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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41N
管理番号 1083161
異議申立番号 異議2002-72342  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-25 
確定日 2003-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3269560号「圧縮可能な印刷ブランケットおよびそれを製造する方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3269560号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3269560号の請求項1に係る発明についての出願は、1992年11月13日(パリ条約による優先権主張1991年11月15日,1992年2月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成14年1月18日にその特許権の設定の登録がなされ、請求項1に係る特許について、特許異議申立人斉藤茂より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年4月23日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
特許第3269560号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「剥離性を増大すると同時に印刷操作の間のドット・ゲインを減少する、約0.6ミクロン以上で約0.95ミクロン以下の平均粗さをもつ表面のプロフィルを有するエラストマーの印刷面、
実質的に均一に分布した複数の独立気泡を有する圧縮可能なエラストマー層、
該印刷面の下に位置し、一方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティングを有し、他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を有する、少なくとも1つの圧縮可能なファブリックのプライ、
を有する印刷ブランケット。」

3.特許異議申立ての概要
特許異議申立人斉藤茂は、本件発明は、証拠として提出された甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである旨主張している。

4.刊行物の記載事項
刊行物1乃至6には、以下の記載がある。

[刊行物1:岡田勇“ゴムブランケットの性質とその使い方””、印刷雑誌1986(Vol.69)5、株式会社印刷学会出版部、昭和61年5月15日、P.23-30(特許異議申立人の提出した甲第1号証)]
ア.「ブランケットを削るということは厚みを出すことと,表面性をコントロールするという二つの目的がある。
(2)表1はブランケットの実際の粗さと印刷再現の関係をまとめたものである。これを網点で見ると面の粗いものほど,網点の中の着肉が不均一になりその形状もシャープさを失ってくる(図4参照)。ブランケットの粗さが影響するもう一つの点は,印刷したあとブランケットから紙が剥れる排紙性である。ブランケットは一般に面が平滑になればなるほど排紙性が悪くなる傾向がある。それと同時に網点の再現性はよくなり,洗浄性もよくなる。」(第27頁右欄第34行〜第28頁左欄第5行)
イ.「ブランケットの圧縮性と網点の再現性を考える一つの材料を紹介する(図5参照)。
[1]まずギアを取外した2本のシリンダの一方にブランケットを巻いて,この軸間をキスタッチの状態から1回転ごとに追込んでいく。ブランケット胴を1回転したとき,相手胴の上に巻いた用紙に転写される長さと追込み量との関係をグラフにとる。ブランケットを変えて調べてみた。図5は横軸が軸間の押込み量。縦軸は印圧がかかることによって印刷の長さが変わってくる。その時の変化率,その時の条件によって少しずつデータが違うので絶対的なものではないが,傾向としてこういったカーブが描ける。(A)はスポンジの入らない普通タイプのブランケット,(B)はスポンジタイプのブランケット,(C)は同じスポンジタイプだが,(B)とは圧縮特性がちがう。」(第28頁右欄第8行〜第29頁左欄第5行)
ウ.「普通タイプのブランケットはもう売れなくなるのではないかというとそうではない。実はこのブランケットの下にコルク下敷のような圧縮性の高い下敷を入れると,このカーブが圧縮性のブランケットと同じような力ーブになる。今でもブランケットのツブレのよさを生かし,下敷でドットゲインを押えたよい刷り物を出している会社がいくつもある。」(第29頁右欄第5行〜第12行)

[刊行物2:特開昭62-227792号公報(同甲第2号証)]
エ.「本発明の印刷用オフセット・ブランケットは、上記目的を達成するため、表面印刷層と、該表面印刷暦の下面に多孔質の圧縮性層を備え又は備えていない1層又は複数層の支持体層を積層してなる印刷用オフセット・ブランケットであって、前記表面印刷層がJIS硬度20〜40の耐油性弾性材により、表面の10点平均粗さが2μm以上〜15μmである如く形成された柔軟な弾性層であることを特徴とするものである。」(第2頁左上欄第3行〜第11行)
オ.「ー方、表面印刷層と支持体層との間又は複数の該支持体層の間に、発泡材又は微小ガラスビーズや熱可塑性合成樹脂のマイクロカプセル、プラスチック・フォームやコルクの微小粒状物を混入したゴム組成物又は塩類等の可溶性微小粒状物を混入して溶剤等により溶出したものが多孔質圧縮性層として使用される。支持休層は、綿布又はポリエステル、レーヨン等の合成繊維で作られた繊維補強布のほか、プラスチックシート又は金属薄板など非伸長性もしくは伸長性の少ない、且つ可撓性の材料によりつくられ、又必要に応じて1層又は複数層の支持体が使用される。そして、この支持体層は、ブランケット全休の好ましくない長手方向及び幅方向への伸長を防止する。」(第2頁右上欄第15行〜左下欄第13行)
カ.「図は本発明の一実施例を示す印刷用オフセット・ブランケットの部分拡大断面図で、ブランケット1は、ゴム組成物よりなる表面印刷層2と、該表面印刷層2の下面に積層された1層の平織布よりなる繊維支持体層3と、多孔質の圧縮性層4と、該圧縮性層4のさらに下面に積層された3層の織維支持大層5,6,7とから成っている。
本ブランケットは、離型紙としてシリコーンコーティングにより鏡面加工されたケント紙を用い、積層された1〜6の該積層物の表面印刷層に該紙を当てて加硫し、加硫後、該紙を取り除いて完成された。
本発明のブランケットでは表面印刷層にJSI硬度20と40のゴムを用い、10点平均粗さ5μm、10μmに研磨し通常のブランケットでJIS硬度55の表面ゴムと表面粗さ10点平均粗さ5μmとを比較してクラフト紙での印刷テストを行った。」(第2頁右下欄第2行〜第3頁左上欄第4行)

[刊行物3:大日本印刷株式会社編「図解印刷技術用語辞典」、初版、日刊工業新聞社、1987年8月30日、P.223(同甲第3号証)]
キ.「ドットゲイン dot gain 印刷をするさい,印刷版の網点の面積が印刷物のインキの面積とは一致せず,一般には印刷物の網点の面積の方が大きくなる。この大きくなった状態をいう。印刷時の圧力が強い,インキが軟らかいとドットゲインは大きくなる。よい印刷再現を得るためにはドットゲインをできるだけ小さくすることが大切である。オフセットの場合,輪転印刷は枚薬印刷と比べると大きい。印刷版を作る工程で,あらかじめ網点を小さく再現させておくことが通常行われている。」(第223頁第18行〜第24行)

[刊行物4:特開平2-20392号公報(同甲第4号証)]
ク.「本発明の方法の一観点によれば、少なくとも1層の布帛支持層が施される。この上にエラストマー材料製の圧縮性中間層が形成される。エラストマー材料は実質的に均一な厚さをもち、マイクロカプセルがこれに含有され、圧縮性層全体に実質的に均一に分布している。」(第4頁左下欄第7行〜第12行)
ケ.「本発明に従って形成された印刷用ブランケットを示す第1図について述べる。印刷用ブランケット10は表面層20、補強用布帛層22、圧縮性層24、および支持体としての布帛の付加層少なくとも1層からなる。説明のために2層の布帛支持層26および27を図面に示す。採用する各層の数および種類を意図する用途に応じて変えうることは当業者には認識されるであろう。接着層30,32,34および36はブランケット内の異なる層間の十分な結合を保証することが好ましい。圧縮性層24内の気孔28は、操作条件下で表面層20が変形することなく排除されるのを可能にする。この図に示すように、圧縮性層24内の気孔28は実質的に均一な寸法であり、実質的に均一に分布し、相互に連結していない。圧縮性層24内に形成された気孔28の寸法は気孔の形成に用いられたマイクロ力プセルの寸法と一般に同じ範囲内にあることが認められた。一般に気孔は直経10〜125ミクロン、好ましくは20〜60ミクロンである。
圧縮性層24は通常の加工用、安定化用、補強用および硬化用添加物を含むエラストマー材料によって形成され、その個々の用途を参照して配合される。当技術分野で知られているように、この配合は表面層20に用いられるものと異なる。硬化性または加硫性材料であると考えられる適切な高分子材料はいずれも使用でき、たとえば以下のものである。天然ゴム、ステレンーブタジエンゴム(SBR)、・・・、ブチルゴム、ブタジエン-アクリロニトリルゴム(NBR)、ポリウレタンなど。溶剤およびインキに対して抵抗性であるエラストマ-が好ましい。
接着層30、32、34および36は当技術分野で知られている適切なエラストマー系添加剤のいずれであってもよい。好ましくは接着剤はラバ-セメントである。布帛層22、26および27はたて糸方向(ブランケットの機械加工に対し縦の方向)に比較的低い伸長性を有する平織物で作成すべきであり、一般にスラブおよびつなぎ節、製織欠陥、種子などを含まない高級綿糸からなる。この布帛はレーヨン、ナイロン、ポリエステルまたはそれらの混合物であってもよい。布帛層のいずれかに接着剤を施す場合、これを通常は口ール式ナイフスプレダ-によって塗布する。接着剤は目的とする厚さが得られるまで層状に施される。一般に布帛層は厚さ約0.076〜0.41mm(0.003〜0.016インチ)であることができる。
圧縮性層24は前記のようにマイクロカプセルを含むエラストマー配合物を、同様にロール式ナイフスプレダ-により布帛支持層26に施すことにより形成される。エラストマー配合物は溶剤の添加によって、塗布のにめに望しいコンシステンシーにされる。一般に、目的とする厚さの中間属24を形成するためには、多数層の配合物を必要とする。各層を施す度に、溶剤の蒸発によってこれは硬化するが、架橋はしない。一般に圧縮性層は厚さ約0.20〜0.38mm(0.008〜0.015インチ)であることができる。この層は厚さ約0.28〜0.38mm (0.011〜0.012インチ )であることが好ましい。
表面層20は中間層の形成において記載したものと同じ方法により、印刷用ブランケット10の作用面に適したエラストマー配合物を用いて形成される。一般に、目的とする厚さの表面層20を形成するためには多数層の配合物を必要とする。一般に表面層は厚さ約0.13〜6.4mm(0.005〜0.25インチ )、好ましくは約0.25〜0.38mm(0.010〜0.015インチ )であることができる。厚さ約0.30〜0.38mm(0.012〜0.015インチ )の表面層を施すことがきわめて好ましい。」(第5頁左上欄第8行〜右下欄第17行)
コ.第1図には、布帛層22が、表面層20の下に位置することが図示されている。

[刊行物5:特開平2-116597号公報(同甲第5号証)]
サ.「本発明は、ブランケット胴の外周面に装着される印刷用ブランケットにおいて、複数枚積層された布層からなる基材と、この基材の表面側に設けられたゴム層とを具備し、少なくともブランケット胴側に最寄りの前記布層に撥水・撥油性処理を施したことを特徴とする印刷用ブランケットである。」(第2頁左上欄第17行〜右上欄第3行)
シ.「図中の1は、ブランケット胴2の外周面に装着された印刷用ブランケットである。このブランケット1は、非スポンジ型で接着層31を介して順次積層された3層の布層4a,4b,4cからなる基材4と、この基材4上に接着剤層32を介して形成された表面ゴム層5とから構成されている。ここで、前記基材4のうちブランケット胴2に最寄りの布層4aには、フッ素系化合物又はシリコン系化合物の溶液(例えば商品名アサヒガードAG310,旭硝子(株)製)を用いて撥水・撥油性処理が行なわれている。ここで、前記布層4aへの撥水・撥油性処理はブランケット作製前に布を浸漬、乾燥することにより行ってもよいし、あるいは布層4aを基材の一部として張合わせた後ブランケット1の裏面側からロールコーター、スプレー、あるいは刷毛等の手段で行なってもよい。
上記実施例に係る印刷用ブランケットは、接着剤層31を介して積層された布層4a,4b,4cからなる基材4と、この基材4の裏面に接着剤層32を介して形成された表面ゴム層5から構成され、しかも前記基材4の一部を構成するブランケット胴2に最寄りの布層4aが撥水・撥油性処理されていることにより、洗油や水等が侵入しにくいとともに、布層4aから厚み方向に侵入するのを防止できる。こうしたことから、洗油や水の侵入に起困するブランケットの各種のトラブルを抑制し、耐久性に優れたブランケットを得ることができる。(第2頁右下欄第8行〜第3頁左上欄第17行)
ス.「なお、上記実施例では、基材を構成する布層のブランケット胴に最寄りの布層4cのみに撥水・撥油性処理を施した場合について述べたが、これに限らず、他の布層例えば4a,4bのいずれかあるいは両者にも撥水・撥油性処理を施してもよい。こうした処理を施すことにより、上記実施例の場合と比べてより一層性能の優れたブランケットを得ることができる。
上記実施例では、基材が3枚の布層と接着剤層から構成される場合について述べたが、これに限らない。例えば、図示しないが布層を4層あるいは5層と構成したもの、更には第2図に示す如く基材4と表面ゴム層5間にスポンジ又はコルク層6を介在させた構成にしたもの、あるいは基材を構成する布層間に上記スポンジ層等を介在させた構成にしたもの等でもよい 。」(第3頁右上欄第12行〜左下欄第7行)

[刊行物6:特開昭62-124993号公報(同甲第6号証)]
セ.「第2図は従来の圧縮性印刷用ブランケットの構造を示す説明用断面図である。図面には説明の便宜上、圧縮性層2を1層のみとした構造を示した。
即ち、綿布、レ-ヨン布、ポリエステル布等の繊布からなる支持層1に圧縮性層2を接着、積層し、さらに、圧縮性層2の上面に支持層1を設け、最上層に印刷面となる表面ゴム層3を積層してなるものである。」(第2頁右上欄12行〜20行)
ソ.「中空微少球混入法
これはゴム状弾性を有するエラストマー中に圧縮に対して弾力性を有し、または容易に破壊し得る中空微少球(例えば、ガラス、フェノール樹脂、炭素あるいは熱可塑性プラスチック材料によって成型したもの)を混入した後、これを支持層の上に塗布、加熱して圧縮性層を成型する。次いで、発泡法、ソルト浸出法と同様に支持層を介して表面ゴム層を積層して圧縮性印刷用ブランケットを製造するものである。この製造法により製造された圧縮性層の気泡は基本的には独立した密閉構造である(例えば、特公昭52-7371号公報)。」(第2頁右下欄第6行〜第18行)
タ.「上記発泡法、及びソルト浸出法によって製造された圧縮性層の気泡は互いに連通しているで、このような圧縮性層は水、油等の液体を浸透させるという問題がある。」(第2頁右下欄第20行〜第3頁左上欄第3行)
チ.「この発明はかかる現況に鑑みてなされたもので、その一部が互いに連通する気泡を有する圧縮性層により構成される印刷用ブランケットの改良に係るものである。」(第2頁左上欄第16行〜第19行)
ツ.「(実施例)
以下に、この発明を詳細に説明する。第1図はこの発明の実施例を示す断両図である。
10はこの発明の圧縮性印刷用ブランケットで、圧縮性印刷用ブランケット10は織布による支持層11と圧縮性層12と、さらに支持層11aを介して積層された表面層13とから構成されている。
さらに詳述すると、支持層11の両面には非浸透性の保護層14が設けられており、圧縮性層12は保護層14の-方に積層されて、支持層11とともに積層体15を構成している。図面には説明の便宜上、圧縮性層12を1層とした印刷用ブランケット10を示したが、圧縮性層12を2以上することができるのは勿論である。圧縮性層12を2以上とする場合には、支持層の両面に保護層14を設け、さらに、一方の面に圧縮性層12を接着して構成した積層体15の圧縮性層12を上にして順次同一方向に重ね合わせればよい。
支持層11を構成する織布は従来と同様に、綿布、レーヨン布、ポリエステル布等を使用することができる。支特層11の保護層14の形成は特に限定されるものではなく、ゴム糊を塗布、乾燥して形成してもよいし、別途成型したシートを接着してもよい。
また、保護層14は次のようなエラストマー糊を塗布して形成するのが好ましい。
エラストマーとしてはゴム、樹脂のいずれか、またはその混合物を使用することができる。
ゴム糊としてはトリオ-ル、MEK、工業用ガソリン等の有機溶剤にNBR、ブチルゴム、ポリクロロプレンゴム等のゴム組成物を溶かして形成すればよい。
また、樹脂糊としてはMEK、トリオ-ル等の有機溶剤に防水性を有するフェノール樹脂を溶かして形成することができる。
ゴムと樹脂の混合物としては、例えばNBRとフェノール樹脂とを混合することができる。
ゴムまたは樹脂のエラストマーの量は有機溶剤に対して、3〜30%、好ましくは、5〜10%とする。
保護層14は上記のような有機溶剤に溶かして形成したエラストマー糊を、支持層11の画面に乾燥後の重量が10g/m2〜40g/m2、好ましくは20g/m2〜25/m2となるように塗布して形成する。支持層11への塗布は片面ずつ行ってもよいが、エラストマー糊中に浸漬して同時に画面を塗布し、これを乾燥させることにより形成する。
圧縮性層12は発泡法または、ソルト浸出法のいずれの製造方法によってもよい。
支持層11aを圧縮性層12と接着している接着層16は保護層14を形成するエラストマー糊と同一の糊を塗布することによって形成することができる。
第2図は他の実施例を示すものである。上記実施例では積層体15の圧縮性層12を上方にして支持体11aを介して表面層13を積層したのに対して、この実施例では積層体15の圧縮性層12を下方にして下面に支持層11aを設け、支持層11の上面に印刷面となる表面層13を積層する構成としたものである。」(第3頁左下欄第3行〜第4頁右上欄第3行)

5.特許異議申立てについての判断
(1)刊行物4記載の発明の認定
異議申立書第8頁第7行〜第13行において、「甲第1号証及び甲第2号証を組み合わせることにより本件特許の上記Aの構成について示唆され、・・・甲第4号証には本件特許の上記Bの構成について記載され、更に甲第5号証及び甲第6号証より、本件特許の上記Cの構成にすることは当業者であれば容易に実施し得ることである。」と主張しているように、異議申立人は、本件特許の構成の一部が明記されているのは甲第4号証のみと認識していることから、本件発明と刊行物4を対比するために、刊行物4記載の発明の認定を行う。
上記4.ク.〜コ.の記載を含む明細書及び図面の記載からみて、刊行物4には、
「エラストマー配合物を用いて形成された表面層20、実質的に均一に分布し、相互に連結していない複数の気孔28を有するエラストマー材料によって形成された圧縮性層24、該表面層20の下に位置し、一方の側に、接着層30を有し、他方の側に接着層32を有する、補強用布帛層22、を有する印刷用ブランケット10」
の発明(以下「刊行物4発明」という。)が記載されていると認めることができる。

(2)対比・判断
本件発明と、刊行物4発明とを対比する。
刊行物4発明の「エラストマー配合物を用いて形成された表面層20」と、本件発明の「剥離性を増大すると同時に印刷操作の間のドット・ゲインを減少する、約0.6ミクロン以上で約0.95ミクロン以下の平均粗さをもつ表面のプロフィルを有するエラストマーの印刷面」とは、「エラストマーの印刷面」である点で共通する。
刊行物4発明の「実質的に均一に分布し、相互に連結していない複数の気孔28を有するエラストマー材料によって形成された圧縮性層24」は、本件発明の「実質的に均一に分布した複数の独立気泡を有する圧縮可能なエラストマー層」と異ならない。
刊行物4発明の「該表面層20の下に位置し、一方の側に、接着層30を有し、他方の側に接着層32を有する、補強用布帛層22」と、本件発明の「該印刷面の下に位置し、一方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティングを有し、他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を有する、少なくとも1つの圧縮可能なファブリックのプライ」は、「該印刷面の下に位置するファブリックのプライ」である点で共通する。
刊行物4発明の「印刷用ブランケット10」は、本件発明の「印刷ブランケット」ということができる。
そうすると、本件発明と刊行物4発明とは、
「エラストマーの印刷面、実質的に均一に分布した複数の独立気泡を有する圧縮可能なエラストマー層、該印刷面の下に位置するファブリックのプライ、を有する印刷ブランケット」
である点で一致し、少なくとも次の点で相違する。

[相違点]
ファブリックのプライに関して、本件発明は、一方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティングを有し、他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を有する、圧縮可能なものであるのに対し、刊行物4発明は、両側に、接着層を有するものである点。

上記相違点について検討する。
上記刊行物5(〔〕括弧内は刊行物5中の対応個所)には、印刷ブランケットにおいて、ファブリック〔積層された布層4a,4b,4cからなる基材4〕の一方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティング〔撥水・撥油性処理された布層4a〕を有し、他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能なスポンジ又はコルク層6を設けることが記載されていると認められるものの(上記4.サ.〜ス.参照)、ファブリックの他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を設けることについては何ら記載がない。
上記刊行物6(〔〕括弧内は刊行物6中の対応個所)には、印刷ブランケットにおいて、ファブリック〔支持層11〕の両方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティング〔保護層14〕を設け、保護コーティング〔保護層14〕の一方に更に圧縮可能性を付与するためのその一部が互いに連通する気泡を有する圧縮性層を設けることが記載されていると認められるものの(上記4.タ.〜ツ.参照)、ファブリックの他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を設けることについては何ら記載がない。
また、上記刊行物1乃至刊行物3には、ファブリックのプライを、一方の側に、水、インキ及び溶剤のそれを通る吸収と吸い上げを防止する保護コーティングを有し、他方の側に、圧縮可能性を付与するための圧縮可能な微小球を有する、圧縮可能なものとする点について、記載も示唆もされていない。
以上のとおり、上記刊行物1〜3、5〜6には、上記相違点に係る本件発明の構成を備えることは記載も示唆もされていない。また、上記相違点に係る本件発明の構成は、当該技術分野において周知の技術でもない。さらに、刊行物4発明、刊行物1〜3、5〜6に記載された発明を相互に適用しても本件発明に到達できたと認定することはできない。
そして、上記相違点に係る構成を具備する本件発明は、「ファブリックの圧縮永久歪の減少、ならびにファブリックのレジリエンスまたは弾性反発性の改良、ファブリックのスマッシュ抵抗の改良、圧縮可能性、液体またはガスによる吸い上げに対するファブリックの抵抗の改良、および厚さ損失の抵抗の改良が達成される。」(本件特許公報第12頁第24欄第23行〜第27行)という上記刊行物1乃至6に記載のものからは期待できない格別の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、刊行物4発明、及び刊行物1〜3、5〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

6.むすび
以上のとおり、本件発明についての特許は、特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできなく、また、他に、本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-08-22 
出願番号 特願平5-509414
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B41N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 中村 圭伸
藤井 靖子
登録日 2002-01-18 
登録番号 特許第3269560号(P3269560)
権利者 レーベス ソチエタ ペル アツィオニ
発明の名称 圧縮可能な印刷ブランケットおよびそれを製造する方法  
代理人 西山 雅也  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
代理人 樋口 外治  

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