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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 C08K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08K 審判 全部申し立て 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 C08K 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C08K |
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管理番号 | 1084908 |
異議申立番号 | 異議2000-74207 |
総通号数 | 47 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-06-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-11-21 |
確定日 | 2003-10-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3043694号「燐酸エステル系難燃剤」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3043694号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本件特許第3043694号は、平成4年1月16日に出願された平成4年特許願第5742号(以下、「原出願」という)の分割出願として、平成9年11月27日に特許出願されたものであって、平成12年3月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、旭電化工業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月10日付けで特許異議意見書が提出されると共に訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成14年2月8日付けで特許異議意見書が提出されたものである。 【2】分割要件と本件出願日の認定 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、特定の燐酸エステル系難燃剤(以下、「本件難燃剤」という)の発明が記載されている。 そして、発明の詳細な説明には、本件難燃剤が、樹脂の難燃化をもたらす旨の記載があり(段落【0007】、段落【0008】、段落【0026】、段落【0057】等参照)、段落【0026】には、本件難燃剤が、従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂と同様の樹脂に対して有効である旨記載されている。さらに、段落【0049】には、応用例2が記載され、段落【0056】には、応用例2の物性試験結果が記載されている。そして、応用例2には、ビスフェノールAとホスゲンから誘導された芳香族ポリカーボネートとブタジエン上にスチレンアクリロニトリルがグラフト重合した耐衝撃性ASに対して、本件難燃剤である、「実施例1で調製した燐酸エステル-1」を配合した樹脂組成物が記載されている。 そうすると、本件難燃剤の発明には、樹脂一般を適用対象とする難燃剤の発明や、従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂を適用対象とする難燃剤の発明や、応用例2の樹脂組成物に有効な難燃剤の発明が含まれているものと認められる。 しかし、原出願の願書に最初に添付した明細書には、本件難燃剤が、樹脂一般や、従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂や、応用例2の樹脂組成物において有効であることは記載されていない。 したがって、本件の請求項1に記載された難燃剤の発明のうち、樹脂一般や、従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂や、応用例2の樹脂組成物を適用対象とする発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明ではない。 ゆえに、本件特許は、平成5年法律第26号による改正前の特許法第44条第1項に規定する要件を満足せず、したがって、本件特許の出願日は、現実の出願日である、平成9年11月27日と認める。 なお、特許権者は、参考資料1(西沢仁著「ポリマーの難燃化-その化学と実際技術一」初版第1刷 昭和54年2月28日 株式会社大成杜発行 p.34〜36)、及び、参考資料2(特公昭62-25706号公報)を提出し、参考資料1の記述からわかるように、当業界では、難燃剤の作用は、それが添加される樹脂との組み合わせによって発現するというものではなく、難燃剤自体の作用により発現されるものと認識されており、このことは、参考資料2からも明らかであり、原出願の明細書にポリフェニレンエーテル樹脂と難燃化剤との組成物が記載されているから、特に他の樹脂に関する言及がなくとも、当業者であれば該難燃剤がポリフェニレンエーテルに限らず、他の樹脂一般に対しても有効であると理解でき、したがって、原出願には、樹脂一般を適用対象とする難燃剤の発明や、従来の有機りん系難燃剤が使用される樹脂を適用対象とする難燃剤の発明や、応用例2の樹脂組成物において有効な難燃剤の発明について実質上記載されている旨主張している。 しかし、それ自体の作用により難燃効果を奏する難燃剤であっても、多岐にわたる樹脂に対して有効な難燃剤もあれば、一部の樹脂に対してのみ有効な難燃剤もあることは技術常識である。このように、難燃作用が、難燃剤自体の作用により発現することと、難燃剤の有効な適用対象が何であるかとは別のことである。しかも、原出願の明細書には、応用例2に係る記載は何も存在していない。 したがって、上記特許権者の主張を採用することはできない。 【3】訂正の適否についての判断 平成13年8月10日付けの訂正請求における訂正の内容は以下の、訂正事項1〜3のとおりである。 訂正事項1:段落【0026】の、「本発明の難燃剤は、従来の有機リン化合物系難燃剤の改良系であり、従来の有機リン系難燃剤が使用される樹脂と同様の樹脂に対して有効であるが、好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂、および/またはスチレン系樹脂を含む樹脂に対して用いられる。」を、「本発明の難燃剤は、従来の有機リン化合物系難燃剤の改良系であり、好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂、またはこれとスチレン系樹脂を含む樹脂に対して用いられる。」と訂正する。 訂正事項2:段落【0049】の「【応用例2】ビスフェノールAとホスゲンから誘導された塩化メチレン中25℃の固有粘度が0.50l/gである芳香族ポリカーボネート65重量部、ブタジエン上にスチレンアクリロニトリルがグラフト重合した耐衝撃性AS(ABSと略称)25部、実施例1で調製した燐酸エステル-1を10重量部、テフロンF201L(ダイキン製)0.2部、及びスミライザーGM(住友化学製のヒンダードフェノール)1部とを、押出機を用いて280℃の温度にて溶融混練して樹脂組成物を得た。該樹脂組成物の物性試験結果を表1に示す。」なる記載(【0049】内の記載内容のすべて)を削除する。 訂正事項3:段落【0056】の表1中、応用例2の欄を削除する。 そして、訂正拒絶理由で述べたとおり、訂正事項1〜3は、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記又は誤訳の訂正」、「明りょうでない記載の釈明」のいずれを目的とするものとも認められない。 なお、特許権者は、本件が分割出願であるのに、原出願明細書中には記載されていない事項が存在することは、分割出願の明細書として不備であり、かつその事項は分割出願の明細書として明りょうでない記載であり、訂正事項1〜3は、これを正すべく削除したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とすること、また、審査過程では分割が適法であると認定されて特許されたものが、訂正拒絶理由で、特許法第44条第1項に規定する要件を満たしていないと認定され、本件訂正は、それに対応して行ったものであり、その内容は、分割要件を満たさない理由として指摘を受けた、原出願の明細書には記載されていない記載事項を削除するというものであり、また、本件特許出願が特許法第44条第1項の規定に基づく出願であるとの前提に立てば、訂正事項1〜3は、「明りょうでない記載の釈明」と解しても、また記載してはいけない事項を記載したものであるとの観点からすれば、そのような事項を記載することは誤りであり、またその誤りの結果であるその記載自体も誤りであるから、これを正すべくその誤った記載事項を削除することは「誤記の訂正」を目的としたものと解しても無理はない旨主張している。 しかし、「明りょうでない記載の釈明」とは、特許明細書中のそれ自体意味の不明りょうな記載、又は、特許明細書中の他の記載との関係で、不合理を生じているために不明りょうとなっている記載等、明細書に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいい、明りょうでない記載の釈明が認められる為には、特許明細書に明りょうでない記載が存在することが必要と認められるところ、訂正事項1〜3における、訂正前の記載に明りょうでない点は存在しない。 また、「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいうところ、訂正事項1〜3が、このようなものに該当しないことは明らかである。 また、本件特許に係る出願が特許法第44条第1項の規定に基づく出願であり、審査過程で分割が適法であると認定された事実により、「明りょうでない記載の釈明」や「誤記の訂正」についての判断が左右されることはない。 したがって、この特許権者の主張を採用することはできない。 以上のとおりであるから、訂正事項1〜3は、特許法第120条の4第2項の規定に適合しないので、本件の訂正請求は認められない。 【4】取消理由についての判断 1.本件発明 本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「エステル成分としてビスフェノールA残基とフェノール残基とを有し、酸価が1未満でかつ120℃の2気圧飽和水蒸気、96時間暴露時の重量増加率が20%以下であり、かつ300℃での加熱減量が5%以下であることを特徴とする燐酸エステル系難燃剤。」 2.取消理由の概要 取消理由の概要は、本件発明は、その出願前に国内において頒布された特開平5-186681号公報(以下、「刊行物1」という)に記載された発明であるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるというものである。 3.判断 刊行物1は、原出願の公開特許公報であり、その請求項1、段落【0006】、第4頁5欄第15〜32行、段落【0020】、及び第5頁第12〜13行の記載からみて、刊行物1には、本件発明にかかる難燃剤が記載されている。 すなわち、本件発明は、刊行物1に記載された発明であり、したがって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 【5】むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-03-04 |
出願番号 | 特願平9-326325 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZB
(C08K)
P 1 651・ 852- ZB (C08K) P 1 651・ 853- ZB (C08K) P 1 651・ 831- ZB (C08K) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中川 淳子、佐々木 秀次、岡崎 美穂、藤本 保 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
村上 騎見高 石井 あき子 |
登録日 | 2000-03-10 |
登録番号 | 特許第3043694号(P3043694) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 燐酸エステル系難燃剤 |
代理人 | 小松 秀岳 |
代理人 | 羽鳥 修 |
代理人 | 加々美 紀雄 |
代理人 | 旭 宏 |