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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 B41J |
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管理番号 | 1086347 |
異議申立番号 | 異議2003-70594 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-05-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-03-03 |
確定日 | 2003-08-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3320168号「サーマルヘッド」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3320168号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3320168号に係る発明の出願は、平成5年11月9日に特許出願され、平成14年6月21日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人石井義章より請求項1〜請求項5に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年7月15日に特許異議意見書の提出とともに訂正請求(以下「本件訂正」という。)がなされたものである。 第2 訂正の可否の判断 1.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである。 訂正前の請求項1〜請求項4を削除し、訂正前の請求項5を請求項1に改めた上で、 「表面がグレーズ処理された支持基板と、この支持基板上に形成された酸素を含む下地層と、この下地層上に形成された酸素を含む発熱抵抗体と、この発熱抵抗体に接続された電極層と、前記発熱抵抗体の少なくとも発熱部を被覆し、酸素を含む保護層とを具備するサーマルヘッドにおいて、前記発熱抵抗体の酸素の含有率をX原子%とした場合に、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以下で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以上、あるいは、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以上で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以下であり、 前記下地層と前記発熱抵抗体との酸素の含有率差と、前記発熱抵抗体と前記保護層との酸素の含有率差との差が5原子%以内であり、 前記下地層または前記保護層の少なくとも一方が、酸素の他に珪素および窒素を含んでおり、 前記下地層の酸素の含有率が60原子%以上であることを特徴とするサーマルヘッド。」と訂正する。 2.訂正要件についての検討 訂正後の請求項1の記載は、訂正前請求項5の記載事項、訂正前請求項5が引用する訂正前請求項4の記載事項、及び訂正前請求項4が更に引用する訂正前請求項2の記載事項をすべて含んだ上で、更に「前記下地層と前記発熱抵抗体との酸素の含有率差と、前記発熱抵抗体と前記保護層との酸素の含有率差との差が5原子%以内であり」との限定を付すものであるから、訂正前の請求項1〜請求項4を削除し、訂正前の請求項5を請求項1に改めることと併せて、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正に該当する。 また、「前記下地層と前記発熱抵抗体との酸素の含有率差と、前記発熱抵抗体と前記保護層との酸素の含有率差との差が5原子%以内であり」との限定は、願書に添付した明細書の「下地膜と発熱抵抗体との酸素含有率差と、発熱抵抗体と保護膜との酸素含有率差はほぼ同じか、各々の酸素含有率差の差が、せいぜい5原子%以内の範囲であることが望ましい。」(段落【0045】)との記載に基づくものであるから、新規事項の追加には当たらない。 さらに、本件訂正が特許請求の範囲を拡張・変更するものでないことは明らかである。 3.訂正の可否の判断の結論 以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の4第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり、平成6年法律第116号附則6条1項が、同法の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、なお従前の例によるとすることにより、特許法120条の4第3項において準用する同法126条2項及び3項が読み替えられて準用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書き前文及び2項の規定に規定に適合する。 第3 特許異議申立についての判断 1.特許異議申立理由の骨子 特許異議申立の対象は、請求項1〜請求項5に係る特許であるが、上記のとおり訂正が認められ、訂正前の請求項1〜請求項4は削除されたから、訂正前の請求項5に係る特許に対しての異議申立理由につき検討すれば十分である。 特許異議申立人の主張は、概略、訂正前請求項5の記載は、本件特許発明の作用効果を奏さない構成が含まれているから、特許法36条5項(平成6年改正前特許法36条5項の趣旨と解する。)に規定する要件を満たしていない、というものであり、その根拠として本件明細書段落【0069】及び【図2】の(b)及び(c)の例を、本件特許発明の作用効果を奏さない例として主張するものである。 2.特許異議申立理由についての当審の判断 訂正後の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項により特定されるもの(前記「第2 1」参照)であり、「前記下地層と前記発熱抵抗体との酸素の含有率差と、前記発熱抵抗体と前記保護層との酸素の含有率差との差が5原子%以内」との限定が付されたものである。 ここで【図2】の(b)及び(c)について検討すると、下地層及び発熱抵抗体の酸素含有率が62原子%及び55原子%であって、保護層の酸素含有率が(b)では55原子%とされ、(c)では43原子%とされている。これを、下地層と発熱抵抗体との酸素の含有率差と、発熱抵抗体と保護層との酸素の含有率差との差(以下「酸素含有率差差」という。)についてみると、(b)では7原子%、(c)では5原子%とされていることになる。すなわち、(b)は訂正後の請求項1に係る発明の技術的範囲に属さないものであり、(c)は酸素含有率差差がその限界値である5原子%の例である。 そして、訂正明細書には「本発明により作成されたサーマルヘッドのうち、・・・c(酸素含有率43原子%)は、いずれも108回パルス印加に至るまで、抵抗値の変化率は±8%以内と安定していた。」(段落【0069】)と記載されており、請求項1に係る発明における酸素含有率差差の限界値においても、抵抗値が安定している旨記載されている。そして、酸素含有率差差がその限界値より小さければ、より安定するであろうことは想像に難くないから、訂正後の請求項1の記載が、本件特許発明の作用効果を奏さない構成を含むということはできない。 特許異議申立人は、特許明細書の「(c)においては、抵抗値は初期から下降を示した。」(段落【0069】)、及び「抵抗値が低下すると、発熱抵抗体に過剰パワーが印加され破壊の原因になる。」(段落【0045】)との記載を捉え、「安定した寿命特性を持つサーマルヘッドを実現できる。」(段落【0072】)との作用効果を奏さないと主張する(なお、ここで摘記した各記載は、本件訂正によって訂正されていない。)が、もとより発熱抵抗体の抵抗値が経時変化することは避けられず、技術的に重要なのは、その変化度合いを、通常想定される使用回数との関係で、使用可能限度内にとどめることである。段落【0045】の記載は、単に抵抗値の低下が破壊原因となるとの一般的性質を述べたにすぎず、段落【0069】の記載は、抵抗率変化の傾向が増加傾向ではなく初期から低下傾向であることを述べたにすぎない。そして、抵抗値の低下があるとしても、その度合いが小さければ、「安定した寿命特性を持つサーマルヘッドを実現できる。」との作用効果と矛盾しないことはいうまでもなく、(段落【0069】)の上記記載によれば、訂正後請求項1記載の構成によって、同作用効果が奏されることを疑う理由はない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できず、請求項1(訂正後)の記載は、平成6年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たすものと認める。 以上によれば、特許異議申立理由によって、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 第4 むすび よって、結論のとおり決定する |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 サーマルヘッド (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 表面がグレーズ処理された支持基板と、この支持基板上に形成された酸素を含む下地層と、この下地層上に形成された酸素を含む発熱抵抗体と、この発熱抵抗体に接続された電極層と、前記発熱抵抗体の少なくとも発熱部を被覆し、酸素を含む保護層とを具備するサーマルヘッドにおいて、前記発熱抵抗体の酸素の含有率をX原子%とした場合に、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以下で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以上、あるいは、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以上で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以下であり、 前記下地層と前記発熱抵抗体との酸素の含有率差と、前記発熱抵抗体と前記保護層との酸素の含有率差との差が5原子%以内であり、 前記下地層または前記保護層の少なくとも一方が、酸素の他に珪素および窒素を含んでおり、 前記下地層の酸素の含有率が60原子%以上であることを特徴とするサーマルヘッド。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、例えば、発熱抵抗体への投入エネルギー密度が高い高精細型サーマルヘッドに関する。 【0002】 【従来の技術】 サーマルヘッドは、音が小さく、保守が容易で、また、ランニングコストが低いなどの特徴があり、ファクシミリやワープロ用プリンタなど、各種の記録装置に使用されている。また、高精細のサーマルヘッド、例えば400dpi(dots per inch)程度以上のものは、孔判印刷用としても用いられる。 【0003】 ところで、高精細のサーマルヘッドにおいては、解像度をより向上させるために発熱抵抗体の形状を微細化すること、そして、投入エネルギー密度を増加することが求められている。このような要求から、投入エネルギー密度を増加できる構造のサーマルヘッドが必要とされている。 【0004】 サーマルヘッドの発熱抵抗体を微細化し、また、これに伴い投入エネルギー密度を増加させると、発熱抵抗体の中央部における発熱温度のピークが上昇する。発熱温度が上昇することによって、発熱抵抗体の抵抗値が動作時間の経過とともに上昇し、やがて規定の抵抗値を越えてしまうことがある。特に、発熱抵抗体の温度が600℃を越えるような場合は、サーマルヘッドを構成するグレーズ層と発熱抵抗体との反応が顕著になり、発熱抵抗体の抵抗値が劣化する。 【0005】 発熱抵抗体の発熱温度の上昇の原因は、グレーズ層から発熱抵抗体へ不純物が拡散することにあるとして、グレーズ層と発熱抵抗体との間に、 SiNxOy(0.2<x<1.1、0.2<y<1.8)……(1) の組成を有する下地層を設け、発熱抵抗体への不純物の拡散を抑える方法が考えられている(特開昭61-297159号公報)。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 上記した従来の方法では、下地層の材料を選ぶ場合、グレーズ層から発熱抵抗体への不純物の拡散を抑える能力、あるいは、グレーズ層や発熱抵抗体との付着力などの特性が考慮される。 【0007】 しかし、本発明者らが、下地層や発熱抵抗体、保護層に対していろいろな材料を用いたサーマルヘッドを試作し、その特性を調べた結果、サーマルヘッドの耐パワー性は、必ずしも下地層の特性だけでは決まらず、発熱抵抗体や保護層に使用される材料との組み合わせで相違することが分かった。 【0008】 また、特開昭61-297159号公報で示された組成範囲の下地層を用いた場合、サーマルヘッドを高解像度で動作させ、投入パワー密度が大きくなると、グレーズ層と下地層間で剥離が生じ易くなる。 【0009】 これは、グレーズ層と下地層の熱膨脹率に差があり、動作時に両者の界面に応力が生じる。そして、このような熱ストレスが繰り返され剥離に至るものと考えられる。このような剥離は、動作時の投入パワー密度が大きく、また発熱抵抗体の到達温度が高い高精細サーマルヘッドの場合に顕著になる。 【0010】 また、上記した組成範囲の下地層を用いた場合、Ta-SiO2やNb-SiO2を抵抗膜として用い、ドライエッチングにより抵抗膜をパターニングし、抵抗層を構成する際にも不具合が生じる。 【0011】 例えば、抵抗膜と下地膜とのエッチングの選択比が小さいために、基板の全範囲に渡ってリード間の抵抗膜をエッチングするような条件では、下地膜の不要な部分までエッチングされる。下地膜の不要な部分がエッチングされると、抵抗膜とリード間に段差を生じ、その後の工程で保護膜を付けるときにステップカバレージが悪化する。また、下地膜の表面がエッチングされることにより、表面に微細な凹凸が生じ、ドライエッチングの際にフッ化物が下地膜の表面に残る。この結果、保護膜を形成した場合に、下地膜と保護膜間にフッ化物が存在することになり、両者の付着力が低下する。 【0012】 上記したグレーズ層と下地層の剥離、あるいは、下地膜と保護膜の付着力の低下を解決するために、出願人は、下地膜の窒素(N)の含有率を7原子%以下とするサーマルヘッドを提案している。この場合、(1)式でy>1.8、すなわち酸素(O)の含有率が60原子%以上の組成となる。このような組成にすることで以下の2点が改善される。 【0013】 (1)グレーズ層との熱膨脹率の差が小さくなり、耐熱衝撃性が改善される。 【0014】 Si、O、N膜の機械的特性や熱膨張率は、その組成によりSiO2とSi3N4のそれぞれの特性の中間の値を取る。これは、Si-O、またはSi-Nの結合割合で決まるアモルファス構造が、機械的特性や熱膨張率などの特性を支配するためと考えられる。Oの含有率が大きくなればSi-Oの結合割合が増え、SiO2的な特性に近づく。一方、Nの含有率が大きくなればSi-Nの結合割合が増え、Si3N4的な特性に近づく。 【0015】 例えば、ヌープ硬度を例に取ると、図4に示すようにN含有率が12原子%以上では殆ど一定の値を示し、N含有率が12原子%以下になるとN含有率の低下によってヌープ硬度が低下する。なお、図4で、縦軸がヌープ硬度(kg・f/mm2)、そして、横軸がN含有率(原子%)である。 【0016】 Nが12原子%の場合は、Si原子の4本の結合手の内、概ね1本がNと結合し、残りの3本がOと結合する場合に相当する。Nの割合がこれ以上になると、確率的に大部分のSiが必ず1個以上のNと結合する。このような組成範囲では、SiO2膜と比較して構造的な自由度が制限され、Si3N4膜に近い機械的特性を示すと考えられる。Nが12原子%以下になると、SiO2のような構造、即ち頂点のO原子を共有して珪酸4面体が繋がる構造が支配的になる。このため、結合構造に対する依存性が大きい膜硬度や膜応力などの特性は、N含有率が減少するとともにSiO2膜の特性に近づく。 【0017】 なお、耐熱衝撃に関係する熱膨脹率については、薄膜での測定は困難である。しかし、SiO2(石英)とSi3N4の熱膨脹率の対比から、N含有率が減少すると熱膨脹率が増大すると考えられる。また、膜中のN含有率とヌープ硬度の関係からも、N含有率の減少で熱膨脹率が増大すると考えられる。この場合、N含有率が12原子%前後から減少するにつれて、熱膨脹率が大きく増大することが予想される。 【0018】 ところで、従来技術(特開昭61-297159号公報)で示された組成の下地膜と出願人が提案した組成の下地膜とを比較すると、前者で示した下地膜の熱膨張率はSi3N4膜のそれに近く、後者の下地膜はSiO2に近いと考えられる。したがって、後者の下地膜の方が、SiO2を主成分とするガラスグレーズの熱膨張率に近く、ヒートサイクルを繰り返すサーマルヘッドの下地層に適している。特に、高精細サーマルヘッドの場合には、発熱抵抗体への投入エネルギー密度が大きく、下地膜やグレーズ層の到達温度が大きくなるため、その効果が大きく、グレーズと下地膜間の剥がれを抑えることができる。 【0019】 なお、下地膜の電気的、あるいは光学的な特性は、成膜する装置や条件で変化する膜欠陥や不純物に影響される。しかし、機械的特性や熱膨張率は、成膜する装置や条件による影響は小さい。したがって、機械的特性や熱膨張率は、膜組成によってほぼ決定され、成膜する装置や条件による影響は小さいと考えられる。 (2)下地膜の耐ドライエッチング性が改善される。 【0020】 例えば、Ta-SiO2やNb-SiO2の抵抗膜をパターニングする際、エッチングガスとしてCF4とO2が用いられ、CDE法で行われる。このとき、下地膜のエッチンゲレイトはできる限り小さいこと(エッチングされ難い)が望まれる。エッチンゲレイトが大きいと、下地膜が不要部分までエッチングされ、不要な段差が生じたり、また、表面に凹凸が生じ、保護膜の段差被覆性や付着力が悪化する。 【0021】 Si、O、N膜のCDE法に対するエッチングレイトは、膜組成の点から見た場合、O濃度が大きい(即ちN濃度小さい)ほど小さい。これは、Si-N結合の方がSi-O結合よりFラジカルに侵され易いことによる。また、Si3N4とSiO2のCDEレイトを比較すると、前者の方が1桁大きいことからも予想される結果である。 【0022】 ところで、出願人が提案した下地層は、従来技術(特開昭61-297159号公報)で示された下地層に較べ、O濃度が大きくN濃度は小さい。したがって、CDEレイトが小さく、また、保護膜の段差被覆性や付着力に優れたサーマルヘッドを実現できる。 【0023】 しかし、Si、O、Nの下地膜を用い、Oの含有率が60原子%以上であるサーマルヘッドに対し、耐パルス寿命試験を行ったところ、初期の段階から抵抗値が上昇する傾向が見られ、耐パルス寿命特性が悪化する。 【0024】 本発明は、上記した欠点を解決し、耐パワー特性、または、耐パルス寿命特性を改善したサーマルヘッドを提供することを目的としている。 【0025】 【課題を解決するための手段】 本発明は、発熱抵抗体と、この発熱抵抗体の下層にグレーズ層との間に設けられた無機の下地層と、前記発熱抵抗体の上層に設けられた無機の保護層とを具備するサーマルヘッドにおいて、前記下地層中の酸素含有率(原子%)および前記保護層中の酸素含有率(原子%)が、前記発熱抵抗体中の酸素含有率(原子%)と同等、もしくはそれより低く設定されている。 【0026】 また、表面がグレーズ処理された支持基板と、この支持基板上に形成された酸素を含む下地層と、この下地層上に形成された酸素を含む発熱抵抗体と、この発熱抵抗体に接続された電極層と、前記発熱抵抗体の少なくとも発熱部を被覆し、酸素を含む保護層とを具備するサーマルヘッドにおいて、前記発熱抵抗体の酸素の含有率をX原子%とした場合に、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以下で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以上、あるいは、前記下地層の酸素の含有率がX原子%以上で前記保護層の酸素の含有率がX原子%以下に設定されている。 【0027】 また、前記下地層または前記保護層の少なくとも一方が、酸素の他に珪素を含んでいる。 【0028】 また、前記下地層または前記保護層の少なくとも一方が、酸素の他に珪素および窒素を含んでいる。 【0029】 また、前記下地層の酸素の含有率が60原子%以上になっている。 【0030】 【作用】 本発明者らは、サーマルヘッドの動作時に、発熱抵抗体の抵抗値が上昇する主な原因が、下地層や発熱抵抗体、保護層を構成する各構成元素の相互間の固相拡散や拡散後の反応にあると考えた。このような考えから、サーマルヘッドを図5に示すようにモデル化し、そして、無機絶縁膜や抵抗膜に対しいろいろな材料を組み合わせて加熱処理を行い、抵抗膜のシート抵抗変化や組成変化を調べた。なお、強制加熱の条件としては、800℃、30分の真空中加熱を用いた。 【0031】 図5でモデル化されたサーマルヘッドでは、Al2O3からなる支持基板21、支持基板21上に形成されたグレーズ層22、そして、無機絶縁膜23、抵抗膜24が順に形成されている。 【0032】 なお、無機絶縁膜23には、Si-O系、Si-O-N系、Al-O-N系、Ta-O系などの材料が、また、抵抗膜24には、Ta-SiO2、Nb-SiO2などの材料が使用された。 【0033】 そして、実験結果によれば、無機絶縁膜23中の酸素含有率が、抵抗膜24中の酸素含有率と実質的に同等かそれ以下の場合に、加熱処理後の抵抗膜のシート抵抗が上昇していないことが分かった。これに対し、無機絶縁膜23中の酸素含有率が抵抗膜24中の酸素含有率より大きくなると、加熱処理後の抵抗膜のシート抵抗は、処理前に比較して上昇していた。この場合、無機絶縁膜23中の酸素含有率と抵抗膜24中の酸素含有率の差が大きくなるほど、上昇の程度が大きいことが分かった。 【0034】 例えば、Si、O、N等からなる無機絶縁膜23上に、Si、O、Taを主成分とするサーメット抵抗膜24を配した構成の実験結果を図6に示す。図6では、縦軸が加熱処理前後のシート抵抗の変化(倍)、横軸が無機絶縁膜23中の酸素濃度(原子%)である。なお、図6において、○印(a、b)や△印(c、d、e)、□印(f)は、それぞれ無機絶縁膜23の成膜装置が相違している。また、◇印はグレーズ層で、成分が無機絶縁膜23とは相違している。 【0035】 ここでは、無機絶縁膜23中の酸素濃度は、それぞれの膜をXPS(X線光電子分光法)により分析し、相対感度法で求めた。 【0036】 また、加熱処理の前後における抵抗膜中の組成の変化についても、同じくXPSで解析した。その結果によれば、加熱処理した後にシート抵抗が増加したものほど、抵抗膜中の酸素含有率が増加し、また、Si、Ta(Nb)等の被酸化成分の含有率が相対的に低下していた。 【0037】 上記の実験結果は、サーマルヘッドの下地層と抵抗膜間、そして、上下が逆になっているものの抵抗膜と保護層間、それぞれの構成元素の拡散や拡散後の反応を単純化した評価に相当する。 【0038】 なお、シート抵抗の増加は、(a)下地層と抵抗膜間の構成元素の濃度差に応じた固相拡散、(b)酸素濃度が増大したことによる抵抗膜中のSi、Ta(Nb)など被酸化成分の酸化、によって定性的に説明される。 【0039】 したがって、サーマルヘッドが動作することによって生じる抵抗膜の抵抗値の上昇を抑えるためには、抵抗膜を挟んで位置する下地層や保護層の酸素濃度を、抵抗膜中の酸素濃度と実質的に同等かそれ以下の値とすることにより、また、抵抗膜中への拡散による酸素の侵入を抑えることが必要となる。 【0040】 なお、上記した実験では、各元素の含有率を評価量として用いている。拡散現象を扱う場合、評価量として濃度を用いるのが一般的である。しかし、膜中の各元素の濃度の測定が困難であるため、評価量として含有率を用いている。 【0041】 また、各元素の含有率と濃度との関係は、膜の材料組成や密度によって異なる。しかし、上記実験のように、抵抗膜に接する下地層や保護層が無機膜の場合は、各膜中の各元素の含有率は、濃度の代替指標と考えることができる。したがって、実際の解析では濃度の代わりに含有率を用いている。 【0042】 上記したように、本発明のサーマルヘッドによれば、下地層中の酸素濃度および保護層中の酸素濃度を、発熱抵抗体中の酸素濃度と実質的に同等、もしくはそれより低く設定している。したがって、固相拡散による発熱抵抗体中の酸素濃度の増大を抑えることができる。このため、動作時の抵抗値の上昇を抑えることができ、耐パワー性の優れたサーマルヘッドを実現できる。 【0043】 次に、変形例について、以下に説明する。この変形例においては、膜中酸素濃度が抵抗膜に比べて下地膜中で大きく、保護膜中で大きいか、もしくは逆に、下地膜中で小さく保護膜中で大きい場合である。 【0044】 例えば、酸素含有率が55原子%のTaSiOで発熱抵抗体を、そして、酸素含有率が62原子%のSiONで下地層を、また、酸素含有率が48原子%のSiONで保護膜を、それぞれ形成した。この場合、サーマルヘッドの駆動中に発熱抵抗体に対し下地層から酸素が拡散侵入し、抵抗値を上昇させるように作用する。しかし、発熱抵抗体から保護膜へ拡散侵入する酸素もあり、これが抵抗値を下降させるように作用する。この結果、両作用が相殺され、抵抗値を安定にする。 【0045】 なお、下地膜と発熱抵抗体との酸素含有率差と、発熱抵抗体と保護膜との酸素含有率差はほぼ同じか、各々の酸素含有率差の差が、せいぜい5原子%以内の範囲であることが望ましい。両者の酸素含有率差の差が3原子%よりも大きくなると、発熱抵抗体の酸化還元のバランスが崩れ、サーマルヘッドの駆動中の抵抗値変化が大きくなり寿命が短くなる。例えば、酸化作用が勝る場合は抵抗値が初期から上昇する。一方、還元作用が勝る場合は、抵抗値は初期から低下する。抵抗値が低下すると、発熱抵抗体に過剰パワーが印加され破壊の原因になる。本発明によれば、発熱抵抗体の酸素の含有率をX原子%とした場合に、下地層の酸素の含有率がX原子%以下で保護層の酸素の含有率がX原子%以上、あるいは、下地層の酸素の含有率がX原子%以上で保護層の酸素の含有率がX原子%以下に設定されている。したがって、発熱抵抗体の酸化還元のバランスがよく、耐パルス寿命特性を改善できる。 【0046】 【実施例】 本発明の実施例について、図1を参照して説明する。 【0047】 1は支持体で、例えばAl2O3が用いられる。そして、支持体1の上部に、ガラスグレーズ層2が形成され、支持基板が構成される。なお、ガラスグレーズ層2はSiO2を主成分とし、約60μの厚さに形成される。 【0048】 なお、支持体1としてはAl2O3に限らず、他の金属あるいは非金属を用いることができる。また、ガラスグレーズ層2にもいろいろな添加材料を含んだものから選択できる。 【0049】 また、支持基板の上に、約1μの膜厚で下地膜3が形成される。下地膜3の形成にはスパッタリング法が用いられ、Si-O系、Si-O-N系、Si-Al-O-N系、Si-O-N-Zr系、Ta-O-N系など種々の材料が用いられる。 【0050】 それぞれの系の下地膜は、ターゲットの組成やスパッタガスの酸素添加量を変え、膜中の酸素濃度を複数の水準に変化させた。その代表的な例として、Si-O-N系下地膜を成膜した際の成膜条件を表1に示す。 【0051】 表1.スパッタリング条件 ターゲット投入パワー密度 ;4.3W/cm2 スパッタリングガス及び流量 ;Ar 24 sccm O2 ;(a)2.4sccm (b)3.6sccm (c)4.8sccm (d)7.2sccm (e)9.6sccm (f)12.0sc スパッタリングガス圧力 ;3.0×10-1Pa 基板加熱温度 ;220℃ 表1の膜組成に付き、それぞれXPS相対感度法で膜組成を分析した結果を表2に示す。膜組成の値は、下地層表面から50nmステップで500nmまでのデプスプロファイルをとり、各々の測定点の組成を平均している。 【0052】 また、下地膜3の上に、スパッタリング法で抵抗膜を形成した。抵抗膜には、Nb-SiO2系、または、Ta-SiO2系の材料を用い、それぞれの抵抗膜の膜組成に関しては、下地膜3の場合と同様に、XPSで分析した。 【0053】 抵抗膜の組成は、ターゲットの組成やスパッタリングの条件で異なるが、代表例を表3に示す。 【0054】 抵抗膜を成膜した後、Alリード電極膜やAl共通電極膜を、それそれスパッタリング、そして真空蒸着で成膜した。 【0055】 Alリード電極膜やAl共通電極膜を成膜後、PEP工程を通して発熱抵抗体4、個別電極5、及び共通電極6を形成した。 【0056】 なお、Al電極膜のエッチングには燐酸、酢酸、硝酸からなる混酸を用いた。また、Ta-SiO2やNb-SiO2抵抗膜のエッチングにはCDE法を用いた。また、CDEの際の導入ガスとしてCF4とO2を用いている。 【0057】 発熱抵抗体や電極の材料には、他の材料を用いることができ、また、成膜方法やパターニング方法もいろいろなプロセス技術を用いることができる。 【0058】 次に、Al電極の大部分と前記発熱抵抗体、少なくとも発熱部を被覆するように、保護膜7を形成した。 【0059】 保護膜7は、下地膜3と同様に、Si-O系、Si-O-N系、Si-Al-O-N系、Si-O-N-Zr系、Ta-O-N系などの種々の材料を用い、スパッタリング法によって、3μの膜厚に形成した。また、下地膜3と同様に、各々の系の保護膜7に対し、ターゲットの組成やスパッタガスの酸素添加量を変え、膜中の酸素濃度を複数に変化させた。 【0060】 上記した構成のサーマルヘッドを、実装工程で製品に組み立て、耐パワー性能の試験を行った。その結果、下地層や保護層中の酸素含有率が、抵抗膜中の酸素含有率と実質的に同レベルか、それ以下の場合に、優れた耐パワー特性を示すことが確認された。 【0061】 本発明の他の実施例について説明する。Al2O3からなる支持基体上に、SiO2を主成分とする厚さ約60μのガラスグレーズ層を形成した。なお、支持基体には、Al2O3に限らず、種々の金属や非金属の基板を用いることができる。また、ガラスグレーズ層も種々の添加材料を含んだものから選択することができる。 【0062】 そして、グレーズ層上に、スパッタリング法を用い、Si、O、Nを主成分とする下地層を形成した。下地層の形成条件は、ターゲット投入パワー密度が4.3W/cm2、スパッタリングガス及び流量はAr24.0sccm・O211.0sccm、スパッタリングガス圧力は3.0×10-1Pa、基板加熱温度は220℃で、そして厚さは1μmとした。なお、ターゲットは、Si3N4とSiO2の粉末を1:1のmol比で混合し、ホットプレスで固めた後、焼結したものを使用した。 【0063】 上記の条件で形成した下地層の組成を、X線光電子分光法にて組成分析を行った。その結果、O:62原子%、Si:33原子%、N:4原子%、C:1原子%であった。これら組成値は、下地層表面から10nm間隔でArエッチングによるデプスプロファイルをとり、各々の組成を平均して求めた。 【0064】 この下地膜上に、TaSiOからなる発熱抵抗体をスパッタリング法により形成した。このとき用いられたターゲットは、TaとSiO2の粉末を47:53のmol比で混合し、ホットプレスで固めた後、焼結したものである。 【0065】 下地層と同様に発熱抵抗体の組成を分析したところ、O:55原子%、Si:16原子%、Ta:26原子%、C:1原子%であった。 【0066】 更に、Alの電極を設け、PEPプロセスによりパターニングを行った。次に、下地層と同様の方法で、SiONスパッタ膜の保護層を3μmの厚さに形成した。なお、酸素の流量は11.0、7.5、4.5、3.6sccmの4水準とした。それぞれの酸素含有率は、62、57、48、43原子%となった。図2には、下地層A、抵抗体B、保護層Cそれぞれの酸素含有率の関係を模式的に示している。 【0067】 その後、これらの試料を実装工程に移し、抵抗体形状が35×60μmで、解像度が400dpiのサーマルヘッドを完成した。 【0068】 これらのサーマルヘッドを、パワー0.28W/dot、パルス幅0.5ms、パルス周期3.0msの駆動条件で連続的にパルスを印加し、耐パルス寿命試験を行った。その結果を図3に示す。図3の縦軸は抵抗変化率(%)、横軸はパルスの印加数である。 【0069】 本発明により作成されたサーマルヘッドのうち、a(酸素含有率48原子%)、b(酸素含有率55原子%)、c(酸素含有率43原子%)は、いずれも108回パルス印加に至るまで、抵抗値の変化率は±8%以内と安定していた。特に、下地層と発熱抵抗体の間の酸素含有率の差、そして、発熱抵抗体と保護層の間の酸素含有率の差が、いずれも7原子%と同一に作成された(a)では、抵抗値変化率は±2%以下と極めて安定していた。また、発熱抵抗体と保護層の間に酸素含有率に差が認められない(b)においては、抵抗値は初期から上昇を示している。これは、下地層の酸素が発熱抵抗体中に徐々に拡散侵入し、発熱抵抗体の酸化を促進するためと考えられる。下地層と発熱抵抗体の間の酸素含有率の差より、発熱抵抗体と保護層の間の酸素含有率の差の方が大きい(c)においては、抵抗値は初期から下降を示した。これは、下地層の酸素が発熱抵抗体中に移行する分より、発熱抵抗体中の酸素が保護層側へ移行する分が多く、総合的には発熱抵抗体が還元作用を受けるためと考えられる。 【0070】 (d)は本発明の組成範囲外の値で作成されたもので、発熱抵抗体より下地層の方が酸素含有率が多く、また、保護層の酸素含有率も発熱抵抗体よりも多くしてある。この場合、抵抗値は初期から大きく上昇し、1×106回パルスの時点で抵抗値変化率が+10%に達した。これは、下地層や保護層の両者から発熱抵抗体中に酸素が拡散侵入し、発熱抵抗体中の酸化が急激に進んだものと推測される。 【0071】 特に、下地層をSiONで形成する場合、駆動時の発熱抵抗体温度が特に高くなる高解像度サーマルヘッドでは、下地層の酸素含有率が60原子%以下であると、グレーズ層と下地層間の剥離が起き易くなり、一方、60原子%以上であると駆動時の抵抗値変化が正方向に大きくなるという問題があった。しかし、この問題は本発明によって解決された。 【0072】 【発明の効果】 本発明によれば、抵抗値の上昇を抑制することができ、また、安定した寿命特性を持つサーマルヘッドを実現できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施例であるサーマルヘッドの要部を示す部分分解斜視図である。 【図2】 本発明を説明する図で、サーマルヘッドの下地層、抵抗体、保護層間の酸素含有率の関係を示す模式図である。 【図3】 本発明を説明する図で、耐パルス寿命試験結果を示す図である。 【図4】 サーマルヘッドのヌーブ硬度を説明する図である。 【図5】 サーマルヘッドのサンプルを示す断面模式図である。 【図6】 サーマルヘッドについて、下地層中の酸素含有率と加熱処理前後の抵抗膜のシート抵抗の変化との関係を示す図である。 【符号の説明】 1…支持体 2…ガラスグレーズ層 3…下地層 4…発熱抵抗体 5…個別電極 6…共通電極 7…保護層 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-08-06 |
出願番号 | 特願平5-278760 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(B41J)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 江成 克己、桐畑 幸▲廣▼ |
特許庁審判長 |
佐田 洋一郎 |
特許庁審判官 |
津田 俊明 中村 圭伸 |
登録日 | 2002-06-21 |
登録番号 | 特許第3320168号(P3320168) |
権利者 | 株式会社東芝 |
発明の名称 | サーマルヘッド |
代理人 | 大胡 典夫 |
代理人 | 大胡 典夫 |