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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01F
管理番号 1083056
異議申立番号 異議2002-72537  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-15 
確定日 2003-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3275466号「積層チップ部品」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3275466号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
本件特許第3275466号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平5-200538号) 平成 5年 8月12日
特許権設定登録 平成14年 2月 8日
特許異議申立(異議申立人:山科朱美子) 平成14年10月15日
取消理由通知 平成15年 3月14日
特許異議意見書・訂正請求書 平成15年 5月27日

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1) 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に
「グリーンシートを複数層に積層した磁性体」とあるのを、
「ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体」と訂正する。
(2) 訂正事項b
明細書の段落【0005】に
「本発明は、グリーンシートを複数層に積層した磁性体」とあるのを、
「本発明は、ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1) 訂正事項a
訂正事項aについては、特許請求の範囲の請求項1におけるグリーンシートの形成方法をドクターブレード法に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
さらに、訂正事項aにおける「ドクターブレード法により形成する点」は、特許明細書の【0006】に記載されているので新規事項には当たらない。したがって、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項b
訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に対応して、これと整合するように発明の詳細な説明の欄を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
さらに、訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立及びこれについての判断
1 本件発明
上記第2で示したように上記訂正は認められるので、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体と前記グリーンシートに形成した内部電極および前記磁性体外面に設けた端子電極を有する積層チップ部品であって、前記磁性体がNi-Cu-Znフェライトであり、酸化ジルコニウムを0.01以上0.5未満(重量%)含有することを特徴とする高強度で絶縁抵抗に優れた積層チップ部品。」

2 特許異議申立の理由及び取消理由の内容
(1) 特許異議申立の理由
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証(特開平6-181114号公報)を提出し、本件発明は、特願平4-334278号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。

(2) 取消理由の内容
取消理由通知の内容も、特許異議申立の理由と同様の趣旨である。

3 先願明細書に記載された発明
先願明細書は、酸化物磁性材料とその製造方法に関するものであり、以下の点が図1〜3と共に記載されている。
【0004】したがって,これらの装置に使用されるインダクタンス素子も小型軽量化が要求されてきている。加えて,自動装着がより容易となる形状に素子を製造する必要が生じている。このような素子は,いわゆる表面実装部品と呼ばれている。
【0006】この様な表面実装部品の有用な製造法のひとつに,各構成材料の粉末を分散したスラリーを使用し,印刷等によって各回路を構成した成形体を,焼成して,インダクタンス素子を形成する方法がある。この方法の場合,電気導体部と磁性フェライト部が独立して形成されている。
【0017】・・・しかもAg導体と一体焼結してインダクタを形成する際,導体の電気抵抗のばらつきを減少できることを発見した。
【0023】また,フェライト材料の電気絶縁性として,直流比抵抗ρDCは1×107Ω・cm以上が望ましい。
【0035】(実施例1)化学組成比が28(Ni0.7・Cu0.3)O・25ZnO・47Fe2O3となるように,酸化鉄(α-Fe2O3)と酸化ニッケル(NiO)と酸化第2銅(CuO)及び酸化亜鉛(ZnO)の粉末を原料とし,これに対し,酸化ジルコニウム(ZrO2)の添加量が0,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5wt%となるように平均粒径約0.2μmの粉末を秤量し,ステンレス製ボールミルにて20時間湿式混合した。
【0037】次に,これら粉砕粉末にPVAを3wt%湿式混合した後,成形圧1ton/cm2で長さ30mmで幅5mmで厚さ1mmの板状に成形した。
【0038】次に,この成形体の板面に,市販されている銀ペースト(粉末粒度3μm以下)をシルクスクリーン印刷にて,幅400μm,厚さ40μmで,成形体の幅方向に30本印刷した。
【0039】次に,この印刷面を別のフェライト成形体で覆い,大気中,徐熱,炉冷にて,900℃で2時間保持し,焼結した。
【0040】次に,これら成形体内部に形成された銀導体の直流抵抗を測定した。その結果を図1に示す。
【0042】(実施例2)実施例1で得たバインダー混合成形用粉末を使用し,成形圧1ton/cm2で外径約20mm,内径約12mm,高さ約8mmの成形体となるように,金型を使用して圧縮成形した。次に,これら成形体を,大気中,徐熱,炉冷にて,900℃で2時間保持し,焼結した。
【0043】次に,これら焼結体に直径0.26mmの絶縁被覆銅線を10回巻線した・・・

4 本件発明と先願明細書に記載された発明との対比・判断
先願明細書には、「Ni-Cu-Znフェライトであり、酸化ジルコニウムを0.01以上0.5未満(重量%)含有する磁性体」に含まれる磁性体が記載されている。
しかし、先願明細書に記載された実施例は、粉体圧縮成形法により成形された厚さ1mmの板状成形体と、高さ約8mmの成形体だけであり、本件発明における「ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体からなる積層チップ部品」に用いた例は、記載されていない。
そして、本件発明は、「Ni-Cu-Znフェライトであり、酸化ジルコニウムを0.01以上0.5未満(重量%)含有する磁性体」を「ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体からなる積層チップ部品」に用いたことにより、「【0007】【発明の効果】本発明によると、本発明に係る積層チップ部品は絶縁抵抗が十分大きく、端子電極のめっき異常析出がほとんど起こらないため、電極端部の剥がれによる外観不良や、信頼性不良が発生しない。また、機械的強度が十分でチップ部品単体での取扱、表面実装時、さらにはハンダ付け後の機械的応力、熱影響による応力に伴い損傷を受けない積層チップ部品が得られる。」という特許明細書記載の効果を奏する。
したがって、本件発明は、上記先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。

5 特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層チップ部品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体と前記グリーンシートに形成した内部電極および前記磁性体外面に設けた端子電極を有する積層チップ部品であって、前記磁性体がNi-Cu-Znフェライトであり、酸化ジルコニウムを0.01以上0.5未満(重量%)含有することを特徴とする高強度で絶縁抵抗に優れた積層チップ部品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チップインダクタ、チップコンデンサ、チップフィルタ等のチップ部品であって、特に高強度で絶縁抵抗に優れた積層チップ部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子機器基板への表面実装技術の急速な進展により、チップ部品の使用量は増大している。そして、チップ部品に要求される性能としてインダンタンス等の基本機能のみならず、電子部品としての信頼性を得るため、絶縁抵抗が大きいことが要求されている。
【0003】
また、耐機械的衝撃性も面実装アセンブリ条件での部品固有の特性を劣化させない対応特性として要求されている。そのためにはチップ部品に所定値以上の機械的強度が要求される(雑誌「M&E 1992年6月号」 第100〜109頁参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のチップ部品では材料特性としての部品表面の絶縁抵抗がロットによりばらつき、端子電極形成時にめっきが異常析出し、電極端部に剥がれが発生し、信頼性が低下するという問題点があった。また、電子部品としての電気特性をシリーズ化するためには、複数種の材料を使用する必要があるが、材料により機械的特性が十分得られないという問題点があった。そこで、本発明は絶縁抵抗が十分高く、且つ機械的強度も十分な積層チップ部品を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ドクターブレード法により形成したグリーンシートを複数層に積層した磁性体と前記グリーンシートに形成した内部電極および前記磁性体外面に設けた端子電極を有する積層チップ部品であって、前記磁性体がNi-Cu-Znフェライトであり、酸化ジルコニウムを0.01以上0.5未満(重量%)含有する高強度で絶縁抵抗に優れた積層チップ部品である。本発明において、前記積層チップ部品はチップインダクタ、チップコンデンサ、チップフィルタ等である。
(作用)
本発明において、酸化ジルコニウムが0.01重量%未満ではその機械的強度の向上効果が不十分であり、他方1.2重量%を越える場合には絶縁抵抗の低下が大きく好ましくない。本発明において、なぜ酸化ジルコニウムが機械的強度と絶縁抵抗の保持に効果があるのかは未だ不明であるが、フェライト粒子の粒界に分散した酸化ジルコニウムがチップ部品の粒界破壊を阻止することがあるためと推測される。また、絶縁抵抗を保持する効果は、酸化ジルコニウムを1.2重量%以下に管理することによりそのイオン電導性による絶縁抵抗の劣化を阻止するものと推測される。
【0006】
【実施例】
以下に、本発明に係るチップ部品の一実施例を実施例に基づいて詳述する。Fe2O3、NiO、CuO、ZnOを主成分とするNi-Cu-Znフェライト粉末に、有機バインダーとしてPVB(ポリビニルブチラール)、可塑剤としてBPBG(ブチルフタリルブチルグリコレート)、有機溶剤としてエタノールおよびブタノール、それに酸化ジルコニウム(ZrO2)を無添加、0.003,0.005,0.01,0.03,0.05,0.1,0.5,1.0,1.2,1.3,1.5,2.0重量%を各々添加して混合し、スラリーを作成した。このスラリーをドクターブレード法によりシリコン処理を行ったポリエステル製のキャリアフィルム上に厚さ100μmのシート状に形成した。これをフィルムから剥離し、約50mm角のシートに切断し、所定の位置にスルーホールを多数形成した。次に、スルーホールが形成されたグリーンシートに、銀ぺーストにより導電パターンを印刷した。次に、前記印刷されたグリーンシートを、所定の大きさに切断し、積層金型内で積層した。次に、これら積み重ねたグリーンシートを、温度120℃、圧力200kg/cm2の条件で熱圧着し、積層体を作製した。次に、積層体を切断機でチップ形状に切り離した。これを、大気中、500℃で脱バインダーを行い、続いて、900℃で1時間焼成した。さらに、銀を主成分とする外部電極を塗布し、600℃で焼き付けた。最後に、前記外部電極上に電解バレルめっきにより、Niめっきおよび半田めっきを施し、端子電極を形成した。以上のような手順で作製した1000個のチップインダクタを外観検査し、端子電極のめっき異常析出量を測定し、最大値を求めた。表1にその結果を示すように、酸化ジルコニアの添加量が1.2重量%以下の場合には異常析出量は150μm以下であり、電極端部が剥がれる等の外観上、信頼性上の問題はない。なお、本発明において酸化ジルコニウムの1.2重量%までの添加はチップインダクタのインダクタンス並びにQ値に影響ないことを確認した。
【表1】

次に、前記1000個のチップインダクタを、縦40mm、横100mmの寸法で、4mmのギャップを隔てて対向する幅6mmのパターンを形成した銅張基板(厚さ1mm)にリフローハンダで固定した後、前記試料板の中央部を直径20mmのボール状先端を有する棒で銅張基板を2mm湾曲させてチップ部品の機械的強度を評価した。表2に結果を示すように、酸化ジルコニウムを0.01重量%以上添加することにより機械的強度が十分改善されることが分かる。以上より、本発明に於けるチップ部品の酸化ジルコニウム添加量は0.01〜1.2重量%が好ましい。
【表2】

【0007】
【発明の効果】
本発明によると、本発明に係る積層チップ部品は絶縁抵抗が十分大きく、端子電極のめっき異常析出がほとんど起こらないため、電極端部の剥がれによる外観不良や、信頼性不良が発生しない。また、機械的強度が十分でチップ部品単体での取扱、表面実装時、さらにはハンダ付け後の機械的応力、熱影響による応力に伴い損傷を受けない積層チップ部品が得られる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-06-20 
出願番号 特願平5-200538
審決分類 P 1 651・ 161- YA (H01F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 橋本 武
小田 裕
登録日 2002-02-08 
登録番号 特許第3275466号(P3275466)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 積層チップ部品  

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