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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1082831
審判番号 不服2002-24987  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-11-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-26 
確定日 2003-09-08 
事件の表示 特願2002-107517「インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置」拒絶査定に対する審判事件[平成14年11月 5日出願公開、特開2002-321394]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成5年5月7日に出願した特願平5-106706号(優先権主張 平成4年9月29日(以下「本件優先日」という。)及び平成5年2月17日)に包含される発明を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであると主張して平成11年11月30日に出願した特願平11-340430号(特願平5-106706号と同じ優先権主張がされている。)に包含される発明を、さらに特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであると主張して平成14年4月10日に出願された(特許法44条4項の規定により、特願平5-106706号と同じ優先権主張がされているとみなす。)ものであり、その請求項1〜請求項8に係る発明は、平成15年2月24日付けで方式補正された同年1月16日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】〜【請求項8】に記載されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「インクを貯留する液室とこの液室に液路を介して連通された複数個のインク吐出口と前記液路のインクにエネルギーを付与するエネルギー作用部を設け、該エネルギー作用部に同じパルス信号を同じ頻度で入力して前記液路内のインクを前記インク吐出口から吐出させた時の1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ、被記録体上のほぼ同一箇所へ付着させて一つの画素を形成すると共にほぼ同一箇所へ付着させるインク滴の数を画像濃度情報に応じて変化させることにより画素の大きさを変えるようにしたインクジェット記録ヘッドにおいて、該インクジェット記録ヘッドは、前記頻度が10kHz〜75kHzの範囲で使用されるインクジェット記録ヘッドであって、1パルスのインク滴で1画素を形成した場合、隣接する画素が重なり合わない量のインク滴を吐出させる大きさに前記インク吐出口を形成したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前に頒布された特開平4-118245号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜カの記載がある。
ア.「インクをインク滴として吐出するための複数の吐出口を有する記録ヘッドを用い、濃度情報に応じて前記インク滴の1つ以上によって記録媒体に記録される画素ドットの配列により画像を形成するインクジェット記録装置において、
前記画素ドットの配列のピッチを、前記インク滴の1つによって記録される前記画素ドットの径より大きく、かつ、前記インク滴の所定数以上によって記録される画素ドットが前記配列において当該隣接する画素ドットと接触するように定めるピッチ設定手段と、
前記インク滴の複数により前記画素ドットを記録するとき、先行して吐出されるインク滴が記録媒体に浸透し始める前に、後続して吐出されるインク滴が先行インク滴に接触して着弾するようにインクを吐出する吐出制御手段と
を具えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」(2頁左下欄5行〜右下欄4行)
イ.「本発明は・・・複数のインク滴を記録媒体の同一箇所に着弾させて1つのドットを形成し、着弾させるインク滴の数によって画像の階調を表現するインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関する。」(3頁右上欄3〜8行)
ウ.「高濃度を出すためにインク滴の打ち込み数を多くしてもこれに応じてドット径がそれ程拡がらず高濃度が実現されない場合もあった。これは、従来から行われていたインク滴の重複打ちでは、複数のインク滴が記録媒体に打ち込まれる際、先行するインク滴が浸透を開始した後に後続のインク滴が打ち込まれていたためである。」(3頁右下欄6〜12行)
エ.「(第4実施例)記録ヘッドとして4096個の吐出口を400dpiの密度で配列したフルラインタイプの記録ヘッドを用い、吐出周波数10kHz、画素周波数600Hzで下記に示すインクを吐出し」(7頁左下欄2〜6行)
オ.「第6図は、本発明のより好適な実施例を示すインク滴打ち込みの概念図である。第6図に示される打ち込み方式は、同一吐出口から複数のインク滴を連続して吐出するとき、後に吐出されるインク滴ほどインク径(インク量)を大きくする打ち込み方式である。この方式によれば、打ち込み数とインク滴径との相互に制御により、最小限の重ね打ち込み数で低濃度部から高濃度部までの広範囲で階調性に優れた濃度変調を実現することができる。」(8頁左上欄3〜12行))
カ.「記録ヘッドの構成としては、・・・吐出口,液路,電気熱変換体の組合せ構成・・・も本発明に含まれるものである。」(9頁左下欄2〜8行)

2.引用例記載の発明
引用例の記載カの構成は、引用例の第4実施例で採用されている記録ヘッド(以下、これを「引用例発明」という。)にも採用できる。記載アにおける「画素ドットの配列のピッチ」は、吐出口配列方向については吐出口配列ピッチと異ならない。
記載ア〜カを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例発明は次のようなものである。
「インクをインク滴として吐出するための4096個の吐出口、液路,電気熱変換体の組合せ構成からなる記録ヘッドであって、
吐出口は400dpiの密度で配列されており、その配列ピッチは前記インク滴の1つによって記録される画素ドットの径より大きく設定し、
吐出周波数10kHzで使用されるインクジェット記録ヘッド。」

3.本願発明と引用例発明との対比
(1)引用例発明の「4096個」は「複数」の一例であり、引用例発明の「吐出口」及び「電気熱変換体」は本願発明の「インク吐出口」及び「エネルギー作用部」にそれぞれ相当する。引用例発明が本願発明の「液室」に相当する構成を有し、その液室と吐出口が液路を介して連通されていることはいうまでもない。
引用例発明において吐出口の配列ピッチをインク滴の1つによって記録される画素ドットの径より大きく設定していることと、本願発明において「1パルスのインク滴で1画素を形成した場合、隣接する画素が重なり合わない量のインク滴を吐出させる大きさに前記インク吐出口を形成したこと」には相違がない。
(2)本願発明の「エネルギー作用部に同じパルス信号を同じ頻度で入力して前記液路内のインクを前記インク吐出口から吐出させた時の1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ、被記録体上のほぼ同一箇所へ付着させて一つの画素を形成すると共にほぼ同一箇所へ付着させるインク滴の数を画像濃度情報に応じて変化させることにより画素の大きさを変えるようにした」との構成については、本願発明のインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置若しくは記録方法,又は本願発明のインクジェット記録ヘッドの駆動装置若しくは駆動方法の発明であるならば、意味のある構成として理解できるが、インクジェット記録ヘッド自体の構成としては理解することが困難である。そこで、同構成については、同構成が適当な駆動形態・駆動装置を採用した際に実現することが可能であるとの意味に解するのが相当である。同じく、本願発明の「頻度が10kHz〜75kHzの範囲で使用される」との構成も、「頻度が10kHz〜75kHzの範囲で使用可能である」との意味に解するのが相当である。上記引用例発明の認定における「吐出周波数10kHzで使用される」も同様趣旨である。
引用例の記載イによれば、引用例発明はある駆動形態と組み合わせることによって「被記録体上のほぼ同一箇所へ付着させて一つの画素を形成すると共にほぼ同一箇所へ付着させるインク滴の数を画像濃度情報に応じて変化させる」ことができるインクジェット記録ヘッドである。
引用例発明の「吐出周波数」と本願発明の「頻度」に相違はなく、本願発明の「10kHz〜75kHzの範囲」は、引用例発明の「10kHz」を包含する。また、「吐出周波数」という表現をする以上、記録媒体の同一箇所に着弾させる複数のインク滴吐出のためのパルスは、同じ頻度でエネルギー作用部に入力されると理解するのが自然であり、少なくとも同じ頻度でエネルギー作用部に入力するように駆動制御することは可能である。
引用例の記載オによれば、引用例第4実施例における駆動形態において、「後に吐出されるインク滴ほどインク径(インク量)を大きくする打ち込み方式」を採用している可能性もあるから、「1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ」ているとは断定できないが、そうであっても、「1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ」るよう制御することは当然可能である。
(3)以上によれば、本願発明と引用例発明とは、「インクを貯留する液室とこの液室に液路を介して連通された複数個のインク吐出口と前記液路のインクにエネルギーを付与するエネルギー作用部を設け、該エネルギー作用部に同じパルス信号を同じ頻度で入力して前記液路内のインクを前記インク吐出口から吐出させた時の1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ、被記録体上のほぼ同一箇所へ付着させて一つの画素を形成すると共にほぼ同一箇所へ付着させるインク滴の数を画像濃度情報に応じて変化させることにより画素の大きさを変えるようにしたインクジェット記録ヘッドにおいて、該インクジェット記録ヘッドは、前記頻度が10kHz〜75kHzの範囲で使用されるインクジェット記録ヘッドであって、1パルスのインク滴で1画素を形成した場合、隣接する画素が重なり合わない量のインク滴を吐出させる大きさに前記インク吐出口を形成したインクジェット記録ヘッド。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。
したがって、本願発明は引用例発明にほかならないから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

4.予備的判断
(1)3.(2)で述べた本願発明の構成が、適当な駆動形態・駆動装置を採用した際に実現することが可能であるとの意味を超えて、インクジェット記録ヘッドを特徴づける構成であると仮にした場合の判断を念のためしておく。
その場合は、本願発明が「同じパルス信号を同じ頻度で入力して前記液路内のインクを前記インク吐出口から吐出させた時の1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出させ」との構成を採用しているのに対し、引用例発明では「同じパルス信号を同じ頻度で入力」するのかどうか、及び「1パルスの吐出量が同じ量のインク滴として吐出」されるのかどうかが相違点となる。
そこで、これら相違点に係る本願発明の構成に至ることが当業者にとって想到容易であるかどうか検討する。
引用例発明では、10kHzの吐出周波数でエネルギー作用部にパルスを入力するのであるが、同じ頻度で入力すると解するのが自然であることは3.(2)で述べたとおりである。同じ頻度で入力すると解せないとしても、同じ頻度で入力する方が異なる頻度で入力するよりも駆動制御が容易となることは明らかであり、しかも同じ頻度で入力することが困難であるとの理由も見いだせない。
また、引用例の記載オに「より好適な実施例」とあることからすれば、引用例には「より好適」ではない実施例として、「同じパルス信号」を入力し、「1パルスの吐出量が同じ量のインク滴」となる実施例も示唆されているといえる。そのことは、引用例の第4図(B)及び(C)に、同一サイズのドロップレットが重なって描かれていることととも符合する。そして、「同じパルス信号」を入力し、「1パルスの吐出量が同じ量のインク滴」とすることは、記載オの「最小限の重ね打ち込み数」には反するかもしれないが、駆動制御が容易となることは明らかであるから、かかる制御を行うことに困難性はない。
したがって、上記相違点が仮に存するとしても、当業者にとって想到容易な相違点でしかない。
(2)本願発明の「頻度が10kHz〜75kHzの範囲」が10kHzを超え、10kHzを含まない意味であると仮にした場合の検討をしておく。
この場合、吐出頻度(吐出周波数)が本願発明と引用例発明との相違点となる。
しかし、インクジェット記録においては、良好なインクの吐出に支障がない限り、吐出周波数を大きくした方が高速記録を行えることから有利であることは常識である。また、引用例の記載ア及び記載ウによれば、「先行して吐出されるインク滴が記録媒体に浸透し始める前に、後続して吐出されるインク滴が先行インク滴に接触して着弾する」ことが重要であるとされており、そのためには吐出周波数が大きい方が好ましいことは自明である。
そして、本件優先日当時においては、10kHz〜75kHzの吐出周波数にて駆動することは周知となっている(例えば、特開平3-173654号公報、特開平4-28547号公報又は特開平3-189166号公報参照。)のであるから、引用例第4実施例の10kHzよりも速く、かつ75kHzよりも遅く駆動することに困難性はない。
(3)以上のとおり、仮に本願発明と引用例発明に相違点があるとしても、当業者にとって想到容易なものでしかないから、本願発明は引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものにすぎず、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
以上によれば、本願発明は特許法29条1項3号の規定に該当するため特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-07-10 
結審通知日 2003-07-15 
審決日 2003-07-28 
出願番号 特願2002-107517(P2002-107517)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 津田 俊明
番場 得造
発明の名称 インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置  
代理人 柏木 慎史  

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