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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23B
審判 査定不服 2項 特許、登録しない。 B23B
管理番号 1086234
審判番号 不服2001-16624  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-10-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-09-19 
確定日 2003-11-07 
事件の表示 平成7年特許願第103067号「フライス切削用硬質層被覆切削工具およびその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成8年10月15日出願公開、特開平8-267306]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年4月4日の出願であって、平成13年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、受付日平成13年9月19日で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、受付日平成13年10月19日で明細書を補正対象書類とする手続補正がなされたものである。

2.受付日平成13年10月19日の、明細書を補正対象書類とする手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
受付日平成13年10月19日の、明細書を補正対象書類とする手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
上記手続補正は、その手続補正書によると、下記の補正事項を含むものである。
特許請求の範囲に記載される、
「【請求項1】 基体表面に、TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層、TiとAlの複合炭化物層の内の1種の単層または2種以上の複数層からなるTiとAlの複合化合物層(以下、これらをTiAl複合化合物層という)を被覆してなる 硬質層被覆切削工具において、
前記基体表面に被覆されたTiAl複合化物層(注:「複合化合物層」の誤記と認められる。)のTi/Alの比は、切刃および切刃から幅:3mm以下の帯状部分であるエッジ部において原子比で30/70〜80/20の範囲内にあり、エッジ部以外の部位において原子比で25/75〜75/25の範囲内にあり、かつエッジ部のTi/Alの比はエッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化しており、エッジ部において最も高くなっていることを特徴とする 硬質層被覆切削工具。
【請求項2】 基体とTiAl複合化合物層の間に、TiN、TiCN、TiCの内の1種の単層または2種以上の複数層からなる層厚:1〜10μmの付着強化層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の 硬質層被覆切削工具。
【請求項3】 基体表面に被覆されたTiAl複合化合物層の外層に、層厚:1〜10μmのTiN層が最外層として被覆されていることを特徴とする請求項1または2記載の 硬質層被覆切削工具。
【請求項4】 前記TiAl複合化合物層は、層厚:1〜10μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1、2または3記載の 硬質層被覆切削工具。
【請求項5】 前記 TiAl複合化合物層は、通常の物理蒸着方法によるTiAl複合化合物層の形成方法において、負のバイアス電圧の絶対値を20〜300Vの範囲内で反応初期から終了までの間に徐々に増加させるように変化させることにより形成することを特徴とする請求項1、2、3または4記載の 硬質層被覆切削工具の製造方法。」を、
「【請求項1】 基体表面に、TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層、TiとAlの複合炭化物層の内の1種の単層または2種以上の複数層からなるTiとAlの複合化合物層(以下、これらをTiAl複合化合物層という)を被覆してなるフライス切削用硬質層被覆切削工具において、
前記基体表面に被覆されたTiAl複合化化物層(注:「複合化合物層」の誤記と認められる。)のTi/Alの比は、切刃および切刃から幅:3mm以下の帯状部分であるエッジ部において原子比で50/50〜60/40の範囲内にあり、エッジ部以外の部位において原子比で45/55〜55/45の範囲内にあり、かつエッジ部のTi/Alの比はエッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化しており、エッジ部において最も高くなっていることを特徴とするフライス切削用硬質層被覆切削工具。
【請求項2】 基体とTiAl複合化合物層の間に、TiN、TiCN、TiCの内の1種の単層または2種以上の複数層からなる層厚:1〜10μmの付着強化層が形成されていることを特徴とする請求項1記載のフライス切削用硬質層被覆切削工具。
【請求項3】 基体表面に被覆されたTiAl複合化合物層の外層に、層厚:1〜10μmのTiN層が最外層として被覆されていることを特徴とする請求項1または2記載のフライス切削用硬質層被覆切削工具。
【請求項4】 前記TiAl複合化合物層は、層厚:1〜10μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1、2または3記載のフライス切削用硬質層被覆切削工具。
【請求項5】 前記Ti/Alの比が基体表面方向に変化しておりかつエッジ部においてTi/Alの比が最も高くなっているTiAl複合化合物層は、通常の物理蒸着方法によるTiAl複合化合物層の形成方法において、負のバイアス電圧の絶対値を20〜300Vの範囲内で反応初期から終了までの間に徐々に増加させるように変化させることにより形成することを特徴とする請求項1、2、3または4記載のフライス切削用硬質層被覆切削工具の製造方法。」と補正する。
なお、下線部は、補正箇所を明示するために当審で付したものである。

(2)新規事項の有無について
ところで、エッジ部における被覆されたTiAl複合化合物層のTi/Alの比の下限を、「50/50」とすることは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項でも、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項でもない。
したがって、上記の補正事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。

(3)むすび
以上のとおり、上記の手続補正は、特許法第17条の2第2項の規定で準用する同法第17条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
受付日平成13年10月19日の、明細書を補正対象書類とする手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜5に係る発明(以下それぞれを「本願発明1」等という。)は、受付日平成13年1月24日の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、本願発明1は次のとおりのものと認められる。
『基体表面に、TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層、TiとAlの複合炭化物層の内の1種の単層または2種以上の複数層からなるTiとAlの複合化合物層(以下、これらをTiAl複合化合物層という)を被覆してなる硬質層被覆切削工具において、
前記基体表面に被覆されたTiAl複合化合物層のTi/Alの比は、切刃および切刃から幅:3mm以下の帯状部分であるエッジ部において原子比で30/70〜80/20の範囲内にあり、エッジ部以外の部位において原子比で25/75〜75/25の範囲内にあり、かつエッジ部のTi/Alの比はエッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化しており、エッジ部において最も高くなっていることを特徴とする硬質層被覆切削工具。』
なお、請求項1に記載される「複合化物層」は「複合化合物層」の誤記であるから、本願発明1を上記のように認定した。

4.刊行物記載の事項及び周知技術
原査定の拒絶の理由に引用され本願の出願前に国内で頒布された刊行物である特開平2-80559号公報(以下、「刊行物」という。)には、
(イ)「金属元素組成に関し、エッジ部領域をその他の領域に比較した場合少くとも原子百分率で2%(2at%)の濃度差を与える事ができる。又本発明にかかる方法によれば、基板の電位に対してプラズマの電位を適当に設定する事により上述した濃度差が、自動的にエッジ部領域における電場集中によって生じるイオン衝撃によって達成させる。最も驚くべき事には、硬質化合物系の金属成分の濃度差によって測られるエッジ部領域の被覆膜の異質性又は不均一性がこの領域における従来の均一で且つ平坦な被覆膜よりも相当程度高い耐摩耗性を有する硬質化合物被覆膜の形成をもたらす。」(第3頁左下欄19行〜同頁右下欄11行)、
(ロ)「特に好ましいのは、2種類の金属元素即ちアルミニウムとチタンを含有する硬質化合物系を用いる場合である。被覆処理を行なった後に、得られた濃度差はエッジ部においてアルミニウム含有量で原子百分率でみると10%(10at%)に及ぶ減少であった。」(第4頁左上欄19行〜同頁右上欄4行)、
(ハ)「本発明にかかる硬質化合物膜はスチール、硬質金属、セラミックと金属の複合材料であるサーメット、セラミック及びこれら材料の複合物の表面に用いる事ができる。」(第4頁左下欄8行〜11行)、
(ニ)「[実施例]アルゴンで満たされた真空室内において・・・ドリル工具がターゲットスパッタリングにより・・・被覆処理を施された。ターゲット(カソード)の材料は焼結されたチタンとアルミニウムの組成物からなる。目的とする硬質化合物系を形成する為に、反応性ガスである窒素があらかじめ定められた分圧の下で真空室に導入された。良好なイオン化状態においてプラズマと基板(ドリル工具)の間にー100Vの電位差を加える事により、・・・被覆層を形成する事ができた。・・・エッジ部領域においてはアルミニウムの濃度が薄められているという事がわかる。エッジ部領域におけるアルミニウムの濃度差は、エッジ部から離れた領域にある残りの黒薄色若しくは黒灰色層に比較して、原子百分率で約6%(6at%)であった。・・・本発明にかかる被覆膜を有するドリル工具は、均質な膜によって被覆されたドリル工具に比べて50%高い寿命を有し・・・。この様に良好な寿命期間が得られた理由の一つは、被覆膜が基板材料に対してより強固に密着している為であった。」(第4頁右下欄1行〜第5頁左上欄18行)と記載され、
(ホ)第1、2図から、「切刃からの距離が2500μmの範囲内で、硬質化合物膜のTi濃度は約58〜約52質量%であり、Al濃度は約14.6%〜約17.1%であって、Ti/Alの比が原子比でおおよそ69/31〜64/36であること」が看取し得る。
上記摘記事項(イ)〜(ニ)からみて、刊行物には、
『硬質金属、セラミックと金属の複合材料であるサーメット、セラミック及びこれら材料の複合物の表面に、TiとAlの複合窒化物層を被覆してなる硬質化合物膜被覆ドリル工具において、
前記硬質金属、セラミックと金属の複合材料であるサーメット、セラミック及びこれら材料の複合物の表面に被覆されたTiとAlの複合窒化物層のTi/Alの比は、エッジ部のTi/Alの比がエッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化させ、エッジ部において最も高くすること、及び、それによって耐摩耗性、寿命が向上すること』(以下、「刊行物記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。

また、本願の出願前に以下の技術が硬質層被覆切削工具の技術分野において周知であるものと認められる(特に必要なら、特開平2-194159号公報、特開平5-337705号等を参照)。
『基体表面に、TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層からなるTiとAlの複合化合物層を被覆してなる硬質層被覆切削工具において、前記基体表面に被覆されたTiとAlの複合化合物層のTi/Alの比が25/75〜80/20の範囲内にある硬質層被覆切削工具』(以下、「周知技術」という。)
(例えば、特開平2-194159号公報には、Ti/Alの比が25/75〜44/56であることが、特開平5-337705号には、Ti/Alの比が、すくい面で10/90〜40/60、逃げ面で41.7/58.3〜62.5/37.5であることが示され、さらに、刊行物の第1、2図にも、Ti/Alの比がおおよそ69/31〜64/36であることが示されている。)

5.対比
本願発明1と上記周知技術とを対比すると、後者の「TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層からなるTiとAlの複合化合物層」は前者の「TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層、TiとAlの複合炭化物層の内の1種の単層または2種以上の複数層からなるTiとAlの複合化合物層」に相当する。
してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉基体表面に、TiとAlの複合窒化物層、TiとAlの複合炭窒化物層、TiとAlの複合炭化物層の内の1種の単層または2種以上の複数層からなるTiとAlの複合化合物層を被覆してなる硬質層被覆切削工具において、被覆されたTiAl複合化合物層のTi/Alの比が原子比で25/75〜80/20の範囲内にある硬質層被覆切削工具。
〈相違点〉被覆されたTiAl複合化合物層のTi/Alの比が、前者では、切刃および切刃から幅:3mm以下の帯状部分であるエッジ部において原子比で30/70〜80/20の範囲内にあり、エッジ部以外の部位において原子比で25/75〜75/25の範囲内にあり、かつエッジ部のTi/Alの比はエッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化しており、エッジ部において最も高くなっているのに対して、後者はそのように特定されていない点。

6.当審の判断
そこで、上記相違点について検討するに、刊行物記載の事項の「硬質金属、セラミックと金属の複合材料であるサーメット、セラミック及びこれら材料の複合物」は本願発明1の「基体」に、刊行物記載の事項の「TiとAlの複合窒化物層」は本願発明1の「TiAl複合化合物層」に、それぞれ相当するから、結局、刊行物には、「基体表面にTiAl複合化合物を被覆してなる硬質層被覆切削工具において、前記基体表面に被覆されたTiAl複合化合物層のTi/Alの比は、エッジ部以外の部位のTi/Alの比よりも大となるように基体表面方向に変化させ、エッジ部において最も高くし、硬質層被覆切削工具の耐摩耗性、寿命を向上させる」との技術事項が記載されていると認められる。
そして、当該刊行物記載の技術事項と上記周知技術とは、「硬質層被覆切削工具」という同一の技術分野に属するものであり、また、硬質被覆切削工具に耐摩耗性及び寿命の向上は当業者にとって周知の課題である。
してみると、上記周知技術に刊行物記載の事項を組み合わせて、硬質層被覆切削工具の耐摩耗性、寿命を向上させることは、当業者が容易に想到し得ると云うべきものであり、そして、その際に、TiAl複合化合物層のTi/Alの比を相対的に大きく設けるエッジ部の範囲を切刃からどの程度のところまでとするか、また、周知技術におけるTi/Alの比の枠内で、エッジ部とエッジ部以外の部位とのTi/Alの比をどの程度に変化させるかは、当業者が容易になし得ることと認められる。
さらに、本願発明1の作用効果は、刊行物1記載の技術事項に、硬質層被覆切削工具の耐摩耗性、寿命を向上させることが含まれていることからみても、上記周知技術及び刊行物記載の技術事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本願発明1は、上記周知技術及び刊行物記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願発明2〜5について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-08-27 
結審通知日 2003-09-02 
審決日 2003-09-16 
出願番号 特願平7-103067
審決分類 P 1 8・ 581- Z (B23B)
P 1 8・ 121- Z (B23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間中 耕治  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 宮崎 侑久
三原 彰英
発明の名称 フライス切削用硬質層被覆切削工具およびその製造方法  
代理人 鴨井 久太郎  
代理人 富田 和夫  
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