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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A62C |
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管理番号 | 1086529 |
異議申立番号 | 異議2002-73067 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-12-24 |
確定日 | 2003-10-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3295042号「耐火スクリーン」の請求項15〜17に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3295042号の請求項15,16に係る特許を取り消す。 同請求項17に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】手続の経緯 平成10年 9月10日:出願 (優先権主張日:平成9年12月18日) 平成14年 4月 5日:設定登録 12月24日:異議申立 平成15年 5月22日:取消理由通知 7月31日:意見書 【2】異議申立、取消理由通知、及び、意見書の概要 異議申立人は、甲第1〜3号証を提示し、本件特許の請求項15に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、同請求項16,17に係る発明は甲第1〜3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるから、請求項15〜17に係る発明の特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取消されるべきものである旨、主張した。 当審は、取消理由を通知し、請求項15〜17に係る発明は、甲第1,3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明の特許は、取消されるべきものである旨、通知した。 これに対し、特許権者は、意見書を提出し、請求項15〜17に係る発明は、甲第1,3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨、主張した。 【3】本件特許発明 本件特許の請求項15〜17に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項15〜17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項15】平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる耐火スクリーンにおいて、シリカ繊維ヤーンで製織された織布と、該織布の表面に接合された強化用テープとからなることを特徴とする耐火スクリーン。 【請求項16】前記強化用テープが、前記織布の表面に縞状又は格子状に配された請求項15記載の耐火スクリーン。 【請求項17】前記強化用テープが、シリカ繊維ヤーンで製織された織布テープである請求項15又は16記載の耐火スクリーン。」 (以下、それぞれ「本件発明15」、「本件発明16」、「本件発明17」という。) 【4】甲号各証 (1)甲第1号証(特開平9-203281号公報)には、以下の記載がある。 「建物の天井又は開口部の上端等に巻取シャフトが設けられ、遮蔽幕の上側の部分が巻取シャフトに取付けられ、遮蔽幕が非遮蔽時に巻取シャフトに巻き付けられ、室又は開口部の左側及び右側の部分にそれぞれ案内装置が取付けられ、遮蔽幕の左側及び右側の端縁よりの部分が左側及び右側の案内装置の溝形縦部材内に通され、各溝形縦部材内に遮蔽幕の左側及び右側の縁部の内側への変位を規制する規制部材が設けられ、検出装置が煙や火炎を検出したときに、遮蔽幕を巻取シャフトから解舒して降下させ、この遮蔽幕にて室又は開口部を遮蔽するようにしたシャッター」(3欄24〜34行) 「遮蔽幕13をつくる耐火クロースとしては、例えば、厚手のシリカクロース、アルミナクロース、セラミッククロース等の耐熱性無機繊維布をシリコン樹脂、クロロスルホン化ポリエチレン[例えば、パイパロンゴム商品名)]、塩化ビニリデン[例えば、サラン樹脂]等のコーティング剤で処理して、通気性をなくした不燃性布を使う。」(5欄11〜17行) 「図5及び図3に示すように、前記シート13aの左側の辺の近傍部分、右側の辺の近傍部分及び下側の辺の近傍部分を折り曲げて、その辺に沿ってSUS線の縫目St2,St3にて縫合し、左側及び右側の辺に沿って袋状部13bを形成するとともに、下側の辺に沿って袋状部13cを形成する。 図6に示すように、遮蔽幕13の左側及び右側の袋状部13bに対応するシート13aの部分の内側及び外側に、ポリアミド繊維クロース、芳香族ポリアミド繊維クロース等の耐熱性及び耐摩耗性のある材料からなる補強クロース13d1,13d2を当て、SUS線の縫目St2にて縫合して袋状部13bを形成すると、遮蔽幕13を繰り返し使用(頻繁に開閉)しても、袋状部13bの案内棒23に接する内面及び支え具24に接する外面が擦り切れることがない。」(5欄23〜37行) 以上の記載によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。 「平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる遮蔽幕において、シリカクロース等の耐火クロースからなる遮蔽幕。」 (2)甲第2号証(特開平9-137432号公報)には、以下の記載がある。 「この発明は……遮水シートの接合強度を向上して接合部の信頼性を高めるものである。」(1欄24〜27行) 「実施形態1 ナイロンの捲縮加工糸からなる天竺組織の丸編地を補強用の繊維シートとし、その上下両面にEPDMからなる未加硫の遮水性外面シートを積層し、加圧下で加硫して厚みが約2mm、幅1mの遮水シートを製造し、これを所定の長さに切断する。得られた2枚の遮水シート10、10を、図1の(a)に示すように、中表に重ね合わせ、一方の長辺に沿って1本針・1本糸のオーバーロック縫製を行う。縫目を構成する縫い糸11は、ポリエステルのマルチフィラメント糸からなる甘撚り糸であり、前後の針孔間にまたがる直線部分11aと、上面の針孔から幅方向外向きに出て遮水シート10、10の縁部を包み、下面で隣の針孔に入るコイル状部分11bとを形成している。 次いで、図1の(b)に示すように、遮水シート10、10の縫合部を支点にして上側の遮水シート10を反転させながら下側の遮水シート10の横に開いて2枚の遮水シート10、10の縁部の端面同志が対向するように延展する。この状態が図1の(c)に示される。なお、図面では、2枚の遮水シート10、10の隣接部に隙間が描かれているが、実際には隙間も隆起も生じないように遮水シート10、10が縫合され、延展される。続いて、図1の(d)に示すように、上記の敷設された一方の遮水シート10の上に3枚目の遮水シート10が中表に重ねられ、上記同様に縫合され、反転・延展される。 以下、上記の重ね合わせ、縫合および反転・延展の繰返しにより、多数枚の遮水シートを幅継ぎし、さらにこの幅継ぎされた遮水シートの長さ方向端部に遮水シートを上記同様に継ぎ足し、これを繰返して所望の面積に遮水シート10を敷設する。そして、図1の(e)に示すように、上記縫合部の縫い糸11を被覆するように、EPDMからなる遮水性テープ12を自然加硫型のゴム系接着材で接着し、縫合部の遮水性を確保する。 実施形態2 実施形態1の遮水シート10において、上下の遮水性外面シート間に前記の繊維シートと共に吸水性中間シート(EPDMに高吸水性樹脂および通常の添加剤を配合し、シート状に成形して得られる)を介在させ、他は実施形態1と同様にして遮水シートを製造し、この遮水シートを実施形態1と同様に重ね合わせ、縫合し、反転・延展し、縫合部にEPDMからなる遮水性テープを貼り付ける。」(4欄25行〜5欄18行) (3)甲第3号証(特開平5-84025号公報)には以下の記載がある。 「この発明の格子状シートは、強度が強く耐熱性に優れたポリエステル製の短冊状テープを格子状に接着してなるもので、寸法安定性,強度に優れ、しかも薄く軽重であることが特徴である。したがって、この格子状シートを補強材として中間層に用い、その両面もしくは片面に各種のプラスチックフィルムや紙,アルミ剤等を積層することにより、従来にはない、軽量で高強度,高寸法安定性のシートを得ることができる。」(1欄39〜46行) 「図1はこの発明の一実施例の格子状シート1を示している。すなわち、図において、2は一定間隔を保って配設された帯状の経テープであり、3はその経テープ2とで格子状を形成するように互いに一定間隔を保った状態で、経テープ2の下面に接着剤で接着された帯状の緯テープである。この経テープ2および緯テープ3で格子状が形成されている。これらのテープ2,3は、それぞれポリエステルで構成されており、幅が4mmで、厚みが20〜25μm に設定されている。」(2欄9〜17行) 「上記格子状シート1は、各種の農業資材,土木資材,建材,包装材等の補強材として広く利用することができる。」(4欄17〜19行) したがって、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。 「ポリエステル製の短冊テープを格子状にし、各種シートの片面に積層することにより補強する補強材。」 【5】本件発明15,16について (1)本件発明15を引用する本件発明16を特定する事項を、いわゆる独立形式で記載すると、次のとおりである。 「平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる耐火スクリーンにおいて、シリカ繊維ヤーンで製織された織布と、該織布の表面に接合された強化用テープとからなり、前記強化用テープが、前記織布の表面に縞状又は格子状に配されたことを特徴とする耐火スクリーン。」 (2)本件発明16と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「遮蔽幕」は、本件発明16の「耐火スクリーン」に相当し、また、甲第1号証記載の発明のシリカクロースは、本件発明16のシリカ繊維ヤーンで製織された織布を意味するものであることは、自明の事項にすぎないから、本件発明16と甲第1号証記載の発明とは、「平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる耐火スクリーンにおいて、シリカ繊維ヤーンで製織された織布からなる耐火スクリーン。」である点で一致し、次の点で相違している。 相違点:本件発明16は、強化用テープを織布の表面に縞状又は格子状に配して接合しているのに対して、甲第1号証記載の発明は、そのようになっていない点 (3)上記相違点について検討する。 甲第3号証には、「短冊テープを格子状にし、各種シートの片面に積層することにより補強する補強材。」という発明が記載されており、補強のため、各種シートの表面に補強用テープ(本件発明16の「強化用テープ」に相当。)を格子状に接合することは、本件出願前公知の手段であり、上記相違点における本件発明16のようにすることは、当業者が必要に応じて容易に付加できる設計的事項にすぎず、また、そうしたことによる作用効果にも格別のものがあるとはいえない。 したがって、本件発明16は、甲第1,3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)特許権者は、意見書において、「本件各発明は、シリカクロスにおける特殊な問題、すなわち、加熱により強度が低下するため、防火性能、特に、加熱終了後の衝撃試験を満足させるためになされたものであるのに対し、甲第1,3号証記載のものは、そのような課題を有していない。したがって、本件発明15,16は、甲第1,3号証記載のものから容易に想到できたものではなく、これらからは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。」旨、主張する。(3頁11行〜4頁17行) この主張に関し、特許明細書には以下の記載がある。 「【0009】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決する(注:「加熱終了後の衝撃試験を満足させる」)ために、本発明では、平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる耐火スクリーンにおいて、次のような手段(1)〜(4)をとった。 【0010】(1)シリカ繊維ヤーンと、該シリカ繊維ヤーンより耐熱性に優れる強化用ヤーンとを、併用して製織された織布よりなることを特徴とする耐火スクリーン。 【0011】(2)シリカ繊維ヤーンと、該シリカ繊維ヤーンより前記巻き取り及び巻き解きの繰り返しに対する耐久性に優れる強化用ヤーンとを、併用して製織された織布よりなることを特徴とする耐火スクリーン。 【0012】(3)シリカ繊維ヤーンと、該シリカ繊維ヤーンより耐熱性に優れる強化用ヤーンと、該シリカ繊維ヤーンより前記巻き取り及び巻き解きの繰り返しに対する耐久性に優れる強化用ヤーンとを、併用して製織された織布よりなることを特徴とする耐火スクリーン。この強化ヤーンはシリカ繊維ヤーンより耐熱性に劣っていてもよい。 【0013】(4)シリカ繊維ヤーンと、該シリカ繊維ヤーンより耐熱性に優れるとともに前記巻き取り及び巻き解きの繰り返しに対する耐久性に優れる強化用ヤーンとを、併用して製織された織布よりなることを特徴とする耐火スクリーン。」 「【0024】別の本発明は、平常時には建物の天井に設置される巻取装置に巻き取られ、火災発生時には前記巻取装置から巻き解かれて垂らされる耐火スクリーンにおいて、シリカ繊維ヤーンで製織された織布と、該織布の表面に接合された強化用テープとからなることを特徴とする。 【0025】ここで、強化用テープは、織布の表面に縞状又は格子状に配されることが好ましい。強化用ヤーンは、特定のものに限定されないが、次の(k)〜(n)を例示できる。 【0026】(k)シリカ繊維ヤーンで製織された織布テープ。 (l)シリカ繊維ヤーンより耐熱性に優れる補強線状体の付加により強化されたシリカ繊維ヤーンで製織された織布テープ。補強線状体は、特定のものに限定されないが、ステンレス鋼ワイヤ等の金属線、アルミナ長繊維等を例示できる。 (m)ステンレス鋼繊維ヤーン等の金属繊維ヤーンで製織された織布テープ。 (n)アルミナ繊維ヤーンで製織された織布テープ。 【0027】強化用テープを織布の表面に接合する手段は、特に限定されないが、糸による縫合を例示できる。糸は、耐火性又は難燃性の糸が好ましく、無機系(セラミック等)、金属系(ステンレス鋼等)、難燃系(アラミド等)等を例示できる。」 「【0038】次に、図5に示す第四実施形態の耐火スクリーン3は、シリカ繊維ヤーン8で製織された織布3aと、該織布3aの表面に接合された強化用テープ12とからなる。強化用テープ12は、前記手段の項で挙げた織布テープ(1)〜(4)のいずれかが使用されている。本実施形態では、強化用テープ12が織布3aの表面に縦方向にも横方向にも10〜50cmの間隔で格子状に配されて、前記手段の項で挙げたいずれかの糸による縫合で接合されている。 【0039】この耐火スクリーン3についても、上記の建築基準法により要求される防火性能及び遮煙性能を調べたところ、上記の防火性能の(1)(2)(3)(4)(注:明細書ではいずれも○付き数字)及び遮煙性能の全てを満足した。耐火スクリーン3を構成しているシリカ繊維ヤーン8は、加熱によりかなり強度が低下するが、強化テープ12により強化されている(強化テープ12の部分で断面積が増すので、たとえ強化テープ12がシリカ繊維ヤーンで製織された織布テープであっても、補強作用がある。アルミナ繊維ヤーンやステンレス鋼繊維ヤーンで製織された織布テープであれば、シリカ繊維ヤーンより耐熱性に優れるので、さらに補強作用が大きい。)ので、耐火スクリーン3全体としては加熱後も前記衝撃に耐え得るだけの強度を有するからである。 【0040】続いて、図6に示す第五実施形態の耐火スクリーン3は、縦方向に延びる強化用テープ12のみが前記間隔で縦縞状に配された点においてのみ、第四実施形態と相違するものである。また、図7に示す第六実施形態の耐火スクリーン3は、横方向に延びる強化用テープ12のみが前記間隔で横縞状に配された点においてのみ、第四実施形態と相違するものである。これらの実施形態によっても、第四実施形態と同様の効果が得られる。」 このように、シリカ繊維ヤーンの織布表面に接合される「強化用テープ」の具体的実施例としては、特許権者の主張する「加熱終了後の衝撃試験を満足させるためになされたもの」という特定の目的を達成し得るものが挙げられている。しかし、本件発明16の「強化用テープ」は、その材質等に何らの限定もなく上記特定の目的を達成し得るもの以外の「強化用テープ」をも含むものであることは明らかであるから、特許権者の主張には理由がない。 (5)本件発明15は、本件発明16を包含するものであるから、本件発明16の判断と同様に、甲第1,3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 【6】本件発明17について 本件発明17は、本件発明15又は16における「強化用テープ」を、「シリカ繊維ヤーンで製織された織布テープ」としたものであるが、甲第1〜3号証には、そのような構成について一切記載されておらず、示唆もない。 本件発明17は、そのような「強化用テープ」を採用したことにより、特許明細書の上記段落【0039】にも、強化テープがシリカ繊維ヤーンで製織された織布テープであっても、強化テープの部分で断面積が増すので、補強作用がある旨、記載されているように、甲第1〜3号証記載のものからは予期し得ない作用効果を奏するものであるから、本件発明17を、甲第1〜3号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 【7】むすび 以上のとおり、本件の請求項15,16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。 また、本件の請求項17に係る特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできないし、他にこの特許を取消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-08-25 |
出願番号 | 特願平10-276477 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
ZC
(A62C)
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最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 岩田 洋一 |
特許庁審判長 |
山田 忠夫 |
特許庁審判官 |
新井夕起子 山口 由木 |
登録日 | 2002-04-05 |
登録番号 | 特許第3295042号(P3295042) |
権利者 | 日本グラスファイバー工業株式会社 |
発明の名称 | 耐火スクリーン |
代理人 | 松原 等 |