積された、電極としてのAlとAuの蒸着膜と、ポリイミドLB膜とを備え、Al/Al2O3/ポリイミドLB膜/AuのMIM構造である。Al電極上には自然酸化されたAl2O3膜がある。そのポリイミドLB膜は10単分子層を含み、それの厚さは4.2Åであり、…。他方の試料は、それのポリイミドLB膜は4単分子層を含み、現在の研究で使用された。…。これらの試料は、1986年に作られた。」(p.L1416左下欄下から第24行乃至下から第12行)
「3.1 MIM試料における電圧発生
およそ0.9Vの発生した電圧が…数時間維持された。…。そのような電圧発生は、試料における電気エネルギーの蓄積(1/2)Cv2を示す。ここで、Cは試料の容量であり、vは発生する電圧である。」(p.L1417左欄第2行乃至第12行)、
「3.3 試料から生成される電荷
1011Ωの抵抗Rが、他方の試料(4単分子層のポリイミドLB膜)の両電極に常に接続され、そして、発生した電圧v=IRは、…。…。その電圧は今日、発生されている。」(p.L1418左欄第1行乃至第20行)
「4.1 温度低下の大きさ
スイッチが解放された後の電圧発生は、Au電極からLB膜を経てAl電極への電子の拡散によると考えられる。…。その発生した電圧は、エネルギー(1/2)×Cv2の発生を示す。…そしてエネルギーWは、LB膜のみからの熱エネルギーとして与えられる、そして、ポリイミドLB膜の温度低下ΔT’は次のようである。
…。それで、定常状態における温度低下は、ΔT’よりずっと小さいであろう。」(p.L1418左欄第22行乃至同頁右欄下から第15行)
「4.2 新規現象の可能性
現在のMIM試料において電圧発生により引き起こされる温度低下と、発生する電圧が6ヶ月後に減少しないこととから、熱エネルギーは、AuとAlの仕事関数の差によって発生する電界における電気エネルギーに変換されるということが考えられる。上記で述べた電圧発生は、超薄膜絶縁膜と金属のMIM構造における新規なごく微細な現象の可能性を示す。(p.L1418右欄下から第14行乃至第5行)」
「5. 結論
ポリイミド ラングミュア-ブロジェット(LB)膜のMIM構造において、温度低下が電圧発生により引き起こされることが確認された。この結論は、熱エネルギーがMIM構造で電気エネルギーに変換されることを示す。電圧発生は、超薄膜絶縁膜と金属のMIM構造における新規なごく微細な現象の可能性を示す。この現象は熱電気効果におけるペルチェ効果と似ている。」(p.L1418右欄下から第4行乃至p.L1419左欄第6行)

以上Fig.1乃至Fig.6を参酌してまとめると、引用例1には、
「厚さが4.2ÅのポリイミドLB膜の10単分子層或いは4単分子層を含む絶縁膜をAlとAuで挟んだ
Al-超薄膜絶縁膜-Au
の構造を有する超薄膜絶縁膜素子。」
が記載されているものと認められる。

同じく引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平2-197107号公報(以下、「引用例2」という。)には、静電容量・電圧発生素子の実施例の概略図、発生電圧が図面とともに示されており、同公報には、次の事項が記載されている。
「本発明は絶縁超薄膜とくにラングミュア・ブロジェット(LB)膜の極めて薄い絶縁膜を金属電極で挟み、単位面積あたり非常に大きな静電容量を持つと同時に、その電極間に直流電圧を発生する新しい素子に関する。」(第1頁左下欄第14乃至第18行)、
「本発明の静電容量・電圧発生素子は二種の形に分けられる。第一は絶縁超薄膜がLB膜のように分極しているか或いは分極している膜を含む異種複合膜であるときで、この絶縁超薄膜を挟む両電極金属が同種でも異種でも電圧が発生する。第二の形は絶縁超薄膜に分極のないときで、両電極金属が異種のときに電圧を発生する。そして絶縁超薄膜の厚さが…。…。静電容量・電圧発生素子を供する。」(第1頁右下欄第18行乃至第2頁左上欄第11行)、
「実施例1
この実施例においては、第1図及び第2図に示すように…アルミニウムを蒸着させて電極端子(5)を備えた一方の電極(7)を形成する。…20〜40ÅのポリイミドLB膜(11)を被着させる。さらに該ポリイミドLB膜(11)の上に電極端子(13)を備える他の電極(15)として金を蒸着させることによってAl/Al2O3/ポリイミドLB膜/Auの構造を有する本発明の静電容量・電圧発生素子が形成される。ここでポリイミド膜もAAl2O3膜もともに分極していない膜である。」(第2頁左上欄第15行乃至同頁右上欄第13行)

3.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1に記載された発明における「AlとAu」が、本願発明の「仕事関数の異なる二種類の金属」及び「金属Iと金属II」に相当する。引用例1に記載された発明における「厚さが4.2ÅのポリイミドLB膜の10単分子層或いは4単分子層を含む絶縁膜」及び「超薄膜絶縁膜」が、それぞれ本願発明の「厚さがオグストローム(Å)のオーダーの誘電体超薄膜」及び「誘電体超薄膜」に相当する。

よって、両者は、
「厚さがオグストローム(Å)のオーダーの誘電体超薄膜を仕事関数の異なる二種類の金属で挟んだ
金属I-誘電体超薄膜-金属II
の構造を有する誘電体超薄膜素子。」の点で一致し、
(1)本願発明の誘電体超薄膜素子が「電源素子」であるのに対して、引用例1に記載された発明の誘電体超薄膜素子は電源素子といえるか不明である点(以下、「第1の相違点」という。)、(2)本願発明の誘電体超薄膜が無極性誘電体超薄膜であるのに対し、引用例1に記載された発明の誘電体超薄膜には極性が特定されていない点(以下、「第2の相違点」という。)
で相違する。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。

(第1の相違点)
本願明細書の【発明の詳細な説明】の「産業上の利用分野」には、「本発明は誘電体超薄膜を用いた 金属-誘電体超薄膜-金属 の構造を持った電源素子で、素子自体が持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換して、素子の温度が下がれば外部から熱が素子に流入し、素子の温度を上昇させる。このように周囲に熱がある限り永久に電力を外部に放出する。従って本発明の素子はエネルギー源として利用出来るものである。」と記載されている。すなわち、本願明細書には、本発明の素子が、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものであること、及び電力を外部に放出するエネルギー源としての素子であることが記載されている。

次に、引用例1における要約の欄の「Al/ポリイミド ラングミュア-ブロジェット膜/Auの金属-絶縁体-金属(MIM)構造において、電圧が発生された。」、「実験結果から、現在のMIM構造は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する新規なごく微細な素子であるということが見出された。」と、「4.1 温度低下の大きさ」の欄の「その発生した電圧は、エネルギー(1/2)×Cv2の発生を示す。」と、「4.2 新規現象の可能性」の欄の「現在のMIM試料において電圧発生により引き起こされる温度低下と、発生する電圧が6ヶ月後に減少しないこととから、熱エネルギーは、AuとAlの仕事関数の差によって発生する電界における電気エネルギーに変換されるということが考えられる。」と、「5. 結論」の欄の「ポリイミド ラングミュア-ブロジェット(LB)膜のMIM構造において、温度低下が電圧発生により引き起こされることが確認された。この結論は、熱エネルギーがMIM構造で電気エネルギーに変換されることを示す。」との記載に照らせば、引用例1の誘電体超薄膜素子も、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するものである。

したがって、引用例1に記載された発明の誘電体超薄膜素子も電源素子であるといえるから、第1の相違点は実質的な相違点ではない。

(第2の相違点)
引用例2によれば、誘電体超薄膜を仕事関数の異なる二種類の金属で挟んだ 金属I-誘電体超薄膜-金属II の構造を有する素子において、誘電体超薄膜として、無極性の膜及び有極性の膜とが選択可能であること、実施例1に係る記載では、異種の金属で20〜40ÅのポリイミドLB膜を挟んだ構造の素子において、「ポリイミド膜は分極していない膜である。」と記載されていること、及び引用例1に記載された発明の素子も、引用例2に記載された素子も、両者とも「厚さがオグストローム(Å)のオーダーのポリイミドLB膜を仕事関数の異なる二種類の金属で挟んだ 金属I-誘電体超薄膜-金属II の構造を有する素子。」であることを参酌すれば、引用例1に記載された素子において、引用例2の記載に基づいて、誘電体超薄膜を無極性膜とすることは当業者が適宜選択しうる程度のことと認められる。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-06-10 
結審通知日 2003-06-17 
審決日 2003-07-01 
出願番号 特願平8-193811
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河合 章粟野 正明  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 朽名 一夫
恩田 春香
発明の名称 誘電体超薄膜電源素子  

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