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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  E03D
管理番号 1083000
異議申立番号 異議2003-70057  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-12-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-09 
確定日 2003-06-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306807号「水洗トイレ用薬剤供給具」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3306807号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3306807号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成12年5月31日に特許出願され、平成14年5月17日にその発明についての特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人アース製薬株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年5月21日に意見書とともに訂正請求がなされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成15年5月21日付け訂正請求で特許権者が求めている訂正の内容は以下の(1)〜(5)のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】 放水タップを備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と、液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けられた薬剤容器と、この薬剤容器の前記導出孔から導出された薬液が供給される薬剤保持体とを備え、
前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、
前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、
前記薬剤容器は、前記導出孔を下方にして前記供給具本体に支持され、
前記薬剤保持体は、前記供給具本体の底面部上であって、前記薬剤容器に設けられている前記導出孔の下方に配置されたことを特徴とする水洗トイレ用薬剤供給具。
【請求項2】 前記水を前記中心部の周部に設けられた前記開口部内に案内するガイド部材がさらに設けられたことを特徴とする請求項1記載の水洗トイレ用薬剤供給具。
【請求項3】 前記薬剤は、少なくとも芳香性と洗浄性とを備えることを特徴とする請求項1記載の水洗トイレ用薬剤供給具。」

(2)訂正事項b
明細書の段落【0009】を次のとおりに訂正する。
「 【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために本発明にあっては、放水タップを備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と、液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けられた薬剤容器と、この薬剤容器の前記導出孔から導出された薬液が供給される薬剤保持体とを備え、前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、前記薬剤容器は、前記導出孔を下方にして前記供給具本体に支持され、前記薬剤保持体は、前記供給具本体の底面部上であって、前記薬剤容器に設けられている前記導出孔の下方に配置されている。」

(3)訂正事項c
明細書の段落【0012】を次のとおりに訂正する。
「 また、放水タップが貯水タンク上蓋に設けられている穴を回避した位置に設けられている場合には、放水タップからの水は、タンク上蓋上に流下した後、底面部に設けられている複数の開口部から流入し、薬剤保持体に導出されている薬剤を溶解させる。しかし、複数の開口部は、左右に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含むので、必ずしも全ての開口部から水が流入するとは限らず、流入する水の量を制御することができる。よって、流入する水の量により、溶解する薬剤の量を制御することができる。」

(4)訂正事項d
明細書の段落【0017】を次のとおりに訂正する。
「 供給具本体2は、貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋106上に配置可能な大きさであって、平面視において矩形であり、図1に示すように左右方向に長い底面部21、前面部22、背面部23及び左右側面部24、25を一体的に有する上面開放状の部材である。底面部21の中心部には、円形孔26が形成され、該円形孔26の周部には、貯水タンク上蓋106に設けられている穴108に遊嵌する複数の長尺脚部27が垂設されている。」

(5)訂正事項e
明細書の段落【0036】を次のとおりに訂正する。
「 また、本発明によれば、放水タップが貯水タンクの上蓋の穴を回避した位置に設けられている場合、放水タップからの単位時間当たりの放水量が多い場合には、水が供給具本体の底面部に設けられている複数の開口部のうち、底面部の中心部及びその周部に設けられている開口部から流入しあるいは流出するのみならず、左右方向に長い底面部の左右両端部に設けられている開口部からも流入しあるいは流出する。したがって、この場合には、供給具本体内への水の流入量が増大し、前記底面部の上部に配置されて薬液容器から液状の薬剤を供給されている薬液保持体からの薬剤の溶解量を増大させることができる。よって、ユーザが放水タップからの単位時間当たりの放水量を調整することにより、ユーザ各々が薬液保持体からの薬剤の溶解量を調整することができる。このとき、多量の水が供給具本体に当たって水圧が生じても、貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が供給具本体の底面部の下部に設けられていることから、水洗トイレ用薬剤供給具が転倒や位置ずれすることなく、適正な使用状態を維持することができる。
よって、水洗トイレ用薬剤供給具の転倒や位置ずれを防止して適正な使用状態を維持しつつ、ユーザ各々が薬液保持体からの薬剤の溶解量を調整することができる。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正請求に係る訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項b〜eは、特許請求の範囲の訂正事項aに対応させたもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申立について
1.申立の理由の概要
特許異議申立人アース製薬株式会社は、特許第3306807号の請求項1〜3(全請求項)に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項に規定する発明に該当し、その特許は特許法第113条第2項に該当するので取り消されるべきものであり、また、明細書に記載不備があり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4項に該当するので取り消されるべきものである旨主張している。

2.特許法第36条第4項について
異議申立人は、図2において薬剤導出孔と含浸体とが密着しておらず、間隙ではなく間隔になっており、かつ薬剤導出孔が滴下孔ではなく開口になっているうえ、具体的な説明がないので実施不能である旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書に従来例として記載されている特開平2-229333号公報に記載されているように、薬剤導出孔から流量を規制することは周知技術であるし、液状の薬剤である以上、流量を規制しながら導出することは当然の事項であって、本件特許明細書及び図面で具体的明示がなされていないことをもって実施不能であるとはいえない。
したがって、本件特許明細書に記載不備があるという異議申立人の主張は採用できない。

3.本件発明
上記「第2」に記載したように、平成15年5月21日付けの訂正が認められるから、本件特許第3306807号の請求項1〜3(全請求項)に係る発明は、上記訂正請求書により訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2.(1)訂正事項a参照。以下、請求項1〜3に係る発明を「本件発明1」〜「本件発明3」という。)

4.特許法第29条第2項について
(4-1)引用刊行物記載の発明
異議申立人提出の甲第1号証(実願平1-85253号(実開平3-25665号)のマイクロフィルム)には、第15頁第5行〜第16頁第19行、第17頁第3〜11行、第17頁末行〜第18頁第3行、第18頁第13〜第19頁第3行、第19頁末行〜第20頁第7行、及び第9〜15図(特に、第10、12図には、基盤41が左右に延出部47とともに長い底面部を有し、その左右延出部47の底面部に開口部54が設けられていることが明らかである。)を参照すると、以下の発明が記載されているものと認められる。
「蛇口を備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上に配置可能な基盤41と、固形の薬剤44(芳香・洗浄剤)を覆うケース43と、揮散体42とを備え、前記基盤41は、その延出部47の上方の被い部48にスリット49が形成されるとともに、左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンクに設けられている流水流入口61に遊嵌する長脚52、52、……が設けられ、当該底面部に前記蛇口から前記貯水タンク上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、前記複数の開口部は、前記左右に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた空所50、スリット51と左右両側に設けられた開口部54とを含み、前記ケース43は、前記基盤41に支持され、前記揮散体42は、前記基盤41の底面部上であって、前記ケース43の下方に配置された水洗トイレ用薬剤供給具。」

異議申立人提出の甲第2号証(実願平5-1007号(実開平6-57877号)のCD-ROM)には、段落【0027】、【0032】には、水洗トイレ用薬剤供給具において、水を開口部内に案内するじゃま板が設けられることが記載されているものと認められる。

異議申立人提出の甲第3号証(国際公開99/66139号パンフレット(1999))には、第12頁第5〜6行、第13頁第12〜18行、第14頁第23行〜第15頁第5行、及び第2図を参照すると、以下の発明が記載されているものと認められる。
「液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する口が設けられ、前記口から導出された薬液が多孔パッドに供給され、前記口を下方にしてハウジングに支持され、多孔パッドが前記口の下方に配置されている水洗トイレ用薬剤供給具」

異議申立人提出の甲第4号証(意匠登録1004529号公報)には、水洗トイレの縁に取り付けるトイレ用脱臭洗浄器において、液状の芳香洗浄剤を吸収する素材が上部開放状に配置されることが記載されているものと認められる。

(4-2)対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「蛇口」、「基盤41」、「流水流入口61」、「長脚52、52、……」、及び、「空所50及びスリット51」は、それぞれ本件発明1の「放水タップ」、「供給具本体」、「穴」、「脚部」、及び、「中心部及びその周部に設けられた開口部」に相当し、甲第1号証記載の発明の「ケース43」は、基盤41に支持された状態では、薬剤44を収容しているから、本件発明1の「薬剤容器」に相当する。また、甲第1号証記載の発明の基盤41の一部である延出部47の上方の被い部48にスリット49が形成されるから、基盤41は、上部が開放されているといえ、甲第1号証記載の発明の開口部54と本件発明1の左右両端部に設けられた開口部は、左右に設けられた開口部で共通する。したがって、本件発明1と甲第1号証記載の発明は、
「放水タップを備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上に配置可能な供給具本体と、薬剤を収容する薬剤容器とを備え、
前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンクに設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、
前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右に設けられた開口部とを含み、
前記薬剤容器は、前記供給具本体に支持された水洗トイレ用薬剤供給具。」
の点で一致するが、次の点で相違する。

相違点:本件発明1が、液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けられた薬剤容器と、この薬剤容器の前記導出孔から導出された薬液が供給される薬剤保持体とを備え、前記供給具本体は、長い底面部の左右両端部に設けられた開口部を含み、前記薬剤容器は、前記導出孔を下方にして供給具本体に支持され、前記薬剤保持体は、供給具本体の底面部上であって、薬剤容器に設けられている前記導出孔の下方に配置されているのに対し、甲第1号証記載の発明は、薬剤容器に収容される薬剤が液状ではなく固形であり、したがって、導出孔はなく、導出孔と他の部材との関連が示されていないとともに、揮散体が底面部上に配置されているものの、揮散体は、液状の薬液を保持する保持体ではない点。
上記相違点について検討すると、甲第2号証には、上記構成は記載も示唆もなく、また、甲第3号証、甲第4号証記載の発明は、液状の薬剤を収容するものではあるが、いずれも貯水タンク上に配置するものではない。そして、甲第1号証記載の発明がそもそも液状の薬剤を収容しておいて、供給するものではなく、甲第1号証記載の発明の揮散体は、開口部から入出する水によって貯水タンクに供給される薬剤を保持する保持体ではない。
したがって、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲第2〜4号証記載の発明から容易に想到できるとはいえず、甲第1号証記載の発明と組み合わせることも容易に想到できるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記構成が他の構成と相まって明細書記載の作用効果を奏するものであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、上記甲第1〜4号証記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、上記甲第1〜4号証記載の発明から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水洗トイレ用薬剤供給具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 放水タップを備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と、液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けられた薬剤容器と、この薬剤容器の前記導出孔から導出された薬液が供給される薬剤保持体とを備え、
前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、
前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、
前記薬剤容器は、前記導出孔を下方にして前記供給具本体に支持され、
前記薬剤保持体は、前記供給具本体の底面部上であって、前記薬剤容器に設けられている前記導出孔の下方に配置されたことを特徴とする水洗トイレ用薬剤供給具。
【請求項2】 前記水を前記中心部の周部に設けられた前記開口部内に案内するガイド部材がさらに設けられたことを特徴とする請求項1記載の水洗トイレ用薬剤供給具。
【請求項3】 前記薬剤は、少なくとも芳香性と洗浄性とを備えることを特徴とする請求項1記載の水洗トイレ用薬剤供給具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋に載置して使用される水洗トイレ用薬剤供給具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の水洗トイレ用薬剤供給具としては、例えば図3に示すように液状の薬剤を用いるものが提案されている(特開平2-229333号公報)。すなわち、水洗トイレ用薬剤供給具101は、補助台102と、この補助台102上に配置された含浸体103、この含浸体103上に配置された薬剤容器104とを有している。薬剤容器104には、その内部に液状の薬剤が収容され、下端部に導出孔105が設けられている。
【0003】
かかる構成において使用に際しては、水洗トイレ用薬剤供給具101を貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋106上であって、放水タップ107の直下に配置しておく。そして、放水タップ107から水を放出させると、水が含浸体103上を流下して含浸されている薬剤を溶解させた後、上蓋106に設けられている穴108から貯水タンク内に流入する。この貯水タンク内に流入した薬剤を溶解した水は、次のフラッシュ時に便器内に供給されて洗浄に供される。
【0004】
また、非放水時には、薬剤容器104の導出孔105から導出した薬剤が含浸体103に含浸した後揮散することにより、周囲空間に薬剤効果を発生させることもできる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の水洗トイレ用薬剤供給具にあっては、補助台102は単に、上蓋106に載置される構成であることから、放水タップ107から流下する水の水圧により転倒や位置ずれしてしまう。このため、放水タップ107からの水が含浸体103に上に流下しなくなって、含浸されている薬剤を溶解させることが不可能となり、正常に機能しなくなる。
【0006】
そこで、前記公報に開示され図4に示すように、含浸体103を薬剤容器104よりも遥かに小径にしてその下部に配置するとともに、貯水タンク上蓋106の穴108に遊嵌させた構成も提案されるに至っている。かかる構成によれば、穴108に遊嵌された含浸体103により、水の水圧による転倒や位置ずれを防止することができる。
【0007】
しかしその反面、含浸体103の主要部分が穴108よりタンク内に挿入されていることから、含浸体103から周囲空間への薬剤揮散量が少なく、周囲空間に薬剤効果を発生させることができない。
【0008】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、転倒や位置ずれなく、周囲空間へ十分に薬剤を揮散させつつ、薬剤を溶解させることのできる水洗トイレ用薬剤供給具を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために本発明にあっては、放水タップを備えた貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋上に配置可能な供給具本体と、液状の薬剤を収容するとともにこの薬剤を導出する導出孔が設けられた薬剤容器と、この薬剤容器の前記導出孔から導出された薬液が供給される薬剤保持体とを備え、前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、前記薬剤容器は、前記導出孔を下方にして前記供給具本体に支持され、前記薬剤保持体は、前記供給具本体の底面部上であって、前記薬剤容器に設けられている前記導出孔の下方に配置されている。
【0010】
したがって、供給具本体の底面部に設けられた貯水タンク上蓋の穴に遊嵌する脚部により、転倒が防止されて、適正な使用状態が維持される。また、薬剤容器の導出孔から薬剤保持体に導出された薬剤は、上部開放状である供給具本体から外部に揮散し、これにより周囲空間に十分な薬剤効果が発生する。
【0011】
この状態において放水タップから放水を行うと、該放水タップが貯水タンク上蓋に設けられている穴の直上に位置している場合には、水が薬剤保持体上に直接流下して薬剤を溶解させた後、前記穴から貯水タンク内に流入する。
【0012】
また、放水タップが貯水タンク上蓋に設けられている穴を回避した位置に設けられている場合には、放水タップからの水は、タンク上蓋上に流下した後、底面部に設けられている複数の開口部から流入し、薬剤保持体に導出されている薬剤を溶解させる。しかし、複数の開口部は、左右に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含むので、必ずしも全ての開口部から水が流入するとは限らず、流入する水の量を制御することができる。よって、流入する水の量により、溶解する薬剤の量を制御することができる。
【0013】
このとき、前記脚部が貯水タンク上蓋の穴に遊嵌していることから、放水タップからの水が、底面部に設けられている開口部から流入する際に、供給具本体が水圧を受けても、転倒や位置ずれが防止されて、適正な使用状態が維持される。
【0014】
また、本発明は、前記水を前記開口部内に案内するガイド部材がさらに設けられている。したがって、開口部の面積のみならず、このガイド部材の大きさや角度より、微妙に流入する水の量を制御することができる。よって、流入する水量の微妙な制御により、溶解する薬剤の量をより適正に維持することができる。
【0015】
また、薬剤は、少なくとも芳香性と洗浄性とを備える。したがって、薬剤の揮散により芳香効果が得られ、水への溶解により便器洗浄効果が得られる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態について図にしたがって説明する。すなわち、図1、2に示すように、水洗トイレ用薬剤供給具1は、供給具本体2、含浸体4、及び薬剤容器7とで構成されている。
【0017】
供給具本体2は、貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋106上に配置可能な大きさであって、平面視において矩形であり、図1に示すように左右方向に長い底面部21、前面部22、背面部23及び左右側面部24、25を一体的に有する上面開放状の部材である。底面部21の中心部には、円形孔26が形成され、該円形孔26の周部には、貯水タンク上蓋106に設けられている穴108に遊嵌する複数の長尺脚部27が垂設されている。
【0018】
長尺脚部27の周部には、底面部21と同一高さで放射状に複数の上部リブ28が形成されており、各上部リブ28の間にはこれよりもやや低い位置に複数の下部リブ29が放射状に形成されている。各上部リブ28の長さ方向の略中央部には該上部リブ28と直交する方向に、隣接する下部リブ29間に亙って、ガイド部材としての邪魔板30が突設されている。これにより、上部リブ28と下部リブ29間には、邪魔板30よりも外側の流入用開口部31と、邪魔板30よりも内側の流出用開口部32とが形成されている。
【0019】
さらに、底面部21には、前記両開口部31、32よりも外側に、前記貯水タンク上蓋106に当接する複数の短尺脚部33が垂設され、底面部21の左右両端部には、矩形状の両側開口部35、35が形成されている。
【0020】
一方、前面部22には、上下方向に複数の通気口36が設けられ、左右側面部24、25の内面には、仕切リブ37、37が上下方向に形成されている。
【0021】
前記含浸体4は、底面部21のほぼ全面に配置し得る大きさの板体であって、液体を含浸し得る合成樹脂、あるいは濾紙からなり、供給具本体2の底面部21上に配置されている。
【0022】
なお、この実施の形態においては、薬剤保持体として含浸体4を用いるようにしたが、フィルム等の含浸機能を具備しない部材を薬剤保持体として用いるようにしてもよい。
【0023】
薬剤容器7は、正面視において矩形の容器であって、下端部中央に導出孔71を有し、供給具本体2の前面部22と仕切リブ37、37との間に配置可能な厚さを有している。薬剤容器7の前面及び左右両側面の下部には、供給具本体2の前面部22上縁と左右側面部24、25上縁とに係合する段部72が形成されている。また、前記導出孔71は周部に下方へ突出する突縁を有し、この突縁には軟質樹脂からなる嵌合部材74が取り付けられている。
【0024】
薬剤容器7の内部には、液状の薬剤が収容されており、この薬剤は、各種洗浄剤、漂白剤、酸素剤、殺菌剤、忌避剤、殺虫剤、空気洗浄剤、消臭剤、脱臭剤、芳香剤、ブルー染料等が適宜選択されて混入されてなる。また、使用開始前の状態において薬剤容器の導出孔71は、剥離可能なシールにより閉鎖されている。
【0025】
以上の構成にかかる本実施の形態において、水洗トイレ用薬剤供給具1の使用を開始するに際しては、薬剤容器7の導出孔71からシールを除去した後、天地逆にして供給具本体2にセットする。これより、薬剤容器7内の薬剤は、導出孔71を通流して含浸体4に含浸する。
【0026】
また、段部72が供給具本体2の前面部22上縁と左右側面部24、25上縁とに係合することにより、薬剤容器7は供給具本体2に固定されてセットされる。このセット状態により、図2に示したように、薬剤容器7と供給具本体2の背面部23との間には、大気開放状の開放部38が形成されることとなる。
【0027】
そして、このように薬剤容器7が供給具本体2にセットされたならば、長尺脚部27を貯水タンク式水洗トイレの貯水タンク上蓋106の穴108に遊嵌し、短尺脚部33を穴108の周部にて前記貯水タンク上蓋106に当接させることにより、水洗トイレ用薬剤供給具1が使用状態となる。この使用状態において、含浸体4に含浸している薬剤は、通気口36を介して外部へ自在に揮散し、これにより周囲空間に十分な薬剤効果を発生させることができる。
【0028】
この状態において放水タップ107から放水を行うと、該放水タップ107が貯水タンク上蓋106に設けられている穴108の直上に位置している場合には、水が開放部38より含浸体4上に直接流下して薬剤を溶解させた後、流入用開口部31、流出用開口部32、及び円形孔26から流出し、穴108より貯水タンク内に流下して、貯水タンク内に貯留する。
【0029】
また、放水タップ107が前記穴108を回避した位置に設けられている場合には、放水タップ107からの水は、水はタンク貯水タンク上蓋106の表面に沿って穴108方向に流動する際に、邪魔板30により流動を阻害されて、流入用開口部31から供給具本体2内に流入する。この供給具本体2内に流入した水は、含浸体4に含浸されている薬剤を溶解させ、しかる後に、流出用開口部32及び円形孔26から流出し、穴108より貯水タンク内に流下して、貯水タンク内に貯留する。
【0030】
このとき、放水タップ107から吐出した水は、必ずしもその全てが流入用開口部31から供給具本体2内に流入するとは限らず、該供給具本体2内への流入量は、流入用開口部3の面積、邪魔板30の大きさや角度に応じた量となる。したがって、流入用開口部3の面積、邪魔板30の大きさや角度をチューニングしつつ設計を行うことにより、流入する水の量を制御することができる。よって、流入する水の量により、含浸体4から溶解する薬剤の量を制御して、適正に維持することができる。
【0031】
また、長尺脚部27が貯水タンク上蓋106の穴108に遊嵌していることから、放水タップ107からの水が、流入用開口部31に流入する際、及び邪魔板30に当たる際に水圧を受けても、水洗トイレ用薬剤供給具1が転倒や位置ずれすることなく、適正な使用状態を維持することができる。
【0032】
なお、放水タップ107からの単位時間当たりの放水量が多い場合には、水は流入用開口部31から流入して流出用開口部32及び円形孔26から流出するのみならず、両側開口部35から流入しあるいは流出する。したがって、この場合には、供給具本体2内への水の流入量が増大し、含浸体4からの薬剤の溶解量も増大する。よって、ユーザが放水タップ107からの単位時間当たりの放水量を調整することにより、ユーザ各々が含浸体4からの薬剤の溶解量を調整することもできる。
【0033】
このとき、多量の水が供給具本体2に当たって水圧が生じても、前述のように長尺脚部27が貯水タンク上蓋106の穴108に遊嵌していることから、水洗トイレ用薬剤供給具1が転倒や位置ずれすることなく、適正な使用状態を維持することができる。
【0034】
なお、本実施の形態においては、前面部22に通気口36を設けるようにしたが、これを設けずとも、開放部38からの揮散により、周囲空間に十分な薬剤効果を発生させることができる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、供給具本体の底面部に貯水タンク上蓋の穴に遊嵌する脚部を設けるようにしたことから、転倒や位置ずれを防止して適正な使用状態を維持することができる。また、供給具本体を上部開放状としたことから、薬剤保持体に導出された薬剤を外部に揮散させて、周囲空間に十分な薬剤効果を発生させることができる。よって、転倒や位置ずれなく、周囲空間へ十分に薬剤を揮散させつつ、薬剤を溶解させることが可能となる。
【0036】
また、本発明によれば、放水タップが貯水タンクの上蓋の穴を回避した位置に設けられている場合、放水タップからの単位時間当たりの放水量が多い場合には、水が供給具本体の底面部に設けられている複数の開口部のうち、底面部の中心部及びその周部に設けられている開口部から流入しあるいは流出するのみならず、左右方向に長い底面部の左右両端部に設けられている開口部からも流入しあるいは流出する。したがって、この場合には、供給具本体内への水の流入量が増大し、前記底面部の上部に配置されて薬液容器から液状の薬剤を供給されている薬液保持体からの薬剤の溶解量を増大させることができる。よって、ユーザが放水タップからの単位時間当たりの放水量を調整することにより、ユーザ各々が薬液保持体からの薬剤の溶解量を調整することができる。このとき、多量の水が供給具本体に当たって水圧が生じても、貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が供給具本体の底面部の下部に設けられていることから、水洗トイレ用薬剤供給具が転倒や位置ずれすることなく、適正な使用状態を維持することができる。
よって、水洗トイレ用薬剤供給具の転倒や位置ずれを防止して適正な使用状態を維持しつつ、ユーザ各々が薬液保持体からの薬剤の溶解量を調整することができる。
【0037】
また、放水タップから貯水タンク上蓋上に流下した水を前記開口部内に案内するガイド部材がさらに設けるようにしたことから、開口部の面積のみならず、ガイド部材の大きさや角度より、微妙に流入する水の量を制御することができる。よって、流入する水の量の微妙な制御により、溶解する薬剤の量をより一層適正に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施の形態を示す分解斜視図である。
【図2】
同実施の形態における各部材を結合した状態における図1a-a線矢示断面図である。
【図3】
従来の水洗トイレ用薬剤供給具を示す斜視図である。
【図4】
他の従来の水洗トイレ用薬剤供給具を示す垂直断面図である。
【符号の説明】
1 水洗トイレ用薬剤供給具
2 供給具本体
4 含浸体
7 薬剤容器
21 底面部
27 長尺脚部
30 邪魔板
31 流入用開口部
32 流出用開口部
38 開放部
71 導出孔
106 貯水タンク上蓋
107 放水タップ
108 穴
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1中の「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに、その底面部」を、「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部」に訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項1中の「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに、その底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、」の後に、「前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、」を挿入する。
c.特許請求の範囲の請求項2中の「前記開口部内」を、「前記中心部の周部に設けられた前記開口部内」に訂正する。
d.段落【0009】の「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに、その底面部」を、「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに左右方向に長い底面部を有し、この底面部」に訂正し、「前記供給具本体は、上部開放状に形成されるとともに、その底面部の下部に、前記貯水タンク上蓋に設けられている穴に遊嵌する脚部が設けられ、当該底面部に前記放水タップから前記貯水タンク上蓋上に流下した水が入出する複数の開口部が設けられ、」の後に、「前記複数の開口部は、前記左右方向に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含み、」を挿入する。
e.段落【0012】の「しかし、」の後に、「複数の開口部は、左右に長い底面部の中心部及びその周部に設けられた開口部と左右両端部に設けられた開口部とを含むので、」を挿入する。
f.段落【0017】の「平面視において矩形であり、」の後に、「図1に示すように左右方向に長い」を挿入する。
g.段落【0036】の「いずれかから流入しあるいは流出するのみならず、他の開口部からも流入しあるいは流出する。」を、「底面部の中心部及びその周部に設けられている開口部から流入しあるいは流出するのみならず、左右方向に長い底面部の左右両端部に設けられている開口部からも流入しあるいは流出する。」と訂正する。
異議決定日 2003-06-04 
出願番号 特願2000-163597(P2000-163597)
審決分類 P 1 651・ 121- YA (E03D)
P 1 651・ 536- YA (E03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 長島 和子
鈴木 憲子
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3306807号(P3306807)
権利者 エステー化学株式会社
発明の名称 水洗トイレ用薬剤供給具  
代理人 三好 千明  
代理人 三好 千明  

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