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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B62D 審判 全部申し立て 特174条1項 B62D |
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管理番号 | 1087960 |
異議申立番号 | 異議2003-70248 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-08-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-22 |
確定日 | 2003-09-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3309338号「履帯シュ-」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3309338号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
一.手続の経緯 特許第3309338号は、平成10年10月16日(出願そ及日:平成7年11月6日)に出願した特願平10-313983号の一部を(平成12年1月25日に)新たな特許出願としたものであって、平成14年5月24日に設定登録された。ところが、上記特許異議申立人より全請求項に係る特許異議の申立があったので、当審においてその申立理由を検討の上、特許取消理由を通知したところ、その指定期間内の平成15年7月7日付で、特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものである。 二.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は以下のとおりである。 ・訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載を「リンクにて無端状に連結される接地面側にグローサーが形成された履板に装着される履帯シュ-であって、当該履帯シュ-は、接地面側に前記履板グローサーに合わせてグローサーが形成された帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁のグローサー間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出した当該履帯シュ-を履板に係止するための内向きのフック金具と、帯板の他方端側にはグローサー間の底面にリンク側に向けて開□するナットが履帯シュー内に配置されたものであり、前記フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され、かかるフック金具にて履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置してリンク側から履板を挟んで前記ナットにボルトを螺合して装着することを特徴とする履帯シュ-。」と訂正する。(下線部の加入訂正。以下同様。) ・訂正事項b 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ・訂正事項c 明細書の段落番号【0007】を「【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、リンクにて無端状に連結される接地面側にグローサ-が形成された履板に装着される履帯シュ-であって、当該履帯シュ-は、接地面側に前記履板グローサ-に合わせてグローサ-が形成された帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁のグローサ-間の底面に溶接され、履帯シュ-のゴムパッド幅端より外側に突出した当該履帯シューを履板に係止するための内向きのフック金具と、帯板の他方端側にはグローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットが履帯シュー内に配置されたものであり、前記フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され、かかるフック金具にて履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置してリンク側から履板を挟んで前記ナットにボルトを螺合して装着することを特徴とする履帯シューである。」と訂正する。 ・訂正事項d 明細書の段落番号【0008】を「【発明の実施の形態】本発明の履帯シューは、基本的には帯板の一方側に内向きにフック金具を備えており、履板のグローサーと帯板のグローサーとを合わせ、このフック金具をもって履板の一方縁部(特に車両の内側縁部)に引っ掛けて履帯シュ-を係止するものであって、特に車両機体の内側に位置する履板の縁部に引っ掛けることによって装着が極めて容易となったものである。そして、他方側を(車両の外側)履板を挟んでリンク側から履帯シュー側のナットに向かってボルトを差し込んで螺着し履帯シューを装着するものである。」と訂正する。 ・訂正事項e 明細書の段落番号【0010】を「尚、フック金具が走行路面の突出物に衝突したり、岩石等に衝突することは避けられないが、この衝突が繰り返されるとフック金具が破損し、履帯シュ-の寿命が短くなり、破損しないまでも変形が生じると、取り外しができなくなり交換不可能となってしまう。このため、本発明のフック金具には特に外側、即ち接地面側にはゴム弾性体からなる保護材を、好ましくはパッドの加硫と同時に接着することが行われる。」と訂正する。 ・訂正事項f 明細書の段落番号【0013】を「図中、一点鎖線で示すものはリンクにて無端状に連結されてなる履板11であって、図示するように、接地面側にグローサ-111が形成されており、これに帯板1のグローサ-l0を合わせ、履板11の一方端縁110にフック金具3をもって履帯シュ-を係止し、次いでその反対側の袋ナット2に履板11のボルト孔12を介してボルト13を螺合して履帯シュ-を装着するものである。尚、前述したように、フック金具3側は車両の内側に配置するのが作業性の面からみて好ましいことは言うまでもない。」と訂正する。 ・訂正事項g 明細書の段落番号【0024】を「【発明の効果】本発明は以上の通りであって、フック金具が保護されることにより履帯シュ-の耐久性が向上し、かつ、履帯シュ-と履板とがフック金具で装着される方法を採用したため、その装着作業性は著しく向上した。」と訂正する。 ・訂正事項h 明細書の【符号の説明】の中、「14・・・・フック金具の接地面側に接着されたゴム弾性体、」という記載を「14・・・・ゴム弾性体の保護ブロック、」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、発明を特定する事項である「履板」、「帯板」及び「フック金具」を、それぞれ「接地面側にグローサーが形成された履板」、「接地面側に前記履板グローサーに合わせてグローサーが形成された帯板」及び「グローサー間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出した」「フック金具」と限定すると共に、同じく「フック金具」の外側に接着されているゴム保護材を「ゴム弾性体の保護ブロックを加硫接着」したものと限定するもので特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。そして、上記訂正事項は願書に添付された明細書の【0011】、【0016】、【0020】、【0021】及び【図1】〜【図8】、【図10】に記載されている。よって、訂正事項aは新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。 上記訂正事項cは、上記訂正事項a,bと整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 また、上記訂正事項d〜hは、上記訂正事項a,cに関連する箇所について、訂正に伴って生じる不明りょうな点を解消しようとするもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、これらの訂正事項d〜hは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に実質上記載された事項の範囲内において訂正しようとするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 3.むすび したがって、上記各訂正事項は、特許法第120条の4第2項第1,3号に掲げる事項を目的とするもので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 三.特許異議申立についての判断 1.特許異議申立の理由の概要 特許異議申立人の主張の概要は、次の理由1〜3のとおりである。 ・理由1 本件請求項1項の発明は、下記刊行物(1)または刊行物(2)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するので、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 ・理由2 本件請求項1,2項の発明は、下記刊行物(1)〜(4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するので、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 ・理由3 本件特許明細書の記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内のものではない事項を含むから、本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。 2.刊行物 (1)実公昭62-32138号公報(甲第1号証) (2)実開昭56-164878号(甲第2号証) (3)実願平4-55172号(実開平6-10088号)のCD-ROM(甲第3号証) (4)実願平5-21243号(実開平6-74594号)のCD-ROM(甲第4号証) 3.特許異議申立に係る特許発明の認定 上記「二.」で示したように訂正請求が認められるから、本件特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「リンクにて無端状に連結される接地面側にグローサーが形成された履板に装着される履帯シュ-であって、当該履帯シュ-は、接地面側に前記履板グローサーに合わせてグローサーが形成された帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁のグローサー間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出した当該履帯シュ-を履板に係止するための内向きのフック金具と、帯板の他方端側にはグローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットが履帯シュー内に配置されたものであり、前記フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され、かかるフック金具にて履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置してリンク側から履板を挟んで前記ナットにボルトを螺合して装着することを特徴とする履帯シュ-。」 4.各刊行物の記載事項 (1)刊行物1(甲第1号証) 刊行物1には、「履帯用パッド」に関し、図1〜5と共に、以下(イ、ロ)の事項が記載されている。 イ)「芯金9の一端部を折曲げ或は溶接して鉤状係止片10’としている。」 ロ)また、第5図には、履帯用パッドにおいて、芯金9の一端に設けられた鉤状係止片10’の外側が弾性体片8で覆われているものが記載されている。 (2)刊行物2(甲第2号証) 刊行物2にも、刊行物1と同様な技術的事項が開示されている。 (3)刊行物3(甲第3号証) 刊行物3には、「履帯用パッド」に関し、図1〜14と共に、以下(ハ〜ヘ)の事項が記載されている。 ハ)「【産業上の利用分野】本考案は、ブルドーザ、ショベルドーザ、パワーショベル等の無限軌道式の走行装置に用いられる乾地用の履帯の履板で、かつ踏面に滑り止めの突条を設けた履板の踏面側に装着して用いることができる履帯用パッドに関するものである。」(段落【0001】) ニ)「【従来の技術】従来より履帯から路面を保護するために、履帯を構成する各履板の踏面側にパッドを着脱可能に取付けている。」(段落【0002】) ホ)「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本考案に係る履帯用パッドは、踏面に突条2を有する履板1の踏面側に取付ける履帯用パッドにおいて、履板1の踏面の長手方向に沿う大きさの板状の芯金6,15a,15bの上面側に踏面を構成する弾性部材5を固着し、また下面側に履板1の踏面に当接すると共に上記突条2に係合する足部材を突設し、さらに上記芯金6,15a,15bの一側部に履板1の一側部に係合する固着鉤部材7,16を一体状にして設け、また他側部に履板1の他側部に係合する着脱鉤部材8,8d,20を着脱可能に取付ける構成となっている。」(段落【0005】) ヘ)「【実 施 例】本考案の実施例を図1から図13に基づいて説明する。 図中1は幅方向の略中央に突条2が長手方向に設けられた乾地用の履板であり、この履板1はそれぞれリンク3にて無端状に連結されて履帯を構成するようになっている。4は上記履帯を構成する各履板1の踏面側に着脱容易に取付け可能にした本考案に係る履帯用パッドであり、この履帯用パッド4は踏面を構成する弾性部材5と、この弾性部材5を補強する芯金6と、この芯金6の一端部に一体状にして設けられた固着鉤部材7と、他端部に着脱可能に固着される着脱鉤部材8とからなっている。」(段落【0007】) (4)刊行物4(甲第4号証) 刊行物4には、「無限軌道帯用弾性履板」に関し、図1〜4と共に、以下(ト〜リ)の事項が記載されている。 ト)「【産業上の利用分野】本考案はブルドーザーやパワーショベル等の建設用車輌に用いる無限軌道帯用弾性履板の改良に関し、さらに詳しくは長さ方向に連続させ、しかも相互に一定の間隔を介して突出させた複数のラグを有する鉄製履板の沓面に重合一体化させるようにした弾性履板において、鉄製履板の裏面側に突出するところの弾性履板の取り付けボルトの高さを低くおさえることにより、取り付けボルトの損傷を防止するとともに、その保管性を良好にすることを目的とする。」(段落【0001】) チ)「【実施例】以下において本考案の具体的な内容を図の実施例をもとに説明すると、11は弾性履板、13は袋ナットを示す。弾性履板11はゴム、あるいはウレタン樹脂等、ある程度柔軟性のある材質からなり、これを鉄製履板15の沓面の凹凸形状にあわせて成型し、しかも鉄製履板15に設けられているボルト穴16に対応する位置にボルト穴を開設した鉄製の保型板12に、接着もしくは焼き付け等の手段により一体に構成される。」(段落【0007】) リ)「袋ナット13は、上記した保型板12の裏側において、該保型板12に形成した各ボルト穴12aに対応させて、しかも弾性履板11の取り付け面側に開口部を望ませた状態において埋設されており、その結果弾性履板の取り付け面側は平坦で全く突出部がみられない。しかるにこれを鉄製履板15の沓面に、その取り付けボルト穴12aを鉄製履板15のボルト穴16に対応させて取り付け面を重ね合わせ、さらに鉄製履板15の裏面側よりボルト14を挿通させて、その先端を弾性履板11側の袋ナット13に螺入させて取り付ける。」(段落【0008】【0009】) 5.対比・判断 刊行物3の記載事項と、本件発明の構成要件を対比する。 刊行物3の「履帯」は「リンク3にて無端状に連結され」た「履板1」からなっている(上記摘記事項ヘ、参照、以下同様。)から、本件請求項1に係る発明における「リンクにて無端状に連結される履板」に対応する。 そして、刊行物3の「履帯用パッド」は、「履板1の踏面側に着脱容易に取付け」られている(ニ、ホ)から、本件発明の「履板に装着される履帯シュー」といえ、該「履帯用パッド」の「芯金6」は、その「上面に全体に」「弾性部材5」を固着するものであるから(ホ)、外側に弾性部材であるゴムパッドを接着しているものであり、本件発明の「帯板」に対応する。さらに、該「芯金6」は、「一端部に一体状にして設けられた固着鉤部材7」を具備し(ヘ)、かつ、「固着鉤部材7」は「履板1の一側端部に係合する」ものである(ホ)。よって、刊行物3の「履帯用パッド」は本件発明の「履帯シュー」と同様に、「帯板と帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁に備えられた当該履帯シューを履板に係止するための内向きのフック金具」を備えるものであるといえる。 したがって、本件請求項1に係る発明と、刊行物3に記載の発明の一致点、相違点を以下のように認定できる。 <一致点> リンクにて無端状に連結される履板に装着される履帯シューであって、当該履帯シューは、帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁に備えられた当該履帯シューを履板に係止するための内向きのフック金具とを備えている点。 <相違点1> 本件発明の履板は、その接地面側にグローサーが形成されており、また、帯板は、その接地面側に履板のグローサーに合わせてグローサーが形成されているのに対し、刊行物3に記載の発明の履板1および芯金6には、グローサーが形成されていない点。 <相違点2> 本件発明のフック金具は、帯板の一方端縁のグローサーの間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出しており、しかも、その接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着されているのに対して、刊行物3に記載の発明の固着鉤部材7は、グローサーの間の底面に溶接されるものではなく、履帯用パッドの弾性部材の幅端より外側に突出するものではないし、さらに固着鉤部材7を保護する部材については言及が無い点。 <相違点3> 本件発明の帯板の他方端側には、グローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットが履帯シュー内に配置され、リンク側から履板を挟んで上記ナットにボルトを螺合して履帯シューを履板に装着するのに対し、刊行物3に記載の発明の芯金6の他端部には、着脱可能に着脱鉤部材8が固着され、この着脱鉤部材によって履板に装着するものである点。 <相違点4> 本件発明では、フック金具を履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置しているものであるのに対し、刊行物3に記載の発明の履帯用パッドのどちらを車両の内側として履板に装着するか言及が無い点。 上記各相違点について検討する。 ・相違点1について 刊行物4にもあるように、建設、土木作業用車両の無限軌道における鉄製履板および帯板のそれぞれ接地面側にグローサーを形成するようなことは周知であって、本件発明において、履板の接地面側にグローサーを形成し、また、帯板の接地面側に履板のグローサーに合わせてグローサーを形成した点は、通常の設計事項にすぎない。 ・相違点3について 刊行物4には、グローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットを弾性履板(本件発明の履帯シューに対応)内に設け、リンク側から鉄製履板(本件発明の履板に対応)を挟んで上記ナットにボルトを螺合して弾性履板を鉄製履板に装着するものが記載されており、このような弾性履板の装着手段を刊行物3記載の発明の履帯パッドの他端部の装着手段として適用することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。 ・相違点4について 刊行物3に記載の発明が適用される作業用車両の構造を考えると、その固着鉤部材のある側を車両の内側とし、固着鉤部材を履板に引っかけて装着し、車両の外側から着脱鉤部材を固着して履帯パッドを履板に装着することは、当業者であれば容易に考え得ることである。 よって、本件発明において、フック金具を履帯シューの車両の内側に位置する端縁に係止し、履板の他方端側を車両の外側とするようなことは、当業者が必要に応じて適宜なし得たものである。 ・相違点2について 上記「相違点1について」で検討したように、履板及び帯板にグローサーを設けることは通常の設計事項にすぎず、刊行物3に記載の発明の芯金6にグローサーを形成した場合、その固着鉤部材7(フック金具)をグローサー間の底面に設けるよう構成することは設計上ごく自然な発想であるから、フック金具を、帯板の一方端縁のグローサーの間の底面に溶接して設けた点は、当業者が容易に想到し得たものといえる。 しかしながら、フック金具が履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出している点は、上記刊行物1〜4いずれにも開示も示唆もなく、そのフック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックを加硫接着する点について記載も示唆もない点も同様である。 たしかに、刊行物1,2には、本件のフック金具に対応する係止片10’が弾性体片8で保護されているものが記載されているが、刊行物1,2の係止片10’は、引用例3に記載の発明と同様に履帯用パッドの弾性体片8の幅端より外側に突出しているものではなく、むしろ弾性体片8の幅端より内側に係止片10’があるため、結果として弾性体片8の端部で係止片10’が保護されているに過ぎないものである。 よって、履帯シューのゴムパット幅端より外側に突出したフック金具を保護するためのゴム弾性体を、フック金具の接地面側に加硫接着することは当業者にとって容易であったとはいえず、そのゴム弾性体の形状をブロック状とすることも同様である。 そして、本件発明は、上記構成を具備することにより、履板と帯板の幅方向の寸法が異なる場合でも、フック金具の溶接位置を調整することにより履帯シューの取付を可能にすると共に、明細書記載の「小石等が直接フック金具に衝突することを阻止する」(段落【0015】)という一応の効果を奏することが認められる。したがって、本件特許は上記刊行物1〜4に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明の「フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され」ている点は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されているから、本件特許明細書の記載が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内のものではないとはいえない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 履帯シュー (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 リンクにて無端状に連結される接地面側にグローサーが形成された履板に装着される履帯シューであって、当該履帯シューは、接地面側に前記履板グローサーに合わせてグローサーが形成された帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁のグローサー間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出した当該履帯シューを履板に係止するための内向きのフック金具と、帯板の他方端側にはグローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットが履帯シュー内に配置されたものであり、前記フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され、かかるフック金具にて履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置してリンク側から履板を挟んで前記ナットにボルトを螺合して装着することを特徴とする履帯シュー。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は建設車両や土木作業用車両に用いる履帯シューに関するものであり、更に詳しくは鉄製履板に装着容易とした履帯シューに係るものである。 【0002】 【従来の技術】 建設車両や土木作業用車両に用いるクローラは、多数の履板をリンクによりブッシュ及びピンを介して無端状に連結したものであり、この踏面側にゴムパッドを備えた履帯シューをボルトにて装着した構造のものが広く用いられている。 しかるに、ゴムパッドにあけられたボルト孔内に砂や小石が入り込み、このボルト孔近傍からゴムパッドに亀裂が入り耐久性を著しく悪くしているのが現状である。又、履板への装着時にあっても、通常は4本のボルトをクローラ内周側でナットにて装着するものであり、装着作業性が悪く特に車両の内側に位置するボルトにあっては締め付ける作業が容易ではない。又、履板の裏面側にボルトが必要以上に突出することともなり、車両側のフレーム等とのスペースをせばめる結果、ここに土砂が噛み込みやすくなり、かつ、ナットを損傷して履帯シューの取り外しができなくなる等の欠点があった。 【0003】 以上のような欠点を解決するために、ボルトを履帯シューのゴムパッド内に予め埋設する技術も開発されているが、ゴムパッドの亀裂等の発生は低減されるものの、履板との装着のための作業性は改善されていない。更に改良されたものとして、例えば実開平6ー74594号にて履帯シューのゴムパッド内にナットを埋設する技術が開発されている。この履帯シューにあっては、ゴムパッドの亀裂等の発生も少なく、かつ履板との装着性もある程度改善され、従来のものに比べてすぐれた性能をもっている。 【0004】 図11はこの履帯シューを示す断面図であり、帯板21に袋ナット22が溶接されたもので、この帯板21に袋ナット22を囲んでゴムパッド23が加硫接着されているものである。従って、履板24の裏側より挿入されたボルト25が袋ナット22と螺合されることによって履帯シューが装着されることとなる。前記したように、通常履板24と履帯シューとは4本のボルト25をもって装着されるため、袋ナット22もゴムパッド23中に4個埋設されるものである。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 この提案の履帯シューのゴムパッドには装着のためのボルト孔がなく、ここからのゴムパッドの亀裂等の発生はなくなるが、装着時の作業は基本的には4本のボルトをもって装着されるため、装着作業性の悪さは従来のものとそれほど差異はなく、特に車両の内側に位置するボルトの締め付けは容易ではなくこの点での問題は解決されていない。 【0006】 本発明は、前記のような課題の解決を目的としたものであって、ゴムパッドの亀裂等の低減は勿論のこと、履板との装着作業性を改良することをその主目的とするものである。 【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明の要旨は、リンクにて無端状に連結される接地面側にグローサーが形成された履板に装着される履帯シューであって、当該履帯シューは、接地面側に前記履板グローサーに合わせてグローサーが形成された帯板と、この帯板の外側に接着されたゴムパッドと、帯板の一方端縁のグローサー間の底面に溶接され、履帯シューのゴムパッド幅端より外側に突出した当該履帯シューを履板に係止するための内向きのフック金具と、帯板の他方端側にはグローサー間の底面にリンク側に向けて開口するナットが履帯シュー内に配置されたものであり、前記フック金具の接地面側にゴム弾性体の保護ブロックが加硫接着され、かかるフック金具にて履帯シューの車両の内側に位置する側の端縁に係止し、帯板の他方端側は車両の外側に位置してリンク側から履板を挟んで前記ナットにボルトを螺合して装着することを特徴とする履帯シューである。 【0008】 【発明の実施の形態】 本発明の履帯シューは、基本的には帯板の一方側に内向きにフック金具を備えており、履板のグローサーと帯板のグローサーとを合わせ、このフック金具をもって履板の一方縁部(特に車両の内側縁部)に引っ掛けて履帯シューを係止するものであって、特に車両機体の内側に位置する履板の縁部に引っ掛けることによって装着が極めて容易となったものである。そして、他方側を(車両の外側)履板を挟んでリンク側から履帯シュー側のナットに向かってボルトを差し込んで螺着し履帯シュ-を装着するものである。 【0009】 このため、装着に要する作業は端的に言えばボルトを締め付けるだけで完了するものであり、フック金具における履板と履帯シューの係止はワンタッチで行えるためほとんど作業時間を要さない。このフック金具の先端は履板の端縁が嵌り易いように面取りが施されたり、或いは拡開されていたり、更にはフック金具の中間部が狭まっているのが好ましい。しかも、前記したようにフック金具を車両機体の内側に配置することにより、ボルトの締付けは車両機体の外側の作業だけとなるため、装着に要する作業性は著しく短縮し、装着作業性が向上したこととなる。 【0010】 尚、フック金具が走行路面の突出物に衝突したり、岩石等に衝突することは避けられないが、この衝突が繰り返されるとフック金具が破損し、履帯シュ-の寿命が短くなり、破損しないまでも変形が生じると、取り外しができなくなり交換不可能となってしまう。このため、本発明のフック金具には特に外側、即ち接地面側にはゴム弾性体からなる保護材を、好ましくはパッドの加硫と同時に接着することが行われる。 【0011】 【実施例】 以下、図面をもって本発明を更に詳細に説明する。 図1は本発明の履帯シュ-の接地面側の平面図であり、図2は正面図、図3は主要部での側断面図、図4は部分正面図である。図中、1は帯板であり、この帯板1には接地面側に向けてグロ-サ-10が形成されている。そして、このグロ-サ-10、10間の底面11にフック金具3が溶接されている。即ち、このフック金具3は帯板1の一方端に溶接されて履板との係止に供されるものであり、その先端がリンク側に曲げられている。他方、帯板1にはフック金具3と反対側にボルト孔4が穿孔されている。このような構造をもつ帯板1の接地側にゴムパッド5が加硫接着されるもので、このゴムパッド5内にフック金具3の溶接部が埋設される。 【0012】 ゴムパッド5内にはボルト孔4に対応して袋ナット2が配置される。この袋ナット2の背丈について言えば、図示するようにグロ-サ-の背丈と帯板1の厚さとの合計よりも背丈の高いものもあるが、ナット2が保護され、耐久性を向上させるためには、グロ-サ-の背丈と帯板1の厚さの合計よりもナット2の背丈を同等乃至はこれよりも背丈の低い方が好ましい。尚、袋ナット2は帯板1のグロ-サ-10、10間の底面に配置され、好ましくは、この底面に溶接される。 【0013】 図中、一点鎖線で示すものはリンクにて無端状に連結されてなる履板11であって、図示するように、接地面側にグロ-サ-111が形成されており、これに帯板1のグロ-サ-10を合わせ、履板11の一方端縁110にフック金具3をもって履帯シュ-を係止し、次いでその反対側の袋ナット2に履板11のボルト孔12を介してボルト13を螺合して履帯シュ-を装着するものである。尚、前述したように、フック金具3側は車両の内側に配置するのが作業性の面からみて好ましいことは言うまでもない。 【0014】 図4は、本発明の履帯シュ-の帯板1の一部を取り出した部分拡大正面図である。図例では特にそのフック金具3の先端30は拡開されて曲げられている例を示すもので、フック金具3の先端30が拡開されていることにより、履板11の端縁110がワンタッチで係止できることとなったものである。勿論、場合によっては先端30が曲げられなくとも面取りを施すだけでもよい。尚、この例にあって、帯板1の一方端にフック金具3が溶接されている。 【0015】 図4中、二点鎖線で示すものはフック金具3の接地面側に加硫接着されたゴム弾性体14であり、これは走行時に小石等が直接フック金具に衝突することを阻止するための保護ブロックである。フック金具3が帯板1の履板11側の底面11に備えることによって、特にこの保護ブロック14の厚さを確保できるため耐久性が著しく向上することとなる。この保護ブロック14は、帯板1の接地面側に加硫接着されるゴムパッド5と同時に加硫成形されるのが一般的である。 【0016】 図5は本発明の履帯シュ-の別例の側断面図である。この例にあっては、履板11のグロ-サ-111全体に接触するように帯板1の幅が広くなっているものであり、言い換えればゴムパッド5の全面に帯板1が存在する形態である。 このため、履板11と履帯シュ-とは金属同士(履板11と帯板1)の接触面となるために一体化が強まり、かつゴムパッド5は帯板1に加硫接着されているためこの間に異物が入り込むことなくゴムの損傷を防ぐことができる。 【0017】 この図5において、履帯シュ-は図1におけるフック金具3によって履板11との係止が先ず行われることとなるが、図5における帯板1の形態はフック金具3のない従来の履帯シュ-にも適用可能である。 【0018】 尚、従来より履板11におけるグロ-サ-111、111間の間隔A、Bは、同一寸法には設計されていない。従って、装着する履帯シュ-も又この間隔A、Bに合致させて帯板1が形成されるのが通例であるが、このようにすることにより履帯シュ-に方向性が生じることとなってしまうのが現状である。 【0019】 図6はこれを改良したものであって、履帯シュ-の装着の方向性をなくすこととしたものである。即ち、履板11のグロ-サ-111、111間隔A、B(A>Bとする)に対し、帯板1のグロ-サ-110、110の間隔P、QはB≧P、Qなる関係を有するよう設計することにより履帯シュ-の装着時の方向性をなくすものである。この例にあっても、フック金具3によって履板11との係止が図られることとなるが、図6に示す帯板1と履板11との関係は、従来の形態の履帯シュ-にも適用可能であることは言うまでもない。 【0020】 このように構成したことにより、履板11と履帯シュ-の帯板1との間には場合によって間隔Sが生ずるが、この間隔を構成する部材(履板11と帯板1)がいずれも金属製であるのでここに異物が入り込んでもゴムパッド5にはなんら影響しない。尚、この場合、図例でも分る通り帯板1と履板11との両グロ-サ-10と111とが直接接触しあって装着されることが必要である。 【0021】 図7、図8は更にこの具体例を示したものであり、グロ-サ-の間隔はA>B、P=B=Qとした。即ち、履板11と履帯シュ-の装着にあって、図7はBとPを合わせた場合、図8は履帯シュ-を逆にして装着し、BとQとを合わせた場合の断面図である。図7にあってはA、Q間で間隔S1が、図8にあってはA、P間で隙間S2が,B、Q間で隙間S3が形成されることとなるが、いずれもグロ-サ-部で履板11と帯板1とが接触しているため機能上なんら問題を生じない。 【0022】 ここに用いられるフック金具3の拡大図を図9に示すが、フック金具3の材質は例えば圧延鋼又はバネ鋼等であり、フックの金具3の先端を内側に湾曲させてフック金具3の間隔dを狭めてあり、履板の厚さよりも狭い間隔とするのが履板11の固定に都合がよい。 【0023】 図10は本発明の履帯シュ-の別例を示す断面図である。この例から分かるように履帯シュ-の長手方向の前後には帯板1が達していない例である。そして、好ましくは帯板1の前後端12、13が履板11のグロ-サ-111の背丈より短く形成され、グロ-サ-111よりも帯板1の前後端12、13が突出しないことが望まれる。もし、帯板1の前後端12、13がグロ-サ-111よりも突出していると、この先端によってゴムパッド5の亀裂破壊が簡単に発生してしまうからである。更に、履帯シュ-全体として前後端のゴムパッド5の厚さは帯板の分だけ厚くなっており、このため履板シュ-の走行時に石等に乗り上げた際に生じるゴムパッド5の圧壊がゴム厚が厚くなることで改善されるという効果もある。 【0024】 【発明の効果】 本発明は以上の通りであって、フック金具が保護されることにより履帯シュ-の耐久性が向上し、かつ、履帯シュ-と履板とがフック金具で装着される方法を採用したため、その装着作業性は著しく向上した。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1は本発明の履帯シュ-の接地面側の平面図である。 【図2】 図2は図1における履帯シュ-の正面図である。 【図3】 図3は図1における履帯シュ-の主要部での切断側面図である。 【図4】 図4は帯板を取り出した部分拡大正面図である。 【図5】 図5は本発明の履帯シュ-の別例の切断側面図である。 【図6】 図6は本発明の履帯シュ-の更に別例の切断側面図である。 【図7】 図7は図6の履帯シュ-の履板との装着例を示す切断側面図である。 【図8】 図8は図6の履帯シュ-を逆に用いた際の履板との装着例を示す切断側面図である。 【図9】 図9はフック金具の拡大斜視図である。 【図10】 図10は本発明の履帯シュ-の別例を示す断面図である。 【図11】 図11は従来の履帯シュ-を示す断面図である。 【符号の説明】 1‥‥帯板 10‥‥帯板のグロ-サ-、 11‥‥帯板のグロ-サ-間の底面、 2‥‥袋ナット、 3‥‥フック金具、 30‥‥フック金具の先端、 4‥‥ボルト孔、 5‥‥ゴムパッド、 11‥‥リンクにて無端状に連結された履板、 110‥‥履板の一方端縁、 111‥‥履板のグロ-サ-、 12‥‥履板のボルト孔、 13‥‥ボルト、 14‥‥ゴム弾性体の保護ブロック、 A、B‥‥履板のおけるグロ-サ-間の間隔、 P、Q‥‥帯板のグロ-サ-間の間隔、 S1、S2、S3‥‥グロ-サ-間の隙間。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-08-29 |
出願番号 | 特願2000-18020(P2000-18020) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B62D)
P 1 651・ 55- YA (B62D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 粟津 憲一、大島 祥吾、山内 康明、川村 健一 |
特許庁審判長 |
神崎 潔 |
特許庁審判官 |
ぬで島 慎二 尾崎 和寛 |
登録日 | 2002-05-24 |
登録番号 | 特許第3309338号(P3309338) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 履帯シュ- |
代理人 | 中野 収二 |
代理人 | 鈴木 悦郎 |