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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16J |
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管理番号 | 1086484 |
異議申立番号 | 異議2003-71944 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-10-03 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-01 |
確定日 | 2003-11-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3372644号「シリンダヘッドガスケット」の請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3372644号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.本件発明 本件特許第3372644号(平成6年3月14日出願、平成14年11月22日設定登録)の請求項1〜6に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものと認める。 【請求項1】燃焼室用穴の周縁部の表面に当該燃焼室用穴を囲む同心状の複数の凸条を有して金属板から成る中間板と、 該中間板の少なくとも片側に積層して、上記の複数の凸条を設けた周縁部より外側位置に該燃焼室穴を囲むビードを備えて弾性金属板から成るビード板と、から成り、 中間板の該複数の凸条を有した上記周縁部が、該周縁部の外側の板厚より厚い厚肉部に形成されて、 上記積層したビード板及び中間板の外表面及び互いに対向する板面の少なくとも一方には、燃焼室用穴の周縁部を除き、ゴム若しくはプラスチックのシール材層を被覆して成るシリンダヘッドガスケット。 【請求項2】上記複数の凸条が、3条以上の凸条である請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。 【請求項3】上記複数の凸条が、3条若しくは4条の凸条である請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。 【請求項4】中間板が、本体に、上記金属板から成り、且つ、燃焼室穴より大径の穴を有し、上記の凸条を形成した周縁部を、当該穴に嵌め入れ固定した別体で且つ当該本体の厚みより厚肉である金属リング帯とした請求項1ないし3いずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。 【請求項5】中間板の該周縁部には、上記複数の凸条に代えて、複数の凹溝を形成して成る請求項1ないし4いずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。 【請求項6】2枚の上記ビード板が、中間板の両側に積層して成る請求項1ないし5いずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。 II.特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立人・国産部品工業株式会社は、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭62-97732号(実開昭64-3059号)のマイクロフィルム)(以下、「刊行物1」という。)、同甲第2号証(欧州特許出願公開第574770号明細書)(以下、「刊行物2」という。)及び同甲第4号証(実願平3-8837号(実開平5-73361号)のCD-ROM)(以下、「刊行物4」という。)を提示し、本件請求項1〜6に係る発明は、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、特許を取り消すべきである旨、主張している。 尚、甲第3号証は、甲第2号証のパテントファミリーである日本出願の公開公報であって、本件発明の出願後に公開されたもので、甲第2号証の参考資料として添付されたものである。 III.刊行物1、2及び4に記載された発明 1.刊行物1に記載された発明 (ア)「(1)燃焼室孔の周縁にビードを形成した弾性金属板よりなる2枚の基板の間に中間板を介装して設けた金属ガスケットにおいて、前記中間板の燃焼室寄端部に型付けをして板厚を増加させたことを特徴とする金属ガスケット。 (2)型付けは網状としたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の金属ガスケット。 (3)型付けは条状としたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の金属ガスケット。 (4)型付けされた条状の溝内には熱可塑性の樹脂を充填したことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第3項記載の金属ガスケット。」(実用新案登録請求の範囲) (イ)「これらの金属ガスケットは各燃焼室孔3を囲んで同一位置に第1、第2のビード5-1,5-2を設け、前記各ビードは中間板7に各頂部を接して対称位置に配設される。中間板7の各燃焼室孔側には各基板2-1,2-2の平坦部長Tに合わせて型付け8を形成し、その部分の板厚をWとする。即ち、型付けをすることにより、板厚をωからwに増大する。そして本考案では、増大分をストッパー6として利用するものである。以上のように、型付けされた部分はストッパー6として利用するものであるため、その全体形状は燃焼室孔3を囲んだ環状となる。そして、型付けのための溝形状は網状であってもよいし、又、条状であっても良く、いずれにしてもエンジンの剛性に合わせることができる。」(明細書5頁10行〜6頁4行) 以上の記載事項並びに明細書及び図面の全記載からみて、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認めることができる。 [引用発明] 燃焼室孔3の周縁部の表面に当該燃焼室孔3を囲む同心状の複数の条状を有して金属板から成る中間板と、該中間板の少なくとも片側に積層して、上記の複数の条状を設けた周縁部より外側位置に該燃焼室孔3を囲むビードを備えて弾性金属板から成るビード板と、から成る金属ガスケット。 2.刊行物2に記載された発明 (ウ)「図7は、材料補強部16を作る他の例、すなわちキャリア・シート14を開口部の縁部15の側から膨径もしくは圧縮したものを示している。前述までの実施例は、ヘッド側に材料補強部があるものとして記述した。これら非対称な実施例では、ブロック側に材料補強部を設けた形に製造することも可能である。」(3頁左欄45行〜54行(甲第3号証3頁右欄26行〜32行参照)) (エ)「図8には、これら2つの材料補強部16,16´がリング7によって形成され、そのリングの突出長部は、必要な間接力閉鎖を作り出すため、キャリア・シート14の上面、下面を越えている場合が示されている。その突出部長部は、互いに異なる大きさ/形状とすることができ、これは以下のすべての非対称な実施例についても同様である。」(3頁右欄5行〜12行(甲第3号証3頁右欄39行〜45行参照)) 3.刊行物4に記載された発明 (オ)「【請求項1】エンジンのオープンデッキ型シリンダブロックに取付ける金属積層形シリンダヘッドガスケットにおいて、少なくとも1枚の金属板に、樹脂又はゴムから成るシール材による被覆層を設け、該被覆層は、シリンダブロックの気筒周囲に設ける冷却水路の外郭に対応する外周部に設けるようにした金属積層形シリンダヘッドガスケット。 【請求項2】シール材を被覆する金属板が、中間に積層する板である請求項1の金属積層形シリンダヘッドガスケット。」(実用新案登録請求の範囲) IV.本件請求項1〜6に係る発明と刊行物1、2及び4に記載された発明との対比・判断 1.対比 本件請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「燃焼室孔3」は本件請求項1に係る発明の「燃焼室用穴」に相当し、以下同様に、「条状」は「凸条」に、「金属ガスケット」は「シリンダヘッドガスケット」に、各々相当するので、両者には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。 [一致点] 燃焼室用穴の周縁部の表面に当該燃焼室用穴を囲む同心状の複数の凸条を有して金属板から成る中間板と、該中間板の少なくとも片側に積層して、上記の複数の凸条を設けた周縁部より外側位置に該燃焼室穴を囲むビードを備えて弾性金属板から成るビード板とから成るシリンダヘッドガスケット。 [相違点1] 本件請求項1に係る発明は、中間板の該複数の凸条を有した上記周縁部が、該周縁部の外側の板厚より厚い厚肉部に形成されてのに対し、引用発明は、その構成を具備しない点。 [相違点2] 本件請求項1に係る発明は、積層したビード板及び中間板の外表面及び互いに対向する板面の少なくとも一方には、燃焼室用穴の周縁部を除き、ゴム若しくはプラスチックのシール材層を被覆して成るのに対し、引用発明は、その構成を具備しない点。 2.判断 そこで、上記相違点1及び2について検討する。 (相違点1について) 刊行物2には、上記摘記事項、明細書及び図面の記載からみて、本件請求項1に係る発明の中間板に相当するキャリア・シートを開口部の縁部の側から膨径もしくは圧縮し、或いは、リングを取り付けて外側のキャリア・シートの板厚より厚い厚肉部である材料補強部を形成することが開示されているが、この材料補強部はビードの平坦化が起きにくく、さまざまな表面圧力を規定し、維持することができる平板ガスケットを提供するためのものである。 これに対し、本件請求項1に係る発明の凸条は、中間板の燃焼室用穴の周縁部に燃焼室用穴を囲む凸条を同心状に複数条設けているので、ガスケットをシリンダヘッドとシリンダブロックの接合面間に装着し、ボルト締結により締付けたとき、上記凸条に基づき、接合面の燃焼室用穴周縁部には燃焼室用穴を囲む複数の高面圧シール線が同心状に形成され、ラビリンス効果により燃焼室内のガスを効果的にシールする。そして、本件請求項1に係る発明の凸条は、仮に接合面に微小なキズ、粗さ、歪み等が存在し、これが高面圧シール線の一つを横切り燃焼ガスの漏洩パスが形成されても、他の高面圧シール線によりこれをシールすることができるので、燃焼室用穴の周縁部の表面にシール材層が被覆されていなくても燃焼室内のガスをよく密封することができるものである。 また、本件請求項1に係る発明は、特許明細書に記載された「中間板本体よりも厚肉に形成された周縁部は、前述の作用以外にガスケットをシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間に装着してボルト締結したときにシリンダヘッドの湾曲のために燃焼室周りに間隙を生じても、これを補償することができ、複数の凸条による前述のラビリンス効果と相俟って燃焼室内のガスのリークを防止し、また燃焼室内のガス圧による接合面間の間隙の拡縮に基づきビードに加わる交番荷重を軽減してビードのへたりや損傷を防止する」(段落【0014】参照)という、引用発明及び刊行物2に記載の発明からは予想できない作用効果を奏するものである。 してみると、引用発明の同心状の複数の条状がシール作用を有し、刊行物2には、キャリア・シート周縁部が、該周縁部の外側の板厚より厚い厚肉部に形成されていることが開示されているとしても、両者を結合し、上記相違点1に係る本件請求項1に係る発明の構成とする契機付けとなるものもないので、上記相違点1に係る技術事項は、引用発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者にとって容易になし得たものとは認められない。 (相違点2について) 刊行物4には、上記摘記事項、明細書及び図面の記載からみて、金属積層形シリンダヘッドガスケットにおいて、少なくとも1枚の金属板に、樹脂又はゴムから成るシール材による被覆層を設け、図1及び3も参照すると、該被覆層は、シリンダブロックの気筒周囲に設ける冷却水路の外郭に対応するビード板間の中間板に形成されたビードの外周部に設けられ、エンジンの振動などにより水穴シール用ビードのシール力が低下して、金属板を積層した間から起こる水漏れを防止するものである。 これに対し、本件請求項1に係る発明においては、積層したビード板及び中間板の外表面及び互いに対向する板面の少なくとも一方には、燃焼室用穴の周縁部を除き、ゴム若しくはプラスチックのシール材層を被覆しているので、中間板の燃焼室用穴の周縁部に該穴を囲むように同心状に複数設けた凸条もしくは凹溝に基づくラビリンス効果により燃焼室内のガスを効果的にシールすることができ、ガスケットを構成する各金属板の燃焼室用穴の周縁部にはシール材層を設けず、該周縁部を除外した部分にシール材層を設けるので、従来のように長期使用中に燃焼室周りのシール材が劣化してシール性を損うような危険は全くなく、またシール材層を安価な耐熱性のゴム、プラスチックにより形成できるので、コストを低減することができるという本件請求項1に係る発明特有の効果を奏するものであり、そして、このような上記相違点2に係る技術事項については、刊行物4には、何ら記載も示唆もされていない。 してみると、上記相違点2に係る技術事項は、引用発明、刊行物1及び4に記載された発明に基づいて、当業者が適宜なし得たものと認めることはできない。 したがって、本件請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。 また、本件請求項2〜6に係る発明は、いずれも本件請求項1に係る構成を具備しさらに構成を付加したものであるから、本件請求項1に係る発明と同様の理由により、当業者が刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。 V.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜6に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜6に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件請求項1〜6に係る発明についての特許は拒絶をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-10-14 |
出願番号 | 特願平6-69924 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F16J)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 窪田 治彦 |
特許庁審判長 |
船越 巧子 |
特許庁審判官 |
秋月 均 常盤 務 |
登録日 | 2002-11-22 |
登録番号 | 特許第3372644号(P3372644) |
権利者 | 日本ラインツ株式会社 |
発明の名称 | シリンダヘッドガスケット |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 柳野 隆生 |
代理人 | 石井 久夫 |