• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  D06N
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06N
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  D06N
管理番号 1083118
異議申立番号 異議2001-71750  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2003-10-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-18 
確定日 2003-06-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3117996号「銀付調人工皮革およびその製造方法ならびにその二次製品」の請求項1ないし28に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3117996号の請求項1ないし26に係る特許を維持する。 
理由
I.手続の経緯
本件特許第3117996号は、平成6年3月10日に国際出願され、平成12年10月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、株式会社クラレより特許異議の申立てがされ、平成14年6月28日付け取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月6日に訂正請求がされたものである。

II.通知された取消理由
平成14年6月28日付け取消理由は、概ね、以下のとおりである。
1.本件に係る発明は、参考資料1を参酌すると、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものである。(以下、「取消理由1」という。)

刊行物1:特開昭49-108203号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平3-97976号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特公昭56-10345号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭63-243383号公報(同甲第4号証)
刊行物5:特開平4-308278号公報(同甲第5号証)
刊行物6:特開平4-108188号公報(同甲第6号証)
刊行物7:特開昭64-85377号公報(同甲第8号証)
参考資料1:特開平2-154078号公報(同参考資料1)

2.本件に係る特許は、明細書の記載が不備な、特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対して、特許とされたものである。
具体的には、特許査定時の本件請求項20の記載によれば、該請求項に係る発明における、多孔質ポリウレタン層の表面に塗布する「混合液」には「ポリウレタン」が必ず含まれることになるが、発明の詳細な説明に記載された各実施例ではポリウレタンを混合した混合液を塗布しておらず、請求項20の記載と実施例の記載とは一致していないので、特許請求の範囲の記載からは発明の構成に欠くことのできない事項が不明であり、また、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施し得る程度に発明の構成が記載されていない、というものである。(以下、「取消理由2」という。)

III.平成14年9月6日に請求された訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

ア.訂正事項a
明細書の【特許請求の範囲】の記載について、
「1.通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通している
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
2.該非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
3.該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在する請求の範囲第1項または第2項記載の銀付調人工皮革。
4.該基材の厚さが、0.2〜0.6g/cm3の嵩性において、0.3mm〜2.0mmの範囲である請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
5.該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さが、0.03mm〜0.6mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
6.該非孔質ポリウレタン被膜の厚さが、0.001mm〜0.02mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
7.該基材の厚さ(d1)、該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さ(d2)および該非孔質ポリウレタン被膜の厚さ(d3)が、以下の関係(1)および(2)を満足する請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
(決定注;関係(1)および(2)は省略。)
8.該通気性シート状繊維集合体がポリエステル不織布、ナイロン不織布またはポリエステルとナイロンとの混合不織布である請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
9.該非孔質ポリウレタン被膜が撥水性被膜である請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
10.該撥水性被膜がフッ素変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
11.該撥水性被膜がシリコーン変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
12.通気度が0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項〜第11項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
13.透湿度が2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項〜第12項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
14.該非孔質のポリウレタン被膜の表面にエンボス加工が施されている請求の範囲第1項〜第13項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
15.甲皮部が、請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された靴。
16.スポーツシューズである請求の範囲第15項記載の靴。
17.本体部が、請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された手袋。
18.座部および背当部のいずれか一方または両方が、請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された椅子。
19.少くとも一部が、請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された衣服。
20.通気性のシート状繊維集合体基材の少なくとも一面に、内部に該基材との接触面から延在する連通微細孔を有し、表面には実質的に開放孔を有しない多孔質ポリウレタン層を固着し、該内部に連通孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンと、良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤との混合溶剤または良溶剤と非溶剤との混合溶剤のいずれかの混合液を、多数散在する点状に塗布して該表面に多数の開放孔を発生させ、次いで、該表面に仕上ポリウレタンを適用することによって非孔質のポリウレタン被膜を上記多孔質ポリウレタン層の全面に形成することを特徴とする請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
21.該非孔質ポリウレタン被膜を該多孔質ポリウレタン層の全面に形成するとともに、該開放孔の内壁面に沿っても、該開放孔を閉塞することなく延在せしめ、それにより狭窄開放孔を形成する請求の範囲第20項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
22.グラビアメッシュロールを用いてポリウレタンの混合液を該多孔質ポリウレタン層の表面に、多数散在する点状に塗布する請求の範囲第20項または第21項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
23.該グラビアメッシュロールのメッシュの大きさが70〜200メッシュの範囲にある請求の範囲第22項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
24.該グラビアメッシュロールの塗布圧が0.1〜10kg/cm2の範囲にある請求の範囲第22項または第23項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
25.該開放孔の直径が5〜40μmの範囲にある請求の範囲第20項〜第24項のいずれかに記載の銀付調人工皮革の製造方法。
26.内部に微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に塗布するポリウレタン混合液が、ポリウレタンと、トルエン、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールおよび酢酸エチルの中から選ばれた少くとも一種の溶剤との混合液である請求の範囲第20項〜第25項のいずれかに記載の銀付調人工皮革の製造方法。
27.内部に微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に塗布するポリウレタン混合液の粘度が80〜200センチポイズの範囲にある請求の範囲第20項〜第26項のいずれかに記載の銀付調人工皮革の製造方法。
28.微細孔質構造のポリウレタン層の表面に塗布する塗料の塗布量が、固形分として、3〜20g/m2の範囲にある請求の範囲第20項〜第27項のいずれかに記載の銀付調人工皮革の製造方法。」とあるのを、
「【請求項1】通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項2】通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項3】非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項4】該基材の厚さが、0.2〜0.6g/cm3の嵩性において、0.3mm〜2.0mmの範囲である請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項5】該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さが、0.03mm〜0.6mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項6】該非孔質ポリウレタン被膜の厚さが、0.001mm〜0.02mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項7】該基材の厚さ(d1)、該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さ(d2)および該非孔質ポリウレタン被膜の厚さ(d3)が、以下の関係(1)および(2)を満足する請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
(決定注;関係(1)および(2)は省略。)
【請求項8】該通気性シート状繊維集合体がポリエステル不織布、ナイロン不織布またはポリエステルとナイロンとの混合不織布である請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項9】該非孔質ポリウレタン被膜が撥水性被膜である請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項10】該撥水性被膜がフッ素変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
【請求項11】該撥水性被膜がシリコーン変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
【請求項12】通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項13】通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項14】通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第2項記載の銀付調人工皮革。
【請求項15】通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第3項記載の銀付調人工皮革。
【請求項16】通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項17】透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第12項記載の銀付調人工皮革。
【請求項18】透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第13項記載の銀付調人工皮革。
【請求項19】透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第14項記載の銀付調人工皮革。
【請求項20】透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第15項記載の銀付調人工皮革。
【請求項21】該非孔質のポリウレタン被膜の表面にエンボス加工が施されている請求の範囲第1項〜第20項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項22】甲皮部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された靴。
【請求項23】スポーツシューズである請求の範囲第22項記載の靴。
【請求項24】本体部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された手袋。
【請求項25】座部および背当部のいずれか一方または両方が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された椅子。
【請求項26】少くとも一部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された衣服。」と訂正する。

イ.訂正事項b
明細書の【発明の名称】の記載について、
「銀付調人工皮革およびその製造方法ならびにその二次製品」とあるのを、
「銀付調人工皮革およびその二次製品」と訂正する。

ウ.訂正事項c
明細書記載の「本発明は、・・・銀付調人工皮革およびその製造方法、ならびに、そのような銀付調人工皮革が少くとも一部に配された・・・二次製品に関する。」(明細書1頁6〜10行、特許第3117996号公報3頁5欄9〜13行)を、
「本発明は、・・・銀付調人工皮革およびそのような銀付調人工皮革が少くとも一部に配された・・・二次製品に関する。」と訂正する。

エ.訂正事項d
明細書記載の「本発明は、さらに他の一面において、通気性のシート状繊維集合体からなる基材の少なくとも一面に、内部に該基材との接触面から延在する連通微細孔を有し、表面には実質的に開放孔を有しない多孔質ポリウレタン層を固着形成し、該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンと良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤との混合溶剤または良溶剤と非溶剤との混合溶剤のいずれかとの混合液を、多数散在する点状に塗布して該表面に多数の開放孔を発生させ、次いで、該表面に仕上ポリウレタンを適用することによって非孔質のポリウレタン被膜を多孔質ポリウレタン層の全面に形成することを特徴とする上記銀付調人工皮革の製造方法を提供する。この製造方法において、好ましくは、上記のように非孔質ポリウレタン被膜を多孔質ポリウレタン層の全面に形成するとともに、該開放孔の内壁面に沿っても、該開放孔を閉塞することなく、該非孔質ポリウレタン被膜を延在せしめ、それにより狭搾開放孔を形成する。」(明細書5頁5〜20行、特許第3117996号公報4頁7欄18〜35行)を削除する。 なお、訂正請求書には「明細書4頁23行」(9頁5行)とあるが、「明細書5頁5行」の誤記と認め訂正事項dを認定した。

オ.訂正事項e
明細書記載の「本発明の銀付調人工皮革は、通気度が好ましくは0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hr、より好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrであり、透湿度が好ましくは2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hr、より好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrである。」(明細書15頁24行〜16頁3行、特許第3117996号公報7頁13欄6〜10行)を、
「本発明の銀付調人工皮革は、通気度が好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrであり、透湿度が好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrである。」と訂正する。

カ.訂正事項f
明細書記載の「確実に多孔質ポリウレタン層の表面に開放孔を出現させるには、多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンと、その良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤、または良溶剤と非溶剤の混合溶剤のいずれかとの混合液を、多数散在せる点状に塗布する。」(明細書8頁18〜22行、特許第3117996号公報5頁9欄12〜16行)を、
「確実に多孔質ポリウレタン層の表面に開放孔を出現させるには、多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンの良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤、または良溶剤と非溶剤の混合溶剤のいずれかとの混合液を、多数散在せる点状に塗布する。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ここでは、訂正前の請求項1については旧【請求項1】と、また、訂正後の【請求項1】については新【請求項1】といい、他の請求項についても同様とする。

(一)訂正事項aの目的について
訂正事項aは、旧【請求項1】並びに旧【請求項20】乃至旧【請求項28】を削除し、旧【請求項2】乃至旧【請求項19】を新【請求項1】乃至新【請求項26】とするものであって、ここにおける請求項の削除は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものである。新【請求項1】乃至新【請求項26】とする、それぞれの訂正については、以下に、見ていくことにする。

(1)新【請求項1】とする訂正事項について
新【請求項1】は、旧【請求項1】を削除したことに伴って、旧【請求項1】を引用する形式で記載された旧【請求項2】を、独立形式で記載されたものとするものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

(2)新【請求項2】及び新【請求項3】とする訂正事項について
旧【請求項3】には、旧【請求項1】を引用して記載された発明部分と、同じく旧【請求項2】を引用して記載された発明部分とが記載されていたものである。
そして、新【請求項2】は、旧【請求項1】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項1】を削除したことに伴って、これを独立形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項3】に係る発明の構成である非閉塞開放孔について、これが形成する開口部の面積が全体面積の1%以下であると限定して特定するものである。
また、新【請求項3】は、旧【請求項2】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項2】が新【請求項1】と訂正されたのに従って(先の「(1)」、参照。)、新【請求項1】を引用する形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項3】に係る発明の構成である非閉塞開放孔について、これが形成する開口部の面積が全体面積の1%以下であると限定して特定するものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(3)新【請求項4】乃至新【請求項11】とする訂正事項について
これら新【請求項】は、旧【請求項】と文言において、変更はないものであるが、旧【請求項1】が削除され、合わせて「(1)」及び「(2)」で先に述べた訂正によって、その内容が、実質的に、訂正されたものである。
旧【請求項4】は、先行する旧【請求項】の全て、具体的には、旧【請求項1】乃至旧【請求項3】を引用する形式で記載されていたものである。そして、新【請求項4】は、旧【請求項4】を由来とし、旧【請求項1】乃至旧【請求項3】を由来として新【請求項1】乃至新【請求項3】が訂正された(先の「(1)」及び「(2)」、参照。)のを受け、これら先行する新【請求項】の全てを引用する形式で記載されたものとし、また、新【請求項5】乃至新【請求項9】も、同様に、それぞれに先行する新【請求項】の全てを引用する形式で記載されたものとするものである。
また、旧【請求項10】及び旧【請求項11】は、旧【請求項9】を引用する形式で記載されていたものである。そして、上で述べたように、旧【請求項9】を由来として新【請求項9】が訂正されたのを受け、新【請求項9】を引用する形式で記載されたものとするものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(4)新【請求項12】乃至新【請求項15】とする訂正事項について
旧【請求項12】には、旧【請求項1】を引用して記載された発明部分と、同じく旧【請求項2】を引用して記載された発明部分、旧【請求項3】を引用して記載された発明部分、更には旧【請求項4】乃至旧【請求項11】を引用して記載された発明部分が記載されていたものである。
そして、新【請求項12】は、旧【請求項1】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項1】を削除したことに伴って、これを独立形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項12】に係る発明の構成である通気度について、「0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
また、新【請求項13】は、旧【請求項2】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項2】が新【請求項1】と訂正された(先の「(1)」、参照。)のに伴って、新【請求項1】を引用する形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項12】に係る発明の構成である通気度について、「0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
また、新【請求項14】及び新【請求項15】は、旧【請求項3】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項3】を由来として新【請求項2】及び新【請求項3】が訂正された(先の「(2)」を参照。)のを受け、新【請求項2】又は新【請求項3】を引用する形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項12】に係る発明の構成である通気度について、「0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
更に、旧【請求項4】乃至旧【請求項11】を引用して記載された上記発明部分は削除されたものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(5)新【請求項16】乃至新【請求項20】とする訂正事項について
旧【請求項13】には、旧【請求項1】を引用して記載された発明部分と、同じく旧【請求項2】乃至旧【請求項11】を引用して記載された発明部分、旧【請求項12】を引用して記載された発明部分が記載されていたものである。
そして、新【請求項16】は、旧【請求項1】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項1】を削除したことに伴って、これを独立形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項13】に係る発明の構成である透湿度につき、「2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
また、新【請求項17】乃至新【請求項20】は、旧【請求項12】を引用して記載された上記発明部分につき、旧【請求項12】を由来として新【請求項12】乃至新【請求項15】が訂正された(先の「(4)」を参照。)のを受け、新【請求項12】、新【請求項13】、新【請求項14】又は新【請求項15】を引用する形式で記載されたものとし、更に、旧【請求項13】に係る発明の構成である透湿度につき、「2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
更に、旧【請求項2】乃至旧【請求項11】を引用して記載された上記発明部分は削除されたものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(6)新【請求項21】とする訂正事項について
旧【請求項14】は、旧【請求項1】乃至旧【請求項13】を引用して記載されていたものである。
そして、新【請求項21】は、旧【請求項14】を由来とし、旧【請求項1】乃至旧【請求項13】を由来として新【請求項1】乃至新【請求項20】が訂正された(先の「(1)」乃至「(5)」、参照。)のを受け、新【請求項1】乃至新【請求項20】を引用する形式で記載されたものとするものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(7)新【請求項22】、新【請求項24】乃至新【請求項26】とする訂正事項について
旧【請求項15】、旧【請求項17】乃至旧【請求項19】は、旧【請求項1】乃至旧【請求項14】を引用して記載されていたものである。
そして、新【請求項22】、新【請求項24】乃至新【請求項26】は、旧【請求項15】、旧【請求項17】、旧【請求項18】又は【請求項19】を由来とし、旧【請求項1】乃至旧【請求項14】を由来として新【請求項1】乃至新【請求項21】が訂正された(先の「(1)」乃至「(6)」を参照。)のを受け、新【請求項1】乃至新【請求項21】を引用する形式で記載されたものとするものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(8)新【請求項23】とする訂正事項について
旧【請求項16】は、旧【請求項15】を引用して記載されていたものである。
そして、新【請求項23】は、旧【請求項16】を由来とし、旧【請求項15】が新【請求項22】に訂正された(先の「(7)」を参照。)のを受け、新【請求項22】を引用する形式で記載されたものとするものである。
以上のことから、当該訂正事項は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。

(二)訂正事項b乃至eの目的について
訂正事項b乃至eは、訂正事項aと整合を図るものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

(三)訂正事項fの目的について
訂正前の本件特許明細書には、以下の記載が認められ、訂正後のものについても同じ記載が認められるものである。

「実施例1
・・・。
開放孔発現処理
基体-1の多孔質ポリウレタン層の表面に、メチルエチルケトン40%およびジメチルホルムアミド60%の混合液をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で4mg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-1の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約30μmの開放孔が無数に形成されていた。」(訂正前の明細書17頁7〜25行、特許第3117996号公報7頁13欄41行〜14欄9行)
「実施例2
・・・。
開放孔発現処理
基体-2の多孔質ポリウレタン層の表面に、メチルエチルケトン30%およびジメチルホルムアミド70%の混合液をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で3kg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-2の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約25μmの開放孔が無数に形成されていた。」(訂正前の明細書19頁5〜25行、特許第3117996号公報7頁14欄43行〜8頁15欄14行)
「実施例3
開放孔発現処理
実施例2において作成した開放孔発現処理前の基体-2の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン30%およびジメチルホルムアミド70%の混合液をグラビア塗布機(200メッシュのロール使用)で5mg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-3の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約15μmの開放孔が無数に形成されていた。」(訂正前の明細書21頁10〜18行、特許第3117996号公報8頁16欄2〜10行)
「実施例4
実施例2で作成した開放孔発現処理済みの基体-2の多孔質ポリウレタン層表面に・・・、人工皮革-4を得た。」(訂正前の明細書22頁14〜21行、特許第3117996号公報8頁16欄31〜39行)
「実施例5
実施例1で作成した基体-1(開放孔発現処理なしのもの)の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン50%、ジメチルホルムアミド50%の混合液を、グラビア塗布機(200メッシュのロールで、かつメッシュ部が60%のものを使用)を用い、4kg/cm2の圧力で塗布乾燥した。得られた基体-1の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約15μmの開放孔が無数に形成されていた。」(訂正前の明細書25頁20行〜26頁2行、特許第3117996号公報9頁18欄20〜28行)

これらの記載は、発明の詳細な説明に記載された実施例に係わり、その開放孔発現処理についてのものであって、これらの記載によると、開放孔発現処理をポリウレタンとその溶剤との混合液ではなく、ポリウレタンの溶剤を塗布して実施していることがうかがえる。一方、訂正前の本件特許明細書の記載(明細書8頁18〜22行、特許第3117996号公報5頁9欄12〜16行)において、「ポリウレタンと、その良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤、または良溶剤と非溶剤の混合溶剤のいずれかとの混合液を塗布する」旨の記載内容は、上で述べた実施例の内容と齟齬が認められ、そして、発明の詳細な説明によれば、開放孔発現処理に係る実施例の全てにおいて、該処理は、ポリウレタンを含まない溶剤を塗布することで記載が統一されているから、訂正前の本件特許明細書の上記記載は、「ポリウレタンの良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤、または良溶剤と非溶剤の混合溶剤のいずれかとの混合液を塗布する」の内容を意味していたものといえる。
してみると、訂正事項fは、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

(四)新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
訂正事項aの中の、新【請求項2】及び新【請求項3】、新【請求項12】乃至新【請求項15】並びに新【請求項16】乃至新【請求項20】とする訂正事項についてみると、これらは、先に「(一)」の「(2)」、「(4)」又は「(5)」で述べたように、新【請求項2】及び新【請求項3】は、非閉塞開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下であると、新【請求項12】乃至新【請求項15】は、通気度について「0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある」と、又、新【請求項16】乃至新【請求項20】は、透湿度について「2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hrの範囲にある」とあったものを「8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある」と限定して特定するものである。
そして、これら特定された事項は、訂正前の本件特許明細書の記載である「開放孔の数が多過ぎると、防汚性、耐摩耗性などの面で問題となる。開放孔の数の上限の目安としては、開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.1%〜0.3%である。1%を超えると開放孔の大きさ、数にかかわらず耐摩耗性および防汚性が極端に低下してくるので好ましくない。 本発明の銀付調人工皮革は、通気度が好ましくは0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hr、より好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrであり、透湿度が好ましくは2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hr、より好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrである。」(明細書15頁18行〜16頁3行、特許第3117996号公報6頁12欄49行〜7頁13欄10行)に記載の事項を根拠としていると認められるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたもので、また、ここで述べた訂正事項以外の訂正事項a、更には、訂正事項b乃至fも、その訂正の目的からして、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかで、更に、いずれもが、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.むすび
上記訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

IV.特許異議の申立てについての判断

1.本件発明
「本件請求項1乃至26に係る発明」(以下、「本件発明1乃至26」という。)は、訂正後の本件特許明細書の請求項1乃至26に記載されたとおりのものと認める。(「III」、「1」の「ア」、参照。)

2.特許異議の申立ての概要

(一)本件に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、本件に係る特許は、同項の規定に違反して特許を受けたものである。(以下、「申立1」という。)

(二)本件に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第1乃至8号証及又は参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものである。(以下、「申立2」という。)

(三)本件に係る発明は、その出願前の出願に係る甲第9号証の発明と同一であるから、本件に係る特許は、特許法第39条第1項の規定に違反して特許を受けたものである。(以下、「申立3」という。)
甲第1乃至9号証及び参考資料1は以下のとおりである。

甲第1号証:特開昭49-108203号公報
甲第2号証:特開平3-97976号公報
甲第3号証:特公昭56-10345号公報
甲第4号証:特開昭63-243383号公報
甲第5号証:特開平4-308278号公報
甲第6号証:特開平4-108188号公報
甲第7号証:「図説 繊維の形態(繊維学会編)」1983年8月1日、株式会社朝倉書店発行、256〜257頁
甲第8号証:特開昭64-85377号公報
甲第9号証:特願平5-96459号(特許3071337号公報、参照。)
参考資料1:特開平2-154078号公報

3.取消理由の妥当性についての判断
ここでは、特許異議の申立てについての判断に先だって、取消理由の妥当性について見ていくことにする。

(一)取消理由1について

(1)刊行物及び参考資料1に記載された事項

1)刊行物1:特開昭49-108203号公報(甲第1号証に同じ。)

ア.「実施例2
ポリエステルポリウレタン85部、ニトロセルロース5部、ソルビタンモノステアレート2部、変性ポリアミド8部からなる組成物の溶液をポリエチレンシート上に固体量で5g/m2の量を塗布し、乾燥して得た皮膜上に、ポリウレタンに対して8%の量のオクタデシルアルコールを含むポリエステルポリウレタン13%DMF溶液をポリウレタン量で100g/m2の量を流延し、20秒間放置後30%DMF水溶液、温度55℃の第1段凝固浴中で10秒間凝固し、次いで30%DMF水溶液、温度30℃の第2段凝固浴中に連続して導き、凝固が完了するまで放置した。凝固が完了後温水洗浄、黒色染料を溶解したメタノ-ル溶液で洗浄と染色を同時に行なってから鏡面ロールで乾燥し、多孔性シート状物を造った。
得られた多孔性シート状物は凝固時の表面側は比較的緻密なスキン層があり、その下にミクロな気孔の多孔構造層が全体厚みの約1/4の厚みを占め、その下にはほぼ裏面に達するマクロな縦に割れた気孔で区切られて、あたかも柱状構造をしたポリウレタンで形成された層であり、その密度0.25g/cm2の多孔性シート状物である。
この多孔性シート状物の表面を#180サンドペーパーでバフ掛けしてスキン層のほぼ全部を除去し、次いで多孔性シート状物の裏面(凝固時に支持体に接した面)にカーボンブラックを添加したポリウレタン溶液からなる表面仕上剤をグラビヤロールにて塗布し、約20秒放置後加熱した鏡面ベルトに密着し、乾燥し、冷却した後ベルトから剥離して表面着色仕上面を造った。そして実施例1の基体Aの平滑面にポリウレタン-DMF溶液で多孔性シート状物のスキン層除去面を貼り合わせ、地生調エンボスを施して皮革様シート状物を造った。このものの表面には孔径約15〜30μのミクロホールが約2500コ/cm2あり、透湿度1690g/m2/day、透気度42秒、耐水度120cm、開角度145度で紳士靴にして着用してもむれ感がなく、またゴム感も感じられなかった。」(3頁右上欄下から6行〜右下欄13行)

2)刊行物3:特公昭56-10345号公報(甲第3号証に同じ。)

イ.「実施例1
ポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマーの濃度13.5%になるようにジメチルホルムアミド(以下DMFとする)に溶解し、気孔構造調節剤としてオクタデシルアルコールをポリウレタンエラストマーに対して10%、凝固調節剤として水を溶液に対して4%をそれぞれ添加して組成液を調整し、温度55℃に保った。
一方、支持体であるポリエチレンシートを温度50℃に加温し、上記組成液をポリウレタン量として100g/m2の量を流延法で塗布した後、30%DMF水溶液、温度50%に設定した第1段凝固浴中で12秒間凝固し、次いで30%DMF水溶液、温度27℃に設定した第2段凝固浴中に連続して導入し、凝固を完結せしめた。凝固終了後水洗し、メタノール洗浄し、次いで染料を溶解したメタノール中で溶剤染色して黒の多孔質シート物を得、そのシート物を幅を固定して乾燥した。
この多孔質シート物は凝固時の表面側に微細気孔の多孔構造層があり、その下部には巨大な縦割れ気孔で区切られた重合体の柱状構造で構成された層からなる多孔質シート物である。このシート物を凝固時の表面側に特殊形態の繊維からなる不織絡合体に含浸され多孔質に凝固されたポリウレタンエラストマ-からなる基体を貼り合わせてシート物とした。
表面(決定注;この「表面」は「裏面」の誤記と認める。)(凝固時に支持体に接していた面)には凝固で生じた大小の気孔が数10万個/cm2あり、この面にポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマ-20%DMF溶剤に黒染料をポリウレタン量に対して10%添加した粘度約70ポイズ/30℃の組成液を140メッシュのグラビヤロールで1段塗布し、温度21℃、相対湿度70%の雰囲気に約3秒間放置し、ポリエチレンテレフタレートシートの平滑面に密着させ、135℃で10分間乾燥して塗布面を固定した。次いでべースより剥離し、着色グラビヤおよびエンポシングを行なって皮革様シート物とした。このシート物の表面には孔径約15〜40μのミクロホールが約4300コ/cm2あり、それより小さな気孔はほとんと塞がり、発色性、耐屈曲性、そして表面強度に優れ、かつ透湿度はJIS‐K6549に基づいて測定して1850g/day(決定注;「g/day」は「g/m2/day」の誤記と認められる。)、透気度3.5分であって、折り曲げしわはカーフ様の細かいものであった。またこのシート物を靴甲革用として製靴したものはむれ感のない靴がえられた。」(3頁左欄1行〜右欄2行)

ウ.「実施例2
実施例1で多孔質シート物と基体とを貼り合わせて造ったシート物の表面(決定注;この「表面」は「裏面」の誤記と認める。)に黒下塗りインクをグラビヤ印刷法で2段塗布し、続いて黒染料入りポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマ-20%DMF溶液を130メッシュのグラビヤロールで1段塗布し、温度25℃、相対湿度60%の雰囲気に約3秒間放置し、ポリエチレンテレフタレートの平滑面に密着させ、温度85℃で10分間乾燥し、次いでベースシートより剥離して更に80℃で10分間乾燥した後、黒着色硝化面ラツカー溶液を200メッシュのグラビヤロールで塗布し、エンボシングして得た皮革様シート物は、表面に孔径約10〜30μのミクロホールが約5900コ/cm2あり、その透湿度1780g/m2/dayであり、外観、折り曲げしわ、ドレープ性が力ーフ調で、性能の優れたシート物が得られた。」(3頁右欄3〜20行)

エ.「実施例4
ポリエチレンアジペートーポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマーの15%DMF溶液に、気孔調節剤、凝固調節剤を添加した組成液をポリエチレンシート上に流延し、凝固浴条件の異なる2つの浴を連続して通過させて、表面側に比較的繊密な気孔構造の層が全体厚みの約1/4の厚さを占め、その下部にはベース面に及ぶ縦割れ気孔が形成した特殊気孔の層がある多孔質シート物を得て、この多孔質シート物の凝固時べースに接していた面(裏面という)には不規則な形状の約0.1〜60μの大きさの孔が約150,000コ/cm2もあり、その中、孔径5〜60μのものが約5000コ/cm2あった。この多孔質シート物の裏面の孔を整形するために、ポリカプロラクトン系ポリウレタンエラストマー(イソシアネート基による窒素量5.2%)20%DMF溶液を140メッシュグラビヤロールで約10g/m2での液量を塗布し、約3秒間放置後ポリエステルシート面に密着し、温度140℃で5分間乾燥して固定した。ベースより剥離した多孔質シート物の表面は、極めて小さな気孔は塞がり、不規則な孔は円形になり、そして孔径的10〜30μ、孔数が約4500コ/cm2のミクロホールを有した表面となった。この多孔質シート物の凝固時の表面を軽度のバフ掛けした後基体に貼り合わせて仕上げたものは、極めて皮革に類似したシート物となり、透湿度1870g/m2/day透気度約5分、耐水度140cmを有する優れたシート物である。」(4頁左欄13行〜右欄末行)

オ.「本発明の多孔高分子物質のシート物表面に高分子物質溶液を塗布し、その塗布面をベース面に密着させて固定させることの効果は、凝固時に形成された極めて小さい孔を塞ぎ、それによつて表面発色性、表面強度耐屈曲性などの諸性能を向上させるにある。すなわち、多孔高分子物質のシート物表面にある不要な微細孔を塞ぎ、気孔壁を強化することと、所望する大きさのミクロホールは塞ぐことなく丸みをもった孔形に整形することにある。」(2頁右欄32〜41行)

3)その他の刊行物及び参考資料
刊行物2(特開平3-97976号公報、甲第2号証に同じ。)には透湿性および柔軟性に優れた人工皮革に、刊行物4(特開昭63-243383号公報、甲第4号証に同じ。)には人工皮革の製造方法に、刊行物5(特開平4-308278号公報、甲第5号証に同じ。)には銀付人工皮革に、刊行物6(特開平4-108188号公報、甲第6号証に同じ。)には高透湿性合成皮革に、刊行物7(特開昭64-85377号公報、甲第8号証に同じ。)には皮革様シートに、そして、参考資料1(特開平2-154078号公報、申立人の提出した参考資料1に同じ。)には皮革様シートの製造法に係る発明が、それぞれ、記載されている。

(2)判断

1)本件発明1について
刊行物1には、記載アによると、「ポリエステルポリウレタンを含む組成物の溶液をシート上に塗布し、乾燥して得た皮膜上に、ポリエステルポリウレタン溶液を流延し、凝固、乾燥して多孔性シート状物とし、該多孔性シート状物のスキン層を除去し、次いで多孔性シート状物の凝固時に支持体に接した面(裏面)にポリウレタン溶液からなる表面仕上剤を塗布し、該裏面を鏡面ベルトに密着し、乾燥し、その後、該鏡面ベルトから剥離し、基体に多孔性シート状物のスキン層除去面を貼り合わせ、地生調エンボスを施した皮革様シート状物であって、該皮革様シート状物は、その表面には孔径約15〜30μのミクロホールが約2500コ/cm2あり、透湿度1690g/m2/day、透気度42秒の物性を有するものに係る発明」(以下、「刊1例2発明」という。)が記載されていると認められる。
また、刊行物3には、記載イによると、「ポリウレタンエラストマーを含む組成液を流延し、凝固し、乾燥して多孔性シート状物とし、該多孔質シート物の凝固時に支持体に接していない面(表面)に基体を貼り合わせてシート物となし、凝固時に支持体に接していた面(裏面)に、ポリウレタンエラストマーの組成液を塗布し、その塗布した面を平滑面に密着し、乾燥して固定し、その後、平滑面より剥離し、着色グラビヤおよびエンボシングを行なった皮革様シート物であって、該皮革様シート物は、その表面に孔径約15〜40μのミクロホールが約4300コ/cm2あり、それより小さな気孔はほとんと塞がり、透湿度はJIS‐K6549に基づいて測定して1850g/m2/dayで透気度3.5分の物性を有するものに係る発明」(以下、「刊3例1発明」という。)が、記載ウによると、「ポリウレタンエラストマーを含む組成液を流延し、凝固し、乾燥して多孔性シート状物とし、該多孔質シート物の凝固時に支持体に接していない面(表面)に基体を貼り合わせてシート物となし、凝固時に支持体に接していた面(裏面)に、ポリウレタンエラストマー溶液を塗布し、その塗布した面を平滑面に密着し、乾燥し、その後、平滑面より剥離して、乾燥後、ラツカ-溶液を塗布し、エンボシングして得た皮革様シート物であって、該皮革様シート物は、その表面に孔径約10〜30μのミクロホールが約5900コ/cm2あり、透湿度1780g/m2/dayの物性を有するものに係る発明」(以下、「刊3例2発明」という。)が記載されていると認められる。
更に、刊行物3には、記載エによると、「ポリウレタンエラストマーを含む組成液を流延し、凝固して得た多孔質シート物の、凝固時にべースに接していた面(裏面)に、ポリウレタンエラストマー溶液を塗布し、その塗布した面をポリエステルシート面に密着し、乾燥して固定し、その後、ポリエステルシート面より剥離し、凝固時にべースに接していない面(表面)に基体を貼り合わせて仕上げたシート物であって、該シート物は、孔径約10〜30μ、孔数が約4500コ/cm2のミクロホールの表面を有し、透湿度1870g/m2/dayで透気度約5分の物性を有するものに係る発明」(以下、「刊3例4発明」という。)が記載されていると認められる。

先ず、刊3例4発明についてみると、これのミクロホールは、本件発明1の非閉塞開放孔に対応し、直径が10〜30μであって、しかもその数が約4500コ/cm2であることがうかがえるものの、その直径に対するその数の分布は刊行物3の記載から伺い知ることはできないから、上記ミクロホールは、その数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあるということはできない。また、刊1例2発明、刊3例1発明及び刊3例2発明についてみると、これらのミクロホールは、本件発明1の非閉塞開放孔に対応し、刊1例2発明については孔径約15〜30μのミクロホールが約2500コ/cm2あること、刊3例1発明については孔径約15〜40μのミクロホールが約4300コ/cm2あること、そして、刊3例2発明については孔径約10〜30μのミクロホールが約5900コ/cm2あることがうかがえるものの、これら孔径の範囲に含まれないものが、それぞれの例において更に存在しているのか否かが不明であり、しかも、刊3例4発明についてみてきたのと同様に、直径に対する数の分布は刊行物1や刊行物3の記載から伺い知ることはできないから、これらの発明において、そのミクロホールは、その数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあるということはできない。してみると、本件発明1は、「刊1例2発明、刊3例1発明、刊3例2発明及び刊3例4発明」(以下、これらをまとめて「引用例発明」という。)と、少なくとも、「非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にある」点(以下、「相違A点」という。)において相違が認められる。
更に、引用例発明のミクロホールが、非孔質のポリウレタン被膜がその内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっているとする理由も見当たらないから、本件発明1は、引用例発明と、更に、「非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている」点(以下、「相違B点」という。)において相違が認められる。特に、刊行物3には、記載オで摘示したように、「気孔壁を強化すること」との記載があり、この記載の意味するところは、その文脈からして、その前に記載された「シート物表面にある不要な微細孔を塞ぎ、」を受けてのものといえるにすぎないから、本件発明1の非閉塞開放孔に相当する該ミクロホールの内壁について、これを強化することを意味していると認めることはできない。強いて云えば、微細孔を塞ぐことによりミクロホールが形成される面が強化されることを意味しているに過ぎないものである。したがって、記載オをみても、やはり、本件発明1は、刊3例1発明、刊3例2発明及び刊3例4発明と相違B点において相違が認められる。
そして、刊行物1及び3の全体的記載をみても、ここには、人工皮革において、その表面に形成される孔の数の70%以上を直径が1μm〜25μmの範囲にすることや、これら孔が、非孔質のポリウレタン被膜がその内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄孔とすることすら、記載がないから、引用例発明において相違A点及び相違B点を容易に為し得たとする理由は見当たらず、刊行物2、4乃至7並びに参考資料1をみても同様であるから、本件発明1が引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。仮に、引用例発明それぞれにおいて、その製造工程を工夫するなどし、ミクロホールの数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にすることが、すなわち、相違A点が容易に為し得るとしても、前記工夫するなどした結果のものとして、非孔質のポリウレタン被膜が各ミクロホールの内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄孔となっているとする理由も見当たらないから、やはり、引用例発明において、相違A点且つ相違B点を容易になし得るということはできない。
他に、本件発明1が、刊行物1乃至7並びに参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由も見当たらない。

2)本件発明2について
刊行物1及び3には、先に「1)」で述べたように、引用例発明が記載されているもので、本件発明2も、「1)」で述べたことから明らかなように、引用例発明と相違A点で相違するものである。
更に、本件発明2は、刊3例1発明、刊3例2発明及び刊3例4発明とは、更に、「非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である」点(以下、「相違C点」という。)において相違が認められることは明らかである。また、刊1例2発明についてみると、これの表面には孔径約15〜30μのミクロホールが約2500コ/cm2あるものであるが、先に「1)」で述べたように、この孔径の範囲に含まれないものが更に存在しているのか否かについては不明であり、やはり、本件発明2は、刊1例2発明とも相違C点において相違が認められるといわざるを得ない。
そして、刊行物1乃至7並びに参考資料1をみても、先に「1)」で述べたのと同じ理由から、引用例発明において相違A点を容易に為し得たとする理由は見当たらないし、更に、相違C点を容易に為し得たとする理由も見当たらない。仮に、先に「1)」で述べたように、引用例発明それぞれにおいて、その製造工程を工夫するなどし、相違A点が容易に為し得るとしても、前記工夫するなどした結果のものとして、ミクロホールがcm2当たり100個〜3000個存在し、該ミクロホールが形成する開口部の面積が全体面積の1%以下となっているとする理由も見当たらないから、やはり、引用例発明において、相違A点且つ相違C点を容易になし得るということはできない。
他に、本件発明2が、刊行物1乃至7並びに参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由も見当たらない。

3)本件発明12について
刊行物1及び3には、先に「1)」で述べたように、引用例発明が記載されているもので、本件発明12も、「1)」で述べたことから明らかなように、引用例発明と相違A点で相違するものである。
更に、本件発明12は、刊3例2発明とは、更に、「通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある」点(以下、「相違D点」という。)において相違が認められることは明らかである。
また、刊1例2発明、刊3例1発明及び刊3例4発明についてみると、刊1例2発明は透気度42秒であること、刊3例1発明は透気度3.5分であること、及び刊3例4発明は透気度約5分であることがうかがえるものの、これら透気度の定義や測定方法を示す記載は刊行物1及び3にはなく、また、刊1例2発明に係る皮革様シート状物や刊3例1発明に係る皮革様シート物或いは刊3例4発明に係るようなシート物に関する技術分野において「透気度」といえば、その定義や測定方法が特定の1つのものとして想定されることが、この出願前に、技術常識にあったとする理由は見当たらず、分や秒で特定されるこれら透気度と本件発明12に係る通気度とを関連づける事実は見当たらないから、やはり、本件発明12は、これら発明と相違D点において相違が認められるといわざるを得ない。
そして、刊行物1乃至7並びに参考資料1をみても、先に「1)」で述べたのと同じ理由から、引用例発明において相違A点を容易に為し得たとする理由は見当たらないし、更に、相違D点を容易に為し得たとする理由も見当たらない。仮に、先に「1)」で述べたように、引用例発明それぞれにおいて、その製造工程を工夫するなどし、相違A点が容易に為し得るとしても、前記工夫するなどした結果のものとして、通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲になっているとする理由も見当たらないから、やはり、引用例発明において、相違A点且つ相違D点を容易になし得るということはできない。
他に、本件発明12が、刊行物1乃至7並びに参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由も見当たらない。

4)本件発明16について
刊行物1及び3には、先に「1)」で述べたように、引用例発明が記載されているもので、本件発明16も、「1)」で述べたことから明らかなように、引用例発明と相違A点で相違するものである。
更に、引用例発明についてみると、刊1例2発明は透湿度1690g/m2/day、刊3例1発明は透湿度1850g/m2/day、刊3例2発明は透湿度1780g/m2/day及び刊3例4発明は透湿度1870g/m2/dayであることがうかがえ、刊1例2発明を除くこれら発明は、記載イによれば、JIS-K6549の方法に基づいて測定されたもので、仮に刊1例2発明の透湿度も同様に測定されたとし、これらの単位をmg/cm2・hrで表わすと、それぞれ、7.04、7.71、7.42及び7.79となる。一方、本件発明16の透湿度も、訂正後の本件特許明細書の「透湿度 JIS K6549の方法に準じて測定を行った値で「mg/cm2・hr」で表わす。」(15頁14〜15行)なる記載によれば、JIS K6549の方法に準じて測定されたことがうかがわれ、引用例発明の透湿度と本件発明16の透湿度とは、実質的に、その技術的意義を同じくすると考えるのが自然であるものの、本件発明16は、引用例発明とは、更に、「透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある」点(以下、「相違E点」という。)において相違が認められる。
そして、刊行物1乃至7並びに参考資料1をみても、先に「1)」で述べたのと同じ理由から、引用例発明において相違A点を容易に為し得たとする理由は見当たらないし、更に、相違E点を容易に為し得たとする理由も見当たらない。仮に、先に「1)」で述べたように、引用例発明それぞれにおいて、その製造工程を工夫するなどし、相違A点が容易に為し得るとしても、前記工夫するなどした結果のものとして、透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲になっているとする理由も見当たらないから、やはり、引用例発明において、相違A点且つ相違E点を容易になし得るということはできない。
他に、本件発明16が、刊行物1乃至7並びに参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする理由も見当たらない。

5)本件発明3乃至11、13乃至15、17乃至26について
本件発明3乃至11、13乃至15は本件発明1又は2を、本件発明17乃至20は本件発明1、2又は12を、そして、本件発明21乃至26は本件発明1、2、12及び16を技術的に限定するものであって、本件発明1、2、12及び16が、先に「1)」から「4)」で述べたように、刊行物1乃至7並びに参考資料1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができない以上、やはり、これら発明に基づいて、本件発明3乃至11、13乃至15、17乃至26は当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(二)取消理由2について
訂正後の本件特許明細書によれば、多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンと、良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤との混合溶剤または良溶剤と非溶剤との混合溶剤のいずれかの混合液を塗布する工程を有する銀付調人工皮革の製造方法の発明に係る請求項は見当たらず、したがって、特許請求の範囲の記載からは発明の構成に欠くことのできない事項が不明であり、また、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施し得る程度に発明の構成が記載されていない、という明細書の記載の不備が存在しているということはできない。

(三)むすび
取消理由は理由のないものである。

4.申立てについての判断

(一)申立1について
申立1は、先に「3」で述べたことから、理由のないことは明らかである。

(二)申立2について
本件発明1乃至26は、先に「3」で述べたように、刊行物1乃至7並びに参考資料1、即ち、甲第1乃至6、8号証及び参考資料1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、甲第7号証(「図説 繊維の形態(繊維学会編)」1983年8月1日、株式会社朝倉書店発行、256〜257頁)には繊維の形態に係る発明が記載されてものの、該発明を加味しても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、申立2は理由のないものである。

(三)申立3について
甲第9号証の発明は、甲第9号証に係る特許3071337号公報の【特許請求の範囲】、【請求項1】に記載された、以下のとおりのものと認める。

「繊維質、あるいは繊維質と高分子弾性体とからなる基体(イ)の片面に、厚さが50μm〜300μmの連通多孔質ポリウレタン層(ロ)が形成され、その表面に、仕上ポリウレタン被膜(ハ)が形成されてなる銀付調人工皮革であり、表面に0.5μm〜35μmの径の開放孔が1cm2当たり200個以上存在し、仕上ポリウレタン被膜(ハ)がその開放孔の孔壁を覆い、連通多孔質ポリウレタン層(ロ)内まで達するように形成され、且つ、その開口部の面積が全体面積の1%以下であり、通気度が0.5リットル/cm2・hr以上、透湿度が6mg/cm2・hr以上である銀付調人工皮革を材料として成型された靴構造物。」

そして、本件発明1乃至26は、甲第9号証の発明と比較すると、少なくとも、「非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にある」点において相違が認められるから、甲第9号証の発明と同一であるということはできない。
したがって、申立3は理由のないものである。

V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由並びに証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
銀付調人工皮革およびその二次製品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項2】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項3】 該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項4】 該基材の厚さが、0.2〜0.6g/cm3の嵩性において、0.3mm〜2.0mmの範囲である請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項5】 該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さが、0.03mm〜0.6mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項6】 該非孔質ポリウレタン被膜の厚さが、0.001mm〜0.02mmの範囲にある請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項7】 該基材の厚さ(d1)、該連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さ(d2)および該非孔質ポリウレタン被膜の厚さ(d3)が、以下の関係(1)および(2)を満足する請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。

【請求項8】 該通気性シート状繊維集合体がポリエステル不織布、ナイロン不織布またはポリエステルとナイロンとの混合不織布である請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項9】 該非孔質ポリウレタン被膜が撥水性被膜である請求の範囲第1項〜第8項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項10】 該撥水性被膜がフッ素変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
【請求項11】 該撥水性被膜がシリコーン変性ポリウレタンで構成されている請求の範囲第9項記載の銀付調人工皮革。
【請求項12】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項13】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項14】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第2項記載の銀付調人工皮革。
【請求項15】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第3項記載の銀付調人工皮革。
【請求項16】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項17】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第12項記載の銀付調人工皮革。
【請求項18】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第13項記載の銀付調人工皮革。
【請求項19】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第14項記載の銀付調人工皮革。
【請求項20】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第15項記載の銀付調人工皮革。
【請求項21】 該非孔質のポリウレタン被膜の表面にエンボス加工が施されている請求の範囲第1項〜第20項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。
【請求項22】 甲皮部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された靴。
【請求項23】 スポーツシューズである請求の範囲第22項記載の靴。
【請求項24】 本体部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された手袋。
【請求項25】 座部および背当部のいずれか一方または両方が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された椅子。
【請求項26】 少くとも一部が、請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の銀付調人工皮革で構成されていることを特徴とする通気性(非蒸れ性)および防汚性が改善された衣服。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、通気性、透湿性などの機能性を有し、かつ従来の欠点であった面平滑性、防汚性、耐摩耗性などが改良された銀付調人工皮革およびそのような銀付調人工皮革が少くとも一部に配された靴、手袋、椅子、衣服などの二次製品に関する。
背景技術
従来、繊維質と高分子弾性体とからなる人工皮革は、皮革の代替物として靴アッパー材、靴副材料、衣料材料などの用途に多く使用され、現在ではこれらの用途には無くてはならない材料となっている。これらの人工皮革は、表面形態により、スェードタイプ、ヌバックタイプおよび銀付タイプに大別される。この中で、スェードタイプおよびヌバックタイプとしては、通気性および透湿性の高いものが得られるが、銀付タイプは表面が無孔の仕上用合成樹脂で構成されているため、その通気性および透湿性は満足されるものになっていないのが現状である。特に、靴アッパー材や衣料などに使用される銀付タイプ人工皮革は、着用時の「蒸れ感」が大きく、市場から改善が望まれている。
これらの問題を解決するために、銀付タイプの人工皮革の表面に、機械的に針で穴を開けて通気性を付与し、着用時の「蒸れ感」を軽減しようとする試みがなされているが、満足できる程度の通気性が付与された人工皮革では針穴の径が大きすぎて着用時に穴の中に汚れが入り込み、外観上の欠点を生じる。または穴が開いているにもかかわらず、充分な透湿度が得られないという難点がある。
また、繊維質と高分子弾性体とから混成される基材の表面に仕上ポリウレタンの被膜を形成させ、不連続被膜の性格を利用した人工皮革が提案されているが、やはり穴(亀裂)の径が大きすぎるため汚れるうえ、繊維肌が隠蔽できず平滑な気品のある外観が得られない、または多孔質ポリウレタン層が無いため耐摩耗強度に劣るなどの欠点がある。
さらに、特開昭59-116479号公報には、繊維または繊維と高分子重合体とからなる基体の表面に高分子重合体溶液を塗布し、この重合体溶液を少し乾燥し、微細な凹凸表面を有する離型性支持体を圧着し、乾燥し、次いで該支持体を剥離することによって、気孔を有する銀面を形成させる方法が提案されている。しかしながら、この方法は、銀面層が繊維質基体上に直接形成されているため、伸長時に基体の繊維肌が銀面上に出現しやすい、多孔質のポリウレタン層が無いためクッション性が劣る、摩耗強度が劣るなどの欠点を有する。
さらに、特開平3-79643号公報には、仕上ポリウレタン被膜をW/Oエマルジョンから多孔質被膜として、繊維質基材上に形成し、通気性および透湿性を有する人工皮革を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法は、最表面の仕上ポリウレタン被膜が多孔質であるため、その機械的強度は無孔質ポリウレタン被膜に比べて弱く、耐摩耗性に欠陥がある。また、湿式多孔質ポリウレタン層の表面に安定的に開放孔が形成されていることが前提条件であるが、この方法は工業的には安定性に乏しい。さらに、W/Oエマルジョンの取り扱いには、ポットライフ、延展性などの面で制約条件が多く、高度な技術が要求され、現段階で工業的に実施されていない。さらに、ポリウレタン樹脂をこのW/Oエマルジョン方法で多孔膜として成型しようとすると、溶剤蒸発乾燥時での収縮が大きく、一旦多孔質として形成されたものが充実化し、多孔制御には環境条件の制約が多い。このような制約を回避するために、特開平3-90684号公報にみられるように、上記のようなW/Oエマルジョンに代えて、ポリアミノ酸を主体とする樹脂のエマルジョンから多孔質層を形成する方法も提案されているが、その製造コストが高く、工業的には不利である。
さらに、特開平3-140320号公報には、ポリアミノ酸ウレタンを相分離凝固核剤の併用で多孔質仕上被膜として繊維集合体基材上に形成し、通気性を有する人工皮革を製造する方法が提案されている。しかしながら、この方法も、先に述べたように最表面の仕上ポリウレタン被膜が多孔質であるため、その機械的強度は無孔質ポリウレタン被膜に比べて弱く、耐摩耗性に欠陥があること、および湿式多孔質ポリウレタン層の表面に安定的に開放孔が形成することが困難であるなど課題点が多い。また、ポリアミノ酸ウレタンは、価格が高く経済的な面においても不利である。
発明の開示
本発明の目的は、着用または使用された場合に、「蒸れ感」が少なく、かつ汚れにくく、平滑な気品のある面外観を有し、良好な耐摩耗性を兼ね備えた銀付調の人工皮革およびその二次製品を安価に提供することにある。
本発明は、一面において、通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通している
ことを特徴とする銀付調人工皮革を提供する。この銀付調人工皮革においては、好ましくは、その非閉塞開放孔において、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭搾開放孔となっている。
本発明は、他の一面において、甲皮部が上記のような銀付調人工皮革で構成されているスポーツシューズその他の靴、本体部が上記のような人工皮革で構成されている手袋、座席および背当部のいずれか一方または両方が上記のような銀付調人工皮革で構成されている椅子、および少くとも一部が上記のような銀付調人工皮革で構成されているコートその他の衣服を提供する。
図面の簡単な説明
図1は、内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層および非孔質ポリウレタン被膜中に存在する非閉塞開放孔形成部の一例を示す拡大断面図である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の銀付調人工皮革を構成するシート状繊維集合体としては、従来公知の天然繊維、再生繊維、合成繊維からなる織物、編物、不織布などが上げられる。人工皮革の着用時の「蒸れ感」を軽減する目的では、裏面側からの吸汗性を持たせる意味で、吸湿性の大きい繊維からなる繊維集合体が望ましい。従って、吸湿性の大きいレーヨン繊維などが使用に適している。しかしながら、シート状集合体の物理的強度を考慮すると、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維またはポリアミド繊維、またはポリエステル繊維とポリアミド繊維との混合物などの物理的強度の大きい繊維が好ましい。また、これらの強度の大きい繊維とレーヨン繊維とを併用することも好ましい。繊維集合体の形態としては不織布が好ましい。
本発明で用いる基材は、シート状繊維集合体単独またはシート状繊維集合体と高分子弾性体とから構成される。高分子弾性体としては、従来公知の皮革代替物として使用されている高分子弾性体、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレア、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルニトリル-ブタジエンゴムなどが挙げられる。これらは、好ましくは、水系エマルジョンまたは溶剤溶液として前記シート状繊維集合体に含浸したのち、凝固されて繊維集合体と高分子弾性体とからなる基材とされる。
上記基材の厚さは、0.2〜0.6g/cm3の嵩性において、0.3mm〜2.0mmの範囲であることが好ましい。
上記シート状繊維集合体またはシート状繊維集合体と高分子弾性体とからなる基材の少くとも一面には内部に微細孔を有する多孔質ポリウレタン層が形成される。この層を形成するポリウレタンとしては、従来公知のポリウレタンはすべて適用することができ、また、その形成方法としては従来公知の形成方法のいずれも適用できる。例えば、ポリウレタンの有機溶剤溶液をシート状繊維集合体または繊維質と高分子弾性体とからなる基材の片面にコーティングしたのち、ポリウレタンの非溶剤でかつポリウレタンを溶解している有機溶剤と混和性のある凝固浴中で凝固させる方法、あるいはポリウレタンの有機溶剤溶液または分散液に水を微分散させたW/Oタイプのエマルジョンをシート状繊維集合体またはシート状繊維集合体と高分子弾性体とからなる基材の片面にコーティングしたのち、有機溶剤を選択的に蒸発させてポリウレタンを凝固させる方法などがある。
上記内部微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さは、耐摩耗性、面平滑性、クッション性、ボリューム感を得るために、0.03mm〜0.6mmが好ましく、0.1mm〜0.2mmがより好ましい。厚さが0.03mmに満たない場合には、繊維集合体の生地目が表面に現れ表面のスムース感が得られにくいので好ましいない。一方、厚さが0.6mmを超えると、ゴムライクな人工皮革になること、生産性が低下することなどの点で好ましくない。
通気性のよい人工皮革を得るため、内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層は、連続多孔質でなければならない。すなわち、連通多孔質ポリウレタン層は、繊維集合体または繊維集合体と高分子弾性体とからなる基材側の面から露出表面にかけて連通孔によって通気性が確保されている必要がある。前記の従来技術のいずれの方法においても、多孔質ポリウレタン層の最表面が緻密になるため、微かな通気性は得られても仕上ポリウレタン被膜を形成する際にその溶剤により開放孔が溶解されて閉ざされるか、仕上ポリウレタンにより隠蔽されて通気性は失われてしまう。多孔質ポリウレタン層を成形する際に多孔調整剤(凝固調整剤)を併用して表面の開放孔の径を大きくする方法もあるが、ほとんどの場合、仕上ポリウレタン被膜を形成する際に前記と同じ理由で通気性は失われてしまう。
本発明の人工皮革を製造する方法の要点は、最終的に通気性が失われない適度の径を有する開放孔が形成されるように、仕上ポリウレタン被膜を形成する際に、仕上ポリウレタンの適用に先立って、適度の径を有する開放孔を多孔質ポリウレタン層の表面に出現させることにある。
確実に多孔質ポリウレタン層の表面に開放孔を出現させるには、多孔質ポリウレタン層の表面に、ポリウレタンの良溶剤、貧溶剤、良溶剤と貧溶剤の混合溶剤、または良溶剤と非溶剤の混合溶剤のいずれかとの混合液を、多数散在せる点状に塗布する。
ここで、ポリウレタンの良溶剤とは、実際に使用するポリウレタンを溶解し得る溶剤を意味し、例えば、芳香族系の有機ジイソシアネートから合成されたポリウレタンであればジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの極性溶剤が挙げられる。また、ポリウレタンの貧溶剤とは、同じく実際に使用するポリウレタンを溶解はしないが膨潤はさせ得る溶剤であり、例えば、メチルエチルケトンなどのケトン類、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、トルエンなどの芳香族系溶剤が挙げられる。さらに、ポリウレタンの非溶剤とは、同じく実際に使用されるポリウレタンを溶解、膨潤をさせないものであり、例えば水などが代表的である。
これらの溶剤を選択することにより、実際に使用されるポリウレタンに対する溶解性を調整することができ、適度な開放孔を発現させることができる。この場合、溶解性が強すぎる溶剤を使用すると、一旦は開放孔が発現するが、その強すぎる溶解性のため溶剤の蒸発乾燥の過程で再び開放孔が閉ざされてしまう。一方、逆に溶解性が弱すぎる溶剤を使用すると、開放孔は発現しない。
適正に選択された溶剤を多孔質ポリウレタン層の表面に多数散在する点状に塗布する手段としては、グラビアメッシュロールを用いればよい。この場合、グラビアメッシュロールのメッシュの大きさが、形成される開放孔の径の大きさに大きく影響を及ぼす。すなわち、メッシュの細かいロールを用いれば相対的に小さい径の開放孔が得られるし、メッシュの粗いロールを用いれば相対的に大きい径の開放孔が得られる。メッシュの大きさは概して70〜200メッシュの範囲であることが好ましい。また、塗布圧も、形成される開放孔の径の大きさに影響を及ぼす。すなわち、塗布圧が大きければ、得られる開放孔は径が大きく、塗布圧が小さければ、得られる開放孔は径が小さくなる。一般に、グラビアメッシュロールの塗布圧は0.1〜10kg/cm2の範囲であることが好ましい。以上のように、適正な溶剤の選択、グラビアメッシュロールの選択、塗布圧の適正化により、連通多孔質ポリウレタン層の表面に好ましくは5μm〜40μm、より好ましくは10μm〜30μmの開放孔を発現させる。
連通多孔質ポリウレタン層の表面に5μm〜40μmの開放孔を発現させたのち、その表面に仕上ポリウレタンを適用することによって仕上ポリウレタンの被膜が連通多孔質ポリウレタン層の全表面に形成される。連通多孔質ポリウレタン層の表面に発現された開放孔の一部は仕上ポリウレタン被膜によって閉塞されるが、残部は閉塞されないで開放孔の状態を維持する。この非閉塞開放孔の70%以上は1μm〜25μmの直径を有することが重要である。非閉塞開放孔のうち、その直径が1μm未満であるものの割合が大きくなると通気性および透湿性が小さすぎて、蒸れ感が大きくなる。また、直径が25μmを超えるものの割合が大きくなると開放孔に汚れが入り易く、平滑な気品のある面外観が得難い。
上記の非閉塞開放孔において、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってその空間を実質的に閉塞することなく延在し、それによって狭搾開放孔が形成されていることが好ましい。添付図1は、そのような狭搾開放孔が形成されている状態を示している。すなわち、内部に連通微細孔2を有する多孔質ポリウレタン層1(厚さd2)の表面には直径l1を有する開放孔3が形成され、さらに多孔質ポリウレタン層1の上に形成された非孔質ポリウレタン被膜4(厚さd3)は開放孔3の孔壁の肩部から内壁に沿って、開放孔3の空間を実質的に閉塞することなく内部へ向って若干の長さに亘って延在しており、それによって直径l2を有する狭搾開放孔が形成されている。
このような狭搾開放孔が形成されていると、防汚性、表面平滑性が向上するばかりでなく、耐摩耗性、耐久性が著しく向上する。このような狭搾開放孔は、ポリウレタンの溶液を塗布する際、溶液の調製に用いる溶剤の種類および溶液の粘度を適当に選定すればよい。
非孔質ポリウレタン被膜を形成するポリウレタン溶液の粘度は、孔壁への塗布量、連通多孔質ポリウレタン層への塗布深さに重要な影響を与えることになるが、一般的なグラビア塗布塗料の粘度である80センチポイズ〜200センチポイズ、好ましくは10センチポイズ〜140センチポイズで充分に上記の狭搾開放孔を形成することができる。
上記のように、非孔質ポリウレタン被膜を形成させる塗料に使用される有機溶剤の種類が、最終的に形成される開放孔の孔径に大きな影響を及ぼす。すなわち、連通多孔質層を形成するポリウレタンに対して溶解性が大きいと、連通多孔質ポリウレタン層の表面にあらかじめ形成されていた開放孔の孔壁を溶解して孔径を小さくしてしまうからである。溶解性が小さい程、連通多孔質ポリウレタン層の表面に発現させた開放孔の径を維持できることとなる。しかし、連通多孔質ポリウレタン層と仕上非孔質ポリウレタン被膜との接着性を大きくするには、ある程度の溶解性を有する有機溶剤を使用した塗料であることも必要である。従って、塗料として使用する有機溶剤は、連通多孔質ポリウレタン層を形成するポリウレタンに対し溶解性の大きいものと小さいものとの混合溶剤を使用することが好ましい。以上の説明のように、表面に70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にある開放孔を有する銀付調人工皮革を得るには、仕上非孔質ポリウレタン被膜が形成された後ではやや孔径が小さくなるので、仕上ポリウレタン被膜を形成させる前の連通多孔質ポリウレタン層の表面の開放孔の径は5μm〜40μmの範囲が適正ということになる。
仕上ポリウレタン溶液の塗布方法としては従来の塗布方法が採用できるが、グラビア塗布機、ドクターナイフコーターなどを用いる方法が好ましい。塗布量としては、従来の人工皮革の仕上被膜を範囲、すなわち固形分として3g/m2〜20g/m2、好ましくは5g/m2〜10g/m2である。仕上非孔質ポリウレタン被膜の膜厚は0.001〜0.02mmの範囲が好ましい。
なお、基材の厚さ(d1)、内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の厚さ(d2)および非孔質ポリウレタン層の厚さ(d3)は、折り曲げなどによって代表される風合と加工性とのバランスを保つため、次の関係(1)および(2)を満足することが好ましい。

仕上非孔質ポリウレタン被膜には、人工皮革の用途に応じて種々の機能を有する補助剤を混入することができる。例えば、顔料、染料などにより着色し衣装性を高めることができる。また、本発明の開放孔を有する銀付調人工皮革は、表面から裏面に渡る連通孔を有し、通気性があるため、靴アッパー材や衣料などに加工使用された場合、雨などの水が浸入する恐れがあるので仕上ポリウレタン被膜に撥水剤を添加し、撥水性を付与することが重要である。恒久的な撥水性を付与するには、仕上ポリウレタン被膜として、フッ素変性ポリウレタンを用いることによって達成できる。ここで、撥水剤としては、ポリウレタンとの相溶性に優れたウレタン変性フッ素系撥水剤〔大日本インキ化学工業(株)製、クリスボンアシスターFX-3〕などが挙げられる。また、フッ素変性ポリウレタンとしては、大日精化工業(株)製のレザロイドFF4110、同FF4115などが挙げられる。また、撥水剤としてはシリコーン変性ポリウレタンを用いることもできる。そのほか、酸化防止剤、防黴剤、紫外線吸収剤などを仕上ポリウレタン被膜に添加することによって特徴ずけることができる。
なお、本発明の銀付調人工皮革は、通気性を有し、NOXガスなども通過しやすい構造となっているため、ポリウレタンの変色が懸念される。特に、連通多孔質ポリウレタンを構成するポリウレタンは、一般的には芳香族系ジイソシアネートから合成されたポリウレタンが使用されるケースが多い。従って、仕上ポリウレタン被膜に用いるポリウレタンは変色の少ないポリウレタン、例えば、1,6-ヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族系ジイソシアネートから合成されたポリウレタン、あるいはイソホロンジイソシアネート、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環族系ジイソシアネートから合成されたポリウレタンが好ましい。本発明の好ましい態様においては、仕上ポリウレタン被膜を構成するポリウレタンが、連通多孔質ポリウレタン層の形成する開放孔の孔壁を深めに覆うため、変色防止にはより効果的に作用することとなる。
本発明の人工皮革では、表面の衣装効果を高めるため、通常、人工皮革の製造において行われているようにエンボスロールにより各種柄を施すことができる。エンボスを施す工程としては、開放孔発現処理の前、後、仕上ポリウレタン被膜の形成後、あるいは途中でも可能である。しかしながら、熱エンボス法で行う場合は、開放孔が熱により溶融して小さくなることがあるので注意しなければならない。また、開放孔発現処理前に行うと、連通多孔質ポリウレタン層の表面の緻密な部分の密度がさらに高まり、開放孔発現処理が困難になる場合があるので注意しなければならない。
以上のような方法で、表面に少くとも70%が1μm〜25μmの直径の開放孔を有する銀付調人工皮革が製造される。開放孔の径が小さ過ぎると空気が通過するには抵抗が大きくなり本発明の目的とする通気度および透湿性が得られにくく好ましくない。一方、開放孔の孔径が25μmを超えるものの割合が大きくなると、靴アッパー材、靴内装材、衣料などの加工製品として着用された場合に汚れやすく、また、汚れが開放孔の中に入り込み洗濯によっても汚れを落とすことが困難となり好ましくない。汚れの原因になる粒子は一般的に約30μm以上の径である。
本発明の銀付調人工皮革の表面に形成される開放孔の数は、好ましくは1cm2当たり100個〜3,000個、より好ましくは1cm2当り500個〜3,000個である。通気度は開放孔の径の大きさと数によって決定されるため、径が小さければ数を多くし、開放孔の径が大きければ数は少なくてよい。しかしながら、透湿度は開放孔の数によるところが大きいため、開放孔の数は1cm2当たり100個以上が一般に必要である。開放孔の数が過少であると所望の透湿度を得ることは困難となる。
しかしながら、開放孔の数が多過ぎると、防汚性、耐摩耗性などの面で問題となる。開放孔の数の上限の目安としては、開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.1%〜0.3%である。1%を超えると開放孔の大きさ、数にかかわらず耐摩耗性および防汚性が極端に低下してくるので好ましくない。
本発明の銀付調人工皮革は、通気度が好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrであり、透湿度が好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrである。通気度および透湿度が低過ぎると靴材料、衣料などに使用された際に、従来の人工皮革に比べて差異がなく、蒸れを感じる。本発明の銀付調人工皮革を構成するシート状繊維集合体またはシート状繊維集合体と高分子弾性体とからなる基材の構造によっては、上記の通気度および透湿度を満たさないことも考えられる。例えば、基材の裏面に高分子弾性体の充実膜が形成されていると通気性、透湿性の妨げとなる。従って、このような充実膜の形成は避けるべきである。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例中に「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、また、各特性値は下記の方法により測定した。
(1)開放孔の孔径、孔の数および開口部の面積比率
走査電子顕微鏡〔旭化成工業(株)製、高精密画像解析ファイルシステム IP-1000〕の画像より計測した。
(2)通気度
JIS P8117の方法に準じて、ガーレのデンソメータを使用して測定した50ccの空気が通過するのに要した時間から計算により「リットル/cm2・hr」の単位に換算した値である。
(3)透湿度
JIS K6549の方法に準じて測定を行った値で「mg/cm2・hr」で表わす。
(4)防汚性
タバコの灰(マイルドセブン)を乳鉢ですりつぶしたものを、人工皮革サンプル上に、直径36mmの大きさの円を画くように中指で右回転で25回、左回転で25回こすりつけた後、脱脂綿で拭き取った。サンプル上の汚れを、5級を汚れなしとして、1〜5級で表わす。
実施例1
多孔質ポリウレタン層を有する基体-1の作成
重量330g/m2、厚さ1.0mmのポリエステル繊維からなる不織布に13%濃度のポリエステル系ポリウレタン(P,P′-ジフェニルメタンジイソシアネートより合成されたもの)-ジメチルホルムアミド溶液を含浸させた含浸基布の片面に18%濃度のポリウレタン(上記含浸用ポリウレタンと同じもの)-ジメチルホルムアミド溶液を650g/m2の目付でコーティングした後、水浸凝固、水洗、乾燥して多孔質ポリウレタン層を有する基体-1を作成した。得られた基体は繊維質層の厚さが1.0mm、多孔質ポリウレタン層の厚さが280μmで構成されていた。
開放孔発現処理
基体-1の多孔質ポリウレタン層の表面に、メチルエチルケトン40%およびジメチルホルムアミド60%の混合液をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で4mg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-1の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約30μmの開放孔が無数に形成されていた。
仕上ポリウレタン被膜の形成
下記の組成で作成した塗料-1を前記の開放孔発現処理した基体の多孔質ポリウレタン層表面にグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を3回繰り返し、次に加熱エンボスロールで毛穴調に柄付けし、さらにその表面に下記組成の塗料-2をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥し、人工皮革-1を得た。
(塗料-1)
クリスボンNY320(大日本インキ化学工業(株)製) 100部
ハウラックA5303(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
ハウラックA1008マット(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
イソプロピルアルコール 50部
メチルエチルケトン 40部
ジメチルホルムアミド 10部
(塗料-2)
ハウラックA3454(大日本インキ化学工業(株)製) 100部
ハウラックA1008マット(大日本インキ化学工業(株)製) 20部
イソプロピルアルコール 50部
メチルエチルケトン 40部
ジメチルホルムアミド 10部
得られた人工皮革-1は表面が白色であり、表面には約13μmの系の開放孔が、孔壁は塗料-1と塗料-2で覆われる状態で約1700個/cm2存在し、その開放部の面積は全体面積の0.23%に相当するものであった。その通気度、透湿度は共に従来の銀付調人工皮革と比較して優れたものであり、且つ汚れにくいものであった。得られた人工皮革-1の特性値を表1に示す。
実施例2
多孔質ポリウレタン層を有する基体-2の作成
ポリエステルと6-ナイロンが交互に隣接する分割可能な維持を分割してなる繊維75%とレーヨン繊維25%との混合繊維からなる不織布(重量300g/m2、厚さ1.3mm)に13%濃度のポリエステル/ポリエーテル系ポリウレタン(P,P′-ジフェニルメタンジイソシアネートより合成されたもの)-ジメチルホルムアミド溶液を含浸させた含浸基布の片面に20%濃度のポリウレタン(上記含浸用ポリウレタンと同じもの)-ジメチルホルムアミド溶液を400g/m2の目付でコーティングした後、水浸凝固、水洗、乾燥して多孔質ポリウレタン層を有する基体-2を作成した。得られた基体は繊維質層の厚さが1.3mm、多孔質ポリウレタン層の厚さが210μmで構成されていた。
開放孔発現処理
基体-2の多孔質ポリウレタン層の表面に、メチルエチルケトン30%およびジメチルホルムアミド70%の混合液をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で3kg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-2の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約25μmの開放孔が無数に形成されていた。
仕上ポリウレタン被膜の形成
下記の組成で作成した塗料-3を前記の開放孔発現処理した基体の多孔質ポリウレタン層表面にグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を2回繰り返し、次にその表面に下記組成の塗料-4をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を2回繰り返し、さらに加熱エンボスロールで血筋調に柄付けし、人工皮革-2を得た。
(塗料-3)
クリスボンNY320(大日本インキ化学工業(株)製) 100部
ハウラックA5303(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
ハウラックA1008マット(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
クリスボンアシスターFX3(撥水剤)(大日本インキ化学工業(株)製)
2部
イソプロピルアルコール 50部
メチルエチルケトン 40部
ジメチルホルムアミド 10部
(塗料-4)
ハウラックA3454(大日本インキ化学工業(株)製) 100部
ハウラックA1008マット(大日本インキ化学工業(株)製) 20部
クリスボンアシスターFX3(撥水剤)(大日本インキ化学工業(株)製)
2部
イソプロピルアルコール 50部
メチルエチルケトン 40部
ジメチルホルムアミド 10部
得られた人工皮革-2は表面が白色であり、表面には約10μmの径の開放孔が、孔壁は塗料-3と塗料-4で覆われる状態で約2,200個/cm2存在し、その開放部の面積は全体面積の0.17%に相当するものであった。その通気度、透湿度は共に従来の銀付調人工皮革と比較して優れたものであり、且つ汚れにくく撥水性の大きいものであった。得られた人工皮革-2の特性値を表1に示す。
実施例3
開放孔発現処理
実施例2において作成した開放孔発現処理前の基体-2の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン30%およびジメチルホルムアミド70%の混合液をグラビア塗布機(200メッシュのロール使用)で5mg/cm2の圧で塗布して乾燥した。得られた基体-3の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約15μmの開放孔が無数に形成されていた。
仕上ポリウレタン被膜の形成
実施例2で作成した塗料-3を前記の開放孔発現処理した基体の多孔質ポリウレタン層表面にグラビア塗布機(200メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を3回繰り返し、次にその表面に下記組成の塗料-5をグラビア塗布機(200メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を2回繰り返し、さらに加熱エンボスロールで血筋調に柄付けし、人工皮革-3を得た。
(塗料-5)
レザロイドLU4180SF(大日精化工業(株)製) 100部
(フッ素変性ポリウレタン)
クリスボンアシスターFX3(撥水剤)(大日本インキ化学工業(株)製)
2部
得られた人工皮革-3は表面が白色であり、表面には約7μmの径の開放孔が、孔壁は塗料-3と塗料-5で覆われる状態で約3,100個/cm2存在し、その開放部の面積は全体面積の0.12%に相当するものであった。その通気度、透湿度は共に従来の銀付調人工皮革と比較して優れたものであり、且つ汚れにくく撥水性の大きいものであった。得られた人工皮革-3の特性値を表1に示す。
実施例4
実施例2で作成した開放孔発現処理済みの基体-2の多孔質ポリウレタン層表面に下記の組成で作成した塗料-6をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を2回繰り返し、次にその表面に実施例2で作成した塗料-4をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を2回繰り返し、さらに加熱エンボスロールで血筋調に柄付けし、人工皮革-4を得た。
(塗料-6)
クリスボンNY320(大日本インキ化学工業(株)製) 100部
ハウラックA5303(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
ハウラックA1361(大日本インキ化学工業(株)製) 2部
ハウラックA1008マット(大日本インキ化学工業(株)製) 30部
クリスボンアシスターFX3(撥水剤)(大日本インキ化学工業(株)製)
2部
イソプロピルアルコール 50部
メチルエチルケトン 40部
ジメチルホルムアミド 10部
得られた人工皮革-4は、多孔質ポリウレタン層が白色にもかかわらず均一なグレー色であり、表面には実施例2で得られた人工皮革-2とまったく同じ状態で開放孔が形成され、その特性値も人工皮革-2と同程度であった。得られた人工皮革-4の特性値を表1に示す。
比較例1
実施例1で作成した基体-1(開放孔発現処理なしのもの)の多孔質ポリウレタン層表面に、実施例1で作成した塗料-1をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥を3回繰り返し、次に加熱エンボスロールで毛穴調に柄付けし、さらにその表面に実施例1で作成した塗料-2をグラビア塗布機(110メッシュのロール使用)で塗布、乾燥し、人工皮革-5を得た。得られた人工皮革は表面が白であり、一見、実施例1で得られた人工皮革-1同じものであるが、走査電子顕微鏡が観察したところ、開放孔は見当たらず通気性の全く無いものであり、透湿度も従来の人工皮革と同程度のものであった。得られた人工皮革-5の特性値を表1に示す。
比較例2
比較例1で作成した人工皮革-5の表面を機械的に針で処理し1cm2当たり9個の穴を設けた。表面の開放孔の径は150μmであり、通気性は有するものの、透湿性は従来の人工皮革と同程度のものであった。実際に靴に成型して着用したところ、汚れ易く、洗濯をしても汚れが開放孔に入り込んでいるため汚れはほとんど落ちなかった。この針穴を設けた人工皮革-6の特性値を表1に示す。
比較例3
目付330g/m2、厚さ1.0mmのポリエステル繊維からなる不織布を用い、実施例1と同様の操作で得られた含浸基体の片面に、実施例1と同じポリウレタン-ジメチルホルムアミド溶液を90g/m2の目付でコーティングしたのち、水浸凝固、水洗、乾燥して基体-3を作成した。得られた基体は、繊維質層の厚さが1.0mm、多孔質ポリウレタン層の厚さが38μmで構成されていた。基体-3の表面に、実施例1と同様の操作で開放孔発現処理、仕上ポリウレタン被膜の形成、および柄付けを施し、人工皮革-7を得た。
得られた人工皮革-7の表面には、人工皮革-1の表面と同程度の径の開放孔が約同数存在し、通気度、透湿度も人工皮革-1と同程度であったが、表面の平滑感がなく、毛羽立ちによる凸部が目立ち、なお伸長した場合には、不織布の繊維質肌は目立つものであり、商品価値を損なうものであった。人工皮革-7の特性値を表1に示す。
比較例4
実施例1で作成した基体-1(開放孔発現処理なしのもの)の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン30%、ジメチルホルムアミド70%の混合液を、グラビア塗布機(70メッシュのロールを使用)を用い、4kg/cm2の圧力で塗布乾燥した。得られた基体-1の多孔質ポリウレタン層表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約45μmの開放孔が無数に形成されていた。この開放孔発現処理を施した基体-1の表面に、実施例1と同様の操作で仕上ポリウレタン被膜の形成、および柄付けを施し、人工皮革-8を得た。得られた人工皮革-8の表面には、約40μmの径の開放孔が約850個存在し、その開放部の面積は全面積の1.07%に相当するものであった。その通気度、透湿度は、ともに表に示すように、従来の人工皮革に比較して優れたものであったが、汚れが付着し易く、実際に靴に成型して着用したところ、汚れやすく、洗濯をしても汚れが開放孔に入り込んでいるため、汚れは完全に落ちなかった。また、摩耗されやすく、開放孔の径が大きくなり、着用時間とともに汚れが激しくなった。
実施例5
実施例1で作成した基体-1(開放孔発現処理なしのもの)の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン50%、ジメチルホルムアミド50%の混合液を、グラビア塗布機(200メッシュのロールで、かつメッシュ部が60%のものを使用)を用い、4kg/cm2の圧力で塗布乾燥した。得られた基体-1の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約15μmの開放孔が無数に形成されていた。この開放孔発現処理を施した基体-1の表面に、実施例1と同様の操作で仕上ポリウレタン被膜の形成、および柄付けを施し、人工皮革-9を得た。得られた人工皮革-9の表面には、約6μmの径の開放孔が約630個存在し、その開放部の面積は全面積の0.02%に相当するものであった。その通気度、透湿度は、ともに表1に示すように、従来の人工皮革に比較して優れたものであった。
比較例5
実施例1で作成した基体-1(開放孔発現処理なしのもの)の多孔質ポリウレタン層表面に、メチルエチルケトン70%、ジメチルホルムアミド30%の混合液を、グラビア塗布機(200メッシュのロールで、かつメッシュ部が60%のものを使用)を用い、2kg/cm2の圧力で塗布乾燥した。得られた基体-1の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、約9μmの開放孔が散々と形成されていた。この開放孔発現処理を施した基体-1の表面に、実施例1と同様の操作で仕上ポリウレタン被膜の形成、および柄付けを施し、人工皮革-10を得た。得られた人工皮革-10の表面には、約3μmの径の開放孔が約150個存在し、その開放部の面積は全面積の0.001%に相当するものであった。その通気度、透湿度は、ともに表1に示すように、0.1リットル/cm2・hr、3.7mg/cm2・hrであった。この人工皮革10を靴に成型して着用したところ、「蒸れ感」を感じ、従来の人工皮革との差異は感じられなかった。
実施例6
靴の成型および着用テスト
上記各実施例および比較例で作成した人工皮革を甲革としてテニスシューズのデザインで製靴し、シューズを得た。
上記シューズのうち、実施例1の人工皮革-1で作成したシューズ-1、および実施例2の人工皮革-2で作成したシューズ-2および比較例1の人工皮革-5で作成したシューズ-5および比較例2の人工皮革-6で作成したシューズ-6をそれぞれ右足、左足に同時に着用し、3kmの距離をジョギングして10分後の装着したままのシューズ内の温度、湿度を測定した。このテストを10人で実施し、その平均値で比較したところ、実施例1および実施例2のシューズのシューズ内温度、湿度は、比較例1および比較例2のシューズのそれに対し、各々1℃、5〜7%RH低く、着用者もその蒸れ感の差を充分感じることができた。この試験の結果を表2に示す。


産業上の利用可能性
本発明の銀付調人工皮革は、良好な通気性および透湿性を有し且つ平滑な外観および防汚性を有する。特に、表面に狭搾開放孔が形成された好ましい銀付調人工皮革は、これらの特性に加えて優れた耐摩耗性および耐久性を有する。
従って、本発明の銀付調人工皮革は、靴、特にスポーツシューズの甲革部、手袋、椅子の座部および/または背当部、コートその他の衣服などとして有用である。
 
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項a.
発明の名称の「その製造方法ならびに」を削除する。
▲2▼訂正事項b.
特許請求の範囲の請求項1を削除し、従属項形式の請求項2を独立項形式の請求項1に訂正する。(クレーム対応表参照)。
すなわち
「 【請求項1】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通している
ことを特徴とする銀付調人工皮革。」
を削除し、
「 【請求項2】 該非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。」
を、
「 【請求項1】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔においては、非孔質のポリウレタン被膜が各開放孔の内壁に沿ってそれらの空間を実質的に閉塞することなく延在し、それにより狭窄開放孔となっている
ことを特徴とする銀付調人工皮革。」
に訂正する。


▲3▼訂正事項c.
特許請求の範囲の請求項3の「存在する請求の範囲」の「する」を、特許請求の範囲の減縮を目的に、「し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である」に訂正する。
▲4▼訂正事項d.
訂正事項bの特許請求の範囲の請求項1の削除に対応し、従属項形式の請求項3を独立項形式の請求項2と従属項形式の請求項3に訂正する。(クレーム対応表参照)。
すなわち、訂正事項b、c、d、により、
「 【請求項3】 該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在する請求の範囲第1項または第2項記載の銀付調人工皮革。」
を、
「 【請求項2】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項3】 該非閉塞開放孔がcm2当たり100個〜3000個存在し、該開放孔が形成する開口部の面積が全体面積の1%以下である請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。」
に訂正する。
▲5▼訂正事項e.
特許請求の範囲の請求項12の「0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hr」を、特許請求の範囲の減縮を目的に、「2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hr」に訂正する。
▲6▼訂正事項f.
特許請求の範囲の請求 特許請求の範囲の請求項12において、請求項1を引用した請求項12を、独立項形式の請求項12に、請求項2(訂正後の請求項1)を引用した請求項12を、従属項形式の請求項13に、請求項1引用の請求項3(訂正後の請求項2)を引用した請求項12を、従属項形式の請求項14に、請求項2引用の請求項3(訂正後の請求項3)を引用した請求項12を、従属項形式の請求項15に、訂正し、請求項4〜11を引用した請求項12を、削除する。(クレーム対応表参照)。
すなわち、訂正事項e.f.により
「 【請求項12】 通気度が0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項〜第11項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。」
を、
「 【請求項12】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項13】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項14】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第2項記載の銀付調人工皮革。
【請求項15】 通気度が2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第3項記載の銀付調人工皮革。」
に減縮する。
▲7▼訂正事項g.
特許請求の範囲の請求項13の「2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hr」を、特許請求の範囲の減縮を目的に、「8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hr」に訂正する。
▲8▼訂正事項h.
特許請求の範囲の請求項13において、請求項1を引用した請求項13を独立項形式の請求項16に、請求項1引用の請求項12(訂正後の請求項12)を引用した請求項13を従属項形式の請求項17に、請求項2引用の請求項12(訂正後の請求項13)を引用した請求項13を従属項形式の請求項18に、請求項1引用の請求項3引用の請求項12(訂正後の請求項14)を引用した請求項13を従属項形式の請求項19に、請求項2引用の請求項3引用の請求項12(訂正後の請求項15)を引用した請求項13を従属項形式の請求項20に、訂正し、請求項2〜11を引用した請求項13と、請求項4〜11引用の請求項12を引用した請求項13を削除する。(クレーム対応表参照)。
すなわち訂正事項g、h、により、
「 【請求項13】 透湿度が2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第1項〜第12項のいずれかに記載の銀付調人工皮革。」
を、
「 【請求項16】 通気性のシート状繊維集合体からなる基材及び該基材の少なくとも一面に固着された、内部に連通微細孔を有し、表面には開放孔が多数散在する多孔質ポリウレタン層を含む人工皮革において、
(A)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面には更に非孔質のポリウレタン被膜が形成され、
(B)該内部に連通微細孔を有する多孔質ポリウレタン層の表面に散在する多数の開放孔のうち、一部の開放孔はそれぞれ該非孔質ポリウレタン被膜により閉塞され、
(C)他方、残りの非閉塞開放孔にあっては、該非閉塞開放孔の数の70%以上の直径が1μm〜25μmの範囲にあり、
(D)多孔質ポリウレタン層の内部の連通微細孔は、該多孔質ポリウレタン層の基材との接触面から非孔質ポリウレタン被膜との接触面にわたって連通しており、
透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある
ことを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項17】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第12項記載の銀付調人工皮革。
【請求項18】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第13項記載の銀付調人工皮革。
【請求項19】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第14項記載の銀付調人工皮革。
【請求項20】 透湿度が8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hrの範囲にある請求の範囲第15項記載の銀付調人工皮革。」
に減縮する。
▲9▼訂正事項i.
特許請求の範囲の請求項14-19において、訂正事項b〜hに対応して、請求項数を21-26に、引用請求項を「1〜13」を「1〜20」に、「1〜14」を「1〜21」に、「15」を「22」に、訂正する。(クレーム対応表参照)。
▲10▼訂正事項j.
特許請求の範囲の請求項20-28を削除する。(クレーム対応表参照)。
▲11▼訂正事項k.
明細書第1頁第8行(特許公報第3頁左欄第11行、第12行)の「その製造方法、ならびに、」を削除する。
▲12▼訂正事項l.
明細書第4頁第23行〜第5頁第20行(特許公報第4頁左欄第18行〜第35行)の「本発明は、・・・狭搾開放孔を形成する。」を削除する。
▲13▼訂正事項m.
明細書第8頁第19行〜第20行(特許公報第5頁左欄第13行〜第14行)の「ポリウレタンと、その良溶剤」を「ポリウレタンの良溶剤」に訂正する。
▲14▼訂正事項n.
明細書第15頁第25行〜第16頁第1行(特許公報第7頁左欄第6行〜第8行)の、「好ましくは0.5リットル/cm2・hr〜35リットル/cm2・hr、より好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hr」を、「好ましくは2リットル/cm2・hr〜9リットル/cm2・hr」に訂正する。
▲15▼訂正事項o.
明細書第16頁第2行〜3行(特許公報第7頁左欄第9行〜第10行)の、「好ましくは2.0mg/cm2・hr〜30mg/cm2・hr、より好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hr」を、「好ましくは8mg/cm2・hr〜14mg/cm2・hr」に訂正する。
異議決定日 2003-06-02 
出願番号 特願平6-517893
審決分類 P 1 651・ 534- YA (D06N)
P 1 651・ 113- YA (D06N)
P 1 651・ 121- YA (D06N)
P 1 651・ 531- YA (D06N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 鴨野 研一
須藤 康洋
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3117996号(P3117996)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 銀付調人工皮革およびその二次製品  
代理人 三原 秀子  
代理人 三原 秀子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ